赤黒いダーカーの巣窟に未知のエネミーが星の数ほど跋扈する。
地獄を極めた地獄が【敗者】とレヴィの前に広がっていた。
「全く……此処は奴の為の領域ではないのだがな」
【敗者】はそう呟いてため息をつく。
久々に纏うダークファルスとしての戦闘衣だが、彼は手袋の代わりに八本の指輪が装着されており、それらの全てにフォトンが通されエネルギーがチャージされていた。
それは試作品のダークローズ。完成品の設計図とは違いプログラムの圧縮や最適化は済んでおらず指輪の本数はもちろんエネルギー発動機構もかなり大きめなサイズになってはいるが、【敗者】の太く長い指に付ければ華美なジュエルのように上手く映えていた。
「大いなる陰は菌を通じてわたしの意志を理解出来るから、こっちの意図も見透かされてるってことね」
レヴィもありとあらゆる手を尽くした戦闘衣で久しぶりに見栄のいいアーティスティックな仕上がりになっており、乱雑にバッツンと切った毛すら繊細なプリーツの立つシルク布のように見える。
状況の割に二人は非常に冷静だ。
「貴様の精神状態が安定した上、アンプラム・アンブラの解析も進んでいる。
付け入る隙もないとなれば、なりふり構わず喰らうしかないと思考したのだろう」
蛍のような緑色に輝くラインが蠢き、各々に武器を持った生物のようでそうでない生命体達は二人を見据えると直ぐに武器を構える。
向き合う時が来た。
「来るぞ!」
「ブラックローズの出番!」
長大な腕を持ったD型生命体、インディベルラの拳が外れ二人へ目掛け飛び込むとレヴィはすぐにブラックローズを開き砲弾をガードする。
「何体居てもやることは変わらん。包囲網を突破し大いなる陰の内部に潜入する!」
「内部に入って説得?流石に殺さないよね?」
曲がった刃のような腕を持ったラ・ディメニアンが辺りを囲うように集まり、一斉にその刃を向けると【敗者】が手を翳した。
低速化によって鈍重になった動きをレヴィはすぐに避けると背後に回り、ブラックローズで殴打してから【敗者】の背後に迫るデルセイバーを切り裂く。
「自分の内側にある力に意識を集中させろ。貴様の意志の強さに勝てる体の作りはしていない」
「ようは、フィーリングで頑張ってくださいって話?」
「幸か不幸か奴は貴様に好意を抱いている。それを利用して立ち回れば比較的穏便に事を済ませられるかもしれない」
「穏便ねぇ……」
穏便という割に目の前に広がる光景は攻撃性の極みであり、レヴィが一歩踏み出すと直ぐにダークブリンガーとクローが襲いかかってきた。
「構わず進むといい。道は僕が切り拓く」
そう言うと【敗者】は右手を翳し力を入れる。
すると指に嵌められた指輪の一本が光を纏い、周囲に次々と剣が現れた。
「ダークローズ!」
「こんなものを作ったんだ。当然、合わせられるな?」
「勿論……!」
レヴィは武器を構え迷わず目の前の敵に走り込んでいくと、攻撃の当たる寸前で目の前から敵が消滅し一歩先へ足が進んだ。
彼女は目の前に武器を構えおどろおどろしい見た目のエネミーが壁のように立ちはだかっても躊躇うことなく走り込み、体がぶつかる寸前でエネミーはレヴィの前から姿を消す。
「ふふっ、大いなる陰のヤツ800メートルに一体何体詰め込んでるワケ?ドミノ倒しでもして欲しいの?」
【敗者】はひたすらレヴィの進行方向上にあるエネミーを重力操作で退かし、周囲から集まっていくエネミー達をテクニックで消していきながら、許容範囲外のエネミーは眷属を使って対処していた。
自らの身を守る余裕はギリギリある位だが、【敗者】に攻撃が当たる寸前で軌道がズレて外れていき、すぐさま【敗者】に倒される。
(レヴィへの攻撃着弾時に運命改変のマジックは発動しないが、僕への攻撃の際には発動している……
僕を信頼し防御の全てを委ねているから運命改変が発動しないのか?代わりに、僕自身の防御能力には信頼がなく避けることを祈っている、ということか)
「ふん、僕も舐められたものだな……この程度埃とそう変わりないだろうに」
【敗者】は左手にも力を込めるとさらに数本の指輪が反応し、接近したエネミーを全て焼き払った。
「超高出力のエネルギーで物質の構成要素全てを侵食するやり方か。これ程力を釣り上げられた状況なら案外悪くはないな」
「やるじゃ〜ん!」
「そんなに余裕があるならもっとギアを上げても良いみたいだな」
「じゃんじゃん来いっての!24時間までなら相手したげるから!」
【敗者】は左手に付けたダークローズ・アルファによって環境フォトンを急速に収束させながら指輪と体内で吸収、増幅、放出を繰り返しどんどんエネルギーを増やしていく。
そして右手に付けたダークローズ・ベータに搭載されたテクニックやマジックのプログラムを発動し攻撃した。
「ふん、猛攻の隙間を縫え……なんて言うまでもないな」
「軌道計算はあんたの専売特許じゃないしね!」
レヴィは自身のさらに前方へと飛んでいく攻撃を全て繊細に避け切り、さらに前に進むがそこを土煙と共に現れたエネミーが邪魔をする。
「コイツは……!」
「ヴァーダーソーマを取り込んだのか……?」
【敗者】がそう言いたくなるほど巨大な機械型のボスエネミーがレヴィの目の前に立ちはだかった。
機械でありながら生物も感じさせるようなそのボスエネミーは赤いレーザーを出しながら索敵を始める。
「"ボルオプト"……!」
レヴィは菌によって脳内に流された記憶のままに言葉を紡ぐと、すぐさまブラックローズを構え弾を撃ち抜く。
が、装甲は硬くレーザーの照準がレヴィに合うと彼女は急いでブラックローズを開いた。
「っぐ……!」
爪のような杭のような何かが空中から降りかかり、ブラックローズを押し込む。
一度離れたかと思えばもう一度勢いよく振り下ろされ、ブラックローズに圧力を掛けようとしたがその寸前で辺りが緑色に染まり、レヴィへ降り掛かった爪はそのままの勢いで思い切り上空へ飛んで行った。
「遡行……!」
「油断するな!高エネルギー反応、回避運動を取れ!」
ボルオプトから放出された緑色の発光体は揺らめきながらレヴィの方へゆっくりと近付いていく。
その鈍臭い玉は一見楽に回避出来そうなものだが、レヴィの軌道を読み取り先回りするように動く。
「ウザイっての……!」
レヴィの踵のほんの一部が光の玉に触れると地面から割れた殻のような拘束具が現れ、彼女を捕らえた。
「ッ!」
力を溜め込んでいたボルオプトがミサイル弾ののようなものを装填し、砲弾が次々と赤く染まっていくとレヴィの方を向く。
だが当たる寸前で殻は砕けレヴィは首の後ろを眷属に啄まれて投げ飛ばされ、ギリギリの所で回避した。
「この……無駄にデカイの呼んできたって無駄なんだから!」
レヴィはアイゼンハートを大砲に変えボルオプトの装甲を次々に撃ち抜いていき、最後の一発を剥き出しになった機械へ定めると背後から飛んできた氷のテクニックと共に弾を撃ち込み粉砕する。
「多分だけど大いなる陰のデータセットには同じくらい巨大なエネミーが何体も仕込まれてると思う。
急がないとその分だけ増やされるはず。向こうのリソースがどれくらいあるかは分からないとはいえ……」
レヴィは話しつつも早足で歩みを進めている中、風を凪ぐ大きな羽音が聞こえ顔を上げた。
「あのドラゴンのようにか?」
二体のシル ドラゴンがレヴィを狙い羽を尖らせ飛びかかってくる。
「全く……!ラグオルエネミーのフルコースなんて頼んだつもりないんですけど!」
レヴィはアイゼンハートを剣に変え構えようとするが、そこで【敗者】から声が掛かった。
「相手にするな!目的は大いなる陰だ!」
【敗者】の背後にはアポス・ドリオスが召喚されており、飛びかかるシル ドラゴンを抑え込むように一気に接近していく。
【敗者】は更にブリュー・リンガーダを呼び出し輪を前方に展開すると其れに跨って乗り込んだ。
「進行方向を一気に切り開こうってワケね!」
レヴィは急いで後方に下がり【敗者】へ手を伸ばすと、彼がそれを掴み共に乗り込む。
「わたしが進行方向から来るやつを払うから、あんたは背後のやつをなんとかして!」
【敗者】は手を翳し、レヴィはアイゼンハートを指揮棒に変えグッと掴む。
この場でライデンシャフトやC.A.R.D.を使えば大いなる陰に主導権を奪われかねない。だがレヴィの武器は基本対人戦闘特化でエネミー向きではないし、高速移動している状況では彼女お得意の戦闘フィールドもあっという間に範囲外になってしまい機能しない。
となれば、高速移動について行きながらも多数のエネミーに対して効果的に戦闘を行えるもの……は、レヴィの所持している武器の中にはないので、彼女は【敗者】に視線を向ける。
「眷属借りていい?」
「あぁ。力を貸せと言えば貸してくれるだろう。
ユニゾン波の事は覚えているな?」
「ダーカーを誑かすヤツ?」
「祈れ。ユニゾン波はお前の意志と心を相手に伝えるコミュニケーション手段だ。力に怯える必要はない」
レヴィはそう言われ頷く。
自分の中に力の感覚があるかは分からない。
だが、それほど無意識の状況下でも相手に影響を与えられるのなら、この状況、この状態で明確な危機を感じているのであれば……
「お願い、手伝って!」
レヴィはその言葉と共に指揮棒を振り上げる。
前方に飛び出した小型の有翼系ダーカーのダーカーカラーがビビッドピンクと青紫のサイケデリックな色に染まると襲いかかるD型生命体を振り払いながら、最前方向のエネミー達はブリュー・リンガーダのビームで焼き払われていく。
「大いなる陰のヤツ、喰らう目的の癖に行く手を阻むとか馬鹿じゃないの?」
「確かに……現状の演算範囲だと大いなる陰の位置は寧ろ遠のいている。このままだと狩られると解釈したのか?」
「アイツの話しぶりにわたし以外の器を見つけたとは思えないけど、ラグオルにいる間で逃げ回って安住の地を探してたから慣れてる……と考えるのも必然か」
ブリュー・リンガーダの大きな体躯に乗せられ【敗者】とレヴィは風のように早く赤黒い世界を駆け抜けていく。
ダーカーは異界のD型生命体とは敵対状態にあるようで範囲外のエネミーに関しては野良のダーカーが相手をしているようだが、どちらにせよ二人が相手しないといけないD型生命体の量はあまりにも膨大だった。
二人は大いなる陰の推定位置まで進んだが、そこには大いなる陰はおらず。
代わりに武器を持った二人の少女が異質な形の武器を向け【敗者】とレヴィを待ち構えていた。
「菌の汚染度合いが桁違いだ……大いなる影の尖兵だろう」
青い装備を纏った少女はスコープを下ろして大砲を向け、赤黒い装備を纏った少女は大剣を振り上げレヴィ達へ狙いを定めると一気に攻撃を行う。
「どっち取る?!」
「……僕は青い方を頂こうか」
【敗者】は青い大砲と融合された少女、カストルに攻撃するとレヴィはそれを聞き赤い剣と融合された少女、ポルックスへ向けブラックローズの弾を撃ち抜いた。
レヴィはポルックスの前に立ちはだかると一気に接近し懐に潜り込み、ブラックローズを振るう。
「まったく……武器がデカすぎだっての!」
ポルックスの顎下に向けて素早く杖をつつくが、見た目の割にポルックスは俊敏で後方へ飛び退くとそのまま腕を振るい力を貯めた。
ブラックローズの傘を開いて振り下ろされた刃を抑え込み、レヴィはそのまま突き進んでいく。
ポルックスの腕と大剣は完全に繋がっている。
彼女が武器を手放せないというのなら、背後から迫って肩から切り落としてしまえば戦闘能力は失われるはずだ。
であれば殴打ではなく斬る能力が必要。
レヴィはそう確信するとブラックローズの傘鞘を掴み、そっと内部の黒い刃を抜刀した。
ポルックスが大きく体を反らし、力を込めていく。
レヴィはそれを見てすぐ後方へ飛び退くが、ポルックスが勢いよく腕を振り回し、横薙ぎにするとレヴィの足元のギリギリまで衝撃波は伝わり風が彼女の体をそよいだ。
「思ったよりレンジは広いか……」
ポルックスの体よりも倍以上大きな武器もそうだが、高エネルギーの衝撃波は10メートルを優に超えており合わせると剣士とは思えない程の広範囲で相手を攻撃出来るようだった。
そして【敗者】も眷属を召喚し、カストルに攻撃を行いながら双子の解析を行う。
「大いなる陰は随分と臆病者だな。
ダークファルスの相手がたかが尖兵如きか?」
【敗者】は彼からすれば普通に戦っているつもりだが、カストルに自らの眷属を倒される度に胸に強い痛みが走り、彼が召喚するダーカーはより大型になっていく。
カストルは武器の大きさの割にかなり俊敏で、眷属に辺りを囲まれても直ぐに脱出し電撃を伴うレーザーを放っていた。
そして、複数体の眷属が倒されると、【敗者】の体に走る痛みもまた倍増する。
「ぐッ……未知の事象だと……?」
元々眷属はダークファルスのリソースを割いて出すものであり、眷属を狩られるほどダークファルス本体も消耗していく。
だが眷属の生命力とダークファルス本体の生命力は別物であり、リソースの消費というのはあくまで眷属を召喚する段階にあって倒される段階にはない。
だのに、今の【敗者】は眷属を召喚する段階でもダーカー因子を消費し、討伐された時にもダーカー因子を消費している。
なによりその痛みが【敗者】本人にまで来ているのだ。
「これでは眷属を撃ち抜いた弾が貫通して僕まで届いているようだ……」
【敗者】は攻撃の手数を減らし、演算効率を更に上げていく。
カストルには他では見ない特性があるのは確実だ。このままでは【敗者】の体が持たない。
「……!」
そこで【敗者】の言葉を聞き、レヴィはパッと記憶を甦らせる。
「大いなる陰はこう言ってた……C.A.R.D.はダイスの目に縛られてるって」
「ダイスの目?ゲームということか?」
「そうみたい……だけど、今のこの敵達はC.A.R.D.を使ってない。ということは、ダイスを利用した能力調整はしてこないはず。
それが基礎能力から補正されないことを意味するのか、それとも最初から全力で相手することを意味するのか……」
どちらにせよ、カストルとポルックスは単純な砲撃者と剣士ではなく、何かしらの攻略法を見出さないと倒せない相手だ。
レヴィはその突破口を見出そうとするが彼女一人では推測の域を出ず、【敗者】の解析が終わるまで二人は時間稼ぎという非常にリスキーな手を使うしかないことになる。
「やってみなければ分からないな。貴様から見てどう思う?」
「青いヤツの攻撃は予備動作が長い割に攻撃範囲が広い。赤いヤツも同じ、大振りな割に攻撃範囲が広い。この攻撃範囲の広さっていうのはそれこそボードゲームみたいな……"マス目"が存在する概念だとかなり厄介な能力になると思う。でも今のわたしたちにマス目なんてものはない。だから、パッと見た感じ弱体化してるように思えるけど……」
レヴィなりにも何か見出そうと二人を観察している中、【敗者】の前に展開されたモニターに解析結果が表示される。
「これは確かにゲームのようだな……」
「【敗者】?」
【敗者】の視界にはまるでカードのような長方形の画面が映し出され、そこにスキルの名前とその説明が書き出されていた。
二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。
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続編として作品を分ける
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分けないで一つの作品でまとめる