レギアスはジグの横を通り過ぎ、柵のギリギリまで寄ると地面に置かれた簡易移動装置に気付く。
「……」
レギアスがフィールドを見るとエネミーも居らず、静寂に包まれた中で煌びやかな服を纏った女が座り込んでどこか遠くを見つめていた。
アイゼンハートの姿は見えないが、それこそが資料に載っていた能力である「武器変化」だろう。
「大いなる……陰……」
レヴィはボソボソと何かを呟いていた。
彼女の頭の中には非常に鮮明でリアルな光景が広がっていた。
小さなエネミーのような物を無数に取り込み、どくどくと脈打つダーカー兵器に似た、それよりもおどろおどろしい何かが映る。
「……あれを……手に入れられれば……」
しかし、途中でグラリと体が熱くなり思考が中断され、レヴィはぼんやりとした瞳で見上げる。
「……ッ?!」
そして、レギアスの姿を捉えると目を大きく見開いた。
「う、っ、……い、いつの間に……!」
レヴィは慌てて移動装置を起動させ、ジグとレギアスの元に向かうとジグの後ろに隠れた。
「レヴィ?」
「あ、……いや。へへ……」
レヴィはなんて事ないように笑っているが、明らかに緊張で体が強ばっていた。
それもそのはず。要注意人物リストの中の一人でありアークスのトップに等しい人物なのだから。
「……君が弾刃・アイゼンハートの持ち主であるL、で合っているか?」
「そうだけど……」
レヴィは恐る恐るレギアスに答えた。
レギアスは分かりやすくレヴィを観察しており、彼女から何処かで会ったことのあるような雰囲気と異質さを感じていた。
しかし外見だけ見れば全くそんな特徴はなく、年齢の割に幼い見た目をした分かりやすく溺愛されているお嬢様、といった感じの特徴しか分からない。
「戦闘服ではないな」
「あぁ、……まあ」
レヴィはお前らのせいだと言いたくても言えず、曖昧な返事をしてどこか遠くを見つめる。
レヴィの複雑な事情を知っているジグはレギアスにそれを問いただすか悩んだものの、仮にその場で諍いが起きても宥められる自信もなく事を掻き乱すだけのように感じて辞めた。
「そういえば、お主は本当にいつもいい服を着ておるなぁ。作業着も完全防御保護服じゃろう?」
レギアスとレヴィの間に険悪な雰囲気が漂うのは避けたかった為、ジグはレヴィの気を良くしようとやんわりと話を逸らす。
レヴィはすぐにジグの方に向いて微笑み、自慢げに服を見つめていた。
「あ、まあね。一枚でなんでも出来るようにしたかったから高いの選んだよ」
「素晴らしい心がけじゃ……そうじゃなぁ、いつも違う服を着ておる訳じゃから、お主の家もきっと広いんじゃろうなぁ……」
「うん、結構いい感じだよ」
レヴィもレギアスと深い話をするのは避けたかった事であり、すぐにジグの方に食いついて端末を開き害のなさそうな写真を見せる。
リビングや寝室などを映して【敗者】の痕跡が云々と言われるのは嫌だったので、レヴィ自身の部屋を見せることにしたのだ。
この部屋には研究資料や学術的な本はほとんどない。
「ほら、……わたしの部屋」
明るくわかりやすい"女の子"のような床と壁紙に、雑多でありながら上手く種類分けされた沢山のグッズが映る。
楽器や玩具、キャンプ用品、ゲーム機に絵の具など何が趣味か分からないほど沢山の物が連なっている。
「おっ、……おおっ、凄いなこれは……物がいっぱいじゃ。これ全部お主一人の物なのか?」
「うん。楽器が色々見えてるのはもちろんだけどボードゲームとかも沢山あるし、引っ張り出せばダーツとかゴルフとかも出来る。あとは普通に勉強の本とか、小説とか……自分の部屋に何があるのかまだ全然わかってない」
「これだけの量を全部用意されたのか?すごいのぉ」
「まあね。わたしが色んな経験を得て、それを活かせるように?とか、知見を広げるとかなんとか……。とにかく言っても言わなくてもこういうのを沢山買ってくるし、あと何年すれば使い切れるのやら……100年はかかりそう」
レギアスは僅かに体を動かしレヴィが映している端末の画面を覗く。
戦士とは思えないが、市民や普通の人間と考えれば物が多いだけで何も違和感がない部屋だ。
「こんな部屋に住んでたらアイゼンハートが贈り物なんて言われても信じてしまいそうじゃ」
「あはははっ!流石に創世器を贈れるほどの奴じゃないってば!」
【敗者】なら出来るだろうと思いつつジグに笑いかける。
彼は本当にリソース不足なだけでやろうと思えば作れないものなんて多分ないだろう。
「アイゼンハートは何処で入手した?」
「ん?ナベリウスで拾ったの。アークスになった直後くらいにね……」
本当は幼少期から拾ったものだが、ジグの前で説明している通りにレヴィは教える。
アークスでもないただの子供が一人でナベリウスに、なんて言うのは不法滞在以外の何物でもないからだ。
「アークスになりたての時はどんな武器があるかとか、創世器のこととかも教科書だけだったから全然分からなくて……アイゼンハートも、普通の武器だって思って拾った。その後に特別な力があるって理解したよ」
「力の発現は何時になる?」
「んー……拾って数ヶ月経ってからかな。ホントに死にかけた時があって……無我夢中になってたら、武器が変形することを知ったの。その時に調べたら……その、アイゼンハートっていう武器だって知って。でも、データはほとんどなかったし、研究所から紛失して行方不明ってデータには書いてたよ」
レヴィは時期だけを誤魔化してなるべく真実を述べる。あまりにも嘘をつきすぎるとジグの方にも嘘をついているのではないかと考えられてしまうから。
「それで、知り合いの人に創世器のことを言ったら、見つかったら命の危険になるかもしれないっていわれて……だから、ソロで活動してた」
「命の危険……。創世器を無理やり奪われる可能性を考えたのか」
「そう。この創世器は研究所絡みで、虚空機関の人間は凄く手荒な手段も取る野蛮な人だから……もしかしたら創世器のデータを取るために人体実験をされるかもって言われて怖くなって……」
「ならば、早々にアークスに引き渡せば良かったはずだ。何故それを選択しなかった?」
レギアスの言うことはごもっともだ。
彼の声は少し低くなり、尋問紛いの言葉でレヴィの中にある悪意を無理やり引き出そうとしている。
しかしレヴィはレギアスのキツイ言葉などほんのりと甘い砂糖のようにしか思えなかった。ジグがいる前ではレヴィがどう返答しようがレギアスが殴れない事など分かっていたから。
「だって……没収されるでしょ?」
レヴィは素直に自分の本心を口にした。
善人のすることではない。極めて強い悪意でもないが、正しくもない。
レヴィはレギアスを細く見つめ、手を後ろに回して淡々とつぶやく。
「あのね、創世器を持った三英雄サマにはわかんないでしょうけど、普通の奴は力が得られる機会があるならそれを掴もうとするし他人から得た力を奪われるのは屈辱に等しいでしょ?あんたとは違ってわたしは凡人未満の無能なの。創世器を渡したところであんた達がその対価に何をくれるって言うワケ?」
「……それは元々、他の者が所持していた物だ。落ちていたとはいえ、それを盗んだに過ぎない」
「本当に大事な物だって言うなら、落としたままになんかしておかないよ。アイゼンハートは凄くわかりやすい場所にあった。アークスなら誰だって拾える場所。
だから、わたしは紛失のフリをして捨てたのだと考えた。貰ったんだよ。幸運で、わたしが力を得た。わたしはその得た力を守りたかった。それでも、壊れたから仕方なく治せる相手に修繕を頼んだ。それ以上もそれ以下もない」
「……」
「"対価として人権を与える"の一言も言えないなんて、流石レギアス総督だこと……そんなに羽虫以下のゴミクズが身に合わない物を持ってるのが不愉快なワケ?
持つべき者が全てを得るべきで、持たざる者は全てを奪われるべきだと考えてるから、あんたらはいつまで経ってもマグの一つも……」
「レヴィ!」
レヴィに明らかな殺意と苛立ちが浮かんできたところで、ジグが彼女の前に立つ。
「落ち着くんじゃ。今そのような話はしておらん」
「アイツから喧嘩売ってきたんだけど?」
「お主だって清廉潔白に生きてきたつもりはないはずじゃ。どちらも悪いことをしておる。一方的に片方が悪いとは言えんじゃろう?」
「……わかったよ」
レヴィはジグを切り裂いてレギアスの首をとっても良かったのだが、彼の努力を金にして考えるとその価値はあまりにも大きいため、レヴィは一旦ジグの為に怒りを抑えることにした。
レギアスはそんなレヴィの様子をじっと見つめる。
"人並み"だ。アイゼンハートを所持していたのは単なるエゴの範囲であり、その裏に何か大きな陰謀や意思などは感じられない。レヴィは見慣れたよくいるタイプの小悪党である。
特異的な部分があるとすれば、やはり彼女がフォトンアレルギーである所だろう。
「ジグさんさ……、なんでソイツを連れてきたのか知らないけど、わたしがソイツと仲良しこよし出来るとでも思ったワケ?アークスが普通なら与えられるべき権利を与えなかったのは誰って、ソイツだよ?ソイツはわたしのこと、穢れた人未満の呪いの忌み子だって認めてるんだよ?」
「……あの差別は明らかにおかしい行為じゃ。お主がそんな事をされるに値しているとは思えないし、マグも戦略OSもオペレーターも与えられていない、自分の意思でクエストも受けられないなんてそんなのおかしいに決まっておる。じゃが、……レギアスがそのような悪意で行動を起こすやつでは無いことも分かっておる」
「はぁ……」
レヴィは深いため息をつき、ジグから離れる。
「所詮、フォトンを持たない奴に存在価値も生きる資格もないってワケ?」
レヴィはアイゼンハートを起動した。
黒光りする刃を掴み、自分の方にその刃を向けながらぼんやりと遠くを見つめる。
「フォトンを持たないならわたしは市民よりも下。ペットよりも下。ダーカーよりも下。
生まれた頃から家族も愛も人としての権利もアークスとしての権利も、金も物も服も食事も家も何もかも奪われて、それでも必死こいて抗って手に入れた物ですら奪うワケ?」
レヴィはその刃を首に押し当てて憎しみの籠った目でレギアスを睨みつける。
「あんたらは人権があって、地位があって、名誉があって、友人も居て外を普通に歩くことが出来て、買いたいものが買えてやりたいことが出来るけど、わたしはこれしか持ってないの。
わたしはこれしか自分から手に入れることは出来なかったの!あんた達はこれ以上わたしから何を奪えば気が済むワケ?!わたしは自分の命まであんたらに奪われたくなんかない!」
「やめるんじゃレヴィッ……うッ!!」
ジグがアイゼンハートを奪おうとした瞬間、雷鳴が轟きジグの元に降り注ぐ。
レヴィはそのジグの様子を見ても武器を尚更強く掴むだけだった。
「あは、……あんた資料読んでなかったワケ?起動状態のアイゼンハートはわたしにしか触れないの。なんで触れようとするのかなぁ」
「……レヴィ……お主には彼が……」
「この状態ならソイツに奪われることはない。だってソイツにだって触れないんだから」
「ルオンが悲しんでも良いのか?!お主の服も部屋も、そのアイゼンハートをお主の物として守ろうとしたのもみんなルオンじゃろう?!わしのことはどうだっていいが、ルオンの気持ちを裏切るような事はしないでおくれ!お主がこんなことになるのをルオンは望んでなどいないじゃろう!」
「……ふぅ〜ん、あんたはやっぱり賢い奴だね」
レヴィはジグの言葉で完全に静止した。
【敗者】がレヴィに求めた価値はアイゼンハートだけではない。彼女が密かに作っているブラックローズやライデンシャフト、それ以外にも、グラン類似エネルギーと謳った存在や、ハッキング能力に裏切らないという意思、それから愛情も……
「ルオンが教えてくれたんじゃろう?フォトンが無くても生きる権利はあると。自分が人間であると主張することは何も悪くないと」
「……」
「アイゼンハートは、間違いなくお主の物じゃ。お主の意思もその体もお主の物であり、人間としての価値はこれからお主が取り戻すものじゃ」
レヴィはジグの言葉を聞いて落ち着きを取り戻したかのような様子を見せ、刃を自分の首から離した。しかし武器を仕舞うことはなく、ただ後ろ手に持って隠している。
ジグはやはりレヴィからすると賢い。
彼女の言う賢いとは、レヴィにとって都合のいい行動が出来る存在という意味だ。
「レギアス、彼女から武器を取り上げなくてはいけないのかのう?」
「……"与えられた物"であれば、私は一時的だが彼女の身柄を拘束するつもりでいた」
「なっ……」
「人体実験をされ、創世器を与えられた操り人形のようなアークスが複数存在している。アイゼンハートの持ち主もまたそうであり、自我を取り戻していないというのであればカウンセリングと武器の回収が必要だと考えていた」
レギアスはレヴィをちらりと見る。
やはり強い憎しみと恨みが募った表情でレギアスを睨んでおり、目が合うとレヴィは怯え恐怖したように体を縮こませていた。
しかし、それはテオドールやクーナのようなかつてのルーサー配下のアークスとは完全に違う、私利私欲の為に行動する誰にも支配されていないアークスのように見えた。
「彼女はただのアークスだ。創世器を回収する必要は無い」
創世器は持っているだけで絶大な力を発揮するが、レヴィも言った通り、彼女が所持してようがその影響力は低い。それに、創世器は間違いなくレヴィを選んでいる。
「……彼女は創世器を扱えているか?」
「それはもう……天才的な程じゃ」
「そうか……」
レギアスは一歩ずつレヴィに近づいていく。
彼女は飛び降りようとアイゼンハートを後ろ手で構えながら柵から身を乗り出したが、レギアスはギリギリの位置で止まった。
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる