レヴィが作業に戻ろうと工房を去ろうとした時、ジグが慌てて声をかける。
「あぁ、レヴィ!少し待っとれ。渡したい物があるんじゃ」
「ん?」
ジグの姿が消えてからレヴィの前に再び戻るまでに掛かった時間は一分もない。
直ぐに渡せるようにと用意されていたものは、ジグが用意したアイゼンハートの解析データだった。
「ライデンシャフト、まだ進んでいないんじゃろう?わしの解析データも渡しておきたかったんじゃ」
「ん……」
レヴィはすぐに端末にセットし、データを眺め始めた。
ほとんどは知っている情報だったが、転換機構に関しては知らない情報が出てきた。
「これは……」
「アイゼンハートの戦闘データを使い武器本体のログを追跡して転換能力が働いた時に何を使ってどんな変化が起きたのかというのを全て調べてみたのじゃ」
「な、何のソフト使った……?」
「ログ追跡自体は一般的なツールじゃが、そこからまとめて事象を整理するというのはわしの手でやるしかなかったわい。何せ、解析ツールが尽くエラーを吐いてまともに使えなかったからのう」
エネルギーA(仮)からフォトンへの変換。
オブジェクト123506からフォトン障壁への変換。
オブジェクト181622質量不足の為エネルギーA(仮)を補填し炎テクニックに変換。
レヴィの視界の中にはこんな文字列が無数に並んでいる。
「このオブジェクトの指定には座標が使用されており、そこに存在するものを分解し、そこから任意のものに転換するようになっている。座標に関しては各オブジェクトの文字をクリックすると出るようになっておる。それと、それぞれ使用されたオブジェクトを別の表で纏めておいたんじゃ」
「すっごく時間かかるやつじゃん……!」
レヴィはジグの努力に感動していた。
こういうちまちまとした時間がかかるデータを【敗者】は用意してくれない。余りにも詳細なデータを用意するとバックを怪しまれるかもしれないという意図もあるし、【敗者】の過度な期待は「レヴィならこれくらい出来て当然」と言わんばかりに最低限の情報しか渡さない。
しかし、そこで開示された情報はジグが手に入れてもいい物かと言われれば微妙な所にあった。
「奇妙なのは、頻出するこの"エネルギーA(仮)"じゃ。戦闘において使われなかった回はなかったようで、基礎的なエネルギー利用に使っていると考えてエネルギーAと名付けたんじゃが、これが恐らくフォトンアレルギーであるお主がアイゼンハートを使える理由なんじゃ」
「……、創世器の使用コストである莫大なフォトンを、このエネルギーAとやらからの転換で補ってるって事ね。確かに、アイゼンハートは転換する事で力を発揮する武器だってわかってたけど、このエネルギーAとやらが基本的に使われる転換材料か……」
「もっと奇妙なのは……このエネルギーAが恐らくお主の体から出ている事じゃ」
「わたしの……体?」
レヴィは困惑して自分の体を見渡した。
自分自身と向き合ってもなにかオーラが出ているとか見えるとかそんなものは一切ない。
【敗者】と話した時にも、身体構造は普通の人間そのものだと言われたのをよく覚えている。
他人との違いと言えば浄化腺くらいだが、それがその特殊なエネルギーAとやらを発しているとは考えられなかった。
「そうじゃ。エネルギーAから作られるものはほとんど武器を使用するためのフォトンに使われている。普通のアークスなら、装者から直接フォトンを吸うことでアイゼンハートが利用出来るようになっているわけじゃが、お主はフォトンがないからのう。その代わりにお主の体内にある何かを使っているというわけじゃ」
「うーん……体って言うと、まあ血とか脂肪とか、細胞とか……そんな感じになるのかなぁ」
自覚できない範囲と言えばそれくらいだ。人間の必需パーツを利用していると言われれば自覚出来ないのも納得する。
しかし、ジグはレヴィの言葉を聞いても低く唸るだけだった。
「もしそういうものを使っていたとしたらお主の体は一秒も持たんじゃろう。創世器の使用コストは余りにも大きく、アイゼンハートもそれは変わりない。
アイゼンハートが使いやすく感じるのは周囲からの変換や転換機能を犠牲にしてエネルギーを補給しているからであって、このエネルギーAの使用量は他の創世器を使う時のフォトン使用量とあまり変わらないんじゃ」
ようは、レヴィには創世器を扱えるだけのエネルギーA(仮称)適性があるというわけだ。
そのエネルギーAをフォトンと似たようなものと考えたら、それこそがレヴィの内側にある"力"になる訳だが……
「……エネルギー?体に?……そういや、ルオンがなんか言ってたような……」
レヴィにはフォトンが無く、枯れて埋まることのない器だとアークスからは認識された。しかし【敗者】の認識は違う。
何か別のものがレヴィの内側にあって、レヴィがフォトンを尽くまで受け付けないのはその"別のもの"がレヴィを埋めつくしているからフォトンが使えないと考えていた。
【敗者】はかなり早い段階からレヴィの中にある力はアークスに対して効果的だと解を出していたのだ。
「フォトンを阻害するもの……」
「ほう、ルオンが?」
「ルオンがね、わたしの体質は呪いじゃない、その仕組みを解析して利用すれば色々な物になれるーってすっごく前に言ってたの」
その正体が【敗者】ともあれば人の特異的な力を利用し悪巧みをする卑しい思考のように感じるが、偽名を使い別人として振る舞う彼として考えれば自分の体質に悩み苦しむ恋人への励ましの言葉のように感じるだけだ。
ジグは表情筋もないというのに脳が頬を引き攣らせるような感覚を覚え、しばらくぶりの幻肢覚を引き出された。
「ふふ……おっと、ニヤけてる場合じゃあるまい。
そうじゃな、フォトンアレルギーを"力"として考えるなら、もしかしたらその力にこのエネルギーAが何か関係しているかもしれぬ。このエネルギーAがフォトンを阻害する機構を刺激して働かせているゆえにフォトンアレルギーが発生するのかもしれないし、このエネルギーAそのものにフォトンを阻害する性質があるのかもしれない」
「なるほどね……」
ここまで真剣に彼女に向き合って分析すれば科学者であろうが武器職人であろうが答えはそこに帰結出来るのだろう。
アイゼンハートの転換能力はそう簡単に他者が扱える物ではなく、記録を見れば見るほどレヴィという女が単にフォトンを使えないだけの存在では無いということが思い知らされる。
メディカルセンターで彼女が受けたフォトンアレルギーの治療薬治験という名の嫌がらせは、莫大な金をむしりとる代わりに薬と言って無意味に毒やアルコールなどを注射で注入したり、穢れた血が原因だと言って瀉血したり、機械を使用したフリをして適当な数字を書いて渡したりと散々だったためフォトンが無いのにダーカーと戦える事の異常さを気付かなかったのだ。
しかし、エネルギーAとやらを形として認識出来たところでライデンシャフトで転換が出来るようになるわけではない。
肝心なのはその間だ。転換前と転換後の間にある、何かの物質。
転換前のオブジェクトを何かに変化させ、その変化させたものを転換後のオブジェクトに変化させるという工程が必要になる上で、この間にあるものを把握しなければならない。
「お主がテクニックやフォトンアーツが使えずとも戦えているのは、この転換機構がフォトンを生成しているからなんじゃな」
「ダーカーに関してはそうだね。原生種に関してはまあ、フォトンいらないし運がいいからじゃない?」
ジグはレヴィのパーソナルデータを開き眺める。
ジグが所有しているレヴィのデータは偽名であり一定時期の出撃記録を偽造したLの名前のデータの方だが、そこにある討伐数はアークス10年目のベテランが出す数字だった。
これ程異常な数値を見せているのは現状他にルビィしか居ない。
偽造された数字が大量にある中で討伐数だけ本物の数字を載せてしまう所から、レヴィの譲れない「弱者ではない」というプライドが滲み出ている。
(このレベルの領域だとそもそもエネミーがそこまで出現しないから、ここまでエネミーを倒すのは相当難しいはずじゃ)
「そうじゃな……エネルギーAが観測データ上で確認出来るのかも確かめたい所じゃのう」
そんなことを言いながら、ジグはレヴィを眺めた。
レヴィの悪い部分を全く知らないジグにとっては、レヴィはかなりストイックで職人気質に見えており、まさか己の欲求不満を猟奇殺人で晴らしたり道中のキャンプシップの中で芸術面での習い事を延々とやっている変人だとは思わないだろう。
ジグにとってのレヴィはまだ「癖のある人」から抜けていないのだ。
「ルオンが書いた資料に載ってなかったなら多分観測データ上には出ないと思うけど……」
「あれはあくまでアイゼンハートのデータであり、お主の資料ではない。わしが確認したいのはお主本人の物なんじゃ」
ジグは遠回しに自分の意思を主張していく。レヴィはそれが分かっておらず、頭の中で自分のデータを所持しているであろう相手を考えて顔を顰めた。
「ってなると……まあ、ルオンが持ってない訳じゃないけど、渡してもらうのはめちゃくちゃ難しいと思うよ」
そのデータとはつまり器を構成するための物になるわけだから、そんなあまりにも詳細な人間のデータを【敗者】が持っているとなると使用用途を疑われる事になる。
【敗者】はそういうリスクは回避するタイプだろう。アイゼンハートの資料ですらかなり出し渋って色々と弄っていたのだ。
それに、器のデータにはもしかしたら【敗者】に関するデータが載っているかもしれない。記憶情報に【敗者】が映っていたりとか、体内の検出されたダーカー因子の中に【敗者】の因子だけ異様に多かったりだとか……そういうことを考えるとジグに渡す訳にはいかない。
「うむ、大丈夫じゃ。お主の欲しい部分のデータだけ収集するなら手はある」
「ん?」
「これからの予定にもよるんじゃが、お主が直接戦闘している所をわしに見せて欲しいんじゃ。そこでアイゼンハートとお主の両方を解析してエネルギーAについて考えてみたいと思っておる……どうかね?」
「あ……それなら全然いいよ。今からでもいい」
レヴィは特に疑うこともなく快諾し、アイゼンハートを取り出して眺める。
「本当か?」
「どうせ今やってるのは軽い作業とアイデア出しだからね。色々考えるなら資料が多い方がいいの」
実際、ライデンシャフト以外はほとんど滞りなく進んでいると言ってもいい。
レヴィには新種の武器の制作に伴うフォトンアーツやテクニックの制作がない以上、武器を作れば終わりで済むのだから戦術を調べて練習するという工程には特に科学的な技術や研究などは必要ないのだ。
そしてライデンシャフトも、菌の研究が進めばこれ程の停滞はなくなるはずだ。
「よし、じゃあ戦闘データを収集する場所は……」
レヴィは端末を開いて調べ始める。一番手っ取り早いのは最近完成したVR投影装置だが、【敗者】にもまだお披露目していない上ジグにその場所は流石に教えられない。
「流石に市街地だとアレだし、刀匠のジグさんを他惑星に合法で連れて行ける手段は無いから……うーん、VR仮想空間とかになるかな」
「エクストリームクエストか、確かにあそこなら観戦機能も存在するし、直接赴く事も出来る。解析にはうってつけじゃな」
エクストリームパスを使用することで入場可能な、仮想空間でVR投影装置を使いシミュレーションされたエネミーと戦闘を行うクエストの事だ。
仮想空間ではエキシビションマッチとしてアークス同士での戦闘や、競技性のあるタイムアタックなども開催されておりアークスの娯楽のひとつでもある。
「うん」
流石にジグを44番艦の家や74番艦の人工臓器管理場所に連れて行けるほどレヴィは彼を信頼していなかった。
ジグがいくら好意的に接してこようがルビィや六芒均衡と密接な関係にある要注意人物には変わりない。
「じゃあ、準備できたら行こ」
「あぁ、色々準備が必要じゃから20分は貰ってもよいか?」
「うん、わたしもそんくらい時間いるから」
準備と言っても、ジグの方は単なる外出準備だがレヴィの方は偽造パーソナルデータの調整やハッキング用ソフトの起動などジグにはとても見せられない卑しいものばかりである。
二人は工房の外で待ち合わせると察し互いの工房の奥へ消えていき、あれやこれやと準備を行い十数分か経った後再び再開した。
レヴィの格好は戦闘服になるという訳ではなく特に変わらず、アイゼンハートも透明化しており傍から見れば何も変化はない。
「そのままの格好でよいのか?いくらシミュレーションとはいえ汚れが…」
「平気だよ?汚れたら洗えばいいだけだし。わたし、戦略OS支給されてないから」
戦略OSとはアークスの戦闘服に搭載された戦闘用オペレーションシステムであり、一言で言うとアークスが体内でエネルギー変換したフォトンを有効的に使用するための専用演算装置である。
「支給されていない…?」
「まあ、マグとか武器パレットもないしね。完全に意味ないわけではないんだけども……」
戦略OSはディスクで習得したテクニックやフォトンアーツのような高度な戦闘技術、クラススキルをOSを通じてアークスに適用させる他、フィールド内の銃座やフォトン粒子砲などを使用するためのライセンス、端末と連携した機能やオペレーターへのデータ送信なども担っておりアークスにとっては非常に重要な戦闘服やキャストパーツには必須のアイテムである。
戦闘服を変える度にデータの移行が必要ともあり、戦闘服を頻繁に変えるアークスが少ないのもこの戦略OSが原因なのだが、逆に言えばレヴィが頻繁に服を変えられるのも戦略OSが無いことである。
というのも、レヴィには当然のように戦略OSが支給されていない。フォトンが使えないとはいえ、ライセンス関連やオペレーターへのデータ送信は絶対に必要な物だが、差別されているレヴィに与えられないのは当然だろう。
「ま、気にしないでよ。好きな格好で戦えるなんて超メリットじゃん。寝込みを襲われても生き残れるんだからさ」
「確かにそうじゃが……付けていないのと支給されていないのでは大きな差が……」
「あっ、そういえばなんだけどさぁ」
レヴィはジグの話を無理やり遮るように声を張り上げ、目を細めた。
小さく柔らかく、格好からして良いところのお嬢様超えて姫にしか見えない彼女の表情はほの暗く、メイクの下から覗く疲労と悪意が混じりどこか本能に訴えかけるような敵意を醸し出していた。
「……転換機構に関してなんだけど、本でちょっと面白いものを見たんだよね」
それから、レヴィは幾度となく本で見返した"菌"についての話をそのままジグに行う。妙なオカルト本や資料書に載っていたC.A.R.D.の話もセットでだ。
ジグはレヴィの話を聞くと怪訝に唸り、俯いて考え込む。
「……菌、か。よく分からないが、聞く限りだとろくなものじゃないのう。便利さで危険性を打ち消せているとは全く思えないわい」
「うん、それは分かってるんだけど……解毒薬の存在もあるらしいし、結局の所こういう万物創造に利用できる万能物質がないとアイゼンハートの転換機構は機能していると言えないの。フォトンだけじゃなく、もっと色々なものに転換したい。エネルギーから物質に変化させるために、物質を構成するための素粒子が必要になる」
菌に対しては非常に懐疑的なのは確かだが、レヴィの言うことは最もである。アイゼンハートは転換を行う時に素粒子単位まで分解し、事象を書き換えて完全に別物に変えるのだ。しかしそれほどの権能は人工創世器に作り出せるものではなく、同時に行われているその高度な処理の全てをまだレヴィもジグも把握出来ていない。
「ううむ……しかし菌を生み出す母体というのは至極検討がつかんのう。著者は亡くなっているとなれば持っているだけの情報で考えなければな……」
「うん……こう考えると全知が欲しいって思うのも納得がいくよね、宇宙の始まりから終わりまで、全ての次元の全てのデータが手に入るなんて夢みたいだもん」
全知存在を求めるという本能は【敗者】の生き甲斐にも等しいものだが、レヴィは字面でしかその存在を認識出来ないため全知存在をどこか遠い話のように感じていた。
しかし、こうも目の前に手に入れたいが全く手に入らない知識が現れると森羅万象の全てを理解したいと考える【敗者】の気持ちも分からなくはなかった。
レヴィは過程を楽しむ為に物を得ている人間だが、楽しむのにも限度がある。
「ま、わたしはそのために全てを捧げられるかって言われたら別なんだけどさ、でもそんな夢の為に頑張ってる人のことはすごいと思うし、応援したいし、手伝えることがあれば力になりたいって思っちゃうんだ」
「世界の神秘を明かすことは科学者の本能……それが世界にとってより良い方向に、より良いやり方で行えればいいのじゃが……」
「それほど難しいってことだよ。いまだかつて人はその領域に達したことがない」
ジグは遠回しにクーナが暴露した虚空機関の黒いやり方を否定し、レヴィは遠回しにその行いを肯定する。互いに同じ意思を持って肯定し合える状態には無いが、表立って互いを批判することもない。
「……」
ロビーに着くと、レヴィはクエストカウンターを見てため息をついた。
本来、レヴィはクエストカウンターには向かわず端末でクエストを受注する。
ハッキングを使ってサーバーに潜り込みカウンターの職員が行う操作を自分で行って受注することになるため、管制上では不当なクエスト受注だと分からない。
しかしアークスでは公式に認められていないやり方だ。
その本来処分ものな手段を流石に最初からジグの前で見せびらかすのはナンセンスだし、流石にカウンターが間近の距離でわざわざジグを見えないところに追いやってこそこそ受注するのは怪しすぎる。
(仕方ない……絶対無理なの分かってるけど……ジグの前で怪しいことをしたらアークストップまで筒抜けだからなぁ)
レヴィは足を竦ませ、完全に体を硬直させた状態でクエストカウンターを見ながら手先が僅かに震えていた。
ジグはその様子を見てレヴィに声をかけようとしたが、彼女の表情が緊張を大きく超えた強い恐怖に満ちて居たため思わず口を閉じる。
レヴィは何度か深呼吸をした後、痛くなるほど拳を握り締めて足を上げ、一歩を踏み出して進んだ。
「行かないと……やらないと……」
自分に言い聞かせるようにそう呟いてから、レヴィはクエストカウンターの前に立ち向かい、ジグがその後ろに着いた。
一応見てくれだけは清潔感のあって多分普通の相手になら愛想の良さそうな感じの女だが、レヴィを見た瞬間嘲笑に顔を歪める。
「妹じゃないですか。まだアークスやってらしたんですか?」
もちろん出る声も上擦った半笑いの声であり、真摯さや丁寧さはなく目を離したら端末でSNSを見ていても可笑しくないような態度だ。
「クエストを受けたいんだけど」
レヴィは完全に無視してクエストカウンターの端末を起動させ、エクストリームクエストである"極限訓練:森林と龍"を選択するが女が軽く端末を操作すると先の画面に進めなくなる。
「あぁ、今仮想空間は満員の為利用が出来ません〜」
「……」
「満員?そんな訳ないじゃろう。アークスシップ一隻にVR仮想空間は数多くあるし、128番艦のブロックが満員になった事など一度もないわい」
ジグは61歳。現存するアークス種の中でもかなり高齢であり、70代超えのレギアスやマリアに続く御長寿でこの128番艦の人口事情はよく分かっている。
最近発生した市街地襲撃で一瞬だけ爆発的にアークスが集まったくらいで、それ以後は修理の業者やマシナリー以外に増加は特にない。
「ジグさん、あのね……」
レヴィはジグの意見が真っ当で正しいものだとわかっていたが、この場であまり事を面倒な方向に運んで欲しくないと考え説得して止めようとした。
しかし、そんな粗のある言葉をクエストカウンター係員の女が見逃すわけもなく。
「申し訳ございませんが、VR仮想空間及びアークスの設備は全てアークス方が配慮し快く譲り合って利用している共同施設なのです。それを、アークスの穀潰しが他のアークス様の枠を阻害してまで利用出来る訳ありませんよね?」
「なっ!」
女はジグの方を見ることも無く、レヴィの事を凝視して嘲笑う。
レヴィはその言葉を聞いても目を細めるだけで強く抵抗はせず、心を落ち着かせるために懐に仕込んだナイフを撫でながらじっと向き合っていた。
「……」
「それに、エクストリームパスは貴方には配布しないようシステムで設定されております。クエストを受注したとしても、入場は不可能です。クエストであれば、こちらのノーマルからお受けください。貴方にピッタリの草むしりを用意したので……」
女の手によって無理やりザウーダン討伐が受注されそうになった所で、レヴィは踵を返し淡々と声を紡ぐ。
「ジグさん、撤収」
「しかし……」
「相手はヒトだよ?わたしとまともに会話が通じるとでも思ってるワケ?」
煌びやかな服に身を包みながらもレヴィの姿はまさに被差別者そのものであり、目はどす黒くナイフの刃まで包み込んでいたからか手のひらには血が滲んでいた。
「……」
ジグは返事を返さず動くこともせず、ただ呆然とレヴィとクエストカウンターをぼんやりと見つめる。
「エクストリームクエストを受注されたい場合は、メディカルセンターへの通院をおすすめ致します。
とはいえ……ふふっ、まともに治療が受けられたなんて話聞いたことがありませんけどね」
レヴィは係員の女の嫌味も完全に無視してジグの背中を強く押し無理やり進める。
「はぁ……ほら、さっさと動いて」
レヴィの呆れた声にジグはようやく足を動かしたが、足取りは重く殆どレヴィが押していた。
カシャ、と背後でシャッター音が聞こえレヴィが振り向くと、係員の女はレヴィに向けて個人用端末のカメラを向け盗撮し写真を見ると目を細めて笑いだした。
「ぶっ、……ふふ、きもっ!スラムのチリクズごときがあんな服着てるの似合ってなさすぎぃ〜!!」
女の隅々まで染み渡るような卑しさにレヴィは女の端末にちらりと見える製品番号を頭に叩き込みながら、声を上げた。
「暴言吐くだけで給料貰えるならバークス辞めて漫才師にでもなったら?」
「はっ、……?!」
「オーディションの応募しといてあげるねぇ?モチロンあんたに一番似合う腹太鼓で〜」
女の罵詈雑言を完全に無視し、レヴィはジグを連れてロビーから離れていく。
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる