※この作品はR-18です。

MIDNIGHT   作:Libby博士

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35話(2)

あれから、午前の授業を終え、食事を取り、およそ七時間ほど時間を掛けて三人がかりで荷造りを行った。

船に持ち込むためホールにほとんどの荷物を貯め、運搬用のトラックを呼ぶと【敗者】とレヴィはトラックに乗り込んで市街地を去っていく。

 

全てはアークスへの復讐の為だ。

【敗者】とレヴィはアークスに全てを奪われた。地位も、望みも、尊厳も、生きる権利すらも、今の二人には存在していない。

そうやって価値のない二人が互いを慰め合って、自分たちは本当は素晴らしい存在であり、知や力を得るのに値する価値があり、アークス達は虚構の力に縋っているに過ぎないと言い続けることによって、アークスへの憎しみと共に己の尊厳をギリギリの所で保ち続けている。

 

己の名を弱さの象徴として捨てるほど、己の名を敗北者だと名乗り続けるほど、彼らは自分の存在は正しい物であると口では言えても心の底ではどうしても否定的になってしまう。

その苦しみや心の醜さこそが破壊性に囚われた闇の因子の器になるのだ。

 

「……わたしたちのさ、願いが叶うといいね」

 

「そうなりたいなら、深く祈っているといい。毎日毎日星に向けて祈っていれば、答えてくれるかもしれないな」

 

「あんたが神頼みみたいなこと言うなんて珍しくない?」

 

「……とっくに分かってるんだ。"神頼みなんて有り得ない"なんて言っていたら、僕はこんな場所にいないさ。

僕は見放されたんだ。神に等しき存在にね」

 

【敗者】はいつもより穏やかな口調で、車の中からどこか遠くを見た。

いや、寧ろ普段からあれやこれやと彼の心情を乱すようなことが起こりすぎなのだ。

全てが予測通りに、都合よく進んでいれば驚く事も苛立つことも怒ることもない。

しかし、刺激も楽しみもない。停滞した退屈な時間を数百年も数千年も過ごすなど、心を持つ存在に耐えられるわけがない。

だから総長だった頃の彼は自らの窮地を受け入れ、わざと遠回りな行動を行い、揺るがない完璧な勝利の算段の中で絶え間なく刺激を作り味わってきたのだ。

しかし、その退屈に耐えられないという彼の人間らしい感情こそ付け込む隙であり、実際シオンやルビィはその部分を利用して彼を敗北に追いやったのだ。

 

そして、その後の【敗者】と言えばレヴィのよく知るとおり、些細な窮地も受け入れず、なるべく近道になる手段を選び、可能性の低い勝利の為にひたすら計算を続け計画を変更し続けている。

 

しかし今の【敗者】は自らを追い込んで刺激を得る必要は無い。

彼の隣にいる極度の刺激中毒者が、彼をいつも喜ばせたり、驚かせたり、怒らせたりしているからだ。

 

レヴィの主観的な視点からは【敗者】は繊細で忙しなく、生き急いでいるように見えていたが、同時に彼の尊大な態度と高い実力は妙な安心感を持たせてくれていた。

 

「……だったらさぁ、何に祈れって言うの?

生憎、わたしは生まれる前から神に見放されてるんですけど」

 

「逆に聞くが、貴様はいつも何に祈ってるんだ?」

 

「んー……言われてみれば確かに?」

 

レヴィは幾度となく祈ってきた。ゲームをする時も、戦っている時も、ハッキングする時も、生まれたその瞬間から、ネガティブな方向にもポジティブな方向にも祈っていた。

レヴィにとっては、祈りの先はぼやけていてよく分からない。

いつもなんとなく運の良さで自分の願いが叶っているように思えたが、長期的に見れば最終的に願いを叶えるのは奇跡でも運でもなく、レヴィ自身の泥臭い努力だった。

人工臓器を作り、プログラム言語を作り、管制にハッキングを行い、素手で頭蓋骨を砕けるほどの力を手に入れたのは決して運ではない。

自らの運の良さを分かっていながらも、その運に全てを委ねずストイックに頑張れる人間だと分かっているからこそ、【敗者】も運に頼らない戦い方をレヴィに教えこんでいるのだから。

 

「自覚がないのか。まあ、予測通りだが……」

 

「予測通りって言うなら、あんたは答えがわかってるの?」

 

「分かってるならこんなに苦労はしていないが?とにかく、僕も貴様の運の良さ……言うなれば運命の改変には非常に興味があるんだ。よく祈って、それが叶うまでの空間の値の変異やエネルギーの変化を知りたい。

もちろん、カジノで狙った物に賭ける事や、攻撃を避ける事など、単純なデータなら数百も集まっている。しかし僕が集めたいデータはそれよりももっと大きなものだ」

 

「大きな物……つまりもっとビッグな祈りをしろって言いたいわけ?

でも、大きな願いってのはもっと極端なもので、時間もかかるし規模も大きいよね。そうなると、祈ってから実現までのタイムラグが大きくて、そういうものの観測は難しいんじゃないの?」

 

「その指摘は最もだ。そして現状、その解決方法は一つしかない」

 

「極端で、実現までのタイムラグが少なくて、大きな願いって……?」

 

「生死を願う事だ」

 

その瞬間、レヴィの胸はギュッと締め付けられた。

生死を願う事。その願いの中で、死を実現出来たことはない。ルビィに死ねと何億回も祈っても実現しなかったから。

しかし、生を願う事なら実現出来た。

 

レヴィはこの瞬間、アリスティアと名乗った女の言葉を思い出した。

【敗者】は本来死ぬ運命にあった。歴史が狂った、レヴィがそれを狂わせた。

本来、死んでいるはずの存在が生きていること。その生を願った事で、生かされたこと……

 

「……」

 

レヴィは目を見開き、【敗者】を凝視していた。

トラックが止まってもなお動く様子のないレヴィに、【敗者】は声をかける。

 

「レヴィ……?」

 

「わたし、……何もしてないよ。なんもわかんない」

 

「……」

 

「前さ、説明したよね。祈る時は、自分の中の破裂しそうなくらい膨らむような熱さとか、ジュワーってするものみたいな……そういうものがあるって。でも、そんなの無かった。人の生死を願うのに、そんな熱さなんて要らなかった。それでも、生かしてしまったかもしれない人はいる。それって、空間や肉体の数字になんか変化が起きるものだっていうの?」

 

「それほど大きな願いだと言うのに、変化がなかったのか?」

 

【敗者】はしっかり彼女に問いかけたつもりだったが、レヴィの目の焦点は合っておらず【敗者】を見ているようで見ないまま、彼の言葉も右から左に抜けていった。

 

「それとも、わたしの言ってることもやってることも何もかも運命って言って数字で表さないといけないものだって言うワケ?わたしの気持ちは数式で書き表せるものなの?あんたにとってわたしの頭脳は、わたしの考えているものは、わたしの表現するものは全部法則性に基づいた論理的な物であるって言いたいの?」

 

「レヴィ、話が飛躍しすぎだ。言いたいことはなんだ?まとめてから話すといい。僕は急かさない」

 

「わたしは自分の思考を自分の好きなように考えることも出来ないの?運命とかエネルギーとか、そんなもので表現しないとわたしには脳がないって言いたいワケ?じゃあわたしが考えているこの思考は何の数字だって言うの?わたしがここにいるのはなんで?わたしがあんたを好きなのはなんで?それも教えられないのにわたしに愛や恋をするなと説くの?感情が数式に出来るならわたしのこの気持ちだってさっさと答えを作って切り捨て……」

 

「レヴィ!」

 

「ッ……」

 

「いいか。もう一度同じ事を言う。話が飛躍し過ぎだ。何が言いたい?」

 

【敗者】はレヴィの肩を抱え、ゆっくりと彼女に寄り添った。

まるで小さな子供と会話するかのように一つずつ簡単な質問をして、それにレヴィが答えて、少しでも意図から外れたような答えが出たならもっとシンプルでわかりやすい質問にして、ということの繰り返しで、レヴィは少しづつ膨らんだ自分の思考を上手く言語化していった。

 

「祈って、願いが叶うって、そんな論理的なプロセスを必要とするものじゃないでしょって言いたかった。生死を願って叶った時は、あんたが聞きたがっているような体の変化も周囲の変化もなんもなかったから。だから、わたしの思考や行動を全部論理的な法則や数式に当てはめて制限しないで欲しい……って、思った」

 

「分かった。一つずつ答えようか。まず、祈りが形になるまでの段階で論理的なプロセスを必要とするかだが、つまり偶然は認識不可能な未知の必然であるか、という事だろう。

答えは基本的にはノーであり、通常であれば調査を行ってもあまりにも低確率で再現不可能な現象によって成功する、非論理的な……運命のようなもので叶えられる物だと考えている。

外れ値のロジックを解明したとて、それが新発見になることはほとんどない、という訳だ」

 

「じゃあ、なんでわたしには論理的なプロセスを求めようとするの?」

 

「そうなる確率が0%だからだ。僕があくまで運命や偶然のような言葉で済むと考えている現象は、小数点の数関係なく最低でも0%より上の、存在しうる可能性がある物。それに対し貴様のそれは完全に0%、無を実現させている。だからこそ、そこには明確なロジックがあり、解明が必要になる」

 

「でもさぁ、さっき例に出してたカジノで言うけど、例えば赤緑青の三色のうち一色が当たりで、わたしが赤が当たるようにって言いながら赤に賭けて、それが実際当たりだったとする。その確率って絶対0じゃないよね?わたしが偶然何も考えず赤に賭けて当たることは当然でしょ?」

 

「あぁ。もちろん、貴様が祈って叶えるものの全てが0%な訳はない。がしかし、例で出した攻撃の回避に関しては0%がありえる。観測し続けている状態で風向きや軌道、動きなどを計算し、完全に回避不可能な状態にあるはずの攻撃対象がなぜかありえない方向に飛んでいく……みたいな事だ。

量子力学的な観点から見ても、この状況で結果が変化することは絶対にありえない。これは説明がつかないだろう?」

 

「でも、フォトンでなら説明つくよね。異常フォトンだとかフォトンの変異とか言って、研究を進めれば最終的に答えが出る。感情に影響を受けたとか、周辺の気候に影響を受けたとか……」

 

「貴様にはフォトンが干渉しないだろう?」

 

「じゃあ、グラン類似エネルギーとやらが干渉してたら説明つくって?」

 

【敗者】はそれを聞くと謀ったように口角を上げ、悪人面で微笑んだ。とっくに止まったトラックの車内で二人は延々と語りこむ。

 

「それが答えだ。よく辿り着いたな」

 

「なるほど……0%の奇跡の答えにエネルギーが大きく関係しているから、とりあえず全部そこに当てはめてから、数値を確認して関係のあるものとそうでないものに振り分けてるってことか」

 





「あぁ。じゃあ、次の話をしよう。次の話はレヴィが生死を願い、それが実際に叶った時に全く変化を感じなかったという事だが……これはとても奇妙だな。僕の推論と大きく異なる」

「あんたの推論って?」

【敗者】は顎を擦り、レヴィから目を逸らして窓の外にある無骨な風景を眺めた。
効率だけ求めるなら作業をしながら話した方がいい事くらい分かってるが、彼の知識欲がそんな効率なんていう言葉に負けるわけが無い。

「僕の推論では、運命改変は波のようなものだと考えていた。祈りをトリガーに波が起きると音が響くように波が広がって空間から空間へ歪みを作り、それが更なる波を立てて宇宙全体に広がっていく。波の大きさはその願いによる影響力の大きさや祈りの強さによって変化する。
そして、波によって出来た空間の歪みによってバグのようなものが発生し、それが祈りが叶った状態と言える」

「ふむふむ……」

「通常、マターボードを用いない改変のような極端な操作を行った場合、砂で作った山が風で流され平坦に戻っていくように、修正作用が発生する。
しかし波を使った改変の場合、その範囲は宇宙全体の……全知存在以外の全てになる。そうすると、"風が吹いても砂山が崩れないことが当たり前だという物理法則が適用された世界に変化する"。
マターボードを用いた改変が"徐々に砂山を作っていくことで違和感として観測させないようにして、風の発生を阻止する"ことだとすると、この差はとても大きなものだろう?
しかし、全知存在以外と言ったように、その新たな物理法則の適用は全知存在を対象としない。すると、どうなるか分かるか?」

「んー……全知存在の記録の中では物理法則が適用されてないから意味わからないまま何故か崩れない謎の砂山が出来てるけど、現実世界ではみんな当たり前のように砂山が崩れないのは当然っていう理屈がある……みたいなそういう記録に残らないギャップが出来るとか?」

レヴィは【敗者】の言葉を一つの考察として聞きつつも、それが自分に関連性のある話だと言うことに関しては全く受け入れられる気がしなかった。

「正解だ。波の終着点は全知存在の手前であり、現実世界と全知存在という情報世界で"段差"が発生する。僕はそれがどのような影響をもたらしているのか、とずっと考察していたわけだが……」

【敗者】はレヴィの目をチラリと見た。
そのギャップは力だけではなくレヴィ本人にも掛かってくる話だ。
彼はあの時瞬間的に見た膨大な知識の中で、そのどこにもレヴィが居なかったことに奇妙な違和感を覚えていた。
普通に考えれば森羅万象を観測する中で歴史に名を残すことも無い凡人の記録が見えなかったことなど、普通どころか当然の事だというのに。何故か本当に全てを知ったとしても、彼女はそのどこにもいない気がした。

「……で、その波説に合わないってわけね?」

レヴィは鋭い言葉で、ハッキリとした声色で声を掛ける。
彼女は花に攫われそうだとか、風に乗って飛んでいきそうだとか、そんなわかりやすい儚げな雰囲気も繊細な空気もないのに、何故か消えてなくなりそうな危うさがある。
一度視界の外から出してしまえばもう二度と見えなくなって、他の誰も覚えていない……みたいな、奇妙な幻覚を見ているかのような異様な感覚と雰囲気が彼女にはあった。

【敗者】はその感覚に強く惹かれていた。
ダークファルスとしての本能が、彼女の敗北と勝利の狭間にある危ういスリルを酷く楽しんでいた。

「……そうだ。その仮説に合わせるとすれば、生死の願いは極端で大きな祈りであり、発生する波は大きくなる。すると、波を作るのに必要なエネルギーも多くなるし、歪みも大きくなるし、段差も大きくなるわけだ。すると、普通は極端な願いをするほど自覚は強くなっていくはず。しかし実際はむしろ逆で、極端で大きな祈りの方が無自覚になる。発生させる波は大きいはずなのに、だ……」

「うーん……」

「逆に、だ。レヴィが明らかにこの時は衝動が強かった、と感じる時は何時だ?」

「えっと……」

それまで澄まし顔で話を聞いていたレヴィが、突然顔をぱっと背けた。

「いや、ちょっと恥ずかしいかも……」

人を殺す瞬間でもゲームをする瞬間でもなく、レヴィの中で一番湧き上がるものがある瞬間とは"アレ"の事だったからだ。
【敗者】が彼女の顔を覗くと、案の定真っ赤に染まっていて、彼は全てを察した。
露出癖に恥も何も無いだろうとは思いつつ、ツッコミを抑えて淡々と返す。

「……セックスしている時、という事か?」

「うっ、えっ、……えっと、厳密に言えばえっちなことしてる時ですごく欲求不満になった時かな……」

数え切れないくらいの痴態を晒しておきながら、なぜ今更こんなことで恥じるのかも理解出来ず、【敗者】はため息をついた。

「確認だが、それは体温の上昇やアドレナリンの過剰分泌を勘違いしているだけなんじゃないのか?明らかにそうである、という確信があって言っているのか?」

「うん。熱の時とかはそんな風になんないし、多分もっと興奮しているであろう人殺してる時とか怒ってる時とかも、そうは感じない。確実にえっちしたい時……そう、えっち出来ない状況になって、でもどうしてもえっちしたくてたまんない……みたいな状態の時になる。それで、……へへ、わたしのわがまま聞いてくれたから……」

それこそ、あの時間停止してセックスした時の事を言っているのだろう。
強い感情とフラストレーション、それを晴らすための明確で単純な回答。
それは【敗者】にとっては非常に大掛かりで、そして困難な事かと思っていたのだが、実際の所レヴィにとってはとても簡単で単純な物だった。

「……なるほど、どの時のことを言っているのかよく分かった。それは……それを引き起こすためのバグはかなり大きいが、長期的に見た宇宙への影響力はそこまででもない、という事か。世界の時間停止は僕にとっては影響力が大きい部類だと思ったんだが、実際"影響力の判断"はそこで何をして、それがその先の時間で他者や世界の運命にどれほど変化をもたらすか、ということになるのかもしれないな」

「つまり、世界の時間を停止させてマザーシップを破壊したら、それによって発生する被害は甚大で死ぬ人もすごく多くて、影響力がめちゃくちゃ大きくなる。でも、世界の時間を停止させてセックスするだけなら、被害は全くないに等しいから影響力もない……ってこと?」

「あぁ……、となれば、レヴィの感情の強さに波の大きさや影響力は関係なくなるという訳だが……逆転説を唱えるとすると、普段の運の良さに一切説明がつかなくなる。もし全く逆のことが起きているなら、それらの小さな願いはレヴィがそれよりさらに強く願った結果という訳になるからだ。となれば、ありえるのは……オーバーフロー説か?」

「波の大きさに限度があって、それより大きい願いをすると逆にめちゃくちゃ小さくなって、普通に祈るよりも全然分からなくなるってこと?」

それはこの世界の構成がプログラムで出来ていると捉えないと違和感しかない理論だが、超越した技術力を持ち宇宙を航行するオラクルではむしろ自然な考え方だった。
この世界の万物はとっくに0と1で表現出来る物に成り下がってるのだから。

「そういう事だ。それを踏まえて質問だが、実際生を願った時は、どのような祈りを行った?例えば、この人に生きて欲しいと考えながら、強く願いを込めたとか、毎日繰り返し生きられるように願った、とかだ」

「その、正直よくわかんない。でも、絶対おかしい事なんだってさ」

「他人事だな。でも、特に祈ったりしていない、ということか?」

それもそのはず。【敗者】が生きていることが自分のせいだというのはアリスティアから聞いた話であり、レヴィ自身はその自覚も行動も一切していなかったからだ。
実際自分が"何か"をした事で【敗者】が生きたらしい。でも、何をしたのかは一切分からない。

「うん。生きて欲しいと願ったことは無い。でも、一緒におしゃべりしたいなぁとか、目を合わせてみたいなぁとか、……その、好みだなぁーとか……そういう、生きて欲しいみたいな切実なものとは完全に無関係の事ばっか願ってた」

レヴィは完全に間違えたことを言っているつもりで言葉を紡いだが、【敗者】はそう考えなかった。

「いや、それはあながち間違いじゃないかもしれないな。
そういう小さな願いを全て叶える為の解決策が一つしかなくて、その結果とても大きな改変になってしまったんだ。だから最終的に、それを一言でいうなら"生きていて欲しい"と願ったことになったのだろう。
生きて欲しいという祈りと同等の物になるほど沢山のことを願った、という訳だ」

「いっぱい願ったことが、結果的に生きて欲しいという願いになった。
ということは、たかがそんな願い程度で返せる物なのに、誰も生を願わなかったから死ぬ事が確定してたってことで……」

「たかが?いや、その気持ちは矮小な物には思えないぞ。貴様がそれを考えた相手が普通の人間なら当たり前のことだろうが、考えた相手は魂のない器だ。貴様は命なきものに生きろと願った。その願いはとてつもなく大きなものだろう」

【敗者】は、前にレヴィから問われたことや彼女の今の視線の動かし方や不安げな様子を見て、"生を願い、生かしてしまった相手"が自分であることを察した。

しかしレヴィはまだ納得出来ていない。

「でも、やっぱり辻褄合わない。だってそれって器にしか適用されてないよね?結果の出た対象はその器じゃなくて他所にあった魂じゃん」

「まあ、普通に考えればそれの生存で発生する宇宙への影響は甚大なものだろうな。何せそれひとつで宇宙を滅ぼせるんだ。レヴィの言う通り、祈った物と結果が出たものは違う。
しかし、全てが全て祈りによって変化したものでは無いかもしれない。その前後で、完全に偶然な部分があるかもしれないんだ」

「つまり、ある一定の地点までは完全に偶然で、ある一定の地点からは祈りによる策略ってわけか……そう考えると、器を出す前の時間でなんかそれっぽいポイントがあったのかも?実際まあ……結構緊張してたし」

「自覚もほとんどないくらいの小規模な改変の後オーバーフローするほどの無自覚な大規模改変を行ったということか……?」

「うーん……」

話が行き詰まった所で【敗者】は一旦説明を続ける為納得したような素振りを見せると、また話題を切り替えた。

「最後に、貴様の思考や行動を論理的な法則や数式に当てはめて制限させているという話だが……それは非常に極端な事だな。貴様も人体を研究している者として、人格や性格的な傾向と言ったものは遺伝子や脳神経が大きく影響していると言うのは知っている事だろう。つまり、"元々思考や行動は論理的な法則に基づいて決定づけられている"という訳だ。
確かに己の自然な芸術性やインスピレーションを全て数式で再現されたら不愉快な物になるだろうが、当てはめたからと言ってそれを型に押し込んで制限させている訳では無い。人間を完全再現する為に必要な調整項目は1000億でも全く足りないほど多く、性格、肉体の成長ともに生育された環境や状況を完全に合わせてシュミレーションし進めていく必要がある。
だからこそ、僕はレヴィの器を作るだけならそう難しくはないが、今この場で全く同じ思考行動をするレヴィのコピーをもう一人増やせと言われたらそれは非常に難しい事になる」

「……ようは、本来全部論理的な法則に縛られてる訳だけど、それを全部デジタルに説明するには計算量があまりにも多いから人格とか性格みたいなふんわりとしたイメージで表現してるってわけね。型に当てはめているのは全体ではなく部分的なもので、それが思考の制限にはならないと」

「あぁ。それと、貴様に関してはどうしても計算では分からない思考回路が多く存在する。犯罪心理学や精神障害のデータを用いて解析してみても、恐らくそうだろう……という段階で止まるんだ。だから、貴様の思考を数字で決定づける事は不可能だ。安心するといい」

「うん……」

二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。

  • 続編として作品を分ける
  • 分けないで一つの作品でまとめる
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