「……?」
【敗者】はレヴィの言葉に首を傾げたが、レヴィは頭の中で自分とアリスティアが会った時の時間を客観的によく思い出してみた。そういえばそうだ。
「あ、……うん。思い出した。……その、時間改変がどうとか……そんなこと言ってなかった」
「……なら、どこまでが奴の言葉だ?」
レヴィは、正しいアリスティアの言葉を全て説明した。そこにはマターボードや時間遡行、歴史改変という話はない。
二体のダークファルスにあった二つの意志によって大いなる陰が生まれ、それがダークファルスの復活の為菌を生み出していた。
アリスティアはアークズの指揮官であるマルシスとやらを操作して、それによって大いなる陰アンプラム・アンブラと同タイミングで誕生したエンドゥーとやらが大いなる陰を焼き払った。それ以上の別世界に関する説明はされていない。
「成程……その説明だけなら違和感は無いな。時間の狂いに関しては意味のわからない言葉になるが……そもそもアリスティアはそれを理解させる気が無かったと考えられる。説明する前に逃げたわけだからな」
「うん」
「しかし、理解出来ないな。なぜ話してもいないことを貴様が知っている?混濁して話していたということは、映像ではなく言葉だろう?」
「まあ、そうなんだよね。アリスティアが喋ってる途中に聞こえたらそりゃおかしいって分かるんだけどさ、なんか……長考してる間に聞こえたから、それも喋ってるうちなのかなって思って、でもよく考えたら全然理解できないはずなのに、あの時は飲み込んでて……」
「……少し時間をくれ」
レヴィの主観的な言葉だけじゃとても状況を把握出来ない。【敗者】はそう考えると、レヴィから視線を外し端末を開いた。
「うん」
レヴィは【敗者】の行動をじっと見守りながら、まだ頭の中で【敗者】のことを考えていた。
【敗者】の死。本来あるべき運命。今の歴史は狂っていて、本来は【敗者】が生きていちゃいけない……
(ふざけないでよ……生きることすら運命ってやつに縛られなきゃいけないワケ?自分の生き死にを自分の行動で決めることすら出来ないの?!)
レヴィは怒りのままに吹き上がりそうになったが、【敗者】を睨んでしまう前にどうにか落ち着いて深呼吸した。
深く考える必要は無い。今が変わった後ならいいのだ。今より前に【敗者】の死ぬべき運命があったのなら、今はただ【敗者】に奇跡が起きただけだ。それだけだ。
レヴィが何度か深呼吸して無理やり心を落ち着かせると、【敗者】が面を上げた。
「3番艦の禁書庫の状況を確認してきた。サーバー上には共有されていないが、観測機器の内部ストレージでは異常値が観測されている」
「そうなの?」
【敗者】はモニターを幾つか表示するとレヴィに見せるようにデータを差し出した。
そして、【敗者】はそのデータの内の一点を指差す。
「まず、レヴィが入ってきた時がこれだ。内部のフォトン係数が減少している。このフォトンの揺らぎは貴様がどこにいても発生するものだが、この時は普段より大きいな。緊張していたのか?」
「緊張……、まあ、なんというか、この前にクーナに会って、ちょっとやらかして反省してたかな」
「なんだと……?」
【敗者】はレヴィがまた何かやらかしたのか、しかもあのめんどくさいバックがいるクーナ相手に、と目を細め警戒を剥き出しにしたものの、レヴィは何も気にしていないのか平常なまま淡々と答えた。
「と言っても、手払いのけただけだよ。敵意なら前のルビィの方が何倍も強いから」
「ならいいが……いや、貴様のことだからどうせそれどころじゃないんだろうな。後で話を聞かせてもらおう」
「はぁ……めんどくさいめんどくさい。で?異常値の話は?」
【敗者】は納得出来ておらず重いため息をついた後、再びデータに目を向けた。
「……その後、未確認のフォトン反応が検出した。フォトン係数自体はレヴィが入る前より急上昇している。この時が、アリスティアの出現時だろう」
「うん……確かに、時間が同じくらいだね」
「注目するべきはその後だ。この時、フォトン係数が急上昇と急降下を繰り返している。そしてある一定の時間になった時、フォトン係数が急降下した後通常より100ほど低い数値で安定した。これがアリスティアが居なくなったタイミングだろう。一方、このフォトン係数が乱高下しているタイミングのフォトン反応は更に異常な物になっている」
「どういう風に変なの?」
「具体的にこう、とは言えないな。しかし、このタイミングでアリスティアの能力や貴様のエネルギーによって起きたフォトンの変異により、一時的にテレパシーのようなものが再現されていたのかもしれない。ただし、それを確認するにはアリスティアがレヴィについてどこまで知っているか、というのも必要になるが……捜索は困難だろう」
「まーたフォトンね……ほんとに飽きないんだから」
レヴィは呆れてため息をついた。
フォトンがそこまで万能なものか、と考え始めると苛立って仕方ない。
「あのさ、【敗者】。一つだけ確認していい?それだけ聞いたら、この話終わりにしたい。飽きた」
レヴィはとにかくこの話を終わらせることしか考えていなかった。
飽きたのもそうだが、同じくらい早く答えが欲しかった。おまけに、シオンの話をしている時の【敗者】は失恋したかのような露っぽく未練がましい様子でレヴィにとっては不愉快で仕方なかった。
自分の気持ちだけは本当で、それ以外は全て嘘でも構わないとは言ったものの、それはそれとして本命であろう女の自慢話を聞かされて愉快になれる訳がないだろう。
「飽きた……?貴様の感性には本当に呆れるな……」
「いいから、ね?」
レヴィは手袋を付け、手を後ろに回し【敗者】に淡々と声をかけた。
「あんたが、マジでわたしが居なかったら死んでたかもって思うタイミングって、もう過ぎた?」
【敗者】は大きくため息を着いたが、そのあとに迷わず頷いた。
「……」
そのタイミングは一つしかない。マザーシップのあの時。レヴィと出会い、彼女と共に44番艦に向かうことでレギアスと入れ違いになったあのタイミングだろう。
あの一瞬、自分がもしレギアスに会っていたら協力を頼んだに違いない。
しかしレギアスのした行動は全宇宙への指名手配……つまり、レギアスからしたらあの場で【敗者】を"討る"つもりだったのだ。
「ふーん……なるほどね。ならいいよ」
レヴィはそれを聞いて納得すると、直ぐに微笑んだ。
「ね、このままどっか行かない?探索しようよ、なんかの惑星さ。どこでもいいから」
「はぁ……仕方ないな。今の貴様にこれ以上の事を聞いてもまともに取り合ってくれなさそうだ」
「うん、じゃあどこ行こっかー、アムドゥスキア以外がいいなー」
「策もなしにウォパルに行くのは避けたい……リリーパの地下坑道なんかはどうだ?」
「えー……ディナンに会いそうだからイヤ」
「だったらナベリウスしか残っていないじゃないか。生憎、僕は普段着で砂漠に行くのは勘弁だ。靴に砂が入る」
「あー、戦闘服じゃないとそういう対策されてないしね。ならナベリウスでいいんじゃない?船適当に泳がせてたら近くに来たしさ」
「せっかくなら、前のように探索範囲外の外に行ってみないか?」
「ウォパルの範囲外も楽しかったね……ナベリウスも外になんかあるの?」
「いや、ナベリウスはただ危険なだけだが……二人きりで行くというのもいいだろう?」
「ふふ、いいこと言うじゃん!」
レヴィは直ぐにナベリウスの探索範囲外区域を割り出し、【敗者】に見せる。
「どこに降りたい?調整するよ」
「ふむ……森林や凍土で軽い散策をしてもいいが……せっかくなら遺跡に行く方が良いかもしれないな」
「遺跡?まあ、いいけど」
レヴィは端末を操作して船の軌道を遠隔で操作する。船はナベリウス近くの宙域に居るものの探索範囲外の場所は現在地よりかなり移動する必要がある。
船が惑星軌道に乗ると、レヴィは具体的な降下位置を割り出す為にナベリウスの探索機をハッキングし、探索範囲外の方に転移させる。
「平坦な地が少ない……いや、そもそもダーカーが多すぎるんですけど」
「当然だろう。大規模討滅作戦を組まないと開拓出来ない領域だと判断されているから放置されている場所だ。数ヶ月以内には降下作戦が開始されるだろうが、現状はこの地獄のような状況で散歩するしかないな」
「はぁ……まあ、ダークファルスがいるからいいのか」
レヴィは探索機から送られてきたデータとにらめっこしながら降下位置を演算し、一番それっぽい場所を割り出すと更に調整する。
「それよりも、この船がダーカー因子汚染を受けると面倒だ。一定高度……45000メートル程度の位置で滞空させて、僕達が降り次第トランス・ジャマーとフォトンバリアを掛けて保護しておくように」
「45000メートルとかマジで言ってんの?そんな高さから降下したことないんだけど?この船戦闘機とかも載せてないし……」
「大丈夫だ。着地地点の座標だけ決めておけ。僕が連れて行ってやる」
「別に10000メートルくらいならダーカー因子汚染されないと思うけど……」
「【巨躯】が復活してこの区域のダーカー因子は活性化している。その程度の高度ならフォトンエンジンに引き寄せられてダーカーが発生してもおかしくない。宇宙からの影響も考えれば丁度この辺りが一番安全だ」
「アークスに見つからないように光学迷彩も付けて反応もロストさせておかないとなぁ〜。全く、注文が多い奴なんだから」
レヴィは端末を操作し【敗者】に降下地点の座標を送った後、船の管理システムを操作し高度も調整する。
「確認するけど、探索範囲外の遺跡ね。ダーカーがめちゃくちゃ多いしアイゼンハートは置いていって試作型でもブラックローズ持っていった方がいいかも……?」
「アイゼンハートが暴発したら手に負えなくなると考えれば、ダーカーの感知に無関係なブラックローズを使用した方がいいのかもしれないが……火力に問題があるだろう?」
「そもそも武器自体念の為なの。なんかあるなら最初に対処するのはわたしじゃなくてあんただから」
レヴィはため息を着くとキーボードから手を離し、窓から外を見つめた。
「もうすぐ着くから。降下とやらはあんたがやって」
レヴィは記録装置が集め、AIが要約した【敗者】やフォトナーの情報を軽く見ながらふらふらと足を揺らしていた。
(アークスというか、オラクル全体に一枚噛んでる感じか……実験用の秘匿艦に通信制限や規則の制定に刑罰の処理、予算配分から検閲まで気に入らなきゃ【敗者】が自由に変えられる……。しかも、研究所周りの事以外は全て別のやつの名義で。
それってつまり、責任もそいつに負わせるってことであって……美味しい部分だけ食ってたってことね)
そして、フォトナーのことに関しては完全に削除しているのか昔の記録は無いに等しい。
【敗者】が何故ダークファルスになったのか、彼がなぜ全知存在を求め、そして何を失い、何に絶望し、なぜ「敗北者」などと自分を謳うようになったのか……それはレヴィには分からなかった。
そしてレヴィはどこか遠くの虚無を見つめたり、こちらを見つめたり、はたまた頭の中でいろいろと考え込んでみるもののやはり【敗者】が何を抱えているのかはさっぱり分からずため息をつくだけである。
「レヴィ」
「んー?」
「降下する準備は出来たのか?」
「あぁ……ね、まあ、すぐ」
レヴィはアイゼンハートを置いてブラックローズを取り出すと、服を整えゆっくりと深呼吸した。
「うん、行けるよ」
「そうか……」
いつもはトレーニングや習い事をしているが、今日は珍しく【敗者】との話し合いで時間が経ってしまった。
と言いつつ体が訛ってる気はせず、戦闘する前提でもないことからこのままでも上手くいけそうだ。
【敗者】はレヴィの腰に手を回すとゆっくりと抱き寄せる。
そして、座標を指定しレヴィと共に転移を行った。
降りたのは遺跡の探索範囲外のとある区画の角。
近くには強大なダーカー反応が蠢いており、普通の人間ならこんな所に二人きりで来たともなれば恐怖に怯えてしまうところだろう。
しかし【敗者】とレヴィはそうではなく、レヴィはサッと【敗者】の体から抜けると彼に目を向けることも無くすぐに歩き出した。
「ふぅん、……意外だなぁ。人、結構居たんだね」
レヴィの予測では、ここは誰も立ち入ったことの無い領域で、自然に包まれた景色の中ダーカーが蔓延っている姿を想像していた。
しかし現実は真逆で、寧ろ探索している区域よりも多くの腐った物資や壊れた武器が落ちており、視界の中にある無数の死体は枯れたかのようにおどろおどろしく乾燥し朽ち果てていた。
「40年前の死体も勿論あるが、ここにある死体の死亡年代は疎ら……これは、【巨躯】の養分にされたアークスだな」
「ふぅーん……復活するためにアークスのフォトンを食ってたってことね」
【敗者】は立ち止まると、天を仰ぎすぅと息を吸った。
ここは心地いい。
常にダーカー因子を浄化するためのフォトンが撒き散らされているアークスシップと違って、ダーカー因子で埋め尽くされたこの遺跡は親の胎の中のように落ち着くものだ。
「はぁあ……」
【敗者】は恍惚にも近いため息を付いた。
ダーカーが居るのにとても静かに感じる。
レヴィの声も聞こえないし、彼女の匂いも分からない。
これが我が存在のあるべき姿……そう【敗者】は酷く冷静に考えられた。
「【敗者】、あのさ……」
深く溜息を吐いている彼を見て、レヴィは声をかけた。
「ふふ……どうしたんだ?」
「【敗者】がさ、わたしのことあんまり信じられなくて、その……惑わされてるみたい?で、全然話せない……みたいなこと、言ってたよね」
「……?」
【敗者】は自分がそんなことを言っただろうか、とぼんやりと記憶を思い出していたが、レヴィは彼の想起には構わず直ぐに言葉を続けた。
「【敗者】は、今でも不安に思ったり、怖いなって感じたりしてるのかなって考えちゃったの。前にも言ったんだけどさ、もし【敗者】がわたしのこと認められなくて、変化を恐れて、ちゃんと考えられない……ってなってるなら、やっぱりわたしと離れて少し冷静になる時間を作るべきだと思うんだけど……」
「不要だ」
【敗者】は迷わずきっぱりと告げた。
――自分が不安になる事や恐怖を感じることが無いとは言えないが、それをレヴィのような存在に決め付けられる筋合いなどないし、ましてやその対処に離れるなどという行動を取らなければいけないのは至極不愉快だった。
なぜ自分の駒を相手の意思で捨てる行動なんてしなければいけないのだろうか?
【敗者】は冷静になって考えてみてもレヴィを捨てるという選択肢はやはり出なかった。
「へ?」
「不安?恐怖?……たかが貴様如きに?この僕に限ってそんなことがあると思うか?寝ぼけているだけだろう」
「でっ、……でも、あんたが……その……」
レヴィは間違いなく聞いた記憶として覚えている。
彼が自分との信頼関係の構築に苦労しているという話や、変化を恐れているという言葉を。
しかし、今の【敗者】はまるでそれをなかったかのように振舞っていた。
「不要だ、と言っただろう?一々無駄な事を詮索するな。不愉快だ」
【敗者】はそう言葉を放った直後、スッキリしたと思いつつ少し言いすぎてしまったのではと考えた。
彼女の信頼を勝ち取るには恋愛感情というものが大きく関わってくる。
彼女の関心とその欲求を満たせず、彼女が「冷めた」と考えてしまえば【敗者】とレヴィの信頼関係はあっという間に崩れる……そう【敗者】は考えていた。
しかし、そう言われてもレヴィはただ笑うだけだった。
「そう……【敗者】が平気なら良かった。ちょっとでもいい方向に行けばいいなって思ってたからさ」
「……」
レヴィは【敗者】から雑に扱われても動揺しなかった。そうされて当然だと確信しているからだ。
慈悲深いとすら思えるレヴィの対応に【敗者】は少し驚いたが、すぐに別の思考が湧いてきた。
(僕は無理に優しくしようとしなくていいのか……?)
今まではレヴィとの信頼関係を保つため、そしてアークスに自分では無い自分を見せつけるため、過剰なパフォーマンスや誇張のような、いわゆる"媚び"を行ってきた。
しかし今、この澄んだ空気の中、レヴィはそんな事をしなくても【敗者】のことを好きで居てくれると【敗者】は気づいたのだ。
「ふふ……」
「【敗者】?」
「いや、……いや、何でもない。ただ少し、愉快な気分になっただけだ……」
「そうなの?ま、あんたにとってはここも居心地良いか……」
レヴィはそう言って【敗者】から目を逸らすと、直ぐに前を歩き出した。
【敗者】はその後ろをゆったりと追っていく。
ダーカーが跋扈する中、二人は戦うことも無くゆっくりと歩きながら、周りを見渡していた。
「レヴィ」
「どうしたの?」
レヴィは振り向いて、【敗者】をじっと見つめた。
少し奇妙だった。
【敗者】はレヴィが今何を考えているのか分からなかった。
普段は何かの波のような、オーラのようなものが、常に甘い匂いや愛くるしい笑顔にまとわりついて【敗者】に愛を叫んでいると言うのに、今のレヴィは淡白で何も伝わってこない。
「お前はここに居て楽しいのか?」
「連れてきたくせに何言ってんの?ふふっ」
レヴィはニッコリと笑い、手を広げた。
「スリリングで超楽しいよ?もしちょっとでも間違えたら、ダーカーから袋叩きにされるかもしれない〜って思うとさ!それにね?【敗者】と一緒に歩けるなら、ここが地獄でも牢獄でも楽しいからいいの!」
レヴィのキラキラとした笑顔に嘘はなく、【敗者】は彼女のコロコロと変わる表情や楽しげな声色で様子を察した。
「地獄……凡庸な言い回しだな」
「わたし達、どうせ一緒に地獄行きだろうから……ふふっ、地獄でなにしよっか?」
「地獄の王者になってみるのもいいんじゃないか?」
「えー!それすっごく面白そう!」
レヴィはくすくす笑うと【敗者】の手を取り、指を絡めて握った。
「地獄で王になるのもいいけどねー、この宇宙で最強になってからだよねー?」
「あぁ。余生も死後も、互いの目的を満たしてから、だ」
「契約ね。年明けすぐくらいにさ、新生式あるみたいだけど……来年、なんかアークスにダメージ与えられるかなぁ」
「……」
来年、と聞いて【敗者】の頭にやろうとしている予定が一気に浮かんできた。
今は、それを話すのに一切の抵抗も不安もなかった。
「復讐の為に、僕も貴様も動く必要がある。特に、僕の損傷した体を治すのは最優先事項だと考えているんだ」
「あっ、そうだよね……【敗者】って健康そうに見えるけど、力が削られてて苦しいんだもんね……」
レヴィはしょんぼりとした顔で立ち止まり、俯いた。
【敗者】は腰を曲げ屈むとレヴィと目を合わせた。
「大丈夫だ。レヴィの器の交換が終了次第、回復の為遠征する事にしている」
「え……?遠征?」
「あぁ。来月の……そうだな、中旬くらいと言ったところか。僕が実験場として利用していた空間があって、そこには力を回復出来るだけのダーカー因子やフォトンが充満しているんだ。そこで少し休めば、十全に活動できる状態になるだろう」
「ふーん……じゃあ、器の交換ってちょうど年末とか年明けくらいなんだね!」
「あぁ。しかし、年末にはまだやりたいことが別にある」
レヴィは遂に【敗者】からの先の予定の話が聞けるとワクワクしながら彼を見上げており、【敗者】はレヴィの体を掴むと抱き上げてゆっくりと歩き出した。
「やりたいこと?」
「貴様の戦闘訓練は、基本的な的打ちや素振り、それと創世器の力を引き出す為の負荷試験、実戦想定の回避や対応力を鍛える訓練の三種類が主だったが……ひとつ、重要な事を忘れているだろう?」
「……?」
「協力だ。実際アークスが襲撃してくる時は一人ではなく集団になるだろう。もちろん、守るべき拠点があるとするなら分散しての対処になるだろうが、基本的に狙われるものは僕の首だ。そうなると、戦闘はツーマンセル……互いに背を任せ共闘する事になる」
「あっ!!」
レヴィは思わず体を起こし、【敗者】の服をギュッと掴んでキラキラと目を輝かせた。
「つまり、つまりつまり!今までは訓練で敵同士だったけど、バディとして一緒に戦うって事ね?!」
【敗者】は頷くと、レヴィはもっともっと嬉しくなり上機嫌に体を揺らしていた。
「それと、極限状態における無支援での生存能力及び継戦能力向上の実戦訓練も兼ねて、年末は外で過ごすつもりだ」
「えー!すっごくいい!いい……いいけど!それってつまり年末からすっごく家を空けるってことになるよね?」
「そういう事になる訳だ。そして、僕の体の回復が終わった後は貴様のフォトンアレルギーの解析の為かなり遠方の惑星に出張する予定がある。そうなると、三ヶ月程度は家から離れるという事になりそうだ」
「遠方の惑星……へー……でもさぁ、そんなに家空けて平気なの?正直わたし達の家って、見られちゃいけないものすっごくあるよね?」
【敗者】はその言葉を聞いて、待ってましたと言わんばかりに口角を上げた。
「もちろんだ。その為に家を守護する為の物を用意している」
「守護する為の物……?」
「従者だ。我が拠点の防衛及び人の手で行う家事を任せる存在。それを僕は造っている」
「え……」
従者、と聞くとマシナリーや人工知能のようには思えない。しかし、【敗者】は造っている、と表現した。
だから人ではない何かなのだろうが、レヴィには全然その外見や機能の検討がつかず色々な憶測や驚きが混じって思わず動きが止まった。
「ふふふ……そんなに驚くものなのか?レヴィだって、協力しただろう?」
「へ?協力?何を?」
「見てからのお楽しみだ」
【敗者】はそう告げると、気分が良くなったのかそのままUターンして来た道を戻っていく。
「わ……」
「それと、戦闘服の話だが、試作型がちょうど昨日完成した。次の戦闘で利用するつもりなんだ。貴様の分を用意したのは勿論だが、様々な状況を想定して僕の分も用意した」
「えっ!【敗者】も?!それってお揃いってこと?!」
レヴィは同じ戦闘服、という響きで直ぐにそんなしょうもないことを考えて飛びつくが、【敗者】はレヴィのそんな愚かな所を見て軽蔑しつつも思わず笑ってしまった。
「あぁ、そうだ。僕の場合、現状より更に力を消耗した状態を想定し、核を守る事を絶対条件に防御性能を上げた装甲となっている。それに対し貴様の場合はダーカー因子の吸収と侵食を抑える機構の試用が主目的であり、他の部分は戦略OSや防御など戦闘服に必要不可欠な要素を取り入れたかなり一般的でシンプルな構造になっているんだ。
つまり、レヴィの場合は侵食抑制機構の、僕の場合は新型防御装甲の試用を目的とした実験用の戦闘衣になる訳だ」
「つまり、これで運用しようってものではなくて、技術検証を目的としてるから試作型にしたって事ね!」
「貴様にしてはよく分かってるじゃないか」
【敗者】はレヴィに頬擦りすると、彼女を跳ねあげるようにぽんぽんと揺らしていた。
レヴィも色々なことを教えて貰い、【敗者】が無駄な買い物をしていただけではなく水面下では色々なことを考え行動を起こしていたのだということを知って嬉しくなり、思わず彼女が隠していたことも口走った。
「あのね、【敗者】。わたしもね、頑張ったの」
「ふむ……何をだ?」
「VR投影装置。作って、もう設置したの。いつでも使えるよ」
【敗者】はその言葉に少し足を止め、レヴィをじっと凝視した。
作っている事は簡単に予測できる事だったが、思ったより完成が早かったので少し驚いたのだ。
しかし、それこそ彼女が必死になって努力した結果であり、【敗者】はニッコリと優しく微笑むとレヴィの頬にキスをする。
「ありがとう、レヴィ」
「ふぁ、……、っ、る、……【敗者】……えへへ……」
「実際のクオリティに関しては見てからということになるだろうが……この短期間で完成まで持ち込むとは、僕の式に狂いがあったようだ。もちろん、良い意味で……だが」
「うん!だってね、だってだって頑張ったもん!」
「あぁ」
【敗者】は淡白な返事をした後、レヴィから目を逸らした。
ここまでの計画、失敗はしていない。
してはいないが、あまりにも遅すぎる。
もしアークスに復讐するのであれば、最高のタイミングは恐らく11月くらいだっただろう。
しかしそこまでに叶えるにはレヴィの練度も【敗者】の肉体も全くと言っていいほど足りていなかった。
これからは、アークスが力を増していき【敗者】も不利になっていく状況。
それをどうにかするには、【敗者】はもちろんのこと、この唯一の駒であるレヴィをどうするかが重要になるだろう。
(レヴィのグラン類似エネルギーの正体を必ず突き止めなければならない……その為に、この女はあの場所に連れていかなければならないんだ。そして、……そのための"協力者"もそろそろ確定させる必要があるな……)
【敗者】は足を止めると空を細く見つめてから、レヴィに振り返った。
「帰ろうか」
「へ?」
「こんなに心の踊る話をしたというのに、こんな場所に居てもつまらないだろう。帰って、情報共有を続けようじゃないか」
「わっ……うん!うん!そうする!そうしたい!もっと【敗者】のこと、知りたい!」
レヴィは大波を立たせるような輝かしい笑みを浮かべ、【敗者】の顔に抱きついた。
大きな胸が【敗者】の呼吸を阻害するように思い切り埋めつくし、【敗者】は全く目の前が見えなくなるが気にせず転移で上空の船に戻る。
(それと、解き明かすべきものがもうひとつある……)
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる