――128番艦、テミス。
一言でいえばレヴィの職場。
レヴィは挨拶のためジグの武器工房に入ると、見慣れた赤黒のキャストの隣に、また女が立っていた。
「ごきげんよう、レヴィ様」
「はぁ」
「おはよう、レヴィ」
ジグは挨拶の後に、観察するようにレヴィを眺めた。
それもそうだろう。あんな話をしたばかりだ。
器のお陰で胸に違和感を持たれることがないのはいいのだが、多分それよりもずっと悪い違和感だ。
目の前に立つ存在がアークスに仇なす、ダークファルスの仲間だというのだから……
「おじさま?」
「あぁいや、なんでもない。そういえばレヴィ、件の事じゃが……」
「どう?」
「わしの専門分野ではない故、アドバイス出来る事は多くないが……業者への連絡くらいなら、出来そうじゃ」
「ふぅん……」
ジグに連絡したのは防具や戦闘衣の事だ。
【敗者】が戦闘衣を制作しているという話を聞いて、レヴィは自分でもそのようなものが出来ないかと検討していた。
何より、【敗者】用の武器……補助アクセサリは武器のカテゴリで考えるよりかは、戦闘衣のパーツのひとつとして組んだ方がいいだろう。
「なるほどね。こっちで検討するから、連絡つく業者全部リストアップしといて」
「うむ」
レヴィはそう言うと、すぐに踵を返し工房を出た。
隣にある自分の工房に入ると、制作中の武器を取り出す。
模倣サイコウォンド……ウォンドという名前だが武器種はロッドだ。
テクニックを行使するための物のため、レヴィは利用出来ないが、作っておいた方がいいものだ。
何せ、マザーシップで任務を行った時はウォンドからテクニックを使わずただ握っているだけだったが、あんな行為は何度も通用しない。
変装するにおいてニューマンという種族と法撃武器は"フォトンアレルギーが絶対に不可能な物"として最適なのだ。
だからテクニックは使えるようになった方がいい。だが方法は思いつかない。
その答えを出すのが【敗者】であろうがレヴィであろうが構わないが、その時にサイコウォンドが必要になるだろうし、これに合わせた戦闘衣も用意出来れば完璧だ。
戦略OSを搭載し、他のアークスと何ら変わりなく活動できる為の服を……
「あら、ロッドですの?」
「うわっ!」
レヴィは後ろから声を掛けられ、慌てて振り向いた。
そこにはマグノリアが立っており、悠々とサイコウォンドの試作品を眺めている。
「い、いつのまに……鍵掛けてるはずなんだけど」
「そうですの?わたくし、ずっと後ろに着いてきておりましたわよ?」
一緒に入ったのなら鍵が空いているのは当然だが、それにしては暗殺者かと言うほど影を消すのが上手いようだ。
しかし、レヴィからするとそれどころでは無い。
「ちょっと!勝手に入ってこないでよ!これは企業秘密なの!」
レヴィの警戒心丸出しの言葉に、マグノリアはサイコウォンドをチラリと横目で見てから首を傾げた。
「企業秘密?ブラックローズよりよっぽど普通の武器じゃありませんの。周囲のフォトンを吸収して増幅し、テクニックの発動を補助する。ロッドの基本機構は搭載されておりますわね」
マグノリアから見て、サイコウォンドはかなり独創的なデザインではあるものの普通にひと目でロッドだと分かるものだった。
ブラックローズとはだいぶ違うデザインセンスで、レヴィが一から考えたものではないのかもしれない、なんてマグノリアは想像する。
「見ただけでそんなのわかるワケ?」
「当然ですわ。何百もの武器の設計や構造を見ておりますもの。今は経営者ですけど、元々武器職人志望ですから」
「くっ……とにかく、いいからもう二度と勝手に入ってこないで。いい?」
レヴィは目の前にいる才能に溢れた女を見て眉を顰めた。
彼女にとって優れた者は皆生粋の天才のように感じられる。
彼女の忠告の言葉には、敵意とともに僅かな妬みと憎悪が籠っていた。
「レヴィ様。こんな合法的な武器の、何を隠す必要がありますの?」
しかしマグノリアは毅然とした態度で武器を見てそう呟いた。
「あなたが反社会的勢力の人間であることくらいは目で分かりますが、こんな普通の武器一本を隠さないといけない事情はとても想像出来ませんわ」
「……」
レヴィが懐に手を入れた瞬間、マグノリアは彼女の手首を掴んだ。
レヴィの手には、ナイフが握られている。
(殺気なんてものは特になかったはずなのに……)
「あなたの悪い癖、ですのね。都合が悪い時に、都合が悪いと自分から示すのはやめた方がいいですわ。そんなことされたら、ますます気になりますもの」
「あんた……本当に何者?勘が良すぎる……」
「違いますわ。わたくしは普通の人間です。他の方と違うのは、わたくしは自分の中の疑いを晴らしたいという意思があること。他の方は、気付いても疑いとして自分の中で蓄積させているだけですわ」
「疑いを晴らす……何のために?」
「レヴィ様と仲良くしたいじゃないですか。白黒はっきり付けましょう」
マグノリアの言葉に嘘や悪意は感じられなかった。
だからこそレヴィにとっては不気味で、目の前の女が怪しくてならないのだ。
間違いなく"こちら側"の人間であるはずなのに、あまりにも尊く気高く、気品すら感じられる。
だが同時に鋭く、敵に回してはいけない相手なのかもしれないとすら思えるのだ。
アークス正式採用のコモン武器制作企業……
レヴィにとってはあまり関わりたくない相手だったが、関わってはいけない度合いであればジグの方がよっぽど上。
ならむしろ、仲間に引き込んだ方がいい。
「わたしは、アークスとやり合うことになる」
「やり合う、とは」
「いつかはオラクル船団の全てを敵に回して、戦争することになるの。その時の為に、戦力を隠しておきたい」
当たり前だが、マグノリアにレヴィの言っていることは理解できなかった。
一介の何の功績もない目立たないアークス、目立たない武器職人がアークスならまだしも、その他武装組織の全てを含む言い方……オラクル船団相手に戦うなど。
「しょ、正気ですの?オラクル船団の全てって……支配したいなら、武力以外でも……」
「支配じゃない。守るためなの」
「守るため?」
「わたしには守りたいものがある。それを守るために、そして望みを叶えるために、オラクル船団と戦わなければいけない。アークス超新星、三英雄に六芒均衡、マザーシップ、アークスシップの主砲艦砲……それら全てを一人で打ち倒す」
「ごめんなさい、その……言っている事がとても真実とは思えませんわ」
「あんたにとってそれが冗談なのか真実なのかは関係ない。わたしにとっては、本気なの」
「ほ、本当に一人だけですの?普通、仲間を……」
「それよりも」
言えることは言った。レヴィはそう確信し、話題を変えた。
彼女の視線はサイコウォンドにあり、その柄を握るが起動はしない。
「これ、"普通"の武器なの?」
「へ?」
「創世器……クラリッサくらいのものが作りたかったんだけど。全然普通の武器なんだね」
マグノリアは思い出す。
レヴィは前にも同じようなことを言っていた。
ブラックローズを創世器にしたいと。
彼女がそれに固執しているからこそ、他でもないジグを頼ったというのは明らかだった。
しかし、マグノリアは思うのだ。
強い武器と創世器は違う。
創世器は強い武器だが、強い武器は創世器ではない。
創世器は完璧で完全で完成された強い武器と言うわけではないと、マグノリアは思っていた。
「……レヴィ様は、創世器というのを、少し履き違えておりませんか?」
「どういうこと?」
「創世器というのは今流通している武器のプロトタイプ。採算度外視で、扱うものの体に全く配慮していない代わりに高い火力が出せる武器。最も優れた武器ではありません。それに創世器の力の源はマザーシップですから、あなたがマザーシップを敵に回すのなら、創世器ではいけませんわ」
だが、当然レヴィはそれをわかっているし……マザーシップから供給されない創世器を使うことによるバックファイアも痛いほど知っている。
それでも創世器が欲しかったのだ。
だが、マグノリアはただの一般人だ。レヴィのような使命と欲望の間で揺れ動く暗躍者の気持ちはわからない。
よって、レヴィはこの場を上手く切り抜ける方を選択した。
「あは。ただの比喩だよ。創世器くらい強い武器……創世器級の武器にしたいってだけ」
「それは誰だってそうに決まっていますわ。実現出来ないからないんですの。それこそ、作れるのはジグおじさま位でしょう」
「アイツは……天才だから、か」
「わたくしからのアドバイスを求めるのなら、きちんと見せてくださいます?あなたの企業秘密というやつを」
「……対価は?」
レヴィはそう言いつつも、顔を顰めた。
対価を求めた時、目の前の女が何を要求してくるか分からなかったからだ。
ジグとの関係における自分の立場を求めるならまだいい。
ここまで技術を得られたなら頑張ればジグ無しでも完成させられるからだ。
金でもいいし、ハッキング等の裏任務の補助でも構わない。
ただ情報は困る。【敗者】に繋がるような情報は出す訳にはいかない。
「対価がないと、信頼出来ませんか?」
「貸し借りはイヤなの」
「では、わたくしの会社にご案内致しますわ。ちょうど今日、ジグおじさまを連れて向かうところでしたの。レヴィ様も着いて下さってかまいませんわ」
マグノリアの言葉に、レヴィはキョトンと目を丸くした。
なぜ彼女かそんな要求にもならないことをしてきたのか一瞬本当に意味がわからなかったが、勘違いしていると気付いた瞬間恐る恐る声を出した。
「え?いや、その……逆だよ?アドバイス貰う代わりに、わたしが何渡せばいいのって話で……」
「そうでしたの?てっきり、企業秘密を見せる代わりになにか差し出せと仰っているものかと……」
「いやいや、それはアドバイス受ける為に必要なことでしょ?報酬の内には入んないって」
悪人だが妙な所で毒気がない。
明らかな他者への高い攻撃性や著しい倫理観の欠如がありつつも、どこか職人気質でストイックな部分がある。
マグノリアは思わずくすりと笑みを浮かべると、直ぐに姿勢を正し微笑んだ。
「……ふふ、あらあら、失礼。といっても、わたくしにとってはレヴィ様のお作りになる武器に一体どのような価値があるのか、どういうものを作ろうとしているのか、それが知れたら十分ですの。アイデアとして活かしたいですし」
「なら、いいけど……。設計図とか持ってくるからちょっと待ってて」
「お手数お掛け致しますわ」
レヴィは階段を登り、二階にパタパタと上がっていく。
体重の割に足音が大きいが、胸のせいだろうとマグノリアは考えた。
女でも思わず見てしまうサイズだ。
多分犯罪を犯しても、被害者はレヴィの胸にばかり目がいって顔を全然覚えられないのだろう……なんてマグノリアは変なことを考えていると、レヴィは紙束を持って帰ってくる。
「はい」
「ふむ……」
そこにあったのは武器の設計図から用意した金属素材の表、コンセプトアートに、サイコウォンドが掲載されていたオカルト本の切り抜きコピーまであった。
そうしてマグノリアはじっくりと眺めた後、レヴィに視線を向けた。
「なるほどなるほど。やりたいことは分かりましたわ。ですが、この案のままだと少し問題がありますの」
「問題?」
「このHP減少の代わりにPP消費を抑えるという能力ですが……安全性に欠けますわ。ただでさえフォースは防御に欠けるのに、こんなスキルを入れて大丈夫ですの?」
創世器をあまりよく思っていなかったのもそうだが、マグノリアの基本スタンスは安全第一。長期間過酷な戦いに身を置くアークスに対し、体に大きな負荷をかけるような機能は入れたくないのだ。
その安全性が評価されたからこその正式採用なのだが、レヴィのスタンスはマグノリアと完全に真逆。どれほど負荷を掛けられるか、その負荷を利用してどれほど性能を向上させ、尚且つ負荷を分散し、長時間の戦闘を可能にするか。
レヴィは自分の想定したギミックを入れられるのであれば負荷など後からなんとかする、という考え方であり、マグノリアとは真っ向から対立する思想の持ち主である。
「あー、そこに関しては参考元のリスペクトみたいな感じがあるんだけど……
まあどうせ、一回被弾したら戦闘不能だから。HP1000ならともかく、10なら1とそう変わりないでしょ」
「補助アクセサリ等の導入も検討した方がいいですわ。それと、根本的な火力に関してですが、これではクラリッサ程の火力は出せませんわね。コンバーターの効率は良いですが、内在フォトンの影響力が大きい。つまり、装者のポテンシャルに依存しすぎですわ」
「なるほど……」
計算上、レヴィが使う範囲では平気なはずなのだ。
それはレヴィだけではなく器を制作していた【敗者】もそう言っていた。
だが、マグノリアが見る分には足りない。
莫大な内在フォトンを持つアークスなら上手く扱えるだろうが、普通のアークスならフォトン不足でまともに扱えないだろう。
「コンバーターを増設して環境フォトンの吸収効率を上げると共に、ジェネレーターも増やしましょう。勿論安定性は低下しますが、負荷を分散するために全体の制御プログラムを見直した方がいいですわ」
「分かった」
「あと、ひとつ聞きたいのですが……。これのプログラムを見せてもらってもよろしいですの?」
レヴィは端末を開き、内部プログラムのコピーをマグノリアに差し出した。
サイコウォンドは起動すると変形する。
そういう変形やその他ギミックはロッドの基本機能の外であり、プログラムとして組み込まれている部分だ。
この女が普通の武器を作るわけがないと思ったマグノリアはそれを要求したのだが、案の定あっさりプログラムが出てきた。
そして、その内部は……非常に洗練されている。
「まだ荒削りだから色々適当なんだけど……」
「いえ、適当というよりむしろこれが一番上手くできていて……なるほど、不思議なプログラムですわね……」
サイコウォンドの本来の機能……オカルト本に書いてあった内容を入れた上、さらにレヴィの使いやすいように色々と盛ったのだ。
しかし、非常に複雑な要素を持ちながらも整然としており、完璧に動作することになっている。
プログラミングが一番得意だと謳う武器職人は居ないため、マグノリアは物珍しそうに内部プログラムを眺めていた。
「起動時の変形及び使用エネルギーの切り替えと、テクニックの遠隔発動……先程のスキルと合わせれば、特殊なギミックが非常に多いのが特徴なのですね。となると、そもそも火力をあまり重視する意味がないような気がするのですが……」
「いや、火力は絶対必要なの。だから安定性を下げてでも入れたいし、下がった部分を補填するために、色々と考えなきゃいけない……」
レヴィは頭を抑えゆっくりと考え込む。
複雑なパズルを噛み合わせるかのように、複雑なギミックのメリットやデメリットを組み合わせ、ひとつの正解を組み立てていく。
マグノリアからのアドバイスを聞き入れるとなると一度組み上げたパズルをまたバラバラに崩す事になる訳で、今現在手元にある試作品は実質ガワしか使えない。
なんなら、サイコウォンドは未知の金属で出来た武器だ。そこまで加味するなら、ガワすらやり直しである。
「んー……どうしよっかな。いっそ三個くらい増設しちゃってから考えても、いや……一旦シミュレーションから……、あっそうだ。器のデータにPP量とかテクニックのポテンシャルが書かれてるかも……」
レヴィはすぐに座り、茶のひとつも用意せずひたすらあれこれと書き込み始めた。
バカが付くほど努力家だが、武器制作初心者という部分はごまかせない。
四ヶ月の初心者にしてはかなりできる方だがやり手のマグノリアやジグ、【敗者】と比べると手も足も出ない……という感じだ。
レヴィはそれを自覚しているし、だからこそどうにかして成長したいと自分の中で足掻いているのだ。
レヴィはマジックやグラン類似エネルギーといったような、特別な才能には慣れていない。
むしろこうやって泥臭く毎日毎日考え込むような、地道な努力の方が慣れている。
(全くもう……そんなにわたしにマジックが使えるっていうなら武器のひとつくらい作らせてくれないワケ?)
無能だと言われる方に慣れていた。無能だと思っていたから、努力して当然だと思っていた。
そんな所で突然自分は特別な力を持っていて、補助さえあれば世界が傾く……なんて言われても、ピンとこないのも当たり前だ。
それに、特別な力もどう活かせばいいのか全く分からない。その場その場の障害を越えられるだけの力に過ぎない……
いや、それこそ怠慢だろう。マグノリアにもその怠慢を指摘された。
【敗者】の一番になりたいし、彼が自分を特別視しているのならそれに応えたい。
だが、だからといって、貴重なマジックを観測するために己の努力を蔑ろにして超常現象に頼っていい道理などない。
彼の驚く顔や興味深そうに丸くなる瞳は魅力的だが、そんな魅力の為に自分が弱くなることは許せない。
(ごめん、【敗者】……)
彼は言った。マジックは必要な条件を達成する為だけにあるような物に見えると。
それは先天的で非物理的な超常現象だが、一定の偏りがあるように感じると。
(だけど、その中にも本当にどうしようもない障害と、己の怠慢で生まれた越えようと思えば越えられる壁の二つがある。
わたしは後者を【敗者】の為に生み出そうとは思いたくない。超えられる壁なら、自分で超えたい……)
次の遠征も近い。今度は【敗者】の治療の為だから、レヴィはひたすら作業時間だ。
その時に、マジックの解明を求めてあえて障害となる壁を作るか、それとも出来る限りの努力をして障害を無くすかだったら……あくまでレヴィは努力をしたい。
レヴィはそういう生き物だ。そういう生き方だ。
「マグノリア」
「どうされました?」
「さっきの話、まだ有効?」
レヴィは振り返り、マグノリアと目を合わせた。
互いに敵意はなく、この場で争おうなどという気概は感じられない。
レヴィは己の道のりの中に、マグノリアが必要だと感じたのだ。
「先程……」
「あんたの会社に行くってやつ」
その言葉を聞くと、マグノリアは嬉しそうに目を見開き、ウンウンと頷いた。
「もちろんですわ!」
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる