※この作品はR-18です。

MIDNIGHT   作:Libby博士

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31話(2)

 

 12月20日。年末年始は長期休暇を取る事がよくある事だと【敗者】に言われたため、レヴィは今日が年内最後の出勤だ。

 

「年内の仕上げにしてはマシな方かなぁ」

 

 【敗者】用のアクセサリーやジグに伏せている過去に存在していた武器の再現など、メインではない武器の周りの試作品はほとんど完成したに等しい。ここまでくれば約束通りであれば【敗者】も協力してくれることになっている。

 とはいえ、【敗者】用のアクセサリーに関してはフィッティングがまだだが、サイズを多少変更しても支障がない仕様にしていた。

 

 そういえば、とレヴィは年末の事で思い出す。

 数日後はクリスマスというスリボーナスタイムなのだが、その日は夜の街に駆け出して人の財布を奪い放題……ではなく、【敗者】と一緒に夜を過ごすことになっている。

 夜を過ごすと言っても性的な意味だけではなく、どうやら二人で一緒に食事を取り、贈り物をする……的な予定だったらしいのだが、贈り物の方はレヴィが【敗者】を自由にできる権利を指定しているため特に何か貰えるわけではないだろう。

 

「なんだっけ……レストランとか混んでて嫌だから……家でやるんだっけ」

 

 とはいえ、家で食べると言ってもどうせ作るのは手料理。それではいつもと変わらないだろうという話になったので、【敗者】はバーベキューを提案した。

 バーベキューはレヴィの全く知らない概念だったが、野外で火を炊いてそこで焼き物を行う催しらしく、寒空の下の野性的な食事方法であるものの庭に防寒用の領域を用意して暖かさを確保し、バーベキューも単なる焼肉だけではなく時間を掛けて煮込んだり家でやることから好き放題デザートを持ち込んだりする……みたいな魅力を【敗者】が淡々と呟いていた記憶があった。

 

「あーあ、でも【敗者】と空き巣パーティもしたかったなぁ。アイツ宝石好きだし、宝石店に侵入して根こそぎ奪い取ったら絶対楽しいのに……」

 

 レヴィは前に二人で行った裏任務道中での虐殺共同作業を思い出し頬を緩ませる。

 あの時は【敗者】が楽しそうに蹴り上げていたな、案外武闘もいけるんだなぁ、みたいな事を頭の中でぽやぽやと出しながら、レヴィは無骨な刃を撫で形を整える。

 

「イノセントローズ……コレ、結構いいんじゃない?」

 

 レヴィが名前を呼んだその武器は彼女の作る武器の中で"ローズウェポン"と分けたシリーズのうちの一つであり、インジュリー効果を持つ呪いの剣とも言わんばかりの代物だ。

 

 イノセントローズ、ホワイトローズ、レッドローズ、ブラッドローズ、ヴァリアントローズなどそれぞれ名前をつけ、ブラックローズ含めてレヴィという武器職人の"作品"となっている。

 

 そして試作品が出来たならやることは一つ。

 使いこなすための戦闘訓練だ。

 

 レヴィは立ち上がりジグに軽いメールを入れると直ぐに工房から離れ、【敗者】に連絡を入れながら早足で市街地を進む。

 44番艦に帰って行ってもいいのだが、年末近くで人工臓器のメンテナンスも行う予定のため74番艦の地下空間で戦闘訓練を行うことに決めた。

 

 発着場に急ぎ船に乗ると74番艦まで移動を始める。128番艦との距離からして考えればかなり遠いものの、128番艦から44番艦に向かうよりはさすがに早い。

 

 暫くすると、自動音声のアナウンスが響き突然シップが近くのアークスシップに向かうことになった。

 

「え……?」

 

 レヴィは困惑して搭乗口の方を不安げに見つめていると、開いた扉からは見慣れた人影が見えた。

 

「あ、……【敗者】」

 

レヴィのメッセージを見て、【敗者】も74番艦に向かうために同乗しに来たのだ。

 

「レヴィ……」

 

【敗者】はレヴィを見ると彼女に近付いていき見下ろす。

搭乗座席の幾つかは旅客機のファーストクラスのような椅子を倒してそのまま寝られるほどの快適空間になっており、レヴィはブリーフィングルームではなくそこに座っていた。

備え付けの小さなバーから紅茶を引き出し映画を見ながら優雅な一時……ではなく、有料講座の動画を見ながら作曲の勉強だ。

 

「かなり本気で取り組んでいるようだな」

 

「あぁ、まあ……なんというかさ、もしわたしたちの計画が終わって、一人になって……それでもまだ生き残ることが出来てたら、アークス辞めて、こういう仕事を全うしてもいいのかなぁーって」

 

【敗者】はそれを聞くとレヴィの頭に手を乗せ、ゆっくりと撫で始めた。

死を恐れず駒として処理されることを許容していた彼女が、"その先"を考えるようになったのだ。

自分と別れる前提というのは腹立たしいが、生への執着は力になることをよく知っている。

それに面倒なメンタルサポートの必要もなくなってきたと【敗者】は心の中で舞い上がり、思わずレヴィを撫で回していた。

 

「こらっ……ちょっと、何してるワケ?」

 

「いや……何でもない」

 

【敗者】はレヴィとの終わりの先を、何度も考えたことがある。

最初は彼女を殺す妄想で、それから段々彼女と円満に別れる妄想になり、最近は偽物だが指輪を持っているせいかレヴィが結婚するかどうか、などということを考え始めていた。

とはいえ、二人にとっての理想の世界では人類は死滅しているし、彼女はフォトンアレルギーの嫌われ者で婚約破棄、成人済みの現在22歳ともなれば……次の貰い手などいないに等しいだろう。

 

(偽物の愛でもいいと言うのなら、別に僕がレヴィと結(・)婚(・)し(・)て(・)や(・)っ(・)て(・)も(・)い(・)い(・)のだが……ん?)

 

【敗者】は自分がいつの間にかレヴィと結婚してもいいということになっており静かに困惑する。最初はそういう形式的なものでも断固拒否だったはずだ。

それが今は真の感情さえ求めなければ婚約者の真似事もして、そういう行為も行って、求められれば好きだのなんだの言うことも出来て……

思ったよりもずっとレヴィに対して寛容になっているのだ。

"気を引き締めなければ、僕は全知の為に生きているんじゃないか"。【敗者】はそう心の中で何度も繰り返したものの、やはり下手な錯覚をするよりもずっと恐ろしい何かが【敗者】の中で付き纏っている。

嫌悪感がない。それは恐ろしい事だ。

下手に脳の錯覚で一気に好きだと思って夢中になるより、長い間居て、何度面倒だと思ったり信じられない、ありえないと思ったりしても、それでもまだレヴィに対してアークスに抱くような生理的な嫌悪感を持たない事の方がずっと恐ろしいのである。

前者より後者の方が冷めにくく、相手への嫌悪の閾値が圧倒的に高いからだ。

 

(落ち着け……いくら此奴が恋愛脳であろうが、さすがにダーカーと結婚したいなどと考えるような阿呆は居ないはずだ。アークスはそういう風に造っている。フォトンを扱う事でダーカーからのヘイトを受け持ち、遺伝子単位でダーカーに対する根源的な危機反応が働くように調整している……が……)

 

「レヴィ」

 

【敗者】は迷った挙句レヴィから手を離し、彼女に声を掛ける。絞り出した声は思ったより深刻そうで、レヴィは思わず振り向いた。

 

「ん?どうしたの?」

 

レヴィは動画を止め、【敗者】に向き合う。

なんてことない日常の会話で処理しようとしていた彼にとってはレヴィに見つめられながら話すのは気恥しいものである。

 

「レヴィは……やるべき事を全て終えたら、誰かと籍を入れようと考えているのか?」

 

「え?無理に決まってんでしょ。わたしの嫌われようはさぁ、あんたの数億倍くらいはあるんだから」

 

レヴィは完全予測範囲内の答えを返すが、【敗者】からすれば気が気でない。

レヴィも彼がそんな分かりきったことを聞いて一体何がしたいのだと困惑しており、彼女は色々考えた末に思った事を口にした。

 

「もしかして、婚約者のフリしてるからわたしが将来なにか不利になるかもしれないとか、そんなこと考えてんの?心配しなくても平気だよ」

 

「そうじゃない……」

 

「んー……」

 

【敗者】は己の前髪をくしゃくしゃと乱し目元をほとんど髪のカーテンで隠して、大きな溜め息をついた。

 

「……そもそもだな、僕が結婚などという物を出来ると思うか?」

 

「え?」

 

レヴィは目を丸くして【敗者】を見つめた。

自分がという話は何度かしていたからレヴィの結婚の話に関しては理解出来る範囲だったものの、【敗者】が結婚、などという話に関しては滅多にないどころか、彼が自分からそういう意味合いでそんなことを言い出すのは初めてに等しいものだったからだ。

 

「だから、僕と結婚したい奴がいると思うか?僕が全知を手に入れたとして、仮にそうでなくても、それ以前でも……」

 

【敗者】はもはや自分がなぜこんなことを口走っているか分からなかった。

レヴィのような一番自分を理解してくれている相手から「居ない」と言われて安心したかったのかもしれないし、レヴィが一人で云々と言い出したから嫌がらせで言いたかったのかもしれない。

しかし、レヴィはその言葉を聞くと【敗者】から目を逸らし、そして何故か顔を赤らめていた。

 

「……」

 

【敗者】はその様子を見て顔が熱くなる。髪で表情は隠せても耳の赤みまでは隠せない。

 

「あの……」

 

レヴィは立ち上がると【敗者】に近付いてそっと体を寄せ、【敗者】の行き場のない左手をぼんやりと見つめていた。

 

「……い、居なくはないと思う」

 

「……」

 

【敗者】はレヴィの体を剥がす。

レヴィは少し驚いたあと当然だと言わんばかりに【敗者】に微笑み、弁解しようとするが次の瞬間目の前の【敗者】が膝を着いたかと思えば彼女はキスされていた。

 

「んっ?!」

 

「僕が何を考えているのか分からない……」

 

「あんたが分からないことをわたしが分かるわけないけど……」

 

しかし、レヴィと【敗者】は目が合うと互いが顔を赤くしていることに気づき尚更恥ずかしくなる。

 

「……ほ、……本物の、指輪とか、ってはなし、前にしたよね」

 

「そうだな……」

 

「【敗者】は、別の人、……渡す、とか……」

 

レヴィは自分から言っておきながらその場面を想像すると頭が痛くなり、顔を赤らめたまま目を潤ませる。

【敗者】は彼女の頬に手を添え、その涙に触れた。

雫が艶めいて暖かい。

親指を動かして拭い、輪郭をなぞるように包み込むと【敗者】はレヴィに向けて目を細め微笑んだ。

 

「安心しろ」

 

「え?」

 

【敗者】はレヴィの手を取り、指を絡めて繋いだ。

 

「互いの不都合は命の危機になる。そう簡単に不幸が実現することはないだろう」

 

「つ、……つまり?」

 

【敗者】が口を開こうとしたその瞬間、船の中がぐらりと揺らぎレヴィが後ろに倒れそうになるところを【敗者】が受け止めた。

その挙動でレヴィは許容範囲を超えたのか顔を真っ赤にして【敗者】の体に顔を埋めたまらま動かなくなる。

 

「……レヴィ?」

 

「も、……もうだめ……」

 

「そうか……」

 

これ以上は何を言っても拒絶されるだろうと考えた【敗者】は、レヴィを抱きしめたまま後頭部を撫でるだけにした。

柔らかい髪、柔らかい肌、小さくて丸くて、そして暖かい。

 

(可愛い……)

 

二人はそのまま、この船が74番艦に着くまでずっと何も言わず抱きしめあっていたのだった。

 





二人は74番艦についた後、なんとか切り替えてタクシーに乗りレヴィのかつての自宅へ向かう。

「今日は何を使う予定なんだ?」

「そりゃ、ブラックローズだよ」

二人の距離は異様に近く、【敗者】はフードを被り顔を隠していたがそれを利用してか体をピッタリとくっつけても恥じらいなく微笑みあっていた。

「試作型ブラックローズのデメリットは現状技の発動方法が端末からで使いにくいのと、あとは大型エネミーに対して致命的に弱いところかな」

「ふむ……試用していてバグなどは見つかったか?」

「いや、現状は仕様のデメリットはあるけどバグは見つかってないなぁ。プログラム段階で徹底的にデバッグしたからかもしれないし、実戦想定のような負荷をかける環境じゃないと見つからないものがあると思う」

74番艦は44番艦と違い人が多い。
外にいるアークスや市民からはタクシーの中でイチャイチャと戯れる二人が見えており、信号で止まる度に稀代のイチャイチャぶりに視線が集まる始末である。

「ならば、隅々まで検証を行う必要があるな。試作品を作った後は協力するという約束だ……快く手伝わせて貰おうじゃないか」

「うん、【敗者】の視点で欠点とか指摘してくれたら嬉しいな。わたしはほら……アイゼンハート以外の創世器には詳しくないから」

「あぁ……数字を見る限りだと、ブラックローズが創世器級の出力を出すにはまだ足りないな。ブラッシュアップは主に火力調整になるだろう」

強い力を出力する為には、それ相応の器が必要である。
武器を扱うのに相応しい肉体と、強い力を受け止められる武器。
その二つが調和した時に、創世器を扱う強き戦士という結果が生まれる。

今のところ、レヴィに関して言えば体も武器も整っているとは言えないが、アイゼンハートを扱える程度の体ならばある。
しかしブラックローズのコンセプトはアイゼンハートを超えること……
となれば体を更に鍛えなければいけないのはもちろんのこと、フォトンアレルギーのレヴィに合わせて出力が抑えられているアイゼンハートの本来の性能と同等かそれ以上の出力を出す必要がある。

「アイゼンハートを使ってきた十数年と比べて、ブラックローズはまだ触ったばっか……武器変化もないから応用力にも欠けてるし、とにかく沢山戦って、体を鍛えて、頑張って頑張って頑張って、力をつけなきゃ」

レヴィはそう自分に言い聞かせ、グルグルと頭の中でまた予定を削る事を考え始めると、直ぐに【敗者】の手が重なり彼女の頬に柔らかい感触が当たる。

「【敗者】?」

「鍛える、と言っても貴様の単純な身体能力は十分だ。問題は貴様が理解出来ていない未知の身体能力が存在することと、新しい武器を使うことによる運動能力の欠如がある事だな。闇雲にトレーニングを行っても意味は無い」

「未知の……」

レヴィは己の体に異常があるという話をジグやレギアスから聞いたのを思い出し、ふと【敗者】に声を掛けてみる。

「あのさ、グラン類似エネルギーって何?」

その言葉をレヴィが発すると、【敗者】は目を開き一瞬動揺したようにレヴィを見つめた。
しかし直ぐに表情は元に戻り、彼女から目を逸らした。

「自覚はあるか?」

「その……全然ないし、データを見てもよくわかんない……」

一応、あの後ジグから記録した全てのデータは渡されたのだが、そのグラン類似エネルギーの数値の上下が一体何の影響を受けているのか分からなかったのだ。

一応空間のフォトン係数、創世器の転換能力使用履歴、グラン類似エネルギーの数値の変化には繋がりがあることが分かったので何かしらの影響を及ぼしているということは分かるのだが、それ以外は何も分からないのである。

「そうだな……フォトンを使っているがその自覚がないという現象は、アークスへの適正が発覚する際によく起こるものだとされている。
極限の状態において無意識下にフォトンをエネルギーとして使用し、治癒のテクニックを使ったり、捨てられていた武器を使って倒したり、通常では有り得ない程の怪力を発揮したり……といった具合だ。
しかし、貴様の自覚のなさはまさしく異常。そこまで長い時間使っておきながら、エネルギーである感覚が全くないというのは……」

「どういうことになる?」

「現状だと二択だ」

【敗者】は足を組み替え、道路の渋滞を見て目を細めた。
前のレヴィの運転は本当に散々で最悪で二度と味わいたくない物だが、彼女があの全速壁走行を選ぶのも納得の混雑状況だ。

「一つは、無自覚になる性質があるエネルギーであることだ。どれほどの数値や出力を出しても、フォトンとは違い使用を自覚出来なくなる何かしらの性質がある。脳や神経に影響を与えるであろうその性質のせいで、貴様は今まで創世器を通して幾度となく利用してきたであろうそれに全く自覚がない事になる」

「ふむふむ……もう片方は?」

「もう一つは……仮説段階での荒唐無稽な話になるが、そもそも体内に存在するエネルギーの量が多すぎて体から減っている感覚がしないのかもしれない、というものだ。
グラン類似エネルギーの数値は使用率であり、0の数値の場合は使用されていない事になるが……全体のエネルギー量がどれほどかはまだ分からない」

「え?あれ使用率だったんだ……エネルギー量かと思ってた」

「フォトンの場合だと、体内のフォトンをエネルギー転換するだけではアークスの活動には不足している。その為、周囲の環境からフォトンを吸収し、さらに武器でエネルギーの増幅と効率的な利用を行う事でアークスは戦士として活動できる訳だが……フォトナーならば周囲からのフォトンの吸収や武器などは必要としない。それはフォトナーの方がより技術力が高く、体内含有フォトンも多いからだ」

「えーっと……つまり、アークスは一リットルの容器から水をくんでるから減ったとか増えたみたいな分かりやすい感覚があるけど、わたしの場合だと一トンの容器から水をくんでるからそういうわかりやすい感覚がないと……?」

「あぁ。しかし、フォトンエネルギーの感覚は増減だけではない。だから、荒唐無稽な話に過ぎないと言う訳だ。現実的に考えればエネルギーの性質にした方が納得が行く」

「でも、なんでその荒唐無稽な説が出たわけ?」

【敗者】はそれを聞くとゆっくりと深呼吸をし、レヴィとは目を合わせないようにした。

「ルビィの器がそれに値しているからだ。身体や遺伝子を調査する中で、ルビィの器のフォトン吸収量及び含有量は異常な程高く、その数値は二代目クラリスクレイスと同等かそれ以上ではないかと疑われている」

「……血縁かぁ」

「そういう事だ。貴様はフォトン適性がないが、かといってその力を受け入れるだけの器がないとは思えないな。
現にグラン類似エネルギーという未知の数値も見えているんだ……貴様が本来どれほどの力を収められる器なのか考えるのも必要な事だろう?」

「うん」

とはいえ、レヴィにとってルビィの話題は快いものではない。特に、レヴィとルビィを比較するようなものは尚更だ。

「グラン類似エネルギーに関しては検証が必要だ。数値の上昇上限はなんなのか、どれほどのエネルギー量があるのか、どんな性質があるのか……何より、"グラン"と同じ物なのか」

「その、……グランって奴はなんなの?」

【敗者】はレヴィの問いに考え込んだ後、ゆっくりと話し始める。

「前に、フォトンを阻害する兵器の話をした事を覚えているか?」

「あ、……あったね、対処法はその兵器そのものを破壊するしかない、みたいな」

「その兵器が生み出しているものがグランだ。話をした時は情報が少なく、特殊惑星探査用中型シップの残粒子や痕跡、搭乗していたアークスへの尋問などから発覚した物だったが……最近いい資料を発見して、調査が飛躍的に進んでいる」

「そうなの?」

「科学的根拠や観測データでは無いが、グランがどういう経緯で作られたもので、どういう性質を持ち、どう扱われていたのか……そういうものが大まかに書かれた記録が見つかった訳だ。まあ、どこまで本当かは分からないがな。恐らく一部は脚色されているだろう」

「ふむふむ……」

「グランは粒子の質が違う為フォトンを扱う為に造られたアークスでは利用する事が出来ないが、奇跡か加護か……後天的に使うことが出来るアークスが多少居たようだ」

「グランは兵器から生み出されたエネルギーで、それがフォトンを阻害する性質があるから、フォトンアレルギーの原因として仮定しているフォトンを阻害するエネルギーがグランかそれに似たものなのかもしれないって考えたんだね」

「正しくそうだ。よく分かってるじゃないか」

【敗者】は珍しく真剣に聞いてきちんと意図通りに呑み込んだレヴィにいたく感動し、頭を撫で回し抱きしめてこれでもかというほど甘やかす。

「後は実際に見に行くだけ、という段階だが……ふふ、僕の視点ならば発見することはそう容易では無かっただろう。お前の功績だ。偉いぞ」

「え?え?あ、……そう?うん……」

レヴィは【敗者】の言っていることが分からず困惑していると、髪が鬱陶しく乱れるほど撫で回され続ける。

「後さ……その、わたしの頭の使い方って、ヘン?」

「頭の使い方?そもそも貴様は頭がおかしいだろう?なぜそんなことを言う?」

「頭がおかしいって……、まあその、平行処理能力が、変だって……」

「その話か。確かに生物というよりかはコンピュータのようだな」

「そっか」

「しかし、その処理能力こそがアイゼンハートのポテンシャルを大きく向上させている。武器を新調したとてそれは上手く発揮されることだろう」

「うん……」

レヴィは柔らかく微笑んで外を眺めた。車が動いているような感覚が無かった為薄々察してはいたが、渋滞が酷い。

「車、進まないね」

レヴィは端末を開き、今日ここで何をやるのかと調べた。

「るー、今日なんかパレードみたいなのやるんだってさ」

アークスロビーの改修やアークスの新生は年末に行われるらしく、それに合わせて連日選ばれたシップで凱旋パレードのようなものが行われているようで、10年前にダーカー強襲を受け大きなダメージを負ったこの74番艦もまたその対象のひとつだったのだ。

「ふむ……簡単には通してくれないようだな」

【敗者】は座席にあるボタンを操作し、窓のカーテンを閉じるとレヴィの方に向き合って近付く。

「……?」

「渋滞の解消には恐らく二時間近く掛かるだろう」

ワープすれば簡単だが、こんな渋滞のど真ん中でダーカー因子を使えるほど二人の肝は座っていない。
凱旋パレードの会場で【敗者】の痕跡が見つかるなどアークスにとってもレヴィ達にとっても恐ろしいにも程がある。

「うん、そうだね……?」

しかし、【敗者】はなんてことない言葉の割に何故かレヴィにどんどん距離を近づけていく。

「……レヴィ、お前が欲しい」

「るっ、【敗者】……」

【敗者】はレヴィの腰に手を回したかと思えば彼女の首筋に顔を埋め、カプリと噛み付いた。
彼女の濃い匂いを嗅ぎながら、【敗者】はじっとりと甘く言葉を紡ぐ。

「駄目か?」

「……そっ、そういう聞き方はずるい……」

レヴィは足を彼に絡ませ、引き寄せると腰を押し付けて恥じらいに赤く顔を染めて呟いた。

「好きにして、いいよ……?」

二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。

  • 続編として作品を分ける
  • 分けないで一つの作品でまとめる
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