「……さて、行きましょうか」
――アークスシップ44番艦"シャムト"
臨戦地区ロビーエリア。
クエストカウンターにて受注を終えたあと、若々しい姿ながら凛とした様子でシャーロットはゲートエリアの先を見つめそっと微笑んだ。
背にはカタナを抱え、彼女は一人でゆっくりと搭乗予定のキャンプシップへ進んでいく。
これは主人に命令された活動……凡人に紛れ込む為の"生活"の一貫だ。
シャーロットは一人のキャンプシップを悠々と歩き、当然のようにシフタドリンクを飲んで武器を確認する。
彼女はアークス。フォトンアレルギーの女とダークファルスの男から生まれたとはにわかに信じ難い程普通のアークスだ。
一般的な任務の為惑星ナベリウスの一角に降り立ったシャーロットはハッキングをして設定されたアークスの探索範囲外に出る訳もなく、裏任務を受ける訳でもなく、普通に目の前のエネミーに立ち向かっていった。
「……想定通りですね」
スーパーハードの領域の中で彼女は特に困った様子もなくダーカーを倒す。それが例え有翼系だろうと関係なく、黒い羽が舞い散る中シャーロットは刃に付いた血を払い納刀した。
シャーロットは三世代目のアークス。父親譲りの高い法撃適性を持ちながら母親のような身体能力を持っており、二人を支えるため射撃と打撃を使い広いレンジでサポートできるブレイバーをクラスとして選択した。
結果としては悪くない。昔ならかなり優秀なアークスとして名を馳せたであろうが、今となってはルビィやテオドールのような怪物が次世代のアークスを代表している。
それと比べれば良くも悪くも目立たない実力だ。これがフォースならフォトナーの血を受け継ぐ高い素養で悪目立ちしてしまっただろうから。
「とはいえ、六芒均衡の一人くらい捻れるようにならなくては」
レヴィのように六芒均衡全員を一度に相手して勝てなどという無理難題をシャーロットが引き受けるつもりは毛頭なかったが、仕事の範囲内で護衛をするなら今の実力に甘んじてはいけない。
シャーロットに求められる能力は従者の域を超えない従順さと家事能力と護衛のみだが、オラクル船団を相手にするというのがどれだけ無謀なことか、それは彼女も分かっている。
それと同時に、シャーロットは今までずっとソロで活動してきた。
守るべき主人と一緒に戦ったこともなければ、彼らの持つポテンシャルもほんの一欠片しか知らないのだ。
無論、ダークファルス【敗者】の討伐記録というアークスとして当然知っておくべき情報の範囲では把握しているが、今の【敗者】がアークスに敗北した時の【敗者】そのままだなんてシャーロットは微塵も考えていない。
「ご主人様が法撃でお嬢様が打撃ではありますが、どちらもテクニックやフォトンアーツに囚われない攻撃が多いとなると、ワタシは彼らと同じ目標を狙わない方がいいまである……」
シャーロットはエネミーを作業のように軽々と倒しブツブツと呟きながら森の中を歩いていた。
「となれば、対策するべきは死角からの攻撃、暗殺と……」
彼女が下を向きながらうんうんと考え込んだ様子でゆったりと歩みを進める中、背後からチャキ、と硬い音が僅かに鳴る。
「……」
瞬間、シャーロットはカタナを握って振り返り放たれた銃弾を一刀両断に切り裂いた。
彼女が思考に耽っていたその一瞬で構えられたアサルトライフルと放たれたフォトンの弾はシャーロットの腹に狙いが定められており、彼女はカタナを構えたままライフルを持つ手先から頭へと視線を移す。
「あら、あらあらあ?おかしいですねえ。
ダーカーの匂いがしたんですけどねえ、ふふっ、ふふふ」
そこに居たのは黒いヘッドパーツを付けた赤い瞳の女キャスト。
「まあでも、三回までなら誤射って言うじゃないですかあ?ですよねえ、ですからこれは誤射です!はい、誤射なのでリサはまだまだ平気ですよお」
狂気混じりの楽しげな声を浮かべながら、そのキャストは未だにシャーロットへ銃を構え続ける。
「……失礼ですよ」
「ごめんなさいねえ、ふふっ、ふふ、ふふふ」
そのキャスト、リサは惚けたように笑っているが、彼女から感じるのは申し訳なさでも焦りでもなく単なる殺意のみ。
シャーロットはカタナを納刀したが、リサに背を向けることは一切なく、彼女の持つ銃口がどこに向いているのかよく意識しながら一歩ずつそっと下がっていった。
「リサはですねえ、この辺から嫌な匂いをずっと感じていたんですよお」
リサは笑顔を浮かべたままシャーロットの方に一歩踏み出す。
「嫌ーな嫌ーなダーカーの匂い。それも特に、有翼系の匂いがよくしますねえ」
彼女はわざとらしく辺りをキョロキョロと見渡すが、銃口はむしろ上がりシャーロットの心臓に向いていた。
「ですがはて。周りに有翼系のダーカーは居ませんでした。でもずぅっとその匂いは消えません」
シャーロットはゆっくりと手を動かすと柄を掴み、静かに構える。
カタナの間合いではないが、弓に切り替えていたらその瞬間に殺られる。
「となればもう、ヒトを撃つしかありませんよねえ?!」
リサの放った二発目の"誤射"をシャーロットは素早い足取りで避けると背後を取り刃を突き付けた。
「無礼です」
ここまで接近すれば寧ろシャーロットの間合い。彼女は長いカタナの刃をリサの首筋に向けいつも通り淡々と言葉を紡ぐ。
「アナタがどういう考えを持って行動しているかは知りませんが、ワタシに向けて撃つというのなら、ワタシも迎え撃ちますよ」
「あらあら?いいじゃないですかあ!折角ですから撃ち合いしましょうよお!」
「……」
――呆れる。
リサのトリガーハッピーぶりには辟易としつつも、シャーロットはバレットボウに持ち替え大きく距離を取る。
よく分からない言いがかりで人を撃ちたいだけの当たり屋だ。ボコボコにした方が早い……と脳筋紛いな一体どちらに似たのか分からない考えを持ちつつシャーロットは戦略OSに搭載されたレベル17の最も高火力なフォトンアーツディスクを起動しリサに向けて矢を放つ。
「射撃。的を狙って撃つ。しかし時々運に任せてみるのも良し」
リサは軽々と避けライフルを向けてくるがシャーロットは構わず矢を数本放ち着弾を見る前にその場から動く。
「ふふ、ふふふっ、やっぱりたまりませんねえ!そうそう、こういうことですよ、リサがしたかった戦いっていうのは!」
「……アナタの性的欲求に付き合ってる暇はありません」
「性的欲求?リサはただ撃って撃って撃ちたいだけですよお?」
「罵っただけですよ。まともに受け取らないで下さい」
そう言ってシャーロットは早々にカタナへ持ち替えた。
やはり遠距離対決になるとバレットボウのスピードではアサルトライフルには敵わない。
良くも悪くも相手の土俵に立てば不利になるのはシャーロットだ。
「打撃。威嚇の場合は足を狙う。しかし時々首を狙ってみるのも良し」
シャーロットは一気に接近するとカタナを抜き斬りかかる。
しかしリサは想定内と言わんばかりにすぐに退け銃を放った。
「おやおや。間合いを詰めたからといって、当たるわけではありませんよお!」
リサはトラップを置きシャーロットを拘束しようとするが、シャーロットは鞘を投げ無効化し再びカタナを構える。
「はて。ワタシは当たればどうだって良いので」
硬い切っ先がリサを向くとフォトンを纏い、シャーロットの刃は弾を切り裂きながら彼女の腕を斬ろうと猛威を奮う。
激しいぶつかり合いの中でリサは残酷ながら冷静に思考した。
(急所への攻撃を躊躇っている。これでは相手は殺せません。やる気ではなく、根本的に命を奪うだけの覚悟が無い)
シャーロットの動きは悪くない。
強い踏み込みと整った太刀筋で軸がブレないよう正確に攻撃を仕掛けている。
弾もフォトンを感じて回避し、自分が不利な位置に追い込まれないよう慎重に動いていた。
だが、リサから見るとあまりにもテンプレートすぎる。
目に頼らずフォトンで動きを読み、型に嵌ったフォトンアーツを最後まで出し切り、狙う場所も間合いの取り方も全て戦技大会における対人戦闘を元にした模擬的な対人戦の動き。
「ダメですねえ、基本がなってても、応用が効いてませんよお?」
それらは全て、リサにとってお見通しだ。
「……」
リサは一瞬動きを止めるとスコープを覗き銃を構え直した。
シャーロットはその隙を突いて彼女へ刃を振り下ろしたが、その瞬間照準がシャーロットの心臓に合う。
寸前まで触れた指が引き金を引き、フォトンを纏わない鈍い塊がアサルトライフルから打ち出される。
ダーカーは倒せないが人なら殺れる弾だ。
リサはそれを躊躇いもなく打ち放つが、シャーロットは回避出来ないと悟るとパッとカタナを手放した。
瞬きをする間もない1秒未満の中で弾は手放したカタナの刃に当たり、反射してあらぬ方向へ飛んでいく。
しかし衝撃によって跳ねられた武器は制御を失い鋭い刃を立てたままシャーロットへ向かって飛んでいった。
だが、そのカタナはシャーロットにぶつかる寸前で氷によって固められ勢いを失い地面へと落下する。
「……ふふふっ!」
シャーロットはかざした手をそっと下ろすと炎のテクニックで氷を溶かし、再びカタナを手に取った。
「法撃。アークスの規則は、場合によっては無視するのも良し」
「あらあらあ?ブレイバーにサブクラスでハンターなのにテクニックですかあ。素手でこんな火力とは……ホントはコッチが適正だったのでは?」
通常、素手でテクニックを使うアークスはいない。
なぜならロッドやタリス、ウォンドといったような法撃武器にはフォトンに対する感応力を高めて法撃力を増幅し、周囲や装者から効率よくフォトンを吸収してテクニックの発動を補助する役目がある。
つまり素手ではそれらの補助が一切無い状態。
全てのエネルギーを装者本人のフォトン適正に依存し、武器の使用に依存するクラススキルも一切発動せず、フォトンエネルギーそのもののバランスも不安定な事から出力の調整も困難で少しでも調整を誤れば暴発する。
一言で言えば火力が出ないしコントロールも出来ないのだ。
それをなし得るという事は、シャーロットの本来の法撃適正は相当なもの……それこそデューマンとして改造された後のテオドールや三代目クラリスクレイスと同等のポテンシャルを秘めているだろう。
なにせ、それらの調整者"直々"に設計されているのだから当然のことである。
「クラスは大局を見て選択したに過ぎません。三世代目のアークスは元々フォトンの適正に傾向はほとんどありませんから、選択するのは己個人の好みでしょう」
「そうですかあ。まあ、リサはなんのクラスを選ぼうがどうだっていいのですが……」
シャーロットはもう一度武器を構えようとするが、一歩踏み出すと足元に違和感を感じた。
「やっぱり、詰めが甘いですよ」
「ッ!!」
不味い、とシャーロットが感じた時にはもう遅く、彼女はトラップによって体を拘束されており、リサは銃を構えながら悠々と近付いていった。
「すんすん……。ダーカーの匂い、あなたからしますねえ。なんででしょうねえ。しかもよりにもよって、この匂いなんて……ふふ、ふふふっ……」
「……」
リサは息の当たる程の距離までシャーロットに近付きわざとらしく彼女の匂いを嗅いでいたが、シャーロットは視線すら向けない。
動けないのもそうだが、この至近距離と位置だと銃口はどう頑張ってもシャーロットには合わないからだ。
「あなた、試験管生まれですねえ。でもあなたには独特の特徴がある……」
リサは端末を取り出す事もなく両の眼でシャーロットをジロジロと凝視しながら言葉を続ける。
「虚空機関生まれの人造アークスには、バイタルデータの中に特有の文字列が含まれるんですよお。何せ、虚空機関専用の人工子宮を利用している訳ですから、外部の人工子宮とは違い識別ナンバーもきちんとそれ用に分けられている、ということです」
「……」
「しかし現状把握されている虚空機関の内部情報の中に、あなたのデータは存在しません。ありとあらゆる外部から拉致した実験素体や人造アークス、キメラなどの記録を解析してもなお、あなたのデータは存在せず……メタデータを覗くと、あなたはとても最近造られたばかりのようですねえ」
キャストの分析機能はここまで高性能じゃないはず、アサルトライフルを両手で持ってたのにいつの間に?とシャーロットは思いつつも、リサが並べた言葉に彼女の意図を察しため息をついた。
「はぁ……」
リサは一歩踏み出すと振り返り、その銃口をシャーロットの後頭部へ突き付ける。
「直球にお聞きしましょうか。ダークファルス【敗者】の居場所を吐きなさい」
「はて、なんの事だか」
「……」
シャーロットはとぼけたように言葉を紡いだが、リサから感じる殺気は変わらず。
微動だにもせず話すまで動かないと言わんばかりの彼女の様子に、思わずシャーロットは笑いを零した。
「きゃは。アナタたち、バカですね」
トラップの有効時間が終了しシャーロットは動き出すと、カタナを納刀して顎に手を置く。
淑やかな動きだが見覚えのある動作だ。
「ワタシはアークスです。アークスたるもの依頼であればどんなことでも行います。そして情報の秘匿がクライアントの要望なら、ワタシにそれを話す義務はありません」
「あなたはダークファルス【敗者】のダーカー因子と別の母体を元にして作られた
「実験素体、……そういう物を馬鹿げた茶番だと言っているのが、お分かり頂けませんか?」
「……」
リサは表情ひとつ変えずシャーロットを睨むように目線を向けた。
だがシャーロットも怯える様子はなく膝下まで伸びた長いスカートを両手で掴むと淑やかに持ち上げ、そっと頭を下げる。
「では自己紹介致しましょう。私の名前はシャーロット。基本的には炊事に清掃、家事や家の警備を任されている従者です。つまり雇われ人ということですよ」
シャーロットはカーテシーの後に胸元に手を置き仏頂面でリサを見つめ返したが、彼女は変わらず照準を動かしてシャーロットの頭を捉え続けていた。
「あなたの主人は、自分の子供を雇い人のように扱うんですねぇ」
「それの何が悪いんですか?衣食住は完備されていますし、賃金も払われています。プライベートに対して干渉されることもありませんし、仕事が早く終われば早上がりも出来ます。申請すれば資格も取れますし保険にも加入しています。非の打ち所のない完璧な労働環境ですよ」
シャーロットは一切の嘘を付いていない。
【敗者】が与えた労働環境はいわゆる"ブラック"なものではなく、雇用者の身体状況や素養に合わせて適宜休暇を与え、ノルマを課し、成長の機会を与えている。住み込みのボディガードという都合上誰にも阻害されない程完全な休日はないがそれは緊急出動のあるアークスも同じだ。
しかし、それはあまりにもビジネス的。
シャーロットとその主人である【敗者】とレヴィの間にある生物学的な繋がりを考えれば不気味だと感じられてもおかしくはなかった。
「教育の賜物、というやつですか?」
彼らの間には親子の絆などない。
血の繋がりによる愛情も情けもない。
それがまるで機械的であり、洗脳のようだとリサは彼女の口ぶりから感じていた。
「はぁ……」
だが、シャーロットはリサの言葉を聞くとようやく表情を崩す。
それは内心を見透かされたような安堵や自分の扱いを実感した悲しみなどではなく、リサによる嘲笑……心の底から呆れたような、盛大なため息だった。
「アナタたちはあくまでワタシを被害者とか可哀想とかそういう妄想ベースで語るワケね。こりゃご主人様やお嬢様が話にならないと言ったのも理解できますわ」
シャーロットは淡々とした落ち着いた口振りからドライでサバサバとした少し荒々しく感じるようなぶっきらぼうな声色に変化し、姿も背筋の通った立ち姿を変えて面倒そうに木に背を預ける。
「?」
シャーロットの表情は鬱陶しそうな面倒そうな顔付きであり、空を見てどこかにいる誰かに対してそんな顔を向けてから、わざとらしくリサに対しても同じような顔を向けた。
特に面倒で鬱陶しいのはお前だ、と言わんばかりに。
「ワタシはね、ご主人様達と仲良しこよし家族ごっこをしたいなんて微塵も思ってないの。映画の趣味も合わないし、音楽の趣味も合わない。ご主人様達がキャーキャー言いながらベタベタ体を触れ合ってベッドに転がり込んでいる事も、ワタシからすると到底理解が出来ない。プライベートで仲良くできるような相手じゃないのにたかが血縁があるからってベタベタされても鬱陶しいだけでしょう?」
シャーロットと【敗者】達の関係は確かに外野から見ればまともなものではないが、"まともな関係"をシャーロットが望んでいるわけでは一切ない。
彼女は生まれつき根っからの一匹狼。人との交流を面倒に感じ、人を人ではなく未知の動きをする機械のように捉えており、最低限の社会的な規則や規範は守りつつも内心面倒臭く適当で、とてつもない程マイペースな自由人だ。
そんな人間は公園で友人と遊ぶよりも家でパズルをしている方が楽しいし、映画を見てもストーリーの構造や場面演出にしか目が行かず感情移入も出来ない。
一言で言えばドの付く陰キャ。
そんな陰キャが外向的な指揮官や起業家のようなエネルギッシュで野心家な主人達とプライベートで馬が合う訳もなく、そんな者たちからべたべた執着されるなんて面倒極まりない。
「ご主人様やお嬢様はそういう退屈なコミュニケーションを測ってこないから好きなんです。
それをあなたたちに勝手に決めつけられて、血縁だなんだ、普通の子供がなんだと言われる筋合いはない。ワタシは間違いなく今の環境が幸せで、今の環境から変化することは望まない」
人類の言う普通は、社会における一般人は、内向的で一人で行動出来る実直的な人間ではない。外向的で協調性があり明るく人当たりの良い人間こそが"一般人"である。
そうでない人間は協調性が"無く"、コミュニケーション能力に"障害"があり、グループ活動の"妨げ"になる"欠陥品"というレッテルを貼られる。
能力があろうがなかろうが社会という名の人の輪に溶け込めなければ関係ないのだ。
社会人として生きていくなら馬鹿でもいい。
面接官に学生時代力を入れてきたことをアピールして、ボランティアで社会奉仕を行い弱者にも優しいアピールをして惑星留学でより多くの生物とグローバルな交流をしたと主張しておきながら、実際は大学を単位ギリギリで卒業し、留学でも遊び呆け、ボランティアはほとんどサボって仕事を押し付け弱者である老人や障害者を影で馬鹿にしながら自分らしい自撮りの加工だけ頑張っていても営業のエリートになれる。
それが社会でありそれが普通だ。
だがシャーロットの労働環境は違う。
研究者と開発者で構成されたその空間に社会的な普通は求められない。コミュ障でもいいしグループ活動も出来なくていい。飲み会で上司のグラスに酒を注いで自慢話を何時間も聞き続ける必要もない。
彼らは究極の実力主義者であり、他者からの評判や世辞に興味はなく、活力はあるが中身のなく当たり障りのない流行りものに便乗するだけの意見を集めるキラキラ会議よりも効率的で踏み込んだ討論を重要視する。
シャーロットは主人達を色狂いの獣と内心バカにしているが彼らがその輪を自分に押し付けてこないところは人として好感を抱いていた。
「それに、ご主人様たちはワタシの趣味を全く知らない。
ワタシはバイクが好きで、貰った個人用のスペースにはバイクがもう15台はある。ワタシはそれらに乗ってどこかに旅をしたり、パーツを変えたり塗装を行ったりしてカスタムするのが好き。
お嬢様は身長がとても低いから、ワタシの背を高く造って下さったご主人様にはとても感謝しています。でも、ワタシの趣味をご主人様達と共有しようという気持ちはない。
だってワタシの人生なんだから、ワタシの好きなようにしたい。それを親に報告する義務はない、でしょう?」
これらの言葉はシャーロットがある意味レヴィを尊敬している数少ないところで、彼女が窮地に陥った時突然謎の自分語りを始めて話題を逸らしヘイトを分散しようとする行動はシャーロットも参考にしたいと思うほど良い作戦だった。
そしてレヴィが話す自分語りの内容が相手に対して思考を促すように、それを真似したシャーロットの自分語りもピンポイントで相手に刺さり思考を促さざるを得なくなる。
ある意味シャーロットはコピー上手だ。
彼女は誰よりも落ち着いた一匹狼でありながらも感情や思考に揺さぶられない我の強さを持つ、真の意味で冷静沈着な存在だったから。
実際リサはそれを聞いて思考した。
シャーロットという存在が自分の想定していない領域にあると考えると、リサは内側に問いかけた。
《どう思います?》
すると、リサの中に存在するもうひとつの人格はリサの言葉を聞いてそっと考え込む。
《喧嘩腰になるのはやめて、冷静に話をしてみませんか。私から見ると、成熟した自我を持っているように思えますから》
リサの中では凛とした少女の声がそっと響き、リサを諭すように優しく声を掛けられていた。
《残念ですねぇ。もう一悶着していいと思ったんですけど》
リサは残念と言いつつ少し苛立ったような声色だが、少女はその透き通った声に反して怖じける事もなく毅然とした態度で返す。
《いいから、リサは一旦銃を収めましょう。万が一があれば、私がどうにかします。リサほどではありませんが、私にも心得はありますから》
《はいはい、わかりました》
はあ、なんてリサは残念そうにため息を付くと武器を下ろし、懐に隠した宇宙の煌めく小さな球体に触れた。
するとリサの体内を巡っていたフォトンの流れがぐるりと変わり、彼女の体を走っていたフォトンカラーは赤から青に変化し、それに合わせてリサの瞳も青空のように澄んだ青に染まる。
シャーロットは目の前の女キャストが変貌していく異様な様子をぼんやり見つめながら、長く垂れたアシンメトリーの前髪を弄っていた。
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる