「わっ……」
レヴィが部屋に入ると、珍しくリビングの中は飾られており、いつもよりずっと明るい特殊なライティングの部屋が出迎えた。
新品のテーブルクロスの上には黒い薔薇が花瓶に詰められ、壁紙や床もこの一日一瞬の為に別の物に変わっており、壁際には水槽が置かれ中では魚が悠々と泳いでいた。
そして料理はと言えば、サラダやパンのようなメニューは前座だと言わんばかりに巨大な鍋の中でレヴィの好物であるホワイトシチューが保温されていた。
「すっ、……すごい」
「水槽は贈り物の一つだ。と言っても、貴様があの中身を弄るとは思えないがな。食うんじゃないぞ」
「食べないよさすがに」
レヴィは作業服のまま席につこうとするが、さすがに止められて着替えさせられる。
新しく購入したらしい外出着との差が分からないほど豪華なルームウェアに身を包んだ。
そのままレヴィは【敗者】に連れられ、水槽の近くやテーブルの付近に来ては【敗者】によって写真を撮影される。
レヴィはポーズの撮り方もよく分かっていなかったが、自分が見ていた映画や舞台を思い出して真似てみると案外それっぽくは仕上がった。
「……よし」
レヴィの写真が保存されたフォルダを見て【敗者】は満足し端末をしまおうとすると、彼の手をレヴィが包む。
「ね、まだ足りてないよ」
「そうか?確かにこの枚数だと十分ではないが食事が……」
「貸して」
レヴィは【敗者】から端末を奪い、彼の肩を押すと腰を曲げて、そしてカメラを内に向ける。
「……なぜ僕も映らなければならない」
「え、だって二人で撮らなきゃ意味ないじゃん」
カメラの画面にはレヴィが【敗者】と共に映っており、彼は顰めっ面をして目を逸らした。
しかしレヴィは諦めず彼の頬を掴んで引っ張ったり、ぷにぷにとつついたりすると諦めてカメラの方に目を向けた。
「今日の誕生日はわたし一人じゃなくて【敗者】も一緒にいて、二人で一緒に祝ったの。わたしのいちばん最初の誕生日!ねっ?」
「……仕方ないな」
【敗者】はため息をついてぶっきらぼうに言うがレヴィはその言葉に大層喜び、レヴィのピースサインに合わせて不器用に指を立てた。
シャッター音が響く中、【敗者】は顔は顰めたまま耳を赤くしてレヴィと体をくっつけ写真を撮られる。
レヴィが手でハートマークを作ると合わせ、彼は羞恥が屈辱になるギリギリのラインで撮影が終わると直ぐにレヴィから離れ不機嫌そうに口角を下げた。
「写真ばかり撮ってないで早く食べろ」
「あっ、……へへ、でも【敗者】と一緒の写真いっぱい増えて嬉しい」
レヴィの柔らかい笑顔に【敗者】は心を掴まれ、ダイニングテーブルに体を向けるその短い距離の中でもバクバクと心臓が高鳴って止まらない。
「僕は仕方なく貴様に付き合ってやっただけだ」
【敗者】は照れ隠しに文句を言っているがレヴィはもう彼の方を見ておらず、鍋の中からシチューをいっぱいに皿に取ってパンと共にテーブルを埋めていた。
「おいしい〜〜」
「……そうか」
【敗者】はシャンパンを取り出して栓を抜くと、グラスに注ぐ。
香る酒の匂いにレヴィは目を丸くして彼を見上げた。
「あんた酒なんか飲むの?」
「この顔で飲めないと思うか?」
「ダークファルスだからとか何とかいつも言ってるくせに」
文句をつらつら並べながらもレヴィはグラスを持ち、【敗者】のグラスにコツンと当てて飲み始める。
「寧ろ貴様の方が酒を飲まないイメージがあったがな」
「飲めないわけじゃないし、嫌いでもない。でも酒と紅茶で比べたら紅茶の方が上なの」
レヴィはそんなことを言いながらも直ぐにグラスの酒を飲み干し、サラダをつまむ。
【敗者】も二口分ほどの少ない食物をゆっくりと食べながら、レヴィを眺めていた。
「酒はどうなんだ。強いのか?」
「程々っていうか……まあ飲みすぎたら酔うのは当然、ってくらいというか……んー、そのシャンパン一本全部飲んだら流石に酔うんじゃない?」
「そうか……酒の余りはいくらでもある。好きな分だけ飲めばいい」
【敗者】はレヴィの体をじっと見つめ、薄い生地のルームウェアによって象られる胸や肩の丸さを卑しく眺めていた。
「はぁ……でも酒なんて滅多に飲まないよ?15歳の時だったかなぁ〜、裏任務で取引する時にさ、クラブで待ち合わせして酒飲んだんだけどそこに筋弛緩剤仕込まれたんだよね」
レヴィはグラスに追加のシャンパンを注ぎながら特に気に病む様子もなく淡々と言葉を紡ぐ。
「それでさ?当然動けなくなって意識が朦朧とするワケ。でも頭の中でアイゼンハートを動かして、こう……ちょちょっと糸みたいにして首絞めあげたら仕込んだくせにあっさり死にやがったの」
「創世器が無ければ危うく性暴行か」
「性暴行っていうか下手したら死ぬでしょ?だから人殺すつもりでやった割にはしょーもなさすぎて……ねぇ?」
レヴィは浴びるように酒を飲み、顔を赤らめて【敗者】にくすくすと笑う。
頃合かと考えた【敗者】は空いたレヴィの皿をティートロリーに退ける。
「ん?どうしたの……?」
「レヴィ、プレゼントだ」
「……!」
レヴィは酒を一気に飲み干し立ち上がると一瞬ふらつくがすぐに治り、【敗者】の事を期待の眼差しで見つめた。
彼は指を鳴らすと瞬間レヴィの近くに大小様々なサイズの箱が現れる。
「プレゼント……なんかすっごくおっきくない?!」
「……開けてみろ」
レヴィは頷いて包装に手をかけ、小さな箱から開けてみる。
中にはスリーピスト、とロゴが書かれた化粧箱が入っており、それを横に置いて今度は大きな箱の包装を剥がすと無骨な箱が現れる。
「……なにこれ?」
「これは強制睡眠機能付きアイマスクとマッサージチェアだ」
そう言われて箱を開けてみると、梱包材に包まれた中に黒のシックなマッサージチェアが入っており、小さな箱の方には厚みのあるアイマスクが入っていた。
「わっ、……すっごーい!こんなの見たことない!」
レヴィは急いで梱包材を剥がし、中から現れた新品のマッサージチェアを見て顔を綻ばせる。
電源を探して今すぐにでも使おうとレヴィは非常に興奮していたが、後ろから【敗者】が彼女の肩を叩き止めた。
「ふふ、……それはまだ前座だ」
「前座?」
「これを見てみろ」
【敗者】は端末を取り出すと、レヴィにカードのようなものを見せる。
そこにはキャンプシップの名前や情報、現在地などが記載されており所有者の名前がレヴィになっている。
「何これ……?」
「この場ではライセンスしか提示出来ないが、貨物移動用小型遠征用商船を購入した」
「え……?!」
アークスにとって、普通艦船とはキャンプシップが代表的なもので、移動のために一時的に借りるものだ。中にはアークスに支援物資を送るための戦闘機なども入っており、惑星を探索しダーカーと戦うために生まれたアークスにとって必要不可欠な物である。
それに対して商船はアークスでは無い企業が使うものだ。大量の素材や物資等を一気に持ち運ぶ為の荷運び特化小型シップになっている。
そして遠征用商船というのはその中間となっていて、かなり遠方のアークスシップや銀河移動など数週間から数ヶ月程の遠征を前提とする貨物移動に使う小型シップであり、サイズはキャンプシップとだいたい同じだがキャンプシップでいうブリーフィングルームの下は戦闘機の収納スペースではなく代わりに貨物用の倉庫があるなど、使い方には差がある。
「ち、ちなみに遠征用商船って一個どれくらい……?」
「貨物移動用迎撃機能付き小型遠征用商船の値段は一隻230億メセタだ。また、オプションとして搭乗員用の仮眠室や風呂、給湯室、座席にテーブルを付けている事からその分のオプション代も足して合計約235億メセタとなっている」
つまり、【敗者】はレヴィへのプレゼントで不自由せず暮らせるレベルの設備を整えたキャンプシップを購入した……という訳だ。
235億。流石のギャンブルクイーンでもその単位がだいぶおかしいことくらいはわかる。
「……、……ちょっと!そんな金どこから出てきたわけ?!あんた働いてないでしょ?!」
「投資運用だ」
「投資……って?」
「シルンの名義を使って仮想通貨と株で儲けて奴と山分けしただけで、あの男もそれくらいは抱えている」
レヴィにとってはあまり興味が無かったがシルンはフェオの元艦隊指揮官……ようは艦長という超高給取りな上オラクル有数の富豪で裏社会では有名だった。
ジグへの依頼料の余りを渡して随分喜んでいたが、正直彼ならあれですらはした金。
そしてそんなやつが尊敬するほどオラクルの頂点に立っている男は……確かに、億兆の取引にも慣れているのだろう。
「あんたシルンの事便利な道具だと思ってない?」
「使える貴重な駒を使って何が悪いんだ?」
「……まあわたしの財布から出てないならそれでいいんだけどさぁ……」
しかしながらレヴィは彼の散財っぷりにドン引きしており、自分の首に掛かった3000万の指輪をチラチラと見ながらため息をついた。
「僕は貴様にそんな顔をさせるために贈った訳じゃない。素直に喜べ」
「その……ちょっと頭が追いついてないけど嬉しいよ、こうやってプレゼントもらったりして、祝ってくれて」
レヴィはそう言うと、【敗者】に近づいて彼をゆっくり抱きしめた。
「【敗者】、ありがと!」
「……あぁ」
「ふふ……」
レヴィはゆっくりと脱力し彼に体を預けると、彼の心音を聴きながら眠気に体が重くなっていく。
「馬鹿だな……僕が薬を仕込まないとでも思ったのか?」
「……」
「今日はちゃんと寝てもらうぞ」
そうして【敗者】はレヴィを抱え、寝室に向かっていったのだった。
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる