――レヴィが気絶してから12日後。
レヴィはようやく目覚めたが、自分の腹が窮屈なことに気づいた。
どうやらあの後空いた腹は縫われ、ダーカー因子による治癒も行われた上に人工臓器は修理されたようで、完治には一ヶ月もかからないだろう。
しかし、ジグの工房に行って埋め合わせや謝罪をさせて欲しいというレヴィの願いを【敗者】は簡単に聞き入れず、傷が開くだの危険だのあれこれ言って、最終的には車椅子に載せられ車移動で向かうことになった。
その車移動すら【敗者】にとっては不承不承なようで、作業が出来ないようにという妨害か今のレヴィの服はいつにも増して宝石まみれでフリフリフワフワの超豪華。
サテンのリボンが艷めく厚底部分がガラスで出来たパンプスは、土を踏ませるどころか一歩でも歩いたら割れて使えなくなりそうなくらい繊細である。
鳥籠に囚われた小鳥ですらこんな足枷は付けない。
(車椅子なんか使わなくたっていいのに……)
レヴィは端末にある"再教育"の通達を知っていながらも、先にジグの工房に行くことを選んだ。
なぜならあの場所は大怪我を負った状態ではとても行けないからだ。
傷も完全に塞がり、治療が終わった状態でないと立ち入ることは難しい地獄。
艦橋への呼び出しをこれ程の期間放置したのは初めての事だが、最終的にはちゃんと行くつもりだ。追加の金を三倍くらい抱えていけば多分許されるだろう。
「……くっ」
ジグの工房の前につくと、レヴィはドアを開けようとする。
フォトンセンサーがレヴィには反応しないため手で開けないといけないのだが、車椅子ではどうも力が入らずろくに動かない。
「こうなったら立ってでも……」
車椅子から気張って立ち上がろうとした瞬間扉が開き、ジグが焦ったような声を出しながらレヴィを見下ろしていた。
「お、……お主っ大丈夫か?!」
ジグは目の前のレヴィの様子を見て驚愕した。
車椅子に乗って来たというのもあるが、何より格好がいつもの無骨な作業服とは違いすぎる。
全身柔らかい布にフリルや宝石で飾られた令嬢超えてプリンセス。
車椅子もアークスの物でありながらデコレーションされており、操作盤の近くには赤い薔薇が飾られている。
誰の犯行かは丸わかりだ。
「あぁ、……これは過剰演出だよ。こんな事しても無駄なのに」
レヴィは車椅子など意味は無いと立ち上がろうとしたが、そこをジグに止められて緩く押さえつけられる。
「しかし大怪我をしていたのじゃろう?!昨日も目覚めなかったと連絡が……」
「は?まさかアイツ……あんたに連絡入れてたわけ?」
「そんなものは当然の事じゃ!」
ジグの張り上げた声にレヴィはため息をつき、端末を取り出すと電子小切手に数字を連ねていった。
「……?」
「怪我をして工房に来れなかった。これは謝罪だから、受け取って」
ごめんなさい、と言葉を紡いでも人には届かない。当然のように無視される。
しかし金なら受け取ってもらえる。
レヴィは「普通の人」にやる謝罪をジグの前で行っただけだ。
「いや、これは受け取れん。わしに謝られる謂れなどない」
「でも、武器が……」
「お主が作っている武器はお主が使うものじゃ。それに、どんな優れた物を持っていようが体がなければ意味が無いじゃろう?」
レヴィは俯きながら工房へ入ると、最後に工房に入った時よりも綺麗に整頓されており、ブラックローズの図面などは見当たらなかった。
「お主が居ない間に来客が来ての。約束通り、他のアークスにブラックローズを見られないよう隠しておいたんじゃ」
「あ、……ありがとう」
ジグは椅子を退けると共に倉庫からブラックローズの図面や素材のリストを持ってきて、机の上に置いた。
レヴィは車椅子を動かして机に向き合うと、ジグにボソボソと告げる。
「遅れを取り戻さないと……」
「それとあともうひとつ、持ってこないといけないのう」
「?」
ジグの工房に置いてあるレヴィの荷物はこれで全てだが、これ以上の物が何かあるだろうか。
レヴィはコテンと首を傾げ待っていると、ジグは部屋に戻ってきて箱を何個か置いた。
「これは何?」
「お主が仮完成にしていた術式のプログラムと、リストアップされた素材を使って傘骨のサンプルを用意したのじゃ」
「えっ?!」
レヴィはそれを聞いて慌てて箱の中を開けると、ビビッドピンクの硬い素材の棒が何本も並んでいる。別の箱を開けても色は多少変わっているがほとんど同じ見た目。
傘骨のサンプルと言われたそれをよく見てみると術式が刻み込まれていた。
「その、だったらさっきの金を……」
「わしが作ったものじゃないからわしが受け取っても意味がないのう」
「あんたじゃないとなると……」
レヴィはその相手を理解した瞬間、罪悪感で頭が埋め尽くされた。
自分の幼稚な思考で【敗者】の命を危機に晒しておいて、瀕死の状態から看病され、寝ている間にこんなものまで用意されているなんて。
弱いだけではなく約立たずの無能で、どれほど迷惑をかけたら気が済むのか。
「……っ?!お、お主、……だ、大丈夫かっ?!」
「あ……」
ぽたぽたと傘骨のサンプルに雫が零れ落ち、底の布に染み渡っていく。
レヴィは顔を俯かせ箱を抱え込むと、震えた声で呟いた。
「なんでわたし、こんなに出来損ないなんだろうなぁぁ……」
レヴィが泣き出したところでジグは焦り、どうやって彼女を慰めていいのか分からず、小型のジュークボックスを持ってくると音楽を流し始めた。
聞き覚えのあるクラシックが流れ出し、レヴィは目を赤くしながら顔を上げる。
「プロメテウスの創造物……?」
「その……バレエが好きなんじゃろう?」
「いっ、いや、わたしはバレエじゃなくてパフォーマンスなら何でも……ち、違う!そうじゃなくて、そもそもそんなことどこで知ったのっ?」
「ん?あぁ、これじゃ」
ジグは携帯端末を取り出すと、ポチポチと何かを操作してレヴィに画面を見せる。
そこに映っていたのは旧マザーシップでバレエを踊っていたレヴィの映像だ。
動画サイトのロゴも映っており、タイトルにはクエスト終了後に踊り出す謎の少女、というタイトルでコメントや評価の数字が並んでいた。
「〜〜っ!!」
いつの間に撮られていたのだろうか。
あの時はさりげなく他の全員をキャンプシップに帰すことに精一杯で周りを見たり声をかけたりする余裕などなかった。
レヴィは顔を真っ赤にして悶えていると、ジグがその動画を見ながら声を紡ぐ。
「種族が違うから最初は別人だと思ったんじゃが、別種族になりきる為のコスプレアイテムがあったことを思い出しての。おまけに連絡ついでに聞いたらレヴィ本人だと言っておった」
「け、……消す、早くっ、消しに行く……」
レヴィは慌てて端末を取り出そうとすると、ジグはすかさず言葉を続ける。
「そう言うと思って、全部削除済みじゃ。わしが持っているのは分けてもらったアーカイブ。あとは保存した人間が再度あげても自動削除されるようになっており、ほんの僅かな人間しか持っておらん」
「はっ、はぁあ……良かった……」
レヴィは安堵しているといつの間にか涙が止まっていることに気づき、自分の頬に触れる。
どうせ消したのもジグではなく【敗者】だろう。あの男はとことんまでやらないと気が済まない性格だ。そうでもなければ全知など求めない。
「それにしても……あんたってそういうの見る方なんだね」
「ああいや、わしはこういうのはよく分からんのじゃ。客人が見ておって、教えて貰ったんじゃよ」
動画サイトは若者に人気の音楽に合わせて踊ったり短い動画を流すタイプの物だ。
SNSのようなものに疎いジグに限ってと思ってはいたが、やはり教えたものがいるのだろう。
しかし、ジグに教えた者がいるということはその相手もアーカイブを持っているのでは……?
「その、……客人って、六芒均衡とか……?」
「ん?いや、そういうのではない普通のアークスじゃ」
レヴィは意を決して名前を聞いてみると、ジグからは衝撃的な返事が返ってきた。
「わしが物を用意してる時もずっとずっとあの動画を見ていたものでな。流石に気になって聞いたんじゃ」
「ほんとに……その女が?」
「何もおかしくはないと思うんじゃがのう?
そういう観劇の類は見てこなかったから新鮮で、上手だから魅入っていた、とお主を
ジグに動画を見せた客人は、ルビィだった。
ルビィは新鮮さなんかで動画を見る必要なんてない。
なぜならあの場にいて一番近くで最後まで見ていたからだ。
そうしておきながらまだ動画も見ているというのは、こうやって友人に動画を晒しあげ遠回しに笑いものにするか、レヴィが要注意人物であることを暗喩している以外にないだろう。
(クソ……この動画撮ったやつは絶対殺さないと)
「……平気か?」
ジグに言われてレヴィは自分の顔を見てみると、憎悪で噛み締めすぎて口端から血が垂れていた。
「あ、うん……平気」
胸の隙間からハンカチを出して拭い、仕舞うとレヴィは膝の上に箱を載せる。
「これ、隣に持ってって使うから」
「そんくらいわしが……」
ジグが膝の上の箱を取ろうと手を伸ばすと、彼女はその手を掴んで淡々と告げる。
「腫れ物みたいに扱わなくたって、わたしは平気だから」
そのままジグの頭をポンポンと撫で、車椅子を操作して後退した。
「しかし……」
「わたしは遅れを取り戻さなきゃいけないの。わたしからすれば、これがあろうが12日分に値するとは思えない。あんたが見たバレエだって移動中に練習していたものだし、単純な武器制作以外にも取り返さなきゃいけないものはいくらでもある」
ジグはぐぬぬ、と納得出来ないような声を出したあとため息を着き、渋々了承した。
「仕方あるまい……」
レヴィはジグの次の行動を予測し、端末を取り出すと素早くタイピングする。
「なっ!」
「アイツに連絡しようとしたでしょ……そうはいかないよ」
レヴィはジグの端末のネットワークを強制的に圏外にし、打ち途中だったメッセージを見ながら目を細める。
「あんたはね、勘違いしてるワケ。
わたしはこの靴を叩き割って歩いても構わないし、この足が血まみれになろうがゴールにたどり着くためなら何万キロでも進める。
わたしにそういう縛りは必要ないの。
仮に、これがわたしにとっての鎖だと言うのなら……」
レヴィは自分を包む重い服に手をかけると、ジグの前だと言うのに関係なく胸をはだけさせ、袖から腕を引き抜く。
「うっうわぁあああッ?!」
「わたしは脱ぐことだって躊躇わない、ってワケ。つまりあんたにはいま二択の選択がある。わたしを全裸にして外に出すか、服を着たまま外に出すか」
「服っ!服を着るんじゃ早く!!」
ジグは目を覆い叫ぶと、レヴィはクスクスと笑い出した。
「ふふっ、照れなくたっていいのに。所詮乞食の体だよ?掃いて捨てるほど見るものでしょ」
「その服で言われても全く説得力が無いんじゃっ!!」
レヴィはそのままもう一度服を着て、胸もしっかり整えると胸の間に入れていたティッシュが脱いだタイミングで地面に落ちたことに気づく。
「おっと、落としちゃった」
「むっ」
レヴィが服を着たのを確認し、ジグは彼女の落し物を拾ってあげようと手を伸ばすが、それよりも先にレヴィの厚底がそれを捕まえた。
しかし、それでは普通は取れない。
「箱が邪魔だなぁ……」
レヴィは目を閉じながら指をくるくると回すと、膝の上から箱が消えて倉庫の中に送られる。
そしてそのまま腰を前にずらし、足をくっつけたまま上にあげていき……
「〜〜ッ?!!」
白いニーソックスとセンターにパールの付いた白のオープンショーツがジグの視界に入ると、レヴィは足を抱え込むように腕を回しティッシュを掴む。
それが終わるとすぐに足を開き、ぷらぷらと揺らした。
柔らかい肌にぷるんと揺れる太もも。開かれた股ぐらからはパールを押しのけて見える陰核と、膨らんだ恥丘に薄ピンクの肉が見える。
「よーいしょっと」
レヴィは足を下ろすとティッシュを再び胸の間に仕舞い、硬直しているジグを横目にスイスイと車椅子で工房から出ていった。
いくら肌露出の多い格好の女アークスは少なくないとはいえ、レヴィのような程よく成熟した女子のそれは……少々ジグには刺激が強すぎた。
「いくら作業を許そうがあれだけは絶対注意させて貰わねばならん……!!」
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる