3番艦娯楽地区の地下深く。
オラクルのインターネットを構築する海が張り巡らされた、言わば"海の底"に等しき場所に禁書庫は存在していた。
レヴィはフォトンによる隔離領域の中に特に策もなくあっさりと入り込むと近くにあった情報端末を操作する。
目の前にあるのは一つの扉で、端末が承認すると扉は直ぐに開いた。
海底へと続くエレベーターだ。
娯楽地区の管制部やシステム管理の為の端末や倉庫へアクセスできるそのエレベーターの最下層に位置するのが禁書庫の一つである"ソーン禁止情報管理倉庫"。
レヴィはエレベーターに乗るとため息を着き、無機質に明るい部屋の中を眺めた。
「やっちゃったなー……」
レヴィはなるべくクーナに対してフレンドリーに接したし、あの男達は毒針で処分した。
しかし触られそうになった時に反射的に手を払いのけて少し苛立ってしまった。
要注意人物の一人であるクーナならそれをすぐに感じ取ったことだろう。
「んー……
レヴィは足をプラプラと揺らし端末を取り出した。
アークスへの強い憎悪と侮蔑の感情を隠してクーナと接したつもりだ。
前のシンパシーの件もあって怪しまれているとは思うが、反社会的勢力であるという推測はされても【敗者】のバディであるという推測はされないだろう。
アークスの中では「ルーサーの駒になったアークスは皆不本意で可哀想で同情するべき存在である」という偏見のような物があると【敗者】は推測していた。
要注意人物の中でルーサーの近くに居た者たちは、ルビィやその周りから憐れみを持って接されている者が多い。
一言でいえば、「全て被害者」という認識が向こうにあるのだ。
それに対してレヴィは【敗者】に非常に協力的で友好であり、なるべく平等なバランスを保ち、支配からは遠いバディという関係で、口喧嘩や暴力も全力で行える存在である。
何より彼女は本気で心の底から【敗者】を愛していた。
レヴィは【敗者】の被害者ではない。
彼女は正当な選択の機会を与えられて、彼女は【敗者】のそばに居ることを選んだ。
それは【敗者】にとってとても都合のいい事だった。それがわかっているからレヴィとの信頼関係を絶やさないように【敗者】は心掛けているのだ。
アークスに対して、常に「そんな訳が無い」を与えられるから。
それはクーナも例外ではないだろう……
「ま、いいんだけどね。わたしとしてはアイツに危機がなければなんでもいいから」
エレベーターが地下深くへと到着すると、レヴィは直ぐに降りて廊下を進む。
端末を使い軽くハッキングするとあっという間に隔離領域の構成が変化し、簡単に通れるようになる。
レヴィは特に努力もせず素手で扉を開け、直ぐに禁書庫の中へ入り込んだ。
「わ……」
中は分かりやすい図書室のような物だった。
3番艦は特に情報が集中しているからか宙には沢山のディスプレイが浮き、本棚には紙本からデータの入った本型の端末まで、視界をぐるりと見渡すだけでも数百冊は見つかる。
「さて、とりあえずデジタルデータから……」
紙の本だと中身の文章を精査するのに時間が掛かるが、デジタルデータなら簡単だからだ。
禁書庫のデジタルデータは複製できないように様々なロックが掛かっており、カメラも起動しない、一文字のコピー動作も許さない、そもそもページ送り以外の操作は出来ないといったかなり厳しい物になっているが、レヴィは対策を用意していた。
「レヴィちゃん特製生物記憶装置の使い道が出来るなんて嬉し〜」
カメラ撮影は禁止だが、逆に言えばレンズ越しではなく目で見る行為ならセーフなのだ。
それにキャストでも禁書庫の管理が出来るようにヒューマンニューマンデューマンのような人型生物の虹彩データだけではなくキャストの目に使われている特有のコーティング膜でも判断出来るようになっている。
その上このロックはボット対策として生物特有の不規則な視線誘導やページ送りの速度等も判断材料にしているが、レヴィの取り出した道具はそれら全てをクリアできるようになっている。
何せこの道具はマグを参考にして作られたからだ。
アークスで一般的に流通しているマグは小動物を材料に作られており、そこには命があると言っても過言ではない。
レヴィの作った特製生物記憶装置はそれを利用しキャストの身体移植技術を応用して制作しており、人間の幼児の脳を摘出してそれを機械の内部に納め、薬の投与や脳神経の切断により生物として最低限の知能は残しつつも完全に機械として動くように感情や人格を完全に消滅させた物。
無稼働状態の場合でも特殊な冷凍保存を必要とする他、維持の為にはチューブでの栄養摂取が必須であり維持コストはかなり大きいものの、身体と言えるものが無いため活動のリソースを全て視覚と記憶に割くことが出来、絶対記憶能力を持つ人間以上のポテンシャルを誇る、言わば完全絶対記憶生命なのである。
【敗者】からは「レヴィにしては比較的人道的寄りな作りになっている」と良い評価をされていたが一般人からしたら当然人間を材料にした極悪非道の行いであり、到底肯定されるべきものでは無い。
「ま、3台しか持ってきてないんだけどね」
レヴィは中央管理端末を使い軽く検索を掛けると、出てきたデータの全てを用意した装置のそれぞれに記録させる。
「じゃあわたしはこっちを調べないとね」
中央管理端末のメニューを変更すると今度は紙で出来た実本の検索に変化した。
デジタルデータの方で過去の【敗者】に関するデータは収集しているため、レヴィの方で調べるのは大いなる陰に関する事だ。
デジタルデータでもよく探せば大いなる陰に関する情報は出てくるかもしれないが、軽くラグオルやアークズなど関連ワードを入力して検索しても出てこなかったため多分ないと考える方がいいだろう。
とはいえ、実本でも検索した所で一致する物は無かったのだが……
「何かしらの隠語が使われてるかもしれないし、言語がそもそも違うかもしれない。あのオカルト本はオラクルの技術で翻訳された物であってもしかしたら元になる文章は別言語で書かれているかも……いや、並行宇宙や異世界の類ならそうじゃないとむしろおかしいくらい。誤訳や名称の違いもあると考えると……デジタルデータも後で再確認した方がいいかも」
レヴィはそんなことをブツブツと呟きながらオラクル文字以外で構成された本に絞り込んでみる。
大体は他の惑星の知的生命体や人類に近しい種族が書いた物であり、「アークス開発の実験過程でアークスの元になった原住民達が書いた日記」などという超興味深い物も出てきたが、其方は場所だけメモして機械に任せ、レヴィは必死にタイトルを見ながら関連しそうな本の保存場所とタイトルを全てメモする。
その数は80冊程であり、かなり大雑把に広い基準で入れられた物もあるため読んで直ぐに違うとなるものもおそらく多いだろう。
「創作話って定義でもいい、汚損と乱文がなければ読むのに時間かからないはずだし……」
場所のメモを終えると早速本棚に向かい、リストに載っている物をいくつかまとめて取って読み始める。
全て取っても読みきれないことなどわかっているし、戻す場所を間違えて侵入の痕跡を残す可能性を考えると確実に忘れない範囲で少しずつ読んでいった方がいいという誰でも出来る発想だ。
しかし、本の内容にあるものはこの次元に存在する別の文明や惑星の調査ばかりで、肝心の菌に関する内容は一切出てこない。
あのオカルト本の原稿などがあればカットされた部分がわかるのに、とレヴィは独り言をブツブツ呟きながら眺めた後、本を取り替えるために立ち上がった。
「……?」
瞬間、締め切られたこの部屋に風がそよぐ。
それくらいなら排気の何かや気の所為で済むところだが、レヴィの視界にエメラルドブルーの蝶々が映るとそれどころではなくなった。
「あんた……いつの間に……」
薄暗いホワイトブロンドの長い髪。異質に輝くブルーの瞳。オラクルで見たことも無い未知の素材の生地と意匠の服。
すらりと細長くスレンダーな少女が、壁を背にして立っていた。
扉は全く開いていない。まるで最初からそこに居たような気すら感じる。
「……待っていたわ」
「え?」
「力を探しているの?」
鈴の鳴るような繊細な声でその少女は淡々と呟き、レヴィの事を観察するようにじっと見つめた後透明なフォトンの板に腰掛けた。
「私はアリスティア。記録者……ある意味、司書みたいな者」
「司書ねぇ……」
レヴィの知っている記憶の中で、禁書庫に司書という概念は無かったはずだ。内部は完全にコンピュータのシステムで管理されているものだから。
しかし、目の前のアリスティアという女は人間にしてはあまりにも不自然で、システムが作り出したリアルなホログラムと考える方が自然である。
「なるほど……そういう形を選ぶっていうのは、珍しくないね」
確か秘匿研究の中で人格や肉体を全て人工的に作成する一般的なキャストとは別のロボットをオラクルで運用させるというプロジェクトがあった気がする、とレヴィは思い出した。
親しみやすいように管理システムを人に近づけて、その試用を禁書庫で行っているのではないか……そこまで思いついてみたが、普通に管制の方からつい最近派遣された人間なのかもしれない。
それよりも。
「確かに、力が欲しいの。わたしはある物を探してここまで来た」
「ある物?……うん、やっぱり視えないわね……」
アリスティアが変な事を呟いているがレヴィにはどうでもいい事で、レヴィはアリスティアに出来るだけ簡潔に説明した。
「菌という物質なんだけど……」
アリスティアはその言葉を聞くと顔を顰め、レヴィを訝しげに見つめた。
「感染力と致死率がとても高いものなんだけど、万物を取り込み、再生、分解、再構築、進化を行える物。ある世界ではそれを使って武器やエネミーを小型に圧縮し召喚する技術が作られた。そして、それを生産しているものが大いなる陰で……」
「ダメよ」
アリスティアはピシャリと鋭く言葉を発すると突然立ち上がり、レヴィに向けてグングンと足を進めていく。
「貴方、何を考えているの?人に感染する、致死率の物だって分かってるでしょ」
「研究過程でその致死性を取り除く事が出来ればいい。とにかく、その作り方が少しでも分からないと害を無くして実用化することも何も出来ないの」
アリスティアは呆れた顔でため息をついたあと、レヴィをジロリと見下ろした。
先程までは突き放しつつも柔和な顔だったが、今は鋭い顔をしてレヴィをやんわりと睨んでいた。
「大いなる陰を作ってはならない。菌を作ってはならない。貴方がそこに辿り着く事は出来ないし、辿り着いたとしてもそれが成果には繋がらないでしょうね」
「あんたに何がわかるっていうの?わたしはもうすぐであの場所に辿り着けそうだったんだから!」
アリスティアはその言葉に目を丸くし、レヴィの事をじっと見つめた。
「どうやって?」
「頭の中に景色が思い浮かんできた。ちょうど、……そう、こういう感じで……」
レヴィは端末を取り出すとペイント機能を使い、色味をなるべく寄せて絵の具で塗っていく。
薄暗い景色に異様な赤い太陽のようなものが浮かび、周囲には胞子のようなものが舞う。
どくどくと脈動しおぞましく生い茂るような植物のような茸のようなそうでない何かにはアンテナのようなものが突き刺さり、その体表にはなにかの生物が見える。
「わたしはね、頭の中で間違いなくコイツを見たの。その瞬間確信した。コイツがわたしの求めてる物だって……」
アリスティアは既視感しかないその絵を見て、ボソリと呟いた。
「大いなる陰、アンプラム・アンブラ……」
「……」
アリスティアは何かを知っている。レヴィは彼女の異様な程の敵意とその様子を見て、挑発するようにさらに言葉を続ける。
「わたしはここの匂いを嗅いだ、ここの空気の感覚を知った、だから、あとは手を伸ばして、これを掴むだけで良かった。生憎だけど、もう少しヒントを得られればわたしは間違いなく此奴を手に入れられる」
「これをオラクルに持ち込まないで」
アリスティアはレヴィをキッと睨みつけた。
「アンプラム・アンブラは間違いなく焼き払って消滅させた……私がマルシスを操作するのにどれほど苦労したと思っているの……!」
「マルシス?……それってあの本で話してたラグオルの人間?」
レヴィはアリスティアの言葉に知らない人名のような物が聞こえ、思わず彼女に問いかける。
しかしアリスティアは首を横に振った。
「マルシスはアークズの指揮官よ。マルシスはここには来ていないはずだから……その本の人間とやらはまた別ね」
アークズの指揮官の話や大いなる陰は焼き払ったという話が出てきてレヴィは混乱しそうになるが、結局の所求めているのはそういう話ではない。
レヴィは首を振って頭を冷やし、改めて考え込む。
「どちらにせよ、わたしにとっては必要なの。だからあんたの知ってる事を洗いざらい吐いてもらわないと困るね」
「D因子ではなく的確に大いなる陰と菌を求めるということは……C.A.R.D.技術がそんなに欲しいのね。でも、貴方の期待する程の物ではないわ。このオラクルでなら、フォトンで同じような現象を再現出来る。投影装置を小型化し、それに殺傷能力を合わせれば武器としてのC.A.R.D.と同等よ」
レヴィはアリスティアの言葉を聞くと目を逸らし、小さく呟いた。
「フォトンじゃダメなの」
「どういう事?」
「わたしはフォトン吸収障害でフォトンが使えない。わたしが菌を求めてるのは、菌がフォトンじゃないからだよ」
そう言われてアリスティアはサッと手を出す。
先程見えた蝶がレヴィの方へ飛んでいくが、彼女の近くでさらさらと消えていく姿を見て、アリスティアは驚いた。
「守護者にフォトンがないなんてありえない……」
アリスティアはその言葉だけ呟くと深呼吸をして、またゆっくりとその場に座った。
「そもそも、……大いなる陰を人為的に作ることは出来ないわ」
「作って欲しくないからって嘘ついても無駄だよ」
「なら、貴方の納得するように説明してあげる」
アリスティアは目の前に二つの小さなぬいぐるみのようなものを出した。
どちらとも可愛らしい動物とは程遠いなにかのエネミーの様なおどろおどろしい見た目をしたもので、レヴィは全く見覚えがなかった。
「大いなる陰は、言わば繭のようなもの。大いなる陰は自身の復活の為に様々な物を取り込んで力を付け、そして菌を人に感染させることによって復活の為の依代を見つける。その繭の材料は何だと思う?」
「材料って……それがわかんないから聞いてる訳で……」
「ダークファルスよ。ダークファルスが二体、そして相反する意思が二つ。それを人為的に用意出来ると思っているの?」
レヴィはそれを聞いて目を丸くした。ダークファルスと言えば、一番身近なのは【敗者】で、次に思いつくのは【巨躯】だろう。
その強大さはよく知っており、ダークファルスを二体用意しないと大いなる陰が作れないというのはあまりにも大きすぎるハードルだ。
それに、アリスティアが持っているそのぬいぐるみがダークファルスなのだとしたら……完成した大いなる陰は元のダークファルス達とは似ても似つかない物である。
だから【敗者】以外のダークファルスを二体用意しないといけない上に、相反する二つの意思というのも……
「ダークファルスには依代が必要なのは、知っているでしょう?ダークファルスの依代になった二人の英雄は、どちらもダークファルスの根絶を願い、その意思はひとつになって共鳴した。だから二つのダークファルスは互いに爆発してぶつかり、対消滅を起こした。そのとてつもないエネルギーの中には二つの意思があった」
「二つの意思……」
「ダークファルスとそれに関連する物を全て消滅させようと願う英雄の意志と、消されてたまるものかと願うダークファルスの意思。二つの相反する意思は衝撃によって形を成し、新たな物を作り出した。
ダークファルスの復活と破壊を願う物、大いなる陰と、その大いなる陰を滅する為に生まれた命、エンドゥー。そうして大いなる陰は菌を放出して万物を取り込み、滅する為に生まれた命はその定めを全うする為に大いなる陰を焼き払った……」
レヴィはアリスティアの語りを聞いて頭を悩ませた。どう考えても再現不可能である。
「分かるでしょう?奇跡の産物なのよ。人の意志も怪物の意志も外から制御して人為的に生み出す事なんて出来ない。大いなる陰も菌も、作る事は出来ないわ」
「それでも……もう少しで手に入りそうだった……欠片でも、その欠片の一つでも……」
レヴィが拳を握りしめ、ブツブツ呟いている所を見てアリスティアはため息をついた。
あの世界の総督府も軍部もアークズも人間関係は実に面倒で、派遣した存在の人格調整や誘導には実に時間が掛かった。エンドゥーを使って大いなる陰を焼き払わせる、というルートに向かう為に何度因果を調整し、時間遡行を繰り返し、マターボードもない中で歴史改変を行ったか……オラクルに菌が持ち込まれてはその苦労が水の泡である。
「菌を作りたいなら、DF細胞やD因子の類とは別の物を使う事ね」
アリスティアは"まだ比較的対処が可能な手段"を何とか考えつくと、レヴィに向けて声を掛けた。
「菌に近いのは貴方の予測する通りの物と同じよ。フォトンは操る者の感情に合わせてその形を変える。それは闇に変異したエネルギーでも同じ事。操る者の意思につられるの」
「ダーカー因子……」
フォトンで菌が再現可能なら、その真逆でありながらも同じような性質を持ち、尚且つD因子に近いダーカー因子の方が最適である、という事だ。
菌がダーカー因子と似ているということはレヴィの中で薄々察しが付いていた。ダークファルスというワードが出れば尚更だ。
「この世界のダークファルスだって、見ればわかるでしょう。
殆どのダークファルスは本懐を失っている。それは、ダークファルスを構成するダーカー因子にもフォトンと同じように強い感情に影響される性質があるから。
フォトンと違う所は、元々ダーカー因子はフォトンが変異した物であり、万物を侵食する性質を持つ。それだけなのよ」
「……司書してるだけあるじゃん」
予想とは違ったが有益な解答が貰えて、レヴィは思わずそう呟く。
ダーカー因子は人の欲望に取り憑く癌のような物。フォトンよりよっぽど人の意志に影響されやすいだろう。
「ダークファルスの本懐とは、【深遠なる闇】の復活にある。しかし、ある者は戦いを求め、ある者は美を求め、ある者は争いなき世界を求め、ある者は縁者の救いを求め、ある者は……」
「知識を求める」
「そう。大小あれど皆本懐を忘れている。そして、その欲望を失う度に欲望が剥がれ、本懐に近付いていく」
そこで、レヴィは【敗者】のことを思い出した。
彼の計画はなんだったか。
ダークファルス【敗者】は知識を求め、全知存在を手に入れることを目論んでいた。
彼がルーサーとして虚空機関で活動していた頃は、全知存在と同等の知識を持つ"シオン"と融合する事で、アークスの全演算と莫大な知識を掌握し全知存在になる計画を立てていた。
"ダークファルス"としての本来の目的はダーカーの親玉であり歴史の抹消を望む【深遠なる闇】の復活であり、シオンとの一体化というのはそれと相反することなのだが、しかしアークスに敗北し、レヴィと出会ってからの彼の計画はシオンとの融合ではなかった。
「宇宙をダーカー因子で呑み込んで全知存在と同化するってことは……」
「全宇宙の侵食を行い、歴史を喰らう【深遠なる闇】になる事と同じ。今の【敗者】はアークスへの敗北をキッカケに、本懐に近付いたのよ」
成程、とレヴィは納得した。
【敗者】が宇宙を飲み込むという荒唐無稽で暴力的な計画を立てたのは、彼の聡明な計略ではなくダークファルスとしての本能だったのだ。
シオンが消滅した今融合という選択肢を取れないのは分かっているが、その対処が宇宙の侵食というのはダーカー因子の影響に他ならない。
レヴィはそこまで考え込んだ後、はっと顔を上げる。
「ッ!……つまり……」
アリスティアが、なぜそんなことを知っているのか。
【敗者】の計画を知り、レヴィの前でわざわざ【敗者】の名前を出し、彼の欲望を語り、そしてダーカー因子の利用を提案する。
レヴィのバックに【敗者】がいて、仲間として共に行動していることをアリスティアが理解しているという事と同等である。
「……」
レヴィはアイゼンハートに手を掛けるが、アリスティアは一切表情を変えない。
「貴方が【敗者】の生存を知るアークスとして知られたから、私を消せば良いと思ってるのね」
「誰でも殺す……【敗者】の身を脅かすなら……」
レヴィはアイゼンハートを銃にして引き金に指を掛けるが、アリスティアは驚く事もなく淡々と呟いた。
「はぁ……何故あの怪物にそこまで執着するのか理解出来ないわ……」
「あんた……!」
「どちらにせよ、殺しても意味は無いわ。それは私にとっても不都合なの」
「どういうこと……?」
アリスティアはため息をついた後立ち上がり、さも当然のように言葉を放った。
「"時間が狂うのは困る"のよ。【敗者】は本来あそこで死ぬ運命だったと言うのに……」
「……は?」
「貴方達とアークスが小競り合いをするつもりなら、観測された歴史は狂わせないでちょうだい」
レヴィはたじろいでアイゼンハートを落とし、震えた声で声を漏らした。
この女はレヴィを超越する力を持ち、知り得ない何かを知り、記録者という名目で何かの行動をしている。
システムとも言い難いその異様な女が言う"死の運命"は嘘やはったりとは思えない。
「え?……【敗者】は、……
アリスティアの言っていることが本当ならば、今レヴィのそばに居る【敗者】は一体何なのか……
「自分が狂わせている自覚が無いのね。これまでの無法が出来る位だから、貴方がエストレラかと思ったのだけれど……エストレラの魂にフォトンが無いなんて有り得ないわ」
アリスティアはレヴィの問いに答えを返さず、またよく分からないことをブツブツと呟く。
レヴィは言われた事の衝撃とアリスティアへの苛立ちが重なって銃を拾い上げ、彼女に向けて即座に発砲した。
「独りでごちゃごちゃ言って……ちょっとくらい説明してよ!」
しかしアリスティアは目にも止まらぬ速さで銀色の何かを取り出すと直ぐに銃弾を跳ね飛ばし、直ぐに締まった。
「私がそれを言わなければいけない理由は?」
(武器すら見えなかった……フォトンの軌道があった気がするからフォトンアーツ?でも何か判別がつかない……
この女、六芒均衡やルビィよりも強いってこと?)
「言わなきゃ殺すって言ったら?」
レヴィは落ち着いて再び銃を向け、今度は目に捉えるために慎重に照準を合わせるが、アリスティアは背を向けて一歩足を踏み出した。
「そうね……なら、こうするわ」
瞬間、フォトンが揺らぐとあっという間にアリスティアは目の前から消え、その気配を完全に無くしていた。
「なっ!……消えた?……どこに?反応はない……いや、そもそも……」
レヴィは慌てて端末を開き、アリスティアの名前で照合する。
管理システムの擬人化だと考えていたがあの戦闘能力はどう考えても人間の物だ。
しかし、どこを検索してもアリスティアと同一人物は出てこなかった。
「……アークスのデータベースにない、裏社会の方にも、どこにもない、……アリスティアなんて奴はいない……」
まるで悪質な幽霊だ。
「まあ、やるなとか何とか言っておきながらいい情報くれたんだもん。今日の所は許してアゲル」
レヴィはアリスティアから聞いた大いなる陰の作られ方やヒントを思い出し、さらに一歩近づいた事を良く評価しようとしたが、どうしてもアリスティアの言葉が彼女の胸につっかえていた。
「……【敗者】が本来死ぬ運命だったってどういうこと?」
アリスティアは時間遡行とやら……時間を巻き戻して活動したり、歴史の改変が出来る"記録者"だと自分を言っていた。【敗者】に関しての問題はその先であり……
「それはいつ?いつなの?もう過ぎてるの?それともこれからなの?……一体、……どこまでが彼女の言う"運命"なの?」
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる