突然レヴィと【巨躯】の目の前に空間侵食の反応が見られると、黒に包まれたある影が見えた。
其れはダークファルス戦闘衣特有の内側の薄いグレーの手袋を纏い、その張った手でレヴィの血だらけの手を包み込むと、レヴィへ声をかける。
「……来い」
『な、……貴様は……』
【巨躯】が相手を認識した瞬間、その顔を隠したダークファルス――【仮面】は、レヴィを抱え転移を行った。
「……」
――広がる宇宙から無機質な天井。
レヴィはあっという間に転移させられると、簡易ベッドへゆっくりと降ろされた。
【巨躯】とも【敗者】とも違う反応だが、アークスの気配ではない。
ダークファルス、仮面をつけている気がする……と、暗黒の視界の中でレヴィはなんとなく相手の顔が見えた気がした。
【仮面】はレヴィと彼女の背後にあるマグのようで違う浮遊体を交互に見つめたあと、青白いレヴィの表情をしばらく見つめてから、トリメイトを取り出して彼女へ押し付けた。
「ッ、な、なに」
「……飲め」
レヴィは渡されたそれをわけも分からず手で触れていたが、それが回復薬であることを悟るとボトルのキャップを震えた手で開き、焼け爛れた喉でゆっくりと飲み込んでいく。
「あ、……ありが、……と……」
嚥下の痛みは相当なものだったが、喉を通った瞬間少しずつ体が楽になっていった。
しかしアイゼンハートによって失った骨や臓器が元に戻る訳ではなく、今のレヴィの体はとても奇妙で、貫通した腹の穴から見える内側は空っぽだというのに何かが間を覆っていて、損なわれた部分がグラン類似エネルギーで補填された人間でもなければフォトン体でもない、よく分からない何かになっていた。
「……ダーク、ファルス?」
レヴィの声は柔らかく、先程まで喉が焼かれるほどの痛みを持っていたとは思えない。
明らかに生きていけない傷を負いながらもトリメイトひとつでまるで平常のように振る舞う彼女が【仮面】は不気味に見えて仕方なかった。
(本当にコイツは人間なのか?)
【仮面】はレヴィを訝しんでそう見つめてから、その疑いを仮面の下に隠してボソボソと小さく呟く。
「……私は【仮面】だ」
「【仮面】。【敗者】の言ってた……よく分からないやつ」
【仮面】はダークファルスの中でも異端の部類。【深遠なる闇】とは無関係の、フォトンの悪性変化によって生み出された特異的なダークファルスだ。
それ故行動指針も目的もよく分からず、同じダークファルスでさえ其れの目的を知るものは誰一人として存在していなかった。
「よく分からなくても、構わない」
【仮面】は淡々と告げたが、レヴィは其れの女性のような声が途切れると、薄くキャンプシップの動くエンジン音が聞こえ肩が跳ね上がる。
「待って!
……なんで、船が動いてるの?!」
「貴様の体でまだ戦うつもりか?撤退だ。後はアークスに任せろ。後でもう一度やればいい」
【仮面】は彼女の目論見をよく知らない。
そもそもレヴィにとっては【仮面】がなぜここにいるのかすら分からず、【仮面】もここまでの損傷でレヴィが己の望みを果たせるとは到底思えなかった。
だが、レヴィにとっては違う。
【敗者】を捉えた捕獲装置だっていつまで持つか分からない。それに二度も管制を騙してダークファルスを隠していたら怪しまれてしまう。
何より、レヴィには時間がない。
「ダメ!」
レヴィは衝動的に叫びを上げ、手をかざした。
瞬間船がガクンと揺れて止まり、彼女は起き上がれずとも床を這って進み出す。
「ッ、船が止まった?」
「ダメ、今戦わないと……今独りで【巨躯】を捕まえないとダメなの……!」
レヴィは切れた己の足を掴むと、手を振り、手術用の道具を引き寄せた。
やることは一つ。足の縫合だ。
「っ何を!麻酔もなしに……」
【仮面】は止めようとするが、レヴィは針を持って突き出し、その動きを無理やり止めた。
ダークファルスによって斬られた傷は非常に鋭く、挫滅組織はかなり少ないが傷口からダーカー因子の汚染が著しい。
だが基本的に順番としては再接着手術からの浄化だ。レヴィの場合は浄化を行うほどの余裕はないため、必然的に出来るだけ早いスピードで再接着手術を行うだけになる。
「止めないで!わたしはっ……っ、ぐ、……わたしは、体の中の、臓器全部……こうやって、麻酔なしで変えたことがあるんだからッ、……」
骨を繋ぎ、神経を繋ぎ、血管を繋ぎ、皮膚を繋ぐ。
相当な激痛が走るが、再接着手術は時間との勝負だということをレヴィはよく分かっている。
「だから、神経を繋ぐことくらいっ、……足を、……くっつける、ことくらい……」
今の彼女は盲目だが不思議と繋げるべき部分や細かな血管がよく見えていた。
マイクロサージャリーのような非常に卓越した技術や知識を持っていないと不可能な手術を盲目の状態で行うというのはあまりにも愚かの極みだが、レヴィの近くで浮遊しじっと彼女の足を見下ろしている黒いクラゲのような何かが、レヴィに感覚を与えていた。
だが出血量が多すぎる。足だけではなく全身に傷を負った彼女は血管を繋げる以前に出血死で死ぬほうがむしろ早かった。
「はぁッはぁッ……トリリオン情報体がないとやっぱ輸血に値しない、か……、へへ、……」
レヴィは自分で言う通り人工臓器への変換を幼少期に自分で行っていただけあって、人体の構造への理解と外科手術は非常に正確で卓越されたものであり、とても盲目とは思えないものである。
だからこそ、【仮面】も彼女がただ愚かなだけではないと察し、止めるのをやめて手を翳した。
「……【仮面】?」
【仮面】は彼女の体内のダーカー因子を制御して、侵食させる事で止血を行った。
【仮面】もレヴィとは別方向だがプロフェッショナルだ。
【仮面】のフォトン適正は他者を大きく超越し、吸収、放出、浄化、操作の全てがアークスの中でもかなり上位の方に値する。
それもそのはず、【仮面】はこの宇宙で最も強いアークスが闇に堕ちた姿なのだから。
「これで……少しはマシになる筈だ」
【仮面】はレヴィの方を見て複雑に顔を歪めつつも、言葉は淡々と紡いでいた。
【仮面】からするとやはりレヴィが不気味に見えて仕方ない。彼女の身体構造そのものは人間のそれと同じはずなのに、彼女が損傷し、精神や肉体にダメージが入るほど彼女は人としての体裁を保てなくなっていく。
医者が見れば奇跡の所業だと言わんばかりの技術でレヴィは足を繋げると、接合部分から光が漏れるように輝き、僅かな熱を伴ったあと……レヴィは足を動かした。
「ありがと、【仮面】」
大いなる陰を作りたいという意志の力が彼女の全てを支えている。
もし仮に足が完全に喪失していたとしても、グラン類似エネルギーによって再び補填されていただけなのだろうと思えるほど、レヴィの今の肉体状況は異常そのものだった。
【敗者】に見られればそれこそ本当に解剖されてしまうくらいには。
それすらも回避するのがレヴィの豪運なのかもしれない。
「……」
だからこそ【仮面】は期待した。
これほど異端で、他のどこにも居ないような存在ならば、決められた結末を覆せるかもしれない。
レヴィという観測されたばかりの異常値が行った些細な行動や言動でさえ周りを変えて、果ては宇宙を大きく変化させてしまうかもしれない、と。
【仮面】が今ここにいるのはそういうことだ。
本来その場に居るはずのない、どことも繋がりのないアークスがいつの間にか存在し、本来死ぬはずだったダークファルス【敗者】が生き、そして明らかに模倣体と思えないほど高度な判断力を持つダークファルスが生まれる。
それらは全て全知存在によって決定された時の流れや真理を冒涜するものであり、その冒涜がもし良い方向へ働いたのだとしたら……
「……本当に行くのか?」
「うん。行くよ」
レヴィは【仮面】にそう告げた。
彼女はアイゼンハートを握り、ブラックローズを握り、そしてゆっくりと歩き出すと搭乗口の前に立つ。
彼女に着いてきた黒いクラゲのような浮遊体も、当然のように後ろについて。
影を塗ったような黒い身体に白い目のような揺れる何かが【仮面】を見つめると、其れは触手を揺らしそっと背を向けるような動作を行った。
「……その選択に、貴様は後悔しないか?迷いは無いのか?」
「ない!わたしがしたいって思ったんだから、やって当然でしょ?」
レヴィの声は明るい。彼女は穴の空いた体も無理やり縫合された足もまるで取るに足らないもののように振る舞い、その暗黒の視界の中には最早野望以外の何も映していなかった。
「……分かった。……行ってこい」
「行ってくる!」
戦う理由は自分の快楽のため。でも体に穴を開けてまで踏ん張る理由は……
(【敗者】……わたしは、あんたを幸せにしてみせる!)
ダークファルス【巨躯】は破壊された甲板の上で佇んでいた。
彼は最早レヴィが戻ってくるとは思っていない。だがしかし襲いかかってくるアークスもおらず、退屈な状況でぼんやりと宇宙を見上げていた。
しかしそこに一筋の光が差すと、光のように思えた金色の髪が揺れ、レヴィが再び舞い降りた。
『……!戻ってきたか』
【巨躯】は五体満足風に帰ってきた彼女に驚きつつも、喜びを抑えられず思わず一歩足を踏み出した。
レヴィは銃を抜くとすぐさま眉間に向けて撃ち抜き、【巨躯】がそれを受け止めてから得意げに言葉を紡ぐ。
「当然……!!ほら、……何突っ立ってんの!殺すよ!」
『いいぞ……飽くなき闘争を我と共に!』
「……大いなる野望の為に!」
そうしてまた【巨躯】とレヴィは戦いを再開した。
状況が有利になったわけではない。
むしろレヴィは不利だ。
「くっ……」
グラン類似エネルギーの力で感覚があるとはいえ正常には程遠い。
レヴィはいつもより重く痛む足を動かしつつ、【巨躯】の攻撃を避けるが被弾すると容易に骨が折られる。しかしもう彼女に残機はない。
「うらぁぁぁあッ!!」
剣を振るえば光が纏い、【巨躯】を突き刺そうとするが彼は拳で受け止めすぐ払った。
「ぐッ……」
アイゼンハートの刃はレヴィの精神状況に影響されてか歪んで途切れており、レヴィが攻撃するその瞬間にギリギリ刃を紡いで【巨躯】にダメージを与える。
(体だって長くは持たない――だとしても!)
『我を失望させるなよ……アークス!』
「あんたの暇つぶしに付き合ってやるほどわたしは暇じゃないっての!」
だが【巨躯】から降りかかられた拳を受け止めようとしても、足に力が入り切らず押し負けて倒れ込む。
「くっ!!」
その隙に【巨躯】が彼女目掛けて拳を振り下ろすが、レヴィはすんでのタイミングで避けた。
しかし床に響いた衝撃波は大きく、吹き飛ばされるとすかさず【巨躯】が腹を狙って殴りかかってきた。
「ッ!!」
レヴィは死ぬ気でブラッドローズを取り出し、二人の間に糸を張らせて防ごうとするが、しかし。
『愚鈍!!』
ブラッドローズの糸壁は一瞬にして破壊され、あっという間に引きちぎられると再びレヴィに拳が襲いかかる。
防戦一方のレヴィは死に物狂いでヘブンパニッシャーを取り出し、【巨躯】に向け無我夢中に撃ち込みながら距離を取って離れ続けた。
だが一瞬足の感覚が途切れ縺れると、背後から襲いかかってきたファルス・アームに抑え込まれる。
「うぐっ!!」
【仮面】から見てもレヴィの足の不調は明らかであり、彼女はファルス・アームを払えずもがき続けている。
(やはり無茶だ……)
【仮面】はそう考えるとコートダブリスDを構え、加勢しようと足を踏み込んだ。
しかしその瞬間、ファルス・アームの指の内側から光が漏れると輝き出す。
【巨躯】も【仮面】もレヴィの放つ光はまさしく彼女の特異的な力の象徴だと分かっていたが、しかしそれでも【仮面】は怪訝に顔を顰めた。
(彼女の力は明らかにアークスやフォトナーの出すソレではない。しかし、かといってそれがダークファルスに勝る力を、それ以上に現状を打破出来る力を有しているとは思えない……)
――だが、それはレヴィ自身もよく分かっていた。
(この力、この輝き……、ただ受け入れてるだけじゃダメ!なんとなく輝いてるだけじゃダメ……!!)
己の内側に熱を感じ、己の全てで意志を体現したいと想い、ただ最高の現実の為に祈る。
それは【敗者】からも期待され【巨躯】達も目の当たりにしたものだが、願いを叶えるならば、見えている輝きと想定内の未来では事足りない。
"輝かされているだけ"では……
「もっと、もっと輝きたい……もっと!わたしは頑張れる!」
貪欲にその輝きを求める。
例え己が灰に暮れた存在であっても、例え己の目が焼け焦げたとしても、それでも。
「どんな報いを受けたっていい、どんな力だったっていい……!
だから、わたしを
瞬間、レヴィを覆っていたファルス・アームがまるで爆発でもしたかのような勢いで吹き飛ぶ。
「ッ?!」
今までレヴィにはなかった、グラン類似エネルギーの自覚。
体が熱くなるような、愉快な……それだけではない。レヴィには、己の熱と輝きが、形となって感じられた。
「【敗者】の隣に並ぶの……!彼に寄り添えるだけの輝きをわたしはこの手で築いてみせる……!!」
レヴィが叫んだ瞬間、彼女の服は負荷に耐えきれず一瞬で破れ去る。
そして彼女の光の臓器が体にまとわりついて液体のように溶けていくと、そこからインナーやソックスが紡ぎ出され、更にエネルギーが注ぎ込まれていく。
『あれは……我らと同じ!』
レヴィの新しい、限定的な姿――グラン類似エネルギーを扱うための儀礼装。
「フォトンにより紡がれた衣裳……
いや、あれはフォトンではないが、だとするなら……」
性質を変え、形を変化させ、殺傷能力を付与する、一般的なフォトンの使い方と同じだが、エネルギーだけで戦闘衣を紡ぐには膨大なフォトンが必要になる。
なによりレヴィは今までグラン類似エネルギーを別の形に変化させることが出来なかったのだ。
直感とイメージだけで行ったにしてはまるで経験者のようで、異常者すぎる。
「既に彼女の肉体の大半はエネルギーで補填されているはずだ。そこからさらに服まで作ったとなれば、最早彼女はアークスではなく我々の方が近い……」
【仮面】が言った通り、今のレヴィの体は8割以上がグラン類似エネルギーで構成されている。
もし全ての肉体を失ったとすれば、彼女はフォトン体のような器を持たない幽霊のような概念に成り果てるのだろう。
「本気のさらに三段上を見せたげるんだから!!」
レヴィは己の覚醒に勘付くと武器を捨て、素手で彼に殴りかかった。
『いいぞ……!』
レヴィの拳はとても小さいが、その手にはしっかりと力が紡がれており、彼女が殴るだけで大きく風が吹き荒れる。
攻撃する為の火力を紡ぎつつも、高出力のエネルギーをそのままぶつけてもいる。
それはさながら噴火のようで、一度の攻撃で何段にも及ぶ高い殺傷能力が得られていた。
「まだまだぁ!!」
レヴィは映画で見たような独特の武術で【巨躯】に殴り込み、彼の張り手が当たり倒れてもすぐ立ち上がり再び殴り込む。
『おぉ、……おぉぉ……!!』
何度倒れても立ち上がり、立ち向かうそのひたむきさに【巨躯】は感銘していた。
『なんて強さだ……!ならば我も、貴様に全力を見せてやろう……!!』
【巨躯】はそう言って高笑いすると、全力で攻撃を仕掛けるレヴィをよそに背後へ飛んでいき、抜け殻状態だったダークファルス・エルダーの姿に力を注いで再び動き出す。
『さあ、我を超えてみせよ……!!』
そう言って【巨躯】は後方へ下がっていくと、両手を握り、大量のフォトンをかき集めていった。
「ッ?!」
紡がれるものはレーザービームのようだが、その大きさと火力は桁違い。
「これは、当たれば射線上のアークスシップにも被害が出る……」
「オラクル船団級の攻撃ってこと?!」
「あの模倣体はどうやら貴様への攻撃をアークスシップに匹敵するものだと考えたらしい。
アークスのためではなく、本気で貴様一人を狙うためにあの攻撃を仕掛けているようだ」
本来ならばマザーシップのフォトンを使ってでも迎え撃たないといけない攻撃だ。
予想質量はあまりにも大きく、先の【巨躯】復活時にアークスと繰り広げた戦いの中ですら使われなかったその全力の攻撃を、いまレヴィはたった一人で向けられている。
「はっ、はぁぁぁあ?!」
それはある意味【巨躯】が認めたという証拠でもあるが、しかしレヴィは彼のあまりの行動に驚愕し唖然としていた。
「……逃げるぞ」
どう考えても絶体絶命。
【仮面】はレヴィの腕を掴み無理やり転移しようとしたが、レヴィは握られた腕に気持ち悪さを覚えると払い、ゆっくりと深呼吸をしたあと【仮面】を見上げた。
「まだ!」
「冗談はよせ。あのフォトンが見えないのか?」
視界には見えていないが当然レヴィにもあのオーラは見えている。
確かに驚愕に値する程のものだったが、今のレヴィに引くという選択肢はない。
「まだ、……わたしはまだ諦めない……!!」
【仮面】は彼女が理解出来なかった。己こそどれほど足掻いても抗えない運命があるかを一番よく理解している人間だと思っていたから。
だから大切な人を殺すしか択がないと思い、己の素性を隠して今まで生きてきた。
しかしどんな窮地に置かれてもレヴィは光のない闇へ手を伸ばし、輝こうとしている。
「……何故、そこまで足掻く?」
一体どんな責を負えば、そこまで立ち上がれるのか。
【仮面】の問いに、レヴィは得意げに微笑む。
「だって、わたしがそうしたいと思ったから!!」
「……、そうか」
その回答はあまりにも素直で幼稚で、だからこそ【仮面】は納得した。
かつての自分も、そうやって行動していたのを思い出して。
「わたしには、大切な人がいるの。
誰よりも自信があって、気高くて、かっこよくて、でも悲しくて、寂しくて、孤独で、ほっとけない人」
レヴィはそっと宇宙の冷たさや温かさを感じる。
【敗者】は今ずっと遠い場所にいるが、レヴィは彼が傍にいてくれているような気がした。
「誰よりも大切で、誰よりも大好きで、……愛してるから……」
愛してる。その言葉を紡ぐと、レヴィの胸はもっと熱くなっていく。
美しい景色も【巨躯】の姿もレヴィの視界には映らないが、情景の奥にいつも【敗者】がいるような気がする。
なんとなく、そんな気がする。
だけれどそんな気のせいでも、レヴィは死ぬほど頑張れる。
それこそ意志の力だから。
「あの人を、愛してるから……
わたしがこの道を止まることなんてない!」
「馬鹿ッ……!」
レヴィは衝動的に飛び出した。
バトルフィールドから出るとレヴィの体は浮き上がり、岩を蹴るとさらに飛んでいく。
「この気持ちが届くまで、わたしは高まり続けるんだから!!」
【巨躯】へ近付くほど、もっともっとレヴィの輝きは増していく。
「この力はなんだ……?この輝きは……」
「届かないなら届けてみせる……」
レヴィはエルダーに一番近い揚陸艇に降り立つと、そっと手を差し出した。
湧き上がる力。昇る熱。空気の流れと粒子の流れを噛み合せると、一気に形が紡がれていく。
手を伸ばし、天へ掲げ、集まった力を吐き出すと、真空の空に雷鳴が響き渡る。
「届けてみせる……!!」
集まった雷は一筋になり、大きく輝くと、レヴィは叫んだ。
「ッ
その雷が届くと、ダークファルス・エルダーの体は揺らぎ大きくダウンする。
レヴィは己の手を胸に押し当てるとゆっくりと深呼吸をし、遂に繋ぎ当てた属性マジックの力をゆっくりと感じていた。
「素手であれほどの力のテクニックを……?
マトイでなければ出来ない力を……」
【仮面】はレヴィの力を見て呆然としている中、彼女は【仮面】に向けてクスリと笑い、胸を突き出す。
「テクニック?わたしがそんなフツーの力を使うと思う?
わたしは種も仕掛けもない、
――テクニックを使えないと諦めていた。
模造クラリッサを貰ってもなお使いこなせず、クランシーという形にして刃を握るだけだった。だが今は違う。
今は魔法が使える。
今は、森羅万象を己の手で掻き乱せる。
なれば、今こそ。
今こそ――
「究極の杖よ……」
高らかな声が宇宙に波となって広がっていくと、レヴィは懐からある物を取り出してそっと握りしめた。
(【敗者】が言ってた。
【深遠なる闇】やダークファルスは生命じゃない。彼らは意志を持つ変異フォトン……ダーカー因子の集合体だって。
だから彼らはフォトンで浄化される身でありながらフォトンを使う。彼らもまたフォトンであり、そして生命とは違ってよりフォトンを多く含有する、エネルギー素子の集合体なんだから。
だから、ダークファルスがフォトンだっていうのなら……)
「わたしは!
昔、ヒトは欲望に塗れ穢れていた。
彼らは強欲で、愚かで、怠惰で……そして、その病みは大きな闇を引き寄せた。
だがその昔も、彼女は常に希望を信じていた。
闇の中に優しさがある事も、苦しみの中に勝利があることも、愚かなヒトの中にもひたむきに進める人がいる事も。
だから彼女は、手を伸ばした。
(【巨躯】……あんただって苦しんでる。
あんただってその大きな闇の中に満たされない苦しみと貫きたい矜恃があることを分かってる。
だからわたしはそれを叶えたい。
例え穴の空いた器に水を流し込むことだとしても……
わたしがあんたの穴を塞いであげる!!)
排斥される中でも彼女は諦めなかった。
たとえ絶望して悲しみの中に暮れても、手を伸ばしてくれる誰かがいた。
お陰でレヴィは立ち上がれた。
この盲目の暗い景色は懐かしくて、実体を捉えられなくても視える物は沢山あって、相手の感情や欲望は情景に映り、そして摩訶不思議な魔法はいつでも彼女のそばに居た。
「その武器は……」
レヴィが取り出したものは、模造サイコウォンド――彼女が自分で使うことは出来ないと考えていながらも作っていた、12個の武器の内の一つである。
(
――宇宙の始まりは闇だった。
だからこの世界を作るものは光で、この世界に形を表すものは皆色を象った。
その鈍色の杖もまた、光と闇を操り、そして色を象る。
(そう……サイコウォンドは光と闇だけだった宇宙に色を与えた杖。世界に多様性をもたらしたその杖は知恵の象徴であり、サイコウォンドを構成する未元金属とはつまり……
かつてこの宇宙に存在しなかったもの、光のスペクトル……実体に捉えられない虹そのもの!!)
真のサイコウォンドとは目に見えないものだ。
誰もがそれを解き明かせず、伝承伝説となり未知として伝えられてきたのは、その本質は実体にない領域……感覚の中にあるからだ。
だからレヴィとサイコウォンドは相性が良かった。
宇宙の始まりから存在し、未知の素粒子を作り出し、物理法則を塗り替え、この世界に新たな概念を与えるその杖と、マジックを操り真理を冒涜する外宇宙から飛来した生命体は、惹かれるべくして惹かれあったのだ。
「夢幻の宇宙よ、ここに交われ……」
それは試作品の、偽物のサイコウォンドだったはず。
しかし、レヴィはその本質を見抜いた。
使い手に究極の加護を与える、幻の杖……
「サイコウォンド・アシュター!」
サイコウォンドはその声を聞いてまるで最初から内側にあったかのように殻を破り、煌めく未知の金属が姿を現し、青を象っていたフォトンカラーはレヴィの輝きを受けて宇宙色に煌く。
その姿はまさしく創世器そのもの。
レヴィは杖を向けるとサイコウォンドに向けて力を充填し、一気に解き放った。
「イル・エフェス!!」
紡がれた光のマジックがエルダーを包み込むと、レヴィは流血も構わず甲板から飛び出す。
「飛んだ……?!」
サイコウォンドには誰にも伝えられていない秘められた能力があった。
それは、空を飛ぶという力……
レヴィはサイコウォンドを握りしめたまま軽々と飛んでいき、惑星ほど大きく遠いエルダーの方へたどり着くと再び杖を向けた。
「受け止めてみせる……!!」
エルダーが再び超高出力のビームを溜め、レヴィへ狙いを定める。レヴィもし受け止められなければその背後にあるいくつものアークスシップも巻き込んで、一直線に宇宙を焼き焦がすだろう。
しかしレヴィは焦ることもなくただ静かにサイコウォンドへ力を込めた。
レヴィの中から溢れ出したエネルギーもまとめて吸い込まれていき、彼女の脳裏に再びのある景色が映ると、サイコウォンドはレヴィを包み込む。
「究極の加護を……!!」
エルダーからレーザービームが放たれた瞬間、レヴィもすかさずサイコウォンドから力を解放させ、放たれたピンク色の光の脈動が真っ向から立ち向かう。
エルダーは拳を縮めて更に力を入れ込み、勢いを増していくがレヴィはすかさず眉を歪ませ拳を握るとさらに出力が高まっていき、ビームが花のように五枚の花弁に割れるとそっと包み込んでいった。
収められたエネルギーはレヴィの中へ吸収されていく。体の中で暴れ回り続ける衝動や痛みの全てを抑え込むと再び足を動かした。
『まだだ……!!まだ我は貴様と……!!』
レヴィの周囲をファルス・アームが覆い、彼女を埋め尽くすようにレーザービームが一斉照射される。
繰り返す眷属の召喚によりダークファルス・エルダーのサイズも半分程になっており、レヴィは戦いつつもこれ以上の消耗はアンプラム・アンプラの生成に支障が出ると焦っていた。
(これで決める……!)
溜め込んだ力を吐き出すようにビームを受け止めると跳ね返し、ファルス・アームの壁を超えて飛び出すとエルダーに向けて狙いを定める。
【巨躯】も負けじとレヴィに向かって手を突き出し、極大の氷をぶつけようとするが、レヴィもすかさず叫ぶ。
「お願い……届いて!!」
小惑星程のサイズの氷を見ても怖じけることはなく、レヴィはサイコウォンドの宇宙を煌めかせると大きな雷のマジックを放つ。
その雷は放たれた氷の弾とぶつかり、バチバチと激しく閃光を煌めかせると粉微塵に割れ、辺りに小さな氷の粒が飛び散った。
「エルダァァアアアーー!!!」
エルダーは雷を纏った氷の粒に当てられダウンすると、レヴィは捕獲装置を握り締める。
そして、そのまま思い切り投げつけた。
「どうか……どうか……!!」
サイコウォンドを胸に抱き、手を合わせて祈る。
どうかこの想いが届きますように、と。
『なんだこれは……!!
いや、そうか……
これは……
これは、貴様の……』
レヴィの祈りに合わせてぐるりと宇宙が回転し、レヴィの周りを黒色の浮遊体が漂うと【巨躯】の全身にノイズが走る。
『貴様の、愛か……』
かくして死闘の後、【巨躯】はようやく捕獲装置の中に収まった。
「ッ!やった、……、……勝った、……わたしは……」
レヴィの輝きはゆっくりと鳴りを潜め、静かにそこへ佇むが、急に真空に流されゆっくりと宇宙を漂う。
「ッ!!」
その姿が自らの意思ではなく流されているように感じて【仮面】が近寄ると、彼女は赤い水滴を尾のように繋げながら、その場で倒れていた。
「貴様は……」
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる