※この作品はR-18です。

MIDNIGHT   作:Libby博士

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30話(2)

 レヴィはこうも【敗者】に愛でられていると気が緩みそうになるが、頭の中に菌の事が蘇ってきたことで引き締まる。

 ドライヤーの終わりを察すると時計を眺め、想像より時間が経っていることに気付き急いで立ち上がる。

 

「レヴィ?」

 

「はっ、早くしごとしなきゃ……」

 

 しかし急いで立ち上がったからなのか強い吐き気に襲われると共に景色がボヤけて暗くなり、ぐらりと体が揺らぐ。

 

「ッ!」

 

 そこを【敗者】が直ぐに支えると、レヴィは立ち上がろうとするが体が熱く、全身が溶けたように力が入っていて立ち上がる気力がなかった。

 

「あっ……ごめん、ちょっと微妙に貧血かも。ちょっと座らせてくれたら治ると思う……」

 

「僕は休まず働けなどと言ったつもりは一度たりともないが?」

 

 【敗者】はレヴィを座らせ、彼女の様子を見ながら服を着せる。

 

「えっと……その、……ちがうの、本当にできてなくて……ぜんぜん、ぜんぜんだめで……」

 

「試作品を作ったらブラッシュアップは僕も手伝うと言っただろう?」

 

「ううん、試作品段階だから……えっと……あ、……あぁ、そう、セックスも、せめて構想が終わってらら……、あ、から、……ね」

 

「貴様はそこまで待てるのか?」

 

「待てるよ……あんたはひとつ勘違いしてるけど、わたしは別に毎日セックス漬けの性欲魔人じゃない……

昔はオナニーだって月に一回すれば多い方だったし、あんたと出会うまで性感自体よく分からなかった。あと今は……今は頭がなんか違うから……」

 

「……」

 

 レヴィは頭を抑えながら俯いて床を見つめる。

 【敗者】は彼女に向かい合って静かに言葉を聞き、仏頂面の様子とは裏腹に頭の中ではあれやこれやと考察し思慮に耽っていた。

 

「頭の中がずーっと微妙に熱くて、思考が全部埋め尽くされてる。その熱がある時は頭がぼーっとして、前に進むか死ぬか、みたいな感じになる。人を殺したいって思う時はずっとイライラし……してるんだけど、それとは違くて、泥に浸かってるみたいな……?えっと……体が常に少しずつ後ろに押されてる感じ」

 

 レヴィの発言は相変わらず語彙に欠ける漠然とした感覚だけの言葉だったが、【敗者】はその言葉が示唆する物を敏感に感じ取り頷いた。

 

「……そうか。一週間程度で解決出来そうだな」

 

「そうなんだ……?ならいいけど、えっとあ、だから……」

 

 【敗者】はレヴィと視線が合うと表情を和らげ、彼女の頬に手を寄せて柔らかく撫でる。

 

「僕の前でわざわざ気張らなくていい。僕は貴様の性悪さも堕落ぶりもよく知っているつもりだ」

 

 【敗者】の言葉を聞いてレヴィは頭の中をグルグルと掻き回されながら思考の海を泳いでいた。

 

 レヴィは【敗者】と会話したい気持ちはあるものの、自分がまともな会話を出来ているかどうかは定かではなかった。

 話している途中に意識がポツポツと飛びそうになり、情報が断片的に消えていく感覚がある。

 【敗者】からの返事で上手くいっているかどうかを判断しているが、これでは【敗者】の読み取り力に全てを預けているだけだ。

 

「じゃあ……喋らなくても怒らない?」

 

 思考は足りるはず、体ももうまともに動くはず。

しかし、頭が矮小な現実に支配されている。

 

「構わない」

 

「あぁ……うん」

 

 レヴィの言葉に【敗者】はすぐにそう返した。

レヴィは俯き、泥のような枯れた声で返事をすると己の思考と向き合った。

【敗者】に無駄な負担は掛けたくないし、一度黙ると話すという行為が今の自分にとって思ったより労力を使う行為だったということをレヴィは認識させられた。

 

「レヴィの髪は綺麗だな……」

 

 【敗者】は彼女の後ろで髪を撫でながら独り言のように呟いて、長い髪を掬ってはそこに顔を寄せた。

 髪の末端で何が起きているかなど今のレヴィの鈍感からすると察する事も出来ないが、【敗者】の甘ったるい声はレヴィにもすぐに伝わった。

 

(こいつホントに髪好きすぎじゃない?……知らない間に髪食べてたらどうしよう)

 

「髪だけじゃない。肌も瞳も顔もこの皮膚の下も、不思議と僕を惹き付けてやまない。何度見ても覚えたての知識のように熱があって、初々しさを感じられる」

 

「……」

 

 【敗者】はゆっくりとレヴィの体に手を触れた。

触れた手の先からまるで大きな波が立つように震えが走り、全身を駆け巡り、そして暖かくなる。

その手を少し肌に押し込むだけで胸が踊り爆発しそうなくらいの衝動に駆られた。

 

「立て」

 

 【敗者】の湿っぽい声に釣られてレヴィは立ち上がると、突然背後からグンと引き寄せられる。

 【敗者】が彼女を抱きしめて強く強く己の内側に引き込んだからだ。

 

「うっ……苦し……」

 

「あぁぁぁぁあ……レヴィ……ッ、レヴィ……ッッ……♡」

 

 【敗者】はレヴィに頬擦りしてから唇に吸い付くと、更にもっと抱き締めて抱え込んだ。

【敗者】の体が熱いと感じるのは風呂あがりなせいなのか彼の火照りのせいなのかは分からない。

 

「貴様と居ると心が落ち着く……」

 

(寂しかったのかなぁ……?この傲慢さの割になんか構ってちゃんで寂しがり屋な変なトコあるからなぁ。そういうとこも好きなんだけど……)

 

「貴様と話していると五月蝿い耳鳴りが無くなり、恐ろしい静寂から開放される。貴様はどれだけ声を張り上げていても耳障りに感じないんだ」

 

「……喋らせようと嫌がらせしてる?」

 

「僕は言いたいことを言っているだけだ。会話の内容を考えるのも疲れるだろう?だから黙っていてもいい。お前の声が聞けるのは嬉しいのだが……」

 

 【敗者】が体を剥がすとレヴィは椅子にとんぼ返りし座り込んでぶつぶつと呟く。

 

「照れるから一方的に変なこと言わないで……」

 

「ん……?そんなに照れるのか?可愛らしい態度を取るじゃないか」

 

「うぅさい…」

 

 赤らんだ頬の割に隈があり今のレヴィでは黒のゴスロリは似合うだろうが着る予定だったネイビーカラーのロリィタ服は似合わないだろう。

 

「……今日は化粧をしようか」

 

「え……うん」

 

 コテ使用前のストレートツインテールはそのままに、ピンで前髪を留められる。

 レヴィが変装メイクをする時は化粧道具をあれやこれやと引き出して使っているが、化粧に詳しくもなければメイクアーティストでもない【敗者】がこの設備の整っていない工房で繊細なアートを施すかと言われればそうではなく、メイクパックを利用してのアークス一般的なメイク方法を取る事になる。

 

「……ちゃんと貼れる?平気?」

 

「外科医は手が繊細だ。貴様も自分の臓物を弄る時によく分かっただろう?」

 

 小さい頃のレヴィは血を吸いながら血管の一つ一つを見分け、無駄な神経を切ったり間違えて繋げたりしないように繊細に接続する作業を自分の手で自分に施さなければならなかった。一体何回死体を使って試行したかなど覚えてもいない。

 

「まあ……」

 

 【敗者】は箱から丁寧に包装されたフェイスマスクを幾つも取り出し、透明の袋越しにレヴィの顔と見比べる。

 

