――朝。涼やかな冬の朝は、珈琲の芳醇な香りと【敗者】の美麗な顔から始まる。
もはや当たり前となったレヴィの日常だ。
一年前の自分が今の自分を見たら可笑しい夢を見たように受け取るだろう、なんて思いながら、レヴィは朝食に手を付けていた。
器を変えたてなのもあって、栄養はちゃんと取りたい。朝だというのにブランチかバカのビュッフェかというほど大量に用意された食事にむしろ嬉しいと言ったような態度で向き合っていた。
「あのさ、質問なんだけど……」
「ん?どうしたんだ?」
【敗者】は相変わらず少ない量をレヴィに合わせてゆっくりと食べていたが、レヴィに話しかけられるとすぐ顔を上げカトラリーを持つ手をピタリと止める。
「ダークファルスが依代に憑依する時って、人間側が寝てる時にやるの?」
「ん?そういう訳では無いが……」
【巨躯】復活の時も【敗者】憑依の時もレヴィは完全に寝ていたので、ダークファルス復活の場に居り、彼らと交流していたというのにその事情を全く知らなかったのである。
「じゃあどうしてわたしを寝かせたの?」
「あぁ、万が一のことを考えて生命維持装置に繋ぎやすい状況にしたかったんだ。次回からは要らないだろう」
「へえー……。【敗者】が憑依してるとこ、見てみたかったな」
「見たいのか?いいだろう」
「え?」
てっきり断られるかと思っていた……いや、それどころか断られて当然だと思っていたので、【敗者】の平然とした肯定に思わず驚きレヴィはピタリと動きを止めた。
「ちょうど、器を変えようかと検討していた所なんだ。食事が終わったら見せてやる」
「わっ!……ほ、ほんと?!見る見る!」
食事も後回しで構わないとでも言いたいのか大きく口を開けぱくりとフルーツを食べる。
レヴィは好き嫌いが結構激しいが、ジャンル丸ごと嫌うといったパターンが基本なので傾向さえ固めれば好き嫌いを感じさせないほど色々と食べるのだ。
今日は試すように季節無関係に色々なスイーツを用意されていたが、それでも文句なく全て美味しそうに食べている。
「材料は全て新鮮な物を選んだが、不満はないか?」
「うん、この白いの美味しいね」
「ドラゴンフルーツか。ザクロ……、いや、これはどうだ?」
「これは……ぷちぷちしてておいしい」
【敗者】は頭の中でレヴィの食べられるものにチェックマークを入れていた。
まあ普通に考えれば、こんなものよりマジックやフォトンアレルギーの研究の方がよっぽど大切なのだが、グラン類似エネルギーの事を考えれば彼女の幸福を優先することには意味がある。
「【敗者】も、これ好き?」
「ダークファルスは不滅の存在。栄養摂取など必要ない」
「じゃあ、嫌い?」
「不必要だと言っているだけだ。好きとも嫌いとも言っていない」
【敗者】の回答は事実として間違ったものではないのだが、レヴィが気に入るものではなく。
「……むぅ」
ごくり。飲み込んだあとにぷっくりと頬を膨らませ、レヴィは【敗者】を怪訝に見つめた。
「だったら何が好きなの?」
「僕の好き嫌いが貴様に何の関係がある?」
「あなたのこと、知りたいの」
知識欲を持ち出されては【敗者】も拒否し難い。レヴィの丸い瞳がさらに彼をふんわりと柔らかく見上げると、彼は小さくため息をついて肘を着き、頬を歪ませた。
「食べ物の好みなんて、貴様しかない」
「はっ?わたし……食べられないよ?」
「言っただろう?食事はダークファルスである僕にとって不必要な娯楽だ。だから、食べる理由は貴様のわがままであり、好みがあるとすれば特定の食物ではなくそれそのものだ」
【敗者】はしかめっ面だったが目はレヴィから一切動く事はなく、テーブルに並ぶ玉石混交の食物には興味ないという彼の言葉を目線でも伝えていた。
「……じゃあ、これもみんな好きなんだ」
レヴィはゆっくりと視線をテーブルの上に並ぶ彼いわく栄養達に目を向け、じっと眺める。
レヴィはこれらの食品を食品として認識出来ない彼のスタンスがよく理解出来なかった。
彼にとってこれらはどのように見えているのだろう。自分にとってのなんなのだろう。
レヴィにとっては不思議で仕方なかったが、同時にそれを拒絶しようという気持ちにはならなかった。
「じゃあ、今度わたしがご飯作ってあげよっか?」
レヴィはおどけた声で笑うと、【敗者】も思わず口角が緩んだ。
「貴様に料理が出来るのか?」
「お茶くみくらいしかしたことないけど、やるなら勉強するから」
「今度はシェフ志望か。底知れないものだな、貴様の好奇心というやつは」
「あんたがそれ言う?宇宙単位で好奇心旺盛なくせに」
「それを言われては返す言葉もないな、ふふ。」
【敗者】はレヴィの楽しげにしなる指とカーブを描いて三日月に結ばれる瞼を眺めていた。
「まだお茶が必要なのか?」
「んー?」
「食べ終わったなら、行こうじゃないか」
「あぁ、そっか。じゃ、行かないとね」
果物の皮や肉の骨を残して空になった白い皿に背を向ける。
レヴィは【敗者】に導かれるまま部屋を出ていくと、ワゴンを持ったシャーロットとすれ違った。
血縁上親子関係とは思えないほど冷めきっている上、互いに互いが親子だという認識は一切無かった。
だが、二人にとってはそれでよかったのだ……
――クリーンルームはたった一日の間に真白く清掃されており、部屋の中には器のひとつもなく資料のひとつも置いていなかった。
「それで、器……変えるんだよね?」
「あぁ」
【敗者】が空中にディスプレイを表示させ、軽く操作する。
するとそこに、レヴィにとっては酷く懐かしさすら感じる……ルーサーの器があった。
「わ……」
閉じた瞳と長い睫毛、整った顔立ちに、太く長い首と……そしてニューマン特有の長い耳。
薄青の髪は内部を満たす液体の動きに合わせて揺らめき、レヴィを見下ろしていた。
あのチームルームでレヴィを魅了してやまなかった、人形だ。
「貴様の話が正しければこの体に魂は無いはずだが……。今の僕はダーカー因子の集合体でもその残滓でもなく、依代に憑依したダークファルスだと言える。非常に奇妙な現象ではあるが……
いや、愚昧だな。その原因がなんであるかは明白であり……レヴィ?」
「……」
レヴィは何も言わぬまま、その器をただじっと眺めていた。
ある意味、普通の顔だ。
光り輝く訳でもなく、花が咲き乱れる訳でもなく、そこにあって当然の、普通のヒトそのもののような面立ちのただの少女だが、それこそがまさに奇妙で。
その世界にいてなんらおかしくない、目立つこともない見た目なのに何故か違和感を覚える。
そして、不思議と彼女の瞳からは不気味さと共に孤独さが漂っていた。
「【敗者】って……」
レヴィはぽつんと言葉を零した。
続きを言うことはなく、言葉の全てが空気に消えていってもただ目の前の器から目を離さなかった。
「貴様はあのチームに居た時も、そうやって見ていたのか?」
「まあ。……そうだね」
「そうやって……」
レヴィの目はとろんと甘く和らいでいた。
小さな背中は孤独で、寂しげで、しかし目の前にある器を酷く渇望し、恋焦がれていた。
「……」
「【敗者】?……あっ、ごめん。見てても進まないよね」
【敗者】の視線にレヴィは己を取り戻し、自分の両頬をぺちんと叩くとゆっくり深呼吸した。
「ちゃんと見てるから。何時でもやっていいよ」
「あぁ」
【敗者】はレヴィの目をじっと眺めた。
先程のような強い渇望は感じられないが、代わりに目を合わせるとその奥から包み込むような何かが感じられる。
目の前の希望を守りたい、なんていう望みなのかもしれない。
そんな視線を浴びながら、【敗者】はレヴィが凝視していたポッドへ手をかざした。
その封印が解け、器は肉体となって姿を表すと、【敗者】はゆっくりと手を下ろし、器に向けてかざした。
ただそれだけの動作で、彼を構成する莫大な量のダーカー因子は器に注がれていく。
「んー……」
器は赤黒いオーラを纏っていたが、レヴィはそれを見て眉を顰めた。
流れが見えない。何のエネルギーがどうやってどこからどこへ移動しているのか。それが見たかったのだが、今の彼女の視界には始点と終点がダーカー因子に包まれていることしか分からなかった。
だからレヴィは【敗者】から目を逸らし、キョロキョロと辺りを見渡した。
見えて欲しいタイミングで"アレ"が出てこない。
レヴィの眉は更に皺が寄り、拳には自然に力が入った。
(出てこないなら、出すしかない。でもどうやって……)
そうやって考えている間にも、【敗者】の力はどんどん移動している。
このままでは完全に見逃す、とレヴィは一人で追い詰められ、迷った末にキュッと目を閉じた。
そこに元からあるものが視界に映らず認識できないというのなら、見えない視界は間違ったものでいらないものなのだ。
だから正す。
瞼の中の真っ暗な景色の中で、レヴィの他の全ての感覚はソレが何処にあるかを微細に感じ取り、少しずつ示していた。
頭の中で思い浮かんだ具体的な視界のイメージがある一定の方向を示すと、レヴィは瞳を開けて直ぐに振り向く。
そこには己の求めていた理想の景色が映し出され、空間の切れ目から覗く世界の中では、赤い光線が絶えず揺れ動いていた。
「なるほど……流れがくっきり見える……そういう感じか……」
ここまでにだいぶ時間を使ったせいで観測出来た時間は五秒もなかったが、レヴィが都合よく解釈出来る分の知識量にしてはちょうど良かった。
「……」
【敗者】の元の肉体はダーカー因子が無くなると共に糸が切れたかのように全身から力が抜け、ふらりと倒れ込む。
一方器の方では元の【敗者】の気迫をそのままに、ゆっくりと目を開き立ち上がった。
裸体の肉体にフォトンを纏い物質化させ、あっという間に服を着ると己の体を見渡す。
「……よし、完璧な出来上がりだ。調整の必要も無さそうだな」
【敗者】の言った通り、彼の今の新たな肉体はディナンが作ったクローンの器よりももっと自分に馴染むものであり、体も軽く感じた。
しかし容姿はそのまま。
レヴィは彼の大きな背丈を見て、思わず自分の胸をなぞった。
すかっ。やっぱりない。
「あんたは容姿変えないのね……あっ、そうだ」
「ん?」
「変装を新しく作りたいからさ、わたしの器のデータくれない?」
新たな変装に関しては元から予定していたことだが、今この瞬間のレヴィの欲望はまた別のところにある。
【敗者】がどういうプロセスで器を入れ替えているのか観測出来たのだ。
今のレヴィにはそれを試したくて仕方ない。
「あぁ、好きにするといい。保管部屋の鍵も渡しておくよ」
「ありがと!」
【敗者】が端末を通してデジタルキーを渡し、レヴィがそれを確認すると彼女はすぐに背を向けた。
しかし、【敗者】は端末から手を離し彼女の肩を掴む。
「おっと、説明の必要がある。一人で行くんじゃない」
コトンと音を立て床に落ちた彼の端末が倉庫に仕舞われる。
【敗者】は咄嗟に彼女の体を掴んでいたが、よく考えれば体に触れてまで止める必要は全くない。説明不足で困るのは彼女だ。
【敗者】は彼女のキョトンとした丸い瞳に見つめられると、自分が間違った行動をしているのではないかと不安になった。
自分らしくない、という自覚はあったのだが、反射を止める手段がない。
「あっ、そっか!じゃあ一緒に行こ!」
レヴィはそんな【敗者】の気持ちも知らず笑顔で微笑むと、【敗者】の手を取り、二人で隣の部屋……【敗者】曰く保管部屋に入る。
沢山の保管容器が整頓されて並ぶ、分かりやすく倉庫だ。
そして入口のすぐ側にはいくつか情報端末が置かれていた。
「この情報端末には貴様の器のデータが入っている」
「ふむふむ……」
「それから、そこの端末は器のスペアを管理するためのものだ。現状15体は用意しているが、製造コストもそれなりにかかる。無駄遣いするんじゃないぞ?」
「そのうち一体を無駄にした奴がなんか言ってる」
「あれはあくまで試作品だ」
「はいはい、御託ばっかで飽きないねほんと」
レヴィは【敗者】に導かれるがまま情報端末に触れ、中身を色々と眺める。レヴィの器はもちろんのこと、【敗者】の器や、シャーロットの器まであるようだ。
その中で、興味本位に自分の器のデータを開いてみた。B2とナンバリングされたそれの肉体のデータは髪の毛の本数まで記録された完璧なデータであり、ありとあらゆる部位の数値が詳細にまで載っている。
そこで、レヴィはある部分に視線が向いた。
「ん……?これって……」
「レヴィ?」
「なーんだ!あるじゃん!」
「レヴィ……はっ!まさか……」
【敗者】は画面を覗き込み……動きがピタリと止まった。それに対してレヴィは目を輝かせ、嬉しそうに端末を操作する。
「見っけた!……元の体に一番近いやつ!
つまり……巨乳ボディ!!」
レヴィは慌ててその場から走り出すと該当する容器の前に立ち、器を取り出す。
レヴィの知るとおりの肉体、元の大きな胸の体が彼女の前に仕舞われていた。
「クソッ、気付かれたか……」
【敗者】は顔を顰めつつも無理に止めることはせず、レヴィの傍に寄ると器を見下ろした。
レヴィは器を眺めながら、見よう見まねで手をかざす。
「えーっと……【敗者】が体を移す時はこうしてたよね……?」
何となく内側から力を出して見ようとするが、ただそれっぽいポーズを取っているだけである。
グラン類似エネルギーとやらがあるはずなのに、全く出てこない。
【敗者】のそれを観察したはいいものの、結局のところ何を出して、どうやって、どこに向かわせればいいかが見えなかった。
「レヴィ。憑依というのはそんな簡単な物じゃないんだぞ?そもそも貴様はダークファルスではない。侵食という性質を持つダーカー因子と違うんだ」
「たしかに……上手くいかないね」
肉体を移し替えるというフォトナーの技術、ダークファルスの依代への憑依の技術、これらは似ているようで違う。
確かにレヴィの移行方法はダークファルスのソレに近いものだが、感覚も分からない中【敗者】の助けなしに成し得ることはできない。
性質を利用した憑依……グラン類似エネルギーであれば祈りを利用するというのなら、大きな祈りを維持するための集中力というのが必須になるからだ。
こうやって曖昧に試行錯誤している中で、同じ事を考え続けることは難しい。
「あぁ、だから……」
だから一人では出来ない、と【敗者】は言おうとしたが、彼女の目を見て思わず言葉が消えていった。
レヴィは諦めていなかった。
「じゃあ……そうだね……」
レヴィは考えた。
【敗者】の補助で上手くいったのは何故か。
彼が最後のフォトナーであり、今では失われし高度な技術を多く持ち合わせる知識人としての経験や技術を存分に利用したからだ。
レヴィ一人ではそれを成し得ることは出来ない。
彼女は研究者でもないし、知識も酷く偏っている。
特に、エネルギー無関係のサイボーグ技術を追い求めてきた彼女にとってフォトンやダーカー因子のような特定の素粒子は真逆の分野であり、なんなら一番苦手まであるのだ。
なら考えなくてもいいのではないか、とレヴィは思考した。
フォトナーの魂の移動とダークファルスの憑依の技術が別にあるものならば、フォトンを持たない自分の体を移し替える術もまた別にあるのでは、【敗者】はただそれを見つけていないだけで、本当は今でもすぐにできるものなのでは、と考えたのだ。
となればどうするか。
目の前の器の中に自分の全てがあればいい。
考えるとすれば肉体という牢獄からそれ以外の全てを切り離す。
魂、力、記憶、そういうものを情報として切り離して、それを移し替えなければならない。
ダークファルスはダーカー因子が本体だからエネルギーを移し替えるだけで上手くいった。
フォトナーも内在フォトンに自身を構成するデータの多くを置いており、魂とフォトンさえあれば自我を保てるといっても同然だ。
レヴィはそうではない。それらのエネルギーとなる素粒子は彼女を構成する最低要素ではなく、ただのオプションだ。
(となれば、……移し替えるべきはエネルギーじゃない)
「……肉体の内部を移動させるのではなく、外殻となる器そのものを
それが具体的なイメージとして固まった瞬間、直ぐにそれを力に乗せて吐き出す。
かざした手を戻すようにギュッと手を握り締め、胸の前に置くと、レヴィが一瞬その場から消える。
「ッ?!」
しかし直ぐに彼女は現れた。
大きな胸で下着が外れ、シャツのボタンを吹き飛ばした状態で、レヴィはその場に立っていたのだ。
「わっ!む、胸が……わたしの胸が帰ってきたぁ〜〜!」
レヴィは喜びつつも窮屈な体を解き放とうと下着やシャツを調整し、胸元をはだけさせた。
楽しげに体を見つめ微笑んでいるレヴィの横で、【敗者】は今観測した現象をどう言葉にすればいいのか分からず顔をしかめる。
「本当に貴様はどういう思考回路を持てばそんな事が出来るんだ?」
顎に指を置き、ゆっくりと擦りながら、【敗者】はレヴィの捨てられた器をじっと眺めていた。
見る限り、移動は完全に成功しているようだ。
彼にとって奇妙なのは、レヴィが一瞬目の前から消えたことと、レヴィが器のいた場所ではなく元々自分が立っていた場所に器が変わった状態で立っていたことだ。
これではまるで……
「ん?あ、えっとね……エネルギーの移動だとその、照準が定まらなくて上手くいかないなって思ったの。だから入れ替えたの」
「入れ替えた?」
「今ここにいるわたしが目の前の器に入ったわたしで、いま目の前にある器が今のわたしの体で……みたいな感じ?そんな風にしたの。こう、えーっと……わたしに器をぶつけていらない部分だけ押し出すと同時に、位置をクルッてする……みたいな……」
「……頭の中で考えて、それを実践したのか?」
「うん、そうだよ。先にこうイメージして、その通りに動かしてみたの」
レヴィの言いたいことは分かる。
【敗者】も全く同じことを考えていたからだ。
この状態はまさに手品の一つのようで、普通の肉体移動の理論とは完全に違う。
だが問題はそこではない。原理くらい見れば分かる。どうやってやるかが知りたいのだ。
使うかどうかに関係なく、知識として知りたい。
と言っても、レヴィにそれを説明するのは難しいだろう、と【敗者】は察していた。
彼女の中ではきちんと説明した方なのだ。頭の中で工程を考え、イメージしたものをアウトプットした。彼女は本当にそれだけしかしていない。
【敗者】がするべきなのは、それをどうやって数学的な理論に置き換えるかだ。
「マジックというものは、つくづく都合のいい力だな。まるで、その時必要な条件を達成する為だけに存在しているように感じられる……」
「どういうこと……?」
「並列次元においても、マジックと同様の技術であろうものは存在している。マジックは、アルマの時間操作や貴様の運命改変などとは全く別のもの……とりわけ、迷宮や要塞……ダンジョンの攻略に関係のあるものだ」
「ダンジョンの攻略って、ゲームじゃないんだから……」
「いや、そのままの意味でゲームと考えてもらって構わない。そこにあるマジックは、今アークス達が利用している有属性のテクニック……フォイエやバータなどと類似したものから、エネミーとの会話、ダンジョンからの脱出、蘇生に解錠まで……その全てが閉鎖的な空間においての戦闘及び探索に利用出来るものだ。これは偶然ではなく、そういう"傾向"があると思わないか?」
「そういう、傾向……?」
「"意味がある"んだ。その世界ではダンジョンの攻略が必要とされた。だからそれに必要な技能を持つ者が存在した。オラクルでは、時間を操作できる存在が必要とされた。だから時間の停止・高速・減速のような時間操作や、世界をやり直すための時間遡行がマジックという技能として存在した。
そこにはある程度偏りがあり、僕の考察する"マジックは時間や空間に関係する"という仮説は、このオラクルにおいての話になる」
「時間だけじゃないの?」
「貴様は空間に干渉する力だろう?アルマも同様に、時間だけではなく空間に干渉している。むしろ、あのアークスが時間にしか干渉出来ない方がおかしいんだ。
必ず、何らかの手段で空間に干渉しているはずだ……。例えば、宇宙そのものに対する力だとか……」
「マジックって……そんなに大きな力なの?」
「無論、それほど大きな力を行使するとなると補助なしでは無理だろう。高度な演算装置の助けが必要になる」
「ふぅーん……」
レヴィは真剣そうな【敗者】を眺めながら、ゆっくりと壁にもたれかかった。
意味があるというのなら、自分のマジックにはなんの意味があるのだろう。
レヴィはそんな事をぼんやりと考えていたし、【敗者】は更にそれを真剣に考えていた。
(レヴィの力は空間に干渉するものが多い。そして、グラン類似エネルギーによる超常現象と混ざってマジックと奇跡がかなり曖昧になっている……。
しかし、これだけは言えるはずだ。
レヴィのソレは、世界ではなく、レヴィが必要とした時に答える。彼女の為の物であり、彼女が望むのであれば、摂理や法則をねじ曲げることになんの躊躇いもないと。
だが、だからこそ、なぜ彼女がマジックを扱えるのか……。仮にこの世界に神が居たとして、なんの意味があって、彼女にマジックを与えたのか。一体、それによって何をさせたいのか……)
「【敗者】?」
【敗者】はレヴィの後ろにある何か大きなものに圧倒されていた。
しかし、レヴィが声を掛けると、その大きな何かはあっという間に消えてなくなったような気がした。
「わたしって、特別なの?」
「特別も特別。特異体質の集合体だ」
「……それって、【敗者】にとって価値のあるものかな?」
【敗者】にとっての事実は間違いなくそうだが、そうとは言いたくなかった。
それはあまりにも、【敗者】に依存しすぎている。
彼女を望むようにコントロール出来るのはいいが、これではあまりにも不自由だ。
「貴様が望むように考えろ。それが僕の答えだ」
【敗者】の回答に、レヴィは頷いて納得した。
「なら、良かった」
【敗者】は頷くと、ようやく今のレヴィのみっともない姿に意識が向いた。
「さっさとそっちの器に戻れ」
「だってそっちはわたしの胸が……尊厳がないじゃん!」
「貴様如きが僕に指図するのか?」
「わたしの体はわたしの物なの!」
レヴィの胸はステータスの調整で豊乳したもの。本来の彼女の胸の大きさはレヴィも知らないが、どちらにせよレヴィの知ったことではない。
男を釣るため、都合よく行動するための胸だ。
【敗者】の性癖でそれを縮められるのは困るし、なによりレヴィはそれで生きてきたのだ。突然胸から数キロのダイナマイトおっぱいが消えたら誰の目から見てもおかしいと分かる。
「あと!ここ一日でめちゃくちゃ胸が縮んだとかジグにどうやって説明すればいいワケ?!遠征まではこれで行くから!」
レヴィは吐き捨てるように叫ぶと、着替えるためいそいそと部屋から出ていった。
「待てッ!……いや、それも一理あるか……二週間くらい居なくなれば胸が縮んだ言い訳にもなるはずだ」
胸のサイズに合わせて買い直した数百着の服のうち、ひとつが無駄になってしまった……
なんて思う間もなく、【敗者】はため息を着き捨てられたレヴィの器を保管容器に戻したのだった。
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
-
続編として作品を分ける
-
分けないで一つの作品でまとめる