「あ、どしたの?」
音声だけの通信。ディナンの声が響き渡る。
レヴィはその声に気付かず、両手を丸ごと腹に入れ、腸をちぎっては砂に埋めて遊んでいた……
「た、た、たたたた、たすけ、たすけ、て、くれ」
「えっ? どうしたの⁈」
「あいつが、あいつがっ、俺あいつに殺される、あいつが、俺を、いや、俺らを…」
「あーっはっはっはっはっは! きゃはははっ! きゃははははははっ‼あははは〜‼たのし〜っ‼サイコー♡」
ディナンの通信には震え上がる男の声と、そして背後にどこか聞き覚えのある女の、とても楽しげな笑い声が聞こえてきた。
「誰に殺されるって⁈というか、今どこ⁈」
「海岸、ウォパルの海岸、ルビィの妹、アイツ、アイツ狂ってる、可笑しい、アイツやばい、本当に、おかしい、早くディナンあいつを殺せ、追い出せ! 早く!」
「えっ……?」
男がレヴィの名を挙げた瞬間、ディナンは一転してケラケラと笑いだした。
「あーもう! 心配させないでよ〜、妹に殺されるって? 酒飲みすぎた?」
「ちが、ほんとに、本当に、俺今、拘束されて、手が、使えなくて」
「アイツ今任務中だから海底に居るに決まってるだろ? 相変わらず座標は掴めないけど……あの根暗陰湿女が道中で遊んでるわけないって!」
「違う! ディナン! 本当に、本当にあの女が! 俺を!」
「……おれを?」
レヴィは男の方に振り向いた。
「ディナン! 助けて! 本当に! 助けて‼たすけっ、たすけ、うわ、ああああああッ‼」
「あーあ、……可哀想に。アイツはクスリのキメすぎだ」
ディナンは男の悲鳴が聞こえても尚ケラケラと笑って、通信を切った。
その画面の向こうで、何が起きているかなんてディナンにとっては男の幻覚のようにしか思えない。
だって、あの〝妹〟なんかがアークスに逆らえるわけがない。
非戦闘員が居るチームメンバーにすら逆らっていないのだから――
「うるさかったなー。うるさいの二人黙らせたらだいぶ静かになったなぁ、みんなそう思うでしょ?」
周りは恐怖に震え失禁する者すら居たが、口だけは何とか黙りこくっていた。
「喋ったら標的にされる」、そう思っていたからだ。
加虐の牙を潜め、御託以外無言で無抵抗のいつものレヴィと違って、弾むような声で楽しそうに話すくせに相手と意思疎通を取る気が微塵もない素のレヴィは……どこまでも恐ろしく見えた。
「コイツあのクソ男に連絡取ってたけど、あの反応じゃまともに取り合ってくれなかったんだろうねぇ〜。普段あんだけ我慢してやってる甲斐があるって感じ〜? えへへ、超嬉しい♡」
レヴィは改めて最初の男の方へやってくる。麻酔はロックベアのような相手に対して使うものだ……人間相手なら簡単にはその効果が失せることは無い。
「ねぇ、かわい子ちゃん。まだ眠ってるの?」
レヴィは目を閉じたままの男に話しかけた。
男も無言のままで、ただ震えながら唇を噛み締め、恐怖に脳が収縮し、歯が欠けるほどだった。
「あなたはわたしのこと、忌み子っていってたよね? 呪いが移るとか何とか……でも、今あなたはこれだけわたしに触られても全然平気。だから、呪いなんてないんだよ?」
レヴィは優しく男の頬に触れたあと、意地悪に呟いた。
「ちゅーしてあげよっか?」
瞬間、男は思わず目を見開く。
目の前には血だらけのレヴィの
顔はあまりにも血で埋め尽くされていて分からないが耳を赤らめており、レヴィは男と目を合わせると「ごめんね」などといって、白衣で顔を拭う。
引きずった血の跡の隙間から赤みが透ける白い肌が現れ、恍惚に染まった表情は不思議と妖艶さを感じた。
男の中で再び「かわいい」の感情が湧いた瞬間、レヴィはパチンと手を叩く。
「やっぱこーんな最底辺の呪われたアークスは嫌みたいだねぇ〜、あっ、一応言うけどわたし自分の事可愛いとか思ってないよ?自分がブサイクだっていうのも知ってるし、どうせ胸だけだから」
レヴィは胸をたゆんと揺らすと、ため息をついた。
「恋愛とかいうやつから宇宙一遠いんだよね〜……」
「い、いや、そんなことない、かわいい、その…笑ったら……」
「あっでも、別にいいの。わたし恋愛とかそういうの死ぬほど馬鹿馬鹿しいって思ってるから。女と男が生殖器擦り合わせてるだけの行為に愛情とか恋慕とか付けたって無駄でしょ?どうせアークスなんかほとんど試験管生まれなんだからさぁ?」
レヴィは悲しそうにしょげた表情を浮かべると、顔を離す。
男は慌ててレヴィの顔を目で追うが、その瞬間に視界に入った真っ赤なものに気が付いた。
「ヒッ⁈」
「あっ! やっぱり、こうやったら見てくれると思った!」
レヴィはピョンピョンと跳ね、血だらけの砂浜で楽しそうに小躍りする。
全ての赤を取り除けば可愛い子供が海ではしゃいでいるだけのように見えるが、周りに転がる死体と、切り開かれた肉体がどうしても正気に引き戻してしまう。
男の腸の中には岩肌に着いていたフジツボが敷き詰められており、間には花を突き刺して…何かの芸術品のような物を作り出されていた。
「ねぇ〜見て? 結構上手くいったと思うの。こことかさ? 胃。分かるよね? この形を上手く再現出来るように選定にも気を使ってさ……、あ! もしかして集合体恐怖症? だったらごめんねぇ〜?」
「ぅ、うっ、う、」
「ふふ、生身のわたしですら臓器交換する時生きてたんだよ? だからこんな程度じゃ死なないし、ちゃーんと抑えてるから。フォトンがあるから皆頑丈でしょ?」
レヴィはさも当然のように血まみれの腸を掴むと、男の顔に投げつけた。
「ひぎゃああああッ⁈」
「あっはぁぁあ〜‼あはははっ! なーにその声! あははっ! かわい〜♡」
レヴィは男の事をいたく〝気に入った〟ようで、解剖前の他のアークスを連れてきたかと思えば目の前で殴り始める。
「アークス達って、フォトンで感知して敵を見て、フォトンを使って弾を撃って、敵を殴って、それから攻撃の回避も感知だよね……すごいなぁ〜、フォトンが使えるってさぁ」
レヴィは他愛もないことを言ってくすくすと笑いながら、顔面をひたすら殴り倒していた。
殴って殴って、とにかく殴って……顔が歪み、ボコボコに膨れ上がるまで殴った後、レヴィは立ち上がる。
「蹴られたからお返ししなくちゃ。……んー、よいしょっ!」
レヴィは助走をつけ、全力で倒れたアークスの腹を蹴りあげた。
瞬間、辺りの砂が一気に沈み込み、風が吹き荒れると共に一瞬でアークスの体は突き上げられ、小石程度の大きさまで縮んで……急降下してくる。
レヴィは急降下してくるアークスを見ながら、その落下地点に遊んでいた男がちょうど重なるところを見るとわざとらしい表情であっと驚いて振り向く。
「あっ! 方向調整ミスっちゃったぁ〜! ごめぇん! わたしってホント運悪い〜」
「えっ? あっ? あぁぁぁあああッ⁈」
男の正常化バイアスもようやく終わりを告げ、降り掛かってきた死体に押し潰され辺り一面に血が撒き散らされる。
それからもレヴィは解体して遊んでいると、余程の恐怖に引き寄せられてか、ダーカーが現れだした。
惑星ウォパルでよく見かける、有翼型のダーカーだ。
「あ、ダーカー。……コレ食べていいよ?」
レヴィは満足し、白から赤に染まりきった白衣を脱ぎ捨てダーカーに剣を向けることもなくただ水平線を見つめ続ける。
「あー……なんか、任務めんどくさくなっちゃった。帰ろっかなぁ……よしよし、いい子いい子♡」
死体の上に乗った有翼型の小さなダーカーの頭に手をぽんと乗せ、少し撫でるとレヴィは踵を返して海岸を歩く。
「アイゼンハートを起動すると襲ってくるけど出さないとあぁなんだよねぇ、ダーカーって。可愛い〜……ふふっ……」
「はぁ……」
任務を放棄して帰るキャンプシップの中、レヴィは備品にあった水と持ち運んでいた簡易シャワーを使って体を洗い流した後、ほとんど裸のままため息をついた。
「ちょっとだけ楽しかったけどサイアクの方が上回ってるかも……」
せっかくいい気分で海を見ていたというのに、間からよく分からないやつに入られて殴られたり蹴られたりして鬱陶しかった。
その後にたくさん遊んだ分はあるが、面白い反応をしてたのは一匹くらい。あとはみんなありきたりでつまらない……
レヴィは先程の虐殺をそう分析すると、ぼんやりとチームのことを思い出す。
チームでの任務を破棄して帰ってくるのだ。まあ、今まで無遅刻無欠勤だったから一度は許されるだろう。
それよりも……チームと言えばあの人形だ。
「……は…」
レヴィはあの人形の事を考えた瞬間、自分が今裸体だということを改めて思い出す。
「う、……」
先程まではなんとも思ってなかった全裸だというのに、あの人形のことを考えるとどうしてか恥ずかしく感じて……
「……ムカつく…」
いそいそと服を着直し、上着のないベースウェアの状態のままレヴィはキャンプシップに座り込んで目を閉じていた。
しばらくして着艦アナウンスが聞こえると、レヴィは端末を取り出し行き先を惑星リリーパに変更した。
一応チームルームには寄らないといけない。
出発も遅く遊びすぎたせいで時間はもう22時を回っていた……
ディナンから届いていた着信も完全に無視放題。
レヴィは元々緊急連絡以外に端末なんて見る癖が無いが、これは流石に無視のレベルが桁違い。
さて、どう言い訳しようか……
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる