※この作品はR-18です。

MIDNIGHT   作:Libby博士

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30話(7)

 

「はぁ……もう終わり?」

 

「ダーカーに対してダメージを与えられることは確認した。しかし、創世器ともあればその力はダーカーだけに収まるものでは無い。創世器を持ち、アークスを勝利へ導く者として……」

 

 レギアスはディスプレイを操作すると、彼女の目の前に少しずつ形が構成されていく。

 

「ダーカーの親玉たる存在に立ち向かうことは必然だ」

 

「ッ!!」

 

 見た目だけならレヴィがあの日、遺跡で遭遇したダークファルス【巨躯】と同じだ。レベルは30に設定されており、あの日の【巨躯】と比べたら強さには天と地よりも差がある。

 しかし、レヴィはあの場で【巨躯】と直接対峙した身である。戦略OSがないレヴィにはエネミーのレベルが見えていない。相手のエネミーがどれほどの強さを持ち、それを退治出来るのか、このVR仮想空間でも、実際の惑星探索でも全く分からないのだ。

 

「まっ……待って!わたしはね、この体質の都合でダークファルスの討伐戦には出たことがないの!戦ったことがないワケ!……倒せなかったら創世器没収とか言わないよね?!」

 

「倒せ。それがアークスたるものの使命だ」

 

 ジグの不安そうな挙動を見て、レギアスは首を横に振る。

 レヴィからアイゼンハートを奪うつもりは毛頭なかったが、彼女が安心して手を抜くところは見たくなかった。

 全力で応対した上で創世器の力を存分に使い倒す。

それが、レギアスがレヴィに向けた試練だ。

 

「チッ……分かったよ、このクソ野郎……」

 

 レヴィはレギアスをキツく睨んで暴言を吐いたかと思えば今度は直ぐに体をゆらゆらと揺らし、アイゼンハートを杖に変えて上機嫌に回し始めた。

 

「ふふ、……ふふふ、……アークス共は本当に何処までいっても傲慢だね。わたしを人として認める事の何がそんなに悔しいのかな?プライドが汚れるから?わたしがもし人間になったらあんた達よりずっと強くなっちゃうから?それともゴミが動いて喋るわけがないっていう発想があるから?」

 

 レヴィはブツブツと独り言を言いながら構成されていく【巨躯】に向かって近付き、その体に触れてみる。フォトンで構成されたそれはレヴィの手をすり抜け、ただ空をなぞるだけだ。

 しかしレギアスから見ると、その手は敵対相手にする行為ではなく小動物を撫でているように感じた。

 

 レヴィはレギアスにもジグにも聞こえない酷く小さな声で、【巨躯】の虚像に向かって呟いた。

 

「あんたはわたしのこと人として扱ってくれたよね……」

 

 そうして構成される数秒前にレヴィは遠ざかると、杖を特有の型で構えじっと【巨躯】を見つめた。

 

「アイゼンハートを他のやつが持つなんて……ホント反吐が出るんだから!」

 

 瞬間、レヴィは現れた【巨躯】に向かって全力で攻撃を行う。

 アイゼンハートのマゼンタ色のラインが宇宙のように輝き、杖をオーラが纏うとバットを振るように一気に叩きつける。

 

「死刑ッ!」

 

 一発当てたかと思えばレヴィは直ぐに離れ、アイゼンハートを拳銃に変える。

 瞬間【巨躯】が拳を突き出してレヴィに向かって突進するが彼女はギリギリのところで避けて何発か撃ち、直ぐに離れまた攻撃を避ける。

 

(レギアスの出してきたものを考えると多分設定レベルは最高かもしくは遺跡に居た本物と同じくらいのはずだから、あれに当たったら絶対死ぬ……でも、今回は初めてじゃない!)

 

 【巨躯】の攻撃は激しく大きくそして早い。

レヴィは前のようにかなりギリギリの状態で避け、機会を狙っては忙しなく攻撃を叩き込む。

 転換する暇もあまりないが避けながら発動させると倒してきたダーカーの残粒子が転換され、【巨躯】とレヴィの間に盾のように構成される。

 レヴィはそれを破壊される前提で思い切り飛び上がり、パルチザンに変化させると体重を掛けて【巨躯】に向けて思い切り突き刺そうとするが直前で【巨躯】が身を引いた。

 レヴィは隙をカバーするべく頭の中で自分の動きをシミュレーションする。

 

 パルチザンを変化させナイフを腰に携帯する。

着地の反動で再び飛び上がり後退をしながら空中での攻撃を避けるためアイゼンハートを糸に変化させ空中に絡ませ、そこに掴まる。

糸を伝って蜘蛛のようにフィールドを大きく移動した後着地、その後アイゼンハートをスライサーに変化させ体勢を完全に建て直す。

 

 脳内での一瞬のシミュレーションが終わるとレヴィはすぐに動きだし、想像した通りの動きを行いながら、更に転換で【巨躯】に向けてフォトンの刃を突き刺す。

 その攻撃はすんでのところで避けられるがレヴィは【巨躯】の来る位置にスライサーの刃を放ち、刃が当たるとアイゼンハートを変化させ再び杖として掴んだ。

 

「サレンダーなんか許さないんだからね!」

 

 レヴィの言葉を鍵に、アイゼンハートに力が集う。

 【巨躯】への勝利は、今までレヴィを鍛えあげてくれた【敗者】への恩返しになる。

自分が確かに力を得ていて、役に立っていて、【敗者】がレヴィにもたらしてくれたものが間違いなくレヴィの為であり、レヴィが彼の駒に値するものだという証明になる。

 

「賭けをしましょう、この地獄の炎に焼かれてどちらが先に焼き尽くされるのか……!」

 

 瞬間、ジグが表示を閉じていたウィンドウが警告を上げジグは慌てて開く。

 グラン類似エネルギーが通常の100倍もの数値を叩き出し、レヴィの体には明らかに何か強いオーラのようなものを纏っていた。

 

「天罰が効かないなら地獄にあんたを引きずり込むまで!」

 

 レヴィはアイゼンハートが破裂しそうなくらい強い出力を発揮させ、思い切り飛び上がる。

 普通に考えれば、このままアイゼンハートに集めたエネルギーを【巨躯】に叩きつけて爆発させるだろう。

 しかし、レヴィは違った。

 

 彼女はアイゼンハートを手放すと、瞬間力を貯めに貯めたアイゼンハートが落ちていく。そして彼女はふわりと飛び上がったまま、指で銃の形を作って撃ち込む挙動をした。

 

「十万年燃えろッ!!」

 

 瞬間、床から炎が現れると同時に【巨躯】が目の前から突然消滅する。

 吹き上がった様子はなく、目の前に突然現れたものであり、【巨躯】が消滅したのはもちろんのことレヴィは口端から血を垂らして急降下していく。

 

「ッ!」

 

 レヴィは炎が弱くなり消えていく中煙に埋もれるように着地すると、ゼェゼェと息を荒く吐いて呼吸をした。

 戦闘ログでは、レヴィのエネルギー数値が異常値に達する"15秒前に"【巨躯】が確かに倒され消滅していた。

 

「どういう事だ……?」

 

「はぁっ、……はぁ……ふふ、これでアイゼンハートは守ったよ……」

 

 レヴィは振り返り、炎が消えたフィールドでニッコリと笑うとすぐにジグから声がかかる。

 

「な、何が起きたんじゃ?」

 

「はぁはぁ……、アイゼンハートの転換能力で、量子を反応させて、……じ、時空間を歪めて炎を過去に送った……」

 

 レヴィは息を何とか整えるとジグにブイサインを送り、得意げに微笑む。

 

「時間のこととか色々勉強してて思いついたんだよねぇ〜」

 

 レヴィは【敗者】との戦闘訓練の中で時間停止を使われたら対処ができないということを何度も理解させられている。その対策として、時間や空間に対する勉強を行っていたのだ。

 武器制作にも役立つためある意味時間停止対策というのはついでみたいなものだが。

 

「うむ……とにかく、よくやったものじゃ」

 

「それにしてはあっさりすぎるけど……あと3分は耐えると思ってたのに」

 

 それはナベリウスで会った本物の【巨躯】に対して攻撃を続けた場合の理論上最短時間であり、このレベル30の【巨躯】に対してはあっという間に狩れる火力だ。

 

 

 彼女はあっさり過ぎると違和感を覚えつつもレギアスを見つめ、淡々と声を放つ。

 

「もう出来ることは何も無いよ……ふぁあ……」

 

 レヴィは欠伸をしてどこか遠くを見つめていると、レギアスがテレパイプに乗ってレヴィの居るフィールドの方まで向かった。ジグもすぐに続いてレヴィの方まで近づいていく。

 

「あぁ、……ジグさん。明日仕事で忙しいからかなぁ……今日はちょっとくらい寝なきゃダメかもね」

 

 足をプラプラと動かし、レヴィは二人と目を合わせずぼんやりと二人の間を見つめていた。

 

 アイゼンハートを上手く使えば時空間への干渉も可能だと言うのは、レギアスにとっては新たな発見だ。創世器は様々な力を持っているが、時間に対して干渉を行うものは初めてみたからだ。

 

「分かったでしょ?わたし以上にアイゼンハートを把握して、使えるやつはいないってこと。奪おうとしても損だよ」

 

「……すまなかった。これまでの無礼を詫びたいと思っている」

 

「はぁ……」

 

 レヴィはレギアスの言葉が定型的な物に聞こえて退屈に感じ、彼の口の方をぼんやりと見ながらつまらなさそうに呟いた。

 

「あと出来ることは世間話だけだよ、レギアス総督サン」

 

「……その座は直ぐに降りることになるだろう」

 

「書類から文字が消えようがカリスマは人の心の中に響き続ける。次のトップがどんな概念だろうが、あんたが人々に影響力を与えることには変わりないでしょ?」

 

 レギアスはレヴィは陽気で挑発的で、色々な意味で幼げな第一印象を持っていたが、思ったより賢く冷静に物事を見られる人間のように感じられた。

 

「それにしても工房でラビュリスだっけ?を見た時にも思ったけど、創世器が人を選ぶってのもよくわかんない話だよね。心も体も強いやつ、って訳じゃないみたいだしさ」

 

「しかし、普通のアークスが使えば枯れるほどにフォトンを消費されろくに使うことも出来ないはずじゃ。武器から選ばれるのはもちろん、フォトン適正も群を抜いて高い物のみが創世器を扱うに値する。だからこそ、アイゼンハートは創世器の枠から外れた物なんじゃ」

 

「"誰でも使えるような武器"ってコンセプトだから、普通に考えれば使えないやつがいる方がおかしいんだけどさ。まあ、創世器なりの考え方なのかもね」

 

「そういやだけどさぁ、レギアス総督?」

 

 レヴィは突然レギアスに向き、声を掛けた。

レヴィはなりふり構わず誰にでも例の話をする。

 

「昔の昔……遠い星か次元からやってきた奴がね、自分の住んでいたところの技術や武器を本として書いたのよ」

 

「……」

 

「そこにはとある物質が載っていた。感染力が高く、致死性も高いが、万物を取り込んで再構築と分解を行える万能物質……大いなる陰から生み出された菌って奴のこと。

最近虚空機関が解体されてるんでしょ?虚空機関の中とか、アークスのデータベースに菌と同じような物ってないの?」

 

「それを知ってどうする?」

 

 レギアスはレヴィの突然の話と怪しい物質の話題に訝しげに彼女を見つめた。

 

「あ〜……あのね映画で見たんだけど……

廃れた研究所から怪しい薬を盗み出したら蓋が壊れちゃって、すごいバイオテロが起きるみたいなやつがあってね?それでね、虚空機関って昔からあって、そこの総長ってフォトナーだったんでしょ?

だからその時の菌を貰い受けて保存してたりして、虚空機関の中にあったらめちゃくちゃ怖いなーって思ったら……もう怖くて怖くて眠れなくなっちゃったの!

だからないって言って?おねがいっ!」

 

 レヴィのふわふわとした陽気そうな様子はある意味でわざとらしく、彼女はレギアスの謝罪に一切納得していないのにまるで怒っていないように声をかけていた。

 しかしその心の底は透けている。

『無礼に対する賠償を寄越せ』だ。

 レヴィにとってはそれが情報だった。

 

「慰めでもなく、そのような物質が存在したという報告はされていない」

 

「わぁあ……よかったぁー……!虚空機関解体に乗じて研究所内の物が盗まれてる、みたいな噂を情報屋?みたいな人から聞いてね、それでもし菌のいい所だけを見て持ち出した研究員がC.A.R.D.を作っちゃってオラクルに大蔓延……なんて事になったら超大変だもん!異世界の人のおとぎ話って思っても怖いものは怖いでしょ?」

 

「杞憂するまでも無い。この世界にはフォトンエネルギーがあり、皆フォトンを使用している。その"菌"とやらに取って代わられることは無いだろう」

 

「え?でもその世界にもフォトンがあって、力として使ってたって書いてたよ?でも万物を分解再構成する力は菌にしかないから、パイオニア2総督府?って奴の後押しでC.A.R.D.技術は発展して、それを止めるためにハンターズって総督府の犬とアークズっていう革命組織が戦いを繰り広げたー!って書いてた!」

 

「ふむ……」

 

「あ、レギアス総督も全然知らない話なの?じゃあもっともっと前かぁ……ならいいや」

 

「いいや、とは」

 

「なんかね、その本結構情報が欠けててね、すっごくそこ必要でしょ!って所とかが全く書かれてなかったりするの。だから本をまとめたオラクルの著者の都合なのかも?って思って、レギアス総督がお話相手だったらめちゃくちゃアツくない?とか思ったんだよねー」

 

 レヴィは菌やその別次元についての情報を聞きながら、同時に己の身を遠回しに明るくしていた。

 レギアスから確実に貰えると確信した賠償は願っても貰えないだろうマグや戦略OSでもなく、金でもなく、自分と【敗者】の身の安全だ。

 

「まあでも良かった。分かればいいよ。どうせお前らがわたしにすることなんか暴力と迫害しかないんだし。こんだけ侮辱されてあとから殴られるって分かってるのにその対価に首を求めないなんてわたしってば優しすぎない〜?聖母って呼んでもいいんだよ?」

 

 もし【敗者】の関係者ならば、それをレギアスから聞き出す必要は無い。【敗者】に直接聞けばいいものをわざわざレギアスに聞くことで、レヴィは映画や妙なオカルト本が趣味なだけの変人になる。

 そういう作戦での言葉回しだ。

 

 プラプラとした様子に白とも黒とも取れない目つき。

 その上、レギアスは再びレヴィからどこか嗅いだことのあるような匂いを感じた。

 

そこで、レギアスはふと己の武器である世果を取り出した。

 工房で見たであろうラビュリスはともかく、彼女はソロで活動している為他の創世器を見る機会はそうそう無い。

だから、彼はレヴィに創世器を見せる目的で掲げた。

 しかし、それを見た瞬間レヴィは体を強ばらせた。

 

「待っ……」

 

 レギアスは、レヴィに創世器を向ける。

当たっても無意味のなんて事ない行為だ。ある意味その権威を見せつける、という目的でもあっただろう。

レヴィが殺意を持ってアイゼンハートをレギアスに向けていたのとは違い、レギアスに殺意や攻撃性は一切ない。

それでもレヴィは焦っていた。

彼女には違うものが見えていた。

 

(コイツ……!!)

 

彼女にはレギアスが世果の"刃"を此方に向けて、その長い刀で今すぐにでも刺そうとしているように見えた。

 

 瞬間、レヴィは反射的にレギアスの刃が当たる前に手で止められるイメージが思い浮かび、その通りに動かす。

 

「ん、ッ?」

 

 レギアスはただ真っ直ぐに世果を持っていただけだが、突然自分の体が勝手に動きだしレヴィに向かってその大きな武器を持ち上げていた。

 そして手から力が抜け世果の先がレヴィに向かって降り注いだかと思えば、レヴィが世果を掴んでいる。

 その鞘の大きさからレヴィがどのように世果を受け止めたのかレギアスには見えなかったが、ジグは喉が枯れるような息を吐いてレヴィの方を凝視していた。

 

「び、……びっくりしたぁ……もう!いくら自分の創世器を見せたいからってこっちに向けちゃダメでしょ?そんなに鋭い刃なんだから刺されちゃったらどうするワケ?!」

 

 レヴィは不安そうにレギアスを見つめてからプンプンと幼く怒り、刃から一切手を離そうとしない。

 もう一度言うが、世果は普段大きな鞘に包まれており、思い切り殴りでもしなければただ固いものにつつかれる程度にしかならないのである。

鞘(・)に(・)刃(・)な(・)ど(・)付(・)い(・)て(・)い(・)な(・)い(・)。

 

「レヴィ……?」

 

 レヴィの手は、世果の大きな鞘の中にめり込んでいた。

彼女は抜刀していない武器の"内側"を掴んで受け止めている。

 

「え?何ジグさん。あんたも友達ならこいつに説教してよ!人に物貸す時は刺さる方を前にしちゃダメでしょって……」

 

「……」

 

 レギアスは自分の視界を疑った。

間違いない。世果は納刀されたままの、大型の鞘が刃を隠して包み込んだ大剣としての状態だ。

 しかし、レヴィは何故か内側にある刀を示している。

この機構についてはジグは知っているが普通のアークスが知るわけもない。

身内であるマリアやアルマなどが分かっているくらいの情報だ。

 

「お主はやっぱり……なんか変じゃのう」

 

「はぁあー?わたしが変な理屈とかないんですけど。あんたも!早く鞘に収めてよ!世果ってもっとデカくてぶぁっとした感じのやつでしょ?!」

 

「私は微塵も抜刀していない」

 

「……え?」

 

 レヴィはレギアスとジグを交互に見る。

レギアスはレヴィを怪訝な目で見ており、ジグは困惑したようにレヴィの手の方を見つめていた。

 そこでレヴィはようやく己の視界の異常さに気づき、目を何度か擦るがやはり剥き身の刃が見えたままだ。

 

「ちょ、……あ、え、ま、まっれ、……認識……たぶん、間違えてる……」

 

 レヴィは【敗者】から渡された創世器の資料を思い出す。世果のデータには今見えている異様に長い刃とそれを収める鞘があったはずで、今のレギアスは鞘に収めているのだ。

 

「鞘に入ってるはず……鞘に……鞘に……」

 

 レヴィが念じている間、レギアスは創世器に異常がないか世果を抜こうとしたが、何故か鞘から刃が全く動かない。

 世果の刀身は本来レギアス自身がその時であると意識すればその姿を見せられるものだ。

 しかし、そう認識しているというのに微塵も揺れ動かなくなった。

 

 レヴィが視界に映っていた世果の刃が鞘に変わった瞬間目を開き、うんうんと頷く。

 

「よし、見えた」

 

 レヴィの視界にはしっかりと世果の鞘が映っており、それをレギアスが握って動かしているのが見える。

 

「ごめんねぇ、自分の認識がなんかヘンだったみたい。それ、フォトンによって守られてんのかな?だったら異常があってもおかしくないけどさ」

 

「フォトンがあると言ってもだな……」

 

 レギアスはレヴィのおかしさを指摘しようとしたが、彼女の視線が変な場所にあることに気づいた。

 レヴィはずっと世果の持ち手の辺りを見つめていた。

やはり彼女は今でも世果の中を見ているようだった。

 それが異様で、少し気味悪くも感じたのだ。

 

「……」

 

 レギアスは世果を仕舞うと、レヴィに向き合う。

 

「害がないことは確認した。アークスのランクに関しても検討させて貰おう」

 

「はぁ」

 

「貴女の協力に感謝する」

 

 レギアスは形式的な礼をした後に、踵を返して帰っていった。

 きちんと実力があることは確認したのだ。レヴィには特例で許可を出し、スーパーハード区域の許可を出そうと考えていた。

 無理を通せるだけの理屈もある。

 三世代目アークスの実力からか更に危険な領域にて調査を行うということも現在アークスでは検討されているからだ。

 そこは「エクストラハード区域」と名付けられることになっていて、スーパーハードはその一つ下の区域になるわけだ。

 それゆえ、最高難易度でなければレヴィに特例で許可を出すのは恐らくそこまで難しくはならないだろうと考えた。

 

 そしてレヴィが言った通り、レギアスは総督の座を退く予定ではあるがまだ権力はある。

レギアスが特例として出せばいくら嫌われ者であったとしても、管制部の人間は大人しく話を聞いてくれるだろうと思ったのだ。

 

 

 

「む……」

 

 ――レヴィたちと別れたあとのこと。

レギアスは帰りのキャンプシップの中で念の為世果を再び取り出す。

 先程までは抜刀出来なかったが、今は不思議なくらい簡単に、いつものように抜刀出来た。

 

「……何故だ……?」

 

 レギアスはそのような困惑の言葉を呟きながらアークスシップへ戻っていく。

 

 






 そんな中、レヴィとジグも帰るために動き始めていた。

 レヴィはジグが移動床に乗ってテレパイプの近くに向かっていくところをぼんやりと見つめる。

「おおーい、レヴィは来ないのか?」

「そっちからだとテレパイプ使わないといけないから帰れら……、移動装置を回収してから、その……ちょっと色々工夫してキャンプシップに戻るから待ってて」

 ジグはその言葉を聞き入れてレヴィを見つめながらテレパイプの前に立つ。
彼女がフィールドに置かれた移動装置を回収している後ろ姿を見ながら、ジグはキャンプシップに戻った。

 ブリーフィングルームに戻るとジグは端末を開き、今日手に入れたデータを色々と眺めてみる。
 今日はかなり忙しい日で、レギアスとレヴィが険悪なムードになった時は流石にジグも震え上がった。無駄な口を挟んでさらに逆上させてしまったのかもしれないとも今考えると思うが、どちらかと言えばレヴィに寄りすぎてしまったかとしれないとも考える。

 ジグは戦闘を通して新たに知ったレヴィの情報を思い出し、尚更彼女が迫害される原因がどこにあるのかが気になった。
単にフォトンが使えないだけならあれほどまでの扱いにはならないだろうと思ったのだ。しかし彼女は自分の悪事を他者に漏らしてはいない。
フォトンアレルギーがそこまでの大罪のようには思えなかった。
 確かにフォトンアレルギーでダーカーと戦うのは非常に危険な事だが、周りの人間からレヴィにしている対応は危険からの心配ではなくむしろさっさと死ね邪魔者と言わんばかりの雰囲気だったのだ。
名前も知らぬすれ違っただけの人間に石を投げられるような謂れがどこにあるのか。

 ジグはそんな風にぐるぐると考え込んでいたが、10分経っても20分経ってもレヴィが戻ってこないことに気付く。
 もしかしたらそこまで大掛かりなことをしなければレヴィはキャンプシップに戻れないのだろうか。
 ジグはレヴィに言われるがまま戻ってしまったが、もしなにか手伝えるのであればフォトンが使える身として力になりたい。

 ジグはそう思い、仮想空間に戻ってレヴィを探しに行った。

 ジグが到着するとレヴィは案外直ぐに見つかった。

「レヴィ?……レヴィッ?!」

 レヴィはフィールドにいたのだ。
それも、うつ伏せで倒れ込んで、だ。

「どうした、レヴィ、……起きておるか?意識はあるか?!」

 レヴィは返事もせず、ジグが抱えようとすると力なくだらんと腕が垂れていた。
そういえば、【巨躯】と戦った時に口から血を流していた。内臓を何か損傷したのかもしれない。
 ジグは慌てて端末を開くとメッセージ履歴を開き、そこから連絡を取る。
相手はルオンだ。
何回かコールが響いた後に電話が繋がると、ジグはすぐに叫んだ。

「大変じゃ!レヴィが倒れた!」

「なんだとッ?!」

 通話の向こうから聞こえた男の声は今まで聞いたことがないくらい焦っていて、ガタガタと椅子や机がぶつかるような鈍い音が聞こえてくる。

「病院に連れて行った方がいいか?それとも……」

「すぐ向かう!」

 それだけ聞こえるとすぐに通話が切断された。
ジグは不安そうにレヴィを見つめていると、三分もしないうちに人影が見える。

「ッ!!」

「ハァッ……ハァッ……レヴィ!」

 現れた【敗者】はフードを被った上で黒いマスクを付けた完全防護不審者形態であり、連続した瞬間移動で体に負荷が掛かったのか荒く息を吐いていたが、すぐにレヴィに寄って彼女の元に跪く。

「ルオン!待っておったぞ!」

「ふむ……」

 ジグは【敗者】の到着が早すぎて一体どんな移動手段を使ったのかは少し気になったが、それよりもレヴィの方がよっぽど重要だった。

「レヴィが"テレパイプが使えずフィールドから離れるのに時間がかかるから先にキャンプシップに行ってて欲しい"って言われたから待っておったんだが、随分待っても帰ってこなかったんじゃ、それで戻ったらここで倒れていて……」

 【敗者】はレヴィのバイタルを開き、画面を見て確認する。
 レヴィを柔らかく抱え、そっと触れ頬を撫でていた。

「脈は正常、頭は打っていない、嘔吐等の痕跡もなしか。疲れて寝ただけだな。ここで何をさせていた?」

「ライデンシャフトの転換機構について話していたんじゃが、その時にわしが使ってる所が見たいと言ったんじゃ。それでレヴィが快諾して一緒にここまで来て、最初は原生種を倒しながら普通に見せてくれていたんじゃが、途中でレギアス……六芒均衡の一人がここに来ての」

「レギアス……」

 【敗者】の声は低く、明らかに体が強ばっていた。【敗者】が思う中でぶっちぎりの要注意人物だからだ。

「創世器の持ち主に会ってみたい、っていう目的だったようじゃが、色んなことがあって創世器を使ってダーカーを倒すことが出来るかどうかみたいなテストみたいになってじゃな……最初は普通のダーカーと戦って、それからどんどん強くなっていき、最終的には人型の【巨躯】と戦ったが、全て勝つ事は出来ていた」

「何らかの攻撃が響いたという訳では無いんだな」

「それがのう、低いレベルに設定していたはずなんじゃが、妙に気張っていてな。やりすぎじゃないかってくらいに戦ったと思ったら……倒れてしまったんじゃ」

 【敗者】はレヴィが低いレベルでありながら過剰に戦闘していた理由については直ぐに検討がついた。
 しかし、それにしたって普通のレヴィなら有り得ることでは無い。
普段本物のダークファルスと戦っている中で、偽物の、ずっとずっと弱いダークファルス相手に戦闘して過剰に力を出しすぎたせいで倒れるなんてことはありえない。

「レヴィはそんなすぐ気張っただけで倒れるほどやわな女じゃない」

「?」

「余程疲れていたんだ……この女は」

「あぁ、……そうじゃな」

「レギアスと会わせたのは間違いのようだったな。レヴィは貴様と話す時も平常を装う為に気を張っていた」

「そうか……化粧をして気合いの入った服を着ていたもんじゃから、わしにはむしろ元気なように見えておった……」

 ジグは気絶しているレヴィを見て心配そうに手を差し出した。確かに綺麗な服に綺麗な化粧だが、表情は苦痛で体は強ばっていた。
 今は糸が解けたようにぐっすりと眠っている。

「貴様でさえ大分無理していたんだ。レギアス相手では想像を絶するほどのストレスだっただろう……」

「そうじゃな……いくら本心でない試し言葉とはいえ相当酷いことを言われて傷ついておったわい」

「なんだと……?!奴が僕のレヴィを泣かせたのか……?!」

 【敗者】は驚いて明らかに声が低く震え、おどろおどろしい気配を纏う。
 それはまるでダーカーか、それよりももっと強大な何かのようで、目の前でレヴィを抱いている存在に本能的な恐怖を覚えるとジグは慌てて弁解する。

「おっ、おお落ち着けルオン、泣かせる程ではなかったし、ちゃんと無礼なことをしたと謝っておった。他のアークスとは違ってレギアスはレヴィをちゃんとアークスだと思っておる。
それに、それにな、難易度制限に関して対処すると約束しておったんじゃ」

「難易度制限をか……」

 【敗者】は俯いて顔を顰めた。
 レヴィがノーマル区域でしか活動が出来ないという事で怪しまれなかった潜入も、今後は怪しまれるかもしれないと【敗者】は考えたのだ。

「結婚するとなると……より危険な領域に出撃するようになるというのは複雑なことじゃな。レヴィにとっては嬉しいことじゃろうが……」

「結婚……あぁ、そうだな」

 【敗者】はジグの言葉に適当に返答し、これからの作戦の云々を考え込んでいた。

「それにしても、そこまで疲れておったとは……」

「僕と話している時は呂律が回っていなかったんだ……この子も無自覚に僕の前では気を緩めていたんじゃないか。
とはいえ、ストレスが原因の軽い適応障害に陥っているようだ。ここまで来て昔の生活に戻れる訳もないだろうに……」

「今年中は休ませてあげた方が良さそうじゃな」

「そうしたいところだが、そうやってまた長い休みを取らせると休みを取り返すために無理をして……と繰り返すだけになるだろう。
適切な労働をさせるためには、彼女が許せる範囲だけ休暇を取らせてから一日の仕事量を減らすように指導する方向に持っていくのが良さそうだ」

「確かにそうじゃな……」

「前の怪我の療養期間や強制的な休暇も精神的な負担を助長していたはずだ。それからリラックスできる環境からも離れ、娯楽も義務の内になり、欲求を無理やり我慢してストレスの逃げ場を完全に無くしていた。
しかし指導しても簡単にはいと言う事を聞く女じゃない。かくなる上は……」

「上は……?」

 【敗者】は彼女を抱き抱えると立ち上がり、ジグに背を向ける。

「……これから仕事の日は僕が迎えに来る事にする」

「は、……へ、平気なのか?家から随分遠いじゃろう?いや、それはレヴィにも言えることなんじゃがしかし……」

「交通費の問題も距離の問題も僕には些細な事だ」

 そもそも行きはレヴィの工房に設置されたテレパイプでほとんど一瞬であり、帰りは彼女の個人シップに乗って帰ればいい。
 リスクを無視すれば空間侵食でもっと早く帰ることも可能だ。
おまけに工房通いはあと三ヶ月もないだろうと【敗者】は予測していた。
 来年初っ端からやりたいことが幾つかある。
その為にレヴィ程では無いが器等の自主制作物をかなり急いでいるのだ。

「ならいいんじゃが……」

「……早急な連絡に感謝する。御苦労」

「こちらこそ、急いで来てもらってありがたい限りじゃ。わしの老体だとレヴィを持って飛び回るなんてとても出来んから……
おっと、もうおらんか」

 【敗者】とレヴィはまるで最初からいなかったかのように消えており、キャンプシップに戻っても二人は既に帰っていた。

二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。

  • 続編として作品を分ける
  • 分けないで一つの作品でまとめる
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