※この作品はR-18です。

MIDNIGHT   作:Libby博士

25 / 258
3話(3)*

 ――僕とはなんだったのか。

僕の全ては知識だろう。

 はるか昔絶望と屈辱を経験したあの時から、シオンを手に入れるために全てを犠牲にして、そして、シオンを失ってすらも、全知存在を手に入れるために生きながらえて……、それなのに、そのはずなのに、こんな馬鹿女がアークスと三英雄に変わる新しい駒で、こんな馬鹿の癖に、厭世を振り回して自己卑下したと思えば、子犬のように愛想を振り撒いて、それから、それから、生物学的な雌ではなく、人間的な、女として、このアークスを……

違う、僕はダーカー因子の集合体であるというのに、ダークファルスなどというのは破壊衝動と強い欲求の塊だと言うのに……

 

「ん…」

 

 レヴィが足をあげると見える小さな足裏と押し潰された太ももとふくらはぎのサンドイッチ、そしてその上にある大きな尻とぷっくりと膨らみ形を持った恥丘と穢れを感じさせないようなきゅっと引き締まった秘孔が見え、【敗者】の頭は真っ白になる。

 

 ――ダーカーが強い欲求や欲望の塊だというなら、飢えと乾きが己の頭を支配するというのなら、僕の今の頭の中は絶え間ない全能たる知識への乾きでもなければ、未知の森羅万象への飢えでもなく、この女の裸と、この女の体が、それに値するもので、そして今目の前にその本能を満たす全てが……

 

「【敗者】、服どこ?

……ねぇ、【敗者】?!それ平気?!」

 

「はっ……?」

 

 レヴィの紅い瞳に映るのは死にそうな顔をして目から血を流した【敗者】の姿だ。

 それを彼が認識した瞬間、【敗者】は立ち上がろうとするも、それより先にレヴィが駆け寄って【敗者】の肩を掴んだ。

 まだ濡れたままの髪から水滴がぽたりと【敗者】のシャツに零れ、じわりと濡らす。

 必死に縋り付くような、しかし焦点を合わせ輝きを放つ瞳。

目に入れても痛くない月明かりのような輝きが【敗者】の姿を確かに捉える。

 

 レヴィは座り込み、【敗者】の体に乗り上げ、彼に顔を近づけて頬に手を添えた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「どうしたの?!アレルギー?!どこかぶつけた?もしかしてストレス?!」

 

 レヴィは彼の頬に垂れる血がどれほど悪いものなのかという事で頭がいっぱいになっていたが、【敗者】からすればそんな原因を考える必要は無かった。

ダークファルスの出血の理屈などわざわざ考える方が無駄だ。

 【敗者】にとって理屈など今どうでもよかった。

 

「ッ、エル、降りろ」

 

「は?……ほら、血出てんじゃん。ダーカーの血って一応普通に血だよね?」

 

 レヴィは何も考えず【敗者】の血を指でとるとそれを嗅いでから、ぺろりと舐める。

 

「普通に血だ、やっぱり…」

 

「貴様の耳はどうなっている?降りろ、命令だ……」

 

 レヴィは【敗者】の股間にある膨らみに足が当たるとキョトンと首を傾げて、それから降りろと言葉を続ける【敗者】をじっと見つめる。

 

「……ねぇ、本当に大丈夫なの?無理してない?アイツにやられてまだ体治ってないんでしょ?」

 

「貴様に心配される道理などない!」

 

 【敗者】の頑なに拒絶する態度にレヴィは苛立ち、思わず大きな声を出す。

 

「あるでしょうが!わたしがこの家から出られないままあんたが野垂れ死んだらどうする気?!こんな所で飢え死になんて嫌に決まってんでしょ!」

 

 【敗者】の頬を掴んで鼻をくっつけ、額をぶつけ、じっと見つめて、レヴィは眉を顰めながら【敗者】に向けて忙しなく声をかけた。

 

「顔熱いし、……熱あんの?ねぇ、【敗者】!真面目に答えて!治さなきゃなんないでしょ?!」

 

「これは全部……」

 

 レヴィの顔が【敗者】の至近距離に寄り、先程洗ったばかりの洗剤の匂いがふわりと漂う。

 こんな匂いなんて気にしたことがなかった。

洗剤の匂いなんて一々考えたこともなかったし、女を近くに寄せて、その体の匂いを嗅ぐことだって、シオンを覆うフォトンの匂いを感じることはあったが、本物の女の、柔らかい肌とフェロモンの香りなど……

 

「全部全部ッ、貴様のせいだ……貴様がストレスを与えるから……」

 

「えっ?!わ、わたしのせい?わたしフォトンなんてないから【敗者】にダメージを与えることなんて出来ないのに、あ、ストレスだとわたしが【敗者】に迷惑かけたから…」

 

「そうだ迷惑だ迷惑ばかりだ!常識くらい持ってまともに生活くらいしろ!食事も摂れ!服も真面目に着ろ!この僕を煩わせるな奴隷風情がッ!!」

 

「……ごめん」

 

 レヴィは【敗者】から離れると、しょげた顔をして呟いた。

 彼に向かってタオルを押し付け、彼が顔の血を拭う姿を酷く傷ついた目でじっと見つめて、それからタオルで体を包み扉の近くに立つ。

 彼女はどこを見ているのか分からない瞳で床を凝視する。

 

「その、……、えっと、治したい、って思ったのは本当だったんだよ。外に出たいのももちろんだけど、目の前であんな風に血を流してる所見て、……お風呂、あんなに暖かいお水で洗ってくれたのに、わたし、その……優しくしてくれる人なんて、いなかったから、えっと……」

 

 レヴィは明らかに不十分な肉体のまま、逃げるように扉を開ける。

しかしそこを【敗者】は止める以外の選択肢はない。

 

「待て」

 

「な、何……もう、謝ったでしょ」

 

「違う……その格好でどこに行くつもりだ?」

 

「え、……その、服ないから、このまま檻に…」

 

 レヴィの怯えながらに呟いた言葉で【敗者】は溜め息を着き、立ち上がるとレヴィの手首を掴む。

 

「貴様は本当に、僕が居ないとなんにも分からない愚かな犬畜生だな……」

 

「はぁ?全部自分でやれっていったのあんたの癖に…」

 

 【敗者】は彼女の言葉を無視して大きなタオルを外すと器具を取り出す。

そして、髪になにかを塗り始めた。

 

「なんで拭いたのにまた洗おうとするの?」

 

「乾かすだけだ」

 

「はぁ?もう髪拭いたじゃん」

 

「髪は乾いてないだろう」

 

「2時間くらいすれば乾くって!」

 

 レヴィは自信満々にそう言うが【敗者】は引かず、その器具のスイッチを入れると暖かい風が出てきた。

 

 惑星リリーパの砂漠で風が吹いたときもなんとなくこんな感じだったなとレヴィは思いながらタオル越しに風に打たれる。

真横から聞こえる音が排気口のような感じだとレヴィがたまに口にしていれば5分か10分くらいでそれは終わった。

 

 しかしそれで終わりではなく、【敗者】はまた別の容器を取り出すとするっと粘度の低い液体を取り出し、レヴィの顔に手を伸ばした。

 

 レヴィは反射的に自分の顔を守るよう腕で覆い隠すが、【敗者】はそれを押し広げてレヴィの頬にぺたりと手を触れると、彼女は自然に手を離していく。

 

 レヴィの柔らかい頬にもちもちと触れ、撫で回すと【敗者】は自然と心地良くなった。

大きな手で歪む顔だってどこまでも愛らしい。

 

「あんたも毎日こんなことしてるの?」

 

「僕は軽くしかしていない。ここまで揃っているのは前の住民が残していただけだ」

 

 そう言いながらまた液体を何個も塗りたくり始めて、じゃあこの知識は一体どこから得たんだとレヴィは思っていたところ、壁にちらりとメモが見える。

スキンケア?なんか液体を何個も塗ると書いてあるから多分このメモ見たんだろうなぁ、とレヴィは納得した。

 

「野良犬、子犬、……遂には幼犬か。貴様の退行ぶりにはもはや感動までする」

 

「はぁ?!犬じゃないし!……名前あるの!」

 

「さあな。本名データのない女の名前など知らん」

 

 レヴィはその言葉に動揺し、何かを叫ぼうとするも歯を噛み締め、ぐっと耐える。

 

 【敗者】はボディクリームをじっと見つめたあと、しばらく迷ってからそれをズボンのポケットに仕舞い、用意していた服をレヴィに与える。

 レヴィは緩くサイズの合わない服を着ながらブツブツと呟いた。

 

「……知らないものは知らないの!皆がこんなことしてたなんて知らないし、教えられたことないもん!」

 

「はぁ……これではまるで僕が父親だな」

 

「ッ!!」

 

 その瞬間、レヴィは振り返り【敗者】の服を掴む。

キッと強く睨みつけ、牙をむき出す。

 

「なにふざけたこと言ってんの?!あんたが父親なわけないでしょ?!あんたはやる時はちゃんとやる男だってわたしが分からないとでも思った?!」

 

 【敗者】はいつもの余裕そうな表情でも卑しい笑みでもさっきまでしていたおかしな顔でもないまた別の顔を向けた。

 

「……僕は飼い主だ。義理の父になるつもりもなければ、貴様にへりくだるつもりもない」

 

 【敗者】はそれだけ呟くと、レヴィを部屋の外に追い出し濡れた服を着替え始める。

 

二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。

  • 続編として作品を分ける
  • 分けないで一つの作品でまとめる
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。