「強い相手を守りたい?……弱いままで?笑わせないでよ。守りたいなら追いつくしかないの。たとえ神だとしても、……必死こいて歯食いしばって死んででも力付けるしか追いつけないッ!!」
レヴィは怒鳴っているが、怒りと言うよりかは最早悲鳴だ。
「それでも無力だよ、どう頑張っても!どれだか足掻いたって足先にすら届かない!迷惑かけてばっかで!助けになりたいのに!どんなに苦しんでもしかめっ面して最後には誤魔化して嗤ってばっか!」
悲壮に歪んだ表情で、己の無力を嘆き、苦しみ、悲しむ、
「気持ちはこんなにあるのに!助けたい守りたい報われて欲しいって!その為ならどんなに苦しんでもいいって、全てを奪われてもいい、命を賭けてもいいって!それなのに、わたしが弱すぎて何も力になれない!」
「……」
ルビィはレヴィの言葉をよく聞いて、よく考え込んだが、彼女の中での結論が出る前にさらに言葉が降り掛かる。
「こんなに気持ちがあって、こんなに動いて、独りで何とかしようって思っても何ともならないのに、人から助けを得ないと動けない奴が誰を守れるって言うの?!それでどうやって強くなれるっていうのッ!!あんた達の言ってることは全部デタラメ!!」
ルビィはため息をついた。
――出来るなら全ての人を助けたいし、全ての人が救われて欲しいと思う。
でも、もし片方しか守れないというのなら。
ルビィは恨まれてでも、"守らないといけない方"を守る。それがルビィの選択だ。
「でも、それを選んだお前は弱いままだ」
「はっ……?」
レヴィの喉から枯れた声が漏れる。
目元がじんわりと熱くなり、目が潤み、泣いてしまいそうになったのをグッと目を閉じて抑え込んだ。
「あったりまえでしょ?!あんたが……あんたがわたしからフォトンを奪ったんだから!
そのせいでわたしが……ッ、〜〜ッ!!」
――ここまでしても無意味なの……
「そこまでしないといけない程、あなたは出来損ないの家族の存在が許せないの……大嫌いなの……?」
レヴィの心の中に闇が広がり、留まることは無い。
彼女が毎日吸い続けた悪意の塊は、レヴィの心を抉り、蝕み、カサブタのように見える細菌で傷口を侵食する。
「わたしがあなたに何したっていうの……一言もしゃべらせてくれなかったのに……、視界に入るだけで殴られたのに……ッ!!」
レヴィの瞳から涙が零れた。
悲しみと悲愴の涙。いつか未来のルビィへ与えられるかもしれなかった、姉への愛情の可能性が全て零れていく。
それはもう二度とレヴィの中に戻ることも、生まれることもない。
「わたし達は血が繋がってるのに、なんで誰よりもわたしのことを嫌うの、なんで少しも愛してくれないの、お姉ちゃん……!!」
「……」
レヴィはそうやって叫び終わると顔を歪ませて、それから俯き、枯れたように笑う。
「……あぁ、……ふふ、……ふふふっ……」
絶望した。深く深く絶望し、失望した。
零れた姉への愛情の代わりに、降り積った長年の憎悪と、彼女を唯一愛してくれる存在への愛情がレヴィを静かに包む。
「――あははははッ!ははっ、きゃははははっ!」
憎悪と苦しみと悲しみで出来たその笑いは、ルビィの記憶に新しい何かによく似ていた。
この空間を作り、今もその気配で埋めつくしている、彼そっくりの狂った悲しい笑い声。
「……そうだ、そうだ……!!」
辺りを埋め尽くすダーカー因子はレヴィの中に調和し、ゆっくりと紅く瞳を染めていく。
そして彼女は端末を開き、目にも留まらぬ速さでキーボードを打って、開いて出てきた画面を見て、いやらしく口角を上げた。
「闇のいざない、難易度スーパーハードの死亡者は3名、負傷者126名……」
ルビィは目を細め、レヴィの事を見つめていた。
「あんたがコイツを見捨ててスーパーハードに行ってたら……この死者も、いなかったんじゃないの?」
「ッ!」
反応したのはルビィではなくムルヒャだ。
ムルヒャは、ルビィが難易度を下げてまで自分に付いてきたことをよく分かっていた。
だから、それによって発生した損害は、ルビィのせいでもあるがムルヒャのせいでもある……
「コイツはそもそもハードに行けるだけの実力はあるわけ。それなのにあんたがお守りをしたから、沢山の人が無駄に怪我して、あんたが守れる筈だった人は死んだ。これはあんたの怠慢でしょ?」
しかし、ルビィは顔色を変えずに告げた。
「違うな」
レヴィは目を細めキツく睨むがルビィは怖気ず、言葉を続ける。
「私が居なくて死んだのなら、それは私の怠慢ではなくソイツの力不足だ。違うか?」
「はっ、……それがお人好しサマの本性ってワケ?」
「私は一人しかいないし、私にだって守れる数に限界はある。そもそも宇宙単位で戦争をしてるんだから、私が休んでる日だって、別の任務に行ってたって、犠牲は常に発生する。だから私は
「……ッ!!」
レヴィは吹き上がった頭を落ち着かせる為ゼェゼェと呼吸をし、ルビィに殴りかかろうとするがルビィはレヴィの手首を掴んで止めた。
「私は私に出来る限りの事をしたんだ。私の何が悪い」
「……」
レヴィは血が出るほど拳を握り締め、憎しみに染まった顔で破れそうな程ルビィの顔を睨みつけると、手を払う。
「あぁ、そう!ふふっ、あははっ!……よーく分かったよ。あんたがなんでわたしを妹と認めないか」
「妹……」
「あんたの世界の中に、呪われた忌み子は、最弱のアークスは、不出来な妹は存在しない……存在させたくないから……って事ね?」
レヴィは不自然なほどきゅるんと可愛く笑い、クルリと回ってから小悪魔のような愛らしい動きで歩き始める。
「だったらわたしがあんたを殺さなくちゃ。だってわたしの世界にもわたしの大切な人を傷つけて、全部を奪って、わたしを地獄に陥れた最悪の姉なんて存在させたくないんだもの」
ルビィはレヴィの後ろ姿を眺める。
自分と同じ、稲穂のような薄い金色の髪。
綺麗に整えられた艷めく絹のような糸は彼女の趣味とは思えないツインテールに結ばれ、可愛らしいヘッドギアが着いている。
傍から見れば良く愛でられて育てられたお嬢様のようだが、瞳の中はあまりにもどす黒い。
「わたしだっていらないよ。クラスもスキルもなくて、テレパイプも使えなくて、ゴミ食べて野宿して石投げられながら這いつくばって育って、あんたと比べられながら虐められ続けて、アークスになってもマグもオペレーターも与えてくれない人生なんて要らない」
マグも連れず、逆方向に行っても注意するオペレーターもおらず、武器も背負ったまま。
よく考えれば、最初からずっと違和感ばかりだ。
「最初に出会ったのがあんたとあんたの親じゃなきゃよかったのに。
あの人だったら、わたしはこんな事しなくて済んだのにな……」
それは組織ぐるみのいじめ……いや、
レヴィの言葉には一切の嘘も感じられず、声には悲愴が混じっている。
彼女の見せた絶望と涙は間違いなく本物だ。
ルビィは己の拳を握りしめてから離し、レヴィに手を伸ばす。
「妹かどうかなんて関係ない!私は……」
「関係しか無いけど?」
レヴィは最早叫ぶことは無かった。
心底冷めた、諦めた……そして、深遠のような憎しみと悪意に染まった声で淡々と声にした。
「わたしはフォトンがないから……この世界で生きることを許されてないの」
そのまま、フラフラとあらぬ方向へ消えていった。
_______
『レヴィッ!!』
レヴィはもたれ掛かりながら震えた手でクランシーを起動させると、【敗者】の声が響き渡った。その声は叱責ではなく心配だ。
レヴィのバイタルは【敗者】が見てきた中で一番乱れており、特に精神的苦痛やストレス反応が強く出ており顔色は化粧でごまかせないほど青白くなっていた。
「うるさいなぁ……」
レヴィは苛立ちが無くならないまま【敗者】に返し、ふらふらと道を進む。
『その……データは、僕にも開けないものだ。最終的には必要ない物でもあるが』
「だったらわたしをなんでここに連れてきたわけ?リスクがあるって言ったのはあんたでしょ?」
『大事な物だから取ってこいと言ったんだ!そんなことも分からないのか?!』
「分かってますけど?分かってるからあんたの"必要のないもの"ってのが意味わかんないって言ってんのが理解できないの?」
『……』
【敗者】に示されたポイントまで進むと、侵食されて開かなくなったデータ端末が現れる。
すると背後に【敗者】の眷属が現れ、データ端末からダーカー因子を吸い始めた。
「……はぁ」
レヴィは端末を開いて準備をすると、倉庫が開けるようになり、すぐさまハッキングを仕掛けてデータを奪い取った。
しっかりと端末に移ったのを確認すると倉庫内に残ったデータを破棄し、端末を閉じる。
「終わったよ。データも送信した」
『あぁ、……確かにこれだ。そうだ、ここに……シオンが遺したデータが……!』
【敗者】はデータを眺めているのか楽しそうな声が響き、非常に上機嫌になった。
しかし、レヴィはこのまま帰る気になれなかった。
今日は最初からずっとストレスばかりで、過酷で苦しかった。このまま歩いていたら倒れそうな程だ。
少しくらい、独りで休ませて欲しい……
『……レヴィ!待て!そっちには行くな!』
「うるさいな……」
マザーシップ中枢へ向かう道。
かつては不可侵の場であったが、侵食されてからはプロテクトも無くなり誰でも入れるようになっている。
しかしこのマザーシップにおいて重要な場所で、【敗者】が消えてからも何度も監視や調査が入っている、非常にセンシティブな場所だ。
『レヴィッ!!止まれ!貴様僕を裏切るつもりか?!そこに入ったらどうなるのか分かっているのかッ?!そこにいったら貴様が僕に関与している事がアークスに見つかるかもしれないんだ!!分かるだろう?!』
「うるさいって……言ってるでしょ?!」
レヴィはクランシーを投げ捨てる。
助けになりたい、成功させたい……
そんな意思がボロボロに消えてなくなり、クランシーは砕けて溶けていく。
それと同時に【敗者】からの声も届かなくなり、静寂の中でレヴィは枯れたように笑った。
「はははっ、……あははっ、あはははははッ!!」
ふらふらと歩いて中枢部に入ると、開けた空間に水のような地面が見えて、レヴィはそこに座り込む。
「疲れた……」
邪魔だとヘッドギアを外し、髪も解いてから寝転んで、ぼんやりと宙を見上げた。
――ただ妹として、家族として認めて欲しかっただけなのに。
家族が当たり前に貰える当たり前の愛情が欲しかっただけなのに。
どんなに弱くたって、生きてていいって、そこにいても許されるって、頑張ってるって言われるだけで良かったのに……
「家族が憎い……」
ただ優しく声をかけて、手を差し伸べて、己の暖かい部分を共有し合うことが、何故これほどまでに難しいのだろう。
なぜ、ほんの少しでいいから愛して欲しいという願いは、ダークファルスの仲間になるよりもずっと重い罪になるのだろう。
ルビィにとってレヴィが妹ではないように、レヴィにとってもルビィは姉じゃなかったのだ。
きっと最初からずっと。レヴィが生まれたその瞬間からずっと、血の繋がりなど関係なく、フォトンを持たない妹は、フォトンの扱いに優れた姉の家族になる権利などなかったのだ。
「ルビィが憎い……」
だから、レヴィにとってルビィとは……己の人生の最大の汚点であり、憎しみの代名詞であり、そしてレヴィが心の底から大切に扱う人の仇であり、絶対に交わらない線の、相容れない存在である……
「アークスが憎い……」
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる