※この作品はR-18です。

MIDNIGHT   作:Libby博士

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レヴィが目覚めると、そこは自宅だった。
自分を覗き込む顔は二つ。
【敗者】とシャーロットだ。
シャーロットはレヴィが目覚めたのを見ると直ぐその場を離れていく。
レヴィは自分の手に温もりと共に窮屈さを覚え、目を向けると、【敗者】がレヴィの手を包んでいた。

「あ……おはよ」

「相も変わらず、随分と生き急いでいるようだな。あと12時間くらいは寝ても構わなかったんだが……」

とはいえ、レヴィは時計に目を向けるともうとっくに昼の13時だった。
昨日何時にジグの工房を去ったっけ?
もしかしてほとんど丸一日寝てた?

なんて考えをグルグルと頭の中で巡らせている内に【敗者】は彼女の思考を切り捨てるように言葉を掛けた。

「それで、だ。貴様が無様に寝こける前に僕に話していた話題なんだが……」

「えーっ……と……」

レヴィは寝る直前の記憶が曖昧で、ぼんやりと掠れた記憶を思い返しながら首を傾げていた。

「……器の事だ。とりあえず、食事を取りながら話そうか」

そんな【敗者】の言葉と共にリビングへ案内されると、図ったかのように既に食事が置かれていた。
ここ暫く継戦訓練用のハイカロリーな保存食ばかりだったので、レヴィにとっては生野菜ひとつでも泣くほど嬉しい物である。

「サラダ……、へへ……、お肉入ったサラダだぁ……」

「……」

レヴィは久しぶりの新鮮な食事にありついて嬉しさに頬を緩ませる中、【敗者】はじっとレヴィを凝視し続けるだけだった。

【敗者】は自分の分の食事を用意することもなく、無言でレヴィが食べ終わるまで待ち……
皿が空になった瞬間、声を掛けた。

「それで、だが。器に必要らしい、トリリオン情報体とやらについて聞かせてもらおうか」

もしゃもしゃと頬をいっぱいにしながら、レヴィはうんうんと二度か三度頷くとお茶を片手に【敗者】と目を合わせる。

「んむんむ……むんっ、分かった。えっとね……」

そうしてレヴィは口を開けようとしたが……ぱく、と声にならない声が出た。
知っていることをそのまま言おうとしたが、何故か言葉が上手く出なかった。

「えーーっ……と、ね……」

否定されたくない。気持ち悪いと言われたくない。不気味だと思われたくない。
そんな意思が頭の中でグルグル回ったかと思えば、レヴィはどう言えば【敗者】から変に思われないか、そんなことを考えてしまった。

「……これも、マジックの力だと思うんだけど……こう、穴から、不思議な液体を出すの。そうすると、なんか……すごくいいことになる。体の中にそれが入ってないと、もしかしたら変になるかもしれないって」

レヴィは元から説明下手なのに、知識だけで理解をしてもいない事柄を上手く隠して説明する、なんて事が出来る訳もなく……
【敗者】はそれを聞いてもリアクションが出来ずレヴィをじっと見つめるだけだった。
ただ、レヴィはちゃんと言葉を探して発しているだけまだマシな方だ。

「えっと、その、穴ってのは、こう……視界の中に映って見えるもので、それで……」

「凄く、というのは……具体的にはどういう感じだ?」

「……百回くらいは死にそうな人間の体を、生かしておけるくらいな感じ」

「……」

【敗者】はレヴィの曖昧な言葉からあれこれと当てはまりそうな物を考察し、彼女が話す聞き覚えのない単語が何かの業界用語か、造語病的な物なのか、それとも本当に未知なのか、彼女と話しながらも彼は分析と言う名の思慮に耽っていた。

「それで、その穴とやらはどこに?」

「……その前に、器が見たいの。連れてってくれる……?」

レヴィの言葉に【敗者】はゆっくりと頷き、立ち上がった。

「いいだろう」

クリーンルームへ向かう間、二人に会話はなかった。
【敗者】は下を向きながらゆっくりと歩き、レヴィはそんな【敗者】をじっと見つめるだけである。

研究室の近く、電子鍵と物理鍵で厳重に施錠された部屋を開けると、二人は部屋の中に入っていく。
【敗者】は大きな灰色の円柱系の機械の前に立つと、レヴィにこれだと言わんばかりに目線を送った。

「これが器……?全然見えないんだけど」

「当然だ。如何なる外部からの障害から干渉されないように完全に隔離している」

しかしそこに器があると示すために、ディスプレイを開き内部データを表示した。
確かに、レヴィがアークス研究同好会で見たルーサーのデータと類似している。
ようは、そこには人間の身体のみがあるわけだが……

「では、そのトリリオン情報体とやらを出してもらおうか。体に入れるのはもちろんだが、研究する必要がある」

そう言うと、レヴィはキョロキョロと周りを見渡した。
この視線の動かし方、どこでもない場所を凝視するさま……
【敗者】は酷い既視感を覚えていた。

「えっと……待って。こっちの"方向"じゃない。たしかこっちに……」

「……」

これは正しく、初代クラリスクレイス――アルマとそっくりだ。



幕間⑭(1)

 

 ――虚空機関本部 特別研究室

虚空機関総長ルーサーがその部屋の扉を開けると、ベッドの上にはとある女が座っていた。

 

初代クラリスクレイス、アルマだ。

それももう余命も短い。

しかしアルマは治療だとかそんな甘ったるい出来事の為に来たのではない。

ルーサーとの取引を果たす為にここへ来たのだ。

 

「よく来てくれたね、クラリスクレイス。

君のアークスを守ろうというその誉高き精神、まっこと称賛に値するものだよ」

 

「……」

 

片目が隠れた金色の長い髪、ルーサーを敵視するように見つめる冷たい瞳。

これ程嫌われているのは彼にとって想定通りだが、別に構わない。自分に対する評価など興味ない。ルーサーが求めているのは、その特異性のみ。

 

「まずは、だ。比類なきフォトン適性を持つテクニックマスターであるその体を解析する前に、君から色々と話を聞いてみたいんだ。

暫くは、痛い思いはしないはずだよ。

かといって、もし君がここから逃げ出す事があれば……」

 

「逃げない」

 

アルマがようやく口を開いたかと思えばそれだけだった。

ルーサーはその言葉にニッコリと怪しく笑みを浮かべ、ベッドに近付き……近くに置かれた椅子に座って、至近距離で彼女を眺めた。

 

「その言葉が本当であるなら、僕にその姿勢を示し続けるといい。

さて、話を戻そう。カスラが、君に対してとても興味深いことを言っていた。……"マジック"に関してだ」

 

「ッ!」

 

アルマはアークスという人造人間でありながら、特別な力が使える。

ルーサーの知る中で、特別な力を持つフォトナーは女神や男神などと言われ崇められてい

た。

アルマのマジックにその力との類似性があるのかは分からないが、だからこそ、アークスという身でありながら桁外れな力を持つ彼女に興味が湧き、それを手に入れたいと思ったのだ。

 

「アークス共はどうやら、その存在を認知出来ないようだが……僕は違う。僕は君に特別な力があると分かっている。カスラが認識するよりも先に、僕は君の特異性を理解していた。もっとも、それを非科学的魔法(マジック)と名付けたのは彼だがね」

 

「……残念だけど、それはわたしにも説明出来ない」

 

「完璧に説明しろとは言わない。君の人となりやその感覚、思考、そして肉体……それらを紐解いて、僕が分析するだけだ。

一応言っておくが、君はただ僕に協力しに来たボランティアという訳では無い」

 

それははっきり言って脅迫だ。

言える事は全て言う、やれるべきことは全てやる。

それが出来なければ、【巨躯】戦争で壊滅の危機に陥っているアークスを、完膚なきまでに叩きのめす。

そういう意味合いだ。

 

「アークスのために、その身を全て捧げる……そのためにここにいるんだ」

 

「……うん」

 

「さて、まずは君の体に器具を取り付けようか。痛みはないさ。ただ、君を分析したいんだ」

 

アルマがそれに同意する前に、ルーサーは直ぐに器具を取り付け始めた。

それは頭や腰、手首や手足の指などに次々と装着していく。

さながらフルトラッキング用のデバイスだ。

極めつけにと彼はアルマの目を覆うように透明なグラスを付けた。

 

「……」

 

器具の装着が終わるとルーサーはすぐに椅子へ戻り、アルマへ向けて説明を始める。

 

「部屋にカメラがあるだろう?それらと連携して、君の視線の動きや体温の上昇、指の動きなど全てを正確に計測出来るようになっている。

だから、本当に痛みはないよ。リラックスしてもらって構わない。

それで、マジックについてなんだが。この場で見せることは出来るかい?」

 

「得意技、でいい?」

 

「あぁ。今回は、それだけで構わないさ」

 

「分かった」

 

アルマはそう言うと目を閉じ、手を合わせるように叩いた。

パン、という破裂音の後、アルマは一瞬にしてベッドから降り、ゆったりとその場に佇んでいた。

 

「おぉ……素晴らしい……。転移の痕跡がない。数値上にも出ていない。しかし君が力を使ったことは明確に分かる。これは非常に興味深いものだ。それこそ、女神や男神の力に値するものだろう……」

 

ルーサーは直ぐに端末を開き、一瞬の間に何が起きたのか解析を始めた。

そんな中アルマはすぐにふらつき、ベッドに倒れ込むことになったのだが……ルーサーはそれよりも示された記録の方に夢中になっていた。

しばらく見ると、ルーサーは現在のアルマの状態を改めて確認した。

彼女のバイタルを眺めていると、アルマの視線がどこか変な場所にあることにルーサーは気付く。

そこは窓もなければ模様もない。もちろんルーサーもいない、ただの真っ白な壁だ。

 

「クラリスクレイス。壁を見ているのかな?」

 

ルーサーがそう声をかけると、アルマは首を横に振って、ゆっくりと視線の先に指を向けた。

 

「あの方向……。ルーサーには、見える?」

 

「あそこに、何があるのかな?」

 

その言葉に、アルマは少し視線を下げた。

心境としては、期待外れ……と言うのが一番近いだろう。

ルーサーは現在生存する唯一のフォトナーと言われる存在だから、アルマの中でも「もしかしたら特別かもしれない」と思っていたのだろう。

しかし、ルーサーのその一言はアルマを落胆させるには十分だった。

彼も"それ"が見えないのだと察したのだ。

 

「フォトナーでも、見えないんだね。えっと……まあ、うーん……うん。こんな感じ、かな」

 

アルマはルーサーが喋る前に口を開き、サッと手を伸ばした。

その手は空を掻いただけのように見えたが、拳を握るとアルマの手の内には確かに何かがあった。

アルマは腕を引き寄せ、手を開く。

よく分からない素材で出来た、キューブ状の何か。

 

「……ッ!それは?」

 

ルーサーがパッと見た限り、色・形状と硬い素材であることくらいしか分からない。

アルマはそれを指で掴んだ後、フォトンを泳がせ、コーティングするように包み込んだ。

 

「えーっと……名前が無いから、よく分からない。……よく分からないし、説明もちょっと上手くできない…わたし、学者でもなんでもないから」

 

アルマが手を離すと、フォトンによって覆われたそのキューブはその場に留まり空中を漂っていた。

 

「それは一体どういう事だ?」

 

「ルーサーなら、わかると思う。なぜわたしたちはこうやって地面に立っているのか、なぜわたしたちはこの空間で生きられているのか、なぜわたしたちは病気になって死ぬのか……そういうのって、当たり前の物理法則として名前がついているよね。ここには重力があり、わたしたちは肺で呼吸をしており、ウイルスの侵入によって人は病に侵される。

それらには、それらの現象を決定するための"名前"がある。それは昔のわたしたちの遠いご先祖さまが、その現象に名前をつけたから。

だから、名前の無いものに名前を付けることも、説明することも難しい。わたし、作家じゃないしね」

 

「……成程。名前が分からないというのは構わないが……一体どんな性質の、どんな効果を持つのかな?」

 

確かに、名前の無いものに名称を聞いたところで意味は無い。それにアルマは動かし方や使い方は分かっていても、これがどういう理屈で動くものなのかもほとんど分かっていなかった。

 

「これは……わたしたちの世界で言うと、携帯端末に値する物かな」

 

「ふむ。携帯端末、と。実際にどのように運用するんだい?」

 

「起動してもわたしたちには見れないよ。ここに、ポツンと点が出来るだけ……」

 

今までのアルマの言葉から総合すると、ルーサーはそれがどこからもたらされた物なのか、アルマにどんな力があるのか……それを察することが出来た。

 

「……高次元からの干渉、かな?」

 

アルマの言う方向や点というのはベクトルに関連する話だろう。

それがルーサーからして点と認知されるものになると、自分の認識では線ではなく点としか認識出来ないもの……つまるところ空間次元の問題になると考えた。

 

「うん。ここは"低い"から、あっちの技術の物はこっちに映らない。ふわーっとしてて……えーっと……本来なら、こう、ぶわーっと広がるように動くの」

 

「広がる……とは?」

 

「わたしたちの知ってる端末って、こう、……板みたいに、目の前に出てきたり、実機で操作したりするでしょ?でも、違うの。ぶわーって広がると、ばばばってなって、それでもわもわーってなるの」

 

「……一体それで、どうやって操作するんだい?」

 

「操作、って言い方は変かな。伝播するの。水滴を落として波を作るように、動きを伝播させる。その水滴は、……こう……ビビッ!と……頭、いや、頭じゃなくて……こう、わたしたち自身が発する、みたいな……」

 

ルーサーはただニコニコと笑みを浮かべながらその話をゆっくり聞いていたが、心の中では頭を抱えたいと思うほど訳が分からなかった。

 

「……」

 

「第六感って、分かる?こう、五感では捉えられないような非物理的な感覚。あれって、内面的なもの……つまり、自分の中の何となく、みたいな感じでとらえてるけど……本当は違うんだよ。

みんな、ビビッとして、繋がって、……それでね、位置がズレてる人が、それを感知するの」

 

これでもアルマは身振り手振りを用いて必死に説明している方なのだ。

ルーサーもそれを出来る限り汲み取ろうと単語一つ一つをきちんと聞いて解釈しようとしているのだが、それでも何が言いたいのか、数学的な理論として一切繋がらないのである。

 

「ふむふむ……なるほど。君が人知を超えるとても超越した思考を持っている、という事はよく分かった。ありがとう、クラリスクレイス」

 

「……」

 

アルマもさすがにダメだったことを察し、動きを止め手を下ろすとルーサーが感情を見せることもなく淡々とメモを取る様を見守っていた。

 

「君は、そういう高次元的なものを理論的に理解出来ているのかい?」

 

「理論じゃないよ。……見たものを、見た通りに言ってるだけ」

 

「なら、マジックはどうだい?同様に説明できるかな?一体何をして、こうなっているのか……」

 

「その……なんというか、ふわわーってなってるものを、ギュッギュッてすると出来るから……」

 

「フォトンを集めて、それをある一定の効力を持つ独自の力にする……と?」

 

そうしてまたルーサーに問いかけられるとアルマは身振り手振りを使いながら説明し始めるものの……

 

「えっとね、その……方向性はあってるけど、けど違うの。

テクニックはこう、ガシッとして、グイーンッ……って感じのものなんだけど、マジックはぐにゃにゃにゃにゃ〜って感じで……こう、それでね、ぐにぐにーってすると、こう集まってきて……パンッ!てやる。

フォトンって、力だけじゃない。もっと自由なものなんだよ」

 

「なるほど。いや、なるほどという言葉は相応しくないか。……全くと言っていいほど理解出来ないな」

 

ルーサーにはやっぱりこの説明では分からなかった。

 




 ――【敗者】はそんな過去の記憶をぼんやり思い出していた。
彼女はレギアスに対し恋愛感情を抱いており、電波でありながらも人を良く思い、皆のためにと考える吐き気を催すほどの善人だった。
【敗者】はそんな彼女を陥れ、体を解剖し、身体中にチューブを刺した跡が残り、薬品によって足先が変色した彼女の死体までもしっかり目視していた。

そんなアルマよりも都合のいい駒が【敗者】の目の前にいた。

レヴィは彼の考えなど露知らず、キョロキョロと辺りを見渡す。

「あっ、あった。ちょっと水槽とか……いや、このポッドでいいや」

透明な空のポッドの上蓋を開き、ふちによじ登って手を差し出す。
一瞬、レヴィの手首から先が消えたかと思うと青く光る液体が何も無い空間から溢れ出してきた。

「ッ!な、……何だこれは……未知の事象、だと……?!」

「……」

【敗者】は慌ててモニターを開き、目の前の液体の簡単なデータを確認しようとするが並ぶのは不明の文字ばかり。
レヴィは高さ3メートル程の円柱型のポッドに液体がどんどん満たされていくのをじっと眺めながら、ボソリと独り言を呟いた。

「ん〜……6800人くらい、かなぁ……」

「物質の構成要素の多くが不明……こんな物、本来は実体として存在することは出来ないはずだ……一体どうやって?なんなんだこれは……一体、なんなんだ?!」

【敗者】はこの場の解析では一切分からないと理解した。
本気で調査するなら、もっと高度な演算装置が必要だ。それこそ、オラクル船団の全管制と演算を担う、マザーシップのソレとか……

そういえば、と【敗者】は思い出した。
解析の結果、レヴィの脳は同時並行処理能力は異常であっても知能指数や他の脳の処理能力に関しては特に異常がなかった。
実際彼女のアホさを見たらそれ自体は正しいのだろう。
しかし、同時並行処理能力が高いというのは一体なぜなのか。
その負荷は感情を持ち、肉体を持ち、自ら思考する人間では耐えられない。なんなら、そんじょそこらのコンピュータですら同時起動で計算が遅くなるのは当然のこと。
レヴィにはその節が見当たらない……その原因を探していたがまだ分からない。

そしてまた謎が増える。
【敗者】からしたら二つの意味で悲鳴ものだ。

「トリリオン情報体。それは超低温の環境下に生息する生命。この液の中にわたし達はいないみたいだけど、これはわたし達と同じだよ」

「僕たちと……同じ……?」

「ただ、表現するための軸が少し多いだけ。肉体や電子の結合が曖昧で、液体と言う名のインターネットで繋がれた、集合意識のような生命体」

「チッ、統一ネットワークか……また懐かしい物を」

「フォトナーが計画してたの?」

「あぁ。そういうプロジェクトが存在していた。そのせいで惑星三つほど、実験で消滅したがな」

フォトナー時代、その類の統一ネットワークや超越した同一個体の生命を作り出す計画がいくつもあったことを思い出す。
しかし結果は全て失敗だ。
ヒトに感情と言うものがある限り、統一することは不可能で、ロボトミー実験などで感情を排斥した場合知能が著しく低下しまともに人として使えなくなる。
そして一つの高知能な生命を軸にするという案に関しては、選民思想が強くフォトナーを排斥しようとした為、死の恐怖から討伐される事になり、成立しなかった。

「ふぅーん……ま、じゃあこれは成功例って事で……」

レヴィはフォトナーの時代にも居ないはずだし、フォトナーも知らないはず。
そんな彼女がさも当然かのようにオラクルにない統一ネットワークの思想を理解しているというのは、【敗者】にとって不思議でならなかった。
何よりアルマと同じマジックユーザーだというのに、高次元に対する理解自体は彼女より上な気もする……

「……貴様は一体何者だ?」

「なんて、言って欲しい?最弱のアークス?それともダークファルスの仲間?それともデューマン?それとも……」

「違う!貴様のソレは人の器に収まっていいものではない!それは数多のフォトンを内包し、超越した思考を持ち、高度な計算を行う……それこそ模倣シオンのようなものだ!貴様は一体何の目的でそこにいる!
なぜそれほどの力があってフォトンが使えない!
誰に造られ、誰がそうした!
シオンか?!シャオか?!それとも……それとも誰だ!フォトナーか?!」

「そ、……そんなこと言われたって!わ、……わたしにだってわかんないよ……!!」

【敗者】は思わず彼女に詰め寄って肩を掴み、怒号を上げるが、レヴィが驚いて怯える様子を見て恐る恐る手を離した。

「っ!……いや、……すまない。少し冷静さを欠いていた。責めようとしたかった訳じゃない……」

レヴィは肩を竦め、辺りをキョロキョロと見渡しながら一歩後ろへ下がった。

「わたし、……普通に、親の腹の中から生まれたの。だから、造られたとかそういうの……全然わかんない……」

「……やっぱり、貴様はもっと相応しいものを手に入れる必要がある」

「へ?」

【敗者】もおかしいと思ったのだ。
こんなにポテンシャルがあるのに、最初に会った時他のアークスとあまり力は変わらないどころか、むしろ弱いなんて感じたのは明らかにおかしい。
彼女の雰囲気の異様さ自体はあったものの、今ほど明らかに分かりやすくおかしいなんてことは無かった。

「貴様の現在の状態は、自分の体にリミッターを掛けて、抑えているとしか思えない。その素養に相応しき器と、核を手に入れれば、比類なき存在になれるはずだ」

「はぁ?わたしは最初から人なんだよ?何を根拠に……」

「貴様は気付かないのか?最初に出会った頃より、明らかに強くなっているだろう?
それは戦闘訓練だとかそういうもの関係なく、意志の問題としてだ」

彼女は自分の特殊さを忌むべきもののように振舞っているが、本心では自分をさらけ出そうとしているのではないかと【敗者】は感じていた。
それをレヴィを取り囲んできた環境と彼女の肉体が抑え込んでいるというのなら、彼はそれを全て解放する役目がある。
全知のため。
アークスへの復讐のため。
レヴィを"オラクル船団"と戦えるようにするため。

「……!」

「出会ってからまだ一年もない僕ですらこう感じるんだ。もっと昔……一年前、五年前、十年前と比較すれば、その成長度合いは歪なほどにまで上昇しているだろう。
それこそ正しく、無意識の内に己の体にリミッターを掛けている状態だ」

「なるほど……それを解放すれば、もっと力が……」

「それこそ、ルビィを殺せるほどの……」

レヴィは自分の中に力への渇望が蠢いていた。
自分が生まれてからずっと求めていたものだ。
力。誰かを屈服させ、誰かを殺し、誰かに屈辱を味わせ、そして【敗者】を守るための力。

「ほしい!」

「ふふ……」

レヴィの機嫌も直せて【敗者】は満足し、ゆったりと自分の顎を撫でていた。

「それで、だが。先程の話に振り返って、改めて聞きたい」

「改めて?何を改めるの?」

「この液体についてだ」

透明なポッドの中では未だに液体が薄く青光り、レヴィがポッドをコンコンとつつくと怯えるように波打った。

「うーん、何も改めてないし何も振り返ってない……」

「これは、本当にマジックなのか?僕にはどうもそうは思えないんだ」

【敗者】はマジックを使えない者としては、よく観察出来ている方だろう。
だからこそ、「マジックユーザーは高次元干渉ができるのかもしれないが、それが直接マジックの能力として成立する訳ではないのでは?」という彼の中の思考はレヴィに疑いの目を向けた。
現にレヴィとアルマのマジックの能力にはだいぶ差がある。現状判明している範囲でもレヴィは脳内で明確なイメージを作ることが条件であるように、マジックユーザーはそれぞれ一定のルールや思考の条件があるように考えられる。

だからこそ、"高次元への干渉"という全く同じ能力が"被っている"というのは非常に珍しい事なのだ。
レヴィとアルマはそのルールや思考の条件は完全に別なものなのに、その力だけ一致することなんて出来ないはず。
高次元への干渉方法が別ならまだ考えものだが、【敗者】には現状どちらも同じような物に見える。

だからこそ高次元干渉というものはマジックではなくまた別の、超常能力を扱える者特有の素質なのではないかと考えていた。

「マジックと超能力は、別なんじゃないか?」

「わかんない。マジックの定義も、それ以外の超能力の定義も、曖昧だから」

はっきり言って、レヴィは自分のことをそこまで語ることは出来ない。
【敗者】とは違って自分以外のマジックユーザーを見たこともないし、ルビィの時間遡行がマジックであると言われたとしてもレヴィにはそれを観測することは出来ない。
そして他者とは違う、という心理的なブレーキも掛かり……レヴィは曖昧な言葉で濁す事しか出来なかった。

「そうか……しかし、肉体の構成自体にそこまでの事を成し遂げられる程の異常はないんだ。
ふむ。となると、僕が貴様の魂を蝕み、依代にすれば、分かるかもしれないな」

「わたしには乗り移れないの?今のあんたは器に入ってるんでしょ?ならわたしに乗り移るのも同じだと思うけど……」

「それは、僕がアルマを依代にしなかった理由と同じだ」

「……?」

アルマのフォトンへの高い理解力とフォトン適性は、アークスの中でフォトナーに一番近いと言ってもいいだろう。
だが、【敗者】はアルマではなく初代カスラを器に選んだ。
それはカスラが同性であり、尚且つ面倒で害のある存在と考えたのも理由の一つだが、そうであったとしても優秀さ自体はアルマの方が上だ。
病弱さに関しては器の損傷具合を加速させるものではあるが、ダークファルスにとってはそんなもの屁でもない。
が、それでもアルマを選ばなかったのである。

「僕の憑依によって、特異性が消滅するかもしれないと考えたんだ。だから僕はあくまで観測と分析のみを行っている。データにノイズを入れたくないんだ」

高いフォトンへの親和性がダーカー因子の侵食で失われるかもしれない。純度の高い独自のフォトンを扱えたからこそマジックが使えるのかもしれない。
そう考えると、マジックを喉から手が出る程欲しがった【敗者】にとって、ダーカー因子という大きなノイズを入れる事はリスク以外の何者でもなかったわけだ。

「なるほどね……」

レヴィは【敗者】の言葉にうんうんと頷くと、ゆっくりと足を踏み出しポッドから離れていった。
そしてある物の前に立つと、【敗者】の方に振り返る。

「で?」

二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。

  • 続編として作品を分ける
  • 分けないで一つの作品でまとめる
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