その後は魔女を探しつつ、中央区の街をぶらぶら散策した。
思い出のケーキ屋、一緒に回ったショッピングモール、待ち合わせをしていたファミレス。
かつての拠点だったこともあり、こんな形で再びふたりでこの町を歩くのは感慨深い。
工匠区との境界線上にあるファミレスにたどり着くと、そこを折り返し地点にしてくるっと来た道を歩いた。
今日は中央区で寝泊まりする予定だからだ。
あと少しで神浜市駅に着くというところで、突然、瀬奈が大声を出した。
「――――帆奈ちゃん、魔女!」
「お、ほんとだ」
本質的には魔力でできたプログラムだからか、瀬奈は魔力反応に対して敏感なようだった。
経験値がないと容易には感じ取れない微かな魔力の流れでも素早く察知できている。
「こっち!」
あたしに道順を案内しようと、駆け足で路地裏に進む瀬奈。
その頼もしい背中を追いかけて、あたしも路地裏に入っていった。
◇
結界に入ると、なんとも見慣れた景色が広がっていた。
「……あんたもあんたでしぶとく生き延びてるってことかぁ」
そこは、瀬奈と出会ったときのものと同じ構造の結界だった。
こんなふうに何度も同じ魔女に遭遇することはままある。
使い魔は育つと魔女になるから、一旦増殖を許してしまうとキリがなくなるのだ。新人の間にさっさと
こう考えると、「生き延びてる」という言い方はやや不正確かもしれない。元となった魔女はとっくに死んでいて、今は使い魔がその遺志を受け継いで災厄を振りまいている可能性だってあるからだ。
「%&・##$」
「+@~*~~」
と、考え事をしていたら使い魔が襲いかかってきた。
「ん〜、やるか!」
変身してマンキャッチャーを顕現させ、ほうきで掃除するように使い魔を次々と払っていく。
マンキャッチャーの扱い方は基本的に槍と同じだ。広めに間合いを取りつつ、突きと払いを繰り返す。
確実に攻撃が当たるというときは、柄を短く持ってナイフのように切り裂いたりハンマーのように上部から叩き潰したりするのも可能で、慣れれば色々と応用の効く武器である。
ただ、今のような力のない使い魔相手は遠くまでぽいぽい払うくらいで十分だ。まともに相手しているのは時間がもったいない。
柄の後方を持って基礎的な流し方をこなしていたら、容易く魔女の部屋まで来てしまった。
「帆奈ちゃん、すごく上達したね……」
過去の自分があまりに弱かったためか、背後の瀬奈が感嘆の声を漏らした。
やってることは基本の基だから舞い上がるところでもないけど……カッコいいと思われたならちょっと嬉しい。
褒められて喜んじゃった素のところを隠して、何事もなかったかのように答える。
「毎日これしかやってないからね~、あっは!」
「んふふ……もう私がいなくても立派に戦えてるもんね」
「は? 瀬奈にはバリバリサポートしてもらうよ?」
「……え?」
「だって瀬奈はあたしと視覚を共有していないでしょ? こんなアドバンテージはちゃんと戦闘に活かさないと」
そう、瀬奈はあたしと違う方向を見ることができるから、今のあたしはいわば一人で四つの目を持った状態なのだ。それを役立てない手はない。
ただ――――本当のところを言えば、昔みたいに瀬奈と一緒に戦いたかったのが一番の理由だ。
今のあたしは一人でも魔女を倒せるようになったけど、それはコンビの解消を意味しない。
あたしが一方的に瀬奈を守っているだけの関係じゃなくて、あたしには瀬奈の存在が必要なのだと実感してほしい。
目を丸くした瀬奈をよそに、ぴょいと、速やかに魔女の部屋に飛び込んだ。
◇
派手に飾り立てられたガーリーな部屋で、瀬奈的にはかわいいらしいウサギ型の魔女が佇んでいた。
黒い渦のような忌々しい気配を漂わせ、ギチギチと窮屈そうに結界内を彷徨い歩く。
……やっぱりかわいさがよく分からない。
そんな侮蔑の声が聞こえてしまったのか、突然、ギョロッと魔女の顔がこちらに向いた。
――――シュバババッ!
間違いを正させようと、怒り狂って地鳴りを起こしながらこちらに駆け寄ってくる魔女。
さっそく縫製の首をひねり、耳を巨大なハサミに変形させて切り裂こうとしてくる。
それと同時に瀬奈は声を張り上げた。
「攻撃は上! 横に避けて!」
「んっ」
ぽふっと針山の床を踏みしめ、瀬奈に言われた通り身体を横にずらした。
――――ズドン!
ハサミの刃が地面に突き刺さり、針山に似合わないゴツい音を立てた。
崩れた結界の土塊が投擲武器となって飛んでくる。
ひょいひょいとそれらを躱していく。
舞い上がった粉塵で悪くなった視界の中、足を止めずに前に突き進んだ。
「次は右!」
「よしっ」
あらかじめ右側に向くと、直後に魔女の拳骨があたしの腹を目掛けて繰り出された。
空を切る残像と1ミリの間隔を空けて、くいっと体をひねる。
「――――!?」
奇襲を掛けたつもりの拳に思いっ切り蹴りを入れた。
その反動を利用して空中に飛び上がると、反応し切れずに戸惑う魔女が下方に見えた。
両手でマンキャッチャーを握り、魔女に向ける。ここまで距離を縮められたらあとは簡単だ。
破壊的な魔力を魔女の頭上に流すイメージ。さあ――――
「ナイトメア・キャッチャー!」
大声と共に、とっておきの必殺技を魔女に見舞う。
魔女を取り囲むように、巨大なマンキャッチャーを生成する。
真紅の棘が虚空から魔女の表皮を突き破ると、綿を詰めた醜い中身が称賛を求める魔女の意向に反して呆気なく暴露された。
五臓六腑を爆裂させられ、汚い黒泥を噴き出す。
そうして、内圧に耐え切れない魔女の頭は轟音を響かせて爆散した。
倒れ込んだ哀れな魔女はたちまち霧と化し、黒い種を遺して跡形なく消え去った。
空中から落下するあたしは先ほど魔女が立っていた場所に無事着地して、グリーフシードを拾い上げる。
当たりだ。
それを握りしめて振り向くと――――
「帆奈ちゃん! 帆奈ちゃん!」
瀬奈がぴょんぴょん跳ねながら手のひらを見せてきた。
……こっちのウサギのがかわいい。
くすっと笑って、わーいとハイタッチをした。
「帆奈ちゃん、すごいね!」
「あっはは! 瀬奈のサポートのおかげだよ~!」
「すごいね――――ナイトメア・キャッチャー! すごくかわいい!」
………………え。
「帆奈ちゃん、必殺技に名前つけたの?
悪夢のマンキャッチャーだからナイトメア・キャッチャーなの?」
「…………あ、あっははは……」
テンションに任せて叫んだのをひどく後悔した瞬間であった。
穴があったら入りたい……。
「でもね、私、本当にビックリしたんだよ?」
「ん?」
「帆奈ちゃん、暗示を使わずに勝てるんだね」
「……あー」
暗示を使わなかったのは日頃の癖だが、多用していた瀬奈から見れば不思議なのだろう。
「普通に戦って勝てるときは、あえて使わないようにしてるんだよ。魔力の節約になるし、鍛錬にもなるから」
実際、暗示は諸刃の剣だ。
便利な魔法だけど、魔力切れのリスクは大きい。足止めくらいなら魔力の消費量は少ないが、使い魔1匹1匹にいちいちそれをやるとなると話が違ってくる。
そんな節約精神を突き詰めた結果、どうせ消えてしまう魔女に魔法を掛けるのも効率悪く感じてきたわけだ。
「すごい向上心だね……」
「向上心というか、趣味? ずっと効率のいい暗示の使い方を見つけようとしてきたわけだからさ……あっは」
「そっか」
本当は、魔力の節約だけでなく、とある理由から使う場面を自制している部分もあったりする。
もちろんそれを瀬奈に言う必要はないので、そのことは黙っておく。