レヴィは丸い球体が特徴的なドームの前に立ち、口角をあげていた。
「ふふ……これでわたしも英雄サマの仲間入りってワケ」
そんな皮肉を言いながら、レヴィは中へ入っていく。
ここはVR投影装置の設置予定地だ。
慎重に吟味して決めたこの市街地は44番艦のゴーストタウンと似たり寄ったりな程閑静な場所であり、今は人の立ち入りなどないに等しい。
レヴィは大きなケースからVR投影装置と周辺機器、そして工事道具を取り出すと工事を始めた……
――なぜこの場所を選ぶことにしたのか。11月20日の事だ。
VR投影装置の設置場所に関して、一番初めに思いついた場所は74番艦のレヴィの自宅にある地下室だったのだが、74番艦は人も多く、オマケにルビィの居住地でもあるため絶対にそこへ武器を持ち込みたくなかった。
となればあれと同等の安全な広いスペースをアークスシップの中で得るには、市街地のドームしかない。
競技場やライブステージとして用いられる大型のドームはVR投影装置を置き戦闘訓練をするにしてはうってつけの場所であり、競技大会の為のステージギミックや防音対策、天候調整はそれ以外の様々な用途にも活用出来る。
使われていないドームが違法薬物の製造プラントになるのも納得だろう。
「まずは人が少ないシップを割り出して……」
レヴィは自室で不動産や管制のデータを開き、人の少ないシップの、人の少ない市街地を探す。
一番少ない場所は前にシルンと会ったあの146番艦の市街地なのだが、あそこはホームレスや違法滞在が多く登録されていないだけで人が少ない訳では無いしドームは占拠済み。
裏任務で生計を立てているレヴィが薬物を製造している人間を敵に回して収入減、なんてことはしたくないので競合は避ける。
それからもちろん人が少ないと言えば44番艦も候補に入るのだが、レヴィはこの場所に置くのは避けたかった。
というのも、【敗者】は自分の管理出来ない場所に重要な物を置きたくない、他人が使用するくらいなら破壊するという考えだったが、レヴィはむしろ逆だった。
全く関係の無い場所において万が一見つかったとしても無関係を主張出来るようにしておきたかったのだ。
だからこの44番艦に自宅である屋敷以外の異物を用意するつもりはないし、74番艦の地下室もあの場所以外で作るつもりは無い。
レヴィは製作者が自分であるということがバレなければ別にアークス以外の奴が使用していようが、バレて撤去されようが構わないのだ。
作るところまでくれば維持はシンプルな"運"の話になる。
「とりあえず候補を六つくらいは出したから、後は数字じゃ見えない部分を見学しに行くか……」
レヴィは立ち上がるとキャンプシップを呼ぼうとし、手が止まる。
そういえば小型の遠征用商船を貰ったのだ。それで移動すればいいだけである。
レヴィはアイゼンハートも無いので暗器や刃物を持ち、外に出ていく。
狙っての事だがもう夜だ。
44番艦は人が少なすぎて人を殺すには退屈だ。
最近は忙しさでギリギリ誤魔化せているがこうも少し時間ができると、レヴィの中に募っていた欲求不満が少しずつ表に出る。
性欲ならまだいい。
加虐欲求の方なのだ。
「はぁ……」
レヴィはどうも人を殺さないと手が震えて落ち着かなかった。
最初は生きるために殺し、次は報復の為に殺し、その次は力を誇示するために殺し、それからは快楽に取り憑かれて殺し、今はそれら全てが日常になっている。
新生されたオラクルの治安によってはこのような殺人も厳しくなるのかもしれないが、少なくともオラクルの馬鹿共がスラム街の荒くれ者に手を差し伸べ慈悲を与えるなどというビジョンは見えないし、レヴィのような障害者への迫害はもっと厳しくなり、上層部の人間の利益や健康の為に規制が強くなって、貧困層の人間が生きる術は無くなるのだろう。
ホームレスを減らすために棘の着いたベンチを作ったとて、彼らは床で寝るだけだ。
腐ったゴミや野草ですら食べられなくなったら自然に淘汰され死んでいく。
それを果たして治安が良くなったと言えるのだろうか。
本当に救うべき人間を見殺しにし、都合のいい人間だけを生かしてそんな人間が幸福になるだけの社会は、果たして文明として価値があるのだろうか。
(最終的に、ホームレス、貧困、犯罪、孤児、障害者は生きる場所を失う。そうすればわたしは、どこかの惑星にでも行ってそこを定住地にしてしまえばいいし、わたし自身の名義を完全に捨てて別の人として生きてもいい。
どちらにせよ、"世間"知らずのクソガキが作った社会なんて最終的には利用されて腐るだけ)
レヴィはそう遠くないであろう権力に食い潰されて悪化した社会と弱肉強食の世の中を楽しみにするだけだ。
彼女はもうオラクルの社会からは逸脱しダークファルスに心酔した正真正銘の裏切り者なのだから。
レヴィはロビーに到着するとシップに乗り、移動を始める。
中でも当然作業は欠かさない。
移動時間が片道数時間な為、最終的に候補を回って考える移動時間だけでこの船を三日ほど過ごすことになる。
「ブリーフィングルームに机と椅子があるのって偶然だよね……?」
レヴィはブリーフィングルームに机と椅子を置いて紅茶を飲めればいいのに、と考えていたのを思い出す。
それがレヴィだけの考えじゃなかったのか、もしくは【敗者】が人の心を覗く力でもあるのかその願いはこの小さな宇宙船の中で叶えられており、レヴィは広い空間で優雅に過ごす選択肢も与えられていたが、もちろんそこでするのはティータイムではなく作業である。
「うーーん……うぅうーん」
レヴィは武器制作に取り掛かり、あれこれと迷いながら【敗者】の為のアクセサリーに使うプログラムを組んでいく。
周囲のフォトンを増幅させ、一箇所に集めた上で侵食のトリガーを引き、【敗者】に喰らわせる。
【敗者】は特に濃いフォトンで埋め尽くされたマザーシップを飲み込めるほどの存在なのだ。侵食させれば底なし沼で、究極彼の言うように宇宙を全て食らいつくせるはず。
オラクルの航路上にない星系をターゲットにし、そこを取り込んでフォトンを喰らわせればもっと力になると思うが、さすがにそうするとアークスに勘づかれそうだ。
現実的な案としては星系を丸ごと侵食というよりかは星系にある莫大な量のフォトンをひとつの惑星に圧縮させ、過負荷による爆発時に発生したエネルギーやフォトンを全て喰う、という方がいいだろう。
そうすれば【敗者】は損傷前よりも強化できるが……
「さすがに規模が大きすぎて今はムリか……」
レヴィはつま先でモニターを操作し、周辺宙域の運航状況を見て目を細める。
「新しいアークスとか皆の未来とか、都合のいい言葉を並べるのだけは一級品なんだから」
操作画面を変えるとすぐにパーソナルデータを調整し、到着に備えて髪を整える。
「フォトンが無ければゴミより無価値になる癖にさ?ふふふっ」
到着のアナウンスが鳴り響くとロビーエリアに降り、出来るだけ早く市街地へ向かうとタクシーに乗って予定地まで進む。
外を眺めながら進んでいるが、人は少ないものの思ったより賑やかな場所だ。
地域のコミュニティが強く外部の人間を簡単に寄せないといった感じだろうか。
こういう場所で変なことをするとあっという間に噂になると何かの本で書いてあった。
(ここはダメか……)
候補を一番下に取り替え、すぐにタクシーの行き先を変えて入口へ戻るとロビーエリアの方に帰り、またシップに乗る。
そんな感じの移動を何回も行うことになる。
最初は自分のやるべき事だとか完璧なプロセスだとかそんな物を考えて真摯に向き合っていても、段々飽きてくるものだ。
長すぎる移動時間の中でレヴィは【敗者】ともジグとも話していない。
【敗者】に自分のやっていることを聞かれてメッセージ上で誤魔化しきることならできるが対面で嘘を突き通せる自信はなかった。
とはいえメッセージを数百単位で放置しているのでそろそろ一件くらいは返しておくべきだとは考えた。
《電話うざいから連絡してこないで》
【敗者】からの既読はすぐに着いたが、文字を読んでいないのか電話が掛かってきた。
もちろん出ない。
「別に三日くらい家開けても良くない?」
レヴィは懐から煙草を取り出し、ライターに火を付けて吸い始めた。
彼女はシルンが吸ってたのは知っているが別に彼に影響された訳では無い。
単なる気まぐれだ。
「そんなに過保護気取るならここに来ればいいのに外から石投げるだけなら簡単なんだから」
「ん?呼んだか」
「ひっ?!」
レヴィの小言の後に返事が返ってきたかと思えば、すぐ真後ろに【敗者】が立って彼女を見下ろしていた。
「貴様が会いたいと言ったんだろう?」
「い、……いや、その……見てたくせにメッセージ送ってたわけ?!」
【敗者】はレヴィの肩を掴み顔を寄せると彼女に頬ずりし始める。
「僕が貴様の動向を把握するのは当然の事だ。そして僕から贈られた船に監視の類が仕込まれていないわけなど無いだろう?」
「うっさい……そんな戯言言うなら着くまでわたしに付き合ってくれるって言うの?」
「それくらい容易い事だ……レヴィ」
【敗者】はまるで我が物のように椅子に座り、レヴィに向かい合うと頬杖を着いてレヴィの目をじっと眺める。
「タバコが好きなのか?」
「好き、というか……まあ、気まぐれというか」
レヴィはブラックデビルの箱を取り出すと直ぐに【敗者】がそれを奪い、一本とってテクニックで火を付け吸い始める。
「あんたも吸うの?あ、まあわたしですら付き合いで吸わされてたんだからあんたなら当然か……」
「知を得る為に必要な事だとは到底思えないがな」
「ホント、美味しいわけでもないし。でもこういうのしたい気分が来る時があるんだよね」
「貴様ならシーシャの方が合うんじゃないか?」
「シーシャって……えーっと、水たばこだっけ?」
【敗者】は頷くと端末でシーシャバーの写真を差し出してレヴィに見せてくれる。
洒落たアンティークのような瓶の中に無骨なパイプが刺さり、煙が吹き出ている。
「なんか、コレと全然違う」
「貴様が理解出来るように言うなら食物の味がする煙なのだが……」
「へぇー!タバコより美味しそうじゃん」
煙草を持つ手が滑り、【敗者】の手の甲に煙の根元が付いても彼は無反応で掴みレヴィに返した。
「とはいえ、持ち運びには向かないな」
レヴィは彼から渡された煙草をくわえた後、【敗者】の少し焼けた手に自分の手を重ねる。
「こうやってあんたと向き合って吸ってるだけならこれでもいいんじゃない?」
「……そうだな」
「わたし、付き合いで吸うのはつまんないけどるーさとならこうやってしてみたかったかも、ふふふっ」
レヴィは彼の手をなぞりながら甘く目を細めた。
【敗者】の赤く切れ長の瞳が緩いカーブを描いて閉じ、喉の底から深く甘い声を放つ。
「まるで欠けたパズルが嵌るようじゃないか?精神的な不足とアイデンティティの欠如を互いで補完しあっている」
「……ふふ、確かにそうだね」
「生憎、実力の方向性は重なってしまっているのだが……」
「わたしがあんたの下位互換にしかなってないね。ハッキングとか研究とか全部さ」
「とはいえ、オラクルの全管制を失った今の僕にとって貴様のハッキングに使用しているプログラムや技術はよく役に立っている」
「そうそう、わたしが作ったものあんたが利用した方が上手く使えるワケ。今作ってる武器だって、あんたが作った方が上手いし早い」
「そんなものは当然だ。しかし一人が使えるリソースには限界がある。貴様に僕を上回れと言ったつもりはない。僕にとっての有用な駒であれと言っているんだ」
しかし、それではレヴィの望みからは遠い。
彼女は【敗者】の隣に立ちたいのだ。
同じくらいの価値を持ち、力を持ち、彼を導き守り役に立てるほどの物になり、彼に本当の意味で仲間として認めてもらいたい。
今ではやはり「駒」でしかないのだ。
「有用な駒、ねえ……」
「……」
今からレヴィがしようとしていることは、まさにその有用さを示すことになるはずだ。
【敗者】はレヴィに目的も聞かずただ寄り添い、しばらくしてからタバコを灰皿に押し付けて消すと立ち上がった。
「寂しさは埋められたか?」
「わたしは元々そういうのはない。あんたの寂しさなら埋められたんじゃない?」
「そうだな。お前の顔が和らいでいて良かったよ」
「なっ……」
レヴィは顔を赤くして反抗しようとしたが、既に【敗者】は消えていた。
さすが人心掌握に長けた男だ。
的確にレヴィの弱い所をくすぐって、素知らぬ顔で去っていく。
「ムカつく……」
レヴィは再び【敗者】に対して覚えた強い加虐心を無理やり胸に押し込んで、シップから降りる。
299番艦の市街地は想定通りの人の少なさでレヴィにとっては都合がいい状態だが、まだ決めるには早い。
レヴィの胸に募る欲求不満な気持ちが破裂寸前で、早く決めて帰りたいという感情を無理やり理性を総動員させて落ち着かせようとした。
しかし。
「パパー!」
閑静な住宅街に子供の声が響き、レヴィは目を細めて視線を向ける。
子供と親の合計四人家族。
身なりを見るに服やカバンは安っぽいが、その割に柔和な表情を浮かべ楽しそうに街を歩いていた。
楽しそうに会話を繰り広げてはくすくすと笑い、子供を抱きしめて持ち上げ、市街地を歩く。
レヴィは自分の喉にコンクリートが詰まったかのような感覚に襲われ、目を背けた。
それでも不愉快な声は響き、愉快な足音はレヴィを気遣う事もなく続いていく。
子供が二人いるのに、どちらも愛されているなんてありえない。
フォトンも使えない市民風情なのに、差別されずに生きていけるなんてありえない。
あんなに貧乏なのに、愛を育んで生きていけるなんてありえない。
無能なのに、この世にいられるなんて……
「……はぁあ……、……ふっ、……ふぅうう……」
レヴィは震えた声で息を吐き出し、ポケットに手を入れる。
折りたたまれたナイフの硬い感触がレヴィの手に当たると、彼女はそれを握り締めて方向を変え歩き出す。
柔らかい胸、柔らかい尻、大きな太もも、小さく丸い手、人の身には余るほど大きな凶暴性。
「あのぉー…」
レヴィは案の定親子の方に近付くと、甘い笑みを浮かべる。
こういう時、いつもならアイゼンハートで縛り付けて拷問するのだが、今はそれがない。
だから代わりに、レヴィは面白いものを用意していた。
*次のグロシーンは特に伏線や設定の開示なども無い単純な暴力回なので飛ばしても構いません。
レヴィが老若男女問わず虐待してるだけです。
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる