惑星ナベリウス森林に船が降下し、【敗者】とレヴィは立ち上がる。
二人は戦闘服を整え、目を合わせて頷く。
「到着したようだ。とりあえず、Aのラベルが貼られた荷物を降下させろ」
レヴィはコンテナに着いたラベルを見比べて、【敗者】の言われた通りAと書かれた物の中身を確認する。
「Aね……、テントと……えーっと、簡易フォトンシールドと……フォトンスフィア?」
「防衛対象が必要だろう?」
「防衛対象?」
「作戦が始まればすぐに分かることだ」
その言葉と共にハッチが開き、レヴィは船から降りていく。
【敗者】はソファに座り直すとディスプレイを開き、家に居るシャーロットの様子をチラリと見ると直ぐに通信を繋いだ。
「レヴィ。まずは拠点の準備だ。テントを設営し、拠点保護の為のシールドを置き、そこに今回用の食糧と飲料の入ったCのコンテナとバッテリー、それからフォトンスフィアを設置するんだ。
配置は任せるが、フォトンスフィアは中に入れておくのが絶対条件になる」
「全く……あんた戦うことしか手伝わない気?」
「時間を測っている。手を付けてからなるべく早く拠点の設営が完了すれば、ご褒美があるかもしれないぞ?」
「どうせあんたの事だし、早く設置したご褒美じゃなくて遅く設置した罰があるだけなんでしょ」
なんて言いつつ、レヴィはコンテナを開き直ぐにテントを設置する。
封を開けて投げるだけで簡単に広がるタイプの物だが、代わりに耐久力は低い。
地面に固定させたあと、きちんとフォトンシールドを貼らないと原生種からの攻撃には一撃も耐えられないだろう。
「設置場所は言うまでもないが、きちんと考えておくように」
「当たり前でしょ?」
洞穴があればいいのだがそうもいかないため、今回は後ろに崖のある場所に設置しておく。
周りには木々が置かれており、テントは木に隠れるような形になっていた。
テント方向に木が倒れたら一溜りもないが、逆に上空から敵が降ってきてそのままテントを潰してしまうなんてことも無いだろう。
「店で買ったクッキーもあるし、水、スポーツドリンク、ジャーキー、栄養バーにサプリ、眠気覚ましのドリンク、あと紅茶もあるし歯みがきガムもある。どう考えてもカンペキでしょ」
にしても、とレヴィは食糧の入ったコンテナを開いて思った。
継戦訓練だということはわかってるが、それにしては飲料も食品も量が多すぎるのではないかと。
出発する時はこれからの遠征の分の荷物も積み込んでいるという事で、この量は次の遠征の分も含んでいるのだろうと考えていた。
しかし、【敗者】はコンテナ一つ分が"今回用"だと言ったのだ。
「むぅ……」
コンテナの継ぎ目を調整してサイズを小さくし、ボックスの一面を外して取り出すための収納扉に変える。
輸送でズレた中身を調整し簡単に振り分けてから、ゼリー飲料をポケットにねじ込んだ。
継戦訓練で確実に一食は取るはず、しかもレヴィだけではなく【敗者】含めた二人分。
その上、次の遠征も年が明けてからなるべく早くいくという話もあるからか、ここに長居するわけが無い。
だから、完全に多すぎるのだ。
――しかし、その思考を遮断するように、【敗者】から通信が入った。
「さて、作戦の説明をする。まず、この継戦訓練は特殊環境における長時間の戦闘状態……つまり、こちらが常に攻撃される可能性のある不利な状態で拠点を防衛するという想定で行われる。
本来、上空からの爆撃等大型兵器が使われる事も視野に入れるべきだが、大規模な拠点の設営には時間もかかるため、今回は一時的な滞在として簡易拠点を利用する、という想定にしている」
「ふむふむ……追い詰められた時の訓練って事ね」
「あぁ。しかし、僕はダークファルスでありレヴィはフォトンがない。本来の敵はアークスだが、今回の敵は原生種及びダーカー。僕たちは敵として認識されないものだ。
よって、拠点にフォトンスフィアを設置し、それを活性化することで敵に破壊対象を与える。貴様の勝利条件もまた、フォトンスフィアの防衛だ。もちろん拠点への損傷は少ないほど良い」
レヴィは作成した拠点の内部を見渡した。
補給しやすいように入口の近くに食糧を置き、奥側にはフォトンバリア等の軸になるバッテリーが集まり、フォトンスフィアはどちらからも離れた角に置かれている。
「じゃあ、食糧とフォトンスフィアを離れた場所に置いたのは良かったってことか……」
「そうだな。最初の挑戦で食糧を失えば、その後補給は一切しない。かといって、懐に食糧を全部持てというのも違う。
つまり、サバイバル経験のある貴様の経験を試した訳だが……その程度は分かっていたじゃないか」
「いやまあ、近くに置いてると邪魔になるかもって思っただけなんだけど……、防衛対象とも言ってたしね」
「あぁ。これから時間の計測を始める。戦闘準備するように」
レヴィはアイゼンハートを持ち、最初に持つ武器の形態を考えようとするが……そこで、彼女はある疑問に気付いた。
「ちょっと待って。質問があるんだけど……
継戦訓練って言ったよね。何時間やるの?」
「24時間」
「え?2時間から4時間?」
「貴様の耳は腐っているのか?24時間。一日だ」
レヴィは思わず武器を落としそうになり、慌てて抑え膝を着くと端末に向けて叫びを上げた。
「は……はぁあああ?!」
アークスの探索任務は確かに制限がないに等しいが、それでも休みを含め三時間が常識的な範囲だ。
それを常に戦闘している状態で、しかも24時間など……平時ではとても有り得ない。いや、採掘基地防衛戦ですらそんなことはない。
「最初、僕はどれほどの時間を設定するのか迷っていた……。しかし、貴様が前に24時間連続戦闘訓練というアイデアをくれたじゃないか。それを思い出して、採用してみる事にしたんだ」
「え?なんだっけ……あっあれ!」
レヴィは自分の記憶を必死に手繰り、原因となった発言を思い出した。
そういえば、鬼畜な戦闘訓練をした時に、六芒均衡はどんな訓練をしていたのか、惑星を割る訓練や、24時間連続戦闘訓練をさせていたんじゃないか……なんて話を振っていた。
「あれは違う!わたしがやるんじゃなくて、六芒均衡にそんなことやらせてんの?!この鬼畜!っていう罵倒でしょ?!アイデアじゃない!」
「確かに、六芒均衡にそんな訓練をやらせたことは無いが……40年前の戦争はそれと同等の状況になったと言えるだろう。それと考えれば随分小さいものだ」
売り言葉に買い言葉、何を言っても屁理屈ばかりで返してくる。
レヴィは呆れてアイゼンハートを持ち、立ち上がると片手剣に変え握りしめる。
「むぅうう!で!あんたはいつ来る訳?!もう準備出来てるんだけど!」
「ん?僕は行かないが」
「はぁ?!二人で一緒に協力して戦うって言ってたじゃん!」
「それは間違っていないが、最初から二人で戦闘すれば貴様は手を緩めるだろう。常に二人で戦い続けるなんてことも無く、一人で防衛する必要も出るはずだ。
互いに仕事をしている以上、こうやって余裕を持って時間を取れることは少ない。最高効率で複数の訓練を同時にこなす必要がある」
「あのさ、そんなの無理に決まってるでしょ?!わたしが一人でずーっとこんなちっちゃな拠点を防衛し続けろって言うの?!しかも一日も!」
「言っただろう、最初だけだと。貴様の貧弱さと体力のなさはわかっている。貴様が一人で戦うのは12時間だ。」
「は?12時間?」
「それ以降は僕が降下し、戦闘に協力しよう。そうしたら貴様も休む時間が与えられ、負担も大幅に減少する。
後半12時間を一人で耐久するより、前半12時間を一人で耐久した方が成功率は高いはずだ。疲れや体へのダメージは蓄積され後の自分に負担をかけるだろう?」
「いやいやいや!理屈だけそれっぽく整えても全然現実的じゃないんだってば!あんた何考えてんのほんと!わたしは無敵の戦闘マシーンでもアークスの英雄でもないんだってば!」
「それと、失敗条件はフォトンスフィアの破壊及び貴様の戦闘不能だが……失敗した場合、数時間の休憩後もう一度チャレンジする」
「え?失敗したら終わりじゃないの?チャレンジって……どこから?」
「もちろん、最初の1秒からだ。だから訓練が24時間で終わるとは思わないことだな。貴様が醜態を晒せば晒すほど、貴様の休みは無くなる。
もちろん、そんな事を言えば貴様はチキンレースをして無理やり終わらせることを考えるだろうが……そんな物は許されない。
一ヶ月、二ヶ月、それ以上かかっても僕は終わらせることはない。終わるまで、貴様は帰れないんだ。死ぬ気で取り組み、努力をする事だな」
「は……はは……」
レヴィはもう笑うしか無かった。
【敗者】の言っていることは意味不明も意味不明。彼は全く船から動く様子はなく、それどころか、レヴィが抗議に来れないようにと船を浮上させ始めたのだ。
舟が舞い上がり吹き荒れる風の音を聴きながら、レヴィは拳を握りしめる。
「準備は出来た、と言っていたな。なら、フォトンスフィアを起動させる。反応を見るに、周囲には敵が山ほど居るぞ。早く外に出て武器を構えるんだ」
「このっ……この鬼教官!鬼畜!ドS!ド変態の最低男!」
「ふむ、貴様は拠点内からスタートというハンデを自ら背負うというのか……面白い。その挑発、受けて立とう」
「は?!ちょっ!まって!わたしの文句が終わってな……」
フォン、と背後から音が鳴ったかと思うと、フォトンスフィアがキラキラと光り輝き活性化を始めた。地脈がそのフォトンに反応し、フォトン係数が上がる。
【敗者】の端末ではPSEバーストの発生が確認され、同時にエネミー反応が一気に現れる。
「〜〜ッ!!このぉおおお!!あのクソ野郎ぶっ殺してやる!絶対絶対!説明不足の最低男!許さないんだからーー!!!」
レヴィは敵の音を聞くと拠点を飛び出し、辺りを見渡す。
幾つもの空間侵食反応と共に、木々を分けてエネミー達が現れる。
原生種とダーカー、どちらもおそろい。オマケに希少種付き。
「誰も彼もが貴様に暴力を振るう時のように視界に入ってきて、理不尽な悪口を言って、それから殴るなんて余裕を与えてくれる訳が無いだろう?貴様の立ち位置はダーカーと同じだ。忠告もなく、準備する間もなく、奇襲を受ける立場だ。
そんな甘ったれた態度でオラクルに歯向かおうとは頭が高いぞ!」
レヴィは向かってきたダガンの攻撃を直ぐに受け止め、弾き飛ばすとアイゼンハートに力を溜め思い切り解き放つ。
「ぐっ!!訓練の時くらい教えてくれたっていいでしょー?!わざわざ全部の訓練を実戦想定にしなくたっていいはずなのにぃーー!!」
倒してもすぐに次が現れ、ほとんど衝動的にアイゼンハートを変え、銃で撃ち抜く。
「貴様の事は僕の方が分かっている。常に極限状態の訓練を求め、少しでも温いと分かれば自分からきつくしろと言い、少し配慮してやるとすぐ調子に乗って気が散る!」
「わたしそんなことしたつもりない!手を抜いたこともないしサボったことだってないでしょ?!」
糸を張りめぐらせ、両方向からの攻撃に対応すると原生種に飛び蹴りし、懐からブラックローズを取り出してエネミーを切り裂く。
「貴様は有利に立った瞬間調子に乗って必要最低限の防衛すら放棄するだろうが!そのせいで武器を壊したことをもう忘れたのか!意味も無いのに自分の身を自分で滅ぼすような行動は言語道断!
その上同じ訓練を続けたら飽きて同じミスを繰り返す……貴様は追い込まないと成長出来ない筋金入りのマゾヒストだ!」
「むうぅううーー!!
ちっ!この……こうなったら当たり散らしてやる!」
たった五分でエネミーの数は100体前後。
アークスの探索範囲外であるここに登場するエネミーはレベルでいうと75。
レヴィのレベルは……未だに1。難易度制限は、ノーマルのまま。
「そーんなにあんたの使ってた三英雄様は有能だったワケ?このわたしを無理やり強くしなきゃ使い物にならないって……!!」
アイゼンハートが力を引き出すと、レヴィの中の憎悪の感情が膨らんでいく。
【敗者】の駒としての劣等感と、それと引き合うアークスへの嫉妬と憎悪。
【敗者】は絶えず彼女の肉体の数値を確認していたが、グラン類似エネルギーは増えるどころかむしろ減少しており、非活性化状態が続いていた。
(まだ追い詰め足りないか?それとも、少し挑発が過ぎたか……)
続々と増えていくエネミーに対処するため、レヴィはアイゼンハートを使って半球型のフィールドを展開し、その内部で倒したダーカーの因子や原生種の死体の全てを対象として転換し、ひたすらエネルギーを作り続ける。
「これ程大量のエネミーを相手する場合は、アイゼンハートの転換対象も妥協しなくていい。ダーカー因子等のエネルギー転換は難しいだろうが、原生種に関してはヘモグロビンの転換で殆どが対処可能になるだろう」
「そーいう極端なやり方してたら成長もクソもないっての!」
「成長ではなく耐久しろと言っている訳だが……貴様がそうしたいと言うのなら、僕は止めないさ」
「そのスカした顔が歪む瞬間を見るまで、辞めないんだからッ!!」
そうして、レヴィはアイゼンハートを掴んで斬りかかり……
もちろん、一度目で成功するわけなどなかった。
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる