「――――どう? 素敵な夢には満足した?」
氷の声音は嘲笑う。
からっとして軽くて、なのにどこか粘り気がある声。
まるで冷えた蜂蜜を指で掬い取ったように、淡々と、しかしねっとりと纏わりついてくる。
私の声って、外から聞くとこんな感じなんだ。
「死のう死のうなんて言いながら、あなたは死ねない。飛べないよ」
笑いながら、
私の覚悟を何でもないもののように軽蔑するその言葉にカッとなって、私は食って掛かった。
「どうして、そう言えるの」
――――くすっ。
感情的な反発はかえって真実を浮き彫りにするだけなのに、それを未だに認めない私がよほどおかしかったのだろう。
私を突き動かす仕組みはどこまでも凡庸で、
「だって、帆奈ちゃんがいるから。
ううん、もっと分かりやすく言ってあげないとダメかな?
――――あなたは死にたいのではない。逃げたいだけ。昔からそうだったでしょ?」
鏡映しの私は口角を吊り上げる。
逃げたい。逃げて隠れていたい。お母さんに見つからない場所に行って、いつかお母さんに見つけてもらうという期待を持ち続けたくない。だから私は帆奈ちゃんの世界に駆け込む。それが私の真実だと。
それを聞いたとき、私は、
そう……
「瀬奈みこと、あなたは逃げられないよ。どんな手を使ってどこに逃げ込もうと、私がいる限りあなたは追いつかれるの」
「…………」
「だから、無駄な抵抗はやめよう?
あなただって分かっているでしょ――――縋りつけば縋りつくほど、帆奈ちゃんを傷つけることになる。
あなたは帆奈ちゃんをあの陽だまりからこの地獄まで引きずり下ろしてしまうんだよ?」
「……でも」
「でも、甘いのが欲しい。夢を見ていたい。逃げていたい。この欲望のためなら、あなたの言う『世界で一番大切な人』を壊すことすら厭わない」
「――――っ」
心臓を重い鈍器で殴られた気持ちだった。
言葉に詰まる私を見て、目の前の
「もう遅すぎたの。
あなたは選択を間違えた……あなたは飛ぶべきだった。
生きることを選択した瞬間、あなたは帆奈ちゃんの腕の中に駆け込もうとする。あなたはそういうふうにできているの」
「瀬奈みこと、あなたに残された選択肢はこの二つだけ――――地獄を終わりにするか、地獄を永遠にするか」
「いずれにしてもこの先にあるのは夜だけ。夜が更ける前に全てを終わらせるのが、あなたの初めての優しさになる」