※この作品はR-18です。

MIDNIGHT   作:Libby博士

190 / 258
2話(2)

 

 喉が痛む程乾いた栄養バーの袋にエナジードリンクの缶が転がる。

今日の食事は栄養バーのエナドリスープ、サプリスパイスを添えて、だ。

味は世辞にもいい物ではないが、レヴィにとっては仕方の無い事だった。

 

 使いもしない美容品のコンテナを舟の外に放り出し、代わりに持ち帰ってきたエンジンを置いてついでに手提げサイズの袋も準備する。

 

「チッ、絶縁手袋……持ってくれば良かったな」

 

 絶縁と言っても電気ではなくフォトンの方。

グラン類似エネルギーの反フォトンで機能が停止してしまう危険性というのも勿論あるのだが、それ以上にレヴィは困った事があった。

 

「……」

 

 洗いやすい下着と手袋だけの簡単な姿でレヴィはエンジンに手を近付ける。

 解体が半分も進んでいないからどうにかしなくてはいけないのだ。

 だが、レヴィの手は震えており、一度離すとゆっくり深呼吸をした。

 

「ダメ。落ち着かないと……再教育よりマシでしょ?」

 

 大丈夫、大丈夫、とレヴィは何度も言い聞かせる。

 

 ――【敗者】に嫌われてると自覚するのは嫌だったから?いや、自分はそれで構わないと誓った。そう誓ったから、そう決めたからそうする必要がある。

 だがなぜまだ恐れなど抱いているのだろうか。

 

レヴィは薬箱の方をチラリと見た。

 

「最終手段……いや、まだ早いか……」

 

 解体のためにありとあらゆる手段でリラックスしようと、レヴィは煙草を取り出しついでに度数の高い酒も飲むことにする。

 

「あ゛ー……酒が回るまでなんか別の仕事してよ……」

 

 単に酔う為なのでつまみなんてない。強いていえばタバコがつまみだ。

 レヴィはタバコ片手にハッキングしながらオラクルの情勢を調べていた。

 最近は新たに発見された惑星であるハルコタンとそこに巣食うダークファルス【双子】で手一杯らしい。

 新クラスのバウンサーも出たらしいがレヴィにはどうでもいいこと。

 

 【敗者】がまだ生きているというのはオラクルにとって重大な問題ではあるものの、行方不明の【敗者】とは違い現状ハルコタンで猛威を奮っている【双子】の方がさすがに優先度が高いようだ。

 

 そして何より、ルビィの相棒でもあるマトイが正式にアークスとして活動を始めている。

 敵の戦力は間違いなく高まっているだろう。

 

「うーん……あと二時間削って戦闘訓練を増やすしかないか……」

 

 今のレヴィは完全に【敗者】から放任されていると感じていた。

 信頼しているから任されているというよりかは、興味が無いから放置されていると言った方が正しい。

 だが、放置されているということはつまりレヴィが今までやると怒られてきたありとあらゆる行為が無視されるということ。最強の仕事環境だ。

 

 暫くデータを眺めていれば段々ふわふわとした感覚になり、レヴィは何となく自分が酔ってきたぞという自覚が出来た為端末を閉じてキャンプシップ用小型フォトンエンジンの説明書を取り出した。

 

「……やるか」

 

 傍から見たら酔っぱらいでタバコ吸いながら作業をする異常者だが見る人間がいなければ異常を決める基準は自分しかいない。

 

 レヴィはタバコを灰皿に置き、深呼吸をすると近くにある袋を膝に置いてエンジンに触れた。

 

「やれる、……わたしはやれる……やれ、……ッう゛!!」

 

 触れた瞬間、目の前の景色がグラりと揺れた。

 身体中で暴れ回る不調。

 救急を呼んでもおかしくないレベルの激痛と共に脂汗が噴き出し、おぞましい程の不快感が襲いかかる。

体が暑い。焦燥感が全身に渡って響き渡る。

何より気持ち悪い。頭がグラグラする。

酒を飲んだ時の数万倍は頭が暑くて、気持ち悪くて、本当に気持ち悪くて……

 

「ぅ゛ッ!!……っもう……!進まないんだけど!」

 

 レヴィは袋を掴むと思い切り嘔吐した。

 そう、純度が高い上膨大なエネルギーを抱えているフォトンエンジンはレヴィにとっての天敵だったのだ。

 彼女は端末のように反フォトンの力でエンジンが働かなくなる方を想定していたものの実際は真逆、フォトンアレルギーの拒絶反応で体調不良と嘔吐を繰り返していたのである。

 上着も暑いとかそんな理由は大嘘で、単純に吐瀉物が上着に付いてダメになったから捨ててきただけだ。

 

 だけどレヴィが【敗者】に「自分の代わりにフォトンエンジンを解体して欲しい」なんてお願いをするわけないどころか、そもそも「フォトンアレルギーのせいでエンジンを触ると拒絶反応を起こしてしまう」という事すら口に出せない。

 彼女のコンプレックスは人生の全てを支配するもので、前の裏任務の時から変わらず根深く彼女に染み付いている。

 それゆえレヴィに許されたのは一人で解決する手段のみ。

 

 ――大丈夫。食事は消化されるまでの時間を計算して摂取したお陰で吐瀉物は液体だけ。

胃液は吐ききってるし水分は嫌という程抜けているがそれくらいなら点滴でどうにかなる。

何より大事なのはエンジンに吐瀉物を付けないこと、解体に失敗しないこと、その二つだけだ。

 

「これ【敗者】に見られたらマジで首吊るかも……」

 

 なんて呟きながらレヴィは新しいエチケット袋にテープを付け自分の両頬に貼り付けた。

 きっと10嘔吐くらいなら受け止めて貰えるだろう。

 本来精密作業の筈だが何故かスピード勝負。

体調的に考えれば難易度は空中で滑空してるキャンプシップに捕まりながらエンジン解体しているのとそう変わらない。

 

「よしやるぞ!」

 

 レヴィはここに来てから呼吸の回数ほど行った自己暗示を改めて行い、自分にしっかりと言い聞かせるともう一度深呼吸して解体に取り掛かる。

 設計図は何度も見た。脳内で解体プロセスも組み立てた。

 細かいパーツや小さなネジも多いが部品の大きさも種類も数も覚えているからひたすら無くさない事を祈って準備した箱に仕分けすればいい。それだけのシンプルな作業だ。

 

(嘔吐いてる時間が無駄……口開けてゲロ垂れ流した方が早い!)

 

 再び襲いかかる体調不良の全てに耐え口からは液を垂れ流すという主人公とはとても思えない最悪の絵面でひたすら解体を続ける。

 

 体調が限界に近付き倒れる寸前になってようやく燃料タンクを切り離し、液化天然フォトンとの接触を断ち切ることに成功した。

 

 そこまで来れば吐くこともないだろうとレヴィは袋を口から取り、深呼吸をしてから横に倒れ込む。

 

「疲れた……」

 

 限界に至った体は24時間の継戦訓練よりもよっぽど疲弊しており、起き上がる気力もなく横たわりながら燃料タンクを眺めていた。

 LNP燃料はキャンプシップでも戦闘機でもアークスシップでも使われている超基本的な燃料の為、教材やサンプルが多いのは助かるが、まさかLNP燃料と相性が悪いとは。

 

「わたし達が乗ってる船の燃料は何だったっけ……?」

 

 少なくとも人工臓器やVR投影装置、レヴィの所持するメイン端末に使っている星核エネルギーを船に使わないでくれとは言っている。

 いくら小型船とはいえ船を運行するほどのエネルギーを貴重な星核エネルギーから補うのはあまりにも勿体ない。

 ただ、【敗者】はレヴィがメンテナンスする前提であの船を購入した。

 絶対フォトン関連の燃料ではないはず。

 

 効率は悪いが石油燃料とか?ダーカー因子とか?それともフォトンを機械で何かしらに変換した上で積み込んでいるとか?

 

「えーっと……名前忘れたな……なんかしらの略称だったことしか覚えてないや……」

 

 そんな風に色々と考えながら、レヴィは倦怠感に身を任せた。

 

二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。

  • 続編として作品を分ける
  • 分けないで一つの作品でまとめる
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。