※この作品はR-18です。

MIDNIGHT   作:Libby博士

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36話(2)

12/31 朝8時

 

「はーっ……はーっ……」

 

ブリーフィングルーム。

レヴィは栄養ドリンクを飲み、ため息をついた。

 

「3時間15分か。……最初にしてはいいんじゃないか?」

 

「いいわけが無いでしょ?!わたし、めちゃくちゃ頑張ってやったつもりなのに……!あと何回やればいいの……?!」

 

最初は防衛失敗ではなく単純な戦闘不能。

創世器のエネルギー転換限界を攻めすぎた結果転換が間に合わず、防御不足で……という分かりやすい失敗だ。

グラン類似エネルギーが非活性状態だとアイゼンハートの力に頼るしかないが、アイゼンハートの出力は他者の命を喰らい転換する事と、そしてレヴィの憎悪感情が大きく関係する。

この状況下でずっと憎悪を保てるわけが無いのだ。

 

「さぁ?僕は時間が掛かってもいいと言っただろう?貴様がやりたいなら、十年でも付き合ってやるが……」

 

「そんなことしたらホントに死ぬっての!とにかく、3時間程度なんだから休みは30分で十分!もう行ける!」

 

「いや。次で12時間続けられたらどうなる?今の休憩をもっと良くとって、きちんと睡眠しておけば良かったとなるはずだ。

もっとも、"寝られていないから今回分は捨てよう"なんて考えをするというのなら、それこそ本当に何年掛かるか分からないがな」

 

【敗者】の言葉に、レヴィは口を噤んだ。

【敗者】は12時間と言っているが、それはあくまでソロで戦わないといけない時間であり、結局のところ残りの12時間全部寝させてくれるわけなどない。

レヴィにとっては24時間で、その間一睡も出来ないと考えておく方がいいのだ。

 

12時間船内でぐーたら見てるだけの【敗者】とは違って――と言った怒りもじんわり湧き出るが、先程まで散々当たり散らした後に同じ事でずっと怒り続けるのも難しく、3秒足らずで落ち着いた。

 

「むう、……たしかに。じゃあ寝る……。12時に起こして。キリいいし」

 

「あぁ」

 

レヴィはそんなぶっきらぼうな言葉の後にあっという間に寝室の方に消えていき、直ぐに寝始める。

レヴィの休憩を確認すると【敗者】は直ぐに通信を繋ぎ、自宅にいるシャーロットに向け声をかけた。

 

「シャーロット。仕事は順調か?」

 

「はい、ご主人様。いずれも滞りなく」

 

シャーロットの声はマシナリーとそう変わりない淡々さで、仕事の様子を見てもきちんと言われたことをこなしている。

悪く言えば言われたことしかやってないのだが、【敗者】にとってはそれでちょうど良かった。

 

「以前話したクラス適正の話だが、貴様は三世代目だ。推奨自体は教えたが、やりたいものがあれば好きに選ぶといい」

 

【敗者】はある検証がしたかった。

ダークファルスとフォトンアレルギーの遺伝子を継いだ子だと言うのに、シャーロットはフォトンがある。

なら、フォトンを扱う力はどうなのだろうか。適正は、器は、ダーカー因子を使えるのか、レヴィのようにグラン類似エネルギーを使えるのか……

それはレヴィにとっても重要なことになる。

 

シャーロットはそれを薄々察していながらも、それを一切口に出すことはなく、代わりに主人である彼と非常に業務的な会話を行う。

 

「……では、ブレイバーをやっても宜しいでしょうか」

 

「ブレイバー。新規クラスか。どういう理由で、だ?」

 

「お嬢様とご主人様の戦闘技術に関する話を聞いた時、ご主人様は射撃を推奨すると仰いました。お話によると、お嬢様は打撃戦闘がメイン、ご主人様は法撃戦闘がメインとのこと。

しかし、お嬢様は銃を使った攻撃もなさるとも仰っておりました。

となれば、私も打撃と射撃、両方使えた方が補佐には役立つと考えたのですが……」

 

「ふむ、良い考えだ。ブレイバーのクラス解放条件はなく、最初から選択出来るようになっている。しかし、どちらの武器を主とするかによるが……サブクラスの育成も怠らないように」

 

「はい、了解しました」

 

「それと、命令した通りクライアントオーダー等の任務をきちんと行うこと。貴様は非正規のアークスになるとはいえ、レヴィとは違い非公認の裏任務やハッキングを利用した規則違反になる命令をさせるつもりは無い。

あくまで普通のアークスとして活動し、現地にいるアークスが何か企んでいないか、怪しいものはないか……それと、見目麗しい物品も見つけ次第収集して欲しい」

 

「了解しました」

 

シャーロットはその場に立ったまま【敗者】と話しており、会話以外の作業は全く行っていない。

しかし、それが【敗者】にとっては完璧と言えるものでは無かった。

想定内だ。言われたことしかやらないように命令した。だから気になったら随時命令を追加すればいいだけだし、それなりの金は払っている。給料からすれば中級の士官くらいだ。しかも衣食住はまた別支給。仕事内容からしたら高すぎるくらいだろう。

 

「貴様を賢く作っては居るが、絶対記憶能力を持つ訳では無い。メモを取った方がいいだろう」

 

「はい。今すぐ行動の修正を致します」

 

シャーロットは言われると直ぐに端末を取り出し、メモを取り始める。

 

【敗者】にとって、レヴィは確かに優秀だ。

彼女がとてつもない努力家で仕事中毒なことはわかっているし、彼の想像を超えた成果を出すことも知っている。

だが、上司としてはそんな奴が二人も三人もいたら卸すのが大変なのだ。

基本的に【敗者】はレヴィに全力で向き合って応対しているから彼女をコントロール出来ているが、シャーロットが同じくらい自由人だったら【敗者】は彼女たちを制御することが面倒になる。

だからレヴィ以外の物は全部イエスマンでいい。シルンもシャーロットも、金を与えればやる事をやり、それ以外の不必要な事はやらない。それで丁度いいのだ。レギアスもカスラも完全にイエスマンとして扱っていたし、クラリスクレイスは少々命令無視などをするくらいには幼かったがそれでも【敗者】の制御出来る範囲にいた。

レヴィくらい手間が掛かる奴はアルマくらいしかいない。もしかしたらマジックユーザーはめんどくさい性格なのかもしれない……と【敗者】が思ってしまうくらいには手間がかかる。

 

「それと、前も言ったように機密情報の漏洩や仕事内容の口外、二人の主人に対する情報の漏洩さえなければ自由に交友関係は築いて構わない。給料の使い道も貴様次第だ。もし仕事中に必要な物資があり、調達した場合は領収書を貰って提出するように。負担分は後で此方から返金する」

 

「了解しました、ご主人様」

 

「レヴィは帰ったら疲弊しているだろう。もし身の回りの世話を頼まれたらちゃんと答えるように。

だが、前にも言った通りあまり触れないようにすること。必要な物を取ってきたり、寄せたりするくらいでいいだろう。

彼女の言動から察するに、裸を見られるのはあまり好きじゃないかもしれない。着替え中などは出来る限り彼女を見ないように。

それと、移動を伴うものや風呂などを頼まれたら僕を呼んでくれ。

まあ、どれくらい動けないのかはまだ予想が着いていない。今回に限らず、今後も風邪や疲労などでレヴィが動けなくなったら同様に対処してくれ」

 

「了解しました、ご主人様」

 

シャーロットは全ての言いつけをメモに取り、それから深くお辞儀をした。

そういう仕事だ。二人の主人に対して好きも嫌いも一切表に出さない。

これは【敗者】からの命令ではなくシャーロットの元からの気質だ。

 

「良い子だ、そのまま仕事を続けるように。

もし終わっているのなら、早めに切り上げて好きにしてくれていい。そこに住まうものが居ない以上家も汚れにくいだろう。それではね」

 

「有難うございました、ご主人様。それでは失礼致します」

 

淡々としたビジネスな会話をしたあと、【敗者】はレヴィに目を向けた。

彼女はまだ二回目だからか体力自体は余裕だが、まだやる気が足りていない気がする。

 

『くっ……ほんっと量多すぎなんだけど!』

 

流石にエネミーレベルが高すぎたかもしれないと【敗者】は頭によぎったが、しかし、自分が介入すればこの程度のエネミーなんて容易に蹴散らせて当然なのだ。

レヴィに配慮して後半12時間を無意味な物にしてしまうならわざわざ24時間掛けてやる意味が無い。

それなら成長を促せるように高難易度にした方がいいはずだ……といった思考でやってるのはいいが、そもそもレヴィはエネミー相手の戦闘が苦手なのだ。

 

『どうにかしないといけないのに……あぁっ?!』

 

バリン、とスピーカーから聞こえる破損の音を聞いて【敗者】は声を上げた。

 

「そこまで。失敗だ。帰還するように」

 

『囮使って破壊されるのなんて想定外なんだけど?!ダーカーってそんな統率取れないでしょ!』

 

「それは貴様の思い違いだな。ダーカーは貴様が思ってるよりも効率的で、そしてヒトが見ている視界とは違う。万物のフォトンを敏感に感じ取り、それを破壊せしめるためどんな手段でも使うんだ。ダーカー兵器だって、ダークファルスが作ったものだけとは限らない。乗っ取った兵器が変貌する事もあるし、周囲の環境に影響されてダーカー因子が変異したり、ダーカー自身が生み出す事だってある」

 

『そうなんだ……』

 

レヴィの声は歩行によって揺れ動いており、空気を掻き分けて少しずつ船に戻っていく。

 

「僕の眷属にも、爆弾を産み落として攻撃する種類がいる。規模が小さいから卵なんて言われているが、巨大化して空を飛べばさながら爆撃機、更に大きくなれば惑星破壊の為の兵器だ。そう考えればあまり違和感は感じないんじゃないか?」

 

「まあ、確かにね」

 

通話の声と彼女の声が重なると共に搭乗口が開く。

ほとんど傷も汚れもなく、声は平静を保っていたが顔には僅かな悔しさが滲み出ていた。

 

「おかえり、レヴィ」

 

「時間は?」

 

「45分だ。明らかやる気と集中力に欠けていたようだが……」

 

分かっている。自分が不甲斐なさすぎるとは分かっていつつ、レヴィは大きなため息をついた。

彼女はソファに座りつつも、【敗者】から距離を置く。

二人の間には一人分の隙間が空いていた。

 

「いやー、ちょっと……軽く気圧されてたかも。これ、あと何回やるんだろうって……」

 

レヴィは悔しさもあったが同じくらい終わりの見えない訓練に対し恐ろしさも感じていた。

そんな心境が丸わかりなレヴィの怖気付いた様子に【敗者】は思わず声を漏らした。

 

「……貴様も案外普通なんだな」

 

「は?何それ、侮辱?」

 

「いや、そうじゃない。僕が過剰に恐れていただけだと自覚したんだ。貴様のような異常な体を持つ人間でも、些細な事に恐怖を覚え、苦しくなれば涙を流す。

……貴様は間違いなく人間だという、至極当たり前の事実だ。」

 

「普通って……そっか、そういう事だもんね」

 

「高度な知性を持つものは、皆競走に勝ち、特別になりたがる。貴様だって僕の一番の駒になりたいんだろう?それは何も可笑しくも特別なものでもない、健全な悩みだ」

 

【敗者】はレヴィにドリンクを渡す。

レヴィはストローを咥え、モゴモゴと口を噤む。

 

「でも、その……それで【敗者】に迷惑かけてるかもしれないし」

 

「それとこれとは別だ」

 

【敗者】はレヴィの手首をくい、と引いた。

彼女の体がソファを跳ねると【敗者】が隣に寄り添い、ぴったりと体をくっつける。

 

「ん……」

 

「恐れを抱くのは当たり前だ。誰にだって恐怖はある。だが、だからといって何も出来ずに死ぬだけではままならないだろう。恐怖を感じる時こそ、どうやってそれを解決すればいいのか……恐怖を支配するためには、何をすればいいのか考えるんだ」

 

「【敗者】は、……どうすればいいって思った?」

 

「僕の答えは、全知を得ることだ。それ以上もそれ以下もない。だから貴様の答えも案外単純な単語で表せるような答えで、ただ何かに囚われているだけなのかもしれないな」

 

「……」

 

レヴィは上手く返せずに黙り込んだ。

休む気にもなれなくて、端末を開きイラストソフトのキャンバスを表示させペンをゆるゆると滑らせる。

前に【敗者】から頼まれていた、攻撃特化の戦闘服に関する要望やデザインなどに関する用紙だ。

それと、長期遠征用の活動服に関する要望も別で既に用意している。

 

どちらも具体的なデザインはほとんど無くフリルや宝石がいっぱいあると動きにくい、バディとして統一感のある感じにしたい、くらいの曖昧なことしか描いてはいないが。

 

【敗者】 はそんな彼女を暫く見守る。

プレッシャーの原因は本当に終わりの見えない時間だけなのか。

こうやって、良いイメージも思い浮かぶことも無く抑制されるのは、ネガティブな感情があるせいなのか。

 

実際、レヴィはどのような教育方針を望んでいるのか……

 

「率直に聞くが、……僕に命令されるとやりにくいか?」

 

「へ?」

 

【敗者】は彼女の筆が鈍った所を見て、声をかけた。

 

「今まで、僕はレヴィに沢山のアドバイスをしてきた。貴様が道が分からないと言って、僕に助けを求めてきたからだ。だが、数回とは言えないほど、貴様は命令されると窮屈そうに感じている時がある。もちろん、命令を聞いた方がよく伸びる時も多いが、その割合にあまり差がない。

レヴィ、貴様はどうしたい?」

 

レヴィはどんな返答をすればいいのか迷ったが、彼に都合のいいような言葉ではなく、自分の本心をなるべく柔らかい言葉で打ち明けて見ることにした。

 

「その……まあ、確かに、怒られると思って動き方が分からなくなる、みたいなことはあるかも。そういう時は大体、【敗者】が怒らないから何でもしていいって言われて、何とか持ち直すけど……」

 

「しかし、一秒の判断が生死を分けるような状況で、僕の言葉がないと迷って動けなくなるというのは良くないだろう?」

 

「うん、まあ分かってるんだけど……でも、やっぱ咄嗟に考えちゃって……」

 

「僕から怒られるというイメージは、どんな感じなんだ?」

 

「えーっと……」

 

レヴィは思いついた通りに話した。

自分が失敗する。すると、【敗者】が「何をやっているんだ、このバカが」「貴様のような出来損ないを駒にした覚えはない」「期待外れな行動をするのも大概にしろ」と怒る。

それが怖い。自分の一挙一動が全て【敗者】にとっての正解か不正解かでジャッジされて、気に入らなければ怒鳴られる。

【敗者】にとっての正解でなければ許されないと感じる。

 

【敗者】はそれを聞いて、少し顔を歪めた。

傍から見ればただ顔を顰めているようにしか見えないが、レヴィからすると彼が傷付いているように感じた。

 

「僕はそんなに貴様に酷く接しているのか?僕は貴様を完全に従順な物として作り上げるつもりは無い。もしそうするつもりなら、貴様にどうしたいのか聞くことも、何が正解か考えさせることもないだろう。

最低限しなければいけない行動を指摘しているだけで、貴様の一挙一動を全て操作するつもりは無い。それは根本的な物だが、もし貴様が自分で考えて起こした行動でそれ以上の結果が出せるというのなら僕は文句を言うことなんてない。

僕が叱責するのは嫌がらせでも言いがかりでもなく、単純に貴様が単細胞で危険すぎるだけだ」

 

「わかってるの、……でも、なんでか頭に思いつく。それが怖いの」

 

レヴィは何故【敗者】のことが怖いのか分からなかった。

彼は優しい人だと知っている。どれだけ暴力を振るい、厳しく接しても、同じくらい優しくしてくれて、沢山の悦楽を与えてくれる。

それなのに何故こうなってしまうのだろう。

確かに怒られることは嫌だが、怒られることなんて珍しくない。それに、期待外れだなんて言われたのは、あの殺されかけた一回のみ。

裏切るようなことをしなければ【敗者】は寛容だってことはわかっている。

 

 ――レヴィが俯きいたたまれなさに打ちひしがれている中で、【敗者】はなるべく平静を装って、ゆっくりと声を掛けた。

 

「……父親や訓練学校の教官がそんな人間だったのか?」

 

「ッ!!」

 

レヴィは顔を上げ、【敗者】を唖然と見つめた。

レヴィにとってその話題が非常にデリケートだということは、互いによく分かっていた。

しかしそれ以外ないのだ。

だってレヴィの恐怖はあの時以来からじゃない。最初からだ。

二人で宇宙へ裏任務に行った時だって、レヴィはありもしない恐怖に囚われて、彼が言うわけもない幻聴に苛まれていた。

 

それはもっと昔の、根源的な物だ。

"そんなこと"を言うのは【敗者】ではなく、別のヤツである。

 

「貴様に指導するべき立場の人間が、貴様に不当な指摘をして辱めていたのだろう。それを僕に重ねて、恐怖を感じているだけだ。それに前は……少し、その気持ちを強めてしまったのかもしれないな」

 

【敗者】は自分が悪いとは到底思わないが、怒りや焦りでカッとなってしまった自覚はあった。

そんなちょっと申し訳なさそうにしてる【敗者】を見てレヴィは慌てて口を挟む。

 

「違う!【敗者】は悪くなくて、その……多分、そうだと思う。ごめんね、失礼だよね、【敗者】とそんなカス共を重ねちゃうなんて、失礼だよね……」

 

「あぁ。最悪だが、かと言って僕が叱りもしないで貴様を放置してやるなんてことは出来ない。その根源的な恐怖を治すのは時間が掛かるが、自分で断ち切るしかないだろう」

 

正直こんな所で考えられるような問題じゃない。

レヴィの期待外れということに対しての恐怖と女体嫌いは非常に深く根付いた、家族への強い憎悪から来ているからだ。

もっと長い時間をかけて、沢山話を聞いて、ゆっくり治していくしかない。

面倒臭がっていたレヴィのメンタルサポートというやつはどう足掻いても回避不可能なのだと【敗者】は察した。

回避不可能、必要不可欠ならやるしかない、とも逆に思える訳だが。

 

「うん」

 

「それで、話を戻そう。レヴィは、命令されない方が上手くいくか?」

 

レヴィは頭の中でグルグルと【敗者】の事や自分を辱めてきた憎き人間の事を考えて、それをなんとか抑え込んだ。

 

「その、それを聞いて思ったの。すごくわがままなこと言うけど……命令して欲しい時と、自由にさせて欲しい時があって、その基準がわたしじゃよくわかんないの。だから、0か100じゃなくて、【敗者】からみてイケるかどうかで決めるみたいなのって、どうかな。

わたしが欲しいのは、嫌な時に気負いなく簡単に嫌って言える権利」

 

「……わかった。その境界は僕が探しておくが、つまり基準はアドバイスするということでいいんだな?」

 

「多分、そうだと思う。そういうの要らないとか要るとかってのは気分次第かな」

 

自己中かつ傲慢な性格の二人が、なんとか互いの事を考えながら不器用に歩み寄ろうとしている。

互いから色恋を切り離しても、その歩み寄りは無駄にならない。

 

「了解した。では、今回の休憩は15分にしようか」

 

「まあ、さすがに短すぎるしね……」

 

レヴィは会話をしながらあっという間の15分を過ごして、また降りていった。

破損したフォトンスフィアは入れ替えてまた起動させ、訓練を始める。

次は4時間、その次は5時間半と少しずつだが、チャレンジするごとに時間は伸びていった。

 

その度にレヴィはヘトヘトになって帰ってきたがすぐに反省点を伝え休憩、怪我があれば治療を繰り返した。

 

「うー……わー……」

 

「手袋の耐久性には難があるようだな」

 

レヴィは訓練を数回繰り返す内に手の内に痛みを感じ確認すると、そこには剣を握り締めて出来た手豆が見事に両手分びっしり付いている。

 

「とりあえずはテーピングで対処しようか。他の傷はどうだ?」

 

「まあ、擦り傷とかそれくらいなら別に気にするまでもないし。支障が出るならそこくらいかな」

 

レヴィはテーピングを巻かれながらふと目を逸らすと、部屋に設置されていた時計の数字に視線が吸い込まれた。

23時58分。12月31日のその時間は、いつもよりほんの少しだけ特別だ。

 

「あ、【敗者】」

 

「どうした?」

 

「時計見てみてよ」

 

【敗者】は時計をチラリと横目で見て、ため息混じりの声を出す。

ここに来てから丸一日以上経っている。

いや、むしろ、まだ一日なのか。

 

「……あぁ、もう年明けか」

 

「ふふっ、なんかわたし達らしい年明けの瞬間って感じだね」

 

船の中、ボロボロの手で、武器を傍にレヴィは笑う。

こんな時でも戦って、こんな時でも計画のことを考える。

つくづく契約に縛られた関係だ。

 

「全くだ。風情も何も無いな」

 

「でも、【敗者】と居られて、いっぱいこうやって頑張って……形にしようって思える瞬間って、なんかすごくワクワクして楽しいね」

 

レヴィのキラキラした笑顔は純粋で、【敗者】はそんな彼女を見て思わずはにかんだ。

 

「……投げ出さなくて良かったよ」

 

レヴィはその声に首を傾げていると、【敗者】は説明するようにそのまま言葉を続ける。

 

「貴様が無理だと泣き喚いたり、飽きたと言って逃げ出したりしなくてもおかしくなかった」

 

「ちょっと、まだ終わってないでしょ?終わったみたいに言わないでよ」

 

「あぁ、だが……高みを目指し、その為に比類なき努力が出来る事は誇ってもいい。それが出来る人間はそう多くない」

 

 ――結果が出せない行動は努力と言えるのか。

「だが、それを選んだお前は弱いままだ」、なんて呪いのようなルビィの言葉をぼんやりと思い出しながら、時計を眺める。

 

「……」

 

時計が0を並べ、静寂の中新光歴239年が世界に滲んだ。

 

「あぁ、丁度年明けだ」

 

「うん、年明けだね」

 

そんなあまりにも淡々とした言葉の後、【敗者】はレヴィに体を向け、ゆっくりと彼女に視線を向けた。

レヴィは少し迷ったあと向き合い、【敗者】の瞳をじっと見つめる。

 

「僕が貴様にどれほどの苦を課せているのかはよく分かっている。それでも、その苦を楽しもうとする気持ちがあるのならいくらでも成長出来るだろう」

 

「楽しむ……」

 

「そうだ。レヴィは、楽しい事や面白い事が大好きなんだろう?音楽だって、演技だって、戦うことだって、悦楽を感じるためにしているんじゃないのか?」

 

【敗者】はなるべく自分のように、いや、三英雄のように立派な英雄を仕立てようとしたが、レヴィにそれは不必要だった。

だから、教科書に載っている正解よりも、その場に生きる彼女が一番選択すべき事を尊重してみることにした。

 

「うん、【敗者】と居るのも、そうやって色々勉強するのも、嬲り殺す事も、みんな楽しい」

 

「だったら、これ以上のアドバイスはないな。

苦境に立たされても、悦楽を得たいという気持ちを忘れるな」

 

レヴィは【敗者】の言葉を一つ一つ受け取って、ゆっくりと頷いた。

 

「上手くやるとか、失敗しないとか、そんなことは後からでもどうにかなる。何よりもまず楽しむんだ。長く続けたいなら、それしかない。

言っただろう?今回の訓練は継戦訓練。耐久だ。いかに成長するのではなく、いかに長く続けるかが重要だ」

 

「うん、……ありがと!なんか上手くいけそうな気がしてきた」

 

レヴィは屈託のない笑みを浮かべ、【敗者】を抱きしめた。

 

24時間なんてそんな簡単にこなせるものじゃないが、7時間、9時間、と少しずつ、少しずつ前に進む。

【敗者】は「レヴィなら絶対に出来る」と強い確信を持ちながら、静かに船の中で待った。

 

二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。

  • 続編として作品を分ける
  • 分けないで一つの作品でまとめる
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