レヴィの誕生日から二週間程経ったある日。
「おはよ」
レヴィは最早慣れたように工房に入り、ジグに挨拶をする。
「おお、おはようレヴィ」
「あのね、さっそくだけどすっごいビッグな発表があるワケ」
「ほお……?」
レヴィは手を合わせながらジグを見下ろし、ニコニコと笑う。
彼女は目の下に作った隈も隠さず作業服も落ちない汚れが着いており、手にはまめと共に無数の切り傷や火傷が残っているが、彼女は何も気にしていない。
傷を作ることへの恐れよりもずっと武器への真摯な感情が上回っているのだろう。
「見て驚くとおもうよ〜?」
レヴィは指をくるくる回すとパチンと鳴らす。
瞬間目の前に無骨な黒い棒が振ってきて、レヴィはそれを掴んだ。
「ローズウェポン01、ブラックローズ試作品第一号が完成したの!」
「ッ!!」
ボタンを押すと柔らかい布のように傘が開いた後、鋼鉄のように固まり、指で叩くとコンコンと鳴る。
黒いシャフトと傘布にマゼンタピンクの傘骨が映えている。
「アイデア図だと16本だったんだけど、そこまで能力が思いつかなくてさぁ。まだ技術的に不可能ってなってやれなかったこともあるし、そこはおいおいブラッシュアップとかアップデートで取り入れようかなぁって思ったの」
「しかし、試作品の割に非常に良く出来ておるじゃないか!凄いぞ!」
「ふふ、そうでしょ?」
レヴィはくるくると傘を回し両手で持って伸ばすように動かすと、傘鞘が伸びていく。
「こうやって長さが変化する機能も取り込んだし、プログラムがちゃんと組まれてるから傘骨に刻まれた術式もきちんと発動する」
長さをすぐに戻すと片手で持ちながら端末を操作する。
『
『ブラックローズ・シャドウ』
機械音声でアナウンスが響くと、レヴィの手の内には刃が露出した真っ黒なブラックローズが複製された。
「攻撃しなくてもわかるやつこれしか無いからさ。でも成功してるって分かるでしょ?」
「おお、……おぉおおおっ!おおお!」
ジグは大興奮してブラックローズを眺めており、あちらこちらと覗いては獣の鳴き声のような声を出していた。
「にしても、端末操作ってのはちょっとあれだから発動条件については変更するつもり。わたしの声に反応して発動するとか、脳波を読み取って発動するとかの方がいいんじゃないかなぁって」
「そうじゃな。確かに、極限状態において端末を操作している暇は無いじゃろうし、それを見抜かれて端末を奪われたら武器として致命的なほど弱体化してしまう」
「うん。だから外部機能に依存しない発動条件に変えるってのが現状の最優先事項。とはいえ、ライデンシャフトの方にも手をつけないといけないから…」
転換機能の実装についてはまだ手が付けられないが、形態変化に関しては透明化以外ならどうにかなりそうだ。
アイゼンハートの形態変化において透明にすることだけはどうも真似出来ず、それは完全にアイゼンハート独自のメリットになりうるだろう。
「そういえば、わしもお主にいいニュースがある」
「ん?」
レヴィは傘鞘から刃を抜き、軽く振っているとジグから声を掛けられる。
ジグはアイゼンハートが入った修理ポッドを撫でると親指を立てグッドマークを作った。
「今日明日中にアイゼンハートの修繕が完了しそうなんじゃ!」
その言葉にレヴィは思わず試作品第一号を落としそうになり、なんとかギリギリ落とさないように支えると修繕ポッドに目を向けた。
「え?あっホントだ…!」
「アイゼンハートは先天能力に出力の全てを振っている故構造解析に非常に時間が掛かったんじゃが、心臓部さえ掴めれば他の武器と同じじゃ」
「はぁあ……よかった、アイゼンハートないと任務も大変だったんだから」
「そうじゃぞ、それで死にかけたなんて言われてわしはどれほど肝が冷えたことか……」
どうやらマザーシップの一件は【敗者】から創世器が無いことによる怪我だと説明されていたようだ。
間違ってはいない。少なくともクランシーがアイゼンハートであったならあの任務はもっと簡単に進んだはずだ。
それに【敗者】に刺されたからだなんて言ってもレヴィが得をすることは何も無い。
「まあ、今ここに生き残ってるからいいの」
「怪我した奴ほどそう言うんじゃ!周りはどれほど心配するか分かるか?お主の同居人なんかメールの一本で向こうの青い顔が容易にわかる程じゃった!」
「は?アイツにだけは言われたくないんだけど?」
と言っても、【敗者】のメールが淡白でぶっきらぼうな内容かビジネスメールの二択でしかない事にはかわりない。
ジグがそんなことを言う根拠は、普段のビジネスメールとは違い無配慮なメールが送られてきたということだけだ。
しかしジグのような無知な相手ならともかく刺した【敗者】本人が顔を青くしているなんて笑える話だ。自作自演もいい所だろう。
【敗者】の事だからジグからの心象を良くする為真顔で焦ったような文言のメールを書いていたかもしれない。
「あいつホント……」
「いいか?とにかく無理は禁物じゃ!アイゼンハートを取り戻したからとて、全てが上手くいくようになる訳では無い。己の万能感に囚われずちゃんと注意するんじゃぞ!」
「はいはい」
レヴィは手をプラプラと振りジグから強引に離れると、そのまま隣の工房に入る。
三階にある完全な空きスペースで杖術を使いブラックローズを振ってから、ゆっくり深呼吸する。
ブラックローズ含め、秘蔵の武器達は練習場も別に用意しないといけない。
幸運にも【敗者】から貰った個人シップにより移動は前より簡単になったが、しかしそれでもルビィが立ち入ることが分かっているこの128番艦や一桁番台のアークスシップ、アークスの探索範囲で武器を振るうことはあまりにも愚かだ。
