※この作品はR-18です。

MIDNIGHT   作:Libby博士

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33話(2)

 

【敗者】とレヴィとジグの三人は食事を片付けた後でもキャンプチェアに座り、卓を囲んで会話を続けていた。

 

「それでね、ブラックローズのプログラム処理の調整を……」

 

その時、森の方からカサカサと音がしてレヴィは直ぐに目を向ける。

この時期では普段動物も見ない。野良猫が紛れ込んでくるからそれの一匹かと思って目を向けたのだが、現れたシルエットは完全に猫ではなかった。

 

「……?!」

 

ひ、と喉から薄い息が漏れ、レヴィの顔は恐怖に引き攣らせていた。

それを見て直ぐに【敗者】とジグが彼女の視線の先に目を向けると、そこには同じような金色の髪を持つ女……ルビィが立っていた。

 

「ジグ……?」

 

「ん?ルビィ。ここまで来てどうしたんじゃ?わしかレヴィにでも用が……」

 

ジグはルビィからレヴィへ目を移した瞬間驚いた。

 

「……」

 

レヴィは【敗者】に抱き寄せられ、ギュッと彼の服の裾を掴みながら鬼のような険しい顔でルビィの事を睨み付けていたからだ。

 

「……レヴィ」

 

「ルオン、待って」

 

レヴィはゆっくりと深呼吸をした後彼から身体を離し、一歩足を進めると【敗者】を守るように前に立ちじっとルビィを凝視していた。

 

「何の用」

 

「たまたま、迷って……」

 

「クソ男の光学迷彩を付けておきながらなにがたまたまなの?」

 

レヴィはルビィ周辺の景色を僅かに歪ませる透明のシルエットを見ながら睨み付け、彼女に重く近寄っていく。

 

「お前とディナンの醜い企みでわたしのルオンに少しでも傷が付いたら……」

 

「レヴィ!」

 

レヴィが完全にぶん殴ろうと言わんばかりの勢いで入っていった所に立ちはだかったのはジグだ。

 

「ルビィは、迷っただけなのじゃろう?」

 

「あぁ……生憎、変な場所に入ることが多くてな」

 

実際、ルビィは庭の背後の森から現れた。

彼女が故意に森から突然現れようとしたのならば玄関側から回ってくるはずだが、玄関とは逆側から現れるということは完全に迷ってきたことに間違いはない。

しかし、それなりな大きさの森とはいえ44番艦はルビィが普段目的を持って近寄る場所では無いはずだ。

確実にここにやってくるだけの目的がある。

 

「ジグ、そこをどいてくれる?わたし、そこにいるクソ女をぶん殴る必要があるんだけど」

 

「流石にぶん殴ると言われて退く訳にはいかないじゃろう」

 

「へぇ、その女の目的がここにいる人間の首であっても?」

 

レヴィはアイゼンハートを取り出して剣に構え、ジグの向こうにいるルビィを静かに見つめていた。

レヴィには完全に殺意があり、【敗者】の方を見てみると彼も完全に警戒しきった様子で直ぐにでも動ける状態にあった。

 

「ルビィ……それは本当か?」

 

二人の明らか切迫した様子にジグは恐る恐るルビィに問いかける。

彼女は少し考え込んでいたが、レヴィはそこを見て尚更苛立ち声を張り上げた。

 

「なんかやましい事があるから黙ってるわけ?!」

 

ルビィは彼女に急かされ仕方なく声を紡ぐ。

 

「ディナンが、……会いたいと言っていた」

 

それを聞くとレヴィは嘲笑しケラケラと笑ってからアイゼンハートをくるくると回す。

 

「なんであのクソ男はあそこまでして戻ってくると本気で思ってるの?バカじゃない?」

 

体裁という面もあるし、億が一に賭けている可能性もある。

 

「どちらにせよ、レヴィをその畜生に渡す訳にはいかないな」

 

【敗者】はようやく足を踏み出すとレヴィを掴み、さっと引き戻した。

 

「ちょっとルオン……!」

 

「何だ。そいつの目的は貴様なんだろう?なら、僕が守られている理由もないじゃないか。大人しくそこに居るんだ」

 

「でもあんたの方がよっぽど危険でしょ?!わたしは別にいくらでも抵抗出来て……」

 

レヴィと【敗者】が口論になろうとした時、ルビィが口を開く。

 

