「一旦試作って形では〆かな……?」
C.A.R.D.。
レヴィの目の前に浮かんだ新たな武器は一見すると紙のようにしか見えないが、青白く発光しながら物々しいオーラを放っていた。
このC.A.R.D.は菌を使って作られたものであり、取り込んだ武器やエネミーのデータを再生するように召喚し召喚者の望むように扱うことが出来る。
「問題は、内部のデータ。出力するためのエネミーや武器の情報が不足しすぎてる……」
現状ダーカーの巣窟を彷徨いているいくつかのダーカーと自分が所持している武器は全て取り込んだが、それでもC.A.R.D.のポテンシャルを引き出すにはあまりにも少なすぎる。
それに、内部には解析出来ないデータ……恐らくラグオルの物であろうエネミーや武器のデータが入っている。
それを解析出来れば奇策要因として活用することも考えられるが、ハッキングのプロフェッショナルであるレヴィですらそのデータを解析することが出来ず頭を抱えていた。
「大いなる陰の中には間違いなくデータが存在していて、アレはそれを理解出来てるはず……
だから悪いのはわたしの方、わたしの言語理解が足りてないだけ……」
なれば大いなる陰の研究をとレヴィは立ち上がるが、その瞬間目の前の景色がぐらりと揺らぐ。
だがレヴィは慌てず再び椅子に座り、水を一杯飲む。
最近にはよくあることだ。
過労なら慣れたことだが最近は三倍増しで疲れやすくなっている。
ダーカーの巣窟のせいか、それとも別の何かのせいか……
「全てを知るために、全てを捧げなくてはならない……」
レヴィはひとりでにそこまで呟くと、頭が痛み机に体を任せた。
大いなる陰の所まで行くのはいい。
だが、あそこに行くと記憶が途切れ途切れになる。
大いなる陰の前にたどり着くと記憶を失い、ほんの一瞬視界が真っ暗になってから、またパッと意識を取り戻すのだ。
そして、知らぬ間に何時間も経っている……
(大いなる陰がわたしを識ろうとしてるってこと?データセットを作成するためにこっちの意識を奪ってるって?
……それはいいけど、そうなると大いなる陰は完全なわたしのコピーを作れることになるよね?そうなったらどうなるの?【敗者】が作ろうとしてるハイキャストもアイツなら作れる?)
「ま、どちらにせよお互い様って話か……」
大いなる陰がレヴィからオラクルを学習し、レヴィが大いなる陰からラグオルを学習する。
上手い等価交換だろう、とレヴィは結論を付け、ゆっくりと立ち上がった。
今度は一応大丈夫そうだ。
そう考えながらも、レヴィはアイゼンハートを杖の形に変えゆっくりと歩いていく。
大いなる陰が住み着いている拠点まではそれなりに距離があるが、レヴィは30分ほど掛けてそこまで到着するとまた目の前がぐらりと揺らいだ。
『欲しい……』
「何が欲しいの?」
『全て。全てが、欲しい』
「ふーん……」
レヴィは杖に掴まりつつも一歩一歩と大いなる陰に近付いていき、そっと目の前に立つ。
「膨大すぎるね、あんたの望みは」
割れるような頭の痛みと目眩に侵されながらもレヴィは勝気にそう言って笑うが、大いなる陰はその赤紫色の肉をぐねりと揺らすと返すようにレヴィに向けて笑った。
『君は【敗者】が欲しいくせに?』
レヴィはその言葉に驚くと、体の制御が付かなくなり膝から崩れ落ちていく。
その声は彼女と全く同じで、彼女より落ち着いた声色で。
「そんな高望みだって、いうワケ……!?」
彼女の真っ暗な視界は赤黒い景色に包まれると直ぐに景色を映し、ラグオルの静寂ながらおどろおどろしい空間が広がった。
「……」
頭がぼんやりとする。
レヴィは先程までの自分の行動も思い出せないまま、記憶に消えていた大いなる陰との交流が思い出されパッと顔を上げた。
「【敗者】……?」
そこに居たのは【敗者】……に似た何か。
大いなる陰が繕った姿。レヴィの為の皮。
「待っていたよ、レヴィ」
そう言われると彼は黒光りする剣を取り出す。
「……戦闘訓練でもしたいの?」
レヴィは彼に向けそう言うが、【敗者】は顎を持ち上げるとクイ、と勝気にレヴィを見下ろす。
「僕のデータから武器を作ってるんだろう?」
「……!C.A.R.D.の事?」
【敗者】は頷くと、レヴィは試作品としたその武器を取り出した。
武器として成立してはいる。だがレヴィの気を引いた神秘的な輝きが足りない。そして内部のデータも足りない。
「それはまだ完成されていないようだな」
「そりゃ……まあ」
「使い方は分かるか?」
【敗者】の言葉に頷き、レヴィはC.A.R.D.を掲げると内部に学習させたエネミー……リューダソーサラーを召喚する。
エネミーは模倣したとは思えないほど完璧な形で抽出されており、レヴィの指示に任せてくるりと体を動かした。
「いいだろう。……全力でかかってこい」
(協力してくれるってこと……?)
レヴィは彼の態度に疑問を抱きつつもC.A.R.D.を構える。
「セット、ムーブ……アクション!」
規範的なC.A.R.D.の動きに合わせてエネミーを召喚すると、【敗者】の眷属であるはずのエネミー達はレヴィの命令に従って【敗者】の見た目をした物に襲いかかっていく。
「根本的な物が分かってないな」
【敗者】はそう言い、剣を掲げる。
「ウェイブモーション」
瞬間、空間にカラカラという何か硬いものが跳ねるような音が聞こえた。
その瞬間、【敗者】の後ろに大きな砲身が見え、レヴィの方に電撃を纏った弾が飛んでくる。
「きゃっ!!」
レヴィは反射的にブラックローズを広げなんとか直撃だけは免れたが、その衝撃で体が吹き飛ばされた。
「C.A.R.D.はダイスの目に囚われている……
これは戦いでありながら、一つのゲームなんだよ」
ダイス+1、メテオ。
【敗者】はそう呟くと頭上に隕石が現れ、レヴィの方に降り注いでいった。
「くっ……!!」
ギリギリの所で避けたが防戦であることに変わりはない。
「ダイス?……
「シパ……?」
レヴィは彼女の中のダイスを菌で作り出してみるが、C.A.R.D.に迎合するように変化出来ない。
「あぁ、すまない。テセラクトではなく……、キューブだ」
「
「……??」
材質を水に変えればいいのか、確かに硬い音はするが目には見えないから水なのかもしれない……なんて考えながらレヴィはテセラクト型のダイスを水に変えるが、より一層【敗者】は分からなくなり首を傾げる。
「そうだな……、ふむ、えっと……」
明らかに空気が冷えており、レヴィは慌てて手を振り一歩二歩と下がっていった。
「ごめん!いや、その……自分で答えを探してみるから!」
そう言うと【敗者】の返事を待たずして彼女はC.A.R.D.を構える。
サイコロの出た目によって何が変わるのだろうか。
レヴィはC.A.R.D.の表面をチラリと見る。
そこにあるのはエネミーのグラフィックのみであり、その他には何の文字も書かれていない。何故ならカードの裏面しか知らないからだ。
それに対して【敗者】はC.A.R.D.本体を構えている訳では無いがそのカードの本来の使い方や効果は全て知っている。
素直に見せて教えてもらうか、とも考えたが、ダイスの意味合いで噛み合わず空気を冷ましたばかりだ。
レヴィはなんとか自分で見つけなければと考えついた末、パッと閃く。
"レベル"と"HP"。エネミーの危険度や討伐難易度を数値で示す、アークスの基本的な定規を使えば良いのでは、と。
どうせエネミーの召喚は大型になるほどエネルギー消費量が増えていく。ならアークスの計算に則ってそれをレベルやランクという形で分け、効率良いエネルギー利用の為に総数を分配し、召喚していけば良いのではないかと。
サイコロと水に関しては……あくまで【敗者】の出す答えだ。レヴィのやり方にそぐわないのであれば必ずしも使う必要はない。
「よしっ!」
レヴィはコールを削り、あっという間にダーカーを召喚すると【敗者】に向け放つ。
コストが1000と仮定して、500を一体100を五体といった感じだ。
コールは相手に状況を悟られないよう出来るだけ無くす。
ブラックローズは詠唱を元に技を発動させる仕組みだが、C.A.R.D.は菌が元となっており使用者の意思を色濃く反映する為詠唱のような無駄な過程を踏むことはなく指示をすることが出来ると考えたためだ。
「C.A.R.D.をカードではなく呪符として解釈するか……悪くない発想だ」
【敗者】はダーカーが迫る中でも表情一つ変えず淡々と呟き、剣を横に薙ぎ払い一気にエネミーを倒す。
揺れる袖から赤く太い腕輪がちらりと覗くと、今度はレヴィに向けて斬りかかってきた。
レヴィは武器を召喚しようとしたがタイミングが遅れ、エネミーを出して身代わりにするのが限界だ。
「そうだ。エネミーは剣でもあり盾でもある。プレイヤーへの攻撃を防ぐため、防御の為のカードを発動し相手の攻撃を軽減させることや、カウンターを取ることを意識しろ」
「なんで、あんたがC.A.R.D.のことを教えるワケ?」
「どうせ後から知ることだろう。今話したとて結果的には代わりもない。暇潰しだ」
レヴィは返すように剣を握り【敗者】に向け斬りあげるがサッと避けられ、彼は本物のC.A.R.D.を取り出してエネミーを召喚した。
緑色の召喚エフェクトと共に爪のような形をした銀と赤のエネミーが姿を表し、レヴィへ向け歩みを進める。
「これは……ラグオルの生物?」
見慣れない様相にレヴィは驚きつつも直ぐに切り裂き、【敗者】へ向かっていく。
「確かに、ラグオルの物だ。だが僕は昔よりもっと強い。ここに居る間は、お前がそうだと願う分、僕のポテンシャルも超えていく」
【敗者】はくるりとカードを回し、その表面をレヴィへ見せた。
「ッ!!」
「泡沫の幻影だが、力を見せてやろう。オルガフロウの剣を味わうといい!」
オルガフロウと異界の文字で描かれ、二本足で立つ剣士を思わせる何かのグラフィックが光を放つと【敗者】の背後に一瞬その大きな腕が現れた。
「ッが!!」
レヴィは剣で受け止めようとするが余りの力に押し切られ、隕石に押し潰されているかのようなとてつもない重量で剣が体にめり込む。
「っうぐ、ぐっ、ぐぅぅうう……!!」
「分かるか?今はこれ程しか表せないものだ。だがこれから僕は更に進化する。ダークファルスとオルガフロウを経て僕は復活を果たし、そしてそれらを超える真なる破壊神に至るのだ……!」
【敗者】が手を振るうと、オルガフロウの剣が一瞬離れるが直ぐに横に払われレヴィはその軌道に合わせて吹き飛ばされた。
「〜〜ッ!!」
骨が砕け臓物の潰れる激しい痛みと共にレヴィは地面に落とされ、その衝撃で血を吐き出すが【敗者】は心配する様子もなく無表情のままレヴィを見下ろす。
「僕はずっと考えていたんだ。この菌を通じて、どこを目指すべきか。何処に住み着き、誰を宿主とすべきか……。考えて、考えて、考えた結果、リコやフロウウェンのような英雄に値する人物を、僕は見抜いた。
だがな。一人はあのハンターズとそっくりだった。ソイツには忌々しいほどの光があることを、お前が教えてくれた。
それに対し、猛々しく、勇敢で、力を持ちながらも貪欲で、そして真っ直ぐな存在がもう一人いた。その者の心は美しく、目に入れても痛くないと思えるほど眩しくなく、そして何より僕の心が愛おしくてたまらなかった。他のどんな宿主にもそんなことは感じた事がなかった……恍惚だ。本当に素晴らしい感覚だった」
「……」
【敗者】は一歩一歩とレヴィへ歩を進め、彼女の前に立つとそっと膝を着いて彼女へ手を伸ばした。
「レヴィ、僕なら全てを晒け出していいんだ。
その欲望も感情も僕は全て識っている。隠し事なんて要らないさ。ただ君の心に触れたいだけ……
その扉を開いて欲しいだけなんだ」
「るー……さー……?」
レヴィは朱に染まった体を抱えられ、【敗者】に柔らかく抱きしめられる。
その感触は人というよりかは生肉のようで、彼女は背筋がぞわりと沸き立つがその意識を振り払うようになおさらに強く抱擁される。
「愛おしいレヴィ。僕のレヴィ。君は本当に易しい子だ」
「ぁ……」
【敗者】の手は肌を這いずりレヴィの頬を撫で唇に触れた。
生温い肉の不愉快な感覚は少しずつ硬い骨と皮の当たる心地よい感覚に変わっていき、レヴィの瞳は蕩けていく。
蕩ける、いや、溶かされていく……?
「この唇も、体も、全て味わいたい……」
【敗者】の形を象った怪物は顔を近付けるとレヴィと唇を合わせる。ふんわりとした嗅いだことのない花の匂いがレヴィの鼻腔を擽ると、さらにぼんやりと眠気が彼女を襲っていった。
「ぅ、あ……」
寝てはいけない、とレヴィは拳を握り体を動かそうとするが、直ぐに【敗者】に抑え込まれ首を掴まれる。
「抵抗してはいけないよ。僕は【敗者】なんだから……君の望む【敗者】なんだ。だから、喜んで受け入れるだけで構わない……」
「っぐ、ぅ……ッが、はッ、……」
強い圧迫感と共にギリギリと首に圧力が掛かり、絞められていく。
殺される、とレヴィは心の底から本気で感じたが、体が全く抵抗してくれない。
「る、……さ……」
「そうだ。僕は【敗者】。君の望む【敗者】……君だけを愛し、君だけの為に生き、君だけしか見ていない、君の理想だよ」
【敗者】の声色で放たれる甘い言葉にレヴィの意識は朦朧となり、彼女はそのまま彼に意識も体も預けていった。
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる