「あとは、余計なヤツも一人居る」
「余計とは、どの辺りが余計なのですか?お弟子様」
「弟子じゃないって言ってるでしょ?」
「あら。わたくしもあまり、暇では無いのですが。有意義にお話したいと思いませんか?」
「……」
「お弟子様。この武器の武器種を、お伺いしてもよろしいでしょうか?」
「拒否」
「アークス非認可の武器、ですのね?非合法でしかも……エネミーを対象としたサイズではありませんわ」
「嫌がらせのつもり?」
「おあいこ、ですわね」
マグノリアがポケットに手を入れたかと思えば、白い銃身が姿を現す。
そして彼女は、取り出したその拳銃の銃口を迷わずレヴィに向けた。
「ッ!」
アークスシップのリミッターが働かないということは、つまりフォトンを使わない鉛玉の銃だ。
いや、それにしてはブラックマーケットで流通しているどの銃にも一致しない。
銃身に彫られた木蓮の花の模様を見て、レヴィは目を細め、ホワイトローズを取り出すとすぐにマグノリアの腹に向けて銃弾を放つ。
それは先程の鉛玉を受け止めたバリアを打ち破ったが、腹に何か仕込まれていたのか銃弾がめり込むことはなく布を破るだけでダメージは入っていなかった。
「貴方のその躊躇いのないところはさすが、お弟子様になるだけありますわね」
マグノリアは銃口をレヴィの顔に向け、引き金に指をかけた。
「あんたが馬鹿なだけ。殺す気があるなら、話す前に撃ったらどう?」
「なら、貴方にはわたくしを殺す気があると?」
「あんたの手に持ってるソレは、生憎レヴィ様の企業秘密なワケ」
「アークスに通報されるから?」
「かかってる首は一個じゃないワケ。こっちだって本気だよ」
レヴィは飛び出し、一気にマグノリアの背に回ると彼女の首を抑えて抱え込んだ。
そして、ホワイトローズの銃口は彼女の頭に突き付ける。
「ッ!」
「マグノリア。ノーチェの社長。つまるところはアークスの中枢部に値する人間ね。目的は何」
レヴィにとっては要注意人物にも記載されていない相手だ。
素性も全く分からず、現状9割は殺す必要があると考えるほどマグノリアの存在は怪しくて仕方がなかった。
「目的と言っても……わたくしはジグおじさまに業務提携を提案しに来ただけで、お弟子様と会うとは思っておりませんでしたわ」
「わざわざブラックローズに目をつけた理由は?」
「あなたが手に持っていらっしゃるそれも、ブラックローズとやらも、わたくしにとっては非常に興味深いものですの。触れてみたくなるのは、職人の性と言うやつですわ」
「あんたの銃は何?」
「あなたが自分の情報を話さないのに、わたくしに一方的に情報を開示しろと言いますの?」
「一方的じゃない。話せなければ、お前を殺す」
「それで貴方に何の得が?」
「リスクが無くなる。それだけ」
レヴィは常に引き金から指を離さなかった。
威嚇の意図はなく、ただ殺すか殺さないかというそのギリギリの境界線上で相手を尋問しているだけだった。
「……わたくしの頭を撃ち抜いても構いませんが、少々誤解があると思いますの」
「……」
「お弟子様。わたくしは、貴方の想像するような人ではありませんわ」
ため息を着くとマグノリアは端末を取り出し、レヴィにある画面を見せた。
それはジグからは完全に見えない角度であり、マグノリアとレヴィの二人にしか理解できないものである。
その画面は裏任務のサイト……依頼を請け負うコントラクターの管理画面が表示されていた。
「……!」
「一旦停戦と致しませんか?わたくしもあなたも、もう少し会話が必要だと思いますの。チャカはしまって、お茶にでも致しましょう。このままでは、ジグおじさまもお可哀想ですわ」
「……分かった」
レヴィはゆっくりと銃を下ろし、マグノリアから手を離した。
マグノリアは反抗する様子もなく落ち着いた様子で離れると、悠々とした様子でジグの方に向かい、彼の腕を再び付けてあげていた。
(正式採用の装備を作ってる会社の上が裏任務を請け負ってるなんてそんな上手い話あるワケ?いや、いざとなったらアイツを呼べばいいだけだし……一旦置いとくか)
「おじさま、大丈夫ですか?」
「う、うむ。マグノリア……ありがとう」
「……」
レヴィは流石に嫌われたな、会うのは今回で最後かもしれない、なんて思いつつ彼の椅子に座って足を組み、二人をじっと見守っていた。
「お弟子様、貴方のお名前は?」
「L……いや、レヴィ」
レヴィは名前を言った後、マグノリアを睨みつけた。
あえてどちらの名前も言った。
フォトンアレルギーであり最弱のアークスとして有名なLと、最近になって名前を出すようになった自分の本名であるレヴィ。
しかし、マグノリアはそのどちらのワードを聞いても一切表情を変えることはなく、ポーカーフェイスでレヴィのことを見ていた。
「レヴィ様。改めまして、わたくしマグノリアと申しますわ」
「さっき聞いたから知ってるけど?」
「……」
レヴィの態度は大人とは思えない幼稚で反社会的な物であり、マグノリアは彼女のことを大分難しい人間だ、と考えた。気難しいなんていう言葉では到底足りない。
「レヴィ様は、ジグおじさまの協力の元、アークス非認可の武器の制作をされている。そうですわね?」
「はぁ」
「ジグおじさまは、どうして許可を?」
「実戦で使うことは無いから、じゃ。彼女はそもそも、こんな武器を作る必要が無いくらい強い武器を既に持っておる。武器制作など、趣味と言っても過言では無い」
「強い武器、とは?」
「創世器」
その言葉はレヴィから口に出した。
「弾刃・アイゼンハート。ソイツが言うように、わたしが作ってるどの武器よりもよっぽど強い。今はね」
「武器職人の傍ら、アークスをされておられるのですね」
「逆だよ。武器作る方がおまけ。まさに、趣味みたいなもん。でもそんなの作ってたら余裕でしょっぴかれるけどね」
「趣味……」
マグノリアはレヴィの言葉を聞きつつ、ブラックローズをちらりと見た。完全に趣味で作れるクオリティではない。刀匠ジグが余程教えるのが上手かったのか、それとも彼女のセンスなのか、パッと見た限りだと随分美しく仕上がっている。
「これを作り始めたのはいつから?」
「去年の九月。それまでは工具も握ったことすらなかったから、ホント初心者だよ」
「……」
ついに、マグノリアの表情が崩れた。
彼女は眉に皺を寄せ、ゆっくりと目線を下ろした。
初めて四ヶ月。四ヶ月で、コレを。
そう考えると、マグノリアは頭が痛くなった。
「ソイツの力も大きいけど、こっちには他に武器作った事のある支援者がいる。
はっきり言ってわたしはね、なんもしてないよ。みんなソイツとその支援者がやった。わたしは……わたしは、多分操り人形みたいなもんだよ」
それは偏執的な自己卑下だ。
レヴィは表情も変えないまま当然のように言い放ったが、ジグはその発言を単なる照れ隠しや正当な自己評価として受け取ることは出来なかった。
「それは違う!」
「……?」
そうしてジグの張り上げた声にはマグノリアどころかレヴィ本人ですら首を傾げていた。
「わしらはあくまで支援に過ぎぬ。武器のデザインだって、プログラムの構築だって、パーツの制作だって、お主のした事じゃろう?わしらが作った訳じゃない。間違いなくお主の力じゃ」
「はぁ……ほんとにそうなら、わたしは一人で完成させられるに決まってんでしょ。それが出来ないってことはそういうこと」
「……」
レヴィの完璧主義者と孤独と憧れと嫉妬はぐちゃぐちゃに混ざり、最終的に100点以外は0点という退屈な結果を出力する。
彼女はある意味で追い詰められていた。どうにかしないといけないとは分かっていたが、そう、ルビィに言われたように、自分の努力は全部無駄なもので、どれだけ足掻いても成長出来ていないと全ての事柄に対して当たり前のように考えてしまった。
特に、他者の協力に依存している武器制作に関してはその無力感をよく自覚していた。
「あのね。わたしだって怠惰で見守ってただけじゃないよ。でもあの中の骨だって貰い物なワケ。そこまでしておきながら火力は足りてないし、効率は悪い。試作型でしかない。それがわたし個人の力ならともかく、支援してもらってですらこの有様なわけ」
しかし、ブラックローズはエネミー用ならともかく、一般人アークス相手の対人用なら十分な実力だ。もちろん一般市民ならもっと簡単に殺せる。
特にレヴィのような裏任務を請け負っている人間が暗殺する戦場は惑星ではなくアークスシップ。
リミッターがかけられている状況下であれば、寧ろ過剰戦力とすら言える。
「……対人用ですわよね?普通に使用する武器としては十分だと思いますわよ?」
マグノリアは至極真っ当に、彼女の使用意図をある程度想定した上で呟いた。
しかしレヴィはそれを許せなかった。
そうではない。
そうではないと、拳を握りしめて壁を叩いた。
「普通に使用?舐めないで!わたしの作るブラックローズはね!惑星を叩き割れなきゃ意味が無いの!!」
「対人用の武器で惑星を割るとは……?」
欠けた壁がフォトンの力によってあっという間に修復されていくが、レヴィはそれでも鬱憤が晴れず唇を噛み締めてマグノリアを睨みつけていた。
「わたしが作りたいのは創世器なの!中途半端なものは作りたくない!普通の武器なんて作っても誰も守れないでしょ?!」
そりゃそうだ。たかが普通の相手に振るうような武器で創世器を持つ六芒均衡やダークファルスを一人で相手できるルビィに勝てるはずがない。
そうしないといけない。そうする必要がある。
レヴィは彼女が言った通り初めての武器制作で、まだ武器を作り始めてから1年どころか半年すら経っていない初心者だが、掛けた時間はそう甘くない。
自分が出来るだけのことは全てやって、自分の中で出せる力を引き出して、アレコレと手をかけてもなお足りない。自分ひとりの力じゃどうにもならなかったから【敗者】やジグにやってもらって、どうにかプロセスを進める事が出来たけども、レヴィはそれが他人に作ってもらったものと同然なのだと負い目を感じていた。
「……レヴィ様、無礼を承知でこう言わせて頂けませんか?これは、同じ武器を作るものとしての意見です」
「……?」
しかし、マグノリアの考えは全く違った。
マグノリアは一歩踏み出したかと思えば手を出し、レヴィの頬を思い切り引っぱたく。
「甘ったれるのも大概にしろですわ!」
「ひゃっ?!」
レヴィは驚いて体がよろけたが、マグノリアは億さず手を握り締めレヴィと目を合わせる。
「強い武器を作りたい?初心者のあなたが?
なら自分に才能がないとかウダウダ言ってる暇があるなら人から技術を奪って当然ですの!他の方から支援をしてくださった?ならそれを甘んじて受け入れるのではなく、自分のものにしないと意味がありませんわ!なぜこの素材を選んだのか、なぜこのような形にしたのか、その理屈を理解せず、ただ受け取ったものを受け取った通りに組み立てているだけだからあなたも納得していらっしゃらないんでしょう?!自覚はされているのになぜ行動しないんですの!」
「ま、マグノリア……その子はお主が思ってるより本当に忙しくて……」
「忙しいからなんなんですの?!中途半端な物を作りたくないというのなら!情熱を燃やす!武器に本気で向き合う!それは当然の事ですわ!時間が無いからと言って武器に向き合ってもいないのに、貰うだけ貰っておいて中途半端なものは作りたくないなんて、どれほど堕落したら気が済みますの!」
「お前……!!」
レヴィは赤くなった頬に触れる前に銃を取り出し、引き金に指を掛けたが、マグノリアはすかさず刺すように言葉を投げ込む。
「都合の悪いことを言われたら、人を殺せばなかったことになるとでも?」
「……チッ!!」
レヴィは銃から手を離し、グッと拳を握りしめた。
カサついた手豆だらけの手入れされてもいない手に爪がめり込み、血が滲む。
「わたくしに言われて苛立っている内はわかりませんわ。あなたは自分で自分を押さえ付けて、殻に閉じこもっている。何故そんなことをする必要がありますの?ジグおじさまはあなたの成長を阻むような人ではありませんわ。忙しいのが、逃げる理由にはなりません。あなたは何故そうやって中途半端にするのです?」
レヴィは顔を顰めマグノリアを睨んだ後、ゆっくりと立ち上がった。
フラリ、と一つよろけ、そして彼女から体を背けると、そのままため息をついて扉に向かって足を踏み出す。
「……あんたには分からない」
しかし、マグノリアはレヴィの手首を掴んだ。
「レヴィ様!」
衝動的に片手で掴んだ手は両手に変わり、力を抜くとそっとレヴィの手のひらに触れ、撫でるように包み込む。
「わたくし、あなたと初対面ですが、あなたの気持ちが手に取るようにわかりますわ。図星なことを言われて苛立って、でも従ったら自分の尊厳を殺すことになるから従いたくない。
そうでしょう?」
「……」
「あなたは本当に守りたいものを前にした時でも、そうやって薄っぺらいプライドに縋るおつもりですの?人の忠告を聞く事は自分の信念の否定でも尊厳を殺すことでもありませんわ。ただ、相手を食らっただけですの」
「相手を、食らう……?」
レヴィはマグノリアの至極苛立つ発言の中で本当に理解のできない一文が入り、思わずキョトンと目を見開いた。
「相手が気に入らないから、言っていること全てが間違っているなんて……そんな風に頭ごなしに否定しているだけでは、あなたは相手よりもずっとバカで愚かだと晒しているだけですわ。相手より上に立ちたいというのなら、相手の正しい部分だけ喰らえばいいのです。そして相手の間違っている部分には従わないで、自分がより完璧になればいいのですわ。
嫌いな相手ほど利用しなくてどうしますの?」
マグノリアはレヴィより年上で、会社を経営している。全てにおいて彼女よりずっと大人だ。当然世渡りの方法も熟知しているし、嫌いな相手だって山ほどいる。それでも、彼らを上回るために、マグノリアはなんだってしてきた。
「レヴィ。職人に躊躇など必要ありませんわ。必要なのは自信と貪欲さだけ。ただ求めていれば、結果など自ずと見えてくるものです。例えどんなに才能が無くても、上手く作れなくたって、努力した者には、必ずその分だけ結果が現れますわ。あなたにだって、それが分かるでしょう?」
努力をしたものには、必ず結果が現れる――
レヴィはそんな言葉に胸がとくんと高鳴った。
あれだけ悪口のようにしか聞こえなかったマグノリアの言葉の一つ一つ、躊躇を捨て、自信と貪欲さを持ち、ひたむきに努力するという言葉がじんわりとレヴィの中に染み込んできた。
「……っ!!」
「あなたの手、本当に堕落している者の手ではありませんわ。それに、あなたの武器への拘りは一目見ただけで分かりましたわ。だからこそ、他人の協力を得た事に負い目を感じたり、プライドが傷付けられたと思う前に、自分のものにしてしまえばいいんですの」
「……」
マグノリアは非常にムカつく相手だがレヴィにとって言い返せるものは何も無かった。
彼女は自分のことを見透かしているように感じたし、彼女の叱責は過激だったが理不尽さを感じなかった。
それはレヴィがよく知る誰かと似ていて、彼女は思わずテーブルに置かれた紙を手に取った。
「……あんた。深いことは言わないで、これを見て」
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
-
続編として作品を分ける
-
分けないで一つの作品でまとめる