※この作品はR-18です。

MIDNIGHT   作:Libby博士

171 / 258
幕間⑬(2)

 

128番艦、何故か継戦訓練後だと懐かしさすら感じる。

レヴィはジグの工房をノックし、その扉をこじ開けた。

 

「……ジグ」

 

「おお、レヴィ。あけましておめでとう」

 

ジグは相変わらずパーツの換装も何も無く、老人だからかアークスシップの様相が変わることにも慣れているようで、凡そ一週間以上ぶりだと言うのに前と何ら変わりない態度でレヴィに声を掛けた。

 

レヴィはぼんやりとジグに小さな違和感を抱いたあと、懐をまさぐり小さく折り畳まれた紙を取りだしていく。

 

「うん。あのさ、前に言ってたライデンシャフトの変換機構……菌の事なんだけど」

 

紙は開くとすぐにシワがなくなり、ピンと伸びてざらつく紙をすぐに差し出し、ジグはそれを受け取った。

 

「うむ……見せてくれい」

 

紙にはびっしりと細かく小さな文字や絵で様々なことが描かれており、丸い文字の割に方眼用紙で書いたかのように上下がきちんと整っている。

そこには何か、卑屈なのに同時に無責任な、強迫観念のようなものが感じられた。

 

書かれていたことは、大いなる陰と菌に関する説明。

そしてそれを元に、大いなる陰を再現するという計画が書かれていた。

 

「ふむふむ、菌を作るための母体を作成するということかの?ただ、フォトンではなくダーカー因子、と」

 

「ま、浄化前提って感じ。擬似再現までの過程は決まってないんだけど、どうやればいいかは理解したから試してみたいの」

 

でまかせだ。レヴィは浄化する気は一切ない。

もし何か問題があれば【敗者】に食わせればどうにでもなると思っているため、C.A.R.D.の再現もライデンシャフトの変換も全て再現した菌をそのままに活用しようとしている。

 

「しかし……ダークファルスを二体用意して、対消滅を起こすなど不可能じゃろう。そもそも、どうやって用意するつもりじゃ?」

 

そんなジグの言葉に、レヴィは待ってましたと言わんばかりに口角を上げた。

 

「……最近、頻繁にアークス達が緊急任務に駆り出されることになったよね。それって、本物のダークファルスと同じくらい強い反応を持つ模倣されたダークファルスが出現してるからでしょ?上の話によれば、あれは【双子】の能力なんだってさ」

 

レヴィの話は間違っていない。マザーシップで繰り返し現れる【敗者】の反応は本人ではなく【双子】の作った模倣体。

【巨躯】に関しては現(・)状(・)本人だが、【双子】は【巨躯】の眷属であるダーカーを食らうことで体内に【巨躯】の因子が蓄積されており、それらがダークファルスの模倣体として現れることもある。

 

「……お主まさか?!」

 

「【双子】の模倣体を利用する。【敗者】が出現した時点で捕獲して隔離、その後【巨躯】の模倣体が現れたタイミングで解放し、二体用意するの」

 

数ヵ月後には、来襲せし虚なる深遠の躯……なんて名前で実際に発生することだ。

今の時間だと【双子】はまだ【巨躯】本人を食らっていないため自然に起きることでは無いが、人工的に再現すれば同現象ができなくは無い。

 

「利用すると言っても……あまりにも危険すぎるじゃろう!それに、討伐には他のアークスもいるはずじゃ!一体どうやって……」

 

「ん?一人でやればいいでしょ?」

 

もちろんダークファルスが出現したら当たり前に管制がそれを検知するし、そうすれば他のアークスが出てくる。

そうなると二体のダークファルスをぶつけて対消滅させるなんていう計画があっという間にバレることになるが、レヴィはそれに対する案も考えており……ジグはレヴィのその言葉に困惑した。

 

「は、……はっ?!」

 

「管制の感知レーダーを操作してダークファルスの反応を隠す。【巨躯】はルオンが抑えてる間に、【敗者】をわたしが瀕死に追いやって、それから交代。今度はわたしが【巨躯】をギリギリまで追いやって、二体を合流させる。

そして対消滅を起こすため、互いを敵だと誤認させるように仕向ける。

【巨躯】と【敗者】は理念や執着するものがほとんど逆だから、相反する意思になり得ると思うの」

 

レヴィは至極真っ当で理にかなったことを言っているつもりだった。

しかしジグから見たら荒唐無稽で馬鹿げた案にしか思えない。5際の子供が言ったといっても疑わないくらいだ。

あまりにも人知の範疇を超えた理解不能な案すぎる。

 

「お主は何を言っているのか分かってるのか?!そんな計画、あまりにも荒唐無稽すぎるじゃろう!」

 

「残念だな。あんたには理解して貰えると思ったんだけど」

 

レヴィは期待外れ、と言わんばかりの退屈そうな目でジグを見つめながら、淡々と呟いた。

 

「わっ、……わしはな、レヴィ。お主に嫌がらせをしようとか、そういう意味で言っている訳ではないのじゃ。良いか?まずダークファルスほどの強大な反応を管制から隠す事なんて不可能じゃ。それにお主がいくら創世器の使い手とはいえ、一人でダークファルスを二体も倒すことは出来ぬ。

ルオンもじゃ。奴は研究者じゃろう?お主らは六芒均衡でも、高いフォトン適性を持つ訳でもない。仮に二人きりで領域に行けたとて、強大なダークファルスを瀕死に持ち込んで、尚且つ操作して対消滅させることなど不可能じゃ!」

 

「はぁ……ジグ。あんたなんか履き違えてない?」

 

ジグこそ彼の知る範囲で分析した上真っ当なことを言っていたが、レヴィにとってはそういうことがしたいのではなかった。

今回レヴィは、ジグと平等な立場でコミュニケーションを取りに来た訳では無い。

 

「わたしは、相談に来たわけじゃないの。武器の制作を手伝ってるあんたには知る権利があるから、ただ報告しに来ただけ。わかる?」

 

レヴィはただ一方的に報告しにきただけであり、議論するつもりなど毛頭なく、肯定以外の言葉は何も要らなかったのだ。

内心レヴィはとても苛立っていた。

ジグのような自分の見初めた男が、こんなにも反抗的で、退屈で、期待はずれなんてありえないと思った。

 

「じゃが……」

 

「あんたもわたしの言う事に従わないワケ?!」

 

ジグが反抗の言葉を放った瞬間、レヴィは爆発する。

怒りと苛立ちが一気に脳を駆け巡り、暴力へのリミッターなどはなく、そこに至るまでの閾値が極端に低い彼女が当然優しく言い聞かせるなんてこともなく。

 

バン、とレヴィは強く机を叩いた。

彼女の目は血走っていて、恐ろしい獣のようで、彼女の瞳には明確に殺意が宿っていた。

マイペースで気難しい性格では言い訳もできないような、凶悪な殺人鬼を見ている時のような異様でおどろおどろしいオーラに、ジグは思わず足を一歩下げる。

 

「レッ、……レ、ヴィ」

 

「……はぁ。なら、あんたが納得するだけの理屈を提示してあげる。無論、他の誰かに言ったらあんたの核を粉々に破壊することになるけど」

 

レヴィは衝動的にジグを限界ラインの向こう側に追いやった。

自分にとって都合のいい言葉を言わない、自分を全部肯定しないなんてそんな些細なことで、殺す事を躊躇わなくなったのだ。

 

レヴィは冷たい目でアイゼンハートを剣に変え、ジグに突きつける。

アイゼンハートは冷たくジグを睨むように刃を艶めかせており、レヴィは自分にとって都合の悪い人間は誰であっても、どんな恩があっても殺すのを一切躊躇わない、といった彼女の残虐で暴力的な印象をジグに与えていた。

 

何が彼女をそこまで掻き立てるのか。

ダークファルスを一人で相手するという危険なことをしてまで、自分に殺意を向けてまで、一体何を成そうとしているのか。

ジグは恐ろしかったが、同時に聞く必要があるように感じた。

 

「分かった。誰にも話さないと誓おう。お主がそれだけその菌にこだわる理由を、わしに聞かせてくれぬか?」

 

「……あのさ。わたしの手間かけさせるとか何様のつもり?これを出すのだってタダじゃない訳」

 

レヴィは明らかに苛立っている。

ジグは目の前の女が弟子のようなまともな職人ではなくただの強盗犯のように見えた。

普段のマイペースで陽気で真面目なレヴィとは別人だ。レヴィはジグの前ではそういう風に自分の行為や思想が悪になると理解し、その悪意を隠して彼に"善人の演出"をしていたから。

 

「その、……申し訳なく思っておる。じゃがわしは、もしお主が無謀になって言っているのだったら、それを止める必要があったんじゃ。後悔はしておらん」

 

だが、ジグも譲れない部分はある。

いくら彼女が暴力的で恐ろしい面を見せてこようが、自分の命を危険に晒す無意味な暴走で彼女を失いたくなかったからだ。

 

レヴィはジグの言葉を聞いてため息を着くと、端末を取り出した。

 

「はぁ……まず、わたしの一存では簡単に話せないことだから、ちょっと一報……」

 

しかし、レヴィが端末の連絡先に手をつけた所で工房の扉が勢いよく開く。

 

「おじさまっ!!!!」

 

「「ッ?!」」

 

海を漂う海月のように薄い青の髪と瞳、サイドテールはくるんと綺麗に巻かれ、全体的に清楚で凛とした容姿の女だ。

しかしその女は美しい見た目を崩すような焦った表情で扉を掴み、目線はジグを向いていた。

 

「じ、ジグおじさま!聞きましたわよ!貴方がついに……弟子をっ……取ったと!!」

 

「お、お主は……」

 

ジグは困惑していた。彼女のことを覚えていなかったのだ。

しかしジグの困惑した様子にその女はプンプンと怒りながら、ジグに詰め寄った。

 

「まさかこのわたくしをお忘れになったとは言わないでしょうね?!わたくしです!マグノリア!ノーチェの社長、マグノリアですわ!」

 

ノーチェ。

その言葉に、レヴィは聞き覚えがあった。

 

(ノーチェって……まさか、アークスで正式採用されてるコモン武器とコートシリーズを作ってる会社の……?)

 

ノーチェは非常に有名な武器製造会社だ。

それも、ここ数年で飛躍的に発展し、正式採用にこじつけたというかなり新しくやり手の会社である。

そこまで言われてジグの方もようやく分かったのか、ポンと手を叩いていた。

 

「マグノリア……そうか、マグノリアか!思い出したぞ!」

 

「誰こいつ」

 

レヴィはじっとりと目を細めマグノリアを見つめた。傍から見れば睨んでいるのと同じだ。

 

「あぁ、その……マグノリアは、武器職人を目指していた子でな。昔、少しだけ会ったことがあるんじゃ」

 

「そうですわ!わたくしは、ジグおじさまの作られた作品にとても感動して!ジグおじさまに弟子入りしようと、10年前に工房へ押しかけたんですの!ですが……」

 

10年以上も前といえば、ジグがちょうど情熱を失い、精神的に病んでいた時期だ。

マグノリアの顔は僅かに陰っていた。

 

「その……その時のわしはスランプで、……マグノリアの事を、一目見るや追い返してしまったんじゃ。その時の彼女は、まだただの少女だったんじゃが……」

 

「ジグおじさまに無碍にされた事で苛立って会社を設立し超発展してやったんですの。それで、ここまで成長すれば弟子入りが出来るかと思いきや……わたくし、リュカから聞いてしまったんですの!おじさまが弟子を取ったと!」

 

マグノリアは自らの功績を語る時は自慢げに胸を張り、ジグにウインクしていた。

こんな顔をしているが、単なる職人に憧れがあっただけの思春期の少女が会社を作り一流にまで発展した裏にはとてつもない量の血と汗と涙が流れている。

ジグはアークスに正式採用されることがどれほど難しいことかよく分かっていたため、ジグのスランプの時期の中でも必死に努力し、大成して再び現れた彼女は、ジグにとっては眩しいものだった。

 

「その節はすまなかった、マグノリア。話も聞かず追い返したのは、間違いなくわしが悪い」

 

「良いとか悪いとかそーいう話はしておりませんの!」

 

そんなことを言ってマグノリアはジグから目を逸らすと、今度はレヴィに体を向けた。

 

「あなた!」

 

「……」

 

呼ばれた当の本人は壁の向こうをどこかぼんやりと眺めており、マグノリアの声掛けにようやく振り向いてじっとりと見つめる。

 

「あなたがジグおじさまの弟子ですわね?!リュカから聞きましたわよ!ジグおじさまの工房に夜中まで入り浸っている、金髪に赤い目の女!」

 

「はぁ……あんたさ、なんか勘違いしてない?」

 

レヴィは静寂の後、ようやく喋りだしたかと思ったら足を出す。

そのまま蹴るようにマグノリアの腹を押し込んだ。

 

「へっ?きゃあっ!」

 

よろけてあっという間に奥の壁に背が当たり、レヴィはそんな所を見ながら悠々と彼女を見上げる。

レヴィは彼女を見上げているはずなのにまるで見下ろしているような雰囲気を纏っていた。

 

「わたしはコイツに弟子入りしたつもりはない。必要な情報を受け取って、必要な技術を貰ってるだけ。コイツの技術を伝承するとか、その跡を継ぐとか、そういう意思は一切ない。わたしは自分のためにしか行動しないわけ」

 

だが、レヴィはそんな事を淡々と言っていたが、マグノリアの視線はレヴィにはなかった。

実験ポッドに隠され、正面からは見えなかった……ある一つのテーブルに目線が集まっていた。

 

「あっ、あなた〜〜ッ、……あなたっ?!」

 

「?」

 

「それ!……それそれそれ!これですわ!」

 

甲高い声と共に衝動的に飛び出したマグノリアは、あっという間にそのテーブルに飛びつき、あるものを凝視する。

9割の黒に1割のピンク。中太で長い棒のような傘。

ブラックローズだ。

 

「……あっ?!わっ、わたしのブラックローズ!」

 

レヴィが動揺する中、マグノリアはブラックローズを両手で慎重に持ち、その細部を観察するように前のめりに眺め始める。

 

「わたしのって……やぁーーっぱりそうでしたわね!このデザイン、この素材の選び方!おじさまとは違いますもの!はわわ……」

 

「チッ……」

 

舌打ちの後、懐をまさぐる。

見知った硬い感触がぶつかるとレヴィは銃を取り出した。

そしてそれを迷わずマグノリアの顔に向けようとするが、その瞬間後ろから体を覆われる。

 

「レッレヴィ!!」

 

「ちょっと……!」

 

相手はもちろんジグだ。ジグは突然銃を取り出したレヴィに驚き、慌てて止めに入ったが、レヴィは鬱陶しそうに彼を見るだけだった。

 

「武器を降ろすんじゃ!撃ってはならん!」

 

「はぁ?あんたには関係ないでしょ。その武器はわたしのもの。わたしのものを認知する奴を処分する権利も、わたしにある」

 

「たかがそんなことで人を殺す必要が……」

 

二人のヒートアップしかけた雰囲気を、マグノリアの素っ頓狂な声が一気に冷ます。

 

「あら?」

 

「マグノリア?」

 

マグノリアは、ブラックローズをじっと凝視していた。

ジグはマグノリアに一瞬目を向けた瞬間、視界がぐるりと天井を向き、そして彼の視界に肌と黒い布が覆い被さる……

 

「おじさま。これ、何の武器ですの?ガンスラッシュのように思えたのですが、全く違いますわ。かと言って、法撃武器に特徴的なフォトンの吸収、テクニック発動を補助する機能も見受けられませんわ。なんなら、フォトンを増幅させる機能すら……あら?」

 

バキン、という音と共にマグノリアの眉間の間で光が瞬くと、目の前に鉛玉の銃弾が勢いを失い熱を持ったまま落ちていく。

レヴィはジグを抑えたままマグノリアに向かって発砲したが、彼女にダメージは入っていなかった。

 

「……ガード付きか」

 

「ウフフ。わたくし、生憎"そういう対策"に関しては二重三重にも重ねておりまして。

おじさま?このお弟子様、随分と御物騒ですわね。MSS社の方ですの?」

 

「いや違……違っ?!!」

 

ジグはマグノリアの言葉に否定しようと目を開いたが、そこで彼の視界を埋めつくしているものが何かを察した。

尻だ。

黒い布はショーツで、柔らかい肉は彼女の臀部だった。

 

「レッレレッ……、レヴィ!!」

 

「はぁ……」

 

レヴィは溜息をつきながら、ジグの肩に触れる。

瞬間ガコンと音を立てて、ジグの肩の下があっという間に外れた。

キャストパーツの接合部だ。

流れるようにもう片方も外すとすぐに端末を取り出し、軽く操作する。

工房の窓がシャッターに包まれ、工房内は電気が照らすだけの閉鎖的な空間に包まれた。

 

「ジグ。言ったよね?わたしに手間かけさせるなって。そんなに死に急ぐなら自害してくれない?迷惑なんだけど」

 

「その、……さっ、流石にお主のような生娘の……おま……股の方を、視界に映し続けるというのはわしもその……あの……」

 

「はぁ……あんた童貞なの?」

 

「体験の有無は関係なくてじゃな……っう?!じゃっ、じゃからそのわしが恥ずかしいと!!」

 

レヴィが少し体を上げるとまた尻をぶつけ、押し潰すようにぐりぐりと押し込む。

 

「貴方たち……何をやっておられますの?」

 

「うるさいヤツ黙らせてただけ」

 

オマケにレヴィはショーツの紐を解き、ジグの顔にそれを被せた。

ちょうど目元に被り、隠せる程度に……だ。

二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。

  • 続編として作品を分ける
  • 分けないで一つの作品でまとめる
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。