それから一週間後。
レヴィは肉体を治しきり、自室に篭って通達されていた「再教育」に向かおうとしていた。
昔のように髪を適当に結び、白衣を着て、アクセサリーも何もつけずに準備を進める。
自室に篭っていた理由はもちろん、見つかったら面倒なことになる……
「艦橋に行くつもりか?」
このように、扉が開いて【敗者】が入り、レヴィをキツく睨みつけて苛立ったオーラで見てくるからだ。
「行かないといけない……」
レヴィはそれだけ言って【敗者】の横を通り過ぎようとすると当然のように腕を掴まれて止められる。
「行かなくていい」
「呼び出されてるのに行かない方がもっとおかしいでしょ?わたしは今まで行ってた。突然行かなくなったら何かが関与してる可能性があるって疑うはず」
レヴィはなるべく淡々と、理知的に告げたがそれは【敗者】を何も納得させることはなく、むしろ彼は怒った様子だった。
「だからといって自分から見えてる苦しみに足を踏み入れていいのか?お前は不必要な苦しみから逃げてもいい。それほどの事はされた筈じゃないか」
しかし、行かなければ怪しまれるということには変わりない。
ただでさえ【敗者】の命を危機に晒したというのに、これ以上の無駄なリスクを彼に背負わせることなどしたくなかった。
ただ痛めつけられるだけなら慣れている。
それで【敗者】を守ることが出来るのならば安いどころかタダだろう。
「それでもわたしは行く!わたしを守るためだし、【敗者】を守るためでもあるから!」
「貴様はまだ体が治りきってないだろうが!」
「治したよもう。傷は塞がった。訓練だって今日から再開できる。それくらい分かるでしょ!」
レヴィは【敗者】から目を逸らし、端末で再教育に付いて通達してきた一番艦の士官に向けて再教育の遅刻に関して5000万の賠償金を送金した上で今日の午後に向かう、という内容のメールを送った。
「僕は……」
レヴィが目覚めない12日の間、【敗者】はあんな事で本当にレヴィが死んでしまうかもしれないと不安で仕方なかった。
もしあのまま目覚めなければ、一生の後悔になっていたことだろう。失うことを恐れ、レヴィを渇望することは己の存在意義の否定そのものだというのに、【敗者】はその寸前までいきかけた。
レヴィの目覚めがあとほんの数日遅かったら、本当にその域にまで至っていたかもしれない。
「このまま目が覚めなかったら、と毎日考えていたんだ」
【敗者】はレヴィの事を抱きしめ、顔を俯かせる。
レヴィは【敗者】の頭を撫でて軽くハグすると、ゆっくりと彼を押し退けて離れた。
「ごめん、本当に……【敗者】に迷惑、掛けた」
「迷惑よりも貴様の体が……」
「平気だよ。わたし、こう見えても頑丈だから」
そうしてレヴィはこれ以上の会話を続けないように扉を締め、逃げるように屋敷から出ていった。
久しぶりの外だ。少し寝ていただけで冬の兆しが見えている。
もう11月になってしまったようで、枯葉が床に積もりそろそろ雪が降り始める頃合いだろう。
何故か分からないがここあたりの時期は凄く不愉快なのだ。
レヴィはその理由を特定する気もないまま、1番艦に向かうキャンプシップを呼んで乗り込み、向かっていく。
44番艦からの宙路の中、レヴィは目を閉じてうつらうつらと眠りと覚醒の狭間にいた。
こういう浅い眠りの時ほど、悪い夢ばかり見る……
――レヴィと家族との溝は、レヴィが生まれた瞬間から始まった。
レヴィの両親は六芒均衡の候補に上がるほど優秀なアークスであり、自分たちの実力にプライドがあった。
それ故に、彼らは自然交配による出産を選んだ。
自分達の跡を継ぐアークスを作るために。
自分達よりもっと強いアークスを作り、ダーカーとの長い長い戦争と犠牲の道を終わらせるために。
それ故に、最初に生まれたルビィは素晴らしかった。
父親譲りの金髪と青い目。母親譲りの赤子からでも分かる美しい顔立ち。突然変異で生まれた三世代目のアークスはフォトンの扱いがより上手く、クラスに制限がない。
フォトン適性も高く、74番艦の中どころかオラクル全体、果ては初代クラリスクレイスに匹敵するかもしれないと言われたほどフォトンとの親和性は高く、神童と呼ばれて当然だった。
それに比べて、レヴィは生まれた瞬間からずっと不気味で不吉だった。
生まれた時、レヴィは泣かなかった。どんな祖父母親戚にもいない紅い瞳をしており、そして何より、体内にはフォトンがなく、フォトン適性が完全に皆無だった。
両親は恐れた。
欠陥品が生まれてしまったのだ。次の子を作ろうとした時、彼らはルビィに匹敵するほど優秀な男の子を産み、ルビィとその男の子を近親婚させて最強のアークスを産みたいと考えていたからだ。
それ故に、お腹の中の子が女であることはショックだったが、それでもルビィに匹敵するほどの強いアークスであったら、姉妹でバディを組んで、六芒均衡や三英雄の座も塗り替えるほど偉くなれば良かった。
ルビィを産んだ時も、レヴィを孕んだ時も、彼女を産む時も、両親は近所に自慢して回った。
ルビィは実に素晴らしい子に生まれた。次の子はルビィよりももっと優秀な子が出来る。この両親に相応しい子に。
だから、両親はレヴィのフォトン適性がないと知った時、絶望した。
それでも諦めきれず、赤子であることなど関係なくフォトン適性を上げるための薬を医薬品や怪しい漢方など関係なく飲ませ打たせ、日常生活に障害を抱えるとわかっていても浄化腺を入れ、乳飲み子を連れ出しカルト宗教の元で儀式をし、とにかく狂ったように半年から一年ほど両親はレヴィのフォトンを目覚めさせようとした。
が、結局無理だったのだ。
だから両親はレヴィという子がいた存在を消し、彼女を倉庫に閉じ込め、そして……
_______
一番艦、艦橋。
確か、シルンが昔の艦隊指揮をしてたとか。
「うわっ……」
「ヤバ、さっさと離れよ……伝染るって」
陰口などどうだっていい。
悪夢の中にいた両親の鬼のような顔も、ルビィが見せた氷のように冷たい顔も、全て全てどうだっていい。
自分は【敗者】の捨て駒だ。自分の全ては【敗者】のためにある。
レヴィはそんな、破滅的な思想に囚われていた。
「……」
扉の前に立つと、レヴィは扉に手を当てる。
フォトンの流れが完全に止まり、手を握ってこじ開ければ艦橋の中へ道が開いた。
「はぁ……」
レヴィは顔を上げることも無く溜息をつきながら艦橋の中心へ進み、下を向いたまま淡々と話した。
「慣れてるよ。さっさと殴れば?罰金だって1300万と5000万しっかり支払ったよ。謹慎だってしたでしょ?だからあとは、あんたがわたしを気が済むまで殴って蹴ってボコボコにするだけ……あ、あんたらのやり方で言えば再教育だっけ?」
珍しくキャストの足元が見える。
キャストは体が硬いから、殴られると臓器へのダメージが出やすいんだよな、なんて心の中で悪態を着いていた。
「ほう?」
聞き慣れない女の声で、レヴィはさらに深くため息を着いて脱力した。
ちゃんと殴られてもいいように昔着ていた白衣を纏ってきたのだ。殴られる準備は満タンだ。
「良かったらその話……よーく聞かせて貰おうか」
「……?」
レヴィはゆっくりと顔を上げる。
僅かに見覚えのあるフェオの艦隊指揮者の横で、見覚えのある女キャストの顔がレヴィを覗いていた。
「……ッ!!」
【敗者】からの要注意人物のリストで見た、六芒均衡の二……マリアだ。
「待っ、……」
レヴィは慌てて逃げようとするが、その手をマリアが掴むと、すぐに引き寄せられる。
「〜〜ッ!!」
レヴィはすぐに頭を抱えて蹲り、叩きつけられるダメージを減らそうとしたが、そこから動くことはなかった。
「……?」
「シルン……アンタまさかこんな善行する奴に生まれ変わったなんてね」
マリアがレヴィのよく知る名前を発したものだから、レヴィはすぐに辺りを見渡す。
艦橋の扉が開くと暗い赤髪の男……シルンが士官服を纏って入り、レヴィに目を向けた。
「まあ、……このラッキーガールとは知り合いなものでね」
「なんで、……シルンが……」
(まさか?!)
レヴィは慌てて端末に目を向けると、ロック画面の通知のように見せかけた画面ハッキングに、一言メッセージが書かれていた。
"僕は僕のやり方でレヴィを守る"
「アイツなんて事を……ッ!!」
「6300万もの大金……一体どこで手に入れた?」
マリアはレヴィに目を向けて声を掛けるが、レヴィはなるべく平静を装って淡々と返した。
「ギャンブルが得意でごめんなさいね」
「で、それほどの大金がアークスの方に送金されたらアタシが把握してないわけは無いんだが……一体誰の口座に入ったのやら?」
レヴィは目を閉じ、ため息を着いてから静かに指を指した。
フェオの艦隊指揮者だ。
指を指された男は当然肩が跳ね上がり、目を見開く。
「お前ッ……!!忌み子の癖にこんな事をしていいと思ってるのか?!」
「"アークスの癖にこんな事をしてもいいと思ってるのか"?アンタは……」
マリアはレヴィを隠すように抱えると、襲いかかってくる男を足で払う。
「がッ!!」
「このアークスの罰は難易度詐称、命令無視だけだ。その罰は謹慎一週間。再教育も罰金もないよ」
「わたしだけは特別なんですって」
レヴィは当然、罰金も再教育もないことくらい知っている。彼女は自分のやりたいことをするためにアークスの規則や罰則を隅から隅まで読み込んで、犯罪の内容や罰を全て暗記しているからだ。
「フォトンアレルギーでありながら生きてる罪罰金1000万メセタ以上。最弱のアークスとしてアークスに迷惑をかけてる罪として犯罪歴が増える事に全治2ヶ月程の怪我を負わせる再教育」
レヴィは気取ったようなおどけた口調でマリアに笑いかけた。
「……はて、オラクルの法律にそんなこと書いてたかな?六芒均衡のマリアさん」
「アタシはそんなの知らないね。レギアスだってそうだし、法律に詳しそうなカスラだって知らないだろう」
「へぇー……だってさ」
レヴィはマリアから離れようとするが抱えられ、ぐしゃぐしゃと頭を撫で回されると苛立ってシルンに目を向ける。
「シルン。こういう大事になるような頼まれ事は金輪際しないで」
「俺は俺の基準を満たせばなんだってする。お前に出来ることは主人からの溺愛っぷりに感謝することだ。ありえないくらい切羽詰まった声でケジメ付けられたからな」
マリアはシルンの言葉に怪訝な面持ちを見せたかのように顎を引き、レヴィを眺める。
「くっ……」
「それで?アンタはなんで
レヴィはシルンから無理やり目を逸らされ、マリアに顔を合わせられた。
じっと見つめる視線は軽い口調の割に随分と恐かったが、レヴィは嘘ひとつつかず言い訳できる自信があった。
「わたしはハードに行ける実力があったから。無視したのは効率的だったから。実際わたしは誰よりも早くボスの元に辿り着いて、一人で倒した。以上」
「本当に?」
「後はあんた達がさっさと昇級してれば罰金も何も無かったんですけどねって気持ちが残ってるけど」
マリアはしばらく考え込んだ後、レヴィを離した。
レヴィはキョロキョロと周りを見ながらナイフを握り、ゆっくりと後退していく。
「……」
マリアは顎を引いてじっと彼女を見つめると、おどけたようにシルンへ声をかけた。
「シルン。ありゃ野良猫かい?」
「いや……最近保護された野良犬だ」
「誰が保護したって?」
「知らん」
シルンの即答には感謝したが、レヴィはこれからどうすればいいか分からなかった。帰ればいいのだろうか。しかしこの空気でどうやって?
「ロビーまで送っていこうか?」
「要らない」
マリアの声にも即答し、レヴィは脳をフル回転させて考え込む。
マリアが後ろから着いてきたら44番艦まで尾行されるに違いない。
レヴィはシルンと目を合わせたあと、静かに呟いた。
「100」
「マリアが送ってやったらどうだ?」
「200」
「俺結構心配だなぁ」
「……250」
「あっ、やっぱり気が変わった。マリア、コイツ一人でも全然帰れそうだ」
「あのさ…」
目の前で繰り広げられるシルンの買収交渉に流石にマリアはため息を着く。
「なーに、250分カジノに貸し出しサービスよ。コイツとカジノするとヤバいくらい当たるからさ。250万でも250億でも余裕で稼げるって」
「てかシルンのギャンブル弱さは何?戦略ならいくらでも出来るのになんでロイヤルストレートフラッシュの一つも出来ないの?」
レヴィはナイフから手を離しシルンにズンズンと近寄り、しかめっ面で睨んだ。
「ソイツなら俺に惚れちまってベッドから出てこねえんだわ」
「あんたのヨボヨボトランプさっさと安楽死させて天に送ったら?」
「大丈夫、レヴィ様介護サービスがいつでも俺のカードを保護してくれるからな」
「あんたの御託言わない権利は金で買えない訳?」
レヴィはシルンとの会話に夢中で、思わず胸ぐらを掴みそうになる。
瞬間シルンはサッと後ろに下がり、キョロキョロと周りを見渡した。
「……シルン?」
「あっ……ぶねー……」
「アンタ達はなんの漫才をしてるんだい?」
「いや、漫才とか勘弁してくれ」
シルンは引きつった表情でマリアに返事していたが、レヴィは呆れたため息を着いて二人から目を逸らした。
いつものね、という気分でふたりの会話が始まるだろうと横をすり抜けてさっさと居なくなる計画で進めようとしたのだが……
「手が当たってたら最早夫婦まんざ……」
ザシュ、と音が聞こえたかと思えば、マリアの横スレスレをフォトンのナイフが通り、壁に突き刺さる。
「おや?」
赤黒く染まったそれはすぐに溶けたが、シルンもレヴィも顔を真っ青にして震え上がった。
「まっ……マリアさん!!それは!やめよう!俺は実は結構自分の命大事なんだ!お願いだ!3兆やるから!」
「うわぁああああーーっ?!!アイツマジでなにやってんの?!」
「いいかマリアさん?!アイツは婚約者持ちだ!こんな場所で暴力振るわれたり!!自分は悪くないとふんぞり返るような廃れた女が!もうそれはそれは大事に花添えられて……!!一人じゃ出来ないようなヘアセットで毎回新品の高い服着せられて来るんだ……!!だからやめてくれ!俺は命が惜しい!本当に!」
「ふーん……随分物騒だねぇ……」
シルンが慌ててマリアに縋る中、レヴィは急いで端末を取り出し電話を繋ぐ。
他の相手に声が聞かれないようにイヤホンをはめると、すぐに【敗者】の淡々とした声が返ってきた。
『終わったか?』
「"終わったか?"じゃないんだけど?!あんた本当に何考えてんの!こんなのリスクの塊!リスクが鴨とネギと鍋とついでに酒しょってあるいてる!あんたその危機管理能力でよーーくわたしに説教出来たね?!」
『あぁ……昂ったら手が止まらなかった。貴様がさっさと帰っていたらよかったものを』
レヴィは片手で通話しているからか艦橋の扉がこじ開けられず片手と片足で引っ張ってどうにか開けようとしているが、上手くできないまま怒号だけが艦橋に響き渡る。
「反省してよ本当!こんなことやめて!あんたはいっつもいっつも人にあれこれ文句文句ツラツラツラツラ言ってるくせに!反省して!ごめんなさいは?!」
『貴様が家から出たせいだ。僕は悪くない』
「ほんと〜〜〜にッ!!あんたが悪いの!!全面的に!!どーしてくれんのこれで!!死ぬのはあんたなんだからね?!」
『……騒々しいと何も聞こえないな。真面目に意志を伝えたいなら金切り声を上げるより先に具体的な証拠を並べて説得した方が……』
「もういい!」
レヴィは通信を切るとハァハァと荒く息を吐き、端末を胸の間に挟んで両手でこじ開けて艦橋からいそいそと出ていく。
44番艦に向かうキャンプシップを取って、そのまま早足でゲートに向かう。
苛立ちで周りの罵詈雑言など何も聞こえない。
キャンプシップに急いで乗り込み、直ぐに帰ろうとすると目の前が真っ暗になった。
「ッ?!……うわっ?!」
柔らかい黒。暖かな体温。知っている匂い……
「るーっ……むぐぐぐ……」
誤って名前を呼ぼうとして口を抑えられ、レヴィは顔を見上げると【敗者】が湿っぽい表情で彼女を見下ろしていた。
「レヴィ……」
「あんた……ッ、……いつの間にここに!」
「今来たところだが」
【敗者】は一応フードを被って来ており、膝を着いてレヴィと目線を合わせると腰に手を回して抱き寄せ、はち切れそうなくらい彼女を強く強く抱き締めた。
「〜〜ッ……」
「レヴィ、流石に奴ではなく僕だろう?」
「えっ……何が?」
「あの守銭奴男の方が良いのか?貴様が守銭奴だから金銭感覚が近いと?」
「あ……」
【敗者】は名前を上げてはいないがシルンの事を言っているのだろう。
彼は最悪の勘違いに殺意が湧いて思わずマリアに攻撃しそうになるほどの苛立ちっぷりだ。
レヴィからしたら【敗者】のような男がそんな些細な事で苛立つ方が理解できなかったが、意味もない嘘をついて話を拗らせる必要も無いため素直に言葉を吐き出した。
「わたし、ヒトの事そういう目で見れないし」
「……」
レヴィは【敗者】にゆっくり抱き締め返して、彼の太い首に腕を回し体を寄せる。
「わたし達、本当は恋人でもなんでもないんだから……あんたが気にすることじゃないよ。それより、あんたは自分の計画の方が大事で……」
レヴィはそれを言い終わる前に【敗者】に肩を噛まれた。
「ッ!」
「恋人であろうがなかろうが、普通は趣味の悪いような男に自分のバディが寝盗られたら不愉快になるだろう……」
「バディってのは恋愛関係とかそういうのを指すものじゃなくて……んっ?!」
【敗者】はレヴィの後頭部を掴んで口に舌をねじ込むと、無理やり舌を絡める。
「んっ、るぅ、……っん、んんっ……!!」
熱い唇にしゃぶりつきねちっこく舌を動かす。
あの程度の絡みで【敗者】は本当に嫉妬したらしく、レヴィは少し抵抗しながらも最終的には受け入れることになった。
「……は、……ん、……」
「はぁ……はぁっ……この……」
体が離れるとレヴィは文句を言おうとするが、それよりも先に【敗者】が声を出す方が先だった。
「お前はあの男のことが好きなのか?」
「はぁ?」
「応えろ、早く」
「別に好きとか一言も言ってないんだけど」
「だったら僕はどうなんだ?」
「……あんたは……、……何回も言ってるでしょ」
「いや、今言え。今言えないならそれは嘘だ」
"嘘だ"なんて言うのはずるい。
【敗者】に言っている好きという言葉だって、本来の恋愛感情を隠している嘘の言葉に過ぎないと言うのに。
言えないのも嘘なのに言うのも嘘になる。
「ッ【敗者】のことはその、……好き、だけど、……れ、恋愛的な意味じゃなくて、バディとしてだからまだ大丈夫……」
レヴィは苦しながらに己の感情を隠して嘘をつくと、【敗者】はレヴィを静かに睨みながら淡々と返す。
「後の余計な言葉を全部省いてもう一度言え」
「……【敗者】が、好き」
「よろしい……」
【敗者】はその言葉で満足したようで彼女の頭を撫で回すと、ゆっくりとハグをした。
「そうだ、レヴィ。今ここを監視されているかもしれないな」
「そうなの?」
「僕の正体が露呈しないように……"恋人ごっこ"、しておいた方がいいんじゃないか?」
「え……?」
【敗者】はレヴィから少し離れると手を翳し、目を閉じて深呼吸する。
対象物の絶対座標を確認し、緻密な計算を行い空間を切り取り手を差し込む。
「グラン・ヴァ・ルシー」
【敗者】はテクニックを使い、44番艦の自宅から指輪の付いたネックレスを引き寄せた。
レヴィから見ると転移のエフェクトもなく、無の空間から突然物が出てきたようにしか見えない。
「任務以外は付けろと言ったはずだが」
【敗者】はレヴィにネックレスを付けると髪を撫で、白衣をはだけさせて脇をなぞる。
「あ、……忘れてたけど、それよりそのテクニックってアークスに……」
「どうだ、かなり上手くいっているだろう?」
「オリジナルって事?」
「オリジナル……と言うのも厳密には違うが、僕が開発したテクニックと言うならばそうだ」
あくまでテクニックは数字を超えた時間や空間の超越には至っていない、計算で作り上げた科学技術であり紛い物だ。
【敗者】の使う時間操作もそうである。所詮は計算。文系と理系の立てる理論が相容れないように、計算という絶対的な既知とイメージという不安定な未知は同じ方向を向かず、たとえ真似したとて同じ数値を出すだけの別解にしかならない。
「ふーん……」
計算型である【敗者】とイメージ型であるレヴィはその面において完全に真逆だ。
レヴィはハッキングのスペシャリストであるが、彼女のプログラムは計算ではなくイメージの固着化という言葉が近い。
普通のハッキングが壁に空いた穴を広げて中に入り込むような行為だというなら、レヴィのそれは内側にある物を透過させ壁を貫通して全て引き出してくるような物だった。
他人に解せない独自言語と独自プログラムというのは、ようはそういうことである。
【敗者】がレヴィに武器製作ができるという期待をしていたのはレヴィのそういう部分を見抜いていたからだ。
彼女のそれは汎用システムやインフラを作るにはあまりにも使いにくいものだが、ワンオフで独立したシステムを作るなら向いている。
創世器の先天能力をプログラムで再現するには、レヴィのような非計算的思考はもってこいだった。
「ちょっと……いつまで体触ってんの」
【敗者】は思考に耽っていると、いつの間にかレヴィの大きく背中が空いたシャツに手を滑り込ませ腹をもちもちと触っていることに気づいた。
「あぁ、……いや、僕は間違っていないな」
「?」
「出来る限り貴様の体に負担をかけないように抱いてやろう」
「へっ?……」
【敗者】はレヴィの胸に手を滑らせると下着をずらし、いやらしく触れて……
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる