敵の居なくなった戦場。マトイはクラリッサを持ちながらも臨戦態勢は解除しており、レヴィの方に振り返り首を傾げていた。
「欲しいもの、って?」
「ダーカーを殺すのに飽きたって言ってんだよ?分かるでしょ?」
そしてレヴィは銃身を掴むように持ち変えると、マトイを見て笑った。
「人殺しだよ」
その瞬間、瞬きもしないうちにアイゼンハートが剣に変わる。レヴィがほんの少し手を動かすだけで、その刃は素早く容易にマトイの腹へ突き刺さった。
「え……」
「わたしが正解なんだよ……」
レヴィはあっという間に引き抜くと、もう一度構え、アイゼンハートを無骨なブロードソードへ変えた。
「絶対絶対、わたしが正解なんだから……!!」
その刃が振り下ろされた瞬間、マトイは反射的にクラリッサを掴んで受け止める。
レヴィはひどく高揚し興奮しており、逆にマトイはなんとか平静を取り繕おうとするもののこの状況と腹から広がる痛みには思わず焦燥を隠せなかった。
「や、やめて……!わたしたち、仲間なんだよ?!」
マトイは必死に叫ぶが、レヴィはむしろ嬉しそうに笑う。
――【敗者】が丁重に帰せなど日和見主義者的な意見を宣ったところで、危険分子を放置することには何も変わりない。
今ここで殺さなくてどうするというのだ。
【敗者】の痛みや苦しみに微塵も寄り添わないルビィやその腰巾着達が、マトイ一人を見逃したという事実だけで掌を返して【敗者】を許すとでも?
いやいや、彼らからすれば【敗者】が百万回死んでも彼を許さない事だろう。
ならば分かり合う必要なんてないし見逃す必要なんてないのだ。
【敗者】のあの怒号のような痛ましい悲鳴を聞いても尚、無慈悲に殺そうとする奴らなんて。
「やだな。何勘違いしてるの?こんな場所にアークスが一人でのこのこやってくるなんておかしいって話でしょ?なら、まずは陰謀ってやつを疑わなくっちゃ。わたしはね、アイツよりよっぽど賢いんだから……」
レヴィは剣が弾き返されるとあっという間に銃を構え、眉間を狙うもバリアで跳ね返される。
レヴィの様子を伺いつつ、マトイは隙だと判断した瞬間にバリアを一瞬解き治癒のテクニックを掛けると腹の傷はみるみるうちに塞がっていった。
戦闘不能になるまで回復不可能に等しいレヴィとは違い普通のアークスは同業者に刺された程度で簡単には死なない。刺した相手がダークファルスならともかく人間では傷から広がる因子のような物もないのだから。
「わたしは人間だよ!あなたの敵じゃない……!お願い、話を聞いて!」
「んー……とりあえず、こう行こうか」
レヴィはアイゼンハートを手放し、パッと指を鳴らした。
瞬間武器の形が大きく変化し、刀の形に変わるとそれを掴み一気に抜刀する。
手加減をしない。話を聞かない。攻撃の手を止めない。
レヴィは人特有の対話や躊躇の全てを殴り捨て、まるで獣のように振舞った。
「こんなところに一週間もいたら体が持たないよね……でも、どうして今?」
マトイが思考する間も彼女は隙を見つければ直ぐに強い攻撃を仕掛ける。狙う場所は急所ばかりで、一度よろければ袋叩きになるのは目に見えていた。
「あはっ。あんたは暇そーでいいですねぇ?」
同じアークスなのは分かっている。でもこのままでは埒が明かない。覚悟を決めなければ。
マトイはそう決意を固めると、遂にロッドを強く握り締めテクニックを発動した。
レヴィを攻撃するために、だ。
「お願い……止まって……!!」
マトイの攻撃が一撃でも当たれば耐えられない。フォトンのないレヴィの耐久力は非常に低く、あまりにも急いでいたため戦闘衣ですらない。
レヴィから仕掛けたものだと言うのに状況はあまりにも不利だ。だが、不利だからこそレヴィは燃えている。
「ばぁあーか!止まれって言われて止まる訳ないでしょーが!」
そして、長居し続けたこの場所に再び空間侵食の反応が現れるとダーカーが辺りを覆い尽くした。
「ッ!ダーカーまで……!」
ダーカーはアークス同士の小競り合いで退く訳などなく、当然のようにレヴィの後ろを素通りし全てマトイに向かっていく。
「さ、……一体どっちにやられるかな!」
レヴィはダーカーの挙動を推測し刃や弾が彼らを傷付けないように細やかに動かすと、マトイから撃ち放たれた光のテクニックを跳ね返しさらに転換能力でそれを闇に変える。
あまりにも非常識で、マトイはダーカーからの猛攻と予測不可能な攻撃に翻弄されテクニックを少し打ってからすぐ後退し回復を繰り返すという明らかに劣勢な動きを見せていた。
「どうしてわたしばっかり……!!」
イケる。そう確信したレヴィは案の定調子に乗り、一瞬で繊細な動きを捨てダーカー丸ごと焼き払うように刃を大きく振るった。
「どうしてなんて、フォトン含有量の違いしかないっての!」
だがマトイのような上澄みの狩人にそんな隙を見せて避けられないはずもなく。
「ッ!」
マトイは突然大振りになったその攻撃を悠々と避け、物陰に避けると端末を開いた。
フォトン含有量の違いをわざわざ出すということは、彼女が普通のアークスとは違う特別な何かを持っているのは確実だ。
ダーカーは意図的に原生生物よりもアークスを狙う。そして弱く脆い者を嬲り、強く気高いものを取り込もうとする。
フォトンを使うアークスである限り、体の中にフォトンを持つ生物である限り、この宇宙に存在する概念の中でダーカーに狙われないものなどない。
それが当たり前で、それが常識だ。
だが、レヴィは……
「レベル1?!」
レヴィのパーソナルデータに記載されたレベルは1で、サブクラスもなく、難易度制限も
マトイはそれを感じられなかった。
彼女の戦闘レベルは、1なんて領域では……
「はぁ……よそ見されるなんて舐められてるなーわたし」
レヴィは物陰に爆弾を投げ込むと直ぐに銃を構え、一歩一歩近付いていく。
バリアが破れたその景色の中で、マトイはレヴィに銃口を突き付けられていた。
「ここのダーカーはレベル70……なのに倒せるなんて……」
レヴィは他のアークスとは違う。
マトイが話している間も容易に銃を撃ち抜き、避けられても直ぐにまた撃ち、彼女がバリアを貼れば剣を突き立てて破ろうとする。
その中で、レヴィは手つきとは結び付かないような余裕そうな顔で話していた。
「へー、70なんだここの奴って。
もっと上かと思ったんだけど、エリア次第かな」
マトイがロッドを構えると共にまた戦闘が始まる。
レヴィは淡い暗がりに浴びる光を避けながらチャンスを伺ってはすぐに攻撃し、また退いて、そして再び攻撃して、を繰り返し続ける。
そして口の方はと言えば一切止まる気配はなく。
「にしてもエネミーのレベルシステムって解せないよねぇ。ダークファルスなんてレベルで表せるものじゃないのに、対峙したらレベル1のアークスを基準にした撃退出来るまでの予測体力数が演算されて、自動的にレベルが出るんでしょ?」
喋れば相手の動きが抑制されるという人間的な弱点を誘発させるように、集中を削ぐようにただひたすら言葉を紡ぐ。
いまレヴィが見せられる手札は少ない。ローズウェポンもマジックも使えない。だから少ない手札の中でどう戦うかを考えた結果、音楽の代わりに出した物が喋ることだった。一番簡単で即興に用意出来るから。
「それってあくまで撃退するだけで殺す訳でもないのにさ、考えてみなよ。数年後にレベル100のダーカーが出たとしたら、逆説的に低レベルのダークファルスは一般ダーカーより弱いってことになるかもしれないんだよ?それっておかしくない?だったら、実際殺せるまでの数値を計算して出せばいいのにって思うんだけどさ。だって、アークスだって現生種だってそうでしょ?」
「……」
レヴィはダークファルスではない。ダーカーでもない。ましてやクローンでもない。彼女はマトイの中で倒す理由にはならない。
だからマトイはかなり手加減をしている。レヴィの話も聞こうとしている。
それがレヴィの作戦が通る根拠だ。
あのシミュレーションとは違う現実の戦いで、レヴィがマトイに【敗者】だと誤認させるメリットはない。今のところは。
「レベルシステムに記載されたレベルは見た通りなんだよ。あんたはレベル75の頑丈女でわたしは一撃食らったら終わりのレベル1。それは事実なのにダークファルスは欺瞞の数字。フツー、ダークファルスなら最低でも十万くらいないと可笑しいのにさぁ」
そしてレヴィが望む通り、思考を促すような話題にマトイは考え込んでしまい、思考の活性化と共に腕が鈍る。
「きゃっ!」
その瞬間を狙ってテクニックを弾き返すとマトイに直撃し、畳み掛けるようにレヴィはライフルを構え撃ち続けた。
「殺してやるんだから……!!今、わたしが……ここでっ!!」
今度は間違いなく殺す、その決意が彼女の中に拡がるとレヴィはアイゼンハートをブラックローズの内剣に似た形に変え突き立てる。
「っ!」
マトイは間一髪の所で避けたがレヴィはすぐに剣を振って防具を割り、転換で生み出された刃が辺りを囲むと一斉にマトイの方へ向かう。
「無駄!無駄!無駄!アークスなんて所詮欺瞞!どうせ刺せば死ぬ癖に無駄に喚いて足掻いて当たり散らして……!!」
もう無理だ、とマトイは決意した。
もう手加減は出来ない。
「……っごめんなさい!」
マトイはクラリッサを掴むと範囲テクニックを発動し、レヴィの生み出した刃ごと彼女を弾き飛ばす。
マトイにとってはレスタで治せるあってないような物だが、レヴィは違う。
彼女にとっては一撃で致命傷だ。市民よりも脆い。
「ッうぐ……」
マトイから放たれたその眩しすぎる光は彼女の腹にぶつかり貫通し、跳ね飛ばされた先には赤い雫が溜まる。
「はぁっ、はぁっ……」
どくどくと溢れ続ける血も傷跡も見る間もなく懐を探り、スケープドールが手に当たった瞬間取り出す間もなくすぐ起動させた。
スケープドールの光が失われ、傷が無かったことになっていくその僅かな間でレヴィは表情をからりと変え、いやらしく笑みを浮かべる。
「……ふふ、……ふふふっ!馬鹿だねぇ……ははっ!」
朱の色に染まった服を纏い、けらりけらりと笑い転げた先、レヴィは髪をくしゃりと動かすとアイゼンハートの転換能力を使い一瞬でマトイを縛り上げた。
空気中にここまでフォトンを貯めるのには時間がかかった。死にかけるくらいにはそう。だが、それだけの時間稼ぎをした価値がある。
「きゃっ!」
「謝ったって無駄なんだよ。どーせ謝ろうが泣こうが誰もやめたりなんてしないんだしさ」
マトイは拘束から抜け出そうと身を捩らせ、最悪素手でも構わないとテクニックを発動させようとするがうんともすんとも言わない。
アイゼンハートは常にフォトンを求めており、マトイがテクニックを紡ごうとした瞬間のそれを狙って奪い、拘束を続けていた。
だから彼女がもがけばもがくほどレヴィの思う壺。
レヴィは遂にあの筆頭腰巾着を捕まえたかと思うとその高揚感は有頂天に達し、彼女は恍惚に顔を染め、楽しげにマトイからクラリッサを奪い取った。
「どうして……、ずっとここに居ようとするの……あなたは一人で出られると思ってるのっ?!」
武器を失ってもなおマトイの意思は尽きない。
それに対してレヴィが掴んだ瞬間本物の白錫クラリッサは一気に輝きを失い、広がっていた惑星のようなフィールドは閉じ、殻に籠るように静まった。
「未来のことなんかどうでもいいの……」
レヴィはそれでもなおそのクラリッサをマトイに向ける。内側から滾るそれはフォトンではない。
――この女さえいなければ、二代目クラリスクレイスさえいなければ、【敗者】は……。
「お前を殺せば……」
クラリッサのコアが悲鳴を上げる。グラン類似エネルギーの輝きがレヴィを覆うがそれはどこか痛々しく、普段のエクスタシーに近い煌めきとは違い苛立ちと焦りが滲み出る闇の因子に近かった。
「お前を殺せば、全部が良くなる……!!」
わたしが頑張って、あの苦しみや悲しみを消せるのなら――マトイに届いた波は殺意でも憎悪でもなくそれを超越する何かであり、クランシーのようにクラリッサから剣が生み出されるとマトイの方へ降りかかる。
「っ!!」
絶体、絶命。
マトイは逸らすようにキュッと強く目を閉じたが……
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる