※この作品はR-18です。

MIDNIGHT   作:Libby博士

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34話(2)

 

 

そんな簡単な会話をこなした後、レヴィは【敗者】の元に戻ってきた。

 

「あんたの方でまだやるべき事ある?」

 

「今日の研修内容は既に送付している。僕たちが家を出れば、監視の元伝達した通りの業務を行うだろう」

 

「ないって事ね。じゃ、装置の試用行くよ」

 

「あぁ」

 

【敗者】はそう言って、レヴィと手を繋いだ。

【敗者】の大きな指がレヴィの指にするりと絡み、さらさらと繋がって歩き始める。

 

「それにしても、同性から触れられるのが嫌とはな」

 

「それは初めて知ったんだから仕方ないでしょ?」

 

レヴィは【敗者】に歩幅を合わせ早足で歩きながら、【敗者】のことをじっと眺めた。

もし【敗者】が女だったらと考えてみるが、どう考えても自分が好きになれるビジョンが一切見えない。

 

「多分、……女と恋愛とか性愛みたいな関係を作るってのがすごく気持ち悪く感じるんだと思う。その……触られるのも、多分そのうちに入るんじゃないかな」

 

「全く、貴様は本当に何度僕を呆れさせるつもりだ。自己分析もまともに出来ないのか?」

 

「知らないものを頑張って解明しようとしてる段階なんだから馬鹿にする方がおかしいでしょうが……」

 

【敗者】は高身長で足が長く歩幅は大きいが、歩くスピードはゆったりと遅く転ばず着いていけた。

前に追いつけなかったり転びそうになった時があったが、あの時は自分が疲れていたのか【敗者】がわざと早く歩いていたのかどっちなのだろう……とレヴィは頭でぼんやり考えながら、【敗者】の隣に寄り添う。

他愛もない会話をしながら44番艦の閑静なゴーストタウンを歩み、船までの道を時々止まりながらゆっくり進んでいった。

 

「しかし、僕の理解も少し足りなかったようだな。シャーロットにはレヴィを最大限丁重に扱うように指導したのだが、それが裏目に出るとは……」

 

「いや、あんたは悪くないよ……言ったでしょ?人から好意的に接された経験がないってさ」

 

レヴィは落ち着いた声色でそう呟く。

【敗者】は外に出ると変装状態になり、黒く長い髪を揺らしいつもより少し若く優しげな瞳をレヴィに向けた。

レヴィの言っていることは【敗者】から見てもすぐ分かることなのだが、それにしても、ただ優しくすればいいだけじゃないレヴィの繊細な性格が【敗者】の中で面倒臭いけど面白い、といった気持ちを沸き立たせていた。

 

「誰が悪いという話をしたつもりは毛頭ないんだが……貴様は僕が悪いと言っているのか?」

 

「は?頭沸いてんの?」

 

「根本的な原因としては二十年以上生きておきながら貴様が自分の生理的嫌悪について自覚せず己の魅力にも無自覚で他者との接触を完全に拒んでいたからだ。結果的に無知なのは僕ではなく貴様の方であり、僕は単に貴様がどれほどアホで無知でなおかつ傲慢かという事を少なく見積っていただけだ」

 

「はぁああー!?なにその言い草!あんたみたいに周りからそーちょーそーちょー媚び売られてる奴と違ってわたしはムショ入れられたこともないのに大罪人みたいな扱いされてる訳!それでわたしの努力不足みたいに言うの酷くない?!」

 

「いいや、僕は単に事実を言っているだけだ。

確かに貴様の身や名前には悪評が付いており、オラクル内での扱いはダーカーよりも酷いもので他者と健全に交流する機会は全くと言ってなかっただろう。

しかし、己の境遇が理不尽な物だと分かっていながら面倒くさがって虚空機関の総長に直談判しに行かなかった事や、ハッキングという身分詐称する能力があるのにインターネットでのコミュニケーション等も放棄していた事。これらは改善しようと思えば直ぐに改善できる事であり、そしてより良い結果を残していたはずだ。しかしそれは行わなかった。何故か?」

 

「うっ……」

 

「面倒臭いから、だろう?自分の日常が退屈なルーティンであり、それを打開するには何かしらの行動を起こさなければならない。しかし貴様が行っていたことはなんだ?殺人という快楽で迫害の鬱憤を晴らし、力が欲しいと宣いながら創世器の本来の力量すら理解していない。匿名の皮を被れば会話を行う機会はあるのにどうせ無理だ、という言葉で言い訳して、本心はコミュニケーションが面倒臭いからと放棄している。果たしてそれは、本当にオラクルからの迫害や、貴様のフォトンアレルギーが原因と言えるのだろうか?

己の怠慢に他ならないだろう」

 

「う……うるさい……」

 

「実際、僕が何か命令しなくてもあの刀匠には好かれているじゃないか。貴様が心を開いていれば、その可能性は昔からあったはずだ」

 

「ジグには嘘ついてることくらい知ってんでしょうが……」

 

「他者と交流する事にあたって嘘をつく事は悪い事ではない。全ての相手に対し自分をさらけ出し、品性のない部分や相手を不快にさせる部分まで見せる必要は無い。貴様はただ人間が当然のように行う事を選択し、それに対して疑問を抱いているだけだ」

 

「でも……」

 

「逆に聞くが、貴様はあの刀匠がどんな話をしても笑顔で聞けるのか?例えば相手の性的な事情はどうだ。過去に起きた嫌な話、良かった出来事、他者の自慢、家族の話……それらを全て聞きたかった事で、愉快な事として処理出来るか?」

 

「……まあ、……そういうのあんま聞きたくないって思うけど。友達ではあるけど、ビジネスの相手みたいなもんだし。シモの話なんかされてもそういう目で見てないし」

 

「そういう事だ。あの刀匠は貴様との関係や事情を配慮して自分の話す情報を選んでいる。貴様がジグに嘘をついているのは相手を陥れようという悪意ではなく、相手と良好な関係を築くための配慮だ」

 

「配慮……」

 

【敗者】はレヴィを褒めたつもりだったのだが、何故かレヴィはその言葉を繰り返すと顔を顰めた。

 

「それって、金も貰ってないのにわたしが踏み台になってるってこと?」

 

レヴィの意味不明かつありえない発言に【敗者】は思わず顔を引き攣らせると、レヴィの方を訝しげに見つめた。

 

「配慮が踏み台、だって?」

 

「え?だってあんただって思うでしょ。アークス共に頭下げたりとか、全く思ってもいないようなこと言って褒めたりとかさ、そういう事するって、相手に対して自分は無価値で情けない存在なんですって言ってるようなものじゃん。それってさ、首差し出してるのと同じだよ?」

 

「一から十まで同意出来ない……と言っていいか?」

 

その言葉が不愉快だったのか、レヴィは淡々とした声色でありながらも明らかに苛立ったような言葉を並べる。

 

「でも、あんただって隙を見せるなって言うじゃん。場の主導権を握れ、強さを誇示し、相手から逆らう意志を無くせって……それと同じでしょ?なんでわたしが穢らわしいオラクルのゴミ共に対して配慮なんかしてやんなきゃいけないの?意味わかんないんだけど。わたしにある権利って不愉快なやつをぶっ殺していい権利であってただでさえ奪われ尽くしてる尊厳をさらに自分から差し出す権利では無いよね?わたしはもう人間共からひとでなしのゴミ扱いされてるんだよ?それですら謝罪と命を貰わなきゃ採算取れない位だってのになんでわたしが更に尊厳を〜」

 

グチグチと長ったらしく文句を言うさまは分かりやすくキレており、感情的に声を荒げなくてもこの程度の内容でここまで攻撃的な言葉を吐き散らして言葉の圧で相手を萎縮させようとする様は【敗者】から見るとだいぶ滑稽だった。

 

「もういい。貴様が言葉をそれ以上言わなくともなんと言いたいのかはよく分かる。貴様は性根の腐った自己中。それだけで伝わるさ」

 

「はぁ……なんで意見が合わないのかな。あんたはへりくだってもなんとも思わないわけ?」

 

「僕の考えは逆だ。僕が相手に対し謙る時は、決して無防備な姿を晒した訳では無い。寧ろ相手の心理的な障壁や警戒を解いて、相手からの純粋な感情での信頼や尊敬を得られる。無論、僕がその相手に好意を抱いている訳もなければ、相手を信頼しているわけも無い。相手の価値は僕が並べる言葉よりもずっと低い。しかし、相手の信頼を勝ち取り、従順に従うようになった状態とはつまり相手のコントロールを得たわけであり、そこで無防備なのは相手の方で、相手は僕が首を切れと言えば切れるようになる状態な訳だ。

さて、この状態は、レヴィの言う"首を差し出している状態"になるのだろうか?」

 

「……」

 

「よく分からないのであれば、いい例えを教えてやろう。僕が今まで幾度となく貴様の事を評価してきたが、それが嘘だったと言うことにする。その時、実際のレヴィの評価は無価値なものであり、僕は嘘をついているだけになるが、しかしそこが嘘だとしても真実として残るものがある。

それは盲目な信頼だ」

 

「盲目な信頼……」

 

「レヴィは僕から声をかけられて、褒められて嬉しいと感じただろう。嬉しいと感じたから相手が優しいのだと思い、暴力を振るっても、殺そうとしても、それを許容してしまう。それこそまさに根拠の無い感情が作り出した信頼だ。実際僕の言葉が真実である保証など出来ない。主観的な評価が真実であるかどうかを証明することなど、悪魔の証明に値することだ。客観的なシステムでの評価が貴様を無価値だと判断する以上、本来正しい評価は其方なのかもしれない。

しかし、フォトン適正に偏った評価に囚われず脳の情報処理能力や運などという漠然とした物にポテンシャルを感じているからこそ、僕の視点ではレヴィを高く評価している。

が、それが本当は嘘だとするなら……貴様はどう思うんだ、レヴィ?」

 

「……前に言ったでしょ、わたしの気持ちだけが本当だって。あんたから貰えるものもされることも全部嘘でも構わないって。それより最適な言葉はないよ」

 

「なら、なぜそう考える?」

 

「わたしは返しきれない程のものをあんたから貰ってるからだよ。沢山色んなものをくれてるし、こうやって温もりを教えてくれて、沢山褒めてくれて、それが嬉しかったから。わたしの本心で嬉しいって感じるから、それが嘘であろうが本当であろうが、あんたの計画のためであろうが関係ないって思ったの。

他の奴には嘘でもわたしを喜ばせることなんて出来なかったから」

 

「なら、すぐに理解できるじゃないか。僕が貴様と関わることが全て計画の為だと言うのなら、僕は絶対に裏切らない確実な駒を保持するために貴様に嘘をついても謙る。そして実際貴様は僕に与えたもの以上に成果を返そうとしている。それは信頼であり、配慮する理由になる」

 

「分かったけど……その……」

 

「まだ何かあるのか?」

 

「あんたがわたしと関わってるのが、全部計画のためだと言うのならって……それ以外になんかあるような言い方じゃん。

それ以外になにか、……あるの?」

 

レヴィの眼差しは期待というより不安だった。

【敗者】はゆっくりと落ち着いて呼吸をすると、直ぐに返す。

取り繕う必要は無い。レヴィに嘘は関係ない。嘘をつこうがつかなかろうが、彼女は言うことを聞く。

だから、【敗者】は己の内側で温度が上がっていく自分の感情に蓋をした。それが正しい解だと考えたから。

 

「いいや、それは違う。レヴィ、貴様が僕と関わっているのは、最初から最後まで全部計画の為だ。その為に、僕は貴様と契約した。だから、それ以外には何も無い。無償でもなければ恋でも愛でもない。僕達はただ、願いを叶える為に嘘をついているだけなんだ」

 

「うん……分かってるよ。わたしはそれがわかってるから、嘘はつかなくていい。嘘つきたいならつけばいいけど、それが利益になる事じゃなくて、単にわたしの気分を良くすることだけが目的ならその必要は無い。そんなことをしなくたってわたしはあんたに従うから」

 

「あぁ。僕も分かっている」

 

契約だ。契約関係でしか、二人はこの距離を維持出来ない。

もし、無償の愛を求め、レヴィが胸の内側に秘めた気持ちを吐き出してしまったら、もう二度と二人に利益を見出すことは出来ない。

これまでついてきた全ての体のいい嘘という名の恋人ごっこが本当に全部愛になってしまって、目的を見失っていることも認めてしまうから。

 

だから、自分たちはやるべきことを忘れていないのだと、全知のため、復讐のため、力のために生きているのだと言い聞かせるために、互いに無償の行為は行わないし、相手に対して感情という曖昧な見返りは求めないし、二人は利害関係のバディであるということを自分の中で強く言い聞かせた。

計画を進めるには、契約関係であることは必要不可欠だ。

 

「わたし、強くなりたいの。アークスに復讐するために、あんたの願いを叶えるために、そしてわたし自身が最強のアークスになるために。だから、あんたに協力してもらわなくちゃいけない。戦闘訓練もそうだし……知識もね」

 

【敗者】はこくり頷いた。長い船旅の中で外の宇宙に目もくれずレヴィのことだけを凝視していた。

 

「だから、その……」

 

レヴィは【敗者】から目を逸らし、ブリーフィングルームの床を見つめる。

 

「わたし、【敗者】のパートナー、……いや、……駒で、居たい。あんたの願いが、叶う時まででいいから」

 

「僕は既に、その言葉の答えを出している。その時まで居るのは当然で、もし時が許すのなら、それから少しでも長く共にいられればいいと思っている」

 

「……」

 

【敗者】の言葉にレヴィは胸が熱くなり、きゅんと疼いた。

駒と主人、利害関係のバディという関係はわかっていても、昂る気持ちが抑えられない。

【敗者】のことを、そういう目でしか見れない。

 

「557番艦に着いたようだ。降りよう、レヴィ」

 

「うん」

 

二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。

  • 続編として作品を分ける
  • 分けないで一つの作品でまとめる
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