【グリザイアの楽園】楽園Another~雄二はみんなのもの!~ 作:千月華音
次の「蜜月②」に書きましたので、続けて投稿します。
――三年前。日下部麻子自宅の山荘にて。
――ガチャガチャガチャン……!!
けたたましいガラスの割れる音が階下から聞こえた。
なんだ、まさかまた熊が出たのか?!
深夜2時前。寝る前にいい加減酒はやめろと麻子に言って寝室に入ってからまだ2時間も経っていなかった。
まだ起きているのなら、……あの音の正体は。
念のためナイフを背中に隠し持ち、慎重に階段を下りていく。
明かりはとうに消えていたが、夜目で慣れていたおかげであたりの様子は手に取るようにわかった。
ソファに蹲っている女の姿。――麻子だ。
床には飲んでいたと思われるビールの空き缶と、ワインの空きグラス、それに割られたいくつものグラスの破片が散らばっていた。……音の正体はこれか。
明かりをつけ、手早くチリトリで片付けた。破片が散らばっていては足の踏み場もない。
麻子は……。
意識はあるらしい。蹲っているが、荒い呼吸音がさっきから聞こえていた。
様子がおかしい。
さっき寝室にあがっていったときは、これほど呼吸が荒くはなかった。
「……麻子。おい、大丈夫か」
「……やかましい」
悪態をつけるくらいの元気はあるようでホッとした。
とりあえず水でも飲ませよう。
台所へ行き、コップに水を注ぐが、その蛇口に麻子の手が重なった。
いつの間にか後ろに立っていた。
「雄二」
首筋にかかる甘い吐息のような声。
誘いの合図だとピンときた。
だがいつもはこんなふうに唐突に誘ったりはしない。大抵、茶化してから俺をベッドに誘い込む。もしくはバカにするかのように、どうせ勃てないくせに、とか言いながらせせら笑って股を開いていた。そんな麻子についカッとなって押し倒す――それがいつもの情事の始まり。
だったのだが。
麻子の手が俺の萎えているそれを握りしめてきた。
「……おい」
「始めるぞ」
「見ての通りだが。何の準備もしてないぞ」
「バイアグラを飲め。それで数時間は勃つ」
「……薬物を使ってまでしたくはない」
「偉そうなことを言える立場か貴様」
「おい、麻子。酒くさいぞ。飲んでも酔わないおまえらしくもない。手を離せよ」
腕を掴まれ、無理やり口づけをされた。
何かを飲まされた。……まさか。錠剤だ。こいつ、本気でやりやがった。
ぷはっ、と唇を離すと、麻子の底冷えのする冷笑が目の前にあった。
舌なめずりをして俺を見ている。……興奮、している。こんな麻子、初めて見た。
「……麻子」
「効き目は5時間だ。腎不全にはしないから安心しろ」
「安心できるか!」
「雄二。なぜ起きてきた。二階にいればよかったものを。……もう手遅れだ。付き合ってもらうぞ」
それから6時間近く。
地獄のようなセックスが始まった。
出しても出しても、貪欲に求める麻子に死を覚悟したとき、麻子が自らの手で膣内にナイフを突き立て、それでようやく行為をやめることができた。
代わりにドクターヘリを呼ぶ羽目になったが。
……ヤバい。
天音に出した後も、射精感がないのに勃起が止まらず、心臓が二つあるかのような鼓動を感じていた。
一人になれる場所を探し、岩場の陰の波打ち際に裸になって海水に浸かる。……見るも立派なそのイチモツにため息しか出なかった。
麻子と同じ症状だ、これ。
ブースタードラッグの後遺症。そのうちのひとつに性感帯の過剰反応がある。過剰なんて可愛いものじゃない。性器の暴走状態だ。
こうなるともう収まりがつかない。麻子みたいに自傷するしかこの興奮状態をおさめる術はない。だが……。
おさめる術はないわけじゃないんだ。麻子が俺を求めたように――俺のこの状態をおさめるのは。
「……みちる」
あいつしかいないよな。
みちるが欲しい。――いま渇望するのはあいつだけだ。
だが。
こんなもので貫いたら、あいつを壊してしまう。
まして今のみちるは娘が病気なのを心配して不安がっている。できれば優しく慰めてやりたいくらいだ。
他の女でもいいだろ、と別の自分が囁く。千鶴でも、なんならJBでも、抱く相手なら他にもいる。ついさっきだって天音に最後の精を注いでやったのに。
……ダメだ。
みちるだけなんだ。
手に入らないから躍起になって得ようと思っていた一姫のことも、今となってはどうでもよくなっていた。
思い浮かぶのは、みちるだけ。
なぜだ。
俺はあのアホ女を、別に恋焦がれているとか、そんなはずがないのに。
そんなんじゃなくてだな。
なんだかわからんが……。
みちるが欲しい。
あの貧相な身体も、アホ毛も、ちょっと黒髪の混ざっている金髪も、産後の肥立ちで化粧っ気のないアホ面も、文句ばかり言う生意気なところも、……思い出しただけで。
また勃ってきた。
どうなっているんだ。
麻子への想いとはまるで違う。もとより麻子とは比べようがない。俺の女は麻子だけだ。
なのに。
みちるのアホ面だけが思い浮かぶ。
……これも後遺症のせいなのか?
俺の脳機能の一部が薬物の影響でおかしくなっているのか。
そうでも思わないと、この想いの説明がつかない。
麻子が――俺を必死になって求めた理由が、いまやっとわかった。
これだ。この性衝動と同じくらい欲しいと願うこの想い。
俺はもうみちるを抱かないとこれがおさまらないことに愕然としたが、同時に、覚悟を決めた。
麻子みたいにはならない。
だが俺の想いを受け入れてもらう。
すまないが、みちる。……俺はもう、おまえに憑りつかれてしまっているみたいなんだ。
天音から渡された携帯。
衛星電話で世界中どこからでもかけられる。一姫とはこれで連絡を取っていたらしい。
この際、一姫の力を借りよう。
天音の話によると、いまの時間はPCに向かって仕事をしているらしい。
『天音ね、ちょうどいいわ。これから島に行く用事があるから』
「俺だ。この電話は借りたぞ」
一姫の息を飲む音。……だがさすがといおうか、すぐに落ち着いた声音になった。
『天音と寝たわね、雄二』
「おまえと同じローションをまた味わされたよ。さすがにもうこれ以上は出ないけどな」
『仕方ない人。……お仕置きをしなくてはね。雄二にこの秘匿回線を貸すなんて』
「好きにするといい。おまえと天音が密に連絡を取り合っていようと、俺には関係ない」
『…………。天音を奪った報告をするつもりなのではないの?』
「一姫。俺は天音を抱いたけどな、おまえと天音の邪魔をするつもりはないぞ。おまえが天音に夢中なのはわかっている。さんざん抱いて思い知らされたからな」
『まあ、雄二。いつからこんな聞き分けのいい子になったのかしら』
「…………。本題を話すぞ。みちるのいる病院だが、みちるだけ先に退院させてもらいたい。娘の一縷は病気が治ったらでいいから」
電話口で一姫の躊躇いが伝わってきた。
『本人が残ると言っているのよ。もともと出産後すぐに退院するはずだったのに、一縷と一緒にいたいからと言って退院をのばしているのは松嶋みちるよ』
「俺から説得する。いまから病院に行くから、みちるの承諾さえあれば退院できるようにして欲しい」
『それは構わないけれど……。行くって、どうやって?』
「ヘリを一台まわして欲しい。帰りは定期船で戻るよ。今14時だから、面会時間ギリギリに間に合うはずだ」
『はいはい。行ったり来たり、今日一日どれだけ移動するのよあなたは』
「おまえが島に送り届けたんだろうが」
『雄二のあの様子では、私一人では欲求不満だろうと思って気を遣ってあげたのよ』
それでか、あの追加のバイアグラは。
そして俺が他の女に手を出すだろうこともわかっていたらしい。
天音を抱いたと知っても動揺の欠片もない。一姫らしいといえばらしいが。
『後遺症はまだ続いているようね』
「……知っていたのか」
『薄々、ね。副作用については資料で見たから。雄二、天音を泣かさなかったでしょうね?』
「悦んで泣いてくれたよ」
『聞いてみたかったわ……。さぞや艶のある声音だったことでしょうね』
「この変態姉貴が。この携帯に録音しておいたから、あとで音声データを送ってやるよ」
『あら、気がきくじゃない。お礼にいいこと教えてあげるわ。日下部麻子は子宮外膜を傷つけてしまったせいで、医師から子宮を切除するよう言われたのだけど、断ったそうよ。たとえ子供が産めなくても、雄二を悲しませることはしたくない、と』
「…………」
『あなたのことが本当に好きだったのね。いい後見人と出会えてよかったわ、雄二』
「後見人なんかじゃない。俺の師匠で、……恋人だ」
『松嶋みちるも大事になさい。あなたの妻なんだから。日下部麻子みたいにはならないでね』
……見抜かれていた。
しかし一姫に言われるまでもない。みちるを泣かせるつもりなどなかった。
「心配無用だ。天音に最後の精を吐き出したから、もう今日はやりたくても無理だ。勃起は続いているけどな」
『天音に会ったら伝えてちょうだい。雄二にどうやってイかされたのかぜひ知りたいわ。射精されてどんな気分だったのか、天音の口から聞けると思うだけで興奮しちゃいそう』
天音よ。
これが一姫だ。おまえは知らないかもしれないが。
いまの会話も録音している。あとで天音に聞かせてやろう。
「それはおまえが天音から直接聞け。じゃあヘリの手配を頼む。ヘリポートに行ってるからな」
『雄二。その携帯はあなたにあげるわ。私と連絡を取りたいときに使ってちょうだい』
「そうさせてもらう。またおまえを抱くときも連絡するからな」
『あら、癖になっちゃったの? いいわ、今度天音と一緒に3Pでもしましょう』
それもいいかもな。
天音の目が覚めるかもしれない。
こういう女だってことを、あいつ、知らないからな……。
電話を切り、ふう、と息を吐いた。
とりあえずこれで、みちるに会う算段はついた。
抱くつもりはないが、……みちるにこれをどうにかしてもらわないと。
フェラは下手だからな、あいつ。
だがみちるに会えばなんとかなりそうな気がする。
なんの根拠もないのだが。
みちるの顔を見た途端。
勃起が最硬度になるのがわかった。
……どう考えてもおかしいだろ。
昨日会ったときと明らかに身体の反応が違う。心拍数が上がり、鼓動が跳ね上がるのがわかる。みちるの顔を見ただけなのに。
「雄二……? あれ? 今日来るって言ってたっけ?」
みちるらしからぬ編み物をしていた。
一縷に履かせる靴下のつもりなんだろうが、足の指が6本になっているぞ。
ベッドに座っているみちるに近づいた。
「みちる。身体の調子はどうだ?」
きょとん、と俺の顔を見上げている。
なんのことだろ、と呟いたみちるが、意味がわかったのか、急に顔を真っ赤にして持っていた編み物を手から離した。
「あれからお腹壊したわよ!」
「そうか、それは悪かった」
「ならそういう顔をしろ! あんた何回出せば気が済むのよ! しかも出しっぱなしで放置とか、信じらんない!」
「せっかく中出ししたのに、掻き出したらもったいないだろう。妊娠させるつもりで出したんだが」
「あたし、産後! わかる?! 産後なの! 産んだばっかよ! 鬼か、あんたは?!」
「みちる、むしろ産後でより感度があがっているぞ。興奮材料にしかならないんだが」
「いっぺん死ね!!」
枕を投げつけてきた。
あっさりとそれを受け取り、頬を紅潮させて怒っているみちるの手を取った。
俺の真剣な眼差しを見て怖気づいている。
言い過ぎたと思ってる様子が手に取るようにわかった。
……可愛いな。
おまえの考えが筒抜けだ。わかりやすすぎる。こういうところがたまらない。
掴んだ手を口元に近づけ、みちるの手首の脈をなぞるように口づけた。
途端、感じたようにビクッと震えるみちるを見下ろし、そのまま上から覆いかぶさるように抱きしめた。
「……みちる」
「な、なに?」
「島に戻ろう。いい加減、おまえと離れて暮らすのは我慢できない」
「だって……一縷が」
「ちゃんと治るまで看てくれてる」
「あの子にお乳をあげないと」
「まだ熱があるから授乳は推奨できないと医者が言っていたぞ」
「だって粉ミルクなんかあげちゃったら、あたしのおっぱい飲まなくなっちゃう……」
「飲ませたいのか?」
「胸が張っちゃって……。しくしくと痛むの。お願い、一縷の側にいたいの」
「みちる。俺のこれを触ってくれ」
さっきから昂ってどうしようもなくなっているそれを取り出し、みちるの手に握らせた。
驚いたように見上げてくるみちるに、やるせない笑みを返した。
「俺はおまえの側にいたいんだ」
「こ、これ……昨日よりおっきくなってない?」
おそるおそる触れる手つきが、またいい感じに性感を刺激してきた。
わかってないと思うが、おまえが形を確かめるように割れ目に爪を立てているそれが、気持ちよすぎるんだが。
「みちる……わざとか?」
「へ? わざとって、なに? ……あ、雄二の先っぽからもう出てきた」
「それを舐めてくれるとありがたい」
「……えー……、やだ。だって雄二の、にがしょっぱいんだもん」
言うと思った。
じゃあ触ってくれるだけでいい。
そのままみちるの手に手を重ね、一緒に擦り合わせる動きをした。
「そうだ、そのまま……ゆっくりと動かしてくれ」
「あ、あのね、ここ病室。そんでもって、もうすぐ見回りの看護婦さんが来るの。こんなところ見られてもいいの?」
「俺は構わない」
「あたしが構うわ! ……ねえ、やめようよ。昨日だって誰も来なかったからよかったけど、あんなの見られちゃったら」
「天音が一部始終見ていたぞ」
「うそ……?!」
みちるの手が硬直した。
その固さが勃起した男根をうまい具合に刺激し、さらにみちるの手を強く握らせた。
「おまえたち二人とやってるとは、思わなかっただろうけどな」
「あ、あたしの……あんなとこや、こんなとこを……天音に……」
「みちる。カリを擦ってくれ。裏筋も指でなぞるようにしてくれるとありがたい」
「調子にのんな! 雄二、あんた、いったい何に興奮してこんなデカくしてんのよ! 天音に見られてなんとも思わないの?!」
「おまえに触られているから興奮しているんだ。何を当たり前のことを」
みちるが。
恥ずかしさと悔しさと怒りが入り混じったような顔で俺を見つめた。
嬉しさも混ざっているのだろう、口元が少し緩んでいる。
……麻子。
俺、もうダメかも。
こいつのこんな顔を見ただけで、みちるが欲しくてたまらなくなった。
俺のイった顔でおまえが興奮したように、俺も――。
みちるの万華鏡のようにくるくると変わる表情が、下半身をどんどん刺激していく。
抱くつもりはなかった。
いま抱いてしまうとこいつを壊しかねない。だから思いとどまるつもりだった。
「みちる、ホテルに行こう」
「……へ?」
「俺と一緒にいまからホテルに行くんだ。いまから退院手続きをとってくる。すぐに許可は出るよう手配しておいた」
「は……い?」
「おまえを抱くぞ。ホテルで一晩中セックスするんだ。おまえのためなら頑張って精子を再び作ってみせる」
「…………」
「そんな呆気にとられた顔をするな。大丈夫、優しくするから。おまえを泣かせるつもりはない。むしろ喘がせてやりたいけどな」
「…………」
「さっそくだが、どこのホテルがいいか希望があれば言ってくれ。ラブホテルはやめておく。これでもハネムーンのつもりだからな。一流ホテルにするつもりだ。最上階のペントハウスなんてどうだ?」
「…………」
「嬉しくて言葉もないか。よし、ネットで検索して予約するからな。レストランも予約しておくぞ。おまえも美容院に連れていって少し着飾らせてやる。おまえでも着飾れば女に見えるだろう」
「…………」
「みちる。俺は本気だ。本気でおまえが欲しい。だから一緒に来てくれ。今だけは一縷のことも、他のみんなのことも忘れて、俺のことだけを考えてくれないか」
みちるは混乱したような顔をしていた。
返事がないのは頭の整理が追い付かないからだろう。
卑怯かもしれないが。
その整理がつくまえに、有無を言わさず口づけた。