「休憩を求めている、ということに間違いはないが……そうだな。少し人とコミュニケーションを取って、考えを整理したかったんだ」
「ふぅーん……」
今の【敗者】はとても上機嫌に見えるが、アークスシップにいた時とは少し違う。
今の【敗者】はただ上機嫌なだけじゃない。
なんだか……幸せそうだ。
それだけ彼を機嫌良くさせる何かがあったのだろうか、とレヴィは心の中で呟く。
シオンとか?なんて考えた所で首を横に振り、そっと声を出した。
「今はなにしてんの?」
「新しい物を作りたくて、色々と設計しているところなんだ」
「新しい物って……兵器とか?」
「兵器、か。捉えようによってはそうなのかもしれないな」
「?」
「僕は、先天的に機械の体を持つアンドロイドを作ろうとしているんだ。
今、オラクルで機械の体を持つキャストは全て後天的な手術を経ての物だが、そうではない……完全に先天的な物でありながら、人工知能を使い人の心を持っているかのような高性能キャストを作りたいと考えている」
「マシナリーってこと?」
「キャストとマシナリーのいい所を兼ね備えた存在という所だろうか。言うなればハイキャスト……キャストの上位存在。人権あるものだ」
【敗者】の言葉は、突拍子もない事といえばそうだ。
今はアークスの復讐を目的とし力を付けている段階で、対オラクルで使用するような兵器ではなくたかだか人の心が入った高性能キャストを求めるというのは、レヴィにとってはとても奇妙に見える。
「でも、どういう目的で作るの?」
「製造コストにもよるが、各キャンプシップに医療用ハイキャストを配置しより早く高度な治療を受けられるようにすればアークスの生存率は格段に向上するだろう?」
「確かに、メディカルセンターは万年人不足の過労状態だしね……」
「特殊兵装を搭載し特殊環境下でも対応出来るようにするハイキャストや惑星探査用、料理用、研究用などいくらでも可能性は存在する」
そう言われれば、確かに対オラクル専用の高性能兵器としてハイキャストを配置してもいいわけだ。
戦闘のプロフェッショナルであったり、細菌兵器の媒介者であったり……
(わたしなら自爆テロ用のハイキャストとかにするかな……
ある程度混乱起こしたところでハイキャストの兵団作って乗り込んで一気にマザーシップを乗っ取る、的な感じで……)
「で、あんたはどういうのが作りたいワケ?」
レヴィは自分の妄想が膨らんでしまう前に【敗者】からの答えを聞くことにした。
彼は一体どれほど残虐なものを、とレヴィは殺傷手段としてのハイキャストを色々と期待していたが、【敗者】の答えは違う。
「僕は、光歴時代に存在していた技術や歴史などを記録する新型キャストが造りたいんだ」
「フォトナー時代の……?」
「データベースのようなものだが、それよりももっと柔軟なものだ。ダーカーとの戦争により失われた数多くの文明や歴史、フォトナー達の持つ技術を機械的に記録し、それをロストテクノロジーという過去の遺産ではなく現代の技術として復刻する。
つまり、記録するだけではなく、それを活用出来る存在となる」
「いい案だけど……技術を使うってだけなら【敗者】が居ればいいんじゃないの?記録は確かに残ってないけど、あんたは長生きなんだから全部覚えてるだろうし、それをアークスに教える意味なんてないからあんたは歴史を捏造したんだし……」
【敗者】はそれを聞いてそっと目を閉じる。
アンプラム・アンブラによって呼び起こされた根源の記憶はあまりにも浅かった。
そればかりか、【敗者】は現在進行形でまた失いつつある。
それが大いなる陰による仕業なのか、それともダークファルスとしての本能がしている事なのかは分からない。
だが、残さなければまたハ××ットのことを忘れてしまう。
「僕は人ではないが、あくまで精神を持つ存在だ。記憶によって情報を取り入れ、感情によってそれを選別する。外部からの刺激によりそれらの情報は捻じ曲げられ損傷し、容量が不足すれば欠落していく」
【敗者】にとってその根源を忘れるに値する粗末な情報だと決めつけるのはあまりにも信じ難い事だった。だが忘れたのが事実。全知存在とシオンより大事な物などないと定めたのが事実だった。
【敗者】にとって、きっかけなど些細なものでしかないと……レヴィとの関係でも彼はそれを感じていた。
「……あんただけだと忘れちゃうってことか」
「あぁ。だからこその完全な機械と人工知能。
僕と同レベルかそれ以上の知識を持って起きながら、記憶によってそれが忘れることもなく、そして単なるデータベースと違いそれらを応用出来るようになる。
ハイキャストという案は僕にとっての最適解になるんだ」
知識に拘り、全知存在を求めている彼がそのアーカイブを求めているというのならそれは彼の本望だろう。
レヴィは頭の中に思い浮かんだ様々な案が消えていくことには寂しさを覚えたものの、そういう方面ならまた別の疑問が湧いてくる。
「それならいいんじゃない?でも、あんたがもう忘れてるってなると欠落したまんまの技術も多くなりそうだけど」
「記憶は個人の感情によって選別されている。都合のいい部分だけ濃く残り、不必要な部分は忘却される。
しかし、人間の本質的に完全な忘却というのは存在しない。脳内には
「箱に詰めるために紙をそのまんまじゃなくてシュレッダーでバラバラにしてるから忘れちゃってるだけで、また繋ぎ直せば読めるようになるって感じ?」
「その例えは少し奇妙だが……フォトナーはアークスよりも処理能力が高く記憶出来る容量も大きい。
だからこそアークスの脳にあるエングラム細胞を刺激してもアクセス出来る記憶は一部であり完全に消滅する記憶の方が多いが、フォトナーの脳は記憶を忘却することはあっても完全に削除されることは稀だ。
だからこそ、脳を外部から刺激する事によって僕自身ですら忘れている技術や歴史を呼び起こし、それをハイキャストの記録としてアーカイブすることが出来る可能性が高い」
「なるほどね……
でも、フォトナーとアークスで根本的に体の作りが違うのなら、クローンの器を使った【敗者】の脳を刺激しても記憶は削除されてしまってるんじゃないの?」
「それは違うな。ダークファルスが人を依代とした場合、器の生理的機能や消耗は人と同様にあったとしても根本的な構造は全てダーカー因子の侵食によって書き換えられる。
それこそが人の生命維持に必要な飲食や睡眠を必要としない理由であり、ダークファルスの脳には精神体であるダークファルスそのものの核心的な情報……ダーカー因子が多く存在している。
つまり、ダーカー因子という意志や精神を持つ素粒子を脳というコンバーターを介することで人間のような神経細胞として結合させ、その結合された神経細胞を読み取ることによって記憶が復元出来るようになる。
これはフォトンのエネルギー利用と同じだ。
記憶素子に過ぎないフォトンをエネルギーや硬化など様々な形に変化させ利用するのと同じように、悪性変化したフォトンに過ぎないダーカー因子を臓器という様々なコンバーターを通して人間的な細胞などを形成し利用することが出来る」
「ダーカー因子を神経細胞に変換、ねぇ……」
レヴィは紅茶を継ぎ足し、足を組む。
ダークファルスに知性はあれど心はないなんてのはよく聞く話だが、レヴィからするとやはりそうは思えない。
心というものは所詮化学式の範囲内だ。
ニューロンで構成された脳というネットワークが心を作り出し、それが電気信号によって容易に操作出来るものに過ぎないというのなら神経細胞がダーカー因子から出来ていようがタンパク質から出来ていようがそこに差などないだろう。
「お前でも分かりやすい例で例えるとすれば、そうだな……
ダークファルスの精液はダーカー因子から出来ている。だがこれは精液にダーカー因子が侵食した物というよりかは、ダーカー因子の変化によって精原細胞に近い物が生成され、本来の精原細胞と同様の機能を持って精子に類似した物質が生成されるということだ。
ゆえに、ダークファルスの体内には厳密に細胞と言えるものは存在しないが細胞と同機能を持つ変異ダーカー因子が数多く存在しているわけだ」
「うーん……でも、それなら脳の処理負荷ってのは元々のコンバーターに依存するものなんじゃないの?結局問題は解消されてないように感じるけど」
「その疑問を持つのは当然だな。
だが、フォトナーとアークスはそもそも扱えるフォトンの量に大きな差があるという部分に着目するといい。
フォトナーの脳の処理能力が高かろうが、その器を利用する存在のフォトン適性が低ければ脳の処理負荷は低く扱いきれないものになる。
もしフォトナーのフォトン適性が現在のアークスと同レベルのものであれば、フォトナーの脳の処理能力というのは高くする必要はなかったはずだ。だがフォトナーのフォトン適性では器は窮屈だと感じ、フォトナー達は常に究極の器……もっともフォトンを上手く扱える器を求めていた」
「フォトンの量は脳の処理能力にまで影響してるのか……」
「あぁ。フォトンが記憶素子だという事を思い出してみるといい。フォトンをより上手く扱い、より多くのフォトンを持つ存在は体内により多くの記憶素子を持つことになる。そして脳の処理能力の高さとフォトンの体内含有量は比例関係にある。
つまり、脳の処理能力の高さというのはフォトン適性に直結しており、極端な話をすれば、この世にある全てのフォトンを吸収し扱うことが出来る存在は全知存在と同等の処理能力を持ち合わせる事になる。
ここから言いたいことは、フォトナーとアークスの脳の処理能力の差というのは脳の構造差ではなくフォトンをより上手く扱えるかどうかの差になる訳だ」
「はぁ……頭の良さまでフォトン適正だって言いたいワケ?」
レヴィは不貞腐れたように頬を膨らませた。
フォトン適性が脳の処理能力に影響するのなら、どれだけ無我夢中に勉強してハッキングや操縦の力を身につけたとしても、無勉強のルビィには全く敵わないと言ってるようじゃないか、と。
だが、【敗者】は迷わずすぐ首を横に振った。
「こうやって話を理解出来ているならお前は馬鹿じゃないだろう?
それに、この脳の差というのは各々の動物に存在する知能指数の差であり、馬鹿か賢いかなど俗な言葉で示せるほどの差じゃないんだ。フォトナーとアークスは文明レベルで基礎知識や知能に大きな差がある……それだけさ」
「……あんたはホントに優しいね」
ふい、とレヴィは顔を逸らすが、彼女は少し安堵した様子で頬を突いていた。
「それと、例えアークスを依代にしたとしてもダークファルスを許容しうるだけのフォトン適性があるのだとすれば、その器は既にフォトナーの処理能力に達するポテンシャルがあることになる。ダーカーの力によって依代の中に秘められたポテンシャルが理論値の状態に達する……
だからこそ、力を求めるものは全てダーカーに行き着く訳だ。フォトンでは遠い道のりである力を、ダーカーの力であればあっという間に手に入れられる事になる」
「ダークファルスになれば、その依代の持つ能力はフォトナーレベルに達するってワケね……
フォトナーになりたいと縋った虚空機関の奴らも、ダークファルスになればその願いを果たせたのかもしれない」
「いいや。所詮、アークスはアークスだ。
ダークファルスになったとて、奴らがフォトナーになることは出来ない。
仮にダークファルスの依代になった器が死亡することなく解放されたとしよう。
するとダーカー因子によって書き換えられた細胞群はダーカー因子が消滅した場合一般的には消滅したまま死亡することになるが、フォトンによって置換される可能性もある。
その場合はフォトナーが使うに値するほどよくフォトンを扱える器になるだろう。
だがアークスがフォトナーに敵わないのはその処理能力が発揮されるほど大量のフォトンを扱うだけの技術がなく、寿命も短く、武器やアークスシップなどのリミッターに頼ることで増幅ではなく抑制という形でコントロールしてしまうんだ。
だからこそ、根本的に作りが違う訳だ」
「じゃあ、あんたが入った体はクソディナンが作った器だけど一応ダークファルスを受け止められるだけのポテンシャルがあったって事ね」
アークス研究同好会が作ったルーサーのクローンは彼らチームの悲願のように扱われていたが、レヴィから見ても彼らの知能や研究への理解からして明らかにディナン一人だけが突出していた。皆の協力があってこそとかあくまでマスターでしかないといったような謙遜の言葉は単なる罪逃れに過ぎず、ルーサーの形をした人形だってほとんどディナンがその開発を担ったのだろう。
「あぁ。不気味な程に上手く出来ていたが、僕に合うかと言われれば話は別。一時的な繋ぎに過ぎないものだ」
だがあの器は元々クローンのためのものであり、生身の精神を宿すに値するものではなかった。だから彼は人形に入ったあとかなり調整した上、今は自身で用意した別の器に入っている訳だ。
レヴィは【敗者】からの話を反芻しながらまとめている中で、ぼんやりと思い出す。
長い戦争で大切な物を失い、失意の中に居るものだってそう少なくない。
そんな闇を背負い、ダークファルスに魅せられるものだってきっといくらでもいるはずだ。
それでも現在確認されているダークファルスの数は五本の指にも収まるのだ。それはレヴィからすると奇妙なように見えた。
「んー……その話を聞いてると、ダークファルスってのはそもそもフォトナーくらいフォトンを持てないとなれないって感じだよね。
だからこそ今新規のダークファルスがぽんぽん発生しないってことなのかな?」
「アークスが設立して以降ダークファルスを創造出来る【深遠なる闇】が存在していないことからその確認は出来ない。
だが、少なくとも普通のアークスではダークファルスの依代になれないことから、ダークファルスに変異するためにも相当のフォトン適性が必要になるだろう」
「……」
「仮にお前がダークファルスになるとしたら……という話は前にしたな。あの時はグラン類似エネルギーとダーカー因子の食い合いという観点だけで話していたが、そもそもなれる適性があるかどうかに関しては大いにあると考えられる」
「そうなの?」
レヴィは"器"だけなら並大抵のアークスなど比べ物にならないほど多い。それはグラン類似エネルギーの力でナベリウスの山を砕いた時から思っていたことだ。
「僕がお前を依代にして証拠を示してやろうか?」
「いや、……同化するのはやっぱイヤだな」
「男好きだからか?」
【敗者】は揶揄うように軽い口でそう言ったが、レヴィは呆れたように溜息をついた。
「別々がいいって話。わたしと同じ存在ならつまんないでしょ」
「追い求める事が愉しいと」
「科学者なんだから分かりきってることより未知を追い求めるのが性じゃないの?」
「それはそうだが……」
そう言われると、と【敗者】はレヴィの足元から頭頂までをじっと見つめる。
研究者のような思考の理解があるのなら、レヴィにだってその気があるのだろう。
【敗者】がレヴィを知りたいと思うように、レヴィも【敗者】を知りたいと考えている。
「……そんなに僕の体に興味があるのか?」
レヴィはその言葉に顔を上げた。
興味、関心。確かにレヴィは【敗者】の事がとても気になる。
が、彼女の心はその言葉で納得しなかった。
「興味、なのかな。……ずっとこうやって隣にいると、なんだか変な気持ちになるの。
わたし、【敗者】のことをなんだと思ってるんだろうって」
「……」
訓練学校でレヴィは習った。
ダーカーは悪で、ダークファルスは悪だと。それが当たり前であり、ダーカーはこの宇宙にとって不倶戴天の敵だと。
だが、レヴィはダークファルスから優しさを得たことも、アークスから惨い仕打ちを受けたことも記憶している。
そんな中で、【敗者】を悪い存在だとはとても思えず、だからこそ彼女は【敗者】をどう扱っていいか分からなかった。
彼を人とするならそれは他の醜いアークスと同列に扱うようであり、ダークファルスとするなら彼女に敵対的な他のダークファルスと一纏めにしてしまう。
【敗者】はそのどちらでもない、レヴィにとってかけがえのないものだ。
「人形なのか、ヒトなのか、それともダークファルスなのか。
あのね、わたしにとって【敗者】は【敗者】なの。例え人形でも、ヒトでも、ダークファルスでも、【敗者】は【敗者】しかいないの。でも、……【敗者】の本質はなんなのかって言われたら、わたしじゃわかんないなぁって」
「闇だ。知識を求めるだけの、ただの闇に過ぎない。大層な肩書きも特別な種族もなく、単なる闇のひとつに過ぎないのだろう」
「知識の闇……」
「心の底に誰しも持っているものだろう?探究心、好奇心、何かを追い求めようとする気持ち。それで求める物が知らないことを知ることならば、僕の望みと同じ物。
いや、……それこそまさに、科学者の本能だ」
レヴィはその会話の中で、ゆっくりと【敗者】の温もりを感じる。
【敗者】はそれを科学者の本能だと言ったが、レヴィにとっては違うもののように感じていた。
「【敗者】って、……純粋なんだね」
「純粋……?」
「何かを知りたくて、そのために沢山頑張るって……すごく素敵で、すごく純粋なものだと思うの」
【敗者】は人の命を弄び、虐げるだけだと多くの人は言ってきた。
科学者として全てを知ることも、"たかがそんな事のため"だと考えた。
何かを知るために、命を犠牲にし、心を踏みにじり、世界を壊す。
それが酷く醜く、悪辣なものである。
アークスはそう定義したから、【敗者】を憎んだ。
でも、レヴィはむしろ……"知識だけ"の方が良かった。【敗者】が"知恵"を求める存在ではなく、知識を求める存在だったからこそ、彼のそれを純粋な願いだと思えた。
「だってさ、何かを知ってそれで何か悪い事をするなら、その知識って汚くて醜いものでしょ?
でも、【敗者】はただ知りたいだけなんだもん。
それを知って活かすことも、何を成し遂げることもなく、ただ知ることこそが欲望の極地であり、あんたにとってのゴール地点。
それって、みんなが言うほど醜いものじゃないと思うよ」
「……!」
【敗者】はその言葉を聞いて胸がとくんと疼いた。胸が熱い。痛くもなく苦しくもないのに、目がじんわりと熱を持っていく。
彼は自分がどんな感情を抱いているのか言葉に出来なかったが、彼女の言葉の一つ一つが尊くて仕方なく感じる。
「【敗者】には望みがあって、理由がある。全てを知るために、この世にある全てを使う。
……やっぱりわたしは、アークスじゃないのかもね。あなたが悪い人だと思えないから」
【敗者】は今、確かに悪い事をしているのだろう。
彼は沢山の人を殺したし、沢山の人の尊厳や心を蝕んだ。
でも、彼は悪い事をするために知識を求めている訳じゃない。
生態系の頂点に立ちたい訳でもない。
宇宙を支配したい訳でもない。
堕落したいわけでも、英雄になりたいわけでもない。
そこにあるのは知識欲と、贖罪と、赦しと、己の正しさの証明――
ただ、気の狂うほど長い時を生きてきた今の【敗者】にとっては……"知りたい"ことしか必要としていない。そのように彼は忘却していった。
レヴィはそんな人から、悪意は感じられなかった。
だが、【敗者】はその言葉に何の反応も示さなかった。
レヴィを見つめたままぽおっと、惚けた様子で言葉を噛み締めている。
「【敗者】?……【敗者】?」
レヴィは何度も声をかけるが、【敗者】からの返答はなかった。
【敗者】の名前を呼ぶその声も、彼にとっては子鳥のさえずりのような優しい音色のように過ぎてしまって、言葉の本質を見失っている。
「……」
(どうしたんだろう……?)
レヴィは彼の意識を戻そうと手を伸ばし肩に触れようとした。
が、すれすれに近付いてごくりと喉を鳴らすと、やはりそっと離す。
「大丈夫……わたしも、あなたも、大丈夫だから」
レヴィはほんの少し待ってから、体を起こし椅子から立ち上がった。
「ッ!」
レヴィの柔らかな声色を聞いて蕩けていた彼の意識は、椅子の動くザリザリとした硬い音でハッと取り戻し焦るように彼女を見上げる。
「レヴィ?」
「じゃあわたし、行くから」
そう言われて【敗者】は時計に目をやると納得するが、ひとりでに眉を顰めていた。
「もう、……そんな時間か」
「あんたも飽きたみたいだし、わたしは作業に戻りたいからさ」
「大いなる陰……か?」
「え?いや……C.A.R.D.の調整だよ」
【敗者】はその言葉を聞いてそっと彼女の頭に手を伸ばすと、ポンポンと撫でる。
「ひゃっ……」
「行ってこい、……待ってるから」
【敗者】はそう言って笑顔で送り出したが、レヴィは彼の表情も見えず呆気にとられた様子で頭を抑えた。
「……?」
どうして今、とレヴィは疑問に思いつつも、撫でられた頭を擦りながらぽてぽてと狭い歩幅で【敗者】の元から離れていく。
彼はそんな姿を見送ってから、またぼんやりと頭の中でレヴィのことを考えていた。
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる