レヴィがトイレに行くと言って消えて十数分。
トイレにしては少し長いが、【敗者】は気にせず脳水泳に浸っていた。
「一応……上手く話せたはずだ」
互いに不機嫌になり怒鳴り合うこともあったが、前のような微妙な気まずさや会話が続かず止まったりレヴィが逃げ出してしまうようなことはなかった。それだけで一応【敗者】にとっては上手く話せたの範囲に入る。
「ふむ……」
そもそも"上手く"とは何なのだろう、と【敗者】は顎を擦りながら悶々と悩む。
仲がいいと言ってもレヴィが否定してくるし、本当に色恋の関係になってしまうのは関係が破綻してしまうし、かといってビジネス過ぎるのは関係に支障が出る。
どの方面から考えて、どのように正しく、どのように上手くするのがレヴィとの良い関係性なのか。ユニゾン波を使わずに、一体どうしたら良くなるのか。
【敗者】は漠然とした考えが募るばかりで、その答えが出せずにいた。
「【敗者】?」
そこに、トイレから戻ってきたレヴィが声をかけた。
レヴィは流石に不機嫌も治ったか、なんて呑気に考えて話しかけてきたものだが、【敗者】は突然の声に驚いてあからさまに体を強ばらせる。
「ッ!」
ガタン、と椅子のぶつかる激しい音にレヴィは目を見開いてから、一歩退いた。
「……話しかけてごめんね」
レヴィの疲れきったような声に【敗者】は嫌な雰囲気を感じ、衝動的に彼女の手首を掴む。
「……?」
「あぁ、いや……惚けていただけだ」
「……そう?ならいいけど」
予想に反して冷たい言葉を吐いてこなかった【敗者】にレヴィは少し驚き一瞬体が静止するも、すぐに首を振り彼へ声を掛けた。
「で?大いなる陰をどこに置いたの?さっきチラッと見て回ったけど何処にもなかったよ?」
レヴィの戻りの遅さは大いなる陰を探していたからだった。彼女は口うるさい【敗者】を無視してさっさと大いなる陰を調査しようと考え研究室や倉庫など様々な場所に訪れてその気配がないか確かめたが、生憎見つからず。
レヴィは自分が目が見えてないせいかもと考え、【敗者】に聞くしかなかったのだ。
だが、【敗者】は苦虫を噛み潰したような顔でレヴィから目を逸らした。
「……行方不明だ」
「はっ、はぁぁあ?!」
レヴィは驚いて【敗者】に掴みかかるも、すぐに手を離すといてもたってもいられず自分の頭をぐしゃぐしゃと掻きむしり唇を噛み締める。
「……とにかく、僕の知ってる範囲だけでも説明させてくれ」
「わ、わかっ、たよ……」
そして【敗者】は簡単に事情を説明した。
最初は船の研究室内で空の水槽に入れて保管していたのだが、【敗者】がレヴィの体の措置を終わらせて見に行くと既に姿を消していた。
その後彼はレヴィが目覚めるまで反応を探ったり眷属を使って辺りを探してみたが見つからず、バイタルサインを確認しに来たところでレヴィが目覚め、捜索は一旦打ち切ったわけだ。
「菌の抽出と共に座標を掴むためのアンテナみたいなものが必要になるかもしれないな」
それは本来の大いなる陰がそうであったように、いくら別の宇宙で別の形として現れても、同じ結論にたどり着かざるを得ないという運命の呪いのような何かがその大いなる陰にも課せられている気がした。
「そうじゃなくて!早く探しにいかなくちゃ!!」
だがレヴィはそれに構わず踵を返し、慌てて船の外へ飛び出そうとする。
「待て」
【敗者】が一言言うとドアは開かなくなり、押し込んでも数ミリも動かない。
「なんで、止めるの……!!」
そうして瞬きするよりも早く【敗者】が彼女の背後に立つとそっと肩に手を置いた。
「僕だって今も探索範囲を広げて探し続けている。貴様が今から探したところでこの一帯を歩き回るだけでは無駄な後追いをするだけに過ぎないだろう」
「でも……」
「とにかく休め。これは命令だ」
そう言われても納得出来ない気持ちはあるが、しかし無数にいる【敗者】の眷属を総動員させて探しても見つからないものをレヴィ一人が探しに行って見つかるとは彼女自身も思えなかった。
それにもしアークスシップに潜伏しているとしたら、ダークファルス起因である物がレーダーに引っかからないわけがない。
「……」
「今は話がしたい。どうやってダークファルス二体を捕獲に追い込んだのか、攻撃方法や使用武器など、詳細なデータを取りたいんだ」
【敗者】にそう言われるが、レヴィはあまり彼と話がしたくなかった。
レヴィには彼が自分の目をしっかり見ているのか分からなかったが、戦闘の話にもなれば目の話は避けられないと思ったから。
それに長い間ずっと話していたら何かしらの些細な挙動で盲目だと分かるような挙動をしてしまう気がして。
「あまり記憶がないのか?」
「いや、まあ、……えっと……変な話だし、信じて貰えないかもって思って」
「貴様のする行動なんて最初から荒唐無稽なものだろう。気にする必要は無い」
失礼だが妙に安心する【敗者】の言葉。
レヴィはゆっくりと目を閉じそっと深呼吸をすると、なるべく慎重にその時の出来事を話した。
だが目が見えないことと、雷や光属性のマジックを使ったことは隠した。
前者は己の価値が下がることの恐れから、後者はレヴィなりの策略のため。
それでもサイコウォンドの話は行った。
属性マジックが使えたからサイコウォンドを使ったという事実ではなく、サイコウォンドを使えそうだというなんとなくの直感があったから、なんて理由で嘘をついたが、そもそも完成品のサイコウォンドは試作品段階とは材料や構造が全て変化しており状況からしても突然変異した以外説明がつかない為、その嘘で【敗者】から違和感を持たれることはなかった。
「とりあえず、現物を見せてくれないか?宇宙創世に直結する程の武器は中々お目にかかれない代物だ」
レヴィがサイコウォンド・アシュターを取り出すと、【敗者】はそれを受け取り興味深そうにじっと眺めた。
今まで様々な創世器に触れ模造品を作ることすら出来た彼だが、レヴィが覚醒させたというその杖は様々な権能を持ちクラリスクレイスが持つに相応しい力を蓄えたクラリッサとも違い、神秘的で複雑な力を持つレヴィをそのまま武器にしたような雰囲気が漂っていた。
「とはいえ様々な時代、様々な宇宙で存在したものと考えるとサイコウォンドがどの宇宙からどのような経緯で生まれたのか……その根源を解明するのは困難だろう」
「構造理解は出来たとしても、流石にサイコウォンドの歴史を全部知れたって訳じゃないしね」
「だが、この武器は正しく本物の創世器だ」
「テクニックが使えないのにロッドが一番最初かぁ……」
「マジックユーザーだと考えれば自然なことだろう。とはいえ、ライデンシャフトより先にサイコウォンドが創世器になるとはな」
「……」
サイコウォンドの手触りは今までフォトナーの時代から生きてきた【敗者】でも触れたことのないような質感で、彼は今すぐにでも研究しようと楽しげな様子で眺めていたが、一方のレヴィはぼんやりとどこか遠くへ顔を向けながら疲れたように横たわる。
「寝たいなら好きにするといい」
本音は断ってでも大いなる陰を探しに行きたいところだが、ここで無駄に足掻いても【敗者】に止められて無駄な時間を過ごすだけだというのは、流石のレヴィでも分かっている。
(【敗者】の言葉に甘えて、今のうちに睡眠時間を蓄積しておこうかな……)
レヴィは躁な彼の様子から確実にサイコウォンドを持ってこの場を離れるだろうと思い、体を動かし彼から背を向けて目を閉じる。
しかし何分経っても扉の動く音は聞こえず、レヴィは時間を操作したのだろうか、なんて考えながらそっと体を動かして後ろを向いた。
「……眠れないのか?」
「いや、……」
サイコウォンドは近くに置いたまま、レヴィからも離れることなく【敗者】はモニターを見ている。
(なんでここいんのかな……)
レヴィは困ったように顔を歪めそっと彼から顔を逸らす。手を払われ拒絶されたことなど記憶に新しいというのに、傍に居てくれて嬉しいと感じてしまった自分が嫌だった。
体良く寒いふりをして布団を頭まで被ると、無機質な布の質感が顔を覆い尽くしほんのり薬のような臭いに彼女は僅かに憂鬱さを覚える。
「……やはり、今は人間のようだな」
「今はというか、元々だよ」
「数時間前の自分の状況が自覚出来なかったのか?」
レヴィは嫌味を言ったつもりだったが、【敗者】は純粋な研究者としてレヴィの言葉をそのままに受け止めメモを増やそうとする。
「いや、外見じゃなくて内面の話。性格悪い所も人間でしょ」
僅かなタイピングの音とフォトンの動きで【敗者】の意図を察し冷静を装いつつも慌てて止めると、レヴィは少し考えてからまた口を閉じた。
(布団被ってるからメモは見えないはずなのに止めたら変だって思われた……?
いや、でも元々盲目状態の訓練はしたし……)
不必要なことを悶々と考えながら更に深く布団の海に潜ると、目に前髪がちりりと入りレヴィは痛みに目を抑える。
「ッ」
盲目+器を変えて前髪が戻った=前髪のセットをしていないので容赦なく前髪が目に入るという図式である。
【敗者】は適当に切られた髪より丹精込めて作り上げたいつもの髪型の方が可愛いと思うのは当然で、器を変えるタイミングで髪も元に戻したのだ。
だがレヴィにとっては視界に入れば邪魔だと分かるが盲目だと訳もわからぬまま目に入るだけ。
見えもしないものにこだわる理由もわからず、もう一回髪を切らないと、なんて布団の中で悶々と考え込んでいた。
「……レヴィの体についての話だが……」
そんな中で【敗者】が話しかけてくるものだから、レヴィは思わずバッと布団を剥がし【敗者】の方へ体を向けた。
「えっ、うん」
「ッ」
【敗者】もそんなレヴィに少し驚いて硬直する。
少しの静寂が部屋を包み込んだあと、二人は思わず失笑した。
「……ッくく、」
「ふふふっ……」
奇妙な程柔らかい空気が辺りを包み、表情が柔らかく解れる。
【敗者】はリラックスしつつも気が抜けないようにわざとらしく咳払いをし、なんとか空気を落ち着かせた。
「とにかく、損傷した部位の治療は完了しているが時間が経てば変化するかもしれない。
もし異常があれば……
多少時間が遡ったとしても、何かあるなら報告……
いや、相談してくれ」
【敗者】は言い終えたあと、そっと彼女の方を見つめる。
彼女の返答を待つように、彼は急かすことはせずゆっくりと深呼吸しながら待ち続けていたが、レヴィは一言シンプルな言葉を呟く。
「そうね。じゃ、わたし寝るから」
レヴィは恐れていた。
【敗者】に言う以前に自分の現実が受け入れられなかった。
治療してもダメで器を変えてもダメなら、恒久的に目が見えなくなるかもしれないのだ。
もう二度と何も見えないまま、真っ暗な世界を生き続けるだけだけだとしたら……
そう考えると、自分のこれからの未来まで真っ暗になった気がしていた。
「……。そうか」
【敗者】は一言返事を返すと、またレヴィの言葉を待った。
だがレヴィはわざとらしく彼から背を向け、目を閉じ、大きくため息をつく。
――【敗者】に相談して、治るものなのだろうか。
ダーカーに頼んでも治療出来なかったものを、果たして【敗者】なら出来ると言い切れるのだろうか。
治ればまだいい。治れば謝れば済む話かもしれないから。
だが、もし治らなければ?
自分は目が見えなくてもダークファルスと戦えるだけの力があるのに、【敗者】から目が見えないという理由で無価値だと断定され、捨てられてしまったら?
レヴィは彼が信頼出来なかった。
どれだけ戦えてもフォトンがないというだけで存在価値がないと断定するのがヒトという生き物のすることだ。
【敗者】だって意思があるのなら、例えフォトンがない自分を受け入れたとしても、また別の基準……それこそ盲目なだけで、生きる価値がないと断定してしまうかもしれないと思ったのだ。
(わたしにとって【敗者】って……どういう存在なんだろう?)
そんな物思いに耽りながら、レヴィは静かに瞬きする。
目を開いても閉じても真っ暗なままだ。
だが目を閉じれば不思議と眠気はやってくる。
彼女はぐるぐると思考を回しつつも頭は熱くなっていき、いつの間にか意識を飛ばして眠りについていた。
【敗者】は待てるだけ待ったが、彼女から帰ってきたのは小さな寝息だけ。
「……おやすみ」
【敗者】の声は形式ばったような硬い音で部屋に響き、そして彼もまたため息で彼女に別れを告げた。
「ん……」
レヴィはゆっくりと目を開けると、端末に触れる。
聞こえてきた音声は19時を超えていた。
景色に変化はないが一応夜だ。
気配からして【敗者】がまた部屋にいることは分かったが、彼は寝ているのか端末を開いているわけでもなく椅子に座っているだけだとレヴィには感じ取った。
(大いなる陰を探さないと……)
だが【敗者】が寝ているなら好都合。
いや、例え【敗者】が起きていたとしても……
レヴィはそう考え起き上がると、ガタンとわざとらしく椅子の音が立てられる。
「……どこに行くつもりだ?」
【敗者】はいつの間にか目を開き、レヴィの方をぎょろりと少し恐ろしげな目つきで見下ろしていた。
「大いなる陰を探しに行く」
「いや、それよりも先に貴様にはやるべき事があるはずだ」
「はぁ?」
レヴィは【敗者】に構わず扉を開けようしたが、相変わらず。
【敗者】が引き止めたい時特有の、低速化によるドアノブの固定でレヴィは部屋から出られなくなり不機嫌混じりのため息をついた。
だが【敗者】は構わず懐から端末を取り出すと、モニターを開いてその画面を見つめる。
身体検査用のチェックシートだ。
「検査が先だろう。わざわざ絶食させていたんだから、その意図くらい察して欲しかったものだがな」
「さぁね。話したかっただけだと思ってたよ」
検査させたい意図はあったが話したかっただけ、と言われればまあそうだ。
【敗者】はレヴィから不意に言われた言葉で呆気にとられ、思わず体の動きが止まる。
「それならそれでいい。とにかく、損傷部位をくまなく検査させてもらいたい」
レヴィは面倒だと感じたが、【敗者】のやっていることに違和感は感じなかった。
寝る前の会話で後の身体検査を匂わせるような言葉はあったし、状況からいやらしいこと抜きであることもすぐに分かる。
ただ、懸念点があるとすればやはり目。
(視力検査どうしようかな……無理なんだよな……)
置換臓器の部分だけ重視して検査するとしたら視力なんてやらないはずだ。だが【敗者】なら無意味に視力まで測りそうな気もする。
「しょーがないな」
そんなことを言いつつ、レヴィは目の検査を行わないように心の中で祈り続けた。
「終わったら必ず食事を取るように」
「はーい」
予測しきっていた言葉に腑抜けた返事を返し、レヴィはそっと椅子へ座り込んだ。
食事自体は面倒だが買い足した栄養食品やサプリの整理はしたかったのだ。
ついででやってしまえばいいだろう。
「では、病室まで行こうか」
「ん……」
――【敗者】に連れられ、レヴィは病室へと向かった。
検尿や採血、心電図にエコーなど内部の検査がメインだったが、幸か不幸か目や耳の検査は行われなかった。
(ま、そりゃそうか……結局見たいのって腹だし)
なんて思いつつも、ここまで詳しく見ているというのに盲目に気付かない【敗者】にレヴィは違和感を持っていた。
そこまで興味がないのだろうか。
目が見えないから分からないが、視線が目に向くことがないんじゃないか。
本当は気付いていて、価値があるのかと試しているだけなんじゃないか……
検査が終わり病室から出る時も、レヴィは俯いたまま何も言わず扉を閉めた。
キッチンに向かって栄養食品を漁り、届いたまま放置されていた箱をコンテナにぶちまけるその瞬間でさえレヴィはグルグルと考え込んでいて、別のコンテナに別の食品を入れていても気付くことのないままぬるい栄養ドリンクを掴んで自室に戻っていった。
「はぁー……」
バレない方がいいなんて分かっている。
ただレヴィの知っているあの男はこんな分かりやすい損傷にも気付けない男じゃない。
自分がどれだけ上手く演じていたとしても、そこを見抜いてくるのが【敗者】という存在だ。
だからこそ、試されていると考えるべきなのだろう。
盲目の状態でもし【敗者】に己の価値が示せなければ、自分は捨てられる……
レヴィはそう考えた。
ならば価値を示すためにすることは、己の使命を全うすること。
自分が出せるだけの全ての最善を尽くして、【敗者】が穀潰し以上の何かを見出してくれて、価値があると判断してくれれば何とか【敗者】の傍に居られるはず……
そうして彼女は壊れたブラッドローズを取り出した。
糸が切れ、放出機構も粉微塵になってしまったブラッドローズは修繕よりもはや新造する方が早いように見える。
だが糸に使った素材は割かし高価。
指輪を売った金が手元にあるとはいえ、【敗者】という通帳から際限なく金を使う男が居ると考えれば回収出来るものはしておくに越したことはない。
「……」
そうしてレヴィは壊れたブラッドローズから糸の繊維や材料となる素材のカートリッジなどを回収しようと道具を持つが、やはり戦闘のような大柄な動きは出来ても武器製造のような細かい動きは非常に難しかった。
パーツを掴んだと思えば空を掴み、手で手繰り寄せれば別のパーツを落とし、果ては綿密に調整された道具を床に落とし使用不可能にさせる始末。
「やっぱダメだな……」
レヴィは道具箱に手を伸ばしてみたが、そこで道具箱の中身全てが使用不可になる未来がうっすら見えた。
やはり無理なものは無理。
彼女は集められるだけ集めてマジックで倉庫に送り返すと、ゆっくり深呼吸をする。
「せっかくだし、考えてみるか……」
いつも通りエナドリにサプリをガラガラと入れて一気に飲み干し白紙のキャンバスを表示させた。
「試しに、だしね」
【敗者】から突きつけられた12個の課題は試しなんていう遊びは出来ない。
だがそれ以上なら試そうが失敗しようがどうにでもなるのだ。
レヴィが頼まれた13個目の武器と言えば、マグノリアからの依頼。
あの時は明らかキャパオーバーになると分かっていたためほとんど断るつもりの気が向いたらで請け負ったが、今となれば逆に好都合である。
「アークスシップに展開されたリミッターの影響を受けない、対人戦に特化した武器か……」
マグノリアの性格からして裏任務の暗殺ではなく護身用だろう。
となれば暗器ではなく防御も攻撃も可能で、持ち運びしやすく、常に携帯しているため見てくれなるべく普通の物にする必要がある。
「保安局が持ってる警棒ベースで考えてみるか……」
単純に伸び縮みするだけの警棒だとやはり保安局と違って命を狙われている相手では不足する。
一本の太い棒ではなく数本の細い棒にカバーをつけたような形にし、いざという時はカバーが開いて高速回転し円形の盾のように使えるように出来れば防御力もそれとなく担保されるかもしれない。
それに電撃機能も付け、警棒でも電撃を振りつつ盾状態でも電気を纏わせて押し込むという形も出来ればいいのでは、一応ウォンドとしてテクニックが撃てる機能も入れておこうか……
などと悶々と考えていると筆が走る走る。
いつの間にかキャンバスは文字と図でいっぱいになっており、無駄に空白が出来ていたり、逆に重なって書かれているような場所もあったが結果的に言えば触覚で触れても全て理解出来るような仕上がりになってはいる。
(よし、じゃあこれを元にしてとりあえず素材の選定から……)
そう心の中で呟いて彼女が立ち上がろうとした瞬間、部屋の扉が開く。
「レヴィ」
少しの間離れていただけだというのに【敗者】の声は懐かしく感じ、レヴィは少し遅れて彼に反応した。
「結果出た?」
目が見えていてもこの状況は苦しいというのに、レヴィの今の状況は完全に体内時計を狂わせるには足りすぎるものだ。
レヴィにとっては今が三日なのか三時間なのか区別が付けられなかった。
「……」
「【敗者】?」
【敗者】はぐちゃぐちゃに書かれたレヴィのキャンバスをじっと見つめたあと、彼女の呼び掛けに合わせて思い出したかのように顔を向ける。
「体は以前と変わりないようだ。
シミュレーションした結果、肉体の損傷と極端なグラン類似エネルギーの高まりによって一応あの状況は起こり得るだろうという結果が得られた」
【敗者】はかなり言葉を選んで話していた。
下手なことを言えばレヴィが己の覚醒に歓喜することなど目に見えていたから。
「が、しかし」
彼は分かりやすく眉を顰め牽制目的でレヴィを睨みつけるが、レヴィには届かず。
「あの固着化したエネルギーに生命維持機能があるとはいえ、やはり時限式なことに変わりはない。
それに生半可な戦闘では絶対に起こらないだろう。
この奇跡に頼って致命傷を負うなんてことはくれぐれもないように」
【敗者】の言葉を聞いてレヴィはため息を着いた。
「分かってるって、あんなのあるって分かってたら人工臓器作ってないでしょ?」
再現性があるということに関しては喜ばしいことだが、過去にこの現象と遭遇出来ていなかったということはパターン化出来るほど簡単な事象ではない。
それをあてにするのはさしものレヴィもハイリスクだと分かっている。まあ今のところはだが。
「以前にもこのようなことは起きなかったのか?」
「いや、そもそもドールが無くなって瀕死になる状況なんて戦えなかったすんごい幼い頃しかないよ。
その時なんかはいつも明日生きていけるかどうかも分からない状況だったし、そんなこと確認してない」
「……そうか」
【敗者】はレヴィの言葉を悪意に受け取ることは出来なかった。
どう頑張っても彼女の言葉に嘘は感じられない。それに彼女の発言はお労しいもので、下手に触れれば彼女の信頼を失いかねないと彼は考えた。結果出来る返事は相槌だけ。それ以上の何も無く。
「終わった?なら大いなる陰を探しに行くから」
レヴィはキャンバスを閉じるとゆっくりと立ち上がる。
手で探るような動きをしたら盲者だと悟られてしまうため、少しふらついてでも足だけで立ち上がり扉の方へ足を一歩向けた。
「そこまで無茶に動く必要はあるのか?」
【敗者】からすれば時間はまだ早すぎる方だ。
観測出来る全宙域の捜索も終わっておらず、仮に大いなる陰が光の速さで移動していたとしてもそれなりに時間が掛かるだろうと彼は予測立てている。彼的にはレヴィにまだ休んでもらいたかった。
「どうせあんたじゃ見つかってないんでしょ?
これは時間の問題なんだから。今は踏ん張りどころだよ」
しかし、レヴィからするともう我慢ならないのだ。
マグノリアの武器を試しに組み立ててみるのはいい。だがそんなのはいくらでも後から出来る。しかし大いなる陰は今逃せば何年も見つからないかもしれない。
そうすればC.A.R.D.もライデンシャフトも後回しになるばかりだ。
それはどうしても避けたいものである。
「……」
休め休めと繰り返し伝えても無駄なことくらい【敗者】はとっくに分かっている。
その上彼女を説き伏せる為の論理を考えるのも時間の無駄のように感じ、【敗者】は仕方なくと大きなため息をついて踵を返した。
「くれぐれも無理はしないように」
「分かってるよ」
レヴィはそんな言葉を呟いたあと、扉を開けて急ぐように飛び出していった。
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる