※この作品はR-18です。

MIDNIGHT   作:Libby博士

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34話(5)

「……」

 

【敗者】は端末を何度かタッチする。

すると、突然ステージが子気味いい振動を起こし、スピーカーから音が鳴り始める。

 

「?!」

 

レヴィは驚きキョロキョロと周りを見渡した。

イントロから徐々にテンションが上がっていくユーロビート。

 

「くっ…」

 

聞いた事がある曲の、楽しげな音にレヴィの体は自然に回避行動にリズムが生まれ、オーケストラヒットに合わせて力強い剣の振りが現れる。

 

「レヴィ、命令だ」

 

「な……なにっ!」

 

「この場でどんな馬鹿げたことをしても構わない。今のこの状況で、好きなようにしてみるといい」

 

この凄まじい音の中、まともに敵の位置を聴力で判断し回避や攻撃を行うことは不可能に等しい。

パフォーマーとして演劇やダンス、音楽の稽古を行っていたレヴィにとって、この場所で音楽よりも風を切る雑音が上回ることなどなく、逆にこのリズムはとても気持ちのいい道としてフィールドに正しい音と正しい体の動かし方が既に見えていた。

車に乗って暴走したくなるような音で、全身を暴れ回らせたくなるような衝動。

ディスコミュージックとして華を咲かせたユーロビートはクラシックやポップミュージックなどと比べると多少マイナーなジャンルにはなるが、ある意味踊るのに最適な音である。

 

「後悔しても知らないからね?文句言ったらあんたのケツにこれぶっ刺すから」

 

「やれるものならやればいい。全て僕の式の内だ」

 

「ふん!」

 

レヴィは振り返ると、すぐに姿勢が変わった。

足をサッと交差させ、スポットライトを浴びるように胸を押し出し、片手剣をしっかり握るとオーケストラヒットの音と共に動き出す。

幾ら高度な演算能力を持ち意思に近いものを保有するプログラムであっても、突然のダンスに驚かない存在はない。いや、本物ですら驚くだろう。

特有のステップを踏み、攻撃を軽々しく回避すると体を大きく動かして避けたり、逆にピタッと止まってポーズを取ったり、とても戦っているようには見えない。

リズムに乗って曲が盛り上がる度に攻撃を仕掛けてきた相手にカウンターを食らわせ、くるくると剣を回してからまた剣を振り上げる。

 

「音楽やダンスは古くから儀式的な意味合いを深く持ち、時代の発展に合わせて芸術性を帯びると共に人に大きな影響を及ぼしてきた。音楽理論に基づく調和した音によって脳の神経伝達物質に大きな影響を齎し、感情の誘導は勿論、洗脳し人の精神を狂わせることすら出来る。歌と踊りで人を魅了する存在は"偶像(アイドル)"と呼ばれ、巫女を超越し、もはや神のように持て囃された」

 

【敗者】は傘を閉じて腕を組み、ゆっくりとレヴィの様子を見守った。

もはや自分が防御する必要性はない。

 

「ふふっ……!れっつごーごー!」

 

敢えてボーカルなしの音楽を選んだのだが、レヴィは音楽に合わせて勝手に歌い出す。

軽快なリズムに合わせ武術とはまた変わった形の舞のような攻撃が花火のように銃弾になって、風のように剣になって、波のように揺らめく光の軌道になってヒトを盛大な群集劇に巻き込んでいく。

 

「面白い……面白いぞこれは……!」

 

舞台を得たレヴィは比喩表現ではなく文字通り輝いているように見えた。

キラキラと光り輝き、隠れることも無く注目を集め、しかし不思議と次の動きが分からない。

【敗者】のような存在であれど、自然に足がリズムを取るほど露骨に影響を受け、相対している六芒均衡は知らず知らずの内に攻撃がリズムに合ってまるで踊るように攻撃と防御を繰り返している。

 

「これが正しい解か……!フォトナー共が居た頃でも、こんな馬鹿げた戦術は存在し得なかった……」

 

レヴィの普段の戦闘スタイルと【敗者】の護衛で求められる技量は全く別のものだ。

彼女がいつもやっている暗殺ならこのように目立ったりリズムに乗って攻撃し徐々にダメージを与えるなどありえないが、やることが護衛と攻撃なら前に出て注目を集め、攻撃と防御を繰り返し消耗させるという戦術はおかしいことでは無い。

暗殺者としての戦い方と、盾としての戦い方。

二つの戦法は混ぜるべきではなく、どちらも彼女のものとして成立するべきだ。

何より、ただ戦闘している時とは違いストレスが少なく快楽物質が出やすいこの環境下では通常よりも疲労を感じにくく、継戦能力も高いだろう。あちらこちらに喧嘩を売って油断するよりかは踊ってくれた方がよっぽどいい。

 

「素晴らしい……あぁ、実に興味深い!この流れ、止めてなるものかッ、……だが……!」

 

レヴィの方は、一人戦闘不能にし多少形勢逆転の域が見える。

エネルギー数値が指数関数的に上昇していき、このまま辺りを輝きで満たして焼き焦がしてしまうのではないかという程の強い光が彼女を包んでいた。

 

しかし【敗者】の方はというと、好奇心に駆られながらも苦い顔をしていた。

 

「このままだと周囲のフォトン係数が0になり、投影を保てなくなる。その上この範囲でフォトンが無になるとこの市街地ブロック内が停電、防衛装置の停止、機械の誤作動などが予見される……。後のことを考えれば止めさせるべきだが……!チッ……」

 

リスク管理と知的好奇心の間に挟まれ、【敗者】は顔を顰め考え込む。

レヴィはそれを知ることはなく、輝きを僅かに失いながらも次の曲が始まるまでの短い猶予の間で心の中に湧き出た欲望を口に出していた。

 

「あーもー、シンパシーがこの場にあればよかったのにぃー……ホント勿体ない!後で設計図貰わなきゃ!」

 

そしてレヴィは戦闘を続けようとするが、【敗者】は投影装置を一時停止した。

 

「っ!あれ、……【敗者】?」

 

レヴィはすぐ異常に気付き、【敗者】の方を振り向いて首を傾げた。

今いい所だったのに、と言わんばかりに体をうずうずと動かし、アイゼンハートをギュッと握ったまま彼を見上げる。

 

「投影装置の記録は十分に収集した」

 

「あ、そう?まだ全然できるけど……」

 

「思考誘導機能自体は構わないが、今は少々その命令に釣られすぎているように感じた。最優先目標として設定するのではなく、最終目標として設定する方が良いだろう」

 

「いいの?最優先目標にしないと向こうの行動次第で変に手間かかることになるけど」

 

「より効率的な物を選ぶならそもそもこちらのシュミレーターは使わないだろう。このプログラムに求めているのは、あくまで限りなく本物に近付ける為の再現度だ。

唯でさえエネルギー消費が激しいというのだから、せっかくなら独自性を追求して調整を行った方が良いとは思わないか?」

 

【敗者】の本来の予定ではレヴィをコテンパンにやられさせ、己の無力さを思い知らせる予定だった。

しかし、土壇場で提示した戦闘方法が思ったよりもレヴィによく噛み合った上、思考誘導などの設定ミスで案外レヴィの調子が上がったまま終わってしまった。

しかし【敗者】は不機嫌そうな様子ではなく、寧ろ周辺に痕跡が残っていないということに安堵していた。

 

「えー……リアルさ……?」

 

「結論、本来よりも弱くなっているのが良くないと言っているんだ。先程まで起動させていた物は本来の六芒均衡の取る行動とは違う。あくまで戦闘プログラムの一種に収まっているのが丸わかりだ。

もし戦うのなら、思考誘導も時間設定も慎重に調整した上で投影範囲をさらに広く設定し、実戦と変わりない状態に仕上げる方がいいだろう」

 

「まあ……それは確かに、そうかも」

 

レヴィが納得したところで、【敗者】は直ぐに頷いて、投影装置の電源を落とした。

今レヴィに挫折を味合わせることが出来なかったのは彼にとっての予想外だったが、それでもいいのだ。

直近でそれ以上の事をする予定が既に立っている。

ここで苦労を味わう事がなかった分、そちらで埋め合わせが出来る事だろう。

 

「それでさ、これ、どうだった?【敗者】から見て、上手く動いてた?」

 

「……あぁ」

 

不安げに覗くレヴィの眼差し。

【敗者】はキョトンと彼女を見つめた。

【敗者】にとっては評価は既に終わっているのだが、レヴィからすると評価はまだ行われていなかった。

 

このプログラムがちゃんと動いていると判断してくれているのか、実用に値するものだと考えてくれているのか、もしかしたら短期仕上げの粗悪品という結論を付けられているんじゃないのか……

そんなレヴィの不安の感情が、踊り足りないという不満よりも彼女を埋めつくしていた。

 

【敗者】は少しの間レヴィとじっと目を合わせた後、頭に手を置き、ポンポンと撫でた。

 

「結論から言えば、正規品として量産出来るクオリティの製品だと受け取った」

 

「ほっ……ほんと?!」

 

「制作期間から考えてそう評価するのは当然だろう。僕の方でデバッグはまだ行っていないが、少なくとも起動すればすぐに分かるレベルのバグは存在していないし、何より貴様がオラクル標準のプログラム言語も熟練者レベルに扱えると知ったことは僕にとって大きな事だ」

 

「そりゃハッキングしてるんだから使えないわけないでしょ?セキュリティ上の問題で使いたくないだけでさ」

 

「使えるという口約束だけの情報と実際使えているという事実を目撃する事は全く違う。つまり、これは貴様を信頼し任せられるようになった、ということだ」

 

「……!!それ結構パートナーらしくない?!」

 

「あぁ」

 

【敗者】の適当な返事でもレヴィは嬉しそうにうんうんと頷いて、彼に抱きついた。

 

「……上手くいった……よね?よかったぁ……」

 

正直、レヴィの中にまだ恐れは残っていた。

あの時のようにまた軽蔑や失望の目を向けられるのではないか、愚かな駒は不要だと言われるのではないか……

【敗者】の中から、自分の価値が失われるのではないかという考えがあった。

失敗していいと言われているのに、失敗を恐れてしまう。一度の失敗で、二度と【敗者】に近付けなくなってしまうのではないかと思ってしまう。

 

「【敗者】、……何があってもわたしは絶対、【敗者】の味方だから」

 

「そんなもの、とっくに分かっている」

 

「分かってても覚えといて。【敗者】がもし不安に思ったりしても思い出して欲しいの。裏切られた分だけ、わたしはあんたのそばに居るって約束するし、憎まれた分だけ、わたしがあんたに大好きだって言う。あんたの記憶の中にいる価値がなかったとしても、あんたは今わたしのことを観測して、認識してる」

 

「……」

 

レヴィは柔らかく、暖かく、心地いい感触だ。

触れたところからまとわりつき、どろどろと全身を溶かしていく毒のように甘ったるい言葉で、【敗者】の頭の中はふやけたチョコレートのようにグチョグチョに溶かされた上そこを棒でグルグルと混ぜられているような感覚になった。

 

「あぁ……」

 

【敗者】のそれは返事と言うよりかは漏れ出しただけの鳴き声。ファムファタールの放つ愛の告白のような言葉は【敗者】が今まで人生で感じてこなかったような他者からの好意的で特別な感情をダイレクトに呼び起こす。

 

「あんたがどうしようがわたしはずっと、あんたのこと仲間だと思って……」

 

レヴィの声はか細く途切れ、ゆっくりとした深呼吸の後に彼にもたれかかった。

 

「疲れたのか?」

 

「あー……まあね……」

 

レヴィはなんてことも無いような興味無さげな返事をしたが、その言葉の後に気絶し、【敗者】の体を沿って滑り落ちそうになる。

 

「おっと……」

 

【敗者】はすぐに受け止め、彼女を持ち上げて抱き込んだ。

 

「ふふ、……こんな簡単に倒れるとは。持久力は0点だな」

 

そして、彼女の丸い頬に軽く口付けたのだった。

 

 

二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。

  • 続編として作品を分ける
  • 分けないで一つの作品でまとめる
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