ダーカーの巣窟。アークスにとっては地獄のような景色。
そんな中、【敗者】は卑しく目を細めて卑しく笑っていた。
「はっはっはッ……、悪くないなこれは……」
急ごしらえながらにレヴィの戦闘力の上昇幅は悪くない。躊躇わず様々な戦法に手を出せば、六芒均衡の下振れとなら戦えるはずだ。
新たに着いた六芒均衡の四であるゼノや、力は持つが戦術に欠け、模造クラリッサ越しの命令なら喜んで従う三代目クラリスクレイス……、透刃マイという非戦闘的な能力を持つ創世器の性能に依存し、アイドルを兼業していたり戦闘は暗殺に特化してばかりのクーナ……。
この辺りならば作戦勝ちも出来るだろう。戦闘能力に関して言えばカスラも低い方だが、それでも並のアークスと比べれば超越しており、更に初代カスラの卑しさを引き継いだのかコソコソと嗅ぎ回っては裏切りの計略を練るような陰湿さはレヴィのような油断の多い相手には相性が悪い。
何よりレヴィはマジックユーザーだ。オラクル船団を相手取る程のポテンシャルがあるとは思えないが、少なくとも山を抉ることは出来る。
作戦次第ではレヴィでも一人で七人相手出来るかもしれない……
まともに戦えば初代クラリスクレイスも居ない今完全体のダークファルスを封印することも滅することも六芒均衡だけでは出来ないはずなのだ。
忌々しいのはやはりあの浄化の力を持つアークス……ルビィだろう。
あのアークスのせいで僕は、【敗者】は……
「〜〜ックソ……!!」
体の中から憎悪が沸き上がる。
抑えきれない。止まらない。
知識に対する飢えにも近い欲と同じくらい、アークスに対する憎悪が増えていく。
彼らの顔を想像するだけで吐きそうだ。
勇者を気取ってアークスを変えて……
所詮ただの実験動物風情が、創造者に逆らう権利があるとでも?
――【敗者】は拳を握りしめ、憎悪に震えていると、視界の中にレヴィが映った。
レヴィは試作品の武器を持って変化を繰り返し、黒い刃を振るってテストをしていた。
【敗者】が言いつけた通り侵食を抑えるアタッチメントは付けており、特有の術式が描かれたベルトを揺らしながら、武器を扱っていた。
最初と比較すれば動きもだいぶマシになった方だ。
アークスの精鋭と比べればまだだいぶ差はあるが、少なくともフォトン適性に甘んじてろくに鍛えもしない軟弱者と比べれば努力している方だろう。
とは言え、【敗者】の理想と比べればまだまだ遠い。
いや、理想と言う言葉は甘い。確定事項だ。
「っく、……もう少し軽くしなきゃ。今のままだと重い割に力が出ない…」
レヴィは武器を小さなナイフにして掴むと、ゆらゆらと体を揺らしながら歩く。
弱いくせに余裕だな。
【敗者】は心の中で悪態を着きながら目を逸らした。
今の彼は自然なほどレヴィをニュートラルな目で見ることが出来た。
己の計画のための駒として、という事だ。
「ふんふんふーん、やっぱりアイドルもちょっと悪くないかも……」
【敗者】は冷ややかな目で彼女を睨み付け、ため息をついた後に、ただひたすらディスプレイに向き合って計算を続ける。
【敗者】にしては当たり前のような時間経過だが、その間にレヴィは作業や勉強に励み、キャンプシップに入って床で睡眠を取っていた。
それを幾度となく繰り返していると、知らぬ間に三日ほど経っており、【敗者】はようやく目をディスプレイから離して周りを見渡した。
特に何ら変わりない実験場だ。
レヴィは……キャンプシップの方から物音が聞こえる。恐らく作業中だろう。
「はぁ……」
時間は無限のように感じるが有限だ。
気が狂うほど長く生きてきた【敗者】という男だが、最近は不思議とあれこれ追われてばかりだった。
こうやって思考しているだけで時間が過ぎるのも悪くない……
【敗者】は天を仰ぎ、思考を整理するわずかな時間に身を任せた。
「うーん……」
そんな中、レヴィは作業スペースで机に向き合い、顔を顰めていた。
彼女の悩ましい表情とは対照的に舟の中にはチルな音楽と共に喋り声が延々と響いており、近くに置かれたサブ端末からは配信アーカイブの映像が垂れ流されていた。
オラクルでそこそこ人気なマジシャンのラジオだ。
レヴィはひたすら端末で【敗者】の器のデータを元にシミュレーションを行い、少しずつアクセサリーのデータ数値を調整していた。
最高効率が出るまで数十にも渡る値をひたすら弄り続ける地道な作業である。
「あれを再現したいんだけども……」
レヴィが今作っているのは、【敗者】から命令された12個の武器のうち、【敗者】に渡すと決めたもの……力を上昇させるアクセサリーと、技術を上昇させるアクセサリーである。
それらは指輪の形を想定しておりふたつ合わせてダークローズという名称を付けたのだが、現状その内の技術を上昇させる方……ダークローズ・ベータの内部プログラムで悩んでいた。
「mana-L自体は完成してるから一応進んではいる……だけどあの動きの再現……。
継戦訓練の時に取った、あの連携を再現するには……」
既存のOSではグラフィック関連の処理で処理負荷が無駄に大きくなってしまうため、処理を極限まで削減したライト版ならぬmana-Lすら新造する程の本気ぶりだったが、そのせいでシミュレーションソフトが使えず単純作業を強いられることになってしまったのだ。
そしてレヴィが作ろうとしているプログラムは、局所的……特に豆粒一つから車一台分くらいの比較的狭い範囲で発動する時間操作のショートカットである。
モードの設定と簡単な指の動作だけで時間の加速・減速・停止の瞬間的な発動と切り替えが可能になるのが理想だが、なによりマルチタスクに行動出来るようにすることを目標としている。
【敗者】からすれば瞬間的な切り替えは出来て当然。
ただ前回の戦闘で分かったことは、どこまで早くしようがシングルタスクにしかなっていなかったということ。
【敗者】は攻撃の手を一度辞め、時間操作を行ってから再び攻撃を再開していた。長時間に渡りレヴィを操縦していればその分だけ彼の動きは止まる。
攻撃が止まるということは防御も止まるということ……二人が想定している対多数の戦闘においては、片方が防御を放棄することなんて不可能。
瞬間的な隙であったとしてもそれが命取りになるかもしれない。
だから、あの細かい時間操作をした上で【敗者】には攻撃も防御も行ってもらう必要がある。
レヴィは自分なら出来るかと考え、出来て当然だ、と答えを出した。
「……お」
そんなタイミングで、ようやく一アクションにおける最高効率の数値を発見し、レヴィは素早く調整パラメーターのメモを取った。
とりあえず一個だ。あと何個もあるが、一旦分析と休憩。
そこまで来てレヴィはようやくラジオの声に耳を傾ける。
些細なお悩み相談や他愛もない日常の話、それから興味深い手品のテクニックなど、二時間半程度の動画が終わるとまた別の回が始まり、レヴィはそれを聞きながら休憩として資格の勉強を始める。
太陽も月もないこの場所で日時を知るには時計を見るしかない。
時計を見れば何日経ったか分かるが……レヴィは時計を見なかった。
まだ三日しか経っていないが、レヴィにとっては既に一週間くらい経ったような気がしていた。
そうやってゆっくりと時間が経過しているように感じるから、勉強も武器制作も焦らず取り組めているのである。
レヴィはその錯覚を都合のいいように扱いタスクを処理していた。
そういえば、【敗者】は何をしているのだろう。
レヴィは機関部の勉強をしている中でふと思い出し、窓の外に目を向けた。
【敗者】は相も変わらず椅子に座ったままディスプレイを眺めていた。
レヴィが近くを通っても軽く話しかけても彼は無視するばかりだったので、諦めて作業に熱中していたのだが……流石に進捗確認のひとつもしないのは不味いかもしれない、といよいよ思い始めたのだ。
それにローズウェポンのブラッシュアップも彼に手伝ってもらう。
彼がどれ程の天才であろうが予定も話し合いもなしに事を進めるのは難しい。
「……休憩ついでに会いに行こっかな」
レヴィはすっくり立ち上がると、窓に反射した自分の姿が目に入った。
大型のヘアスタイリングマシンを持ち込むことは出来なかった為、自分で適当に結んだ髪だ。【敗者】お気に入りのツインテールでもなく巻いてもないボサボサの髪で宝飾は皆無だが、その割に服の質だけは良い。
【敗者】から付けろと口酸っぱく言われてきたダーカー因子抑制のベルトもしっかり装着している。
「まあ……いいか。【敗者】もわたしが忙しいのわかってるし、怒らないでしょ」
とは言いつつ、前髪だけ簡単に整えると、レヴィは船から一歩足を踏み出す。
外に出るとじんわりと肌に染み付くような不愉快な空気と共にどこか寂しげな雰囲気が漂っていた。
【敗者】は人形にでもなったのかと言うくらい姿勢は変わっていなかったが、彼は何かをブツブツと呟いていた。
「単純な脳や魂の隔離で反フォトンの行使が出来ないのであれば機構を用意した上で直接エネルギー供給させるのがいいか……長時間利用においては仮眠の時間を取らせるためにある程度エネルギーを蓄積しておく必要もある……。精神に問題が生じた場合は薬物投与で制御出来るだろうか……?」
【敗者】は数日前と変わらずレヴィが目の前にいるというのに何も反応しない。
レヴィは少しの間彼の様子を見守っていたが、あまりにも事態が進展しないため居ても立ってもいられなくなり思わず声をかけた。
「【敗者】」
「……」
【敗者】は少し指が動いたものの、あからさまに目を逸らしレヴィを無視する。
しかし、レヴィは言葉を続けた。
「【敗者】、武器のブラッシュアップについて話がしたいの」
レヴィは喉元まで出かかった嫌味ったらしい言葉や文句をグッと抑え込み、淡々と彼に言葉を投げ込む。
すると【敗者】はようやく応対する気になったのか、顔を上げた。
「ブラッシュアップか。そこの机にでも置いていればいい」
「順番とか、具体的な計画とか、そういうのがないと困るんだけど」
「貴様の狭い視野で計画したところで成功するとでも思っているのか?」
「……あんたがそういう考えならそれでいいよ。ただし、わたしの知らない機能を勝手に実装して、後からそれを使わないことに対して文句を言われんのはヤだからブラッシュアップで何をしたのかちゃんと書き出して提出して。いい?」
「あぁ」
「それと、あんた用のアクセサリーについてだけど、プログラム構築は概ね進んでるから。発動用のジェスチャーに関してはこっちで全部決められるようなものじゃないから、あんたの方で調整出来るようにしておく。だけどOSは新しい奴にしたから弄るならそれ用のコマンドを使ってね。試作品渡す時に仕様書と一緒に送るから」
「了解した」
【敗者】の返事はとても素っ気なく、あまりにも淡々としていて、はっきり言えばとても冷たかった。
レヴィはそんな彼の様子を見て、思わず口に出してしまう。
「【敗者】……、その、そんなに体調悪いの我慢してた?」
「どういう事だ?」
アークスシップにいた時はいい意味でも悪い意味でもはっちゃけていた。二人で他愛もない話を延々として、意味もないようなデートをして、それを作戦の為だと言って誤魔化したし、【敗者】は本当に心の底から元気そうだった。
しかし今の彼は違う。
今の【敗者】は冷えきった様子で、誰も寄せつけないようなオーラを放ち、常にピリピリとした雰囲気がありながらも疲れきったような虚無が彼を覆っていた。
「いや、その……色々と、疲れてる感じだから」
「貴様は本当にダークファルスのことを本当に分かっていないようだ。疲労なんてものは存在しない。そもそも僕を生物という括りで縛るのは愚かだ」
「あのさ、それくらい分かってるに決まってんでしょ?……でもあんまりにも違うからさ、何か例外とかあるんじゃないかって心配で……」
レヴィは彼の頬を撫でようと軽率に手を伸ばした。
前までなら当然のように許されていたことだ。
しかし、【敗者】は手を出したかと思えば、バチンと音を立てて彼女の手を払い除けた。
「気安く触るな……!」
「……ッ!!」
レヴィは目を見開き、体がビクリと硬直したが、一瞬先には動きを緩めからかうように笑みを浮かべた。
「あは、わたしにとっては全然気安くなかったよ?」
「……ハッキリ言わないと分からないか?貴様の杞憂は面倒で、邪魔で、鬱陶しいだけだ。僕は療養中だとは言ったが日常生活に支障をきたすレベルではない」
レヴィの表情は変わらずニコニコと微笑んだまま、今度は優しい声色になり語りかけるように彼に言葉を紡ぐ。
「そう、……なら、良かった。【敗者】が元気そうで……それで。
貴方のやりたいことを貴方が今出来てるなら、……それでいいよ。
わたしも、がんばるから」
【敗者】は、その言葉に返事をしない。
彼はあからさまにふいと体を背け、彼女を拒絶した。
「まあでも、……もっと頑張ったら、褒美として触ってもいい?」
「……不愉快だ」
「そう?貴方は本当に偉いね」
レヴィはそれでもまだ笑っていた。
彼女はそうするべきだと思った。彼の目の前で崩れ落ち、涙を零したり、悲しんだりするのは間違いだと思った。
これが本来の【敗者】であり、本来【敗者】から向けられる態度はこうなのだと長い間うっすらと察していたから。
難しくはない。レヴィが常に想定してきたことで、多少の動揺は仕方の無い事だが、それでも上手くやれる自信があった。
「自分のするべきことが、自分の立場がよく分かってる……それはね、とっても偉いんだよ、【敗者】」
「それくらい、当然のことだろう」
「うん、でも、当たり前の事ってわたしにとっては普通じゃないことなの」
「アークスの低脳はそんなことも分からないか」
「うん。わかんない。だってわかりたくないもん。分かりたくないものを分からなきゃいけない理由ってある?」
「……」
「返事するのも飽きた?」
「付き合うのも面倒だ」
本来なら……本来の【敗者】なら、気安く話しかけていい相手ではない。
触れることも、好意を向けることも、何か施しを求めようとすることも、【敗者】のような知的精神体に期待するのは無駄なことだ。
だからレヴィは生暖かい死体と人形が好きだった。ダーカーも好きだったのは、彼らがレヴィと違う形をして、意思疎通も取れない存在だったからだ。
レヴィにとって【敗者】は人ではないが人である。
「ふふ、わたし、正しいわたしで居られそうでよかった」
「……?」
「じゃあね。わたし、忙しいから」
そう言って、レヴィは足速にその場を去っていった。
忙しい。確かにレヴィは忙しい。
「ッ……!!」
腕や足に重りを付け、自分の体よりも大きな剣を持ち、レヴィは思い切り振り上げた。
VR投影装置を市街地から移動させ、ダーカーの巣窟の中で作り上げた戦闘フィールドの中でレヴィはひたすらにエネミーを倒していく。
戦闘訓練だ。
それも、ローズウェポンを想定していないもの。
アイゼンハートやライデンシャフトでの武器変化を想定した戦闘だ。
(ローズウェポンはミステリーボックスに等しい……アークスの予測範囲内で行動しないと!)
レヴィが制作している12の武器は全てアイゼンハートというカモフラージュを前提とした奇策だ。
土壇場で奇策が失敗するリスクを避けるため練習するのはもちろんだが、それと同じくらい基本的な戦闘も出来ていないといけない。
カモフラージュをカモフラージュとして見抜かれたら終わりなのだ。
「アークス共は武器使ってくるって想定してるんだから……武器で戦わないと……!」
戦闘データに刻まれたアークスの精鋭……六芒均衡を相手にひたすら武器を振り回す。
剣に銃に糸に槍に、出来る限りの全ての対策を取って7人分の猛攻を捌く。
法撃が二人、打撃が四人、打射撃が一人。
さすが並のアークスとは違う。何度戦っても相手を格下だとは到底思えない。
テクニックの一つとっても見てくれは同じはずなのに威力が段違い。しかもフォトン適性の高さから際限なく連打してくる。
「ッく……!」
これにルビィとマトイが増えれば一分も持たないだろう。いや、なんならその二人だけで六芒均衡七人と同等レベルの戦力はあるはずだ。
何せルビィは全てにおいて桁違い、六芒均衡すら自分の腰巾着に出来るほどの天才なのだから。
それに打撃の比率が高いとはいえそのカテゴリの中でもある程度遠距離近距離のコントラストがあり、特にマリアのような手練の輩がここぞという時に遠隔担当で槍投げしてくるところが一番面倒なのだ。
「ッが……!!」
レヴィは分かっている。
自分は六芒均衡に勝てる実力なんかじゃない。
一撃でも当たれば倒れるし、彼らにとってレヴィはうるさい羽虫と何も変わりない。
創世器の有無やフォトンの有無関係なく、自分には才能がない。
成長したとしても、生まれつきの才能の差は埋められない。
「……はーぁ。ここに来てから死ぬの48回目か……」
戦闘不能の音。視界に映る歪んだ街並みとシステムウィンドウ。
床から空とも言えない天井を見上げ、レヴィはそう呟いた。
レヴィとアークスの精鋭たちには埋まらない差がある。それはよく分かっている。
「……」
百回死んでも勝てないならどうする?
千回やって勝つ。
千回でもダメなら?
万回やってでも勝つ。
万回でもダメなら?
億回やってでも勝つ。
六芒均衡に勝てる実力じゃないのなら勝てるまでやる。
努力で埋まらない差があるならその差を定義した奴が泣くまでひたすら死んでひたすら生き返る。
「このアバズレ共が……」
レヴィはもう一度立ち上がり武器を構えた。
止まらない。
止まる訳にはいかない。
彼が幸せになるその時まで、どんな事があっても彼の駒であり続けると確信したのだから。
「強くなってやる……!!」
時間が無いなら二倍早く動けばいい。
二倍早く動けば時間はその分だけ遅くなる。
世界とはそう出来ている。
あくまで世界は主観的なものだ。
その人間がどう認識するかによって、世界の色も形も何もかも変わる。
普遍的なものなんて誰にも分からないのだ。
きっとそれは全知存在にすら分からない。
「絶対守ってみせる……!!」
強い意志に体が反応し、全身がぶわりと熱くなる。
何もかもが上手く行きそうな気がする。
全てが輝いて見える。
この光に呑み込まれて、全部なくなってしまってもいい。振るう武器が溶岩のように熱くても、踏みしめる大地が棘のように刺さっても、この光に呑み込まれて全て消えるのなら、それでいい。
「力が手に入るなら、どんな代償を支払ったって構わない……」
勝てないのは分かってる。だけど勝てないままで終わりたくない。
レヴィはもう二度と歩けなくなったとしても、内臓が引きちぎれたとしても、死んだとしても、アークスに……ルビィに勝てるならそれで良かった。
――ルビィに勝ちたいのに五体満足で生き残ろうだなんて甘えだ。
契約が終われば【敗者】とは別れるのだから、その時の自分がまともに生きられなくなっていても彼が迷惑に思うことは無い。
だって、願いが叶えば【敗者】と二度と会うことはないのだから。
彼がその先の自分に利用価値を見出すことはないし、五体満足でも価値がないのに、まともに生活出来なくなった自分を介護するなんてことは絶対にありえない。
自分は【敗者】と生きるために彼と契約し、彼の願いを叶えようとしている訳ではない。
満足して早く自殺するために契約したのだから。
「たとえ朽ち果てたとしても……!!」
強すぎる光がフォトンで動く投影装置をショートさせ、目の前に現れていたアークスの精鋭達は呆気なく消えた。
「……」
実質壊したも同然だが、レヴィはそれを見てもどこか冷めた気持ちで佇んでいた。
あのまま続けて、果たして彼らに勝てていたのだろうか。
今の実力では到底不可能で、49回目の死を迎えていただけだろう。
もし自分がダークファルスになれば、比類なき力が手に入るのだろうか。
もし自分が自分じゃなくなれば、フォトンが使えるようになるのだろうか。
……考えても無駄な事だ。
ダークファルスになるのだって才能がいる。
才能なきアークスは、ナベリウスで【巨躯】の養分となったアークスのようにフォトンを喰らい尽くされて終わるだけ。
レヴィはフォトンがないからそちら側にすら立てない。
ダーカーから狙われないように、全てにおいて無価値なのだろう。
「はぁ……」
レヴィはそんな風にため息をついていると、ふと足元に気配を感じ目を向けた。
「……ッ」
黒い羽に金の装飾――【敗者】の使役する有翼型だ。
レヴィは邪魔をせず触れることもないように一歩後ろに下がったが眷属はそれを考慮することはなく、むしろレヴィに近付いて彼女の胸に飛びついてきた。
「わっ……!!」
パタパタと羽を動かし、金属の頭装飾がめり込んで痛むほどくっつきたがる姿に、レヴィは思わず顔を綻ばせた。
「あんたは……触ってもいいんだね」
ぎゅうぎゅうと強く抱き締めると大人しく抱かれ、頭を撫でれば鳴き声のようなものをあげる。
その様子は不倶戴天の敵というにはあまりにも甘く、飼い慣らされたペットのよう。
(でも……とりあえず投影機器を回収しなくちゃ)
レヴィは眷属を下ろすとすぐに歩き出すが、すぐに裾を引っ張られ振り向いた。
「ちょっと……邪魔しないでよ。わたしそんな暇じゃないの」
案の定、眷属の嘴がレヴィの服の裾を摘んでモグモグと口を動かしている。
明確な妨害には違いないのだが、どうも可愛らしく甘えてくる所を無碍にすることも出来ず。
「じゃあ……まあ、肩にでも乗ってなよ」
レヴィはため息をついて、足早に肩へと転移してきた眷属を乗せながら岩の上を登っていく。
道具はスクリーンのバトンに吊っていた時とは違い、広範囲の投影を行うために出来るだけ高所かつ同高度の場所をいくつも探し、ばら撒くように設置していた。
「あんたからはちょっとだけ……【敗者】の匂いがするね……」
道具を一つ一つ回収しながら、顔を動かす度にレヴィの顔はもふりと眷属の羽に埋まる。
それが愉快で思わずクスリと笑うと、レヴィは眷属の頭を良く撫でた。
「【敗者】がちっちゃくなったみたい、ふふっ」
コアが変色しすっかり懐いたそのダーカーは遠くのパーツを取ってきたり、梱包材を渡したりと積極的にレヴィを手伝う。
そんな様子にレヴィは微笑ましくニコニコと笑うが、少しすると疲れたようにため息をついた。
「はぁ……直すのめんどくさいな」
口から漏れ出したネガティブな言葉を抑えるように首を横に振り、深呼吸するとダーカーを肩に乗せたまま、船の方に歩いていった。
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる