レヴィは怒りを顕にしているが、彼女は今一番燃えている瞬間でもある。
刺激中毒なレヴィにとって、装置の試用という目的も、訓練というシチュエーションも、殺意がないと分かっている相手も、全部彼女に「この程度で妥協していい」を与えてしまうものだ。その妥協とはすなわち退屈であり、強者と戦う状況でありながらルーティンのように相手をしてしまう。
調子に乗って油断するのも、自分のゾーンに引き込んだ瞬間、本気で戦うことにやる気をなくしてしまうからだ。
相手の意識の外から一瞬で殺す暗殺でなら刺激も退屈も関係ないが、【敗者】が彼女に身につけようとさせている継戦能力や対軍戦闘に関しては彼女のモチベーションが戦闘のクオリティに大きく関わる。
【敗者】の課題はレヴィのモチベーションをどうやって維持し続けるかだ。
「……」
【敗者】はその場から動くこともなく、突っ立ったままゆっくりと腕を組んだ。
彼の足元に置かれたアイゼンハートは未だ起動状態にあり、レヴィは武器を二つ使って戦闘を行うのだとすぐに察した。
「照準がわたしに向かない代わりにあっちに全部飛んでくんだから……逆に言えばちょっと楽になるってことでしょ!」
レヴィは遠くからアイゼンハートを盾に変えるとブラックローズを握り再び法撃職から狙うためカスラに照準を合わせたが、当然のようにゼノが間に入りこんでくる。
一回相手に隙を許せば次にマリアが上からラビュリスを振り翳し、回避すればレギアスが切り込み、そして背後にある盾が反応するとカスラからのテクニックを受け止める。
「くっ……」
傘を広げてガンスラッシュの弾を受け止め、すぐに閉じると風を切るような素早い軌道で攻撃をいなす。
もちろん【敗者】の前に展開した盾の位置調整やサイズ変換も忘れずに、だ。
「闇雲に突撃せず期を伺うのは構わない。しかし、体力の配分には気を付けないといけないことは当然分かっているだろう?」
「あったりまえでしょうが……!」
レヴィの脳内には三つの空間がある。
自分を主観とした空間と、【敗者】を主観とした空間と、完全に客観的な空間。
それをレヴィの全身から得られる情報を元に常に立体的にマッピングを行い、ギリギリの状態でひたすら回避と防御を続ける。
一発当たれば戦闘不能と分かっているからか、どうにかして猛攻の中にリズムを作って上手く回避を続けていた。
「これならまだあんたの訓練の方がマシなんだから……!」
「相も変わらず、吠えるだけなら立派だな」
運の良さと処理能力の高さで何とか避けられてはいるが、実力が頭脳に全く追いついていない。
ブラックローズの技を発動させる隙も無ければ無茶振りせずにアイゼンハートの転換能力を使える気もしない。
(なんとかして攻撃しないと……!)
【敗者】は案山子のようにその場に立って見守っているだけであり、レヴィは状況が変化しない現状に焦って思わずブラックローズを抜刀する。
法撃狙いじゃどうにもならないなら目の前の邪魔なやつからやるしかない。
そう考え、レヴィは遠近から攻撃を狙うゼノに向けて刃を突き立てた。
【敗者】はそこを、あえて何も言わず静かに見守る。
「っぐ……!」
レヴィはアイゼンハートを瞬時に転換し自分のガードに回しながら、ブラックローズで武器を抑え込み背後から転換でナイフを出現させ背後から刺す。
ゼノに対してダメージはそれなりに入っているものの、代わりに【敗者】の方は完全に無防備にさせてしまっていた。
「馬鹿が……」
【敗者】はようやく一歩動き出し、目の前に降りかかるテクニックを払う。
そしてバリアを全面に展開し、打撃の攻撃を受け止めてから時間停止でその場から離脱した。
「レヴィ。今、僕を動かせたな?」
「完全にリソースが足りてなかったんだからしょうがないでしょ?!あんたがボケっとしてないでちょっとでも戦ってればよかった話……うっ!!」
レヴィは文句を言っている間に完全な隙を見せびらかし、六芒均衡からの反撃と言わんばかりの攻撃をもろに受け倒れ込む。
目の前に現れた戦闘不能の表示にレヴィは慌ててポケットの中をまさぐり、スケープドールを取り出して復帰した。
「くそっ……」
「この場において、貴様の主目的は僕の護衛だ。倒したいならブラックローズ以外の武器を使って相手を少しずつ消耗させることに重視した方がいい。
ライデンシャフトが使えない現状なら、僕にブラックローズを渡してアイゼンハートを使用した方がいいだろう」
「は?あんた傘持っててくれるっていうなら早く言ってよ!」
「僕は貴様の選択を尊重しただけだ。それに、いくらアイゼンハートの方が対多数に分があるとはいえ、ブラックローズの練度が追いついていないじゃないか。素振りなら他所でやって貰えるかな」
「はぁああー?!このアバズレ白痴野郎が……!!」
レヴィはブラックローズを納刀すると思い切り【敗者】の方に投げ、ついでに端末もその傍に叩きつける。
「ブラックローズ・ガード!」
「やれやれ……」
【敗者】は足元に投げられたブラックローズと端末を拾い上げ、軽く操作をする。
5を示す別言語の数字の後に、ブラックローズ・ガードというシステム音が鳴り響いた。
傘を開くと通常よりも大きく広がり、そして非常に硬く固まっている。
その上通常のブラックローズにはない全方位ガードが展開され、防御形態と言うに相応しい状態に変化した。
「僕としては、一つくらいハンデをあげても良かったのだが……その判断に至るまでに行った粗相は大きい」
【敗者】はそう呟くと、レヴィの様子を再び見守った。
「ふんっ……!」
レヴィはアイゼンハートを指揮棒に変化させて握り、大きく手を広げる。
「お荷物がやっと一個減って清々したわ!ほんと!」
投影範囲の中をぐるりと網目状の半球が囲み、雫が垂れるように鋭いナイフが形成され落ちていく。
なるべく建物や備品などは現状維持にしなければいけないという都合上、転換リソースは周囲の建物ではなくレヴィ自身しかない。
だから身を削る技になる訳だが、なるべく内臓に負担をかけないよう少しずつ範囲を調整したり、被弾出来なかった物を再形成したりと指揮棒を振りながら管理する。
マリアの持つラビュリスやレギアスの持つ世果のような図体の大きな武器を指揮棒で防ぐことはとても無理だが、身軽になった分間合いを広くして近接職の攻撃を避け、最初想定していた法撃職狙いに再び戻る。
何より、六芒均衡は分担して攻撃を行っているようでマリア、カスラ、クーナが【敗者】を狙い、レギアス、ゼノ、ヒューイがレヴィを狙う形になっていた。
「【敗者】!コイツら何言ってる?!」
「それくらい自分の耳で聞け」
「ごちゃごちゃしてて聞く気になんないの!」
「はぁあ……」
【敗者】は半数以上が輝きを失った傘骨を見ながら、盛大なため息をついた。
「前提として、戦闘優先の思考誘導プログラムによってレヴィが被害者であるかもしれない、という認識は奴らにない。つまり完全な協力者として見ている訳で……」
「だからごちゃごちゃ言うなって言ってんでしょーが!あんたは大事な時に本日はお日柄もよく〜なんて話されていいって思ってるワケ?!さっさと端的に話して!!」
「喧しい!必勝の戦法を目の前でグチグチ喋るアホなんかそう居ないだろう。一々相手がどんな戦術を取るかなんて聞こえると思うな。ましてや僕に聞くな。耳に頼って戦闘しているから雑音が嫌だのなんだの喚くんだろう?そんな風に文句を言う暇があったらもう少し集中して戦闘したらどうだ?気が散っているのが丸わかりだ」
「自分が無駄なこといって足引っ張ってることがなんも恥ずかしくないわけ?!あんたがグチグチ文句言って黙ってたり最初から言えば済むような事渋って言わずに事態が悪化してるってなんでわかんないの?!あんたは戦略家じゃなくてただの馬鹿!大馬鹿!アバズレクソカカシ男!」
「はぁ……」
レヴィは完全に【敗者】の方に牙を剥いており、その状態で六芒均衡のような存在の相手をできる訳もなく、文句を続けようとすると当然のように被弾して倒れ、そして起き上がるが集中力に欠けておりさらに被弾を繰り返していた。
「守られたいならちょっとくらい守りたくなるような姿勢を見せなさいよ……!」
「却下。貴様は僕とどんな関係にあろうと、どんな状況にあろうと、必ず僕を優先し僕を守護することが条件だ。少し煽られた位で怒り散らして護衛を放棄するようでは盾の風上にもおけないな。死体の方がマシだ」
「むぅうううう……!!うがあああー!!ムカつくーー!むーかーつーくー!!」
レヴィは完全にまともな思考と理性を失っており、剣を持って暴れるように攻撃していた。
そんな状態だから回復や回避行動もまともに取らず、攻撃を加えながら体は与えたダメージ以上にボロボロになっている。
戦闘服を着ていなければ3倍は多く倒れていただろう。
「……」
ルビィがこの場にいたらレヴィの暴走はこれ所では済まないはずだ。
味方である【敗者】ですら煽ったらこうなるのだ。もしルビィが少しでも彼女を煽ったら、全てを投げ出してルビィの方に飛びかかり、殴って蹴って折り砕いて、……なんてことになりかねない。
そうした時、レヴィが相方である【敗者】を気にかけるわけは無いし、六芒均衡達と戦闘しているのに彼女の認識では一人としか戦っていないという事になるだろう。
(強くなれないという焦りによる特攻と、煽られた時に我慢出来ない閾値の低さ。実戦で扱うとしたら、どのようにコントロールするべきだろうか……)
色恋営業で普段のレヴィはどうとでもなるが、それを怒りで塗り潰されたらあってないようなものだ。
それに、今の方が被弾率は高く命中率などは落ちているもののアイゼンハートの火力自体は上がっている。
創世器がレヴィの怒りに反応しているのか、もしくは創世器がレヴィの怒りを誘うような効果があるのか。
そうであるとしたら、色恋を煽ること以外で何かレヴィに良い影響をもたらし、場を見て戦闘してくれるようになる方法とは……
「ふむ。ならばひとつ、試してみようか」
【敗者】は端末を操作し、ハッキング用のソフトでもなく、人工臓器の制御ソフトでもない、全く無関係な別のソフトを開いた。
非常にリスキーだが、この手の事は初めてでは無い。
五感を潰されても戦闘を続行出来る想定とは常にレヴィに課しているものだ。
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる