※この作品はR-18です。

MIDNIGHT   作:Libby博士

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32話(3)

地下空間から外に出ると、近くには【敗者】が呼び寄せたらしいタクシーが止まっていた。

 

「おっ、気が利く〜♡」

 

「当然だ」

 

レヴィはそこでようやく下ろされるが、【敗者】の傷は塞がったものの服には穴が空いたままだ。

 

「もー、こんなの周りに見せたら大変でしょ?隠さないと」

 

レヴィは【敗者】に向き合い傷を隠そうとする。

しかし、突然目つきが鋭くなったかと思えば【敗者】の手首を掴んだ。

 

「着いてきて!」

 

「……」

 

「早く!」

 

【敗者】は少し止まっていたが、いてもたってもいられなくなったのかレヴィが【敗者】の腰を掴むと持ち上げて抱き上げる。

 

「ッ?!」

 

「動けって言って動かない方が悪いんだから!」

 

レヴィは早足でタクシーの中に【敗者】を捩じ込み、自分も入り込むと直ぐに扉を閉め窓を隠した。

 

「このバカ女が……事情の一つくらい説明しろと……」

 

「人前でルビィが居るって大声で叫んであげた方が良かった?」

 

【敗者】は動揺した表情を浮かべていた。自分よりずっと小さい、1.4メートルもない女に姫抱きされてそのままわけも分からず車まで連行されたら流石に驚くだろう。

 

「あのアークスのフォトンは感じなかったが?」

 

【敗者】は冷静に声を紡ぐが、レヴィは首を振って淡々と呟く。

 

「あのクソ女、光学迷彩付けてた。パーソナルデータとかフォトンが隠せる奴……あれはアークス研究同好会にあった物のはず……ディナンの奴が流した?なんの目的で……?」

 

ルビィは【敗者】の背後に居た。

それでも普段【敗者】がルビィの位置を感知出来るのは、彼女特有のフォトンを感じ取っているからだ。

しかし、光学迷彩をつけていたら話は違う。

レヴィが初めて【敗者】に会った時のように、アークス研究同好会が作っている"秘蔵の光学迷彩"とやらを付けると、相手がダークファルスのような相手であれど存在やデータを隠し行動することが出来るのだ。

 

そして【敗者】と違ってレヴィがルビィを認識出来たのは、レヴィがフォトンに頼らず自分の優れた視界でルビィを視認できたからだ。

あの光学迷彩はありとあらゆるデータ反応には出ないが、逆に感知部分を調整すれば視界にだけは入るようになっている。

 

「ディナン……。貴様のチームのマスターか」

 

「あんたの元側近みたいなものでしょ?なんか知らないの?」

 

「……性悪でいけ好かない奴だ」

 

「なんだ、結構知ってんじゃん」

 

レヴィはクスクスと笑って返したものの、先程までの上機嫌は収まり真っ暗に隠された窓を見ながらぼんやりと考えていた。

 

「ルビィの野郎が光学迷彩を付けて探す相手なんて……あんたくらいしか居ないんじゃないの。ディナンがそれに噛んでるなら色々納得出来る」

 

「取引している、という事か?しかしあのアークスが取引に納得するとは思えないな。アークス共の思考は悪即斬、だろう?」

 

「……だとしたら……」

 

「逆なんじゃないか?」

 

【敗者】はレヴィに向けて指を指した。

 

「ほへ?」

 

「僕じゃなくて貴様を探しているということだ」

 

「うーん……」

 

レヴィは考え込む。

 

 ――確かに、あの日以来チームには全く寄っていないしディナンに連絡も取っていない。

必要だったルーサーの依代は【双子】によって喰われて無くなったらしく、ルーサークローンの器は今の【敗者】が所有している。

それで【敗者】がディナンからの連絡に応答する訳もない……

となれば、奴が自分を探しに来るのは理解出来る。

でも、ルビィが自分を探していることに関しては全く理解できない。

 

「あのクソ女はわたしと【敗者】の関係性を疑ってるってこと?もしかしたら、ディナンが自分の事情を話したのかもしれない……。わたしを見つければ、必然的に【敗者】も見つかるかもしれないって」

 

「それは僕の知ったことではないな。だが、あの男がそう易々とルビィに計画を話すようには思えない。ああ見えて用心深く、ルビィの影響力の大きさはよく理解出来ている筈だ」

 

「はぁ?アイツ酔って口滑らせてた癖に?」

 

レヴィはディナンが用心深いとも口が堅いとも全く思っていなかった。

レヴィにとっての彼は自分よりも年下で、ヘラヘラしていて責任感がなく、その癖にリーダーぶって少し気に食わないと喚き散らかすバカだ。

 

しかし、【敗者】の方があの男と過ごしていた時間は長く、彼の狡猾さをより理解していた。

あのタイミングで虚空機関を抜けたことも、ルーサーの敗北を予想しての事だったのだろう。

もし仮にルーサーによってオラクルが崩壊していたとしても、本拠地であるチームルームは文明の存在する惑星リリーパに置いてありそこで生活できるだけの物資や惑星航行する為の小型シップも用意してある。

レヴィはアダルトグッズのようなしょうもない物にばかり目がいっていたが、良く考えればチームルームの割に設備が整いすぎている訳だ。

そして極めつけに。

 

「あの男はいくら酒を飲ませても酔わないがね」

 

「え?」

 

「酔ったフリをして憂さ晴らししてただけじゃないか?」

 

「〜〜ッ!!ほんとにアイツ……クソ野郎すぎるんだってば……!!」

 

ディナンは酒や違法薬物を嗜んでいたが、あの男にそれらはほとんど機能しない。

彼は周囲に馴染めないような若者達を連れ込み、酒やパーティードラッグでコントロールして違法行為に同意させ、ハッキングやクローン開発などといった怪しい計画に彼らを半ば無理やり同意させていた。

駒として扱えれば才能の有無は関係ない、などという考えだけで研究員ではない友人やナンパで連れ込んだような相手すら支配していたのだ。

そして少人数のように見えたのは、普通のメンバーは数回もしないうちにチームの非道な任務で使い捨てられるからだ。才なきものはそうやって振るいにかけられるようになっている。

レヴィが生き残れたのは、極秘機密データと器の見てくれだけで完全にコントロールする事が出来、悪運が強くハッキングの技術はディナンよりも上というたまたま"幸運"だっただけであり、その幸運さはディナンにとっては当たりでありながら外れ、として認識されていた事だろう。

 

「貴様があのディナンの下にいる人間と言う時点でチームの奴らにこの僕が着いていく理由などなかったわけだ。仮にやつが居なかったとしても、ネズミ風情に縋るつもりは毛頭ないがね」

 

「……だから無能って分かっててもわたしの方がマシってなったの?」

 

「貴様は別に無能じゃないが……。仮に無能だとしても、あの状況下なら貴様を選ぶだろう」

 

「ふぅん……」

 

レヴィは【敗者】の慧眼さに少し感動し、あの時の交渉が今となってはかなり納得出来るようになっていた。

目の前のわかりやすい砂糖菓子に飛びつかず苦い薬を選べる存在だからこそ、数百年も粘って居られたのだろう。

とはいえ、最後の最後でそれらを全て放棄したから【敗者】は今ここにいる訳だが……

 

「まあつまり、……ルビィが何かしらの理由で嗅ぎ回ってる所に、ディナンが引っ付いてきた訳ね」

 

「ルビィがレヴィの在籍していたチームに赴いて話を聞く、という行為を行った可能性もある。その時にディナンが協力を申し出たのかもしれない」

 

「なるほどね……それも有り得そう」

 

レヴィと【敗者】はタクシーから降りるとロビーエリアを歩く。

レヴィは【敗者】の服の破れを隠すように頭を寄せてゆっくり歩いていたが、【敗者】がレヴィの膝裏を軽く蹴ると彼女の横を通り過ぎてスタスタと早足で歩き始めた。

 

「あっ、ちょっと!」

 

「コソコソしている方が怪しまれるぞ?」

 

「でも……むぅうう……!」

 

どうか人に見られないように、人が来ないように……そうレヴィが祈りながら船までの道を歩む。

幸運な事に74番艦でありながらも人が少ないブロックだからか誰一人としてすれ違う事はなく、そのままいつもの船に戻ることができた。

 

「はぁあ……もう、ヒヤヒヤさせるんだから」

 

「……ルビィが貴様を嗅ぎ回っているのは謎だが、基本的に使用している偽造アークスカードの住所は74番艦だろう?ジグが下手なお節介をしない限り44番艦には来ないはずだ」

 

「でも、ジグに渡したアークスカードは偽造の方だし……」

 

「貴様が44番艦に帰宅しているという話を一度もしていない……なんて言えるほど偉い奴には思えないがな」

 

「うっ」

 

確かに、ジグの目の前で何度も【敗者】の事を本名で呼びかけては止められていた人間だ。

家が44番艦にあることくらい言っているに決まってる、とレヴィは心の中で呟いた。

44番艦が住所なのはレヴィの本名義とルオンとしてのアークスカードの為、ジグからすれば同棲しているが住民票を移してないだけ、で戸籍上の住所の違いを済ましてくれるだろうが、それはそれとしてあのお人好しのジグがルビィに聞かれたら実は今の住居が44番艦にあると答えるはずだ。

 

「ジグなら言うと思うよ……」

 

「……ルビィがジグの方に向かっていないことを祈るばかりと言いたい所だが難しいだろうな」

 

「じゃあこれからどうするワケ?!」

 

「何、いつも通り堂々として居ればいい。声を掛けられたら喧嘩すればいいし、ストーキングされていたら軽く振り払え。下手に対策して向こうの出方を見抜いていると理解される方が面倒な事になる」

 

「まあ、確かに……。光学迷彩以上のことされたらもうわかんないもん。そうなったら、今の状態のまま泳がせておく方が向こうの動向を把握出来ていいかも」

 

レヴィはようやく納得すると、ソファにちょこんと座り込んで端末を眺め始める。

【敗者】はようやく74番艦から離れられた事で張り詰めていた空気が晴れ、特にキツく抑え込んでいたダーカー因子を少し解放し軽く深呼吸すると戦闘データを眺め始めた。

 

「やはり、現状の課題は創世器級というには性能不足な所だな。貴様も理解しているだろうが、本来創世器とはフォトナーの魂と莫大なフォトンを結合させ、武器の形に変化させたものだ。それ即ち、人工の創世器には重要なパーツであるフォトナーの魂という物が不足している」

 

「でも、材料になるほど強いフォトンを持つ魂とか思いつかなかったし……」

 

「そうだな。フォトナーが今居ないとなれば、それと同等以上の物と言えば……」

 

強いアークスの魂であれどフォトナーの女神や男神の魂に値するとは思えない。現状、それに最も近く、越えられるほどのポテンシャルを持つ魂は一択だ。

 

「……僕の核を使ってみるのはどうだ?」

 

その言葉を聞いてレヴィは顔を青くしブンブンと首を横に振った。

 

「はっ?!い、いやいや絶対有り得ないから!この武器にあんたの魂乗せたくない!そんなことしたらちょっと傷つけただけでギャーギャー言うし万が一壊したらあんたも死ぬでしょ?!」

 

「そうか?……僕は結構、本気だったんだがね」

 

武器に命を預けるというのは大きなリスクを背負うが【敗者】という存在の可能性からして考えればある意味では生存に大きく作用するかもしれないからだ。

ダークファルスの核をまさか自分を守るパートナーの、壊れることが当たり前であろう武器に入れているわけが無い、というアークスからの偏見が致命傷を避ける可能性がある。

【敗者】にとって致命的なのは魂とも言えるダークファルスとしてのコアを破壊され封印されたり浄化されるようなこと。それさえ無ければ不滅に等しいものであり、今のように大きく損傷はしても死ぬ訳では無い。そのコアを自分の内側に置いていいのか、実はレヴィの武器の方に置いた方がいいんじゃないか……その発想はかなり本気だったが、レヴィからしたら流石に怖い以外の何物でもない。

 

「それと同等以上の物となると……」

 

レヴィはどうにかそのリスクの大きな考えとは違うところに着地させたいと思いアレコレと考え込む。

【敗者】は仕方ない、とため息の後に彼女が納得するような別案を挙げた。

 

「そうだな、人ではないとすると……惑星にするのはどうだ?アークスが探索しないようなハビタブルゾーン外の惑星を構成するエネルギーやその中心核だ」

 

「確かにそれなら……でも、惑星が持てるフォトンの量って人と比べたら大きいけどさ、魂と中心核って別物すぎるよ?」

 

「そうだな。現状、宇宙銀河に無数とある惑星のうち人のように知性を持った例はたった一つ。仮にアークスの探索範囲外、遠い場所に知性を持つ惑星があったとしてもそこに用意も無しに近付いて武器に取り込むというのは難しいだろう。

ただし、これは知性を持つ惑星の核を魂として取り込む場合の話だ。そもそもそうではない惑星を取り込む場合の話とは違った物であり、……ようは、そこを考える必要がある、という事になるだろう」

 

「うーん……」

 

「手っ取り早く惑星を自分の物にする事は出来る。惑星ウォパルやマザーシップで行ったように、惑星と融合する事だ。これの利点は、仮に惑星の命が失われたとしても僕の命が失われる訳では無いということ。そして、惑星と知的生命体が融合した時点でその惑星の中心核は魂と同等と考えることも出来る」

 

「人の身で惑星と融合なんて出来るワケ?」

 

「無理だろう。僕はその研究に何年費やしたと思っている?我が依代がフォトナーだったから通用しただけで、アークスの脆弱かつフォトンの少ない器では到底融合など出来ない」

 

「ここまで言っといてそれでオチるつもり?!」

 

「……というのが凡人の出す結論だが、この世には一般的な物理法則や理論では説明出来ない奇跡と言うものが多数存在している」

 

【敗者】は話題に急ブレーキを掛け、道を変えるかのようにまた走り出す。

 

「貴様はそういう方向で期待出来るという訳だ」

 

「わたしに期待なんかしないで欲しいんだけど……」

 

「安心しろ。貴様はこれまで何度も僕の想定を超え、高いハードルを設定してもそれらをクリアしてきた。間違いなく有能だ」

 

【敗者】は少しの嘘のような誇張を混ぜていたが、彼女のポテンシャルが大きいことに関しては一切嘘ではなかった。

それに、今成果がないと見えているようなものもたかが数ヶ月の観測結果に過ぎず、時間が経てば【敗者】の言葉が嘘にならないほどレヴィの結果は出るだろうという予測は出来ている。

 

「わたしはそんな物じゃないんだってば……」

 

レヴィにとっては自信が持てないのも当然だ。

彼女は自分の技術が低いものでは無いという自覚はあるが、それが他者から評価されるものだとは微塵も思っておらず、特に【敗者】のような相手に対してはどんな技術を持ってしても全て砂のように小さく脆い物のようにしか感じられなかったからだ。

期待はずれだ、無能だ、無価値だと何万回も色々な人間から言われてきた言葉達は間違いなくレヴィにとっての呪いになっている。

 

だからといって、どうやったらレヴィが【敗者】から認められて、自分も許せる程のレベルになるかというのは皆目見当もつかず。

 

「志が高いのは結構。しかし、その意識が人の話を聞かない理由にはならないだろう」

 

「むぅ……」

 

「貴様の人間不信も人嫌いも僕は承知しているが、そのせいで思考が停止して成果を出せないと言うのなら話は別だ」

 

「だって……失敗することが許されてないじゃん」

 

「誰がいつそんなことを言った?何事も失敗して当然だ。貴様はソフトウェア開発をしているから分かるだろうが、途中で上手くいかずに悩み続けるよりも、バグがなく進行する方がよっぽど怖いだろう?失敗は罪ではなく知を得る事だ。そこには間違いなく価値がある」

 

「……殺そうとしたくせに」

 

「あれは失敗ではなく命令違反かつ謀反だ。明確にリスクを説明し、止めた上で、貴様は悪意を持ってあの行動を行った。計画だけで言えば成功だ。それも理解出来ないのか?」

 

「……」

 

レヴィは無言のまま黙りこくり、【敗者】から目線を逸らした。

 

「貴様はもう少し知を得ることに貪欲になる事だな。

目の前にあるデータを隅々まで検証し、あらゆる可能性を模索し、最後には手に入れた知識の全てを覆す事になる未知も考慮する……それが研究するという事だ。

失敗してはいけないのではない。失敗した時に不都合だからと放置したり隠したりせず、原因究明を行い役に立てろと言っているんだ。僕の言葉はそんなに難しいか?」

 

「……」

 

「理解出来たのならちゃんと返事をするんだ。無言で不貞腐れて相手に察してもらうのが当然だと思っているのか?それはコミュニケーションではなくただの傲慢だ」

 

しかしレヴィは尚更不機嫌になって顔をしかめるだけで、【敗者】に返事しようとしない。認めるということは負けることで負けることは死ぬことと同等、のようなこんな場所でしか発揮しないような無駄に高いプライドがレヴィを邪魔しているからだ。

 

【敗者】はそれを察すると彼女を細く睨んでから、腰を曲げてレヴィに顔を近付けた。

 

「レヴィ、もし理解出来たのなら……そうだな、僕にハグでもしてくれ」

 

レヴィはそう言われても顔を背けた為、【敗者】は大袈裟に頷いて体を起こした。

 

「わかった。ならもう一度最初から説明し直してやる。まずは貴様が……」

 

【敗者】は本当にもう一度説明を始めた為、レヴィは慌てて【敗者】に飛びついて抱き締める。

 

「……」

 

ぎゅう、と強く拘束しながらレヴィはやっぱり無言のままで、【敗者】はそんな聞き分けの悪い子供みたいなレヴィが面倒なのに可愛くて仕方なかった。

 

「ふふ、……本当に幼稚だな貴様は……可愛らしい物だ」

 

「うるさい……」

 

「はいはい、本当に仕方の無いお嬢様だ」

 

【敗者】は彼女を抱き上げて頬擦りをし、頭をよしよしと撫でる。

 

「こっ、子供扱いしないでよ……!」

 

「あぁ、心配する事じゃない。子供の扱いには慣れている」

 

「だから子供じゃないってばぁー!!」

 

そんなことを言いつつ、レヴィはニコニコと笑顔で笑っていた。

二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。

  • 続編として作品を分ける
  • 分けないで一つの作品でまとめる
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