「ディナンの元に連れていこうというつもりは無い」

 

「は?」

 

「これも貸してもらったものだが……どうもあの男は薄気味悪い。元から伝言だけのつもりだ」

 

ルビィは本心から本当のことを言っていた。

彼女がディナンと会話したのは少しの事だが、その中でディナンが出したレヴィの話も嘲笑混じりで酷く見下しており、ルビィに分かりやすく媚びへつらっておきながらどこか独りよがりなオーラを醸し出している。

彼がレヴィを愚図で出来損ないで陰気な妹、とまるでルビィの意思であるかのように高らかに謳うさまはルビィからして全く愉快なものではなかった。

 

「はぁ、伝言だけの癖にメールじゃなくてわざわざ行こうとした訳ね」

 

「……」

 

「迷ったなんてつまんないウソついたところで無駄なことくらいわかんないの?アークスの英雄様も随分脳足らずなこと」

 

レヴィの言葉は暴言以外の何者でもなくルビィに対して酷い有様で、外から見れば可哀想とすら思える様子だったが【敗者】は徹底的に彼女を庇うように接しており、ルビィはその言葉に反抗する事はなく甘んじて受け入れるという奇妙な空気にあった。

 

「ルオン、……あんたは家の中戻ってて。わたしだけでいいよ」

 

「僕は貴様の思う程無力ではない。それは常々理解しているはずだろう?」

 

「それとこれとは別だってガキでも分かるでしょーが!全くあんたはなんで賢いだのなんだの言っておきながらそーいう変な所だけ頭回んなくて馬鹿みたいな素振りするわけ?」

 

「馬鹿はどちらなんだか。僕は至極真っ当で当然の事を言っている」

 

「まずそうやって当然とか自分のことを言い始めてる所が馬鹿なんでしょ?!あんたの賢いの基準はどこ?知能指数?知識の量?具体的な数値は?資格は?」

 

「はぁ……なぜそういう資格が存在すると思う?貴様のような盲のバカにも理解出来るようになっているんだ。僕はそういう資格でも収まらないほどの知識が存在する。以上」

 

「むぅう……!!」

 

レヴィと【敗者】はまたきっかけを見つければすぐに口論を始め、体は密着させてスキンシップのように触れ合っているのにギャーギャーと騒いでいる。

 

「うるっさいなーほんとーに隅の埃つついて文句言う姑みたい!あんたはわたしの何なワケ?」

 

「見ればわかるだろう」

 

【敗者】は左手でレヴィの胸元に手を入れてネックレスを取り出した。薬指には煌めく指輪が嵌っており、レヴィのネックレスにも同じようなデザインの指輪が付いている。

 

「夫と妻の前段階だ。つまるところ、婚約者というわけになるが……」

 

【敗者】が真顔で淡々と呟く代わりにレヴィの顔が真っ赤に染まり、【敗者】を突き飛ばしてぴゃっと体を引く。

 

「おっ、夫とか夫婦とかラブラブとかそういう話してないでしょ?」

 

「頭の中で補正するほど嬉しかったのか?」

 

「うるさーい!黙れ死ねボケこのクソバカ!ばかばかばかーー!!」

 

レヴィが【敗者】の胸をポカポカと叩き怒りを剥き出しにしても、【敗者】はくすくすと笑うだけだ。

目に皺を寄せ楽しげに笑う姿を見てルビィは訝しげに顔を歪め、二人を凝視していた。

 

「ルビィは二人と……どんな関係なんじゃ?二人があんなに敵意を剥き出しにしている相手は初めてじゃ。しかも、お主が相手とは……」

 

「……レヴィは、……。いや、少し話があるんだが……その、妹かもしれない」

 

「かもしれない?」

 

ジグは彼女の言葉に首を傾げていると、口論が終わったのか互いに体をくっつけ二人は完全に楽しそうに会話をしていた。

 

「なんだかんだいってカップルプランとかってお得だし……そんな悪くないかもだし……あっでも、夫婦ってカップルプラン使えるの?」

 

「懇ろな関係ならなんでもいいんじゃないか?なんなら無関係の男女二人でも使えるようになっているだろう」

 

「そうなの?でもハートのくるくるストローとか知らない相手じゃ恥ずかしくない?わたしもるーさ……」

 

「こら」

 

ぽん、と【敗者】がレヴィの頭を叩くとレヴィは慌てて自分が名前を呼び間違えそうになったことに気づき、【敗者】に向けてごめんと言わんばかりに手を合わせてから話を続けた。

 

「る、ルオンとするのちょっと恥ずかしいかも」

 

「今更何を言っているんだ。やる事までやってからなぜ顔を近付けるくらいで恥じる」

 

「だってハートとかその……わたしとあなたの間にあったらすっごくラブラブだよって人に見せつけてるみたいでしょ?!」

 

「それは……ふふ、そうかもしれないな」

 

この状況の方が間にハートを置くよりもよっぽどラブラブなのだが、というジグの心のツッコミはレヴィに届かず、代わりに絶えずレヴィの大好き、話せて嬉しいという気持ちが電波かテレパシーのように周りの人間に届いていた。

 

「恥の基準がそんな記号だと言うのなら、ベッドの周りにハートの装飾を置いたら寝るのも恥じるようになるのか?」

 

「そんくらいは別に慣れてるし!何回一緒に寝たと思ってんの?!」

 

「そもそも別の部屋で寝たのが一回だけじゃないか?」

 

「えっ?それ以外ずっと一緒に寝てたっけ?わたしがぶっ倒れてる時も?」

 

レヴィが檻の中にいた期間は【敗者】は寝ていないかレヴィの近くで軽く体を休めており、外に出てからはずっと一緒のベッドで寝ていた。

唯一、喧嘩した時はレヴィが自室のベッドで寝ていたが、レヴィが移動用のキャンプシップで寝ている間は【敗者】は全く寝ていないし家に居る限り就寝時は必ずベッドに戻ってきて二人揃っている訳である。真実はたかが契約関係だというのにも関わらず。

 

「当然だ。貴様の容態を考えていたらおちおち作業も出来やしない……その責任を誰が取るつもりだ?」

 

「えー!寝てる時の事なんか聞かれても知らないし!」

 

レヴィはグチグチと文句を言っているが彼が腰を曲げてレヴィを抱き寄せる。レヴィは直ぐに抱擁を返し、頭をさわさわと撫で始めた。

 

「ルー……、ふふっ、もーぉ、ほんとに甘えんぼなんだから♡」

 

「貴様に言われたくはないな……、ふふふっ」

 

二人は顔を寄せるとすぐに頬を擦り合わせ、目を合わせるととろんと目を細め微笑む。

 

「るーぅ、ちゅーしよ?」

 

「ん、……」

 

すぐに唇が触れ合い、離れるとまた角度を変えて合わせ、リップ音を立てながら何度も唇をくっつけ体を滑らせ密着していった。

 

ルビィは二人がセックスする光景すら見たとはいえまさかまさか人前ですら躊躇わないほどの乱れっぷりだとは思わず、両手で顔を覆いながらも指の隙間からジロジロ眺める。

 

(う、っ、うわぁああ……)

 

「あむ……こら、……舌は……、んんっ……♡」

 

「……ん、……レヴィ……」

 

しかし二人にとっては良い恋人ごっこの使い時であり、公衆でキスすることに恥じらいはない。計略の一つである。

頭の中ではまともなカップルが公衆でキスするのだろうかと薄々思いつつも、一度唇の味を求めたら止まらず、【敗者】はレヴィを壁に押し付けてひたすらしつこく彼女の舌を吸っていた。

 

「ふぁ、……るぅ、っ、……んっ、るぅにゃ……」

 

「あぁ、……可愛い……っ!!」

 

都合が良い。騙すだけ。

そんな名目を手に入れればどんな行為だって心地よく感じる。

柔らかく掬った金色の毛を手のひらいっぱいに包んで、小さな体を己の体を纏う布で覆い隠し、いたいけな唇を独占する。

【敗者】は快楽の獣か何かのようでレヴィへの支配欲を見せつけるように甘く蕩けていく彼女を少し離して晒しあげると、また噛み付いて覆っていく。

 

「あ、あ、あのさジグ、……あいつら、いつもあんな感じなのか?」

 

「ん?そうじゃが」

 

「なっ、慣れたってのかよあんなのに!」

 

「そうじゃなぁ……武器出して喧嘩し始めるよりかはよっぽどマシだと思うんじゃがな」

 

「それは多分感覚麻痺って奴だ……うぅー……チョベリバ……」

 

【敗者】はようやくレヴィから顔を離し、よろける彼女を支えて頬を撫で回す。

 

「ふぁあ……あたまがふわふわする……♡」

 

「浮ついているのは果たしてそこだけだろうか……」

 

【敗者】が少し手を伸ばし、スカートの下に入れると下着を軽くなぞった。

 

「ひゃあんっ?!ちょっと……だぁーめー!」

 

レヴィは慌てて【敗者】から離れると潤んだ瞳で彼を見上げ、ふるふると震える。

 

「もう、かっこいいからって何してもいいって思ったら大間違いなんだからねっ!」

 

「僕は貴様に凄ーく優しく接してやっている方だが?体を隅々まで解剖して実験素材にしてやってもいいんだぞ?」

 

「そっちはいいけどこっちはダメだってばぁ〜!!」

 

「ん?僕は何か聞き間違えたようだな……」

 

【敗者】は困惑して流そうとするも、レヴィは止まらずモジモジと体を動かしながら下腹部を撫でていた。

 

「別に実験でも解剖でも体は好きにしていいけど……でもここは好きにするのちょっと色々流石に……うぅー……でも……めちゃくちゃにされるのも……」

 

「レヴィ」

 

そんな風に悶々と考え込んでいたレヴィだが、【敗者】は彼女の手を取って体を寄せると目をしっかりと合わせ真剣な眼差しで彼女を射抜く。

 

「そう易々と人に体を委ねるとか言うんじゃない。僕がする事がセックスのような気持ちよくて楽しい事とは限らないんだぞ。手荒な真似だって幾らでも働く。我が知識の為ならば、貴様の命だって僕は……」

 

「むぅ……別にいいって約束したでしょ?そういう事だっていいって思ったから貴方と一緒にいるって選択したの。どんなことをされるかぐらい予測が付いてるけど、でも貴方のすることには"意味"があるから」

 

「……」

 

【敗者】は目を見開いて彼女をボーッと見下ろした後、直ぐに顔をまた近付けた。

 

「都合のいい……悪い子に育ってしまったようだな。お仕置きだ」

 

「おしおき?!わたしそんなことしてな……っんむ!?」

 

「え?もしかしてこれまた始まった?」

 

「そうじゃな〜」

 

「いやもうだいぶお腹いっぱいなんだが……誰か先進めてくれよ」

 

(あれがルーサー?いや、ダークファルス【敗者】?ダークファルス……【敗者】???いやでも言っていることの半分くらいは【敗者】だが……半分くらいが全然違う……)

 

「ルビィ。それにしても……ここに来た目的はなんじゃ?」

 

「……話とか……、色々確かめたくて来たんだ」

 

「レヴィがその……お主の家族かもしれない、という話か?」

 

「それもあるし……あのルー……、ルオンがまともな人間であるかもだ」

 

ジグはルビィの言葉や視線を見て繊細に思考した。

ルビィが言いかけた名前の発音は、レヴィがいつも言おうとしてルオンと名乗る男に止められている発音と全く同じだ。

ルオンという名前は偽名なのだろう。

そして本来は、ルーサ……なんとか。

 

「まあ……ルオンは変な奴じゃが……悪い奴には思えんがなぁ」

 

「それはジグが騙されてるだけじゃないのか?!あの子だって……あの男に何を言われたらあんな事に……」

 

「わしが……騙されてる?」

 

「誰もあんな事をされたなんて告白した奴は居なかったんだ……今のアイツはなんなんだ?絶対に有り得ない……絶対どこかに粗が……」

 

ルビィの姿はまるでレヴィが彼女を見つめている時と同じ、恨みと憎しみの混ざった様子だった。

レヴィがルビィを憎み、ルビィがルオンを憎み、ルオンは……

 

「あんまり邪推するでない」

 

「……ジグ」

 

「何がおかしければ、今ここで二人を見ただけのお主よりもわしの方がよっぽど分かっておる。二人は確かに変人じゃが、そこまで目くじらを立てるほどの存在には見えん」

 

「……」

 

難しい話だ。ルビィは「それ以前」はよく知っているが「それ以後」はよく知らない。それに対し、ジグは「それ以後」はよく知っているが「それ以前」はよく知らない。

どちらとも決めつけるにはまだ早い段階なのである。

 

 

二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。

  • 続編として作品を分ける
  • 分けないで一つの作品でまとめる
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