座席にはレヴィにとって非常に見覚えのある顔をした奴がいた。
「大丈夫だ。私も着いているし、他の皆も一緒に助け合って任務を達成しようとしているんだから」
「はい……、でも……うぅ」
最高難易度に行ける彼女がなぜこんなところに居るのか一瞬理解出来なかったが、横にいる弱そうな少年を見てレヴィは心の中で嘲笑した。
(あぁ、あれが新しい腰巾着ね。いや、子守り?)
レヴィはルビィを睨みながら座席に座ろうとしたが、先にアークスが座席を取っており空きがルビィの隣しかなかった為、レヴィは座席に座ることを諦めてブリーフィングルームへと向かった。
そもそも座席のようなあんな閉鎖的な空間でアークス共と一緒にいるなんて拷問だ。
いくら自分の正体がバレていなかろうが、元々アークスは大嫌い。
あの群れ合い馴れ合いのあからさまな仲良し偽善者アピールと、それに反してヒト未満と思った相手への徹底的な差別と侮蔑は不愉快でならない。
「……本でも読むか」
普段ならトレーニングや素振りなどをしている所だが今持っているコモン武器のウォンドはカモフラージュ用で振っても意味が無いし、トレーニングをしていたら変に思われるだろう。
彼女はそう考えて倉庫から小さな簡易イスを取り出し、端末を開いて本を読み始めた。
"アークスのクラスの発展と武器の歴史、及び統合まで"というタイトルの本だ。
【巨躯】戦争を機にアークスのクラスは随分減り、武器の種類も減少したが、元々クラスはもっと細分化されており、武器の種類も多かったのだ。
消えたクラスの中には調査対象の惑星に存在している文明の武器や戦術を参考にしたりといった経緯もある為、この本には他文明やわかる範囲でフォトナー時代まで遡った、かなり専門的で細かい所まで載っている良い本である。
この中には仕込み杖や杖術のようなブラックローズに使える戦術も載っているし、未だ思いついていない他の武器の参考にもなる。
【敗者】からも「昔アークスに存在していた武器をもう一度作り採用するのもいいだろう」なんて言われたので、このアイデアはほぼ採用に近い。
レヴィはクラスがなく、フォトンアーツやテクニックも使えないというのは大きなデメリットだが、同時に武器や戦術に制限がないというメリットもある。
元々ダークファルスの肩を持ちアークスに敵対することを選んだのだから、認可の降りていない武器を使ってはいけないなどというアークスの規則違反は些細なことだ。
(ハンドガンやスライサーはアイゼンハートで使ったことがある……セイバーにアックス、……自分でマグの類を作るのも悪くないかも……そういやクランシーって……)
レヴィは腰に携帯しているクランシーをちらりと見る。
元々はロッドのクラリッサだったが、現在は【敗者】とのテレパシーだったり一時的な武器創造、【敗者】の時間操作等の能力を発動したりしているものの武器種がよく分からず具体的に何かとは言えなかった。
しかしクランシーの性質は元々の武器種を考えれば法撃であり、どの武器でもないようなこの形はこの本の中に書かれているマドゥーグという物に割かし近い。
マドゥーグはマグの前身的な物でありマグの一種とも考えられると書いている。
つまり、クランシーは現在のアークスからして考えればマグと言ってもいいのではないか?
(ようやくわたしにもマグが……)
アークスから支給された訳では無いもののマグに近いものを持っているという事実は密かにレヴィの心を盛り上がらせていた。
――レヴィがブリーフィングルームの端で座り込み堂々と読書を楽しむ中、キャンプシップの到着アナウンスも掛かっていないのに人が増える。
それは必然の運命か、それとも神の嫌がらせか、ルビィとムルヒャだった。
二人はブリーフィングルームにやってくると端に座る少女に目がいった。
黒いゴスロリ服を着て此方に目もくれず、端末で本を読み込んでいるニューマンのテクター。
ルビィはこの場で訓練をしていいか彼女に許可を取ろうとしたが、ルビィが出るよりも先にムルヒャが彼女に声をかけた。
「あの……」
レヴィは声を出さないまま面倒そうに視線だけ彼に向ける。
愛想の悪く睨むような瞳。
分かりやすい悪意だが、ムルヒャが経験したどの悪意よりも数段飛ばしにそれは強かった。
「ここで……少し、武器を使っても」
「そう」
ムルヒャはオドオドと迷いながらも何とか言葉を紡ぐが、遮るようにレヴィが返事をして足を組み替える。
その後彼女はムルヒャに目を向けることも無く、ムルヒャは経験からこの手の人間がする了承の返事と受け取って離れる。
「大丈夫です……多分」
ムルヒャは戻ってルビィに声を掛けた。
「あぁ……」
あの手の無愛想な人間は居ない訳では無い。
しかし彼女はムルヒャやルビィが今まで見てきたどのアークスとも違う、異質で異様な雰囲気……何かしらの本能的な恐怖があった。
「大丈夫」
ルビィはレヴィの異様な雰囲気を感じ取ったからこそ、ムルヒャに優しく声を掛けた。
例え鋭い言葉を掛けようが悪意を向けられようが、自分がムルヒャを庇えばいいだけ。
それに、視界の端に映る女には不思議と何かの繋がりを感じていたからだ。
この繋がりはマトイやシオンと出会った時と同じ、根源的な物のよう。
「ムルヒャ、アークス相手に緊張していたらダーカー相手じゃもっと緊張しちゃうぞ?自分の本当の敵が誰を見極めて、しっかり向き合って対処するんだ」
「ルビィさんは本当に心も体も強いですね」
「私は……うん、在りたい自分であろうと意識している」
二人は支援テクニックやこのクエストで使用する光テクニックの試し打ちなどを始めた。
レヴィは騒々しさに特に文句を言うことも無く、【敗者】と会話出来るようにクランシーを起動する。
『遅かったな、レヴィ。既にキャンプシップの降下地点、マップ構造、ボスの位置全て把握済みだ。此方で生成した最短のルートを端末に送信する』
レヴィはメッセージを開き、返事代わりに【敗者】にスタンプを一つ送る。
そして【敗者】から送られたマップとデータ上のマップを一緒に開き比較を始めた。
アークスが提示した本来歩むべきルートは降下地点であるE4からテレポーターでD5に転送、道なりに進んでA4からA1に転送、そこからまた進んで最終地点はE1になる。
その過程でダーカーの空間制圧兵器"イグニクス"に対処しながらダーカーを討伐し、進行を阻むダーカー因子で形成された隔離壁を突破する必要がある。
テレプールにテレポーターにテレパイプとフォトンづくしで本人名義では締め出されるのも納得の作りだ。
それに対し、【敗者】が用意したルートはクランシーを使った遠隔操作で最短を作り出すもの。
最初のテレポーターでD5に転送すると見せかけて時間操作を使ってマップ外(D6と仮称)にワープし、ダーカーを操って隔離壁を外して本来の進行ルートであるD3に合流、そこから一気にE1まで向かう。
【敗者】の協力のお陰でイグニクスの対処の必要もなく、進路を塞ぎボスへの直行を防ぐ無数の隔離壁は【敗者】におまかせ。道中のダーカーも有翼型であれば【敗者】が制御を行い、あとは有翼型ダーカーの力を借りながらレヴィの方で対処する。
ただテレポーターの起動に合わせてダーカーワープを使用するとフォトンとダーカー因子が干渉し転送が上手くいかないため、一緒に行く他十一人を先に行かせた上で後からついて行くフリをしないといけない。
ドリンクやトイレ等でテレポーターに遅れ後から行くアークスは別に珍しいわけでもないが、基本的には十二人同時行動だ。
一人遅れると大分目立つ。
それに最短ルートでボスに辿り着きそうな雰囲気も必要だ。
別に何も言われなければそのまま一人で遅れて行くだけなのだが、仮に言われたとすれば……の問題だ。
『其方には面倒なのも居るようだが……大丈夫か?』
「誰に物言ってる訳?」
『僕がレヴィ以外と話す意味などあると思うか?それと、指輪は付けていないようだな』
「当たり前でしょ。任務で付けるなって言ったのはどこの誰だっけ?」
『僕は任務以外の外出で必ず付けろと言っただけで、任務で付けることを禁止したつもりは無い』
「あんたはわたしが3000万の婚約指輪を戦闘任務に付けていくほど馬鹿だと思ってるの?!」
レヴィは思わず声を荒らげると、騒々しかった空間がしんと静まりレヴィは苛立ちながら足をまた組み替えて端末を睨みつけた。
『仮の物だと言っただろう?使い潰しても構わない』
「生憎、わたしは装飾品を使い潰すような精神構造はしてないワケ。それと無駄な話ばっかしてるけどそっちは準備出来たの?」
『僕を馬鹿にしているのか?遠隔での時間操作も転送座標は把握済み。後はクランシーと貴様さえ居れば完了する』
「あっそう……」
レヴィはいい加減この喧嘩を引きずるのは馬鹿だと言うのはわかっていたが、仲直りの方法なんて分からなかった。
自分が悪いなどと微塵も思っていないからだ。
明らかに酔ってバカみたいな絡みをしておきながら突然キレ始めた方が悪いだろう。
そんな相手に対してなぜ無駄な謝罪などしなければいけない。悪くない。謝るのは【敗者】だ。
どうすれば喧嘩した相手と仲直りできるのか。
レヴィには殺すか死ぬかしか思いつかない。
「……ッ、る、……おん」
『どうした』
「現状で何か任務に支障ない?」
『確かにルビィは居る事は懸念事項だが……注意すればいいだけだ。他に支障はない』
「なっ、ならいいけど」
(あるって言ってよ!このギクシャクした空気で全然あるでしょ?!あるってなんで言わないの?!)
レヴィは【敗者】にモヤモヤと苛立ちながらもそれを声を出すことはせず、端末を握り締めて耐える。
早く謝ってくれとレヴィはだいぶ思っていたが、【敗者】は謝罪の言葉など口にしない。
この場合での正解は時間の経過で無かったことにして普通に振る舞うしかないのだ。
「クソ、……ッ」
そんな時、キャンプシップに到着を告げるアナウンスが響く。
続々と座席にいたアークスがブリーフィングにやって来て、談話しながらテレプールに飛び込んで行った。
レヴィはそんなアークス達を見送りながら椅子を片付け、ぼんやりと佇む。
「行かないのか?」
到着しているのだからテレプールの横で佇む理由などなく、まるで行く気もないようにそっぽを見ているレヴィの様子は明らかに異様で、思わずルビィは声を掛けた。
「……」
レヴィは返事をしないままクランシーを撫で、テレプールへ進んでいく。
レヴィがテレプールに飛び込んでも意味は無い。ただテレプールの底にある床に体をぶつけるだけだ。
しかし。
『貴様のタイミングに合わせる』
レヴィは俯くと、クランシーに触れたまま着地姿勢を取って無言でテレプールに飛び込む。
【敗者】は何かの言語を呟くとクランシーが強く光り、コアが赤く染まった。
カチッ
瞬間時間が止まるとレヴィの周りをダーカー因子が包み、空間侵食によって旧マザーシップに設置されたテレポーター付近のテレパイプの前にワープする。
そして時間停止が解除されると、レヴィはテレポーターとは逆方向に進んで端末を取り出した。
『良し、上手くいったようだな。良い予行練習だ』
「うん」
不思議なことにクランシーは強い精神的な繋がりや感情に反応し、遠隔にいる【敗者】のテクニックも発動出来るのだ。
「全く……我ながら理屈が理解不能すぎる」
『恐らく、貴様の体を主として僕と貴様の体に存在するダーカー因子という共通点と、貴様とクランシーを構成するエネルギーの持つ増幅作用で一体化し、僕から出した命令が遠隔であれどクランシーに伝わって発動しているのだろう』
「つまりそれって、わたしをアンテナみたいにして、発動してるのはあんたってこと?」
『そういうことだ』
「ふぅん……」
テレポーターが起動している中、レヴィは周りを眺めながら考え込んでいると背後から声がかかる。
「お前、何故入らないんだ」
ルビィだ。彼女はいつもの正義感で怪しい様子のレヴィに話しかけに来たのだが、当然レヴィにとっては苛立たせるだけだ。
「後から行く」
「そういう問題じゃないだろう。こんな危険な場所だ。集団から外れ一人で行動したら自分も周りも危険に晒すことになるんだぞ」
ルビィは正論で正しい事しか言っていないが、レヴィにとっては面白くて仕方ない。
かつて何度レヴィがルビィに助けを求め話しかけようと試みて、両親や他のアークスによってそれを妨害され暴力を振るわれたことか。
彼女の近くにいるだけで嫉妬だと言って言いがかりを付けられ暴言を吐かれ、その癖頑なにルビィの妹と呼ばれ笑われ続けたか。
そういう出来事が何回も何回も長い間繰り返され、レヴィはもうルビィ相手へのコミュニケーションの試行に疲弊しきっていた。
そしてようやくルビィがレヴィに話しかけてきたと思ったら、お局気取りの自治説教だ。
ルビィのような上面だけは上手く才能のある悪辣な偽善者は一体どれほどのメセタを自分にせがみ、どれほどの暴力を自分に与えるのだろう?
そう考えるとレヴィは思わず笑い声が漏れてしまう。
「ふふふっ……」
「……何がおかしい」
ルビィの細く睨みつけるような瞳を見てレヴィは返すように殺意の籠った目で睨み、一歩ずつテレポーターに向かって歩き出した。
ルビィは彼女の殺意を見てレヴィに背を向けないように一歩ずつ後ろに下がっていく。
ムルヒャが心配そうにルビィを見つめる中、レヴィはムルヒャに目を向けると薄ら笑みを浮かべた。
ルビィの位置はテレポーターのすぐ側まで寄っていた。
「誰も彼もがあんたの命令に従うと思ったら大間違いだよ」
「ッ?!」
レヴィは瞬間手を出すと、突き飛ばすようにルビィをテレポーターの中へ押し込む。
同時に転送が開始され、ルビィは他のアークスと共にレヴィの前から消えた。
『あのアークスを前にして平静を言い聞かせるのは難しいことだが……それにしてもやりすぎだ』
「はっ、やりすぎ?やりすぎなんてことは無いよ。やりすぎじゃなくて優しすぎ、ね」
『……テレポーターの停止を確認。ダーカー因子とフォトンの干渉なし。転送元及び転送先の座標をチェック、試算も十分。準備は完了だ』
レヴィはクランシーに触れ卑しく笑みを浮かべると、瞬間肉体が転移した。
想定通りのD6。マップ外だ。
オペレーターの通信を確認すると通常通り行われている。
「ふぅーん……あんたなんかお節介したでしょ」
『当然だ』
【敗者】はいつもレヴィがやっているのと同じように管制をハッキングし、オペレーターから見える映像データをAIを使って改ざんし、出発前のいざこざを無かったことにしていた。
オペレーターの方からでは12人目のアークスはまだキャンプシップから降りていないことになっているが、この地点に転送されたならば最早オペレーターからの捕捉は不可能。
レヴィは端末をシャットダウンしパーソナルデータや位置情報の送信を止めたからだ。
「さっさとやりなよご主人サマ。わたしが不都合なくらい暴れ出す前にね」
『良いだろう……』
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる