※この作品はR-18です。

MIDNIGHT   作:Libby博士

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6話(3)

 

 じくり。頭が痛くなった。

 

『本当に、そう思ってるの?』

 

 レヴィの頭の中に低く落ち着いた見知らぬ男性の声が響き渡ると、レヴィは思わずパッと顔を上げた。

 聞き覚えがある。

 あの時声を掛けた、自称理解者。

 

「誰?どこにいるの?」

 

「……?」

 

 レヴィは自然にクラリッサを手から落とし、きょろきょろと辺りを見渡す。

 マトイはそれを怪訝な様子で見ていた。

 しかし声の主は姿を表さないまま、再びレヴィへ声を紡ぐ。

 

『たった一人殺しただけで、変わると思ってるのか?』

 

「少なくとも、今よりはマシになる……」

 

『でも、本当は違う』

 

『本当はただ、褒められたいだけ。振り向いてもらいたいだけ』

 

 体の制御が取れない。他の音が何一つ聞こえない。その声が紡ぐ言葉で無理やり思考させられる。

 

「わたしはただ計画のために……!」

 

 それでも、その声が言う言葉は違うはずなのだ。ただ救われた分だけ報われて欲しいだけで、何かできることがあればあるならしたいだけで、手を伸ばしたいだけであり、そこに返済なんて……

 

『彼から愛されたいだけだろ?』

 

「ッ!」

 

 ひゅ、とレヴィの喉を空気が通り抜ける。

 彼女は虚空を見つめたまま焦燥に顔を染めており、頭の中に響く声を無視できないままただ空に向けてブツブツと話し込んでいた。

 

「ね、ねぇ……どうしたの?」

 

 そのあまりにも異様な様子にマトイは思わず声を掛けるが、レヴィはそれに見向きもしない。

 

『おいで……』

 

「……」

 

 その声は頭の中に響く幻聴から彼女を取り囲む空気のようになり、音は振動して彼女の頭を揺らし耳の中を擽り筋肉の動きを混乱させる。

 

『ここまで、おいで。おいで、おいで、おいで……』

 

 その声はついにレヴィの全体に広がり、立体のスピーカーで常に声を掛けられているように感じた。

 誘うようなその声に、レヴィはその欲望を感じ取り……

 

「……うん」

 

 虚ろに返事をすると、フラフラとあらぬ方向に歩き出す。

 武器も落とし、身一つのまま、行ったこともないどこかへ向かおうとするレヴィに思わずマトイは立ち上がりアイゼンハートを掴んだ。

 

「待って!」

 

 マトイを縛っていた糸はレヴィの意識無しで持続できるような拘束じゃない。あっという間に解かれたそれは霧散していき、マトイが掴んだ瞬間アイゼンハートは鉄屑のように光を失い静まり返る。

 

 しかしレヴィはマトイの叫びに足を止めることはなく、ただひたすら導かれていた。

 【敗者】によって止められたあの時とは違う。

 レヴィはマトイの言葉じゃ止まらない。

 

『君は救いたいんだ……』

 

 響き渡る声はレヴィの四肢を動かし、彼女の奥底を覗き語り掛ける。

 

「救い、たい」

 

『光のある場所へ導く、成功への道標になりたいと願っている。抱える闇を全て背負い、怒りも苦しみも悲しみも全て自分が肩代わり出来ればいいと願っている。その痛みと虚無の全てを背負い、消えればいい……そんな高潔な願いを抱いていると……』

 

『勘違いしている』

 

 ふらりふらり。無防備な状態で歩いているというのにダーカーはレヴィを見ても攻撃せず、ただ佇んでいるだけ。

 

『本当は褒められたいだけだ。誰よりも貢献したと思われたいだけだ。彼の中にある一番大きな領域の全てを君自身で埋めつくしたいだけだ。だから、愛されたいだけなんだ。嘘をついちゃいけない。愛されたいだけ。ただ抱きしめられて、キスして、セックスしたいだけだ』

 

「うん……」

 

「行っちゃダメ!待って!」

 

 それに対し、マトイが傍を通ろうとした瞬間……全てのダーカーは一斉にマトイの方へ目を向け、一気に襲いかかる。

 

「フォトンの量が違かったとしてもこれは変……!もしかして、ダーカーに呼ばれてるから……?!」

 

 マトイが握り締めたクラリッサは再び強い輝きを取り戻し、極光を浴びて煌びやかにフォトンを紡ぐと光のテクニックが紡がれていく。

 

 そんな中、レヴィは未だフラフラと目が覚めぬ様子で導かれていた。

 

『大きくて、固くて刺激的で、でも誰よりも甘くて優しい彼に、愛されたい……』

 

「……」

 

『その低い声が紡ぐ名前が自分だけであってほしくて、自分が努力した全ては彼の為に実って欲しくて、でもその賭けた労力の全てへの報いになるような代価を欲しいと願っている』

 

「代価……」

 

 レヴィの頭には【敗者】だけが映っていた。

 彼がレヴィの頬を撫で、にんまりと笑い、その暖かな体で寄り添ってくれるさま……

 そんな愛しい彼のことをただ焦がれていた。

 

『交際したい、結婚したい、……子供を産みたい。そんな願い。そんな願いのためなら君はなんだってする。でも、願いの本質はいつだって決まってる。愛が欲しい、それだけなんだ……』

 

「彼に……アイサレタイ……」

 

 愛されたい、それはそうだ。だって愛しているのだから。一方通行なんて体裁でしかない。責められたくないからそう言っているだけで、本当は愛されたいに決まっている。

 レヴィの頭はそんな心情で埋め尽くされ、湯が沸き立つようにぐらぐらと思考は揺れ続け、足取りは覚束無いままある区画へと入った。

 そこにあったのは、赤黒い形をした大きな渦……。パッと見たところファンジトラップのようだが、渦の先は深遠のように真っ暗で何も見えない。

 その渦は常に蠢き、手を伸ばせば絡み付いて内側へ引きずり込むようなおぞましい見た目をしていたが、レヴィはふらつきながらもまっすぐその方向へ進んでいた。

 

『気づいているだろう?君にとって正気は狂気で、狂気こそが正気。今の君は狂気に飲まれていて、だから正気で、苦しくてつらくてたまらない……』

 

 声はレヴィが呑まれるまで響き続ける。

 彼女が目覚めないように、執拗に何度も、彼女の思考を揺らすように語り掛ける。

 

『君はずっと狂った正気の中で生きてきた……

君の中には常に同じ歌が聞こえてる。全員が死に、全員が不幸になる歌を』

 

「……」

 

『それでも彼に愛されたい。人でなしでも、生きる価値がなくても、彼から抱きしめられて、彼からキスをされて、彼から一番愛されたいと願っている……』

 

「……うん」

 

 レヴィの足はどんどんと早くなっていき、遠く感じていた渦はもうほとんど目の前で。

 マトイは襲いかかる大量のダーカーを殲滅しながら手を伸ばすが、彼女に向かって届く様子はなく。

 

『なら、おいで。私こそが君の理解者。私こそが、君の夢を叶えられる。君はこれから、彼に愛される……』

 

「愛される……」

 

 レヴィの好きな落ち着く男性の声が段々揺らいでいき、男性と女性の入り交じったような異様な声質に変化する。それでも彼女は気にも留めない。もはや思考はひとつだった。

 

『愛が欲しいでしょう?愛されたいでしょう?愛されたい……そう、彼に愛されたい……』

 

「アイサレタイ……、」

 

 レヴィがそう呟くと、渦はゆっくりと広がり彼女を許容するように漆黒の穴から赤い目が覗く。

 欲望を叶えるためのシンプルな終着点と、それに至るために必要な些細な行動。

 

「愛されたい……わたしは……わたしは……あの人に……」

 

 思い悩んでいたことがこんなに簡単に叶うのならば、手を出さない理由なんてない。

 レヴィは足取りを早め、そして手を伸ばした。

 そこへ届けば願いは叶う。そうすれば幸せになれる。

 そうすれば、愛される。

 

「――に……!!」

 

 しかし、渦に呑まれるその瞬間。

 大きく風が吹き荒れると、レヴィの体を何かの強い力が引っ張った。

 

「っあ……」

 

 ギラギラと輝く金色の鎧。艶やかに広がる黒い羽根。首筋を覆う金色の輪。

 有翼型ダーカーの一体……ブリュー・リンガーダが彼女の体を掴み、渦から無理やり引き剥がしていた。

 

「ッ!!ダーカー?!」

 

 マトイは突然現れた大型のダーカーに目を向けると、次の瞬間マトイを襲っていたダーカー達を覆うように有翼型のダーカーが飛び込んできた。

 

「ううん、今なら……!!」

 

 その隙を付いて、マトイは飛び出す。

 クラリッサを握り締め、ひたすらに走り込む。

 

『おいで、おいで、君の欲しいもの全部あげる』

 

 ブリュー・リンガーダが引き剥がしてもなお、レヴィの頭の中には声が響き続けていた。

 その声はレヴィの体を無理やり動かし、彼女は釣られるようにゆっくりと声を漏らす。

 

「今、……行く……」

 

 だが、それすらも防ぐように地面からつんざくような着信音が鳴り響いた。

 ブリュー・リンガーダに引っ張られた時に落とした、レヴィの端末。

そこから最大音量で、止まることなく音声通信のコールが鳴り続ける。

 

「端末が……!」

 

 マトイは慌ててそれを拾いに行った。

 通信が届くというのなら、この場こそレヴィの言う"外部と連絡が取れる場所"に他ならない。

 折り畳まれたそれを開いて画面を見ると、そこには真っ暗なロック画面と共に、Luonの文字が表示されていた。

 

「知り合い?」

 

 着信を取るか切るか。

 選択肢は二つだったが、マトイは迷わず着信を取る。

 通話が繋がった瞬間、マトイは驚いて尻餅をついた。

 

 幻覚のような何か。

 端末から何かが勢いよく飛び出し、それがレヴィの方へ飛び込んでいくように感じたからだ。

 しかし、実際に何かが飛んで行ったことなどはなく。

 代わりに、響いたのは声だった。

 

『レヴィ!!』

 

 たった一言。彼女の名前を呼ぶ、既視感に溢れてたまらないその男の声は、この場にあるどんな雑音よりも鮮明にレヴィの方へ響き……

 

「ッ!!」

 

 レヴィは振り返った。

 呼(・)ん(・)で(・)い(・)る(・)。大切な人が、自分を呼んでいる。

 その瞬間、レヴィは自分の目の前に立ちはだかる大きな渦に気付いた。

 いつの間にこんな場所へ。

 

「はっ、わ、わたし、何して」

 

 とめどなく響いてくる声が、今のレヴィにとっては雑音に聞こえた。

 レヴィは離れようと足を動かすが、蠢いた渦が彼女の足を掴み、引きずり込もうとする。

 

「きゃっ!この……!」

 

 レヴィは懐を探るが……ない、ない、ない。

 アイゼンハートがない。

 その瞬間顔面を蒼白させ、レヴィが慌てて振り返ると、端末からもう一度声が響く。

 

『あれくらい、さっさと壊せ……出来損ない!』

 

 マトイにとっても異常に聞き覚えのある声。いてはならない声。絶対に存在してはならない声。

 だが、その声を聞いた瞬間違和感を超えて比類なき闘志が湧き上がった。

 頭の中に波のように強く声が響き渡ると、マトイはクラリッサを掴み、渦に向けて気高く構える。

 

「あんなもの、すぐ壊してみせる……!!

光よ!」

 

 そして紡がれた光は一斉に渦を埋めつくし、レヴィの足を掴んでいたそれを引き剥がすと、偶然を装ってかタイミングよく有翼型の小さなダーカーが飛び込んできて、レヴィを離すように突き飛ばした。

 

「うっ!」

 

 しかし、その渦のような何かはまだ諦めずレヴィへ声を出し続ける。

 

『どうして来ないの?今じゃないと、もう二度と愛されないかもしれないよ?』

 

「ちがう、……わたしは、わたしは、ただバディで居たいだけで……」

 

 その渦はレヴィへ洗脳の言葉を紡ぐ前に、光のテクニックによって焼き尽くされた。

 晴れた景色の中、まるで最初からいなかったかのようにマトイを妨害していたダーカー達は消えており、その場には有翼型のダーカーと二人だけが残されていた。

 とはいえこの場は危険だ。何せまだダーカーは残っているから。

 マトイはレヴィに駆け寄り、サッと手を伸ばす。

 

「大丈夫?!すぐここから……

ッ!!」

 

「かっ、……返して!!」

 

 マトイの腰にアイゼンハートが携えられていることに気づきレヴィは慌てて奪い取ると、それをギュッと抱きしめて守ろうとする。

 しかし、そこに足音が聞こえてきた。

 しかも複数……武器を携えた上で。

 

「あの人たちもアークス?

……いや、違う……!」

 

 マトイはそのアークス達に強い違和感を覚えた。

 空っぽで殺意に埋め尽くされたそれらは、見慣れたコモン武器を取り出すと、マトイ達に向けて構える。

 あれはマトイやレヴィとは違う。

 かつてここに居たアークスで、データを収集された上で造られた存在……

 

「あの人たちは、アークスじゃない……!」

 

 アークスのクローンだ。

 マトイがそれに気付いた瞬間、クローンの放ったランチャーの弾が二人に襲いかかる。

 マトイは直ぐにバリアを貼り、防いだあとクラリッサを構えすぐに応戦を開始した。

 

「た、……戦わ、ないと」

 

 レヴィもまた立ち上がろうとした。アイゼンハートを起動させて、戦わなければならない。彼女の景色に映っていたのはアークスだ。混乱する意識の中で彼女はまだあの人間がクローンだとは気付いていない。

 アークスなら、真っ先に倒さなければならないから。

 

 だが、レヴィが立ち上がる前に頭が割れるような頭痛が襲った。

 

「うぅうっ……!!何……!!」

 

 またあのよく分からない声のせいなのか、もう消えたはずなのに何がしたいのか、そんな事を考える暇もないくらい、レヴィの頭は激しく痛みを訴えた。

 

《独りは……》

 

 目の前の景色が揺れる。聞こえてきたのはあの幻聴ではない。自分の声だ。

 

《独りは寂しい……》

 

 薄い金色の髪も、小さな背丈も紛れもなくレヴィそのものだが、見慣れないくらい髪は長く、視界に映ったのは宇宙の全てだった。

 レヴィは霞む世界の中でレヴィらしき何かが宇宙を背景に何か喋っているのをただ観測することしか出来なかった。それ以上に余裕なんてなかった。

 

《あなたがそばに居て欲しい……》

 

 自分であることが気持ち悪いと思うくらい柔らかく切ない声で、レヴィらしき何かは言葉を紡いだ。

 

《あなたが好きだと言ってくれた分、わたしだってあなたの事が好きだから……》

 

 あの渦が見せる景色にしてはリアルすぎるし、かと言って心地のいい幻覚にしては悪趣味すぎる。

 レヴィらしき何かはゆっくりと振り向くと、レヴィは其れの顔を見た。

 

《愛してる》

 

 自分とよく似ているが、それは獣のような耳を生やし、焦点の合わない目を誰かへ向けていた。

 美しい黒のドレスが暗闇の宇宙に尾を引いていき、神々しく切ない何かが佇む中、彼女は誰かに話しかけている。

 つまり、話し相手がいるわけで……

 

 其れの紡いだ愛の言葉に返すように、低く蕩けるような声が共鳴する。

 レヴィは其れと向き合う何かを観測した。

 血よりも赤い瞳と、涙のようなタトゥー。

 白衣のような白いコートに、長い髪を揺らしたその男は……

 

《僕も君を……愛している》

 

 紛れもなく、【敗者】だった。

 

「ッ!」

 

 レヴィは劈くような耳鳴りと迸る痛みの中でふらりふらりと立ち上がる。

 

「は、……ははっ!」

 

 ――なんだ、なんだ、なんなんだ。

 さっきからなんなんだ、これは。

 嫌味か嫌がらせか侮辱なのか。

 こんな物ばかり見せてきて、バカにしているというのか。

 

 報われたい?愛されたい?そんな物を何故我慢しているだけだと宣う?解放すればいいと言う?それも、人の感情を物のように扱って、簡単に手に入るだの失うだの言うやつらになぜ語られる資格がある?

 愛とは罪だ。晒せば死刑になるだけの犯罪だ。

 だから隠す。責められたくないから、死刑になりたくないから隠す。たかだか貰えないからと我慢している訳ではない。

 それは"自分"にとっての覚悟だ。

 

 それを、誰かも分からないやつが、知ったことのように語りかけて、大切な人の気持ちや言葉を都合のいい餌のように扱って……

 

「ふざけんなよ……」

 

 レヴィはアイゼンハートを構えた。

 気持ち悪い。至極気持ち悪い。キモイ、キモイ、キモイ……

 

「愛とか恋とか物みたいにポンポン貰えるってなら……」

 

 レヴィの抱えた感情はアイゼンハートを煌めかせ、辺りを大きく包み込むと、大剣に変化し。

 

「こんなに苦労するワケないでしょうがぁあああああッ!!!」

 

 レヴィは当たり散らすようにアークスのクローンへ飛びかかった。

 

「っ!よかった!」

 

 大きく叫び声を上げ飛び込んできたレヴィにマトイは一瞬驚いたが、レヴィの目に光が戻った事を察すると顔をぱっと明るくさせた。

 しかしレヴィはと言えば、マトイと目が合うとサッと逸らして敵を見る。

 

(アークスのクローン……アイツの差し金?リンガを連れてきたから撹乱のためか……)

 

 どういう意図かは分からないが兎にも角にも好都合。

 今ならマトイを確実に殺れるはずだ。

 

「ふふっ」

 

 レヴィは一度攻撃したあとすぐに退き、体勢を伺うような挙動を見せながらアイゼンハートを銃に変える。

 

「わたしはいつだって急所狙いなんだから……!」

 

 クローンは八人ほど。人数差四倍の戦力差大体二倍。だが現状リソースは全てマトイに集中している。今なら殺れない道理などない。

 マトイの背を見ながら彼女は銃口を上げ、後頭部に構えると引き金に指を掛ける。

 

「あっ……」

 

 しかしレヴィが引き金を引こうとしたその瞬間、マトイはクローンに突き飛ばされて体がよろけた。

 そして止める暇もなく撃たれたその弾はマトイの頭上を通り抜け、クローンの眉間に一発で当たり完全な致命傷を負わせる。

 

 完全に偶然。だが結果的に言えば失敗どころか最悪。

 

「あ、ありがとう!」

 

(ちょっと!キルスコアがマイナス1なんですけど!?)

 

 ここまでありとあらゆるものに踊らされてきたレヴィは完全に取り繕う気力もなく、マトイからの言葉にも完全に素の舌打ちで返しアイゼンハートを掴む。

 マトイが再び背を向けたその瞬間、アイゼンハートは霧のようにレヴィを包み、そして彼女が懐から取り出したそれにまとわりつく。

 

 アイゼンハートは形に囚われない。造花にもバイクにもなれる其れが、武器を隠すための膜のようなものになれるのはある意味当然のことだろう。

 

 ブラックローズ。彼女はそれをアイゼンハートで包み込んだ。傍から見ればアイゼンハートと何ら変わりなく、創世器の輝きもアイゼンハートによってもたらされている。

 だが中身は違う。そこにあるものはローズウェポン……つまり、レヴィが作り出したアークスを殺すための武器だ。

 

「……」

 

 アークスのクローンはダーカーとは違う。

 積極的に攻撃しヘイトを持つマトイを優先して狙っているが、レヴィが狙われないわけではない。

 

(また増えた……)

 

 新たに現れたそのクローンはマトイに向かう前にレヴィの方へ斬りかかってくる。

 ブラックローズを構え、クローンの体が宙に浮く中、レヴィはその傘の先を心臓に合わせ、一気に撃ち抜いた。

 大穴が空くほどの激しい弾がクローンの体を一気に貫くとブラックローズを両手に持ち、バットで球を打つように思い切り打ち付けて投げ飛ばす。

 

「手伝わないで」

 

 レヴィは視界の端でちらつく有翼型のダーカーに向けてそう言うと、再びブラックローズを構えた。

 【敗者】に見られていることはわかっている。危ない状況になればすぐ眷属を通して【敗者】が支援してくることだろう。だが違う。そうではない。

 心配しているから眷属を傍に置いているのではなく、レヴィにアークスを殺せるだけの力があるのか試されているのだ。

 こんなたかだかクローン数体程度も蹴散らせないようじゃルビィなんて殺せない。それが【敗者】の意思だろう。

 であれば選択肢はひとつ。殺るしかない。

 

「ほんっとムカつくんだから……!」

 

 その戦闘は二代目クラリスクレイスであるマトイですら目を引くものだった。

 ダーカーと戦っていた時とは比べ物にならない。まさしく人を殺すことに特化した、人と戦うための戦士。

 人間の大きさやフォルム、挙動や行動パターン、その全てがレヴィにとって一番最適な相手として合致し、それは彼女が現生種やダーカーに対しては苦手どころか舐めていると感じさせるほど卓越した実力を持っている。

 

 マトイはその姿に見とれていながらも不安を感じていた。

 それは今までにないアークスの形だ。

 人を殺すことに手馴れたアークスなど不気味すぎる。

 

「きゃは……」

 

 いつの間にか全てのヘイトをレヴィが受け持ち、彼女があっという間にクローンを殲滅し尽くした。

 マトイはダーカーを倒そうとレヴィから目を離しクラリッサを向けるが、そこに有翼型のダーカーは影も形もなく。

 

「……」

 

 戦闘が終わったと感じると、レヴィはそっと口を開く。

 

「二手に分かれましょう」

二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。

  • 続編として作品を分ける
  • 分けないで一つの作品でまとめる
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