「……!」
今度は瀬奈がぽかんと口を開けた。
……糸を引いたからだ。
ショーツとあたしの身体の間、細長い液体が、あたしの性欲を忠実に表している。
好きな人に自分を植えつけて番にしたい衝動が、こんな形でみっともなく溢れてしまった。
陰部はとっくにビショビショに濡れていた。
性器が赤く熱くぷっくりと充血していることも分かっている。
息が乱れている。今にも手を出してしまいそうなのを、呼吸で一生懸命抑えているだけ。
瀬奈には見透かされているだろう。
あたしが瀬奈に欲情して、その全てを余すところなく卑しい目で堪能しようとしていることを。
抱きたい。
愛おしい。
その体内をぐちゃぐちゃにかき混ぜたい。
最低の欲望で脳内を埋め尽くされている。
「……ゴメン」
「なんで? 私、すっごく嬉しい……」
理屈抜きの罪悪感で思わず謝ってしまったあたしに対して、瀬奈は陶酔した表情で、両手を合わせながらおかしくなったあたしの身体を見つめていた。
立ったままじゃ気まずすぎるから、指示された場所に腰掛けた。
すると、瀬奈が身を屈めてあたしの足と足の間に入ってくる。
「なっ……」
反応するのが一歩遅かった。瀬奈のやろうとしていることを推測したのと同時に、
――――ちゅるっ。
瀬奈は唇をあたしの秘部に当てて、吸った。
赤い舌があたしの性器から粘り気のある体液を舐め取ろうと動き回る様子を呆然と俯瞰する。
割れ目から拭き取るようになぞり上げ、てっぺんにあるクリトリスにたどり着くとぱくっと口に含んだ。
「っ……!」
「ん、はむっ……帆奈ちゃんも手を動かしてみて?」
夢に見ることも恐ろしいほどの禁断の光景が目の前に広がり、判断する暇もなく身体が瀬奈の指示を受け入れた。
足りない皮膚感覚を補うように、悪魔の囁きに導かれるまま手を股間に伸ばす。
人差し指でクリトリスを触ると、強烈な快感が閃光のように全身を走って脳を震わした。
「ぁっ……」
思わず声を漏らすと、あたしを見上げて反応をうかがっていた瀬奈は愉しそうに目を細めて再度奉仕を開始する。
ちゅるっ、ちゅくっ、くちっ。
卑猥な水音を立てながら、瀬奈の舌があたしの性器を味わう。
その動きに合わせて、指を滑らせた。
口淫の感触を再現するように。
「んっ、あっ、瀬奈……っ」
熱に浮かされたまま、唇から漏れる欲。
はっとして、腕で口を覆った。
しかし、
「声出して。帆奈ちゃんの声聞きたい」
瀬奈の要望でせめてもの体面も叶わなくなった。
そうして小さな声をこぼしながら瀬奈の献身に溺れる。
瀬奈は一心不乱にあたしを悦ばせようとしていた。
あちこちに舌を這わせ、時にはがぶっと口全体であたしの陰部に快感を与えようとする。
そのペースに巻き込まれ、クリトリスを触るだけだった手が、あり得ないくらい膨らんだそれをつまみ上げてエクスタシーを求めた。
自分でここをいじるのは初めてだった。
欲がなかったわけじゃない。瀬奈への情念が突然色濃く膨れ上がる朝だってあった。
ただ、記憶の瀬奈を汚したくない一心で一生懸命自制していただけ。
そんなときは、ベッドで丸くなり、熱が治まるのを待つ。
我慢の日々で積み重ねた卑しい欲望が今、封印した奥底からほとばしった。
絶え間なく溢れてくる愛液を掬い取って飲み込もうとする瀬奈の舌。
合間合間に大陰唇に押される唇のスタンプ。
その一つ一つの快感が、自らの指によって補完されていく。
「瀬奈っ、あっ、瀬奈っ、瀬奈……っ!」
息混じりに名前を呼ぶ。熱が性器に集うのを感じながら、手の動きを加速させた。
ちゅる、ちゅぷっ、れるっ。
思い人の少女が自分の陰核を舌で
「ぁ……ぅっ、せなっ……!」
クル。
クルクルクル。
キちゃう。
人生で初めての、輪郭のはっきりした性的興奮。
瀬奈に対する熱い欲望が、秘部から腹へ、腹から胸へ、胸から全ての関節へと拡散していく。
それに侵食されたあらゆる部位が喧しく鳴いている。瀬奈にぶつけたいと。
瀬奈を汚したい、汚したい、汚したい、汚したい……!
涙が滲み出るくらいに最悪で切実な本能が脳内で喚いている。
「ぁ、せなっ、ゴメッ、離れ……っ」
せめて最後だけは瀬奈にやらせたくない。そういう長年の理性が言葉となった。
しかし、手は止まらない。待ったを掛けられない。ソレはもう、あと少しで純粋な少女に最低の性欲をぶつけられる興奮に支配されていた。
あたしの言葉を聞いた瀬奈は、察したように顔を動かした。
……あたしの方へ顔を更に近づけたのだ。
口を大きく開けて性器を咥え込み、舌で分泌液を受け止める準備をする。
そうがぶりと食われた瞬間、
「ぁ――――――せな…………ッ!」
全身が違う方向に飛んでいきそうな凄まじい痙攣。
膣の筋肉が勝手に緩んだり締まったりを繰り返して、臨界点に達した熱を排出しようとごぼごぼ粘液を吐き出す。
瀬奈の口内に満遍なくあたしの印をつける。あたしに染め上げる。
気づかないうちに、あたしは瀬奈の頭を手で押さえつけてがっちりと固定していた。
無理やり少女に淫液を飲ませるように。
そんな獣性に支配されたあたしの姿に目を細めながら、瀬奈は恍惚とそれを口で受け止めた。
受け止め、混ぜ合わせ、ごくりと喉を震わす。
そうして、なお涎を垂らし続けるみっともない膣から口を離した。
「んふふ……帆奈ちゃん、たくさん名前呼んでくれた」
「…………」
放心状態でぼんやりと一線を越えたあとの世界を眺める。
尾を引くように、膣がまだ余韻に浸って収縮を享受している。
あっけなく絶頂を迎えた事実が理性に対する堅い信頼を容易く瓦解させた。
瀬奈の前では、感情以外の概念はいつの間にか塵芥に化していた。
◇
「……ゴメン」
服を整えてから、瀬奈に頭を下げた。
「え? なんで?」
「…………」
「帆奈ちゃん、嫌だったの?」
「…………違う、けど」
嫌じゃなかったのがダメなんだ。と言っても伝わらないだろう。
合意の上だとしても、何とも言い表せない罪悪感が自分の中にあった。
「私、帆奈ちゃんのカノジョだよ? だから私とエッチするのは悪いことじゃない」
「でも……」
「それに帆奈ちゃんは私に好き勝手にされてるだけだよ。
――――そうだ、今度は帆奈ちゃんが私を気持ちよくして。それならおあいこでしょ?」
明るく言う瀬奈。
くよくよしていたせいで、また遠回しに配慮させてしまった。
気分を切り替えないと。いつまでも葛藤に苛まれたままでいては、誘ってくれた瀬奈の面目が立たない。
ただ、
「瀬奈って、その……か、感じられるの?」
おずおずと、疑問を声にした。
今の瀬奈は意識体だから、肉体的な興奮を覚える術がない。
たとえあたしと触れ合うとしても、その目的は精神的なものであって性欲の発散ではないはずだ。
「うーん……試してみないとうまくいくか分からないけど、可能性はある。
私、帆奈ちゃんの中で眠っていた間、帆奈ちゃんの記憶を部分的に受け取ったりしてたでしょ?」
一昨日さりげなくあたしに伝えていた情報を再び口にして、続ける。
「だから、帆奈ちゃんが私に魂……ソウルジェムを少し使わせてくれれば、帆奈ちゃんの身体が処理している情報を受け取れると思う」
「そんなことできるんだ」
「うん。帆奈ちゃんの中にいるから、感覚的に分かる」
要は瀬奈を一時的に「あたし」にすることで、二重人格の状態を擬制するってことだろう。
ただし、一方の人格が現れるともう一方が記憶を失うそれではなく、同時に現れている二重人格。
「…………」
瀬奈が依拠する魂を移し替えることさえできれば、確かに理論的には実現できる。
が、ソウルジェムへの負担は限りなく重いだろう。なにせ一つの魂で二人分の人生を背負うことになるのだ。リスクのある話なのは間違いない。
……それでも、それでも実験してみる価値はある。
直接的な目的はちょっとアレだけど、瀬奈を魔女の束縛から解放する手段に繋がるかもしれない提案だ。
幸いグリーフシードのスタックはあるから、何かあったらすぐに浄化すればいい。
「……分かった。やってみよう」
「……! うん! そしたらちょっと中からソウルジェムいじるけど、苦しかったら教えてね」
瀬奈がそう言うと、さっそく左手中指に魔力がどくどくと注ぎ入れられる感覚がした。
それは不可思議なものだった。
魂の中へ侵入されようとしているのに、苦しいどころか温かくて心地いい。
もしかしたら、既に1年くらい瀬奈を脳内に受け入れているから、思考だけでなく魂の方も瀬奈の存在に慣れて拒否しなかったのかもしれない。
「ふぅ……帆奈ちゃん、大丈夫?」
新しいハードウェアに自分自身をインポートする作業を終え、あたしに聞いてくる。
「あたしは特に変化がない感じ。強いて言えば……指輪に魔力が乗ってる?」
「うん、それが私なの」
「そっか。瀬奈は何か変わった?」
「実は、私を全部移し替えると帆奈ちゃんへの負担が重すぎるから、一部……10分の1くらいかな? しか移植してないの。
それでも人間だった頃に感じてた空気の圧や温度が伝わってるみたい」
手をぶんぶん振ったり、くるくる回ったりしてみる瀬奈。久しぶりの生きている実感に喜んでいるようだった。
「ただ、私がこうして動いてても意味がないの。私が感じてるのは帆奈ちゃんの身体が感じてるものだから」
「なーるほど……つまり瀬奈が食べ物を味わったり匂いを嗅いだりするためには、あたしが実際にそれを食べたり嗅いだりしないといけないわけだ」
「うん。目と耳は共有していないみたいだけど、それはまだ魔女の魂に頼っているからだと思うの。
もし私が完全に帆奈ちゃんの魂に依存するようになったら、帆奈ちゃんは別途私に魔力を与えないと、今のように幽霊として会話できないと思う」
確かに、通常の二重人格はどっちも同じ身体から世界を観測する。一人が左を見て一人が右を見る、なんてことはあり得ない。
今の瀬奈を可能ならしめているのは、魔法による感覚の拡張なんだろう。暗示の魔法の範疇ではないが、異なる意識体を受容したことで自ずと手にした技術なのかもしれない。
魔法少女には共通して行い得ることがある。ゲームにたとえれば共通スキルのようなものだ。魔力を道具に込めたり、自然治癒したり、武器を複数生成したり。
おそらく、この感覚の拡張もその類のものなんだろう。魔力でできた別人が頭の中に入り込むことが前提条件だから、誰も試したことがないだろうけど。
色々推測が立つところで、瀬奈は思考に耽るあたしを連れ戻した。
「それで、そろそろやってみよう」
「やってみるって……あっ」
今更思い出す。こんなことしているのは、他でもない瀬奈に、その……感じさせる、ためだ。
そして瀬奈が感じるためにはあたしが感じなければいけない。つまり――――
「帆奈ちゃんは何が一番気持ちいい? 一番エッチな気分になれることを教えて?」
こういうことになってしまうのだ。
「ごめんね、本当は帆奈ちゃんに色々触らせたいけど、それはどうしてもできないから……。その分目と耳で楽しんで? ほら、今の私はコスプレもできるし、何か好きなシチュエーションがあれば……」
「こ、コスプレ、って」
「うん、エッチでコーフンしない?」
あたしを何だと思っているんだろう……?
変なことを言われてドギマギしていると、突然、裸の瀬奈がベッドに座ったあたしに乗ってくる。
むにっと、瀬奈の柔らかいアソコのお肉がズボン越しの太ももに押しつけられているのを、この目で見てしまって……。
思考がフリーズした。
「帆奈ちゃん、どうする?」
「あ、え、えっと…………」
「ナース服でもいいしメイド服でもいいし、エッチな下着でもいいよ?」
ナース服?
メイド服?
……エッチな下着?
……エッチな下着???
「ちゃんと教えてくれないと私も気持ちよくなれないんだからね? 帆奈ちゃんはどういうのが好きなの?」
「し、ししし知らないからッ! そんなこと考えたことないしッ!」
「……今は感覚共有してるから、実はちょっと頭の中が見えたの。
――――ネコミミ好きなんだ」
ぶすっと、情け容赦なく一言で急所を突いてきた。
こほこほこほこほ咳き込む。
……とにかく話題を逸らそう。
「せ、瀬奈はあたしの思考まで分かるんだ……」
「私の思考は独立してるから、普通は分からないの。ただ、帆奈ちゃんの想像はすごくクリアだったから……こっちまで見れちゃった」
「…………」
「んふふっ、帆奈ちゃん、私のことエッチな目で見てくれてるんだ~」
片手を口に当て、嫌悪ではなく本心から嬉しそうに笑っている。
人の脳内でそんな姿にされてニコニコしてるのが不思議だ……。
それはそうと、ぐずぐずしていては先に進めない。
恥ずかしいといえばもちろん恥ずかしいが、瀬奈が待っているし、実験のこともあるし、早く要望を伝えた方がいいだろう。
瀬奈のためにも一番興奮するものを選ばないといけない。
今朝赤ちゃん願望がバレてしまった瀬奈に続いて、あたしも胸の内を暴露するはめになってしまったわけだ。
……正直のところ、着てもらいたい服はなくはない。
意を決して、それを声に出す。
「…………ふく」
「え? なに?」
「……変身したあとの……魔法少女の服」
「――――――」
瞬時、瀬奈は顔を赤らめた。
なぜネコミミは平気なのに、これには照れるのだろう。
理解はできないけど、羞恥心を持ってくれる分にはいい。
……あたしばかり恥ずかしがっているのはずるいもん。
「……エッチなこと考えてたの? 戦ってるとき、とか……」
「そ、そそ、そんなわけないでしょ! ほらっ、構造とか気になるじゃんっ……」
口を衝いて出た言い訳があまりに間抜けなもので、
「……ふーん」
顔が赤いままの瀬奈にジト目で見られることになってしまった。
なぜその服なのか、と言われても困る。
似合っていてかわいいから、というだけの理由ではないのは確かだ。
その服を着た瀬奈は絶対不可侵の魔法少女だ。そういうきらきらした遠い存在だ。
そんな絶対に入り込んではいけない領域に届いてみたいのかもしれない。
綺麗なものが好きだから、綺麗なものには綺麗なままでいてほしい。それと同時に、綺麗なものが好きだから、汚れた手でもそれを愛撫していたい。
後者の気持ちは存在しないわけではなく、ただ理性で殺していただけだ。
徹頭徹尾、綺麗な瀬奈に憧れていたのだから。
「……分かった。帆奈ちゃん、この服にコーフンしてくれるなら」
「い、言い方……」
「んふふふ。コーフンしてね、帆奈ちゃん」
そう言い残して、膝に乗っていた瀬奈はパッと白い光になる。
再び現れたときには、衣装を身に着けた状態になっていた。