結局全身洗うことになり、シャワーを浴びながらレヴィは【敗者】から言われたことを思い出す。
風呂を浴びなければ臭いが……と。
だが今なんて一番時間がない時だ。下半身のアンモニア臭を取り除ければそれで構わない。
「……」
久しぶりのセックス。久しぶりの甘い時間。
レヴィはどこか恍惚とした表情でぼんやりとそれを受け入れていたが、曇った鏡にシャワーが掛かり、自分の姿が鮮明に映されるとハッと気を戻した。
(落ち着かないと……)
レヴィは頭を横に振り無理やり足を踏み出すが、シャワー室の扉を開けた瞬間【敗者】がバスタオルを持ってレヴィに差し出してきた。
「着替えも用意している。早くしろ」
「あ、ありがと」
【敗者】はそれだけ言うとレヴィとすれ違い、今度は彼がシャワーを浴びに行った。
そういや彼はろくに体を洗っていなかったのである。
彼は半身のシャワーだけで済ませ、レヴィが体を拭き髪を乾かしている間に帰ってきていた。
「……」
レヴィは【敗者】から貰った着替えを手に取り、そっとその服を眺めた。
相変わらずの高級そうな生地で、完全に整ったセットアップの服だ。
レヴィはそこから面倒な後付けのリボンやアクセサリーを傍に置き、サッと着替えると髪を擽る。
【敗者】ならどうするのかはだいたい予想が着く。
だが【敗者】はチラチラとレヴィを見つつも手を出すようなことはなく、退屈そうに外を眺めていた。
それもそうかとレヴィは溜息をつき、結ぶこともなく簡単に服を整えると、【敗者】の元へ戻る。
「準備は出来たか?」
「うん」
そんな簡単な会話の後、二人は何も言うこともやることも見つからず静寂の時間が流れる。
「……船に付けた不可視の概念っていうのは、中にいるわたしたちも見えないことになるの?」
「あぁ。それは外装にしか付与していない。
だからもし外部から人が来たとすれば、そこにあるものが見えなくても何かがあることは分かる。扉に手を触れられれば、扉は開く」
「そう、……よかった。筒抜けだったら、全裸でシャワー浴びてる姿晒されてたってことだし」
「そうすると貴様はいいが僕が困るだろう?」
「わたしだって困るっての!」
ふん、とレヴィはそっぽを向くと、【敗者】を無視して船から出ることにした。
マトイがまだダーカーの巣窟に残っているならこのエリアに入らせる訳にはいかない。
事は終わっていない。独りでやるべき事をやらなければ。
しかし、彼女の予想に反し【敗者】はレヴィの後ろに着いてきていた。
「……【敗者】?」
【敗者】はぼんやりとレヴィを見下ろす。
お風呂上がりのレヴィからは女の子の柔らかなフレグランスの匂いがして、髪は艶めいており、体は明らかに柔らかそうだった。
服は地味で髪もストレートのままだったが、それでもどこか可愛らしく見えた。
「行くのか?」
「そりゃ、行くでしょ。それ以外に選択肢あると思う?」
「……」
しかし【敗者】はまだどこか寂しそうで、構ってほしそうなオーラを感じた。
なのでレヴィは内心ほんのり焦りつつも、彼が放っておけずそっと声を出す。
「【敗者】はさ、その……
からだ、まだ、熱い?」
レヴィは【敗者】の顔から手先へとゆっくり視線を移しながら、静かに返事を待った。
やっぱり、今は何か"イヤ"だ。
【敗者】は形容することも出来ない違和感を抱えると、それを打ち払うように返事をする。
「熱くない、というのは嘘かもしれないな」
「【敗者】、わたし、その……あの、……」
貴方に触っていい?なんて声が出る前に、レヴィの手首が掴まれ【敗者】の顔が一気に寄った。
「ひゃっ!」
「……、互いに熱を冷まそうか?」
【敗者】の腕に抱えられたレヴィの顔は上気しており、雰囲気も柔らかい。こうすると後ろめたさで段々イライラしてくるが、"イヤ"は感じない。
「いやっ、もうエッチはだめで……」
「喧しい」
「んっ!?」
何を勘違いしたか襲われると思ったレヴィは抵抗しようとするが、あっという間に【敗者】の顔が彼女の視界を覆うと次の瞬間には唇が重なっていた。
有無を言う前に【敗者】の舌が滑り込み絡め取るとレヴィの口を一気に侵食する。
「っんむ……♡ちゅ、んっ……♡」
【敗者】の手はレヴィの腰を抱え、彼女の手首を掴みながら背にそっとバリア障壁を出すと、彼女をそこに押し付けて更に密着した。
彼は衝動的に手を伸ばし、レヴィの小さな胸をふにふにと揉みしだく。
「はぅ、っ、ん……♡るぅ……♡♡」
44度のシャワーよりも熱い接吻が冷ますどころか更に暑くしており、唇を話しても二人は火照った眼差しで互いを見つめていた。
「はぁ……、もっと早く調査するべきだったな。貴様の言う幻聴の正体が、ダーカー兵器だったとは」
「仕方ないよ、新種なんだし……っん、……♡」
ディープは辞めてもキスは辞めない。
ちゅっちゅと啄むようなキスを何度も行い、二人は指を絡めて繋ぐとまた懲りずに唇を合わせる。
「もしあそこに取り込まれていたら、生きて帰ることはなかっただろう……。どういう揺さぶり方をされたとしても、最終的に行き着く答えは同じだ」
「別に、一人ならあんくらい現実的に考えてありえないってすぐわかったし」
「世迷言を……。それが助けられた奴の言う言葉か?」
そう言われるとレヴィは拗ねたように顔を顰め、体を捩らせる。
「迷惑なことくらい分かってるよ、でも一人でやれって言われたら別に一人でだって出来たし……」
「そういう問題じゃない」
「……」
レヴィが彼の元から抜け出そうとした瞬間【敗者】はレヴィの腕を握って無理やり引っ張り、彼女が痛そうに顔を顰めても構わず肩を掴んでじっと目を合わせた。
「心配したと言っているんだから、素直に受け取れ。文句ばかり言って避けても鬱陶しいだけだ。
この僕がわざわざ言ってやってるんだぞ?感謝の一つも言えないのか?」
【敗者】がどんな対応を取ろうが心配したことに嘘はない。
彼女は相も変わらず【敗者】にいいように言いくるめられて、お得意のホラ吹き戦は負けばかりだ。
なんなら実戦でもほぼ負け戦。幸運のくせに肝心な時に運がない。
いや、勝てない戦で生きて帰れるのだからある意味運がいいのかもしれないが。
「……ありがと、その……助けてくれて」
「……」
レヴィが恥ずかしそうにおずおずと肩を竦めながら呟くと、【敗者】はゆっくりと手を開き、そして彼女を抱きしめる。
「……レヴィ」
「どうしたの?」
【敗者】は彼女が今ここにいるという事を実感しながら、今日のことをゆっくりと思い出していた。
レヴィが自分のいない、自分が向かうことの出来ない場所で危険な目に遭ったこと。
愛だなんだという言葉に釣られ、レヴィがそれを求め自分を失いそうになったこと。
その対象が間違いなく自分でありながら、自分はそれから逃げているということ……
逃げて何が悪い。不本意な感情で不要な物。
そう思いながらも、【敗者】はもし彼女があのダーカー兵器に食われていたら、と想像するのが嫌だった。
――今ここにいて、生きているから平気なのだと自分に言い聞かせなければ不安を取り除くことが出来なかった。
レヴィは彼女本人が言うように捨て駒のつもりだった。少なくとも最初はそうだ。
でもなんとなく、その場にいて、それしか選択肢がなかったから拾った彼女が、共に過ごせば過ごすほど【敗者】にとって価値のある物のように感じられて、捨て駒でありながら捨てるのが惜しいほど箔が着いた。
だが仮に。
仮に、レヴィが本当に価値も滅多にないような無能だったとしたら……自分は代替を探していたのだろうか?
僕にとってレヴィとは、一体なんなのだろうか?
「……必要なんだ」
「え?」
「レヴィ……、僕には貴様が必要なんだ……」
レヴィが【敗者】の言葉に困惑していると、彼は脱力して彼女の肩に顔を埋め、まるで疲れきってもたれかかるかのように体を動かした。
まさかここまで打たれるとは、なんてレヴィは驚きつつも、腕を伸ばして彼の頭を覆い、そっと抱擁を返した。
「るぅ……」
レヴィの手は自然に彼の頭を撫で、彼の大きな体躯が自分の体を包み込むその抱擁感に溺れながらも、静かに彼へ寄り添った。
「ごめん……その、……ごめんね……」
【敗者】はその言葉を聞いて笑みを浮かべ、そっと顔を動かすとまたレヴィへ向け唇を寄せる。
策略か何かと思うほど都合のいい動きに、恋愛脳のレヴィは間違いなくイチコロにされていた。
「……いい子だ」
「っん、もう……っ、どんだけちゅーするつもりなの、あんたは……っ」
「はぁ……」
【敗者】の接吻は執拗で、今まで触れ合っていなかった分を埋め合わせるようにレヴィがどんな抵抗をしても構わず唇を押し付ける。
「しつこい……っ、んんっ……♡んぅう……♡」
レヴィは段々腰が反り上がっていくが【敗者】はそれに合わせるように姿勢を曲げ、レヴィのぷっくりとした唇を貪り狂ったように端から零れた唾液を舐め取る。
「心配したの、わかったから、わたしが悪かったからぁ……、っ、……舌入れないで、……ちょっとぉお……♡」
レヴィが抵抗すればするほど接吻は一層深くなっていき、この世界が自分たちだけしか存在しないと勘違いしてしまうほどに二人は深く絡み合いしつこく唇を交わす。
「……」
「るぅ、わらひ、ちゅーされるとだめなのぉ……だからもうやめてぇ……♡」
「どうしてダメなんだ?」
「どうしてって、……その、……えと……」
つかの間の休憩。レヴィは息を荒く吐きながらもどうにか言葉を紡ごうとし、蕩けた目で彼を見上げ申し訳なさそうに声を出した。
「【敗者】が、その、好きだから……」
その言葉を聞いて、【敗者】は僅かながら硬直する。
分かってはいる。分かっているが、それでも……
「あの、……わたし……」
【敗者】はその先の言葉を聞きたくなくて、言葉を呟く前にまた唇を塞いだ。
それでもレヴィは言葉を紡ごうとする。
「っん♡ごめ、……っ、ごめ、なひゃっ……♡んっ、んぅううっ♡」
「謝る必要があるか?」
「っちが、ひゃ、……ふぁっ、ん、……んんぅ……♡んっ♡も、らめ、ほんひょ……♡らめぇ……♡♡」
液体の絡むような音が静寂の空間の中で響き、二人はこれ以上もないほどしつこくキスをしたあと、互いの生殖器がそれなりの反応をしていることに気づくとそっと唇を離した。
「ふぁあ……」
レヴィから漂う明らかなメスの匂いと、己の下半身が張り詰める感覚。
熱を冷まそうと言ったのはどっちだったか。
「……抑えなければ……」
「はぁはぁ……抑えるって言ってるのにむしろ溢れてるんだけど……!」
それくらいの自覚【敗者】には当然ある。
あるがどうすればいいのやら。
そう考えていた時、【敗者】はひとつ閃く。
彼女のユニゾン波で、明確に"終わり"を定義すればいいのでは、と。
「だったら貴様で蓋をしてくれないか?」
「蓋?」
ユニゾン波と言うやつは感情のアウトプットである。
言うなれば言霊のようなものだ。
だから、それを扱えるレヴィが終わりであるという事を示せば、【敗者】の中の本能が彼女を求めてしまう気持ちも、高まる欲望も、みな自然になくなると思ったのだ。
「……キスだ」
というわけで【敗者】は大真面目に言ったつもりなのだが、レヴィはそれを聞くと「あんた何言ってんの」と言わんばかりの怪訝な目を向け、ぎょっと体を離す。
「く、唇に蓋をって……詩的表現で遊んでる暇なんてないんですけど?!ばか!最低!」
「いや、ダーカー因子をグラン類似エネルギーで……」
レヴィは完全に【敗者】が馬鹿なことを言い出したとしか思っておらず、彼の弁解を聞く前に一歩二歩と下がっていく。
【敗者】は誤解を解こうと手を伸ばすが、それがまた己を掴んで無理やりキスしようとする挙動に見え、レヴィは慌てて声を荒らげた。
「もっ、もう!アイツならわたしが止めてくるからあんたはそこで大人しく引っ込んでて!!おバカ!バカバカバカ!バカるぅーさぁーー!!」
「馬鹿はどちらなんだか……」
去るレヴィの顔は真っ赤で、【敗者】は呆れながらその場に立ち尽くし、彼女が居なくなるのをゆっくりと見守った。
結果的に言えば、熱は冷めたといっていいのかもしれない。
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる