※この作品はR-18です。

MIDNIGHT   作:Libby博士

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35話(3)

 

【敗者】はレヴィが喚き散らした不安を全て説き伏せると、すぐに立ち上がる。

 

「ほら、とっくに車は到着しているんだ。さっさと動け」

 

「わっ、もうついてたんだ……」

 

【敗者】に引っ張られ、レヴィは慌ててシートベルトを外し車から降りた。

そこには見慣れた二人の商船と共に様々な機材が置かれており、普段キャンプシップに乗り込む時に見える宇宙の景色も全く見えなかった。

 

「……あれ?ここ、……貨物用のゲートエリアじゃない……」

 

「ここは船渠(せんきょ)だ。しかし残念な事に、この船にメンテナンス業者の類を介入させる事は出来ない。それがどういう意味か分かるか?」

 

この船を貰った時はレヴィの誕生日で、今は一ヶ月以上過ぎている。新品だから劣化の心配なんてないとは思うが、初期不良によって水面下に潜んでいる重大な欠陥を探す時期としてはちょうどいいし、定期メンテナンスの時期といえばそうだ。

 

「……メンテもこっちでするって?」

 

「"こっち"じゃなくて貴様だ。貨物用とはいえ基本的な構造はキャンプシップと全く同じ。メンテナンスくらい出来るだろう?」

 

【敗者】は彼女がキャンプシップを手動操縦出来ることは知っていたため、当然内部構造も知っておりメンテナンスも出来ると考えていた。

しかし、レヴィにとってキャンプシップは内部プログラムのハッキングや航路を変更する程度しか改造する事は出来ず、船そのものに手をかけることなどしたことがなかった。

 

「は?えっと……なんもわかんないんだけど、構造建築士じゃだめかな?」

 

「建物と乗り物が同じ物だと思っているのか?本当に呆れるな……」

 

「無茶言わないでよ!こっちが必死こいて資格取ったのは爆破解体と地下空間の建築のためなんだよ?!船の資格なんか取って誰が得するっての!」

 

レヴィはプログラミング能力に優れ建物の設計や構造計算、施工もできるが、それはあくまで生きるために必要だからやっただけであって、決して趣味や地位のために手に入れた訳では無い。だから船の操縦も技術だけで無免許であり、船の機関に関しては欠片も知識がなかった。

 

「だったら今回は僕がやる。……次のメンテナンスまでに貴様は宙技士関連の資格と免許を全て手に入れておけ」

 

「はぁぁ?!次のメンテナンスっていつ?!」

 

「最低一ヶ月後だ。習い事の幾つかの代わりにやればそれくらい追いつくだろう」

 

「くっそ……休めって言ったり働けって言ったり……ほんとムカつくやつなんだから……」

 

「文句ばかり言って何が変わるんだ?そんな暇があるなら、さっさと働いた方が復讐になるんじゃないかな」

 

「むぅうう〜〜っ!!」

 

「メンテナンスが終わるまでに荷降ろしと数量の確認、宙域の混雑状況の確認と指定したポイントへの航行ルートの構築を行っておくんだ。いいな」

 

「よくない!」

 

レヴィはそのまま文句を続けようとしたものの、【敗者】はさっさとレヴィから離れて船の方に向かってしまった。

油臭い仕事を彼が素手でやる訳もなく、ドック内にあるモニターや機材を使って細かくメンテナンスを始める。

 

レヴィはと言えば、ブツブツ文句を言いながらトラックの荷台から大量のコンテナの荷降ろしを始めた。

 

「あのバカッ……、もおお……!宙技士の資格って何個あるワケ?!機関と操縦と通信と……あとメンテとかいうなら船外建築物用と宇宙船用の設計士、あと技術士の航空宇宙船舶部門……?どうせ一級じゃ満足しないからもっと上のやつ取れとか言われるだろうしホント多すぎるんですけど……!!」

 

離れてはいるものの別室にいる訳でもなく、レヴィの愚痴に【敗者】がすぐに返答する。

 

「問題なくメンテナンス出来れば一級でも構わないが?」

 

「一級でもいいって何!?フツーに働くならそこがゴールなんですけど?!」

 

「一人でメンテナンスするのならそれでは足りないだろう?いいじゃないか。知を得られるし、技術も得られる。それに、個人用の大型船を設計建築してそこを根城にするのも面白いはずだ」

 

「いや楽しいのあんただけですけど?!」

 

「一ヶ月でそこまでしろとはいわない。それに、遠征中は任務の類が出来なくなる。それで空いた時間を武器制作や資格の為の勉強に費やせばいいだけだ。この船だって破壊しなければ好きなように見学して貰って構わない」

 

「任務が出来なくなるって……そういえばそっか……だったら、時間もっと長くなるかぁ……」

 

レヴィは過密スケジュールの中で資格勉強の為の時間が思いつき、からからと入れ替わっていく。

新しいスケジュールの完成間際で自由時間が無くなったことに気づくと、レヴィはハッと顔を上げた。

 

「ってなんか言いくるめられてない?!」

 

「はぁ……」

 

「くそっ、……こうなったらいっそ稽古習い事の中に専門分野の資格勉強も入れてやる……建築も操縦も設計も全部一人でやってやるんだから……!!」

 

「マシナリーを制作した方が早いと思うが?」

 

「それで上手いの作ったとしても機械の間違いに誰も気付けなかったらやばいでしょーが!」

 

そこで機械任せにすれば良いだけだった、と言わないのがレヴィのいい所。

【敗者】はレヴィのそういう所が人よりずっと優れていると思っていた。

彼女は感情と気分に左右されやすいだけで根は努力度胸ド根性の努力家だ。

 

「……やっぱり、僕の目に狂いは無かったな」

 

「はぁ?」

 

「貴様はやれば出来る奴だ。つべこべ言わずやれ。時は金なり、という言葉くらい流石に知っているだろう?」

 

「金は金。時間は時間だから」

 

「比喩表現に文句を言えるだけの暇があると?なら、時間制限でも与えてあげようか」

 

「うっさいなーホント……」

 

荷降ろしが終わったあともメンテナンス中は荷物を中に取り込むことは出来ず、レヴィは彼から言われた通りにルートの確認や調整を行いながら【敗者】を眺める。

【敗者】はアークスという種族の開発に関わり、オラクル船団も長い間調整してきたからか小型船のメンテナンスくらいお手の物なようで特に迷う様子もなくサクサクと進めていっている。

 

「はぁあ……数百年?いや数千年?どんくらいかは知らないけど技術者やってたやつがメンテナンスやった方がいいんじゃないの?一ヶ月で資格取らせてやらせるのがほんとに効率的なのかなぁ」

 

そんなことを言いつつ、レヴィは必要な作業を終えるとすぐ資格勉強の為の教材を購入した。

この日常を過ごしていると忘れそうになるが、【敗者】はオラクル全人類から指名手配を受けている超重要危険人物。隠居生活を送っているだけで、ここでの生は全く保証されていない。

下手したらこの船一隻で宇宙をひたすら逃げ回る事だって有り得るのだ。それに備えて船の改造や調整は絶対必要なはず。

 

「さて……」

 

【敗者】はメンテナンスを終えると直ぐに戻ってきて、レヴィに声を掛けた。

 

「僕は船外機の調整がしたい。その間荷物を積み込んでおけ」

 

「あー、……オッケー」

 

この船は普通のキャンプシップとは違って貨物運搬用の商船。ブリーフィングルームの下にある戦闘機の積み込みスペースが代わりに荷物用の倉庫になっており、そこに積み込む設計になっている。

戦闘機を積み込むスペースだから耐荷重も十分で、用意した武器制作用の機材や楽器、テントなども余裕で積み込める。

それにしても、大型荷物はマシナリーで積み込めるとはいえほとんどの荷物は小型でコンテナのサイズがマシンの規格に合わないためレヴィが手で運ぶしかない。

 

「はぁ……」

 

精密機器や長期保存用の飲料などはコンテナの大きさの割に重量が大きく、レヴィは力に自信がありつつも少しづつ疲労とともに汗をかいていた。

 

「休憩したいなら僕は止めないが、遅れた分だけ睡眠時間が減るだろう。それが悪い影響になるかもしれないが……」

 

「急かすならあんたも手伝えってのほんとに!」

 

「生憎こちらも作業中だ。諦めろ」

 

「船外機ってそんなやる事あるワケ?」

 

「アークスシップからの攻撃は常に想定している。フォトンエンジンが故障した際の代替エンジンやブースターはもちろん、攻撃手段も増やす必要がある」

 

「まあ……アークスシップと戦闘ってなると、やばいよね。絶対一隻じゃないだろうし、フォトンドライブを使った空間転移をしたとしても痕跡が残ってれば追いかけてくるはずだから……」

 

「オラクルの観測範囲外かつ直接転移不可能な場所に逃げ込んでその惑星に潜伏するというのも悪くないな」

 

「直接転移が不可能な星で隠居……その惑星の環境によってはかなり大変なことになるはず……」

 

もちろん逃げずに復讐が完了すれば二人にとって丸く収まるが、現状の想定だと逃げ回る可能性の方が高い。

まさか船のメンテナンスと改造までやることになるなんてレヴィからすると全く予想外の事だったが、逆に考えればむしろ自然なことなのかもしれない。

前の【敗者】なら剣も盾もエンジニアも開発者も存分に使えてやりたいことをやりたいように出来ていた。

しかし今それを担う存在はレヴィのみ。

だからレヴィが全部やるしかない。

【敗者】を守ることも、アークスを攻撃することも、拠点を作ることも、彼を癒すことだって、全部レヴィ一人の役割で……

 

「もーー!こーなったらわたし以外ありえないって泣きついてくるくらい最強の駒になってるんだからーーっ!!」

 

コンテナを下ろすとバッと手を掲げ、力強い声で叫びを上げる。

【敗者】はそんなレヴィの様子を見て思わずくすりと笑い、彼女に向けて声を掛けた。

 

「ふふっ、その意気だ。頑張れ」

 

「努力度胸ド根性!わたしの人生三原則!……やってやりますよーーだ!!」

 




二人はメンテナンスと積み込みを終えた後、船に乗り込んだ。
想定だとここが休憩時間だが、レヴィは直ぐに端末を開き宙技士の勉強を始める。
主な勉強はメンテナンスのためのもので、操縦について勉強する必要がないという部分は幸運なことだ。設計も当然学ぶ予定だが後回し。とにかくメンテナンスできるだけの知識と技術は得る必要がある。

そんな風に休みなく端末に向かうレヴィを【敗者】は生暖かい目で見守っていた。
彼女は態度の悪さの割にやることを見つければトコトン取り組めるいい子だ。
研究員というストイックな性格の者が多くつくであろう職種の人間を星の数ほど見てきた【敗者】ですら、レヴィはかなり上澄みなストイック精神を持っていると思わされた。

彼女は休みの日は朝から講座を見ながら食事を取ってからトレーニング・ストレッチや武術の稽古、昼休憩中にも動画を見て、午後からは二時間前後の戦闘訓練、終わったあとにシャワーを浴びてからすぐに任務へ向かい、道中の船内でもバレエや音楽の稽古、喫煙休憩中はハッキングで資料の閲覧、任務から帰っても速攻で食事を取ってからまた稽古、そしてようやく寝る前になって【敗者】とイチャついて、ベッドで寝かしつけられる……みたいな流れで過ごしている。
寝過ごすことはあれど代わりに睡眠時間を減らすだけなので結果的にダラダラ過ごしている日はない。

工房に行って武器制作する平日も休憩中や出勤までの道のりで勉強や稽古を行っており、生粋の娯楽中毒者かつ勉強家に沢山の学習機会を与えるとここまで伸びていくものなのか、とレヴィに色々なものを与えた【敗者】の方がむしろ驚いていた。

普通の人から見れば稽古地獄とも言えるかもしれないが、レヴィからすれば武術以外の稽古は任務や戦闘という使命と無関係な娯楽……つまり体を使って遊ぶ三次元的なゲームとしてほとんど処理してしまう。
なので、【敗者】がレヴィを外に連れ出してデートに連れて行ったり、無理やり引き止めてベッドにでも縫い付けていないと、会話しながらでも手元で何かしら働いて休んでくれないのだ。

【敗者】はレヴィに資格勉強などというタスクを与えておきながらも彼女の空き時間のなさはよく分かっているため、あと5年くらいで飽きてくれたらいいのだが……、と思いつつも、この世にいくつ楽器があって、どれほど演奏する曲があっただろうか、どれほどの武術があって、どれほどの舞台の演目があっただろうか……なんてことを考え出すとレヴィは永遠に空き時間のない女になりそうで頭を抱えた。

(この女、継戦訓練の前と言ってるのに相変わらず寝る気が全くないらしい……)

あまり一日のスケジュールを細かく指定したくないとは思う【敗者】だったが、ある程度フリーの時間も作らないと【敗者】の方も新しい予定や頼み事を容易に出来ない状態になるため、特定の曜日や特定の時間などで区切りを作って自由に呼びつけられる空き時間を作らなければ……と【敗者】は考えた。

これを何人もの人間にやっていたら【敗者】の方も苛立つだろうが、今それをする相手は一人だけで、【敗者】のやるべき事はレヴィの強化と解明が主。彼女のスケジュール管理も苦ではない。

それに遠征時のレヴィは任務に行く事はなく、その分の移動時間も含め別のことに使えるようになっている。
資格勉強もそこで行う想定であり、レヴィの空き時間にもなりうると【敗者】は考えている。

「レヴィ」

「んー?」

「遠征時は普段とは違い食糧や余分な寝具などの生活必需品も持ち込む都合上、楽器の数や器具にも制限が掛かる。それも考えて稽古を行うといい」

遠回しに音楽や演技の稽古は減らせと言ったつもりなのだが、レヴィはその意図を察する事はせず言葉通りに受け取って返事をした。

「うん?荷運び見てたでしょ?そんなの分かってるってば。大型のピアノとかはもちろん入れてないけど、レコーディング機材積み込んだから」

「……本気でアイドルを目指しているのか?」

「アイドルとかってのは無理に決まってんでしょ。まあ、適当に曲作って動画上げたり、弾き語りで投げ銭集めくらいの金稼ぎをしようかなって思ってるくらい。あんたが本気でクーナに対抗出来るだけのパフォーマーを立てるっていうなら、もちろん協力するけどね」

とはいえ、レヴィはクーナとは違って筋金入りの嫌われ者。音楽分野とはいえ自分の魅力をどうやってオラクルの馬鹿どもに向けて売り出せばいいのかは皆目検討がつかなかった。

「でもさ、その……わたしセルフマーケティングとかそういうのは苦手だから……マネジメントするなら、あんたに任せたいかも」

「それくらい分かっている。……シャーロットにマネジメント業務を任せてもいいが……いや、僕自身でやった方がいいな」

「クーナの時はどうしてたの?」

「金と権限だけ用意してあとは全て委託だ。向こうからの要望があれば通して、衣装や作曲などの資金も全てアークスの広報用の予算で負担して……後は、暗殺者として利用する際に特定のシップへの慰問公演を依頼するだけだ」

「なるほどね……慰問公演と被せることでシップ間の移動を怪しまれなくするんだ」

「その点、貴様は本当に大胆だな。平均アークスの3000倍以上は他アークスシップへの移動を行っている。普通のオラクル人はそこまでアークスシップ間を移動することは無いのだが……」

「まあ、ひとつの船で一生苦なく生きていけるようになってるし。でも、珍しいとはいえクーナの熱狂的なファンとかはいちいちアークスシップ移動してまでステージ見に行ってたりするでしょ?わたしはそういうのとは違うけど、遠くのアークスシップに行けばまだ無人店舗の出禁設定がされてなかったり無知な店員がいる店で買い物出来たりするから、色々移動するってのは悪行働くためだけって訳じゃないよ?
まあ……別に欲しいものあれば空き巣すればいいだけだし遠くの船にわざわざ行く理由はないんだけどさ」

「裏任務の都合上頻度を抑えろとは言わないが……そういう表向きな理由は常に用意しておく事だ。いつ誰に摘発されてもおかしくない。創世器の持ち主として六芒均衡に認知されているという自覚は当然あるだろう?」

「あったりまえでしょ〜?そういうの、わたしが一番気をつけてることなんだから平気!」

ふん、と胸を張ってレヴィは得意げに主張した。
【敗者】は自信満々なレヴィに溜息をつきつつ、彼女に体を寄せてくっつくと肩に手を回しすっと寄せた。

「それでさ?なんであんたが直接わたしのマネジメントするわけ?」

「まず、シャーロットにあまり多くの事に関与させたくないという事がある。家に関するほとんどの事を教えていないのと同じように、僕達の計画に関与するような事もシャーロットにはさせたくない。正直に言って、何時でも切って構わない人材にしておきたいんだ」

「へぇ……どうして?」

レヴィは理由を問いつつも、【敗者】が何を言うかは分かりきっていた。
しかし、それを彼の口から言わせることに価値があったのだ。

「シャーロットは忠実な下僕として制作したが、信頼出来ないからだ。奴は人工知能ではなく人の心を持っている。つまり、裏切る可能性がある訳であり、核心的な所まで教え込むと取り返しのつかない事態を引き起こされるかもしれないと考えた」

シャーロットは必ず裏切らないと約束できる駒では無い。
それを【敗者】の口から言うことは、レヴィにとって優越感を得るために必要な事だったのだ。
レヴィはその恍惚とした感覚を持ったまま、さらに言葉を続ける。

「……わたしには色々教えてくれるけど、わたしが裏切るかもしれない、って思わないの?」

「レヴィは裏切る訳がないだろう?」

「へへ、そんなにはっきり言われると……結構、嬉しいかもだけど……外部に委託しないのは、総長だった時と違って外から干渉出来ないから?」

「あぁ。システム頼りにしても貴様の個性を潰すだけで、僕の都合のいいようにはいかない。そして一番最悪なのは、貴様が自分でマネジメントを行うことだ」

「わたしがやるのが最悪って……」

「貴様は商売相手である客のことを心底見下している。経営をやらせてもそれが露骨に浮き出ることだろう。それに、コメントやインタビューなども検閲しないと何をしでかすか分からない。自由で無法な所は貴様のいい所でもあるが、同時に致命的な弱点でもある」

はぁ、と溜息をつきレヴィは視線をそらした。ある一点をぼんやりと眺める。
完全に無意味なように見える場所を凝視しているレヴィを見て、【敗者】はくすりと笑った。

「貴様は本当に小動物みたいだな」

「は?どこが?」

「いや、ペットがよく分からない所をじっと見ていたりするだろう?」

「よくわかんない所見てるわけじゃないけど……まあいいよ」

レヴィは自分の視界に映る切れ目とそこから見える見覚えのある彼の全く見覚えのない形を見なかったことにして、サッと目を逸らした。
裏任務で出会ったやつにも、学校で出会ったやつにもそういうものが見えずに気味悪がられていたが、【敗者】なら見えるかもしれないとレヴィは少し期待していたのだ。
しかしどうやら【敗者】にも見えなかったようだ。
【敗者】の言うシオンとやらなら、あれが見えるのかもしれないとレヴィは薄く考えながら、話題を直ぐに変える。

「機関部の名称ってめちゃくちゃ多くて覚えにくいね。全部プログラミング用語とかに変えてくれればいいんだけど」

「もし船に触りたいのなら、それ用の船を用意しようか。勿論この船でも見学するくらいなら構わないが……解体前提なら新しく用意した方がいいだろう」

「確かに……わたしはそっちの方がありがたいかも」

「それに、最初から完璧にやれとは言わない。次のメンテナンスの時は僕が同行してアドバイスするつもりだ」

こういう時のアドバイスは割とちゃんとしてるんだよな、とレヴィは【敗者】に変な信頼をしつつ、端末を閉じると【敗者】に肩を寄せた。

「レヴィ?」

「いや……まあね……」

忙しいとは思いつつ退屈する気がしない。
こんなに刺激的な事は、幸せな事だったのか。
レヴィはそれを実感するとそれを与えてくれた【敗者】の事が愛おしくなり、思わずキュンとしてしまった。

「ふふ……甘えたい気分と。望むなら、与えてあげようか?」

「じゃあ、ちゅーしてくれる?」

「勿論だ……」

【敗者】の大きく硬い手がレヴィの頬に触れると、すぐ唇が妖艶に重なる。

「えへ、……ふふふっ……」

レヴィはその唇の僅かな感触に頬を赤らめ酔いしれていると、【敗者】は彼女の閉じた端末に映った時計の時間に目を向けた。
もうほとんど夜中だ。

二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。

  • 続編として作品を分ける
  • 分けないで一つの作品でまとめる
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