※この作品はR-18です。

MIDNIGHT   作:Libby博士

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幕間⑤

 

 大いなる陰と決着を付け、船に戻った後、【敗者】はカストルに受けた傷を治すことに専念するため少しの休暇を取り、その間レヴィはライデンシャフトを完成させるため武器の制作に集中していた。

 

 ライデンシャフトの転換プロセス、それは物体から物体への転換ではなくライデンシャフト内に搭載された菌がプログラムによって指向性を持って対象物に感染し、拡散された菌をリソースとして別の物質を生み出すというものだ。

 アイゼンハートの転換プロセスとは違い等価交換ではなく血液、内臓など細かな転換対象の指定は不可能だがコストパフォーマンスは菌の方が圧倒的に良い。

 

「シャヘルがD因子について細かく教えてくれたおかげで迷ってた部分が全部解決出来た……」

 

 レヴィは盲目の中でもパーツや工具の全てを菌に侵食させることによってその輪郭を微細な感覚として捉えることに成功しており、己の深層にまで潜り込んだ大いなる陰という菌を司る存在の高度な伝達・干渉機能を使い目が見えていた時と同じように精密な操作が出来ている。

 

(そう、あの輝きを作りたい……!)

 

 レヴィが偶然完成させた武器、夢幻・サイコウォンド・アシュターは間違いなく本物の輝きを持つ創世器だ。サイコウォンドには材料となるフォトナーも核となる魂も存在しないが、其れは幾度となく転生を繰り返し様々な世界の様々な英雄と身を共にしてきた強大な因果がそこに収束している。

 

 だがその輝きを他の武器……特にレヴィが心血を注ぐブラックローズとアイゼンハートの上位互換になるべきとされたライデンシャフトが持っていないというのはレヴィにとって危ういことだ。

 分かっている。レヴィはまだ武器を作ってから一年も経っていない。刀匠ジグやマグノリアと比べればかけた年月も情熱も天地の差がある。

だが、レヴィには彼らとは決定的に違う意思がある。

 ジグやマグノリアは、"使ってもらう"為の武器だ。相手を思い、相手の為に魂を賭けて造る一振り……その一振りには、扱う物の強い意志が込められることもあるが、同じくらい扱う相手の心の弱さが武器を弱くさせる。

 しかしレヴィが作る武器は他人の為ではない。

 自分が作り、自分が扱うその武器は、自分が作るためにかけてきた苦労と情熱を誰よりも正しく理解しており、作る段階で幾度となく思い、誓った意志が祈りのように見えない武器の内側にまで込められている。

 その意思の強さじゃ誰にも負けない。

 レヴィの武器は使う時に完成する。だからその魂も、輝きも、レヴィが使い、そして自らの願いを叶えんと祈った瞬間、他の何にも変え難い輝きを放つだろう。

 

 だから諦めない――だから絶対に完成させる。

 神斬鬼謀・ライデンシャフトを……

 アイゼンハートを超える唯一の手札を、レヴィは必ずこの世に生まれさせる。

 

「……!」

 

 血豆を作りながらレヴィの拳が強く握り締められると、背後の扉が滑るように開いた。

 

「進捗はどうだ?」

 

「バランス調整が難しいかな。菌の侵食が強すぎるとコントロールが効かなくなる……D因子の意志でライデンシャフトが予想しない方向に進化してしまうかもしれないから」

 

「鬼門はやはりD因子の強大さか……。グラン類似エネルギーを物質化して搭載出来れば、上手く制御出来るかもしれないが……」

 

 ライデンシャフトに求められていることはアイゼンハートよりも安定して扱える事だ。その安定性を菌が損なってしまっては元も子もない。

 だがフォトンによって中和出来るダーカー因子と違い、D因子には浄化などという手段はなく、菌を抑え込むには進化意思を抑え込む力……それこそグラン類似エネルギーのような万物に心を齎し意志を伝える物でないと制御が出来ない。

 その力の特別さ故に、グラン類似エネルギーは何よりも扱いにくい部分があるのだが。

 

「確か、グラン類似エネルギーはフォトンとか他のエネルギーとは違い結晶化したり持続的に活性化することは出来ないんだよね。そうなるとエネルギー利用は難しいから……」

 

「レヴィが使用している時は菌の侵食を抑えられるだろうが、使用していない状態と使っている上でグラン類似エネルギーの出力が低下すれば侵食を進めてしまうことになる。となれば、解毒剤を応用して使用時に菌の侵食率、いや出力そのものを調整するリミッターを作るべきかもしれないな」

 

「確かに……菌を搭載するカートリッジを弄るのはいいけど、そこにリミッターを入れこむとなれば重心が崩れるだろうし重量バランスはまた計算し直しかな……」

 

 レヴィはそう言って【敗者】から顔を背け、ライデンシャフトを見つめる。

 しかし【敗者】は彼女を止めるように手を伸ばし、彼女の手を包み込んだ。

 

「あぁ。だがそれはここでやる必要はない」

 

「?」

 

「そろそろアークスシップへ戻ろう」

 

「あ……」

 

 元々【敗者】の治療の為に来た場所だ。レヴィにとって良い環境ではなく、回復と制御が出来次第直ぐ去るつもりだった。それが大いなる陰の影響でなんだかんだと時間が伸ばされ、今の今までここにいた……だが、問題は解決した。

 

「でも、シャヘルはどうする?さすがに、あんなに大きいのをアークスシップに連れてくわけいかないよね」

 

「それはそうだな。エネルギー供給に関しては星核エネルギーと同様、エネルギーの転送装置を使って菌を直接供給すればいい」

 

「確かにね……」

 

「それに、お前の内部にはまだ菌がある。もし何か交流したいのであれば、お前に直接話しかけてくるだろう」

 

「完全に解毒しなかったの?」

 

「……一応だ」

 

 【敗者】としては複雑な気持ちだが、菌との繋がりはいざという時のレヴィのバックアップになるかもしれない。

 特に継戦訓練の時のような、グラン類似エネルギーがかなり減少している状態でフォトンを注がれたとき、レヴィは酷く苦しんでいた。

 もしグラン類似エネルギーが無くなった状態でフォトンを注がれれば、彼女の拒絶反応は極限まで達しそのまま死ぬ可能性がある。

 だが、菌があればグラン類似エネルギーが非活性かつ枯渇した状態でもレヴィをフォトンから守ってくれるかもしれない。

 

「ふーん……」

 

 レヴィはマジックで紅茶を引き寄せ口を付けた。

 【敗者】の意図をなんとなく察し寛ぎ、ゆっくりと【敗者】の方へ体を預ける。

 

「また、帰ったら恋人ごっこに戻らなきゃだね」

 

「心配することなんてないだろう。やりたいことをやっていれば勝手に向こうが理解する」

 

「あんたは演技も上手いだろうしね。喧嘩しても大丈夫か」

 

「喧嘩して困るのは貴様の方だろう?」

 

「それもそっか」

 

 演技が出来ない方というのも勿論だが、喧嘩した時のレヴィはいつも極端に考えて肉体的にも精神的にも致命的なダメージを負ってしまう。

 そんなことから【敗者】は皮肉めいた言い方をしたもののレヴィには届かず。

 それどころか、レヴィは柔らかく笑みを浮かべた。

 

「でも、わたしはずっと【敗者】の事が好きだよ?

あんたがわたしを好きか嫌いかなんて、関係なくね」

 

 レヴィの言葉に【敗者】は俯いた。

 確かに自分は今までそこを曖昧にしてきた。

 恋人のフリとか、駒として使うためとか、セックスの時の演技だとか、色々な言葉を使って、自身の中にあった想いに蓋をしてきている。

 だがもう抑えられない。

 

「僕は、間違いなく……」

 

 愛している、なんて軽々しく言えるほど、レヴィへの気持ちは軽くない。彼女との間にある暗黙の了解は深く、彼女は関係が崩れることを恐れているのは重々承知だ。

 だが、それでもレヴィに向ける気持ちはやっぱり深くて重くて……

 

「間違いなく、レヴィが好きだ」

 

 【敗者】の言葉はいつものどこか逃げ道を探すような軽々しいものではなく、覚悟にも近い強い意志がレヴィには感じられた。

 

「【敗者】……?」

 

 嘘だと誤魔化せばいいのに、【敗者】はそれ以上何も言うことはなく静かにレヴィを見つめる。

 好きだと、特別な存在だと言ってくれるというのなら……

 レヴィはそう考えるだけで胸がいっぱいになり、想いが溢れ出す。

 

《……本当、なの?本当に?わたしも好き、でもわたしの方がもっと好き、だってこんなに愛してるから、だから愛してる、嫌われてもずっと愛してる》

 

 レヴィの愛の気持ちが大きな波になって何度も何度も【敗者】に伝わる。

 

(愛してる、か)

 

 二人にとってその言葉がどれ程重いものか、それはよく分かっている。

 だからこそ、彼も彼なりにその言葉を解釈していた。

 ダークファルスという精神体でありながら人の心など持ち合わせない者が、愛など……そんなものに焦がれることなどありえない。

 だが、それでもレヴィに対し感じた想いは嘘じゃない。だから……

 

《僕は嫌いになったとしても……愛している》

 

 【敗者】の波が揺らぎ、膨らみ、凪いで、レヴィの方へ伝播していく。

 唇の離れる僅かな声も、喉の震えも空気の通り抜ける音もなく、声、いや音でもないような気がするのに、貫かれた感情だけがレヴィの中に響いた。

 

(【敗者】の口、うごいてない……幻聴?)

 

 でも、嘘な気がしない。感覚だと本気なように感じる。

 

「……」

 

 たった一言。【敗者】が言葉にしてぶつけたいと思った感情が、波のように広がる。

 彼は何時も言葉だと遠回りなのに乱暴で不器用で、深層でも言葉を発することなんて滅多にない。

 彼の波はいつも言葉ではなく感情で、彼がどんな不器用な言葉を使ってもそれが愛情だと分かるほど何度も何度もその波を揺らしていたが、彼はついに、言葉を波にした。

 揺らめく水面のように、思考の海の中で、その小さな波は広がって広がって、レヴィに届いて……

 

「わたしもね、ずっとずっと……出会った時から、【敗者】が特別だって思ってたよ」

 

「だから、そばに居る」

 

 レヴィは手を伸ばすと【敗者】の背に回しそっと抱きしめた。

 彼の広い肩口に顎を乗せて頬を預け、体温を感じると力を入れ、彼を引き寄せる。

 

「……そばにいるよ、【敗者】」

 

 ほんのり送風の強い、整った空調の中で二人だけが熱く火照る。

 内側から燃えるような輝きに包まれて、【敗者】はレヴィを愛おしそうに見つめた。

 ふんわりと柔らかな幸福感と蛍に包まれるような輝きの中で、【敗者】は声を紡ぐ。

 

「……僕も、レヴィの傍にいる」

 

 【敗者】の柔らかな声にレヴィは微笑み、ゆっくりと体を離して彼に寄りかかった。

 心臓のゆっくりとした鼓動を聞きながら、レヴィは眠気を覚え、さらに脱力した。

 眠気を感じて、薬を飲まない事を選ぶなんていつぶりだろうか。

 レヴィはこの場から離れたくなかった。

 彼の胸の中で、何もせず、ただ眠ってしまいたかった。

 

「あのね、【敗者】」

 

 レヴィは【敗者】の服を掴む。

 

「わたし、疲れたな……って……」

 

 その言葉には怯えがあった。

 【敗者】に対するものと、自分に対するものと。

 だが、その言葉に【敗者】は少し嬉しそうなため息を着いた後レヴィの頭にそっと手を乗せた。

 

「精々休め。やれることはもうやりきっただろう」

 

 頭をゆったりと撫でる不器用だが優しく大きな手。

 

「……ありがとう」

 

 レヴィはその手を信じ、そっと瞼を閉じた。

 真っ暗な視界の中に、【敗者】の愛おしい輪郭が映る。

 ここなら、きっと何も怖いことはない。

 彼のおどろおどろしいオーラとは裏腹にレヴィはそんな安心感を覚え、眠りを受け入れることにした……

二章で大体どれくらいの話数になるかを計算していた所、それなりに長くなりそうなので三章もしくは四章以降を続編という形で作品を分けるか検討しています。話数が長すぎると管理が少々面倒なのと、読者からしても見にくいのでは?と思ったため。

  • 続編として作品を分ける
  • 分けないで一つの作品でまとめる
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