 メイクパックは特殊な素材で出来た保湿から肌の基盤にアイメイクやリップ、シャドウ、ハイライトまで全て盛り込まれたフルメイク用フェイスマスクであり、顔に貼り付けて使い、専用の洗顔を使って洗うだけで落とせる上に、メイク落としを使うことで部分的にメイクを減らしたり足したり等で調整も出来る。

 

「……3の奴がいいんじゃない?」

 

 ブルーベリーアップル、と名前が書かれたパックはデューマンのようなかなり色白の肌向けで、陶器のようなつるりとした白い肌に赤紫のアイシャドウが映えていたが、レヴィが変装メイクで使うような大人っぽい仕上がりになってしまうのが目に見えていた為【敗者】は首を横に振って閉まった。

 目元の隈は隠したいが鼻や輪郭の形を変えたいほどでもない、と今度はカスタムメイクパックを取り出してあれやこれやと組み替え始める。

 

「……イラストメイクをベースに色白メイクを重ね濃度を抑えれば上手くいくか……」

 

「なんか、機械に合う部品探してるみたい」

 

「インテリアなどとそう変わりないだろう?」

 

「まあね」

 

 【敗者】はようやく決めたらしく端末を取り出すとレヴィの顔を映し見え方を確認し始める。

 

「よくもまあアークスってそんなめんどくさいもの使うよね。自分で塗った方が早いのに」

 

「全てのアークスが創世器を作れる程器用じゃないんだ。その上設備の整わない惑星上では此方の方が有用だとされている。量産されるにも理由がある訳だ」

 

「ふーん」

 

「目を閉じろ」

 

 レヴィの顔を映し、カスタムしたパックのコードを入力して適用させるとレヴィの顔にマーカーが表示される。

 【敗者】はカスタムパックを袋の中から取り出し、端々をつまんでレヴィの顔にゆっくり近付ける。

 顔に表示されたマーカーとパックの端のマークを合わせて額や顎、鼻に頬と合わせていくと端末から音が鳴ると共にじんわりと溶けて吸い込まれるように顔に定着していく。

 

 前髪のピンを外せば落ち知らず、戦場で大活躍のアークスメイクが完成だ。

 隈も隠れ、丸いチークがうっすらと赤く色付く幼げながらも可愛らしいいつものレヴィそのままな顔になっている。

 

「そんな変わんないね」

 

「別人にする必要はない」

 

「ふーん」

 

 【敗者】はようやく彼女から言いつけられた事を達成するためにコテやオイルを取り出し髪を弄る。

 

「これだけ洒落た格好をしても、やることは戦闘訓練と武器制作か?」

 

「当たり前のことを今更?」

 

「遊びに……、いや、デートに行きたくないのか?」

 

「でっ、……デートッ?!」

 

 レヴィはチークを覆う程顔を赤らめ顔を動かそうとするがコテが狂うと無理やり頭を抑えられ鏡にその赤い顔が晒されたままになる。

 

「嘘でも婚約者同士の外出をデートと言って何が悪い」

 

「……わ、悪くは無いけど……べ、っ、別に二人きりなら普通に出かけるってだけでいいから……」

 

「そんな表現一つに固着する必要はあるか?芸術家気取りも大概にしろ」

 

(それ逆ギレじゃない?!)

 

 レヴィの心の中では【敗者】への暴言があれやこれやと出てくるが歯向かったところで頭を押さえつけられてコテを近付けられて脅されるのがオチなので黙って受け入れたフリでもしておく。

 

 少し時間が経ち、スプレーの音が聞こえレヴィは目を開けるといつも通りの前髪に丁寧に巻かれたツインテールが見え、レヴィは思わずクスリと笑った。

 

「【敗者】、虚空機関やめて無職なんだし美容師になったら?」

 

「所属する研究所が無かろうが僕はれっきとした科学者だが?」

 

「資金貰ってないなら無職だから」

 

「金の有無に関係なく僕は自分が心から科学者であり、そうでありたいという誇りがあるんだ。貴様がアークスを辞めないのだって金や地位では無いだろう?」

 

「まあ……」

 

 曖昧な返事を返すが完全に図星で、レヴィは上手い返事が思いつかず辺りを見渡していると時計が出勤予定の時間を一時間以上も超えていることに気づく。

 

「うわっ!時間ない!」

 

「なんだ……もうそんな時間か」

 

 【敗者】はレヴィの頭をポンポンと撫でながらそう呟いていた。

 

「ちょっと触るのやめてよ!わたしもう行くから!」

 

「……」

 

 【敗者】は離すどころか寧ろレヴィを抱きしめた。

 

「っ?!」

 

 そのまま唇を合わせ、しばらく抱擁を続けた後に離す。

 

「ほら、行ってこい」

 

「ど、……どの面下げて……っ」

 

 強気なことを言いつつ、レヴィの顔は真っ赤に染まっていたのだった。

 




「お、……おはよ」

 工房に入ると、ジグは作業をしておらずすぐに振り返った。

「おお、レヴィ。おはよう。今日はいつもより遅かったのう」

 しかし、何があったのかは薄々察せられる。一層丁寧に整えられた髪に金属粉の欠片も載せてたまるかというフリルの連なった高そうなロリィタ服。ジュエリー装飾は惑星シトリー産の大粒なレッドスピネル。

「あぁ、【敗者】に絡まれて……」

「【敗者】?」

 レヴィから凡そ出てくるはずもないダークファルスの名前にジグは首を傾げると、レヴィは自分の言葉のミスに気づき全身が震え上がった。
 レヴィは【敗者】にルオンと偽名を名乗らせているが、何度も間違えて本当の名前で呼びそうになっている。
ジグと会う時はかなり気を張って意識しているから間違えた事はなかったのだが、完全に疲労のせいだろう。

「い、いいまちちち、い、っ、いい、まちがい!言い間違い!昨日ダークファルスの武器の勉強してたから間違えちゃった!」

「あぁ、ルオンの事か。本人にそんな事言ったらさぞ怒られることじゃろうなぁ」

「そうそう!ジグさんに言い間違えたとか言ったらほんとにキレられてぶん殴られるってば!」

 レヴィは都合のいい真実を言った。こんな時に嘘をついても墓穴を掘るだけだ。
 幸運な事に、ジグはレヴィの言った言葉を完全に信頼しているらしくレヴィの言葉をそのまま受け入れていた。

「そっ、……それにしても、ダークファルスの素材や残滓から作る武器なんてあるんだね。調べてビックリしちゃった」

 レヴィは借りていた器具をテーブルへ返すとバクバクと鳴り止まない心臓を抑えたまま微妙な吐き気に囚われていた。

「ダーカーの構造は未だに多くの謎を残している。その中でも強大かつ不死身ともいえる力を持つダークファルスの身体構造や細胞には多くの可能性を持ち、その体や使用している武器を再現する事で強い力を得ることが出来るんじゃ。ダークファルス【敗者】の武器が発表されたのはつい最近じゃったかのう?」

「そうそう、……本人は指名手配犯で力を削られて隠居してるって言うのに、武器だけ立派に増えてもさぁ」

「そうじゃのう。ルビィの"浄化"の力によってダークファルスはその力を失っているというのが【巨躯】と【敗者】との戦闘により判明したんじゃ」

「ルビィね……」

 レヴィの言葉は明らかに低く、その一言には苛立ちや憎しみが込められていた。
 レヴィは燃えたぎる憎悪を押さえ込みどうにかいつも通りに振舞おうと我慢している中、ジグの言葉はエスカレートしてレヴィの胸に容赦なく突き刺さる。
 ジグがルビィの腰巾着である事は知っていたが、実際ここまで交流を深めてからルビィの話題を出されると裏切られたように感じた。

「これは可能性のひとつじゃが、ルビィの力がもっと強まるか、もしくはルビィの圧倒的なフォトン適正を解析し四代目アークスを生み出す事が出来れば、ダーカーとの戦争にも終わりが来るかもしれないと研究施設では大盛り上がりになってる……という話を聞いたのう」

 そんな風にルビィやアークスを崇拝するような言葉がレヴィの中に無理やり注がれていく。
 レヴィはアークスに対する嫌悪感情を抑えきれずついに口を出した。

「でも封印されてた【巨躯】でさえ40年経ったら封印が綻んでナベリウスにダーカーが蔓延って復活したんだよ?ダークファルスは力の大半を欠損したとしても別の場所から奪ったり力を蓄えたりしてまた復活するし、そのスピードがアークスの発展より早ければもう一度襲撃される事になるよね。
もちろん技術力はアークスだって高まってるけど、ダークファルスだって無策でもう一度やってくる訳じゃない。彼らには知性や心があるんだから」

「ダークファルスに……心?」

 ダークファルスの勝利を示唆するような言葉に心などという慈悲の感情を誘発させるワード。
 ジグは最近のレヴィが不思議なほど惚けていたり神経質になったりするナイーブな一面を押し出しているように感じられたが、今日は特にそうだった。

「そうだよ。ダークファルスは人と意思疎通が取れる。あの女とダークファルス【若人】との会話記録があるし、マザーシップでの一件だってマザーシップ中枢に居た奴と【敗者】は会話したはず。それがいくら本能とはいえ、野望を持って他者を利用したり、同じ言語を使って意思疎通を出来る存在が心を持ってないなんて寧ろヘンじゃない?」

「ふむ、確かにそうじゃな……。そう考えれば、ダークファルスには心があると言える」

「【敗者】だって、彼の中での明確な意思を持って知識を求め、オラクルをコントロールしていた。それはダーカーの持つ破壊衝動とは違うものでしょ?知識が欲しいなんて、上位種の思考回路だと思うんだけど」

「しかし、ダークファルスに心があるとすれば趣味や好き嫌いの類はあるのかのう?知性と言うなら小動物や魚でもあるが、人を人たらしめる物とはそういう娯楽を楽しむ思考がある事だとか、劣等個体に対しての福祉が出来るかどうかだと思うんじゃ」

 アークスは所詮優秀な個体に蝿のように群がり、劣等個体は社会的にも生物的にも追い詰めて排除しようとする虫より馬鹿な汚物の集まりに過ぎない。
 繁殖と種の存続という生物の本能を第一とした獣と違い人は生に無関係な行動をしたり精神的な異常で自ら死を選んだりする酔狂かつ高尚な思考をする生物なんて言われるが……"Artificial Relict to Keep Species"などと名付けられた組織に所属している人間と獣に何の差があるのだろう、などとレヴィは考える。

「人間は別に劣等個体に対して慈悲なんてないと思うけど……、……まあ、ダークファルスに娯楽を楽しむ思考があるかと言われればあると思う」

 レヴィはあまり厭世思考を掘り下げてもジグにとっての利益にはならないと早々に思考を切り替え、元の話題に引き返した。

「なら、ダークファルスの趣味とはなんなんじゃろうな?」

「あんたの趣味とわたしの趣味が違うように、ダークファルスの趣味もそれぞれ違うと思うよ?」

 頑なにダークファルスを人として扱おうとするレヴィにジグは少し異様な気を感じるが、彼女のズレた電波的な思考回路は初めての事では無いためこれもその内の一つだろう、と考えた。
 寧ろ知的好奇心を元に動けば疑って終わらせるよりよく聞き込んで新たな思想を得た方が有益である。

「例えば……【巨躯】は何の趣味があるんじゃろうか」

「【巨躯】はアークスとの闘争を楽しんでるから、戦うことがそもそも好きなのかもね?そうなると、スポーツとか……あの体つきだとプロレス系とか好きだと思う」

「おお〜……確かに、格闘技が上手そうな体格じゃな。【若人】は……あまり情報が多くないから分からなさそうじゃ」

「確かに、【若人】はよくわかんない行動をしてるみたいな報告を見たからね……」

 疲労で言動にセーブが効かずハッキングで得た情報を堂々とジグに流していきながら、レヴィは深く考え込む。

「じゃあ、【敗者】の趣味はどうであろうか?」

「【敗者】は女の服選びだよ」

「えぇ?」

 レヴィの瞬間的な即答にジグは困惑し、思わず聞き返した。

「ほら、知識を求めてるから読書とかそういうのが趣味なのは勿論。あとは女の服を選んだり、高い宝石を買って散財したり、美容師でもないのに人の髪を弄ったりするのが趣味」

「そんな女好きの趣味が……ダークファルスに?」

「女好きっていうより、厳密に言えば人形遊びが好きなんじゃない?あと、好きなものと言えば匂いフェチだったり……ゲームもノリノリでやるし、誘えば割とどこにでも行く。後は……」

「後は?」

「超ロマンチストで、男女の外出をすぐにデートって言ったりする」

「……はははっ!面白い考察じゃ」

 ジグは嫌に具体的すぎるレヴィの意見をバイアスの掛かった妄想か何かだと受け取った。

「わしは前から少し思っておったんじゃが、あのルオンは虚空機関の元研究員なのじゃろう。【敗者】を科学者として考えたとして、お主の周りの科学者のサンプルがルオンじゃから同じ様なものだと考えたんじゃな」

「え?いや、……ああ、そう、まあ……確かに、すっごくルオンの事考えてた」

 レヴィは嘘を何一つ付いていない。
 ルオンとは【敗者】の事で、レヴィは【敗者】の話をしていたがそれは同時にルオンの話でもあるからだ。

「そうじゃな。なら逆に、嫌いな物はあるのかのう?嫌いなものとなると人とダークファルスでは変化しそうじゃが……」

「そりゃ、自分の計画を破綻させられて指名手配してきたアークスでしょ。後は自分の計画を邪魔する奴とかさ」

「確かに、ダーカーとなればアークスを嫌うのは当然の事じゃな。虚空機関は極悪非道の実験を隠蔽する為に研究員や周辺人物を抹殺、脅迫など行っていたと言う事実も発覚しておる。その為についていけなくなった研究員達が離れ、内部事情の暴露などを考えた研究員は始末されたと……」

「計画の為なら何でもする、って感じの奴だよね。無能相手に膝ついて求愛行動する程だから」

 ジグは妙なレヴィとの噛み合わなさを感じ首を傾げたが、レヴィは気にも留めない。

「まあつまり……、……あれ?何話してたんだっけ?」

「お主が武器について調べていたせいでルオンの名前を間違えたって話じゃな」

「あ、そうそう……」

(アークス共は【敗者】の存在が裏社会の人間や底辺を始末するのに都合が悪いから排斥しようとしているだけだ……そんな理由で無血の化け物のように扱うなんて、ほんとアークスはゴミクズ……)

 レヴィは【敗者】を唯一理解しようとする存在だ。
 彼の壮大かつ傲慢な計画を、知を追い求める身でないながらも肯定し、その考えが単なる残虐行為や上位種の傲慢ではなく美学に等しい物があると理解している。

 レヴィは彼がただの狂った科学者で無いことも、血も涙もない化け物で無いことも、その肌の温もりも瞳の奥にある感情も知っている。
 例え年齢も出生も過去も分からなかったとしても、触れ合う感覚は今まで【敗者】と関わってきたどんな人間よりも知っているだろう。

「わたしは、わたしの目で見たものを信じたい……」

二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。

  • 続編として作品を分ける
  • 分けないで一つの作品でまとめる
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