「はぁ……」
レヴィは深い溜息をついたあと、作業をしなければと思い返し武器の制作を再開する。
アイゼンハートの転換機能を模倣するプログラムはレヴィの想定を数倍超えるほど難航している。
これはなにか発想が無ければいけないだろうと一旦は諦め、他の武器に手を掛けていた。
「……」
目の前に並べられた「サイコウォンド」「ラヴィス=カノン」「ヘブンパニッシャー」の記録。
昔、外宇宙……所謂別次元からやってきた存在が持っていたらしい武器。
それは空の衛星と繋げて天罰を下す武器や、宇宙を消滅出来るほどの力を持つと噂される武器など、この外宇宙からの存在が伝えた武器は非常に興味深く、もし完全に再現が出来れば今アークスに存在する創世器を大きく上回る程の力を得られるのだろう……が、普通に考えて無理だ。
とはいえ、サイコウォンドやラヴィス=カノンはテクニックの使えないレヴィには実質使用不可能の武器。
となれば、使えるのはヘブンパニッシャーだけになるのだが、一応武器を作っておいて損は無いだろうと考えた。
【敗者】がフォトンアレルギーについてなにか考えているようであり、もし何か処置を受けることによってフォトンが使えるようになったらサイコウォンドの模造品も出番が来るかもしれない。
今分かりやすく役に立つのは別のものだが。
「Compressed Alternate Real Data……」
何より、同一人物によって示された武器や技術の中で一番興味深いのはC.A.R.D.と呼ばれるものだ。
それはエネミーや能力、武器などを「菌」と呼ばれる物質を使ってカード状のデバイスにデータを入力し、再現して呼び出すことが出来る。大きさや数量の関係はなく、取り込んだエネミーは人形のように操ることが出来るのだ。夢のような技術だろう。
"菌"は物質の分解・再構築を自由に行うことが出来る物質であり、C.A.R.D.の再現はライデンシャフトの制作に恐らく最も大きなヒントを与えることになるだろう。
問題は、"菌"を用いないC.A.R.D.の再現の方が簡単であること……
「フォトンを使ってホログラムとして呼び出し、それをダーカー因子で侵食することで攻撃力を与えれば、C.A.R.D.の再現はかなり簡単な物になる。でも、そうすると"菌"が何か分からない……」
これらはいわゆるマイナーなオカルト本に載っていた内容だがそれは異様な程細かく、【敗者】が資料として載せていたことから信頼出来る物として取り込んだのだ。
代わりに証言と監修を元に作られた再現データのみだった為武器などの実物はない上、本の中に"菌"の正体に関しては載っていなかった。
この本全体的に言えることなのだが、別次元の存在は開示する情報を明確に選んでおり、詳しくないことや、あまり話したくない様なことは言及を避けている。
C.A.R.D.技術の菌の事もそのひとつ。
この存在は自己紹介で自分は元ハンターズという組織の一員であり、現在はアークズという一般的には荒くれ者扱いされている存在だと告げている。
その経緯に何か理由があるのだろうか。
オラクルの人間が菌やC.A.R.D.のような分かりやすく強い物を導入して世界を崩壊させない為か……?
しかし、この本が書かれた時ならともかく今このような技術がオラクルに危機をもたらす程の物とは思えない。
【敗者】はレヴィに虚空機関やそれに連なる外部研究機関での研究内容をたまに話すことがあるが、その中で武器に搭載して力を高めることができる「チップ」や、武器に人格を宿し人にする事で兵器運用を計る「ウェポノイド」という物の研究が進んでいたと言っていた。
今現在それがどうなっているかの確認は出来ないが、虚空機関の関連でありそれそのものでないことから生き残っている可能性はある。
ただし、レヴィは自分の記憶が正しければ確かこの研究機関に関しては空き巣に入った覚えがあるのだ。
そこにあった何かの装置の試作品第一号を盗み出しており、レヴィは【敗者】にどうにか活用出来ないが聞いたが、具体的な技術も分からず機械自体も未完成品の為パーツ単位に分解するしかないと言われたのを思い出す。
「"菌"って名前が気になるんだよな……」
レヴィはゆっくりと考え込む。
少なくともこんな技術で菌と言う言葉を選ぶ理由はネガティブな方向でしか思いつかない。悪意を感じるような言葉選びだが、あえてそうしているのだろうか。
それとも、何かしら後ろめたいものがあるからこその菌なのか。
菌の解明にはヒントがあまりにも少なすぎるが、少なくともこうは言える。
菌は物体を万物に変化させ、そして分解することが出来る。
C.A.R.D.はあくまで特定のデータを収めて引き出すためのカテゴリー分けであり、本来菌は万物を認知しどんな物にも変化できるポテンシャルがある。
菌は本質的にオラクルのフォトンに近いもので、恐らくフォトンでいう全知存在のように菌にはそれを生成し記録を得るもしくは記録を出力する母体が存在する。
母体が記録を持っているのか記録を収集しているのかによっても話はかなり変わるが、この考えについては頭の四分の一程度で考えながら進めるべきだろう。
「とりあえず今は菌も含め転換能力の素材となる万能物質を用意しないと」
レヴィは思考回路の通りにモニターを四つ開き、それぞれ作業を始めた。
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる