栄養ドリンクの瓶が転がる乱雑とした部屋の中でレヴィはため息を着く。
強い目の疲れに目薬を差し薬を飲み、再び黒ピンク色のモニターを眺めた。
取り組んでいるタスクといえば最優先事項、ダークファルスの復活予兆をいち早く察知するプログラムの制作だ。
ダーカーの巣窟という環境、任務も出来なきゃデジタルスクリーンに向き合う時間が増える。
そしてそんなデスクワークばかり続けているのは、どうもレヴィの性には合わず。
天才プログラマーだというのにプログラムだけを続けていると彼女は段々フラストレーションが溜まってきていた。
「はぁあ……」
手が震えるのは、怒りや寂しさからではない……
しばらく人を殺してないからだ。
「ダメだ……人殺さないと落ち着かない」
レヴィは【敗者】と出会ってから様々な娯楽を知った。
ゲームや映画、音楽や演劇、アミューズメント施設やセックスまで……
普通の人間が普通に暮らしていけるだけの娯楽は揃っているというのに、レヴィはそれでも落ち着かない。
レヴィにとって既に殺人は日常であり薬だった。
ヤク中がデストロラゲンやマリファナをキメてる間、レヴィは人を殺すことによって同じだけの快楽を得ていた。
だがしかし、このダーカーの巣窟という環境はあまりにも人が少ない。
アブダクションで寄せられたアークスも現状【敗者】の餌であり、存在はしているらしいアークスのクローンとも中々出会えない。
となれば、偽物でもなんでも投影装置を使って殺しの真似事をするしか現状解決手段はないのである。
「ちょっと無駄遣いだけど星核エネルギー使うか……」
レヴィはふんわりと外へ目線を向けると扉を開け、投影装置の方に進んでいく。
最初は弱い相手を呼び出して殺戮の限りを尽くそうという気でいっぱいだったが、いざ投影装置の前に立つと突然気が変わってやっぱり強者との戦闘訓練がしたくなる。
いや、レヴィも分かっているのだ。
その欲望に流されたらフラストレーションが溜まるだけでしかない。
今は目先の欲望を我慢してちゃんと人を殺した方が落ち着くと。
しかし、レヴィは常に欲望最優先。
人を殺すのだって欲望のためなんだから、その欲望が別のものを求めているのならそちらを優先した方が効率的だ。
なんて思想が頭に流れた結果、レヴィは迷わず投影装置を起動すると、ある人物達を召喚した。
何度も呼び出した六芒均衡ではない。
ルビィとマトイ……レヴィにとっての最優先処理事項であり、最も高い壁だ。
「……」
レヴィはスピーカーを掴むと音楽を流し、それからアイゼンハートを構えた。
「コイツら相手に妥協は出来ない……」
とはいえシステム上ルビィとマトイからの対応はアークスと同じ。
そのためハッキングで認識処理を行い、レヴィは自分を【敗者】として彼女らに認識させた。
そうなれば、二人からの対応は他のどのダーカーよりもとびきり激しい……本気を出しても瞬殺されるレベルになる。
レヴィはアイゼンハートを大砲に変え、最初の一発を打ち込むと土煙が辺りに立ち込める中剣に変えて掴み真っ直ぐに切り込んでいく。
しかし視界不良の中でもルビィは正確にソードを構えてガードし、刃が受け止められるとレヴィの方へテクニックが飛んでくる。
「チッ……」
光の粒子がレヴィを覆う前に彼女は飛び退き、後方しながらも弓を引いて毒矢を浴びせ、着地すると懐から取り出した爆弾を投げ込む。
尽くまで損壊してもいい。とにかく手を緩めない。例え死んでも攻撃する。
首が切れるまで。心臓がくり抜かれるまで。上半身が跡形もなくぐちゃぐちゃになるまで。
手足が飛んでも、顔が潰れても、腹に大穴が空いても、攻撃を続ける。
それが殺すということ。
レヴィは勝ちたいのではない。殺したいのだ。
殺したいから何をしてでも攻撃を続ける。
だが、彼女がどれだけ激しい攻撃を続けても土煙が沸き立つだけ。
そしてその煙が一閃によって晴らされると、青光するフォトンの刃が真っ先にレヴィの方へ飛んできた。
「っぐ!!」
レヴィの体はいとも簡単に吹き飛ばされ、地面に叩きつけられると直ぐにイル・グランツの光の流星が降り注ぐ。
「っうぁあああッ!!」
体中に響く激痛と共にレヴィは戦闘不能に陥ると、震えた手でアイゼンハートを放し、ゆっくりとポケットの中からスケープドールを取り出した。
その瞬間レヴィの傷や痛みは全てスケープドールの中に吸収され、体が再び動くようになると彼女は立ち上がり、剣を構えて飛び込む。
重低音の音楽が鳴り響く中、レヴィはリズムに合わせるようにステップを踏み剣を振るい舞う。
マトイはクラリッサを掲げテクニックを何度も発動するが、威力はむしろ下がっていた。
音楽の猛々しいリズムに引っ張られ、ジャストアタックのタイミングが奪われているのだ。
それに対し、ルビィは……音楽に一切釣られることはなく、ただ粛々と剣を振るい、子気味のいいコンボを組み立て、それに合わせて攻撃を続けている。
(コイツ……!!)
レヴィが戦ってきた中で音楽に釣られないやつはいなかった。
ジャストアタックが崩れなかったとしても回避運動や攻撃の形にリズムは食い込んできて、彼らを確実に蝕んでいた。
それなのに、ルビィひとりだけ。
彼女だけは、レヴィと同じフィールドに上がってこない。
まるでレヴィを拒絶しているように。
――やっぱりルビィは気に入らない。
レヴィはそう心の中で呟いて、憎たらしそうに睨みつけた。
『ころしてやる、……ころしてやるっ、はは、……はぁっ、はぁっ……、ふふっ……』
一方【敗者】は目を細め、死んだ魚のような目で映像を見ていた。
悪趣味な映像作品、スナッフビデオとも言われる類の映像を幾つか流しており、ある時は子供同士で殺し合い、ある時は大きな熊の皮を着て女性を追いかけ回し、ある時は太った男のような着ぐるみを着て残酷に拷問する。
【敗者】からするとまだ新しく感じる15年前に作られたそのビデオには、ある共通の人物……レヴィが映っていた。
子供が加虐者で大人が被虐者のスナッフビデオは人気がないのだろう、相手が大人なら様々な形で仮装しているらしい。
(スナッフビデオの出演依頼か……本当になりふり構わない人生を送ってきたのだろう)
【敗者】が調べていたのは、レヴィの過去だ。
裏任務用のユーザーデータから履歴を遡り、様々なデータを探した結果出てきたものである。
殺しを楽しむ存在だということは分かっていても、ここまで振り切れるものだろうか。
視界の中に映るレヴィも戦いに明け暮れていて、自分の骨を戦場に撒くと言わんばかりに毎日毎日戦闘訓練を続けている。
「はぁッ、はぁッ……」
レヴィはアイゼンハートを握り、ルビィへ無我夢中に斬りかかる。
だがルビィとマトイの戦闘能力は天性のもので、叩き上げの無能が容易に敵う相手ではなくレヴィはテクニックが当たると吹き飛ばされて倒れ込んだ。
「っぐ!!」
圧倒的な実力差。
誰が見ても分かるその優劣は、【敗者】からしてもとてもハッキリわかる事で。
剣の実力も回避能力も防御能力も全てにおいてルビィとマトイが上回っている。
それは戦略OSによるクラススキルやフォトンアーツというコンピューター的かつフォトンに思考リソースの多くを割いた支援がある事を前提としても、いや、そうだからこそ、レヴィはその上でルビィ達を越えないといけない。
単純なエネルギー対決ならレヴィは負けていないのだから。
「ルビィ……お前だけは……ッ!!お前だけは、……絶対この手で……!」
レヴィはよろよろと何度も何度も立ち上がり、怒りや憎しみに任せてただひたすらに殺意の籠った刃を向ける。
その姿は惨めで哀れ。ルビィ達には傷一つ入らないままレヴィだけがボロボロになり、それでも立ち上がろうとする。
ここまでダメなら一旦待って考えるのがいつものレヴィなのに、彼女は完全に理性を失っている。
いままでどれほど苦しめられてきたことか。
今のレヴィはただの獣でしかない。
だが、あんな風になってしまうのはレヴィだからだ。本当はそうじゃない、【敗者】はそうじゃないはず。
だのに、【敗者】の中にはジクジクと膿んで湧き上がる何かがあった。
自分の中に深く刻まれた敗北の二文字。
憧憬していたシオンを奪われ、支配していた全ての駒を奪われ、ダークファルスとしても戦闘で敗北し、彼はオラクルからも追放されてこんな実験場の中でただひたすらに研究を続けるしかなかった。
ルビィさえいなければ、あのアークスさえいなければ、今でも【敗者】は輝かしい計画の中に居られたのに。
「クソッ……たかがアークス如きにこの僕が……!!」
握り締めた拳は強く、爪が食い込み、拳から痛みが広がっていく。それでもダークファルスの彼の体がその程度で出血する訳もなく、皮膚を引っ掻いているだけの行き場のない怒りはどんどんと膨らんでいった。
「認めてなるものか……!
あんなもの、所詮運に過ぎないはずだ……!!そうでもなければ、そうでもなければ全て上手くいっていたはずだというのに……!!」
未知の事象は単なる外れ値で運に過ぎない、と他責に縋るほど、【敗者】は今の現状が妬ましく感じる。
もし三英雄や他のダークファルスや虚空機関の研究員を好きに使える環境で、そこへさらにレヴィがいたら。
もっと早く彼女のフォトンアレルギーに目をつけ、アークスから裏切られるという状況を想定した対応が出来るようにしていれば。
彼女の天性ともいえる運が【敗者】にも降り注いでいれば。
(最初からこの女を掌握していれば……!!)
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる