――ジグの工房前。
寝ぼけた目でレヴィは扉をノックし、ぼんやりと待つ。
「おお、レヴィ……今日はどうしたんじゃ?」
「え?……あっ」
扉が開き、ジグが顔を見せた瞬間レヴィは時計を見た。
朝の六時半。あまりにも早い時間だが、工房に向かうにしてはだいたいこれくらいがちょうどいい。
しかし今日は22日。11時から【敗者】と一緒に外出する用事があり、間違っても工房で仕事をしていい訳などない。
(ね、……寝ぼけてこっち来ちゃった……!!)
レヴィは慌てて朝の記憶を振り返る。
朝起きた時、隣に【敗者】がいなかった。
仕事の日ならよくある事だが、休日にしては珍しい。買い物に行くというのもあって二人でギリギリまで寝込んでいるものだと思っていたのだが、実際彼はトイレか作業か何かで起きていたのだ。
それで、レヴィは寝ぼけて仕事の日だと勘違いしたまま、なんだかんだと準備を進め家に出るまでに【敗者】とは会えることなく、そのまま128番艦に来てしまった。
「……」
「もしかして……」
目の前で時計を見ながら硬直している彼女を見て、ジグは察した。
間違って来てしまったのだと。
しかし、レヴィはそう簡単に自分の間違いを認められる女では無かった。
プライドが無いように見えてある上、自分に明確な落ち度があるミスは特に認めたくない。
だからレヴィは、迷った末に声を絞り出した。
「……24日」
「ん?」
「24日、家で……クリスマスパーティするの。ジグさんも来ない?」
レヴィはニッコリとジグに笑いかけた。
心の中ではその笑顔が引きつっていたが、表面上はしっかり微笑みきれている。
「クリスマス……パーティ?」
「あ、そう。夜にやるんだけど……まあ、バーベキュー……みたいな?」
パーティの誘いをこんな突然、休みの日なのにわざわざ作業服を着て来るわけないだろうなんてことは思いつつ、レヴィは笑みを崩さない。
「むぅ……」
ジグはすぐに答えを出すことが出来なかった。
ジグは消化器などの生体部分がほとんどないタイプのキャストだが、食事用のパーツを付ければ生体種族と同じような食事を行うことも可能だ。
しかし、食事用のパーツを使った記憶など数十年前で止まっている。
倉庫に残っているかどうかの確認すらしていないし、取り寄せたところでジグのような古いキャストパーツを使用している者の食事用のパーツの取り付けはどちらかといえば面倒寄りな作業である。
「どうする……かのう……」
「バーベキュー嫌?まあ、44番艦は遠いけどさぁ」
「航行に関しての問題は一切ないんじゃが、食事の面で少し悩んでいてな」
「あー……パーツ付けなきゃいけないって話?それは確かに悩むね」
「行ったら誰がおるんじゃ?」
「えーっと、ルオンと二人きりだよ」
レヴィはジグのヘッドパーツを眺めながらさも当然のように言葉を紡ぐ。
「シルンもいた方がいいなら呼ぶけど……それ以外を呼ぶのはちょっと難しいと思う。わたし人からあんま好かれてないし。あんたの友達とか呼んでもウマが合わないんじゃないかな」
「ふむ……まあ、少し時間を貰えるか?」
「平気?明後日だからまあ、突然すぎるっちゃすぎるけど……」
「お主からすると、明後日でも誘えるという事はすぐに出来るということじゃろう?まあ……今日中には答えられそうじゃ」
「じゃあ、メールで返答してね、待ってるから」
「うむ」
ジグからの返事を聞いた後、レヴィは直ぐに扉を閉じて隣にある自分用の工房へ入った。
工房の中に入るのは数日ぶりだ。
空き巣対策に重要な資料や武器の試作品は全て移したあとで、随分閑散とした部屋になっている。
レヴィは部屋の中からいくつか道具を取って仕舞い込むと、立ち上がって直ぐに動き出した。
時間はまだ7時前。今から帰っても外出予定時刻には間に合う。問題なければ2時間くらいで絶対着く。
「はぁあ……絶対【敗者】が隣にいないせいでしょ。わたし悪くないし」
レヴィはそんな言葉を呟いた後、早歩きで船まで戻り家までまっすぐ帰った。
家に帰ると、レヴィは急いで自室に戻り作業服を乱暴に脱ぎ捨てて棚を探る。
「あ、……もう……料理本どこ置いたっけ?」
パーティにジグを招くとなればある程度自分でも料理を作れないといけない。
色々貰った本の中にフレンチやデザートの料理本があったはずなのだが、完全に無くしていた。
出てくる造形の本や哲学、音楽にゲームの攻略本など様々な趣味の本を掻き分けてなんとか料理本を何冊か取り出す。
「よいしょ……んー、……バーベキュー?って奴はどれに載ってるのかなぁ」
軽く目次を眺めてみるが、中に野外での料理に関する記述はなかった。
当然だろう。フレンチとスイーツで野外は難しい。
「あ、……野外なら、キャンプ飯とかの方が近いかも」
レヴィは上手くいい方向に気付きを得るとキャンプに関する本を幾つか取り出してみる。
初心者向けを謳った物からキャンプ用品のカタログまでかなり幅広くあったが、その中に丁度キャンプ飯に特化した料理本が混じっていた。
「これ!こういうの参考にしたら上手く行けそうじゃん…」
バーベキューとキャンプ飯は全く違う概念だが彼女にとっては野外飯に過ぎない。
中身を眺め、外でも簡単に出来る焼きマシュマロやチュロスのようなデザートを見ると思わず喉がごくりと鳴る。
「うわぁあ……美味しそうっ、すっごく……ううぅー……これ冷凍チュロスって書いてるから、後で【敗者】におねだりしよーっと!」
部屋に置かれたキャンプギアはかなり本格的かつ高級なものであり、それを見ると前に【敗者】とテントを例えに出して話をしていたな、と思い出したりする。
あの時はナベリウスでの野宿を想定に話が進んでいたが、実際二人でナベリウスにキャンプというのも悪くないだろうし、新しく見つかった惑星や、アークスの調査が終了し安全が確認された環境豊かな惑星まで行ってキャンプするというのも悪くないだろう。
「あいつキャンプとか興味無さそうだけど、なんでこんなの買ったんだろ?まあ、そんなこと言ったら楽器とかもそうだけどさ……適当に高いものばっか買ったとか?」
確かに【敗者】は彼女が興味を持つような娯楽を能動的に取り組むことなどないが、情報収集能力が高ければ調べることは造作もない。
「まあ、買ったということは誘えって事だよね?これどう見ても一人分のサイズじゃないし」
キャンプシップに取り付けて使える大型拠点用テントや複数の部屋があるインフレータブルテントなど、一人どころか一世帯で使うようなサイズ感だ。
クローゼットという名の隣の部屋にはそんな道具がまるで業者の倉庫のように詰まっており、空きスペースはこれから増やせという【敗者】からのテレパシーを受け取れる。
そんなふうにあれこれと道具を取り出しては眺めていると、扉の開く音がしてレヴィは振り向いた。
「おはよう。随分と早起きじゃないか」
「あんたこそね」
「僕は忙しいんだ」
「忙しいのにパーティなんかしていい訳?」
「その程度の時間はある」
【敗者】は脱ぎ捨てた作業服を拾い上げて顔を顰める。
「脱いだ物は片付けろと何度言ったら分かるんだ?」
「どうせまたすぐ着るしいいよ」
「一週間以上放置するのが"すぐ"とは、貴様の時間感覚もどうやら僕に寄ってきたようだな」
「それっていい事でしょ?」
「衛生管理上、最悪の思考回路だ。いいわけが無いだろう」
「むう……」
レヴィはそのまま部屋に閉じこもるつもりでいたが、【敗者】に腰を掴まれるとサッと抱き寄せられた。
「なっ、何?」
「外出する予定じゃなかったのか?」
「あっ、着替えないと」
レヴィは当然のように【敗者】に抱き上げられ、進み始める。
「今までは、寝室と隣接する場所に用意した更衣スペースを使用していたのだが、今後着用する服や防具のサイズや質を考えてドレスルームも用意しておいた」
「ドレスルーム?……わぁあ……!広い……!!」
「動線を考えて棚の位置やスペース配分は計算しているが、今日一度ここで試して調整をしたいんだ。だから着る服はいつも通りだが、ファッションを構成するシャツやソックスなどは部屋のあちこちにある不必要な棚の中で眠らせている」
「効率チェックってことね?好きにすればいいんじゃない?わたしどうせここにいるだけだし」
レヴィは指定された場所に立ち全身鏡に映る己の姿を眺める。
自分の容姿を可愛らしいとは思わないが、【敗者】から可愛い可愛いと言われ続けたせいか「かわいこぶってる」感じはしている気がする。
「んー……」
しかし下着姿では可愛らしさという奴は特に分からない。
服を着て可愛らしくなったというなら可愛いのは体ではなく服だろう、なんて悶々とレヴィは考える。
幾つかファッションを構成するパーツを持って【敗者】が近付いてくると、レヴィは彼に声を掛けた。
「わたしってさ、……あんたから見て、可愛いの?」
「何を当然のことを今更?」
「全然当然のことじゃない!……じゃなくて、えっと……例えば、今のわたしは?」
「変わらず、可愛らしいと思うが」
「じゃあ裸のわたしは?!」
レヴィの焦燥に染まった顔と鏡に映る不安げな指の動き。
【敗者】は彼女がまたどうでもいい事で悩んでいる、と確信し思わずクスリと笑みが漏れた。
「ふふ、そうだな……いやらしい、美しい……そういう感情もあるが、やはり一番は可愛らしい、かもしれないな」
「……じゃあ初対面のわたしは?!全然可愛くなかったでしょ?!」
「いや、……可愛かったが」
「は?じゃあわたしの服じゃないところが可愛いってこと?意味わかんないんだけど!」
「貴様の言っている事こそ意味が分からないな。貴様の顔も体も愛嬌で構成されているだろう」
「〜〜っ、むぅうう……!!」
怒っているが彼女にとって都合が良い言葉。
【敗者】は機嫌取りにあれこれと言葉を並べてみるが、実際彼女の見てくれが可愛いかどうかと言われればそうに決まっているだろう。
「何を勝手に敗北感を味わっているんだか。そういう馬鹿な所も……そう、可愛いんだがね」
「うっ……うるさい!」
レヴィにとっては垢抜けた美人の姉や人の器には余る程整った顔を持つバディが比較対象にあるせいで、子供っぽい自分の顔がコンプレックスで仕方ないのだ。
「僕がお前の可愛い所を語り出したら……」
【敗者】が意気揚々と話し始めるとレヴィは焦り話題を止めるために脳をフル回転させ新しい話題を捻り出す。
そうだ、クリスマスの話でもすれば聞いてくれるだろう。
「あっもういいもういい!もういいってば!……むうぅっ……あっ!そうだ!クリスマスなんだけどさ、あのさ」
「ん?」
とはいえ、外出して買う物など容易に予測出来るもので、パーティの具体的な流れや内容は分からず、プレゼントに値するものも既に貰っている。
ここで【敗者】を振り切れるような話題などあるものか、とレヴィが悩んでた所、そういえばジグを誘ったことを一切報告していなかったということを思い出した。
これは確実にいける。
そう確信したレヴィは大きく声を出した後、ゆっくりと言葉を紡いだ。
「あのさ!……ジグさん誘った」
その瞬間、胸元のリボンを結んでいた【敗者】の手が止まる。
「は?」
惚けた顔でレヴィをじっと見つめた後、彼はなるべく平静を装って淡々と呟いた。
「誘っていいではなく、誘った、と?」
「うん。誘った。だから、ジグさんから行くって返事来たらあんたは絶対変装してね」
彼女は全く悪びれる様子もなかった。
そりゃそうだ。レヴィにとっては間違えて休みの日に仕事場に行ってしまったミスの上手い切り返しであり、パーティなどという未経験でよく分からない催しに人を一人増やす程度何も抵抗が無かったからだ。
ジグと【敗者】が初対面ならもっと考えたと思うが、初対面でもないのに抵抗する方が変とまで考えている。
しかし【敗者】はレヴィとは真逆の考え方である。
「……貴様と言うやつは本当に報告連絡相談という概念が欠片も無い非常識の塊だな……!」
拳を握り締め、声を震わせ、レヴィをきつく睨み付けた。
怒られる、と雰囲気で察したレヴィは素直に怒られるのも癪だったので直ぐに彼を説き伏せるモードへ変化する。
「あんたがしないくせにわたしにしろとかいっても意味無いけど?そもそも、庭とはいえ外に出るんだから顔隠さないとダメでしょ。監視装置をハッキングしても、ドローン飛ばされたりしたら対処出来ないし、下手にジャミングなんかしたらわたしもあんたも困るだけなんだから」
「変装の有無を責めているんじゃない。勝手に人を誘うなと言っているんだこのバカが!誘う相手が誰であろうが関係ない!」
「そんなピリピリカリカリしなくたって良くない?」
「僕が誰だと思っている?オラクル全人類から指名手配を受けているダークファルスだぞ?」
「ジグさんくらい優しければギリギリセーフかもしれないし……」
その言葉を聞いて【敗者】は頭がカッと熱くなり、情報端末を手に持ちそれを思い切り振り上げた。
「要注意人物という言葉をよく頭に刻み込んでおけこの痴呆が!!」
バキン、とレヴィの鼻が潰れてしまいそうなくらい勢いよく彼女の顔に端末が押付けられ、レヴィは顔を仰け反らせる。
画面を見ると要注意人物リストが載っており、丁度ジグのページが表示されていた。
「ぶべっ!!もー!このリスト100回くらい見たってばぁ〜!!」
《第一世代キャストの武器職人。
ルビィ及び六芒均衡との密接な交流あり。
高い技術力を持ち、創世器の修理及び同等の強力な武器の製造が可能。アークスの重要戦力の一つと言える。
性格は職人気質であり、意図的にスランプ状態に陥らせる事によって対策になりうる可能性はあるが、本人に戦闘能力が無く、創世器を容易に盗める程度のセキュリティ意識の為、早急な対処を求められる場合は暗殺を推奨》
パーソナルデータに載っている物であろうジグの写真や年齢住所職業家族構成などのデータ、フォトン適正にアークスならばレベル、ジグのような戦闘能力の無い者なら独自の才能などがつらつらと並べられ、最後に書かれるのが【敗者】が書いたらしい分析データだ。
「見たなら貴様の愚行を徹底的に反省するように」
「でも誘ったんだもん!だもんだもんだもん!」
「断っておけ」
「イヤ!イヤッたらイヤ!!イヤー!!」
明らかに幼稚な駄々を捏ね出すレヴィに【敗者】は呆れて言葉も出ない。
「やだやだ!やだ!【敗者】とジグと一緒にクリスマスするの!」
「クリスマスが何だかわかってるのか?」
「知らないけどやーー!!」
「はぁ……」
とはいえ、こんな幼稚な子供の駄々に付き合って外出の時間を遅らされるのは面倒である。
【敗者】は彼女の駄々を軽くあしらうとレヴィの髪を撫で結い始める。
「で、返事はどうなんだ」
「まだ来てない。朝誘ったから」
「わざわざテミスまで赴いてか?」
「なんで分かったの?」
「脱ぎ捨ててあった作業着の匂いで直ぐにわかる」
「は?」
レヴィは先程の駄々こねモードは消えたのか【敗者】の発言に困惑し鏡から目を逸らして何処か遠くをぼんやり見つめていた。
下を向こうとすると【敗者】に頭を掴まれて向きを直され、最終的には目を閉じて半分寝かけていた。
「レヴィ、……レヴィ」
寝ぼけてぼんやりとしたレヴィの耳に低くねっとりとした声が響く。
レヴィは【敗者】の声にゆっくりと目を開けると、【敗者】がレヴィを見下ろしていた。
いつの間に準備を終えたのか既にフードを被っており、彼の顔はほとんど見えない。
「ふぁあ……あ、行こ」
「貴様は本当に自分本位だな……」
独自言語を作成し利用するプログラマーかつハッカーでありながら、感覚派でマイペースなレヴィ。
それと理論派で捻くれた分かりやすい研究者脳をした【敗者】はまるで真逆の存在のようだが、奇妙な事に歯車が噛み合い上手く動いていた。
フードを被った不審者丸出しの男と高級な服に身を包んだオラクルの嫌われ者が屋敷の外に出る。
ゴーストタウンは相変わらず静かで、この雪景色の中だと最早人どころか生物の気配すらない。
「わ、結構寒い」
声を出すだけで吐息は白く染まり、レヴィはマフラーに顔を埋めて【敗者】にくっ付いた。
「……」
防寒はしっかりしているが、それでも人肌を求めたくなる寒さ。
いつも以上に密着して手を繋ぎ、歩き出す。
「なんか、雪とか冬とか……そんなものを意識するようになったの、あんたと出会ってからかも」
「前まではどうだったんだ?」
「よく分かんない。痛覚を切ってるから寒いとか暑いもあんまり分からなくて、凄く薄着で外に出て低体温症になりかけたりとか……そういう感覚があんまりなかったせいで、風邪もよく引いてた気がする。端末一つで直ぐに治せるけどね」
しゃふしゃふと雪を踏みしめながら目的地までの道のりをゆっくりと進む。
「脆弱なのは昔からか……通常、アークスはフォトンによって細菌やウイルスから身を守る事が出来るから風邪を引くことは滅多にないはずなんだが……」
「文明のある惑星に行く時だってキャンプシップとか備品全部に滅菌処理必須だし、アークス達だってクリーンルームで徹底的に消毒しないといけないし……それだけ抗体があって無菌室みたいな環境で生きてるわけだから、たしかに病気になる方がおかしいんだけど。
まあ、自律神経とか体温調整とか、そういう部分で風邪引くのは仕方ないんじゃない?わたしが寝込む時はそういう事だよ」
「にしても体調管理がなってないな。痛覚はやはり必要だ」
「でも一応言うけどさ、痛覚ないおかげで生きてこれたみたいな所あるけどね?アムドゥスキアに行った時なんて、知らないアークスに後ろから溶岩湖に突き落とされてホントに死にかけたんだから。這い出てくるのだって痛覚あったら無理だったと思うし、治療も火傷だらけで超タイヘンだったんだから……」
レヴィはなんて事ないように話しているが、【敗者】はそんな彼女を少し不安そうに顔を覗き込みながらじっと見つめていた。
「あの時からアムドゥスキアには近寄らなくなって、最近久しぶりにアムドゥスキアに行くことが出来たの。といっても、龍祭壇だから前から行こうと思えばすぐ行けたけどさ」
「浮遊大陸はテレポーターの使用不可により地上での行動範囲が狭く、火山洞窟は溶岩問題か……」
「浮遊大陸は最初から諦めてた。でも、火山ならまあ注意深く避ければいけるって思ってたの。……でも、罠だらけの場所でアークスと一緒に探索、なんか考えたらやってらんないよ。あの時も麻痺させられたら完全に死んでたから」
居た堪れない気持ちになるのは傲慢だろうか、と【敗者】は心の中で呟いた。
自分の作っていたアークスは完全に自分の操り人形で、治安や道徳、格差などどうでもいいどころか寧ろ意図的に差をつけており、アークスは組織としての体裁を保ち自分に都合が良ければそれで良かったのだが、それでも自分の手の及ばない所で下賎なアークス風情がこんなにも小さく可愛く愛らしく知に満ちたレヴィのような女の子を受け入れ難いものとして醜く理不尽に痛めつけ、迫害し、虫のように殺そうとする様は許し難いものだろう。
「……」
「あとさ、普通に龍族と意思疎通とれないからつまんないし」
「メインの翻訳機は戦略OSの方だろうが、端末にもインストール出来るだろう?」
「サブ端末には入ってるけど、翻訳しても立ち去れとか消えろしか言われないし、それって獣の鳴き声と何が違うの?……まあ、アークスの言葉も獣の鳴き声と同じものだけどさ」
「その言語を解析して理解し、龍族同士のコミュニケーションを分析したり龍族そのものの遺伝子を使って彼ら特有のテレパシーのような力を得るというのは非常に興味深い物だが……レヴィの関心外か」
「まあね。龍族が独自のネットワークを構築してプログラムとか使ってるなら興味あるんだけど……」
「……ネットワークそのものではないが、興味深い概念なら存在するぞ?」
「ほんとっ?!」
レヴィは驚いて足を止め、【敗者】の方に振り向く。
「惑星アムドゥスキアの核には人造全知存在が在る。龍族はそれを長のように崇め、高度な知能を持つそれは龍族文明の始祖と言っても過言ではないだろう」
「人造……全知存在」
フォトナー時代の人造全知存在に関する研究は、【敗者】しか知らないような情報だ。
彼本人……いや、"ルーサー"はその研究プロジェクトの内部にいた訳ではない為詳しいプロセスなどは知らないが、研究員達の話や組織の再編成に当たって研究データを破棄する際に軽く閲覧した程度である。
「カッシーナとテリオトー。二つの不完全なコピーを融合させようとして失敗した結果がアムドゥスキアだ。今龍族から長として崇められているのがテリオトー……ロ・カミツと呼称される存在であり、カッシーナは惑星を構成する核になり、意識を沈めた……」
「つまり……つまり?あそこには二つの高度演算機構が存在していて、特性の違うその二つが融合した時に複雑に作用しあって出来たのが惑星アムドゥスキアってことか……それはちょっと興味深いかも。でも、やっぱ行くのは怖いんだけどね」
「……」
全く関わりのない相手から後ろから突き落とされて死にかけたとなるとレヴィの恐れも納得出来る。痛覚のある今なら冷静な対応ができずにそのまま溶岩の中へ沈みこんでしまうだろう。市街地で暗殺を狙われるのとは訳が違うのだ。
「僕もあそこに立ち入るのは難しい……まあ、この宇宙にはまだ何億何兆を超える惑星が存在するんだ。アークスの探索範囲一つ立ち入ることが出来なかったところで何の損失がある?ハビタブルゾーンにあるからと言って特別な訳では無いだろう」
「まあ、確かにね。未探索ならともかく、アークスが入れるんだしそっちで勝手にしてよって感じか」
「あの船を使って未探索の惑星に赴くのもいいんじゃないか?遠征や降下しての現地活動にも耐えうる性能になっている。せっかくアークスから潜伏しているんだ……いっそアークスの知らないところまで逃げる、というのも良いんじゃないか?」
「未探索の惑星……!」
レヴィはその言葉に目を輝かせ、【敗者】をギュッと抱きしめた。
「行きたい!すっごくワクワクするところ……アークスの邪魔もなしに行けるんでしょ?!」
「そうだ。僕も未知の惑星や文明には興味がある……」
「わーっ、えへへ、いいなそういうの……」
【敗者】の体に埋もれながらレヴィは顔を赤くし、楽しそうに微笑んだ。
「あぁ……そうだな」
二人は暫くこの雪景色の中で互いの体温を感じあったあと、また目的地に向けて歩き出した。
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる