先程まで昼の設定だったのにもか関わらず二人が歩き出すと時間は急に変化して月が顔を見せる。
街には灯りが付き、人の往来も全くない深夜のような景色だが、それは少し異様で。
「……アークスシップの空なのに、流星が見える……」
アークスシップの人工的な星空に流星はない。
例え流れ星がきらめこうが、季節行事のようにそういう風な設定をしなければ星が動くことなど有り得なかった。
しかし、今は流星がとめどなくアークスシップのドーム型の空を行き交っている。
その流星は奇妙だった。流星なのに全て緑色に光っていた。
「沢山の隕石が、沢山の場所に降り注いでいるんだ。レヴィの情景の中に広がる世界で、僕もまた同じように広がっていく……」
レヴィは訝しげに空を見上げて居たが、【敗者】らしき何かは不思議がるような様子もなくさも当然のように彼女へ言葉を紡ぐ。
「……」
二人はしばらく歩いた後、ある場所へたどり着く。
シャッターの閉まったガレージが出迎える、少し狭い一軒家。
「ここは、どこだ?」
【敗者】らしき何かは淡白な目でその家を見つめているが、レヴィは苦虫を噛み潰したような表情で顔を俯かせた。
「【敗者】、……あのね、わたし……嫌、かも」
「嫌、とは」
案内した【敗者】らしき何かはこの場所を知らないというのに、レヴィはこの場所を分かっている。
レヴィが実家から抜け出した後に居た場所。
彼女が死よりも惨い拷問を受け続けたと同時に、初めて殺人を犯した所でもある。
「あの家も、ここも嫌。嫌な思い出しかない……」
レヴィはなぜ自分がここにいるのか分からなかった。
【敗者】に己の過去を全て打ち明けたいなど思ったことなんてない。そんな覚悟がないのは分かっているし、【敗者】に対して無駄な迷惑を掛けるだけだと思っていたから。
だから、彼を連れてこのトラウマの中心部に来るなんてことは完全に想定外で、よりにもよって貴重な視力が機能する時間で【敗者】のようで彼ではない何かと自分の弱さと醜さの象徴を見せられ続けるのは彼女にとってもキツい所があった。
「……」
「わたし、貴方と一緒に歩くならもっと素敵な場所がいいよ……」
何が嬉しくて彼から見たらただの一軒家でしかない場所に行かなければならないのか。
遊園地だの、服屋だの、もっと二人で行きたいところなどいくらでもあるだろう。
だが【敗者】らしき何かはそんな娯楽など望んでいない。
「んっ?!」
彼もしくは彼女はほんのりとため息のような吐息を吐くとレヴィを掴み、彼女の唇を奪う。
レヴィはそのまま舌でも捩じ込まれるんじゃないかと思い体を硬直させたが【敗者】らしき何かは予想に反してあっさりと彼女から離れ、ぼんやりと空を見上げた。
「家から出たが、人攫いにあったと。
しかし誰にとっても価値の無かった貴様は、金ではなく暴力の捌け口になった」
「そう、……だけど……」
「形容し難い暴力を振るわれ、死を願い続けたが……得たのは、究極の生だった」
「初めて、人を殺したからね……」
【敗者】に言えることなどそれしかない。
ネガティブな話など連ねても無意味だ。
彼が知るべきことなど、自らの功績……
レヴィの世界を変えた、輝かしい人殺しの歴史だけ。
「……苦しいか?」
「苦しい……。
そんな感情を今更過去に抱いた所で、何も変わらないよ」
だがどれだけ事実を隠そうが彼女の声には哀愁が付き纏う。
【敗者】らしき何かは彼女の瞳とその内側に秘めた哀しみを悟り、まるで必要な言葉のように呟いた。
「……可哀想に」
それは優しさなのか、慈悲なのか。
レヴィは困ったように目を逸らすが、彼もしくは彼女の思考はそんなものではない。
其れにとってはシステムのようなものだ。
其れに意思はあっても心なんてない。
「レヴィ、僕とひとつになろう」
「え?」
【敗者】らしき何かはその瞳を翡翠色に輝かせ彼女に手を差し出す。
取り込まれるな、とかつての誰かが言ったように……其れを追い求めるということは、つまり其れに懐を見せるということ。
その先に何があるかなど、相手が依代に飢えたダークファルスであれば決まりきったことである。
「君が可哀想じゃないか。こんなのあんまりだ」
だがレヴィはひとつ幸なことがあった。
本物の【敗者】とは、その問答を既に行っている。
彼女にとっては慣れた話であり、同時に何度聞かれても迷いなく答えられるものだ。
「……言ったでしょ?わたしはわたし。あんたはあんた。ひとつになるつもりはないって」
「……」
【敗者】らしき何かはその答えを出したレヴィに罵声を浴びせることはなく、詰めることもせず、深く頷くと彼女からそっと目を逸らし流星の落ちる星空を見上げた。
「星が見えるだろう?」
レヴィはその様子を見て訝しむように目を細める。
【敗者】じゃないことはとっくに分かっている。
だが、相手が誰か分からない。
自分の妄想なのか、誰かが【敗者】を偽っているのか、それとも幼少期の【敗者】に慣れていないだけなのか……
どれかは分からないが、彼女はただ彼のことを変だと思った。
「あの星の全てが、全部レヴィの物だったらどうする?」
「星核エネルギーが使い放題、ってこと?」
「あの宇宙の闇だって、全部レヴィの物だ」
もし、宇宙の全てが【敗者】のものだと言うならレヴィは納得出来た。それは彼に相応しい言葉だから。
だが、彼の言うレヴィのものなどという言葉は理解出来ず首を傾げた。
「そんなの、スケールが大きすぎてよくわかんないよ」
【敗者】らしき何かはただひたすらに不気味だ。
彼もしくは彼女はレヴィがどんな返答をしようが一切表情は変えず、アルカイックスマイルを浮かべたまま声のトーンも一定でレヴィに答え続けるのだ。
「僕なら出来る」
だから其れは相手を惹くような言葉ですら感情の籠らない、まるで詩を謳うような口ぶりで彼女に紡ぐ。
「僕はダークファルスだ。
僕は、一つにして全て。
全てにして一つ。
だから、あの宇宙の全ては僕そのものであり、それら全てはレヴィの物だ」
「意味わかんないけど……ありがとう?」
「……」
レヴィは言うことも思いつかず指をもじもじと動かしながら【敗者】らしき何かをぼんやりと見つめる。
(かっこいいとは、思うけど……
寂しそう……)
不気味だがどこか哀愁漂う様子。
人間離れした表情も立ち姿もレヴィから見ると満たされていないような、どこか飢えているような雰囲気を感じた。
「レヴィ」
彼はまたしばらく黙ったあと、レヴィへ視線を移す。
少し目を離している間に彼は少し背が高くなっているような気がして、レヴィは首を少し動かして目線を上にあげた。
(なんか……変な感じする)
アークスシップの市街地がほんのりと紫色の霧で覆われて行く中、【敗者】らしき何かは周りの異常を意にも介さずレヴィへ手を差し出す。
「君の
「えっと……」
其れは返事を急かすようにレヴィをじっと見つめる。
分からない。
宇宙の全てが自分のものと言われても、内的宇宙への扉などと言われても理解できないし、レヴィに理解出来るような説明もされない。
「あのね、【敗者】。わたし、あんたの言ってること全然分からない」
レヴィは【敗者】らしき者へ最早配慮など出来なかった。
いくら貴重な彼の姿を見れる場所でも、意味不明なことをされてそのまま納得して頷けるほどレヴィは純粋じゃない。
「なんでこんな過去の忌々しい場所にばっかたどり着くのかもわかんないし、なんであんたが小さくて、あんたが話題をコロコロ変えて、宇宙がどうとか言うのも全然わかんない」
「そうか。……分からないのは、嫌か」
「わたしたちバディでしょ?バディなんだから、隠さないでよ……」
分からないのは嫌。【敗者】らしき何かは自身の中でそう繰り返すと、目を細めた。
「……隠し事をしている君が言える立場か?」
「ッ!」
【敗者】らしき何かは先程までのぼんやりとした様子とは一変し、彼女の瞳の奥を見つめ鋭い言葉を紡ぐ。
だが声色は相変わらず平坦で、そのあまりにも無感情な様子にレヴィはますます彼もしくは彼女に違和感を持っていた。
「相手のことは全て知りたいのに自分の都合の悪い事は話さない。そんな狡い女が僕に言えたことじゃないだろう?」
相手は【敗者】じゃないと分かっている。
だが彼そっくりの見た目と声で言われればレヴィの感情は反応せざるを得ない。
「結果的にあんたにとっても良くなる嘘ならいいでしょう!」
彼女は【敗者】でもない別の誰かに【敗者】の事を当たり散らしている。その自覚はあるが、だが、どうしても……
「だったら僕の全てだって、貴様にとっては良くない真実のはずだ」
彼が過去に何千年もずっと思慕していた女性の存在も、彼が隠したがる過去や彼の存在の始まりも、全てレヴィにとって都合が良い訳などない。
そんな事だってレヴィにはとっくに分かっている。
「わたしは!わたしにとって良くないことでも、それでも何も知らないよりかは……」
そうだとしても、彼が真実を話したくないのだとしてもレヴィは知りたい。
存在として識るべきことでなくても、人の感情として。彼がそれを打ち明けたいと誓う時が来るのなら、その時まで待つ覚悟など出来ている。
(ヤミノナカノ、ヒカリ)
罪悪感と後ろめたさ、それに反する覚悟と高潔さ……
其れはレヴィから得も言われぬような理解出来ない強い感情の奔流を感じ取ると顎を撫でる。
「ふむ」
光でもないが闇でもない。そんな存在はダークファルスから見ると自分より美しいが眩しくもない、芯の通った美徳のように感じられるのだ。
やはり、相応しい。
彼もしくは彼女はそう心の中で呟くと、レヴィに向けて柔らかく微笑んだ。
「そうか、そうか。
"僕"のせいで、心を開けないのか。
愛と信頼はまた別の軸にあるようだな」
「わたしは……!」
「大丈夫だ」
レヴィはまだ【敗者】らしき何かを説き伏せようと口を開いたが、其れは手を伸ばすと彼女の口をそっと塞ぐ。
「僕は君が好きだ。だから、もっとより良いやり方で君を識る事にするよ」
その手が彼女の口から瞼へと動いていくと、景色は再び闇に覆われる。
闇の中で強く風が吹き荒れる。
手の隙間から見える色は【敗者】のそれではなく、むしろレヴィにソックリで。
「今はゆっくりとおやすみ、私の
レヴィは金縛りにあったように何も動けず、其れの言われるがままに意識が遠のいていった。
「……?」
続く限りの暗黒の景色。
耳に入る翼の羽ばたく音とじんわりと濡れる体。
「誰……?」
レヴィは瞬きをしたが、景色は変わらなかった。
起きた。
彼女はそう感じると、すぐに近くを漂うピリつく気配を感じ取った。
「【敗者】……の、眷属?」
レヴィは羽の音からそう察すると、なんとか起き上がる。
【敗者】が迎えに来たと考えるのが自然だ。
『そこで、沈んでた』
小型の眷属はレヴィに向けてそう声を掛け羽を揺らす。
黄金色に輝く鎧は深く暗い地獄のような景色の中でも煌びやかに輝いており、その紅い瞳はレヴィの方をじっと見つめたあと空へ視線を移した。
「大いなる陰の前で気絶してたってことか……」
レヴィは背後を振り向くと、そこにはやはりアンプラム・アンブラの気配がある。
よりにもよって大いなる陰の前で気絶するなんてことが偶然起こり得るのかは分からないが、それはそれとして当初の探すという目的は達成したのだ。心配することはないであろう。
『主様が探してた。心配してた』
「心配?あぁ、まあ行先言わずに出ていったし、そりゃそうだね」
レヴィは眷属へ手を伸ばしポンポンと頭を撫でると辺りを見渡す。
「そんな離れてないし心配するまでもないのにね、ほら行くよ」
『主様凄く寂しそうだったよ?』
「だったら、あんた達がそばに居てあげてね」
レヴィはそう言って拠点までの道を歩き出した。
【敗者】が寂しそうだとか、心配しているだとか、子供のように愛されている眷属から見たらそう思うのかもしれないが、人間とは感じ方はやはり違うだろう。
「事情説明とか言っても、普通に寝ちゃってただけだしな……」
レヴィははぁ、と大きなため息を付いて早足で歩みを進める。
彼女の内心は複雑だった。
【敗者】に逢いたいと思う気持ちと、彼と会って傷付けられたくないと思う気持ち。
振り払われた手の先がジンジンと傷んで空を搔いたとき、レヴィは……
「……イヤ、だなぁ」
『主様の元には帰ってもらうよ?』
「わかってるよ。でも、これ以上後ろに下がりたくない……前に、ほんの少しでもいいから前に進みたいの」
レヴィはそう呟くとさらに足を早く進める。
会いたい。でもこれ以上傷付きたくない。会いたくない。でもやっぱり【敗者】の事が好きだ。
会いたい、でもやっぱり怖い。会いたくない、会いたくない、でもやっぱり……
レヴィの思考と同じように地面に伸びた影がゆらゆらと渦巻くと、黒いクラゲのような浮遊体が飛び出る。
『妃様?』
眷属は浮遊体の方を見て話しかけたが、レヴィは俯いてブツブツと呟いたまま他のどこにも目を向けることなく歩き続ける。
『妃様、妃様、妃様!』
レヴィは取り憑かれたように激しく腕を振り大股で歩き出しそのままどこかへ走り出してしまうのではないかと眷属は疑い急いで後を追いかける。
翼をバタバタと羽ばたかせ彼女の前をブロックしようとした瞬間、眷属とは別の大きな影がレヴィを覆った。
「妃とはどういうつもりだ?」
『ヒャッ!主様!いえワタクシは決して先輩風を吹かしたわけでは……』
「どういうつもりだ?」
『すみませんただの嫌味ですぅー!!』
眷属と【敗者】が和気藹々と言葉を交わしている中、レヴィは一人だけぼんやりと地面を眺め、起きているのか寝ているのか分からないほど体を脱力させている。
【敗者】は軽い会話の後彼女と話そうとようやくレヴィの方へ目を向けるが、彼女の不可解な様子と周りを漂う神秘的な物体を見て彼は目を見開いた。
「……レヴィ?」
光を反射しない素材も分からないようなモノクロの歪んだ円形に黒い触手が付いた、生き物かすら定かではない何かの浮遊物。
「大いなる闇の……器……」
「レヴィ!」
【敗者】が声をかけた瞬間、レヴィは無反応でぼんやりと立っているだけだというのにその何かだけが【敗者】の方に反応したかのように感じ、上下左右関係なくまばらに存在するそれらが一斉に【敗者】を凝視する。
そして、ワンテンポ遅れてからレヴィも反応した。
「あ、ごめん。……心配かけたよね」
ずぶ濡れで体を冷やすなんて心配よりも先に周りにいる余りにも異様なヤツらに目が向き、【敗者】は黙って周りをキョロキョロと見渡すだけだった。
「【敗者】、不安なの?」
「それは貴様が……」
レヴィはそれらに目を向けることは一切なく、【敗者】にゆっくりと近付いていく。
【敗者】だけが見えるものなのか。それともレヴィだけが見えないものなのか。
それが分からないままレヴィは【敗者】の方へ近付くと、彼女は不思議な感覚を覚えた。
目が見えていないのに【敗者】の表情がわかる気がする。
彼は自分の顔ではなくどこか違うところを見ていて、レヴィに話しかけているのに何かを恐れているような気がした。だけれど、どこか自分を見ているような気分にもなる……
「【敗者】……」
迷った末、レヴィは【敗者】の頭を覆うように抱きしめた。
拒絶されることを覚悟しての行動だったが、【敗者】は肩を跳ねさせるだけであり明確に拒否することはせず、大人しくレヴィの胸に顔を埋める。
【敗者】はじんわりと触れる彼女の体温から様々な意思を感じる。
共に寄り添いたいという願い、どうにかして為になりたいともがく焦り、どうして自分が別の何かになってあげられなかったのだろうと考える劣等感……
「……レヴィ」
「どうしたの?」
「……いつも、頑張っているようだな」
「結果は出てないけど……」
「出ているじゃないか」
【敗者】はレヴィの背を覆うように手を回し、彼女を抱きしめ返す。
それだけでふんわりとレヴィの体が熱くなり、彼女は蕩けるように微笑んだ。
「ほんと?」
「データは常に真実を告げている。
それは誰にも否定出来るものじゃないだろう?」
レヴィはそれを聞くときゅっと拳を握ってから、ゆっくりと深呼吸し……そっと声を出した。
「ね、……あのね、ちゃんとぎゅって、していい?」
「風呂に入れと言いたいところだが……そこまで願うなら好きにするといい」
【敗者】の言葉でレヴィはぱっと体を離す。
彼女は月の光のように暖かい光で、灰暮れた輝きを帯びていた。
だが、闇の中で生きる【敗者】にとってはそれが眩しくなく、何よりも優しい白のように感じた。
「……可愛い」
レヴィを見てそんな声が漏れると、案の定レヴィは顔が赤くなり【敗者】と目を合わせポカンと口を開けていた。
瞳孔開きっぱなしの瞳が彼の目を刺しながら、背後では消えることのない浮遊物が【敗者】を凝視している。
レヴィはモジモジと指を擦り、口元を抑えながらボソボソと呟く。
「あ、あの……そんなに一気に褒められたら……わたしの原子配列おかしくなっちゃう……」
「また変な事を言って……。いいから来い」
「う、……うん」
今は許されている。
レヴィは【敗者】にそう確信すると直ぐに近寄って、今度は【敗者】の体を目一杯全力で抱きしめる。
力を入れすぎて骨を折ってしまわないかなんて心配の必要などなく、レヴィはひたすらに【敗者】に向けて愛を叫ぶようぎゅうぎゅうと抱え込んだ。
「【敗者】……」
レヴィは重苦しい愛してるの代わりに彼の名前を呼び、更に体を押し付ける。
【敗者】のほんのり冷たい体温と、彼の少しビターな大人の匂い。彼を覆うダーカー因子もピリッとしてて、でもどこか安心させてくれる。
レヴィの真っ暗な視界の中で感じられる【敗者】の全ては甘く蕩けるようで、彼はガトーショコラかティラミスか、スイーツで例えるとしたらどうなるだろうと頭の中で悶々と考えていた。
「レヴィは……暖かい」
「濡れてるから冷たいでしょ?」
「それでも、暖かく感じる……」
「……わたし、【敗者】も暖かいって思う。
だって、わたしとぎゅってしてくれてるんだもん……」
「……」
《【敗者】大好き!だいすき、いっぱいすき、ほんとに大好き……》
レヴィから一杯のユニゾン波が届いたかと思うと、【敗者】の視界に映る黒い何かがフルフルと震えたあと、次の瞬間パッと消えた。
「【敗者】……」
光の入らない暗い世界。レヴィは【敗者】がどんな顔をしているのか全くわからないが、それでも強く抱きしめ続ける。
離してしまったら、もう二度とこの手の中に彼の大きな感触を抱けないかもしれないから。
だから、レヴィは縋るように彼を強く抱き締め、暫くずっとその抱擁を続けていた。
【敗者】はそれを拒絶しなかった。
何をされようが構わない。【敗者】は心の中でそう呟くが、レヴィの取り憑かれたような必死な様子は彼の言葉が伝わる余地など微塵も感じさせず。
「仕方がないな……」
【敗者】は楽しげなため息をついた後、彼女の頭を撫で続けた。
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
-
続編として作品を分ける
-
分けないで一つの作品でまとめる