孤独のチームルーム、レヴィは実験ポッドの前でそう呟いた。
――朝目覚めて端末を開いた瞬間当然のように入っていたチームからのメール。
任務はここ最近探索許可が下りた惑星……ウォパルの海底に向かい、とあるデータを回収してくるように、という任務だった。
眠気の残った表情のまま空調調整器具のついた白衣に着替え、いつもの通りアイゼンハートを仕込む。ハッキング用の端末は向こうで用意してくれるらしく、レヴィはただそれを取り付けてチームメンバーに任せるだけらしい。
「ウォパルかぁ……」
虚空機関のデータベースには実験用の惑星として載っていたはず。
データは見終わったし、更新分も面白いものは特になかったから最近あの極秘機密データも覗いていない……【
レヴィは滑稽で愚かな己自身のことを思うと空笑いすら出てくる。
最強のアークスになる為、この肉体をより良くしなければいけないというのにその糸口は未だに掴めていない。
「……よし」
準備が終わるとトイレも風呂もない狭い部屋から出て、74番艦のロビーまでの道を歩く。
自宅からテレパイプでロビーまで転送するのがアークスの普通のやり方なのだが、生憎レヴィはフォトンアレルギー。
ロビーまでは徒歩だ。
近くのカフェにでも寄って休憩して、少し買い物をして、最近流行りのアイドルの音楽でも聞いて……なんていう一般人の取るルートとは真逆に、レヴィは何もせず真っ直ぐロビーエリアに進んでいく。
――あそこのカフェは有人。あそこの店は無人だがアークス専用で出禁。あそこの服屋は服を見てたら店長に呼び出されて窓から突き落とされたっけか……
レヴィは自分の他愛もない思い出が蘇り、オラクル船団という馬鹿らしいだけの場所を焼き討ちにして滅茶苦茶にしてやりたいという欲求が高まっていく。
アイゼンハートで市街地に火をつける前にロビーエリアにたどり着き、なんとか自宅を火の魔から守ることは出来たが、微妙な苛立ちは変わらないまま予約したキャンプシップに乗り込んだ。
相も変わらず孤独、ひとりひとりひとり、つまらない、人生なんにも面白くない。
人を殺す瞬間しか楽しみを覚えない。
厭世と怠惰の極み、生と死のみに生きる価値を見出す……
レヴィはキャンプシップの内部でトレーニングもしないまま、虚ろに天井を見上げる。
つまらない……たのしくない……
ずっとずっと、その言葉を繰り返していた。
――そのまましばらく経って、レヴィが惑星ウォパルに到着すると、アークスはみんな揃って半袖や水着……どうやら海岸の安全な領域で開催される夏のイベントに向けて準備をしているようだ。
とはいえ向かうのは海底。
こういう微妙に遠回りするルートを指定してくるところがあのチームの卑しい所だ。
(わたしがこの嫌がらせを気づいてないとでも思ってんの?)
しかしレヴィは表立って反抗することは無い……極秘機密データが見られなくなるのは嫌だし、クローンが云々とか言い出したら面倒だから。
「ん、……よしょ」
レヴィは白衣をはだけさせ、鉛銃を構えると海底に繋がる道へ歩き出す。
この海岸を行き交う人は多く、がやがやと騒がしいのはもちろんのこと、あからさまにレヴィにぶつかってくるアークスもいる。
レヴィは段々不愉快になっていき、多少遠回りにはなるが少しずつ人気の少ないルートを選んで離れる事にした。
自転周期の可笑しいウォパルで、あっという間に夜が訪れる中レヴィはぼんやりと空を見上げる。
「……夜」
惑星リリーパの砂漠で見るほど美しい星とは言えないが、その夜の暗さと波打ち際の涼しさ、奥まで続いていく海の白いレースと淡く光る何かしらの装置が幻想的な雰囲気を醸し出していた。
綺麗な海。青い空、何かを思い出すかのような涼しさ……
「あっ、居たァ〜」
ぼんやりと黄昏て意識が遠のいていた時、背後から聞こえた声でレヴィは憂鬱に振り返った。
「……」
「ほら、やっぱりルビィの妹じゃん!」
「うわっ……マジだ」
一切見覚えのないアークス複数人と、それに混じってチームメンバーで見た気がしなくもない男が一人……ディナンやその親友のような表立って研究し、チームで活動をするメンバーとは違い、おそらく友人関係だから連れてこられたであろう普段から遊んでばかりの無能なタイプの奴だったような気がする。
レヴィは目を細め無言のまま眺めていると、一際大きく声を掛けた女アークスがにじり寄ってくる。
「アンタさぁ、アークスが催事するっていうのにノコノコ入ってきて邪魔するつもり? もしかして参加したいとか? 一人なのに!」
女の嘲笑と共に周りからのくすくすと笑い声が聞こえる。
レヴィは女の言葉を無視して辺りを見渡した。人気のない所に来たお陰か、今レヴィと喧嘩を売ってきたアークス以外に人は居ないようだ。オマケに監視の目も見かけない……
「で?」
レヴィは死んだ目で女を見つめると、一言だけ放つ。
臆病になって泣き出さない様子が苛立ったのか、女はレヴィに詰め寄って、手を開いた。
パシン、と軽い破裂音と共にレヴィの頬が赤くなると、女はレヴィをキッと睨みつける。
(醜いなぁ……)
「フォトンが使えないくせにアークスやってんじゃないわよ! アークスの特権目当てに賄賂使ってまで入って……どこまで図々しければ気が済むのっ⁈」
「そうだ! お前はフォトンアレルギーだ! 生きる価値もない忌み子が息してんじゃねえ‼」
後ろから男がすっくり出てくると、レヴィの腹を蹴り上げる。
彼女の背後は海だ……
されるがままにしてやって転がったレヴィの肉体は海面に付き、白衣が潮に濡れる。
それでもレヴィは変わらず冷たい目をして、冷たい声で呟いた。
「暇なの?」
「〜〜ッ‼」
女は怒り狂って転がったレヴィの腕をガシリと掴む。周りはぎょっと目を開いて女に目線を集中させ、不安げに見つめた。
「あっおい! 呪われるぞ⁈」
「うるさい! そんなのただのデマよ!」
女はレヴィの手を握ったまま、武器にフォトンを込めるようにレヴィにフォトンを流した。
「ゔッ‼」
瞬間、バチバチと電撃が走るような痛みがレヴィの全身に響き渡り、彼女は体から力が抜けてへたり込む。
「普通のアークスはねぇ‼アンタみたいにフォトン流されたら麻痺しないのよ! この出来損ない女‼あーっはっはっは!」
女の高笑いを聞くと、周りの数人のアークス達は自分たちでも出来ると調子に乗り、レヴィに近づく。項垂れる彼女の後頭部に足を置いて、海に押し付けた。
「あんたの存在がルビィを穢してるって分からないの⁈」
「ッゔ、ッ」
足を上げては下ろし、レヴィの頭を何度も何度も踏みつける。
「フォトンを使いダーカーを滅するのがアークスの役目ッ! フォトンが使えないアークスなんかただのゴミ! 生きる価値のないゴミクズなんだよ!」
「〜ッ、ぐ、ゔッ、」
レヴィの周りを囲い、頭を、背中を、足を蹴って、海の波が彼らの足に当たる度に、レヴィの体は砂に塗れ沈められ、汚れていく。
「さっさと消えろ出来損ない!」
極めつけにチームメンバーの男がガンスラッシュを取り出し、レヴィの背中にその刃を近付けた。
「忌み子が……死ねッ‼」
フォトンの刃がレヴィの背中にめり込む瞬間、触れた部分からフォトンが霧散し消えていく。
コモン武器の青緑の刃が無くなり、硬い根元だけがレヴィの背中にぶつかる――
「……」
「ひっ⁈」
その様子に周りが驚き、一歩引いた瞬間レヴィは顔を起こした。
「……あ〜ぁ。バレちゃったァ〜」
海水に顔を当て、ぐしゃぐしゃと乱暴に顔を洗うとブンブンと横に振り水を切る。
乱れた髪の隙間からレヴィの濁った紅い瞳が覗くと、静かに起き上がった。
口角を上げ、にんまりと微笑み、狂気に染まったその笑顔のまま……レヴィは懐からアイゼンハートを取り出す。
「な、なっ? フォトンが、消え」
「バレちゃったなァ。あ、これも見せる予定なかったんだけどなァ、ねぇ〜見ちゃったの? コレ、見ちゃったねぇ」
弾むような声で、レヴィはクスクスと笑いながらアイゼンハートを見せつける。
憎悪と憎しみに歪んだその武器は、赤く淡く光り、他の武器とは明らかに違う異質な雰囲気を醸し出していた。
「みーちゃったみーちゃった、エヘ〜、ふふっ、あはははっ、……はははははッ! さぁて、どーしよっかなぁ?」
レヴィはオーバーな身振り手振りでふんわりと可愛らしく首を傾げ、常に笑みを絶やす事無く動き続ける。
そして手に握りしめていたアイゼンハートが離れた瞬間、その場にいたアークス全員がいつの間にか手錠に囚われていた。
「ッ⁈な、なにこれ! ちょっと! 離しなさいよ!」
「んー、どれにしようかな……わたし様のいうとおりっ、と!」
レヴィは適当なアークスを指差すと、懐からナイフを取り出して左手に握り、右手には注射器を手にした。今にもスキップしそうな様子で楽しげに近づくと、レヴィはかがみ込んで選んだアークス……ある男と見つめ合い、へにゃへにゃと愛らしく笑った。
(い、妹の癖に可愛い……こいつ名前何だったか……
そんな風に男がレヴィの可愛い笑顔に見蕩れていると、いつの間にか太ももに鋭い痛みが走る。
「エッ?」
「えっ……ってなぁに? こんなのもわかんないの?」
レヴィは使い終わった注射器をフラフラと動かし、それから海の方に投げ捨てる。
「注射器は使い回すと不衛生だからね〜、ちゃんと破棄しないとねぇ。煮沸消毒する余裕もないし〜?」
「い、いや……俺に何を打った? おい、何を」
「ん? わたし優しいから麻酔を打ってあげたの。いいでしょ?」
レヴィは動けなくなった男の服を引きちぎり、だらしない腹に指を置いてはくすくすと子供のように笑う。
「あなたちゃんと鍛えてないの? ダメでしょー、アークスがトレーニング怠っちゃ。いくらテクターとはいえ、ね?」
レヴィは先程とは……いや、普段の様子とは比べ物にならないほどフレンドリーだ。
しかし、この狂気じみたフレンドリーさは決してコミュニケーションを取ろうとしている相手のそれではない……相手を心底見下して、嘲笑っている時の小芝居である。
相手と"会話"をしているのではなく、ただただ一方的に、演説しているのだ……
「あのね、わたしどっちも好きなの」
レヴィは狂気じみた瞳で男を見つめながら、手先も見ずにナイフを男の腹にゆっくりと滑らせ、薄く切っていく。
「痛みに苦しむ人の泣き叫ぶ顔も好きだし、痛みがないのに自分の体が可笑しくなっていく人の恐怖に歪む顔も好きなの。分かるかなぁ……」
男はレヴィのやっていることが信じられず、目が合った瞬間恐怖でぐっと目を閉じるが、首から下の感覚がなく、目を閉じたせいで自分が何をされているのかすら把握出来ないことがより恐ろしくなった。
それでも目を開けたくない、怖い、見たくない、男は自分の体が、この体が、まさか切り開かれていくところなど、見てたまるものか。
だって死にたくない、生きたい、だって普通に生きてきたし、普通のアークスとして、訓練して、アークスに入隊して、ダーカーを殺すっていう使命を背負って今まで必死に生きてきたんだから、えらいに決まってる、自分はこんなことされるに値しないに決まってる、これはただのマッサージだ。感覚がないだけで、マッサージされているだけだ。ナイフなわけが無い。あれは偽物だ。
俺の体が切られているわけがない!
――レヴィはまるでマーキングするように、体に線を入れて、腕や足、首筋のギリギリまで血の線を入れ込むとそこを右手でふんわりとなぞった。
「いい子だね、お静かに……周りはちょっとうるさすぎるかな」
レヴィはナイフを突き立て、ラインにそってさらにゆっくり、深く腹を切っていく。
皮を分け、脂肪を突き刺し、柔らかい腹肉の内側の、腸に刃が触れないように注意深く切ると、観音開きのようにくっぱりとその内部をむき出しにした。
「ねっ、見てぇ? あなたの中身……出しちゃったぁ……♡」
男は目が開けられない。
唯一聞こえる聴覚の中で、周りの仲間たちが馬鹿なくらい騒々しく悲鳴をあげていることと、それに反してレヴィは催眠術を使っている時のような、ゆったりとした優しい声色で男に囁き続けていることだけわかった。
「見るな! おいっ……これを取れ! 妹ッ‼」
「ふざけんな! おいッ……‼絶対見るなよ! いいな! 絶対絶対見るなよ!」
周りの見知った仲間達の声が男の耳に
そうだ、見てはいけない。でも耳が痛い、煩い。
「ねぇ、見てよ。わたし頑張ってるんだよ? ほら、……エヘ、ぐっちゃーってなっちゃったねぇ、そっから、ここを開けば……あは、あなたご飯ちゃんと食べてる? モノメイト頼りはダメだよ? あなたは出禁とかされてないんだからさ、好きなところに行って好きな物食べなよ……ね?」
男の中にレヴィの声も同時に響く。どこまでも優しく、甘ったるい声。
分かってる。理性はレヴィが狂っているということが理解出来ている。
彼女は決して会話をしているのではない、彼女は"その男"に話しかけているのではなく、"おもちゃ"と遊んでいるだけなのだ。見下されているだけで、遊ばれているだけ。
コミュニケーションを取っていない、だって、男はこんなにも嫌だと叫んでいるのに……
「うわぁあああッ! あぁ、やめろ、やめろ……妹、本当にごめん、ごめんなさいッ、だから腹は、腹はやめて……」
「お腹? 今はねぇ違うよ? 別のトコ」
男はその言葉に目をギュッと閉じたまま耐えていると、他の方向から悲鳴が響き渡る。
ターゲットが変わったのだろうか、誰になったのだろうか、いや、あの悲鳴は女の声だから……と、男は静かに分析していた。
レヴィは口うるさかった女のところにやって来て、とりあえず足の指を切り落としてみる。
「いやぁぁあああッ⁈」
「足の指にマニキュア塗ってるの? ファッションに気を使ってご苦労なこと……アークスにとってそれ意味あるのかな?」
「ひっ、ひっ、だ、誰があんたに、そんなこといわれっ、たすけ‼たすけてぇーー‼誰でもいいからー! 来てー!」
「んー、わたし結構悲鳴聞くの好きだからさ、喉潰したくないんだけど……でもこんなにいるなら一人くらい潰してもいいよね? だってうるさいし。うんっ! いいよね! ありがとー♡」
レヴィは迷わずナイフで女の喉を潰し、首筋に沿ってナイフをおろし、鎖骨をツンとつつくと今度は中心にナイフを突き刺してゆっくり開いていく。
「心臓に刺しちゃったら即死だからね、ゆーっくり、ゆーっくりやるよ……いい子、いい子……わっ、上手……」
股ぐらまで真っ二つに割れ、切り開かれてもまだ生きているのは流石のアークスの頑丈さといったところか。
フォトンによって延命されているに過ぎないアークス達に、レヴィはその腹の中に手を突っ込むとぐちゃぐちゃと動かした。
「はぁぁああ……‼暖かい……気持ちぃー……♡」
アークスたちはレヴィが人の肉の中に手を入れ、返り血を浴びながらぐちゃぐちゃと楽しそうに弄り、至高の喜びに顔を綻ばせる様を見て震え上がった。
チームメンバーの男は目の前に立つルビィの妹の余りの狂人っぷりに、思わずディナンに連絡を取って助けを求めようとする。
後ろ手で何とか端末を弄り、男はディナンに向けて通信を掛けた……
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる